「商標権侵害だ!」と警告や通報をする前に。その行為が逆に『営業誹謗』になるリスクとは

「商標権侵害だ!」と警告や通報をする前に。その行為が逆に『営業誹謗』になるリスクとは|知育特許事務所

「競合他社が、自社の商標登録とよく似た名前を使っている」「商標権侵害で警告書を送って、使用を止めさせたい」──事業をしていれば、こうした場面に遭遇することもあると思います。

しかし、真似されて許せないといった感情や勢いに任せて「商標権侵害だ!」と警告書を送りつけたり、いきなりプラットフォームへ削除申請(通報)をしたりするのは、非常に危険な場合があります。

もし、その警告が法的に誤りだった場合、根拠のない侵害主張で相手の業務を妨害する行為となり、不正競争防止法違反(営業誹謗)に該当する場合もあります。特に、十分な調査をせずに警告などを行うと、警告を送った側が逆に損害賠償を請求されるリスクもあります。

この記事では、安易な権利行使が招く「ブーメラン(営業誹謗)」のリスクと、特にトラブルになりやすい最近の事例を交えながら、安全な対処法を弁理士が解説します。

安易な「侵害警告」は「違法行為」になることも

商標権を取得したからといって、商標権者は「万能」ではありません。権利の及ぶ範囲には、法的な限界があります。

アクションを起こす前に、まず知っておいていただきたいのが不正競争防止法第2条1項21号(虚偽事実の告知)というルールです。

不正競争防止法第2条1項21号には、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」は「不正競争」として禁止されています。

つまり、十分な調査などを行わず、過失によって「本当は侵害していない(または裁判で非侵害と判断される)」案件について、「あそこの会社は商標権を侵害している」と取引先や公衆、プラットフォーム事業者に通知することは、営業誹謗(違法行為)に当たる可能性があります。

「営業誹謗」のリスクが生じやすい具体的なケース

特に、「競合他社に自社の商標登録を便乗されて許せない」「なんとかして止めさせたい」という感情が先走りやすいものの、商標法的には慎重な判断が求められる(安易に警告するとリスクがある)代表的な2つのケースをご紹介します。

【事例1】リスティング広告の「キーワード除外」要請

「GoogleやYahoo!で自社の商標登録したブランド名を検索したのに、なぜか競合他社の広告が一番上に表示される」──このような現象を見たことはないでしょうか。

これは、競合他社が広告を出す際に、検索キーワードとして他社の商標登録を設定している(入札している)もので、他社のブランド名に便乗するような広告手法です。このような広告をだす相手に対して、商標権者が次のような通知を送る場合があります。

「貴社のリスティング広告にて、弊社の登録商標名で広告配信されている事実を確認いたしました。 意図的ではないと存じますが、ユーザーが貴社サイトへアクセスすることで、貴社にとっても無用な広告費が発生する可能性がございます。 つきましては、下記のキーワードを除外設定の対象としていただけますよう、謹んでお願い申し上げます。」

これは、「貴社の無駄な広告費を削減するため」との親切心からの提案に見せかけて、暗に権利行使を匂わせる通知です。もちろん、商標登録された他社のブランド名に便乗するような広告手法を不快に感じる点は理解できます。

しかし、このような広告手法を「法的に商標権侵害と言えるか(広告を止めさせることができるか)」についてはハードルが高いです。現時点での裁判例の傾向として、他社の商標登録された名称を検索キーワードとして入札することは、広告文にその商標が表示されない限り、商標権侵害と認定するのは難しいとされています。

上記の通知に相手が任意で応じてくれる分には問題ありません。しかし、「権利があるから何とかしたい」との気持ちが行き過ぎて、法的な根拠が薄いにも関わらず執拗に警告を続けたり、プラットフォームへ通報したりすると、正当な権利行使の範囲を超え、「業務妨害(営業誹謗)」として責任を問われるリスクがあるので注意が必要です。

【事例2】Amazon・楽天などのECサイトでの「いきなりの通報」

次に注意が必要なのが、Amazonや楽天などのECサイトで、自社の商標を使った類似商品を見つけたようなケースです。

本来であれば、まずは相手方と協議をすべきですが、「相手が海外の事業者で連絡がつかない」「警告書を送る手間も費用も惜しい」といった事情から、いきなりプラットフォームの「侵害申告フォーム」を通じて通報し、強制的に削除させようと考える方もいるかと思います。

しかし、どのような事情であれ、十分な調査を経ずに「いきなり通報」する行為は、リスクが高いことを知っておく必要があります。

プラットフォーム側はリスク回避のため、申告があれば一時的に停止措置をとることがあります。しかし、もし後で「実は非侵害だった」と判明した場合、警告者は「嘘の申告で相手の営業を妨害し、売上を低下させた」として、損害賠償責任を負うケースもあります。

相手と話し合わずに(相手の反論の機会を奪って)強制的な措置をとるわけですから、もし間違っていた場合、「知らなかった」「故意ではなかった」という言い訳は通用しにくくなります。だからこそ「法的に侵害だと言える十分な根拠(専門家の裏付け)」なしに通報するのは危険となります。

警告・通報を行う側・受けた側の「正しい対処法」

警告や通報を行いたい方へ

感情や勢いに任せて「とりあえず警告書を送ってみよう」「とりあえず通報してみよう」は危険な場合があります。警告や通報が営業誹謗になってしまうこともあります。

そのため、自己判断だけで「これは侵害だ」と決めつけて行動せずに、事前に弁理士などの専門家に相談し、「法的に侵害と言える見込みはどの程度あるのか」を客観的に確認しておくことが大切です。

警告や削除通知が届いた方へ

突然の警告メールが届いたり、商品ページが削除されたりすると、驚いて「すぐに謝罪しなければ」「言われた通りに対応しなければ」と思ってしまうかもしれません。

しかし、まずは冷静に状況を確認することが最優先です。相手の主張する商標権が本当に有効なのか、自社の使い方が本当に侵害に当たるのか、専門的な判断が必要です(相手の勘違いや、過剰な要求である可能性もあります)。

自己判断で対応せず、まずは弁理士に相談して事実関係を整理し、その上で法的根拠に基づいた適切な回答(または異議申し立て)を行うのが安全です。

よくある質問

Q. 営業誹謗のリスクを避けるための具体的な通知手順は?

A. まずは専門家に侵害鑑定を依頼し、侵害の事実を法的に確認することが必須です。その上で、いきなり取引先やプラットフォームに通報するのではなく、当事者(相手方)に対してのみ通知書を送付し、見解を問う形をとるのが安全です。

Q. リスティング広告のキーワード入札が侵害にならない理由は?

A. 商標権侵害は、商標を「自社の商品・サービスの識別標識」として使用する場合に成立します。キーワード入札は、あくまで広告表示のきっかけに過ぎず、広告文自体に商標が表示されていなければ、消費者を混同させる「商標の使用」には当たらないと判断される傾向にあるためです。

Q. 不当な警告を受けて実害が出た場合、どうすればいいですか?

A. 泣き寝入りせず、まずは弁理士に「その警告が本当に正しいのか」を相談してください。その警告を検討・分析のもと、相手方へ反論(回答書の送付)を行ったり、プラットフォームへ異議申し立て(再開請求)を行ったりして、不当な状況の解消を目指します。なお、実際に発生した損害(売上補填など)については、弁護士と連携してサポートする流れになります。

まとめ

商標権の行使は、自社ブランドを守るための正当な権利です。しかし、その判断や手順を誤ると、意図せずトラブルに発展し、逆に自社が法的責任を問われるリスクも潜んでいます。

「警告したいがリスクが怖い」「納得できない警告書が届いた」という方は、自己判断せずにまずは専門家にご相談ください。

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自己判断での警告や回答は、法的リスクを招くおそれがあります。弁理士が「侵害の成否」と「適切な対応方針」を整理します。

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この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

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米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。