特許を持つ企業が資金調達を検討するとき、「この特許を銀行融資に使えないか」と考えることがあります。特許を担保にする仕組みは制度上は存在しますが、特許単体では担保として機能しにくいのが実態です。現実的なのは、特許の価値を専門家が客観的な数字でまとめた「評価書」を活用して事業収益を示し、事業性評価融資(担保ではなく事業の将来性を評価して行う融資)につなげる方法です。
銀行や信用金庫などの金融機関が担保として認めやすいのは、返済が滞ったときに売却して資金を回収できる資産です。不動産はその典型ですが、特許は特定の技術に紐づいた権利であるため、いざというときに他社が買い取るとは限りません。
一方で、特許が生み出す事業収益を数字で示すことで、金融機関が返済能力を判断しやすくなります。評価書はその根拠資料であり、技術の専門家でない金融機関の担当者が社内審査を通すための材料にもなります。
以下では、知財の観点から、金融機関が特許のどこを見ているか、評価書が融資審査を後押しする理由、そして評価書の活用までの流れを整理します。
特許権を担保にした融資は可能か(制度と現実)
特許権は法律上、不動産などと同じように質権(担保)を設定することが認められた財産です。したがって、制度上は特許を担保として融資を受ける仕組みは存在します。
しかし、制度があることと、実際に融資が通ることは別の話です。金融機関が担保に求めるのは「返済が滞ったときに売却して資金を回収できること」です。不動産はその条件を満たしやすい資産ですが、特許はほぼ満たしません。日本には特許などの知的財産を売買する流通市場(セカンダリーマーケット)がほとんど存在しないため、いざというときに特許を買い取る第三者を見つけることが極めて困難だからです。
このため、近年の金融機関は特許そのものを担保に取るのではなく、特許が生み出す事業収益の将来性に着目して融資を行う方向へシフトしています。「特許を担保に入れる」という形よりも、「特許が生み出す事業収益の将来性を評価書で示し、事業性評価融資を引き出す」という形が現実的なアプローチです(参照:寺嶋直史『中小・零細企業の事業性評価ハンドブック』中央経済社、2022年)。
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金融機関が特許の価値を判断する際に見るポイント
金融機関が特許を評価するとき、「技術が世界初か」「発明が高度か」は主眼ではありません。金融庁が2014年に示した「事業性評価」の指針以降、金融機関は決算書の数字だけでなく、事業の中身(定性評価)を重視するようになっています。特許はこの定性評価における「強み」として位置づけられます。
具体的に見られるのは、その特許を使った製品が市場でどの程度のシェアを持っているか、他社が代わりに使える技術がなく、その特許なしでは製品が成立しないほど事業に組み込まれているか、そしてその強みを活かして将来の成長が見込めるかという点です。担当者が見ているのは技術の優劣ではなく、特許を活かした事業の安定性・持続性・成長性です。
また、特許の「残存期間」も重要です。融資の返済期間中に特許が切れてしまえば、独占的な優位性が失われ、返済原資となる収益が大幅に落ち込むリスクがあるためです。
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評価書が融資審査を後押しする理由
金融機関の融資担当者は財務や金融のプロですが、技術や特許の専門家ではありません。企業側が「この特許は素晴らしい技術です」と口頭で説明しても、担当者はそれを上司や審査部門への説明材料に落とし込めません。
専門家が作成した「評価書」は、見えない特許の価値を客観的な「金額(数字)」に変換します。評価書があることで、担当者は「この特許が組み込まれた事業には、これだけの収益根拠がある」と上司や審査部門に論理的に説明できるようになります。
つまり、評価書は企業側のアピール資料であると同時に、担当者が社内審査を通すための根拠資料としても機能します。評価書を持参することで、金融機関が特許価値を独自に調べる手間も省け、審査がスムーズに進む傾向があります。
知財金融の制度と広がり
金融庁は2014年の「金融モニタリング基本方針」において、財務データや担保に必要以上に依存せず、企業の事業内容や成長可能性を評価して融資を行う「事業性評価」の指針を示しました。これを契機に、銀行や信用金庫などが特許などの知的財産を事業の強みとして評価し、融資に活かす「知財金融」の取り組みが広がっています。
日本政策金融公庫や地方銀行・信用金庫などでは、専門家が作成した評価書を活用して、企業の技術力や将来の収益性を加味した融資判断を行う事例が増加しています。
不動産担保を持たないスタートアップや研究開発型の中小企業にとって、自社の特許を客観的に評価し、それを事業計画と連動させることは、資金調達の現実的な突破口になります。「特許を担保に差し出す」からではなく、「特許という強みを数字で示す」ことが、金融機関を動かす鍵です。
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評価書の作成と活用の流れ
評価書の作成は、対象特許の情報と事業の売上計画などの資料をもとに、弁理士などの専門家が行います。完成した評価書を事業計画書に添付して金融機関との面談に臨むことで、特許が生み出す事業収益を数字で示すことができます。
まとめ
特許を担保にする仕組みは制度上は存在しますが、知的財産の流通市場がほぼない日本では、特許単体が担保として機能しにくいのが現実です。金融機関が見ているのは「特許を持っているかどうか」ではなく、「その特許が生み出す事業収益を客観的な数字で説明できるか」という点です。
現実的なアプローチは、評価書によって特許が生み出す事業収益を数字にして、事業性評価融資につなげることです。評価書は企業側のアピール資料であると同時に、技術の専門家でない金融機関の担当者が社内審査を通すための根拠資料にもなります。
「自社の特許を融資に活かせるか確かめたい」「金融機関を動かす根拠資料を整えたい」とお考えの方は、まずは専門家による特許の価値評価をご検討ください。
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参考文献
- 寺嶋直史『銀行員のコンサルティング力を高める 中小・零細企業の事業性評価ハンドブック』(中央経済社、2022年)
※本記事に関する免責事項:本記事は、特許権を活用した知財金融について弁理士の立場から一般的な情報を整理したものです。融資の可否・条件・審査内容は金融機関ごとに異なります。資金調達に関する具体的な判断については、取引金融機関または税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)













