特許の価値評価とは?|評価手法・料率・活用場面を弁理士が体系解説

特許の価値評価とは?評価手法・料率・活用場面を弁理士が体系解説|知育特許事務所

特許の価値を数字で把握し、交渉や社内の意思決定などに使いたい方向けの記事です。

特許の譲渡・ライセンス交渉での使用料設定・M&Aでの特許資産の評価・グループ会社間での特許譲渡・知財を活用した融資など、特許の価値を金額で示す必要がある場面は様々です。しかし特許には株式や不動産のような公開市場がなく、相場が存在しません。だからこそ、特許の価値を感覚や希望ではなく、客観的な根拠のある金額を出すことが重要です。

では、その「客観的な根拠のある金額」はどうやって出すのか。特許の価値を評価するには複数のアプローチがあり、特許の使われ方や状況によって使い分けが必要です。本記事では、弁理士の立場からその全体像を整理します。

特許の価値評価が必要になる具体的な場面

特許の価値を客観的で根拠の金額として示す必要がある場面は、大きく次の4つに分かれます。

場面求められること
特許の譲渡売り手・買い手双方が納得できる適正価格の根拠
特許のライセンス交渉特許の使用料(ロイヤルティ料率)の客観的な算定根拠
M&A・グループ内譲渡特許資産の適正評価額(税務リスク回避のためにも必須)
融資(事業性評価)特許が事業にどう貢献しているかを数字で示すことで、金融機関から融資を受けやすくする(担保ではなく事業の将来性で評価される融資の一助に)

特にグループ会社間での特許の譲渡は注意が必要です。「社内の話だから」と価格を曖昧にしたまま譲渡すると、税務署から「適正価格との差額は寄附金」とみなされ、法人税課税リスクが生じる場合があります。また、海外グループ会社間での譲渡では移転価格税制(国際取引における価格操作を防ぐための税制)上の問題が生じるリスクもあります。特許を無償で譲渡する場合はなおさら、「なぜゼロ円での譲渡が適正なのか」の根拠が求められます。

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特許の価値はどうやって算出するのか——3つのアプローチ

特許の価値を算出するアプローチには、大きく分けてインカムアプローチ・コストアプローチ・マーケットアプローチの3つがあります。どれを使うかは、その特許に紐づく将来収益が予測できるかどうかによって変わります。また、現在事業で使われている特許(稼働特許)か、使われていない特許(休眠特許)かによっても適したアプローチが異なります。実務では、これらを組み合わせて使うケースもあります。

アプローチ算出方法の概要向いているケース
インカムアプローチその特許があるから将来これだけ稼げる、という収益予測から算出売上データが揃っている稼働特許(現在事業で使われている特許)
コストアプローチその特許を取得するためにかかった開発費用・出願費用から算出将来収益が見込めない休眠特許(事業で使われていない特許)
マーケットアプローチ市場での類似特許の取引事例から算出類似特許の取引事例が存在する場合(事例自体が少なく活用しにくい)

どのアプローチを使うかと同じくらい重要なのが、選んだアプローチの根拠を説明できるかどうかです。たとえばインカムアプローチは理論的に優れていますが、将来収益の予測根拠が薄いと、第三者から「都合のいい数字を作っただけでは?」と判断されかねません。特許の価値評価書には、算出した金額だけでなく、「なぜその金額になったのか」——どのアプローチを使い、どのような根拠でその数字を導いたのかを明確に示しておくことが重要です。

あわせて読みたい:特許価値評価の3つの手法(インカム・コスト・マーケット)を比較|どう使い分けるか?

商標の価値評価との違い——「顧客誘引力」ではなく「技術寄与度」で測る

同じ知的財産権でも、商標と特許では「何をもって価値を測るか」がまったく異なります。商標の価値は、その名前やロゴが消費者を引きつける力——「顧客誘引力(Attraction)」が基準になります。ブランド名を変えたら売上が落ちるなら、その商標には顧客誘引力がある、という考え方です。

一方、特許の価値は「技術寄与度(Contribution)」で測ります。その特許技術がなければ製品が成立しないか、代替技術が存在するか、コスト削減にどれだけ貢献しているか——こうした技術的な観点から、製品全体の利益に対する特許の貢献割合を数値化します。

この違いは、ロイヤルティ料率にも反映されます。商標の実施料率が1〜3%程度であるのに対し、特許は3〜5%が中央値です。特許の方が高くなりやすいのは、技術が製品の根幹を担うケースでは、代替がきかず交渉上の優位性が強いためです。

商標の場合はこちら:商標価値評価|RFR法の基礎と実務ガイド(まとめ)

ロイヤルティ料率(3〜5%)はどう決まるのか

特許の価値を算出したり、特許のライセンス交渉などの際によく参照されるのがロイヤルティ料率(料率)「3〜5%」という数値です。経済産業省の調査(『ロイヤルティ料率に係るアンケート調査結果』2025年3月)でも、特許権全体の平均料率は3.2%、中央値は3.0%という結果が出ており、3%台がボリュームゾーンとなっています。

ただし、この数値は特許の価値を算出したりする際の出発点に過ぎず、算出する際に用いる料率は、技術寄与度(その特許がなければ製品が成立しないか)や代替技術の有無などによって大きく変動します。相場だからと「なんとなく3%」と設定した料率や、それに基づいて算出した特許の価格には説得力がありません。料率の設定には、技術寄与度はもちろん、代替技術の有無や特許の残存期間など、複数の要素を踏まえた上での客観的な根拠を示せる状態にしておくことが必要です。

あわせて読みたい:特許のロイヤルティ料率(3〜5%)は何で決まる?|「技術寄与度」で根拠を示す方法

特許の状況によって評価アプローチが変わる

前述の通り、どのアプローチを使うかは「将来収益が予測できるかどうか」が大きな判断基準になります。ここで注意が必要なのは、稼働特許か休眠特許かという区分だけで、アプローチが機械的に決まるわけではないという点です。

たとえば、現在は使われていない休眠特許であっても、具体的な事業計画や売上目標があり将来収益が予測できる場合は、インカムアプローチでの評価が可能です。一方、稼働特許であっても売上データが不十分な場合はコストアプローチを併用することもあります。

将来収益がどうしても見込めない休眠特許については、その特許を取得するためにかかった開発費用・出願費用をもとに価値を算出するコストアプローチが合理的です。ただし、使用していなくても競合他社の参入を阻止している特許には「防衛的価値(Defensive Value)」が存在します。「使っていないから価値ゼロ」として無償で譲渡すると、国内グループ会社間では寄附金認定、海外グループ会社間では移転価格税制上の問題が生じるリスクがあります。休眠特許を譲渡する際には、必ず価値の検討が必要です。

あわせて読みたい:赤字企業・スタートアップの特許はどう評価する?|売上ゼロでも「0円」にはならない理由

あわせて読みたい:休眠特許の0円譲渡は危険?|税務署が指摘する「防衛的価値」と寄附金リスク

評価結果をどう活用するか

算出した評価額は、単なる目安にとどまらず、経営判断や対外的な説明の根拠として機能します。具体的には次のような場面で使えます。

活用場面評価結果の使い方
特許の譲渡適正価格の根拠として、売り手・買い手双方の交渉材料になる
国内グループ会社間での譲渡適正価格の証明・寄附金認定リスクの回避
海外グループ会社間での譲渡移転価格税制上の適正価格の根拠として機能する
ライセンス交渉使用料の根拠として、交渉を客観的な数字で進められる
M&A特許資産の価値を買い手に客観的に提示できる
融資(事業性評価)特許が事業にどう貢献しているかを数字で示し、金融機関の評価につなげる

いずれの場面でも共通するのは、数字の裏付けがあることで、交渉や手続きを有利かつ安全に進められるという点です。評価書は作って終わりではなく、目的に応じた使い方が重要です。

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よくある質問

Q1. 特許の評価にはどれくらいの期間がかかりますか?

A. 必要な資料が揃ってから、最短で5〜7営業日程度で簡易評価のレポートを作成可能です。M&Aの最終局面など詳細な評価が必要な場合は数ヶ月かかることもありますが、交渉や社内稟議のたたき台であれば短期間で算出できます。

Q2. 使っていない休眠特許でも価値はつきますか?

A. はい、つくケースは多々あります。将来的な事業計画や売上目標があればインカムアプローチでの評価が可能ですし、将来収益が見込めない場合でも取得にかかった開発費用・出願費用をもとにコストアプローチで算出できます。また、競合他社の参入を阻止している特許には防衛的価値が認められる場合もあります。「使っていないから価値ゼロ」として無償で譲渡すると税務上のリスクが生じるため、譲渡前に必ず価値の検討が必要です。

Q3. 評価を依頼する前に何を準備すればいいですか?

A. 対象となる特許の番号・関連する製品やサービスの売上データ(直近数ヶ月〜数年分)が基本となります。売上データが揃っていない場合でも、将来の事業計画書があれば評価の精度が上がります。すべてが揃っていなくても、ヒアリングを通じて評価の方向性を探ることは可能です。

Q4. グループ会社間で特許を譲渡する場合、価格はどう決めればいいですか?

A. 国内グループ会社間では寄附金認定リスク、海外グループ会社間では移転価格税制上のリスクがあるため、「社内だから」と価格を曖昧にすることは危険です。客観的な評価書をもとに適正価格を設定し、その根拠を説明できる状態にしておくことが必要です。

まとめ

特許の価値評価は、自社の技術が事業にどれだけ貢献しているかを客観的な数字で把握するためのプロセスです。

  • 評価アプローチはインカム・コスト・マーケットの3つがあり、将来収益が予測できるかどうかで使い分ける
  • 休眠特許であっても事業計画があればインカムアプローチが使えるなど、稼働・休眠の区分だけでアプローチは機械的に決まらない
  • ロイヤルティ料率は「3〜5%」が目安だが、技術寄与度・代替技術の有無・残存期間など複数の要素をもとに根拠を示す必要がある
  • グループ会社間での特許譲渡では、国内は寄附金認定リスク、海外は移転価格税制上のリスクがあり、適正価格の根拠が不可欠

「自社の特許がいくらになるのか」「適正価格がわからないまま譲渡するのは危険ではないか」と迷われたら、まずは専門家への相談をおすすめします。

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参考文献

  • 大津洋夫『知財活用の局面・目的に応じた知的財産価値評価の実務』(経済産業調査会、2019年)
  • デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社編『M&A無形資産評価の実務(第4版)』(清文社、2023年)

この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

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米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。