大手企業に自社の商標を使ってもらうライセンス契約を締結できると、使用料による収益が得られるだけでなく、対外的な信用にもつながります。ただ、ライセンス契約が継続していくと、「この使用料は本当に妥当なのか」「相場より低いのではないか」という疑問が生じることがあります。
ライセンス契約を締結できたものの、「値上げ交渉をすると契約終了になるのでは?」と懸念し、条件の見直しに踏み切れないケースもあります。とはいえ、使用料に疑問を抱えたまま現状維持を続けると、本来得られるはずの利益を逃すかもしれません。月数万円の差であっても、長期的に見れば、将来の事業投資に回せる資金を失うことにもなります。
そこで重要になるのが、受け取っている「使用料」が、「対象商品の売上」の何%にあたるのかという、ラインセス料率(いわゆる料率)の把握です。この記事では、料率に換算した結果「0.6%」という値が判明した事例をもとに、契約の適正性を確かめる手順と、関係性を維持したまま協議を進めるための「客観的な交渉材料」の作り方について解説します。
「関係を壊したくない」という遠慮が、知らぬ間に「損失」を招いている
大手企業とライセンス契約していると、いざ「条件を見直したい」と思っても、次のような心理的ハードルを感じてしまいがちです。
- 企業規模の差から、どうしてもこちらが弱い立場だと感じてしまう。
- ビジネスライクな交渉ではなく、相手の顔色をうかがう「お願い」になってしまう。
- 相手の法務・知財担当者が出てくると、専門的な理屈を言われて反論できなくなる気がする。
しかし、このような「遠慮」こそが、長期的な損失を固定化させてしまう最大のリスクです。
「波風を立てて契約を失うくらいなら、今のままでいい」。そうやって現状を受け入れてしまうと、条件を見直すタイミングは永遠に訪れません。契約は自動更新され、商品は売れ続け、先方は「今の条件で双方が満足している」と認識したままになります。その裏で、ライセンサー(商標権者)側だけが、モヤモヤとした納得感のなさを抱え続けることになります。
本来、ロイヤルティ(使用料)は「合意」によって決まるものであり、商品の売れ行きや貢献度に応じて見直されるべきものです。交渉は決して「してはいけないこと」ではなく、ビジネス環境に合わせた「条件の適正化」に過ぎません。
問題の本質は、交渉すること自体ではなく、手元に「客観的な材料(根拠)」がないまま、丸腰で協議に臨もうとしてしまう点にあるのです。
相談の30分で判明した「0.6%台」という衝撃の事実
では、客観的な材料がない状態で契約を続けるとどうなるのか。具体的な事例を見てみましょう。
本事例は、実際にあったご相談内容をベースにしていますが、特定を避けるため、業種や数値を一部加工しています。
【実例】加工食品の商標 × 大手食品メーカー
- 相談者: 特定の加工食品の商標を持つ個人事業主
- 相手: 大手食品メーカー(商品は順調に販売中)
- 相手先商品の売上規模: 約5,000万円/年
- 受け取っているライセンス料: 固定で年30万円
この状況に対し、相談者様は当初こうおっしゃいました。 「大手さんと取引できていること自体が、ウチにとっては大きな信用(ブランディング)になっています。ですから、あえて波風を立てて関係を壊したくはないんです。 ただ、さすがにこの金額は安いような気がして……。」
その判断は、経営判断として尊重されるべきものです。しかし、ここで一度「感情」や「これまでの経緯」を横に置き、現在の契約内容をドライに「数字」へ換算してみます。
ライセンス料を「料率」に換算するとどうなるか
計算はシンプルです。
30万円 ÷ 5,000万円 = 0.006
%表示にすると 0.6% です。 つまり、「対象商品の売上の1%にも満たない金額」しか受け取っていない状態でした。
料率が低い可能性をどう判断する?
商標のロイヤルティ料率に、万人に共通する絶対的な正解はありません。 しかし、一つの判断基準として、経済産業省が公表している最新の調査データが参考になります。
『令和6年度 知的財産のライセンスに関する調査報告』(2025年5月 経済産業省公表)によると、民間企業間のアンケート調査における商標権のロイヤルティ料率(平均値)は、「3.0%」という結果が出ています。 (※出典:経済産業省「令和6年度 知的財産のライセンスに関する調査報告」)
もちろん、ロイヤルティは個別の事情(貢献度など)によって上下するものであり、平均値がそのまま「正解」になるわけではありません。
ただ、今回の 0.6% という数値は、相場の目安(約3%)と比較して5分の1程度です。これだけの乖離がある以上、「なぜこの料率なのか?」を改めて検証する余地は十分にあると言えます。
ここで初めて、相談者様の漠然としていた不安の正体(理由)が、数字ではっきりと見えてきました。「相場よりも安く提供している可能性があるのかもしれない」 「一度検証してみるべきだ」
なぜ「客観的な交渉材料」があれば、対等に話せるのか
先ほど触れた「心理的ハードル」や「恐怖」の正体は、突き詰めると「根拠がないまま、相手の善意にすがろうとすること」から生まれています。手ぶらで挑むから、どうしても「お願い」になってしまいます。
しかし、手元に「数字(0.6%という事実)」と「根拠(市場データ)」があれば、状況はかわります。相手の顔色を伺う必要はなくなり、対等なビジネスパートナーとして、「将来に向けた条件の適正化」を建設的に話し合いやすくなります。
具体的に、交渉の言葉がどう変わるのかを見てみましょう。
「値上げしてください」ではなく「料率の乖離を是正したい」
伝え方(切り出し方)を変えるだけで、交渉の性質は大きく変わります。
× 根拠がない場合(避けるべき形):「物価高もあるので、もう少し上げてもらえませんか…?」
- 相手のメリット:なし
相手にとっては単なるコスト増であり、受け入れる理由がさほどありません。
○ 根拠がある場合(対等な形):「現在の支払条件を売上比で換算すると0.6%になります。業界の参考データや類似事例と比較しても乖離が大きいため、適正な水準(例:3%)に向けて再協議をさせていただきたいです」
- 相手のメリット:コンプライアンスリスクの解消
このように数字で示されると、相手は「好き嫌い」では判断できなくなります。「相場から著しく乖離した取引条件」を放置することは、大手企業にとっても説明責任やコンプライアンス上のリスクになり得るからです。先方の担当者も、社内説明が必要です。そこで、担当者が社内稟議をスムーズに通すための『確かな裏付け』となるのが、数字と根拠です。
「評価報告書」が、相手方担当者の“武器”になる
大大手企業との交渉で重要なのは、「目の前の担当者」ではなく、「その背後にいる決裁者(法務・知財部)」を納得させることです。
たとえ担当者レベルで「値上げしてあげたい」と思っても、社内稟議を通すための材料がなければ、彼らも動きようがありません。 そこで、私のような弁理士が作成する「商標価値評価報告書」が役立ちます。
「利害関係のない第三者(専門家)が、客観的なデータに基づいて算出した適正値」があれば、担当者も社内で説明がつきます。つまり、数字と根拠を整えることは、相手を攻めるためではなく、相手が合意しやすくするための「環境整備」なのです。
まずは無料相談で「現状の料率」を診断しませんか
いきなり相手企業に連絡を入れる必要はありません。 まずは、ご自身の手元にある情報を整理し、以下の1点だけを確認することから始めてはいかがでしょうか。
「今の契約条件を料率換算すると何%なのか?」
ここが明確になるだけで、今後のアクションプランは具体的になります。
- 固定額のまま増額を目指すか、売上連動型(ランニングロイヤルティ)への変更を提案するか
- 交渉に踏み切るべきか、今は様子を見るべきか
- 交渉する場合、どの程度の料率を目標にするか
無料相談(30分)で確認できること
- 現在の契約(固定額)を料率に換算した数値の算出
- 業界相場や過去のデータと比較した際の妥当性診断
- 交渉に進む場合の具体的な手順と伝え方のアドバイス
まずは無料相談で簡易診断する
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商標ライセンス契約の適正化に関するよくある質問
Q. 値上げ交渉をすることで、契約を打ち切られることはありませんか?
A. ビジネスである以上、リスクがゼロとは言えません。そのご不安はもっともです。ただ、相手企業にとっても、すでに販売している商品の商標が急に使えなくなることは、事業継続上のリスクになります。そのため、いきなり契約解除になるケースばかりではありません。
重要なのは、感情的な「要求」にしないことです。「個人的に値上げしてほしい」ではなく、「データを見ると相場との乖離があるため、適正な水準について協議したい」と客観的な根拠を示すこと。これにより、取引の適正化という「ビジネスの話し合い」として検討してもらいやすくなります。
Q. 相手の商品の正確な売上金額がわからないのですが、相談できますか?
A. はい、可能です。公開されている決算情報や、類似商品の市場規模、あるいはこれまでの取引数量からある程度の予測を立てて試算を行います。まずは概算で現状を把握するだけでも、交渉の方向性は見えてくる場合もあります。
Q. 更新時期までまだ時間があるのですが、今から相談してもいいですか?
A. むしろ、更新時期の数ヶ月前から準備することをおすすめします。社内稟議や予算の兼ね合いもあるため、早めに「次回の更新時に見直しを希望する」と伝えておくことで、相手方も検討の時間を作ることができます。
最後に:交渉の怖さを消すのは「根拠」です
大手企業を相手にした交渉には、誰しも緊張するものです。 しかし、その交渉を難しくしている最大の要因は、相手の規模ではなく「交渉のための材料不足」です。
現状を料率に直し、相場との乖離を把握し、数字を共通言語にして、前向きな話し合いを始める。 このプロセスを経ることで、交渉は「無理なお願い」ではなく、ビジネスパートナーとしての「健全な条件調整」への足掛かりとなります。
もし今、契約内容に少しでも違和感を覚えているなら、その感覚を放置せず、まずは数字で確認することから始めてみてください。
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この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)













