特許の価値評価が必要になるのは、特許を第三者や関連会社に譲渡する際の価格根拠・M&Aで買収対象企業が持つ特許の価値を買収価格に反映させたい・銀行融資で特許の事業貢献を数字で示したい・ライセンス交渉で使用料の料率の根拠を出したい、このようにて「客観的で根拠のある数字」が必要な場面で特許の価値評価書が求められます。
いずれの場面でも共通するのは、「感覚や希望ではなく、第三者が納得できる根拠のある金額」が求められるという点です。
各場面で評価書の使われ方は異なります。譲渡では価格の根拠として、M&Aでは買収価格への反映として、融資では事業貢献の証明として、ライセンス交渉では料率の根拠として機能します。
以下では、特許の価値評価が必要になる主要な場面ごとに、評価書がどう役立つかを弁理士が解説します。
【一覧表】主な4場面の比較:評価の目的・相手・推奨手法
| 活用場面 | 評価の目的 | 主な説明相手 | 推奨手法 | 評価書の必要度 |
|---|---|---|---|---|
| ①譲渡 | 適正価格の根拠・売り手・買い手双方の合意形成 | 譲渡先・関連会社・税務署 | インカムアプローチまたはコストアプローチ | ★★★ 強く推奨 |
| ②M&A | 買収価格への反映・のれんとの切り分け(PPA) | 買い手企業・会計士 | DCF法またはインカムアプローチ(本格評価) | ★★★ 強く推奨 |
| ③融資・資金調達 | 技術の事業貢献の証明・事業計画の補強 | 銀行・ベンチャーキャピタル・投資家 | インカムアプローチまたはコストアプローチ(簡易) | ★★★ 強く推奨 |
| ④ライセンス交渉 | 料率の客観的根拠・交渉の土台づくり | ライセンシー・交渉相手 | インカムアプローチ(技術寄与度分析) | ★★☆ 推奨 |
場面①:譲渡(価格をどう決めるか)
特許を第三者や関連会社に譲渡する際、価格をどう決めるかが最初の問題になります。特許には株式や不動産のような公開市場がなく、相場が存在しません。「いくらが適正か」の根拠を自ら示す必要があります。
たとえばグループ会社間や社長個人から自社への譲渡では、身内間であっても税務上は「時価」での取引が原則です。「とりあえず実費で」「使っていないから0円で」と安易に特許を譲渡すると、後から税務署に寄附金認定され、想定外の税負担が生じるリスクがあります。評価書で特許の適正価格の根拠を残しておくことが、このようなリスクを低減可能です。
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場面②:M&A(買収対象企業の特許を買収価格に反映させる)
M&Aにおいて、買収される企業が保有する特許をどのように評価し、買収価格にどう反映させるかは、価格交渉の根拠として重要な問題です。
買い手側にとっては、評価書があることで「のれん(財務諸表に現れない将来への期待値)」と「特許の技術価値」を明確に切り分けることができ、投資回収の計画が立てやすくなります。売り手側にとっては、自社の決算書には載らない技術力が適正な金額で可視化されるため、不当な買いたたきを防ぐ根拠となります。
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場面③:融資・資金調達(特許の事業貢献を銀行に数字で示す)
銀行融資やベンチャーキャピタルからの出資を受ける際、金融機関や投資家は「その技術がどれだけ事業収益に結びつくか」をシビアに見ています。
「素晴らしい技術です」と口頭でアピールするよりも、評価書を用いて「特許が将来生み出すキャッシュフロー(インカムアプローチ)」や「他社が同じものを作った場合にかかるコスト(コストアプローチ)」を数字で示す方が説得力があります。特に売上がまだ安定していないスタートアップ企業や中小企業にとっては、特許の価値を客観的に示すことが、資金調達を進める上での有効な補強材料となることがあります。
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場面④:ライセンス交渉(使用料の料率の根拠を示す)
他社に特許を使わせるライセンス契約を結ぶ際、使用料(ライセンス料)をいくらに設定するかが重要な問題の一つです。使用料は「料率(売上に対する何%)」で決まることが多く、その料率を根拠なく提示すると、相手に値下げを求められても反論できません。
こうした場面で役立つのが特許の価値評価書です。特許の「技術寄与度(その特許がなければ製品が成立しないか)」などに基づいた客観的な数字を示すことで、「なぜこの料率なのか」を根拠を持って説明できるようになります。また、社内で使用料の根拠を説明する際の補足資料としても活用できます。
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場面ごとに求められる評価の精度は異なる
ここまで4つの場面を見てきましたが、場面によって必要な評価の手法や精度は大きく異なります。
例えば、大規模なM&Aの最終局面などでは、公認会計士等による詳細なDCF法(将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く算定手法)での評価が求められることがあります。
一方、特許の譲渡価格の根拠や融資の補強材料、ライセンス交渉のたたき台であれば、将来の収益やコストをベースに価値を算出する簡易的な手法で十分に機能します。どの手法が自社のケースに適しているか判断が難しい場合は、特許価値評価の実務経験がある専門家にご相談ください。
よくある質問
Q1. 評価書があれば、銀行から確実に融資を受けられますか?
A. 融資を確約するものではありません。金融機関はキャッシュフローや事業全体を総合的に判断します。しかし、評価書によって技術の事業への貢献度を客観的に示すことで、事業計画の説得力が上がり、融資審査を進める上での補足資料となります。
Q2. グループ間の特許譲渡で評価書を作らないとどうなりますか?
A. 評価書がない場合、税務署に対して「その価格が時価として適正である」ことを客観的に説明できなくなります。結果として価格の根拠を問われた際に対応できず、想定外の税負担が生じるリスクがあります。評価書は「この価格が適正である」という根拠を事前に残すためのものです。なお、個別の税務判断については税理士等の税務の専門家にご相談ください。
Q3. 簡易な評価書でも、ライセンス交渉で相手を納得させられますか?
A. はい、十分に機能します。確立された手法と市場データに基づいて算出した料率の根拠が明記されていれば、単なる「希望価格」ではなく、合理的な交渉の土台として相手方も検討しやすくなります。
まとめ
特許の価値評価が求められる主要な場面は、譲渡・M&A・融資・ライセンス交渉の4つです。いずれも「感覚や希望ではなく、第三者が納得できる根拠のある金額」が求められる点は共通しています。
- M&Aや資金調達では、技術のポテンシャルを数字で証明し、買い叩きを防ぐ根拠となる
- 譲渡やグループ間の特許移動では、時価の根拠を残して想定外の税負担リスクを低減する
- 目的に応じて、詳細な本格評価とスピーディーな簡易評価を使い分けることが重要
「自社のケースで評価書が必要かどうか判断が難しい」という方は、まずは特許価値評価の実務経験がある専門家にご相談ください。
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参考文献
- 大津洋夫『知財活用の局面・目的に応じた知的財産価値評価の実務』(経済産業調査会、2019年)
- デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社編『M&A無形資産評価の実務(第4版)』(清文社、2023年)
※本記事は弁理士の立場から特許の価値評価が活用される場面を整理した一般的な情報提供です。個別の税務判断については、税理士等の専門家にご相談ください。
この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)








