試作品が完成したあと、「このまま進めてよいのか」と迷う場面は少なくありません。どこまで外部に見せてよいのか、どの部分を特許・意匠で押さえるべきなのか、そもそも今の段階で弁理士に相談してよいのか――といった疑問がわいたりもします。
この段階で何となく前に進んでしまうと、展示会・SNS・外注をきっかけに新規性を失ってしまうリスクや、どこを守りたいのか分からないまま出願のチャンスを逃したり、同じような試作を繰り返して時間とコストだけが増えたりすることもあるかもしれません。
本記事では、試作品ができたあとに「試作品の中身を、守る・改良する・公開してよい部分に分けて整理する」ための進め方を、弁理士の立場から3つのステップに分けて解説します。
試作品の中身を分けて考えるべき理由
試作品には、次のような多様な内容が含まれています。
- 設計段階では見えなかった、実際に作って動かしてみて初めて分かる工夫点・問題点
- 形状・バランス・UI など、見た目や使い心地に関わる点
- 社内メンバーやユーザーからの、反応や改善アイデア
- 試作のために使った材料・条件・製造方法 など
これらは、知財の観点から見ると次の3種類に分けられます。
- 将来的に特許・意匠・ノウハウとして押さえたい核心部分
- 次の試作・設計見直しに使うべき改良の材料
- 公開や外注に回しても支障が小さい一般的な部分・既存技術に近い部分
試作後の「整理」は、試作品を単なる完成品として見るのではなく、「中にどんな要素が含まれているか」を分解し、役割ごとに分けなおす作業だと考えるとイメージしやすくなります。
試作後の知財整理はこの3ステップで進める
ここからは、試作後に行う整理を、次の3ステップで説明します。
- 試作品に関する内容を書き出す
- 「守る部分」「改良する部分」「既存の部分」にわける
- それぞれの今後の扱いを決める
STEP 1：試作品に関する内容を書き出す
最初のステップでは、評価や結論を出す前に、試作品について分かっていること・気づいていることを文字にして整理します。
たとえば、次のような切り口で書き出します。
- 工夫した点
- 設計段階で工夫したポイント
- 試作の途中で追加した工夫
- うまくいった点・うまくいかなかった点
- 想定どおりに動いた／想定より良かった部分
- 予想と違っていたり、不具合が出た部分
- 見た目・使い勝手に関する点
- 形状・大きさ・バランスなど「良い」と感じる箇所
- ユーザーが迷いそう・使いづらそうな箇所
- 周囲からの反応
- 社内メンバー・テストユーザーのコメント
- よく聞かれた質問・疑問
- 公開・共有の状況（分かる範囲で）
- すでに見せた相手（外注先、取引先、テストユーザーなど）
- 見せた内容（実物のみ／写真／構造が分かる資料まで含む など）
形式は箇条書きで構いません。
ここでの目的は、頭の中に散らばっていることを一度外に出し、後のステップで分けやすくするための材料を揃えることです。
「これは特許になりそうか？」などの判断は、次のステップ以降で構いません。
STEP 2：「守る部分」「改良する部分」「既存の部分」にわける
次に、STEP 1で書き出した内容を、次の3つのグループにわけます。
- 守る部分：特許・意匠・ノウハウの候補にしたいところ
- 改良する部分：次の試作・設計見直しで手を入れたいところ
- 既存の部分：公開や外注に回しても支障が小さいところ
1. 守る部分：特許・意匠・ノウハウの候補になる箇所
守る部分として扱うのは、たとえば次のような内容です。
- 従来品との違いを説明するときに必ず触れる、独自の構造・機構・制御方法
- 見た瞬間に印象が変わるような、特徴的な形状・画面デザイン
- 同業他社に真似されると、競争上の強みが大きく失われる要素
ここに入る内容は、次のような形で活かされていきます。
- 特許明細書のクレーム・図面の候補
- 意匠図面で「要部」として意識すべき箇所
- 社内のノウハウとして閉じておきたい条件・手順
この段階で行うのは、「特許か意匠か」を決めることではありません。「この試作品のどこが一番大事なのか」「どこを真似されたくないのか」を拾い上げる作業だと考えてください。
2. 改良する部分：次の試作・設計変更に活かす箇所
改良する部分として整理するのは、たとえば次のような内容です。
- 想定どおりに動かなかった・使いづらかった点
- ユーザーから「ここが気になる」と言われた点
- 強度・耐久性・コストの面で、まだ改善の余地が大きい点
これらは、そのまま「次の試作・設計改善のToDo」になります。
守る部分と改良する部分を分けておくことで、
- 「この部分は改良したうえで権利化を検討する」
- 「この要素は、今は権利化よりも機能改善を優先する」
といった方針を、後から整理しやすくなります。
3. 既存の部分：公開・共有に回してもよい箇所
既存の部分として扱うのは、たとえば次のような内容です。
- 一般的な構造や標準的なUIなど、独自性が小さいと判断できる部分
- すでに多くの製品で採用されている、よくあるやり方に近い部分
- 守る部分・改良する部分を支える、周辺的・補助的な要素
これらは、外注先への指示や、Webサイト・カタログ上の説明などに使っても、
知財リスクへの影響が相対的に小さい領域です。
もっとも、「一見一般的に見えるが、実は権利のポイントになりうる」というケースもあります。
「既存の部分として扱ってよいかどうか」の最終判断は、専門家と一度すり合わせることをおすすめします。
このSTEP 2で行うのは、「特許か意匠か」を決めることではなく、
「どの内容を守り、どの内容を改良し、どの内容を公開してよいかを分けること」です。
特許と意匠のどちらを選ぶべきかという検討については、このページでは深入りしません。「自社のケースではどの権利で守るべきか」を整理したい場合は、別途
新しい製品やデザインを守るときに、意匠と特許のどちらを選ぶべきか
をご覧ください。
STEP 3：権利化・公開・ノウハウ化の「今後の扱い」を決める
最後のステップでは、STEP 2で分けた3つのグループから、具体的な行動に落とし込んでいきます。
1. 権利化に関する判断
- 守る部分の中から、特許出願の候補となる構造・機構を選ぶ
- 守る部分の中から、意匠出願の候補となる形状・画面デザインを選ぶ
- 出願には向かないが重要な点は、社内ノウハウとして文書化して残す
ここで初めて、「特許」「意匠」「ノウハウ」といったラベルを具体的に付けていきます。
2. 公開・外注に関する判断
- 既存の部分を中心に、外注先やパートナーに共有してよい範囲を決める
- 守る部分に関しては、出願前に見せざるを得ない場合でも、
どこまで見せるか・どの資料は見せないかを検討する
出願前に公開を行う場合、内容によっては特許・意匠の新規性喪失のリスクが発生する可能性があります。
公開の場面ごとの具体的な注意点や、NDA（秘密保持契約）の設計については、次の記事で詳しく解説しています。
- 出願前の公開の扱いと安全な進め方：
出願前に試作品を公開したいときの安全な進め方 - 外注時のNDAで確認すべきポイント：
試作を外注するときの注意点（NDA）
本記事では、こうした詳細な手順には踏み込まず、その前段階となる「中身の仕分けのやり方」に焦点を当てています。
3. 記録として残す方法に関する判断
- 守る部分と改良する部分について、
図面・メモ・試験結果・写真などを、将来見返したときに「何を試してどう変わったか」が分かるよう、どの段階の資料を残し・どの項目まで書き込むかを決める - 将来の出願やトラブル対応、社内でのノウハウ共有を見据えて、
どの段階の図面や試作内容まで記録として残しておくかを検討する
ここまで決めると、試作品の中身が
- どこを守るのか
- どこを変えていくのか
- どこは安心して外に出せるのか
という観点で一通り整理された状態になります。
整理を行わない場合に起こりやすい典型パターン
上記の3ステップを挟まずに試作から公開・量産へ進んだ場合、次のような状況が発生しがちです。
パターン1：核心が曖昧なまま公開し、新規性リスクを抱え込む
- 差別化要因の説明ができないまま、試作品を写真や動画で広く公開してしまう
- 後から振り返ったときに、「どこまでが新規性喪失の対象となる内容だったか」が不明確になる
この結果、本来押さえるべきだった権利の範囲が狭くなる、あるいは出願を断念せざるを得ないケースが生じます。
パターン2：改良のポイントが言語化されず、試作が「作りっぱなし」になる
- 試作段階で分かった課題が、メモや会話の中に埋もれてしまう
- 次の試作や設計変更に、体系的に反映されない
この場合、同じような試作を繰り返してしまい、コストと時間だけが積み上がることになります。
「改良する部分」を明示的に切り出しておくことで、技術開発と知財整理を同時に前進させることが可能です。
パターン3：既存部分まで過剰に秘密にしてしまい、外注・PRが非効率になる
- 守るべき部分と既存の部分が区別されていないため、すべてを「見せたくない情報」として扱ってしまう
- 外注先への指示が曖昧になり、品質・コスト・納期に影響が出る
- PR・営業資料でも差別化ポイントをぼかしてしまい、訴求力が低下する
「既存の部分」を意識的に切り出すことは、むしろ公開や外注を円滑にするために必要な作業です。
知育特許事務所が提供する「試作後の知財整理サポート」
知育特許事務所では、3Dプリントを含む試作プロジェクトにおいて、「試作 → 中身の仕分け → 権利化・公開方針の決定」までを一連の流れとして支援しています。
サポートの役割
試作後の知財整理サポートでは、次のような役割を担います。
- 上記3ステップに沿って、
守る部分・改良する部分・既存の部分への仕分けを、クライアントと一緒に行う - 守る部分について、
特許・意匠・ノウハウのいずれで扱うのが妥当か、複数の選択肢を提示する - 既存の部分について、
外注やPRで利用しやすい形に整理する（伝える範囲・資料のレベル感など） - 公開や外注が避けられない場合、
新規性リスクを抑えつつ進めるための方向性を提案する
（具体的な注意点は前述の各ガイドで補完）
弁理士がこの整理の段階に関与することで、
- 技術・デザインの内容と
- 特許・意匠・ノウハウといった制度面
を同時に見ながら、実務的な落としどころを組み立てることが可能になります。
試作後の知財整理を始める無料相談
この記事で解説した「試作後の情報の整理」は、事業のリスクを最小化し、権利化の成否を分ける重要なプロセスです。試作段階で得られた内容をどう扱うかによって、将来の選択肢が大きく変わります。
まずは弁理士と共に、試作品の内容が「特許」「意匠」「ノウハウ」のどこに位置づけられるのか、その権利化の方向性（次の一歩）を整理してみませんか。
【メイン】試作品の整理と出願方針に関するご相談（30分／オンライン）
3D試作で得られた情報を知財資産へ変えるための、論点整理・方針決定に特化した無料相談です。守る部分・改良する部分・既存の部分を一緒に確認しながら、特許・意匠・ノウハウのどこで押さえるべきか、その方向性を具体化します。
👉 【試作後の知財整理】無料オンライン相談（30分）を予約する
【サブ】次の試作・モデリングに関するご相談（15分／オンライン）
純粋に「次の試作品をどう作るか」「3Dデータや造形の仕様をどう決めるか」といった技術的・物理的な相談に絞りたい場合は、3Dプリント試作の15分相談をご利用ください。試作サービスの利用を前提に、仕様・費用感・納期などを確認したい方向けのメニューです。
無料相談で確認できるポイント（主に30分枠）
無料相談では、次のような点を一緒に整理します（とくに30分枠で重点的に扱います）。
- 現時点で把握できている
守る部分・改良する部分・既存の部分のおおまかな仕分け - 将来的な権利化を見据えた、整理の優先順位
- すでに行った公開・共有がある場合の、今後の対応方針
- 次に取るべきアクション（追加試作、出願準備、NDA整備など）の候補
次の一手として検討いただきたいこと
- 試作後の整理・仕分けと出願方針まで踏み込んで検討したい場合は、まず30分のオンライン相談を。
試作の進め方や仕様確認だけを押さえたい場合は、3Dプリント試作の15分相談をご活用ください。いずれも、サイト内の「オンライン相談」ボタンから日時を選んでお申し込みいただけます。 - 試作と権利化をセットで進めたい場合は、
3Dプリント試作サービスの詳細もあわせてご覧ください。 - 試作前後の全体像を俯瞰したい方は、
3Dプリント試作の総合ガイドをあわせて確認いただくと、
本記事で説明した「3ステップの整理」が、プロジェクト全体のどこに位置するかが分かりやすくなります。
よくある質問
Q. まだラフな試作品ですが、相談しても意味がありますか？
はい、ラフな段階でも整理を始める意味は十分にあります。むしろ、「ここから本格的に仕様を固めていく」というタイミングで、守る部分・改良する部分・既存の部分を大まかに分けておくことで、その後の試作や図面作成の方向性がぶれにくくなります。
Q. すでに一部を展示会やSNSで公開してしまいました。それでも相談する意味はありますか？
すでに公開された内容があっても、すべての権利取得の可能性がなくなるとは限りません。公開された内容の範囲を整理し、まだ新規性が残っている部分や、ノウハウとして社内に閉じるべき部分を検討することで、今から取れる選択肢を明確にできます。
Q. 相談時にどこまで情報を見せる必要がありますか？
基本的には、構造や動作のイメージが分かる資料（写真・簡単な図・仕様書の一部など）があれば十分です。公開範囲に不安がある場合は、その点も含めて相談時にお伝えください。必要に応じて、NDA（秘密保持契約）の整備についても一緒に検討します。
次の一歩：関連ページ・サービスのご案内
本記事で整理した内容を、実際の行動につなげたい方のために、関連するページとサービスへのリンクをまとめました。
- 📅 【試作後の知財整理】無料オンライン相談（30分）を予約する
└ 試作品の整理・仕分けと出願方針の検討に直結する、メインの相談メニューです。この記事の内容に共感された方は、まずこちらをご検討ください。 - 3Dプリント試作サービスの詳細と料金パッケージ
└ 試作サービスそのものに興味がある方向けのページです。本記事のテーマである「試作後の整理」が、どのようにサービスに組み込まれているかをあわせて確認いただけます。 - 特許・意匠の出願前3Dプリント試作の総合ガイド
└ 本記事が属する「3D試作クラスター」の上位ページです。設計・試作・知財リスクの全体像の中で、本記事（試作後の情報整理）がどの位置にあるのかを整理できます。 - 知財・試作・商標価値評価の総合ガイド
└ 特許・意匠・商標・ブランド価値評価まで、知財全体を俯瞰したい方はこちらをご覧ください。試作後の整理だけでなく、事業全体の知財戦略を考える際の入り口としてご利用いただけます。
この記事を書いた人：弁理士・米田恵太（知育特許事務所）
