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判例調査 化学

特許権(骨粗鬆症治療薬テリボン)

15.0% 認定料率
▲中核技術▼代替技術あり
事件番号 令和4年(ワ)第3344号
判決日 2024/09/26
裁判所 大阪地裁
認容額 30億6,491万6,243円(うち弁護士費用約2億7,863万円・消費税込み)

📋 判決要旨

判決日: 2024年9月26日 | 裁判所: 大阪地裁 | 料率: 15.0%(102条1項2号、特定数量分の実施料相当額)


旭化成ファーマが沢井製薬に対し、骨粗鬆症治療薬テリボンの製造方法特許の侵害を理由に差止・損害賠償を求めた事件。テリボンは副甲状腺ホルモン(PTH)(=骨の形成を促すホルモンで、骨粗鬆症治療に用いられる)を含有する凍結乾燥注射剤であり、本件特許は製造工程中にPTH含有溶液が施設内空気中の微量オゾンと接触して劣化するのを防ぐことで、不純物(PTH類縁物質)の少ない高純度製剤を得る方法に関するもの。差止請求は認容(ただし侵害方法による製造に限定)、薬価基準収載品目削除願の提出請求は棄却。


損害の算定:(102条1項=侵害者が販売した数量を基準に、特許権者の逸失利益を推定する方式)


被告の販売数量に原告テリボンの1本あたり限界利益を乗じた額が逸失利益の出発点となる(1項1号)。ここから、テリボンの売上が本件特許だけで成り立っているわけではない部分を差し引く。


  • 📉 覆滅(=侵害者の利益のうち、特許発明以外の要因による部分を差し引くこと): 10% — 被告は3つの理由で覆滅を主張したが、裁判所は1つだけ認めた。
  • セット販売: 被告は「テリボンは溶解液・バイアルコネクター付きのセット販売品であり、特許(凍結乾燥製剤の製造方法)は利益の一部にしか貢献していない」と主張。→裁判所は、溶解液等は製剤合成後に付加される付随品にすぎず、むしろ溶解液付きの方が1本あたり利益が低いため、覆滅理由にならないと判断
  • 製造工程の一部: 被告は「本件特許はテリボン製造工程のごく一部にしか使われない」と主張。→裁判所は、工程の一部であっても本件発明の効果(高純度PTH製剤の安定供給)は製品の利益に直結するとし、被告自身が代替技術の開発に成功していないことも踏まえ、覆滅理由にならないと判断
  • 週1回通院の用法: テリボンは週1回の通院投与で済み、この投薬負担の軽減は本件特許(製造方法の純度向上)とは別の購買動機を生んでいるため、10%の覆滅を認定
  • 📉 特定数量10%(=被告製品がなくても原告が販売できなかったと認められる数量): 被告は4つの理由を主張したが、裁判所は2つだけ認めた。
  • 従来品(毎日自己注射型)を選ぶ患者が一定数残ること
  • ✅ 原告自身がオートインジェクター型(=患者が自宅で注射できる自動注入器タイプ)への切替えを推進中であり、通院型テリボンの需要がその分減っていたこと
  • 被告の営業努力: 一般的な医薬品メーカーとして当然の事情にすぎず、顕著な営業努力とはいえないとして認めず
  • 薬価の低さ: 単に被告製品が安いからといって処方で選好されるものではないとして認めず

上記の特定数量に相当する販売数量については、原告はテリボンを売れなかった以上、逸失利益では算定できない。そこで1項2号により、被告製品の薬価(5,194円)に実施料率を乗じて算定する。原告は20%、被告は0.5%を主張。裁判所は統計データを基準とせず、以下の要因から15%と認定した。


  • 📈 引き上げ要因: 本件特許はPTH製剤の高純度安定供給を可能にする中核技術であり、製品の利益に直結する。被告自身、代替技術の開発に成功していない
  • 📈 引き上げ要因: 週1回投与の用法もPTH製剤が大量生産できることが前提であり、本件発明なくしては実現しない
  • 📈 引き上げ要因: 102条4項の趣旨(=侵害が確定した後の実施料率は、事前の自由交渉で決める場合よりも高くあるべきとする規定)を考慮
  • 結論: 特定数量分の実施料率15%(被告製品薬価ベース)

認容額30億6,491万6,243円(うち弁護士費用約2億7,863万円・消費税込み)。

📜 判決文全文

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裁判所の判断
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主文

1被告は、別紙1
物件目録」記載の製品を、別紙3被告方法の構成」の裁

判所の認定」欄記載の方法で製造、販売、又は販売の申出をしてはならない。

2被告は、別紙1
物件目録」記載の製品を廃棄せよ。

3被告は、原告に対し、30億6491万6243円及び内19億6875万

円に対する令和5年8月28日から、内10億9616万6243円に対する

同年11月14日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。

4原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5訴訟費用はこれを20分し、その3を原告の、その余を被告の負担とする。事実及び理由
第1 請求

1被告は、別紙1
物件目録」記載の製品を製造、販売、又は販売の申出をしてはならない。

2被告は、別紙1
物件目録」記載の製品について、健康保険法に基づく薬価基準収載申請の取下げ又は健康保険法に基づく薬価基準収載品目削除願の提出をせよ。

3被告は、別紙1
物件目録」記載の製品を廃棄せよ。

4被告は、原告に対し、38億1150万円及び内19億6875万円に対する令和5年8月28日から、内18億4275万円に対する同年11月14日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要

1本件は、発明の名称を高純度PTH含有凍結乾燥製剤およびその製造方法」とする特許(以下本件特許」という。)に係る特許権(以下本件特許権」という。)を有する原告が、被告が本件特許の特許請求の範囲請求項1及び13記載の発明の技術的範囲に属する方法により別紙1
物件目録」記載の製品(以下被告製品」という。)を製造し、当該被告製品を販売等することは本件特許権の侵害に当たると主張して、被告に対し、被告製品の製造、販売等の差止め及び廃棄、健康保険法に基づく薬価基準収載申請の取下げ又は健康保険法に基づく薬価基準収載品目削除願の提出並びに民法709条に基づき、損害賠償金38億1150万円及び内19億6875万円に対する不法行為の日の後の日である令和5年8月4日付け訴えの変更申立書の送達日である同年8月28日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの、内18億4275万円に対する不法行為の日の後の日である同年10月30日付け訴えの変更申立書の送達日である同年11月14日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1) 当事者原告は、医薬品の研究開発及び製造販売を目的とする株式会社であり、骨粗鬆症治療剤テリボン皮下注用56.5μg」(以下テリボン」という。)を日本国内で販売している。

被告は、医薬品の製造販売を目的とする株式会社である。

(2) 本件特許権原告は、次の本件特許権を有している。本件特許権の特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、明細書及び図面を本件明細書」という。)の記載は、別紙2特許公報」のとおりである(甲1の2)。

ア特許番号特許第6025881号

イ発明の名称高純度PTH含有凍結乾燥製剤およびその製造方法

ウ優先日平成23年6月7日

エ出願日平成27年1月20日(原出願日平成24年5月31日)

オ登録日平成28年10月21日(3) 構成要件本件特許の特許請求の範囲請求項1及び13に係る発明(以下、本件発明1」及び本件発明13」といい、これらを本件発明」と総称する。)の構成要件は、次のとおり分説される。

ア本件発明11A無菌注射剤の製造施設内における、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法であって、1BPTHペプチド含有溶液調製工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間の工程のうち、少なくとも搬入工程を含む1以上のグレードAの環境を有する工程において、1CPTHペプチド含有溶液と同無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを特徴とする方法であって、1D同PTHペプチド含有凍結乾燥製剤とは、当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量も1.0%以下であり、1E及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味する、1FPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法。

イ本件発明1313A前記PTHがヒトPTH(1-34)である、13B請求項1乃至12のいずれか1項に記載の方法。

(4) 被告方法の構成被告による被告製品の製造方法(以下被告方法」という。)については当事者間に争いがあるが、被告方法が、構成要件1A、1B、1Dから1F及び13Aを充足することは被告が争っていない。

(5) 被告の行為等被告は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下薬機法」という。)に基づいて、令和4年2月15日、テリボンのジェネリック医薬品として、被告製品を製造販売することについての承認を取得し、かつ、健康保険法に基づく薬価基準収載を経た上で、同年9月9日から薬価5194円で被告製品の販売を開始した。なお、被告は、口頭弁論終結時において、被告製品の製造販売を中止している。

3争点(1) 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)(2) 本件発明の無効理由の有無(争点2)

ア本件発明の明確性要件違反の有無(争点2-1)

イ本件発明のサポート要件違反の有無(争点2-2)

ウ公表特許公報(特表平10-508817号。国際公開日平成9年3月13日。公表日平成10年9月2日。乙1。以下乙1公報」という。)記載の発明(以下乙1発明」という。)に基づく本件発明1の進歩性欠如の有無(争点2-3)

エ公表特許公報(特表平9-506869号。国際公開日平成7年6月29日。

公表日平成9年7月8日。乙2。以下乙2公報」という。)記載の発明(以下乙2発明」という。)に基づく本件発明1の進歩性欠如の有無(争点2-4)

オ乙1発明に基づく本件発明13の進歩性欠如の有無(争点2-5)

カ乙2発明に基づく本件発明13の進歩性欠如の有無(争点2-6)(3) 差止め及び薬価基準収載申請の取下げ又は削除願の提出請求の必要性の有無(争点3)(4) 原告の損害(争点4)
第3 争点
についての当事者の主張

1本件発明の技術的範囲への属否(争点1)被告方法の構成及び構成要件1Cの充足性に関する当事者の主張は、別紙3被告方法の構成」及び別紙4構成要件充足性」の各原告の主張」欄及び被告の主張」欄記載のとおりである。

2本件発明の無効理由の有無(争点2)当事者の主張は、別紙5の1無効主張(本件発明記載要件)」、同5の2無効主張(本件発明1進歩性欠如1)」、同5の3無効主張(本件発明1進歩性欠如2)」、同5の4無効主張(本件発明13進歩性欠如)」の各被告の主張」欄及び原告の主張」欄記載のとおりである。

3差止め及び薬価基準収載申請の取下げ又は削除願の提出請求の必要性の有無(争点3)【原告の主張】(1) 原告は、本件発明の実施品であるテリボン」を国内で販売しており、その売上は毎年200億円を超えている。

ジェネリック医薬品が販売された場合、低廉な価格によってその市場は大幅に侵食されることになり、一般的には先発品の市場の79パーセントがジェネリック医薬品になるといわれている。また、ジェネリック医薬品の製造販売によって、先発品の価格が低下するばかりか、薬価改定時には、ジェネリック医薬品の存在を前提として、先発品の薬価が大幅に引き下げられることとなる。

これまで、被告製品のほかにテリボンのジェネリック医薬品は存在しないところ、被告製品が製造販売されれば、原告は甚大な損害を被ることになる。

したがって、被告製品の製造販売等の差止め及び侵害予防措置行為として薬価基準収載申請の取下げ又は削除願の提出を請求する必要がある。

(2) 被告は、健康保険法に基づく薬価基準収載品目削除願の提出を求めることは必要性を欠く旨を主張する。

しかし、特許権の行使を受けて安定供給できないような後発医薬品は、本来、薬価基準収載手続を行ってはならないから、安定供給義務が果たせない品目の薬価基準収載は、本来行われてはならないものであり、そのことが明らかになった以上、もはや薬価基準の収載は維持されるべきではない。

【被告の主張】争う。

特に、原告が主張する、被告製品の販売による市場の侵食の抑止は、被告製品の製造販売等に対する差止めが認容されれば足りる。また、健康保険法に基づく薬価基準収載は、あくまでテリボンの後発医薬品について認められたものであり、本件発明の方法で被告製品を製造することを審査対象に含めて審査がされて薬価基準収載が認められたものではない。仮に、薬価基準収載品目削除願の提出まで強制されることになれば、被告が新たに本件発明の技術的範囲に属さない方法で被告製品を製造しようとしても、被告は被告製品の製造販売を再開することができなくなり、原告に対して過度の保護を与える一方で、被告が被る損失は甚大である。

よって、健康保険法に基づく薬価基準収載品目削除願の提出を求めている点は、必要性を欠いていることが明らかである。

4原告の損害(争点4)原告の損害に関する当事者の主張は、以下の原告による計算方法の概要のほか、別紙7原告の損害」の原告の主張」欄及び被告の主張」欄記載のとおりである。

【原告の主張】(1) 特許法102条1項1号に基づく損害31億5000万円計算過程は、別紙6の5原告の損害集計表」の原告の主張」欄記載のとおりであり(なお、令和4年4月から同年9月の会計期間を上期」、同年10月から令和5年3月までの会計期間を下期」といい、これらを総称して原告2022年度」という。また、他の年度についても同様に表記する。)、被疑侵害期間である令和4年9月9日から令和5年9月末までの被告製品の販売数量●(省略)●本に、原告の製造販売するテリボンの単位数量当たりの利益額●(省略)●円を乗じて算出した。

(2) 特許法102条1項2号に基づく損害(予備的主張)被告の覆滅に関する主張は理由がないが、仮に、原告がテリボンを販売することができないとする事情が認められる数量が存する場合、当該数量に応じて、被告製品の薬価(5194円)に対し実施料率20パーセントとする損害額を加算することが相当である。

(3) 消費税3億1500万円(4) 小計34億6500万円(5) 弁護士費用3億4650万円被告に対し、上記(4)の損害の賠償を求めるために必要かつ相当な弁護士費用は上記のとおりである。

(6) 合計38億1150万円【被告の主張】被疑侵害期間における被告製品の販売数量及び被告製品の薬価は争わないが、その余は争う。

原告は、本件訴訟提起時には損害賠償請求をしていなかったにもかかわらず、侵害論の審理が尽くされた後(技術説明会後)に損害賠償請求を追加する訴えの変更の申立てをしたものであり、かかる申立ては著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき(民訴法143条1項ただし書)に当たるというべきである。
第4 当裁判所の判断

1本件発明の技術的範囲への属否(争点1)(1) 被告方法の構成について被告方法の構成に関する当事者の主張は、別紙3被告方法の構成」の原告の主張」及び被告の主張」欄記載のとおりであり、被告方法が、構成要件1A、1B及び1D~1Fの構成を有すること、また、本件発明13は、本件発明1の請求項を引用する発明であるところ、被告方法が構成要件13Aの構成を有することは、いずれも被告が争っておらず、弁論の全趣旨から認められる。そうすると、被告方法が構成要件1Cの構成を有する場合、被告方法は、本件発明の各技術的範囲に属することになる。

そこで、構成要件1Cの充足性について検討する(なお、以下に指摘する本件明細書の各段落及び図面の具体的記載は別紙2特許公報」のとおりである。)。

(2) 構成要件1Cの充足性(PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触が抑制されているか)について

ア弁論の全趣旨によれば、被告方法では、●(省略)●が認められる。

ここで、空気中のオゾン濃度は、0.001~0.1ppmであり(本件明細書の【0011】)、労働安全衛生上、オゾンの作業環境基準値(許容濃度)は0.1ppmであるから(乙15、弁論の全趣旨)、被告製品の製造施設内の空気には0.1ppm以下の濃度のオゾンが含まれていることが認められる。また、●(省略)●は弁論の全趣旨から認められる。そうすると、被告方法では、●(省略)●

イ被告は、構成要件1Cの0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制すること」とは、本件発明の目的をそのまま抽象的に記載するのみで、クレーム上、具体的な構成は特定されておらず、このような広すぎる抽象的なクレームは、明細書に記載された具体的な構成に限定解釈されるべきであって、予め凍結乾燥庫内の空気を窒素に置換することによって(これに副扉等の構成が付加されているものも含む。)、無菌ろ過済みPTHペプチド含有水溶液を充填した半開栓バイアルを凍結乾燥庫に搬入する工程において、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制する」方法と解釈されるべきである旨主張する。

しかし、構成要件1Cは、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを規定するのみで、その手段について特定の方法に限定するものではなく、本件発明の他の構成要件において、これを限定する記載はない。

また、本件明細書には、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制する手段は特に限定されないことが明記されており(【0124】、【0125】)、同手段の例示として、PTHペプチド含有溶液周辺の空気の流動性や流動量を抑制すること(【0125】)及びPTHペプチド含有溶液周辺を不活性化ガスで置換すること(【0125】、【0135】)が記載されている。

このような構成要件及び本件明細書の記載内容に照らすと、本件発明1において、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制する手段は限定されておらず、何らかの方法によりこれを実現すれば足りるものと解される。

したがって、被告の前記主張は採用することができない。

ウ以上のとおり、被告方法では、搬入工程を含む工程において、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触が抑制されるから、被告方法は構成要件1Cを充足する。

なお、以上を踏まえて、被告方法の構成を本件発明の構成要件に即して特定すると、別紙3被告方法の構成」の裁判所の認定」欄記載のとおりとなる。ただし、同目録の1cにつき、被告方法は、予め凍結乾燥庫内の空気を窒素で置換する構成を備えていないことは原告も積極的に争っておらず、弁論の全趣旨から認められる。

(3) 以上から、被告方法は、本件発明の各技術的範囲に属する。

2本件発明の明確性要件違反の有無(争点2-1)(1) 被告は、構成要件1Cにおける、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾンとの接触を抑制することは、請求項の記載において、その具体的な構成が特定されていないところ、本件特許の優先日前には、窒素を使用して空気環境との接触を抑制することにより薬液の酸化を防止する方法について、様々な技術が存在することが知られていたから、空気環境との接触を抑制する方法のうち、如何なる方法であれば、本件発明に対する侵害が成立し、如何なる方法であれば侵害が成立しないのかが不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことになるとして、本件発明は明確性要件に適合しない旨を主張する。

当該発明が明確性要件を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から検討されるべきである。

本件明細書には、概要、以下の記載がある。

一般的に、医薬品製造は、いかなる製法の場合であっても、製造される医薬有効成分として100%の純度を得るのは困難なことが多い一方で、診断薬や治療薬が不純物を許容量以上に含んでいた場合、当該診断や治療に好ましくない影響を及ぼす可能性を否定することはできず、特にPTHペプチドを含有する製剤を骨粗鬆症の治療/予防のために投与する場合、その投与期間が長期に渉ることもあり得るから、PTHペプチドを含有する製剤は特に高純度であることが必要とされる(【0007】)という課題があった。そのような中、本件発明の発明者らは、典型的製造過程によりPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しようとすると、当該有効成分(PTHペプチド)の化学構造が変化した物質(PTH類縁物質)を含んだ製剤が製造されてしまうことを知見し、とりわけ製造スケールが大きくなると、生産数量の増加に伴って前記PTH類縁物質の生成量が実質的に許容できない程度までに増加することさえ危惧されるといった問題に直面して(【0008】)、特に搬入工程において、PTHペプチド含有溶液等が医薬品製造施設内の空気環境に含まれるオゾンに暴露されることを抑制することにより、前記PTH類縁物質の生成が顕著に防止低減されることを見出した(【0010】~【0012】、【0126】)。本件発明は、PTHペプチド含有溶液調製工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間のうち、少なくとも搬入工程(運搬及び搬入)を含む工程において、PTHペプチド含有溶液が医薬品製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することにより、高純度のPTH含有凍結乾燥製剤を提供することを目的とするものである(【0009】、【0070】、【0124】等)。

また、前記1(2)イのとおり、本件発明の構成要件は、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制する手段について特定の方法に限定するものではなく、本件明細書には、同手段については限定されない旨が明示されていることに加え、例示として、PTHペプチド含有溶液周辺の空気の流動性や流動量を抑制すること及びPTHペプチド含有溶液周辺を不活性化ガスで置換することが記載されている。

これを踏まえて検討するに、本件発明は、少なくとも搬入工程を含む1以上のグレードAの環境を有する工程で、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを解決手段として、PTH類縁物質の含量が低い高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得るという課題を解決するものであり、構成要件1Cについては、当業者は、その文言及び本件明細書の記載から、限定されない適宜の方法により、PTHペプチド含有溶液とオゾンとの上記の接触抑制がなされることを意味し、それにより本件発明の課題を解決できるものと容易に理解する。そして、この点は、仮に凍結乾燥庫への搬入工程において、窒素を使用して空気環境との接触抑制をすることにより薬液の酸化を防止する方法が本件特許の優先日前における公知技術であったとしても左右されない。

したがって、被告の前記主張は採用することができない。

(2) また、被告は、本件特許の特許請求の範囲の請求項8には、凍結乾燥手段内を窒素ガスで予め置換した後に窒素パージを継続して行わない構成(後記5(4)からすると、窒素パージを継続して行わない場合、薬液と周囲空気との接触抑制の構成が内在しているとはいえない。)が含まれているとして、本件発明の技術的範囲が明確に画されているとはいえない旨主張する。

しかし、本件特許の特許請求の範囲の請求項8は凍結乾燥手段内を不活性ガスで置換することで凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾンとの接触を抑制することを特徴とする、請求項5に記載の方法。」というものであり、請求項5の従属項であるところ、同項は請求項4に、請求項4は請求項1ないし3に、請求項2及び3は請求項1に、それぞれ従属するから、請求項8記載の発明も、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを前提とするものといえる。

そうすると、薬液と周囲空気との接触抑制が行われない構成まで含むとは解されず、請求項8の記載の存在によっても、本件発明の技術的範囲が不明確であるとはいえない。

したがって、被告の主張は採用できない。

(3) 以上から、構成要件1Cの記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず、本件発明に明確性要件違反があるとは認められない。

3本件発明のサポート要件違反の有無(争点2-2)(1) 被告は、本件発明は、構成要件1Cの構成によって、高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得ることができるとするものであるが、本件明細書に記載された試験結果からでは、当業者は、薬液とオゾンとの接触を抑制することによって、所期する高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤が得られたことを理解することができないとして、本件発明はサポート要件に適合しない旨を主張する。

特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

前記2(1)のとおり、本件明細書によれば、本件発明は、PTHペプチド含有溶液調製工程のうち、少なくとも搬入工程(運搬及び搬入)を含む工程において、PTHペプチド含有溶液が医薬品製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することにより、高純度のPTH含有凍結乾燥製剤を提供することを目的とするものである。そして、本件明細書には、PTH類縁物質の生成が、PTHペプチド含有溶液等の医薬品製造施設内の空気環境への暴露を抑制することにより顕著に防止低減された事実から、それらのPTH類縁物質の生成が、医薬品製造施設内空気環境内に存在する酸化能を有する物質に起因すると推定されたこと(【0010】、【0011】)や、PTHペプチド含有溶液と流動空気との接触を抑制する手段は特に限定されず、その例示として、PTHペプチド含有溶液周辺の空気の流動性や流動量を抑制する手段及びPTHペプチド含有溶液周辺を不活性化ガスで置換する手段が記載されているほか、【実施例1】~【実施例5】には、凍結乾燥庫内の空気を予め窒素で置換する、凍結乾燥庫内に窒素をパージし続ける、副扉又は小扉からトレイを搬入する、小扉に整風カバーを設置するなどの手段により、凍結乾燥庫にPTHペプチド含有溶液を搬入すると、PTH類縁物質の含量が低いPTHペプチド含有凍結乾燥製剤が製造されることが記載されている。

さらに、オゾンは、大気中にも0.001~0.02ppm、場所や時間、季節によっては約0.02~0.1ppmの濃度で存在するところ(【0011】)、【試験例2】は、オゾンを発生させてオゾン濃度を約0.08ppmに増加させたオゾン雰囲気下に、約20時間PTHペプチド含有溶液を曝露して強制劣化させると、医薬品製造施設内の空気環境下においてPTHペプチド含有溶液を製造する際に誘発される類縁物質と同じ類縁物質が生成されたことを内容とするものである(【0159】、図3、図4)。

オゾンが酸素より酸化力が大きいことは技術常識であり(乙19)、増加させたオゾンと酸素を含むオゾン雰囲気下では、主にオゾンが酸化作用を担うものと推認されるから、【試験例2】で生じた類縁物質は、PTHペプチドがオゾンと接触することにより生成したものと認められ、【試験例2】で生じた類縁物質は、医薬品製造施設内の空気環境下においてPTHペプチド含有溶液を製造する際に誘発される類縁物質と同じであることを考慮すると、【試験例2】は、医薬品製造施設内の空気環境下で誘発される類縁物質の生成がオゾンに起因することを明らかにしたものといえる。

一方、本件発明は、構成要件1Cの構成によって、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを特定している。

したがって、当業者は、本件明細書の記載及び技術常識に照らし、本件発明が本件明細書に記載された発明であって、前記の本件明細書の各記載により、高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法を提供するという本件発明の課題を解決できると認識することができるものと認められる。

(2) 被告は、【比較例1】と【試験例2】とで同一の類縁物質が生成したことが確認されたとしても、実施例と比較例で生じた類縁物質がオゾンにより生成されたものであることや、実施例について、薬液とオゾンとの接触を抑制することにより類縁物質の生成が抑制されたことは実証されていないから、薬液とオゾンとの接触を抑制することによって、所期する高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤が得られたとは理解できないとも主張する。

しかし、上記のとおり、本件明細書の【試験例2】は、医薬品製造施設内の空気環境下で誘発される類縁物質の生成がオゾンに起因することを明らかにしたものであり、被告主張の点を考慮してもなお、当業者は、本件発明が本件明細書に記載された発明であって、高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法を提供するという本件発明の課題を解決できると認識し得るものといえる。

したがって、被告の主張は採用することができない。

(3) 以上から、本件発明にサポート要件違反があるとはいえない。

4乙1発明に基づく本件発明1の進歩性欠如の有無(争点2-3)(1) 乙1公報は、発明の名称を無菌移送」とする公表特許公報であり、次の記載がある(乙1)。

ア特許請求の範囲請求項1薬剤(5)を無菌状態で充填した非密封薬剤容器(2)を充填装置(6)から次のユニット(4)まで無菌状態で自動的に移送する方法であって、a) 滅菌不活性保護ガス(3)を移動可能なチャンバ(1)内に導入する段階、b) このチャンバ(1)を充填装置(6)内に挿入する段階、c) チャンバ(1)内に薬剤容器(2)を導入しそしてチャンバ(1)を閉じる段階、そしてd) 薬剤容器(2)をチャンバ(1)から取り出す次のユニット(4)にチャンバ(1)を移動させる段階とからなり、前記保護ガス(3)を段階b)~d)において非密封薬剤容器(2)を覆うように絶えず均等に分布させることを特徴とする方法。

イ発明の詳細な説明(ア) 発明の背景薬剤配合物に関して、薬剤容器に無菌状態で充填した溶液あるいは物質を充填機から次のプロセス段階、例えば凍結乾燥段階まで移送する間、必要な衛生状態を維持することは常に重大な問題であった。このような移送中、衛生状態は、常に、充填、凍結乾燥プロセス中と同じでなければならない。また、当局は、あらゆる可能性を考えて、この技術分野で清潔レベルを高めるための必要条件をますます厳しくするであろう。」(イ) 従来技術の説明薬剤を無菌状態で充填した非密封あるいは部分密封の容器を載せたトレイを充填機から凍結乾燥機まで手作業で移送することは公知である。この場合、容器内の薬剤は周囲空気およびそこに含まれる粒子、微生物にさらされ、薬剤の衛生度が悪影響を受ける。空気に敏感な薬剤であれば、このような取り扱いは難しい。」自動移送プロセスでは、大型の棚装置と保護ガスとして濾過で滅菌した空気を使用することも知られている。しかしながら、この用途に必要な機器はかなりのスペースを占有し、それに必要な時間も長くなり、薬剤にとって有害である。」しかしながら、移送プロセスを通じて最高の衛生度を維持することができ、比較的小さな占有スペースでよい、無菌状態で充填した薬剤容器の無菌移送方法がなお必要である。」(ウ) 発明の概要本発明は、充填済みの薬剤容器の移送を、必要な衛生度を維持しながら無菌状態で実施するという改良の利点がある。さらに、移送方法のための全機器コストが静的方法よりも低く、オペレータの労働負荷が最小限となる。別の利点は、いくつかの引き続くユニット、例えば複数の凍結乾燥機を使用できるということである。」(エ) 具体例の説明無菌状態で移送しようとしている非密封容器2内の薬剤5は任意の液体あるいは固体の薬剤であり得る。好ましい具体例において、薬剤は二酸化炭素に敏感なオメプラゾールの溶液である。」さらに、容器2およびその中味は必ず薬用でなければならないというわけではない。衛生的あるいは非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体状の化学物質を充填した他のタイプの容器も本発明の方法によって処理できる。」(2) 乙1発明の構成について

ア被告は、乙1公報の記載等から、乙1発明は、空気に敏感な薬液が周囲空気から影響を受けることを防止する発明であり、また、前記(1)イ(エ)の記載から、非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする薬液について、薬液が酸化されることを防止すること、及び薬液が周囲空気と接触することを抑制する構成を有する旨を主張する。そのため、酸化防止効果も含め、乙1発明の構成は、無菌状態で薬液を充てんした非密封薬剤容器を充填装置から凍結乾燥機まで自動的に移送する工程に関し、薬液が周囲空気及びそこに含まれる粒子、微生物にさらされて薬剤の衛生度が悪影響を受けることを防止するため、及び薬液が周囲空気との接触により反応すること、酸化されやすい薬液については、薬液が周囲空気との接触により酸化することを防止するため、a) 滅菌不活性保護ガス」として、粒子フィルタによる濾過によって滅菌した窒素を移動可能なチャンバ内に導入する段階と、b) このチャンバを充填装置内に挿入する段階と、c) チャンバ内に薬剤容器を導入してからチャンバを閉じる段階と、d) チャンバを凍結乾燥機まで移動させる段階とからなり、窒素を、段階b)~d)において、非密封薬剤容器を覆うように絶えず均等に分布させるように一定の流量で導入することによって、薬液が周囲空気と接触することを抑制し、凍結乾燥機まで移送した後、非密封薬剤容器をチャンバから凍結乾燥機に取り出す工程において、薬液と空気環境との接触抑制を維持する方法」と認定されるべきである旨主張する。

しかし、乙1公報の特許請求の範囲請求項1は、薬剤(5)を無菌状態で充填した非密封薬剤容器(2)を無菌状態で自動的に移送する方法であることを特定し、その他の請求項も無菌状態で移送することを特定しているが、薬剤の酸化を抑制することに関する記載はない。

また、乙1公報の発明の詳細な説明には、概要、以下の記載がある。

薬剤を無菌状態で充填した非密封あるいは部分密封の容器を載せたトレイを充填機から凍結乾燥機まで手作業で移送することは公知であるところ、その際、容器内の薬剤は周囲空気及びそこに含まれる粒子、微生物にさらされ、薬剤の衛生度が悪影響を受ける。自動移送プロセスでは、従来、大型の棚装置と保護ガスとして濾過で滅菌した空気を使用していたが、この用途に必要な機器はかなりのスペースを占有し、それに必要な時間も長くなり、薬剤にとって有害であるという課題があった。

本発明(乙1発明)は、薬剤を無菌状態で充填した非密封薬剤容器を充填装置から次のユニットまで無菌状態で自動的に移送するための方法及び装置に関する発明であり、チャンバ内において、滅菌不活性保護ガスを非密封薬剤容器を覆うように絶えず均等に分布させることにより、前記課題を解決し、充填済みの薬剤容器の移送を、必要な衛生度を維持しながら無菌状態で実施し、移送方法のための全機器コストが静的方法よりも低く、オペレータの労働負荷が最小限となる効果を奏するものである。

かかる記載に鑑みれば、乙1公報に記載された発明は、無菌移送に着目したものであり、薬剤の酸化抑制を目的としたものとは認められない。

確かに、乙1公報の特許請求の範囲のとおり、乙1発明では、滅菌不活性」保護ガス(窒素)が使用され、これには酸化抑制効果があるが、これは薬剤を無菌状態で移送することを目的としていると解されるのであって、上記の発明の詳細な説明に鑑みれば、当業者が、周囲空気との接触による酸化の抑制を目的としていると認識するとは認め難い。被告が主張するような、窒素等の不活性ガスは滅菌されなければ滅菌不活性保護ガス」にはならない、薬剤と周囲空気との接触を抑制し、不活性ガスを充填することによって薬剤の酸化防止を図ることができる、との技術常識が存在したとしても、乙1公報に、酸化抑制効果を意図した具体的な記載がなく、薬液と周囲空気との接触の抑制による酸化の抑制との技術思想が開示されているとは認められない。

そして、前記(1)イ(エ)のとおり、乙1公報記載の実施例は二酸化炭素に敏感なオメプラゾール」に関するものであるところ、オメプラゾールが、酸化防止を要する薬剤ではなく、無菌状態で移送しようとしている」非密封容器内の薬剤の例として挙げられていることも踏まえると、当業者が、このような実施例を周囲空気との接触による酸化の抑制を要する薬剤の例と解するとは認められない。同様に、前記(1)イ(エ)の容器2およびその中味は必ず薬用でなければならないというわけではない。衛生的あるいは非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体状の化学物質を充填した他のタイプの容器も本発明の方法によって処理できる。」との記載は、薬用ではない衛生的あるいは非酸化性の移送等を要する化学物質を充填した他のタイプの容器も乙1発明の無菌移送方法により処理できることを示すものにすぎないと解すべきである。

このような乙1公報記載の特許請求の範囲、従来技術の課題、発明の目的や効果、実施例からしても、乙1公報記載の発明は、薬液を無菌状態で移送することに着目した発明であって、薬液が周辺空気と接触することによって酸化することを抑制することを示唆するような発明であるとは認められない。

イ以上を踏まえると、乙1発明の構成は次のとおりであると認められる。

無菌状態で薬液を充填した非密封薬剤容器を充填装置から凍結乾燥機まで自動的に移送する工程に関し、薬液がチャンバ内の周囲空気及びそこに含まれる粒子、微生物にさらされて薬剤の衛生度が悪影響を受けることを防止するため、a) 窒素を移動可能なチャンバ内に導入する段階と、b) このチャンバを充填装置内に挿入する段階と、c) チャンバ内に薬剤容器を導入してからチャンバを閉じる段階と、d) チャンバを凍結乾燥機まで移動させる段階とからなり、段階b)~d)において、窒素がチャンバ内の非密封薬剤容器を覆いながら絶えず均等に分布させるよう、一定の流量で窒素をチャンバ内に導入することを特徴とする方法(3) 本件発明1と乙1発明の相違点について本件発明1と乙1発明を比較すると次の相違点を認めることができる。

ア相違点1-1本件発明1は、当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量も1.0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下の無菌注射剤であるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法であるのに対し、乙1発明は、無菌凍結乾燥製剤の製造方法であり、無菌凍結乾燥製剤が上記基準を満たす注射剤であるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法との限定がなされていない点

イ相違点1-2本件発明1では、搬入工程がグレードAの環境である旨定められているのに対し、乙1発明では、その旨明記されていない点

ウ相違点1-3本件発明1では、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを特徴とする方法である旨定められているのに対し、乙1発明は、無菌薬剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを特徴とする方法である旨の記載がない点(4) 容易想到性について

ア事案に鑑み、相違点1-3から検討する。

被告は、相違点1-3に関する容易想到性につき、以下の点を指摘する。

(ア) 乙1発明は、薬液を凍結乾燥機へ搬入する工程において、薬液が空気環境(周囲空気)等にさらされて薬剤の衛生度が悪影響を受けることを防止し、空気環境(周囲空気)との接触により薬液が酸化されることを防止するため、窒素を非密封薬剤容器を覆うように絶えず均等に分布させるように一定の流量で導入する方法を採用し、空気環境(周囲空気)との接触を抑制した発明であるから、薬剤と無菌薬剤製造施設内空気に含まれるオゾンとの接触を抑制する作用がその構成自体に内在しており、本件発明1のオゾンとの接触を抑制することを特徴とする方法」は、乙1発明の構成により当然に実現している。

(イ) 本件特許の優先日前の技術常識、すなわち、①注射剤などの無菌製剤を製造するためのクリーンルーム等をオゾンにより燻蒸消毒し、オゾンの酸化力により殺菌する方法(乙13ないし15)、②クリーンルーム等の除染については、使用された化学剤(残留化学剤)が医薬品を劣化させるリスクが存在し、これを防止する必要があること(乙9の1、16ないし18)、③PTHペプチドは酸化されやすく(乙7~9)、④ペプチド配列に含まれるメチオニン及びトリプトファンがオゾンによって酸化されやすいアミノ酸残基であり、これらのアミノ酸残基を有するペプチドがオゾンにより酸化されやすい(乙10、11)から、乙1発明をPTHペプチド凍結乾燥製剤の製造に適用する当業者は、乙1発明の構成が、薬液のオゾンとの接触抑制のためにも作用すると当然に理解認識する。

(ウ) 本件発明1の薬液とオゾンとの接触の抑制」との構成は、乙1発明の薬液と周囲空気との接触の抑制」に必然的に内在しており、相違点1-3のオゾンとの接触を抑制すること」との構成を乙1発明に適用することに動機付けは不要であるが、仮に何らかの積極的な動機付けが必要であるとしても、薬液とオゾンとの接触の抑制」は、本件特許の優先日前の技術常識である。

イしかし、前記(2)のとおり、乙1発明は、薬液を無菌状態で移送することを目的とする発明であって、搬入工程(運搬及び搬入)において、薬液が周辺空気と接触することによる酸化を抑制することを目的とする発明であるとは認められないから、これを前提とする前記ア(ウ)の主張は採用できないし、同様に、薬剤と無菌薬剤製造施設内空気に含まれるオゾンとの接触を抑制する作用がその構成自体に内在するという同(ア)の主張も採用できない。

同(イ)の主張を検討するに、乙1公報にはオゾンによる薬液の酸化についての記載やその示唆はない。確かに、乙1公報には、非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体状の化学物質を充填した他のタイプの容器も本発明の方法によって処理できるとの記載があるものの、かかる記載は、当業者の理解を前提としても、乙1発明の無菌移送方法が、オゾンによる薬液の酸化の防止に使用できることを記載しているものとは認められない。

また、本件特許の優先日前の技術常識を踏まえても、乙1発明をPTHペプチド凍結乾燥製剤の製造に適用する当業者は、乙1発明の構成が、薬液のオゾンとの接触抑制のためにも作用すると当然に理解認識するものとはいえない。すなわち、③PTHペプチドが酸化されやすいことが技術常識であったとしても(乙7ないし9)、これらの公報等はオゾンが酸化原因であることを特定するものではなく、④オゾンがメチオニンやトリプトファンを酸化することが技術常識であったとしても(乙10、11)、乙第10号証は、オゾン濃度が1ppmの環境下において、遊離のアミノ酸を対象とするものであり(乙第10号証で引用されている甲第8号証は、オゾン濃度が26000ppmの環境下において、PTHではないペプチドを対象としたものである。)、乙第11号証は、PTHペプチドとはアミノ酸配列及びペプチド鎖長を異にするラナテンシンペプチドを対象として、溶媒を空気蒸発させる態様によるものであることから、これらの文献は、PTHペプチドが、空気に含まれるオゾンにより酸化されることを特定するものではない。

そもそも、前記2(1)のとおり、本件発明は、PTHペプチドを含有する製剤は特に高純度であることが必要とされるという従来技術の課題に加え、本件発明の発明者らが、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しようとするとPTH類縁物質を含んだ製剤が製造されることを知見したことによるものであるところ、乙1公報に工業的製造を前提とする前記課題に関する記載や示唆はなく、本件特許の優先日前において、前記知見が技術常識であったことを裏付ける資料もないから、乙1公報に接した当業者が、PTH含有凍結乾燥製剤の搬入工程においてPTH類縁物質が生成されるという課題を認識することにはならず、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することに関する動機付けがあるとはいえない。

したがって、当業者は、乙1発明及び技術常識から、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを理解し認識するとはいえず、被告の前記主張は採用することができない。

ウ以上から、本件発明1は、乙1発明に技術常識を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものではない。

(5) 本件発明1の顕著な効果について本件発明1は、PTHペプチド含有溶液の凍結乾燥手段への搬入工程において、当該溶液と製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触抑制を行うことによって、得られる凍結乾燥製剤に含まれる類縁物質の生成量を低減させる効果を奏するものである。本件発明の効果は、具体的には、類縁物質の総量を対比すると、【実施例1】~【実施例5】では0.72%から1.51%程度であるが、比較例1は6.27%であり、比較例2は3.09%であった(本件明細書の【表7】)ところ、本件特許の優先日前において、当業者が、かかる効果を予測することができたことを認めるに足りる事情はない。

したがって、本件発明1の効果は、当業者が予測することができなかった顕著な効果であるものと認められる。

(6) 以上から、本件発明1は、当業者が、乙1発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

5乙2発明に基づく本件発明1の進歩性欠如の有無(争点2-4)(1) 乙2公報は、発明の名称を副甲状腺ホルモン製剤」とする公表特許公報であり、次の記載がある(乙2)。

ア特許請求の範囲(ア) 請求項1医学的に有用な量の副甲状腺ホルモン;該副甲状腺ホルモンと共に凍結乾燥されて非晶質ケーキを形成する賦形剤;調製品のpHを生理学的に許容し得るpH範囲内に調整するに十分な量の非揮発性緩衝剤;及び水を含有する副甲状腺ホルモン調製品。

(イ) 請求項2前記賦形剤がマンニトールである請求の範囲第1項記載の副甲状腺ホルモン調製品。

(ウ) 請求項3前記緩衝剤がクエン酸塩源である請求の範囲第1項記載の副甲状腺ホルモン製剤。

イ発明の詳細な説明(ア) 発明の分野本発明は、副甲状腺ホルモンを含有する医薬組成物に関する。特には、本発明は、改良された保存安定性を有する副甲状腺ホルモン製剤に関する。」(イ) 発明の背景副甲状腺ホルモン(PTH)は、骨を含む様々な組織に対するその作用により血清カルシウムレベルを制御する、哺乳動物副甲状腺の分泌84アミノ酸生成物である。ヒトにおける特定の形態のPTHを用いる研究により骨に対する同化効果が示されており、骨粗鬆症及び関連骨疾患の治療へのその使用に対する高い関心が呼び起こされている。」これらの研究に用いられるPTH調製品は、新鮮なもしくは凍結乾燥ホルモンから再溶解されており、様々な形態の担体、賦形剤及びビヒクルが含まれている。

ほとんどのものは、ホルモンを溶解するために、生理食塩水又は典型的には酢酸で酸性化された水のような水ベースのビヒクルに調製される。」副甲状腺ホルモンの商業的な利用には、保存安定性の点で許容可能であり、調製及び再溶解が容易な製剤を開発する必要がある。しかしながら、それがタンパク質であり、したがって伝統的な低分子量薬物よりもかなり不安定であるため、副甲状腺ホルモンの処方は医薬産業では通常遭遇しない難問を提示する。さらに、うまく処方されている他のタンパク質とは異なり、PTHは酸化に非常に敏感であり、さらに、生理活性を保全するためには、そのN-末端配列を本来のままに保持する必要がある。」本発明の目的は、薬学的に有用なPTH調製品、特には完全長形熊のヒトPTHを活性成分として含有するPTH調製品を提供することにある。」(ウ) 発明の詳細な説明本発明は、ホルモン組成物及び活性という見地からの保存安定性を示す副甲状腺ホルモン調製品に関する。」(エ) 実施例まず、ホルモンとしてヒトPTH(1-84);賦形剤としてマンニトール;及び緩衝剤としてクエン酸源を混合することにより、次の凍結乾燥のためのPTH水溶調製品を調製した。

調製品を生成する第1工程として、無菌の20%(W/V)マンニトール注射溶液(British Pharmacopeia)から2つの水性混合成分を調製した。20%マンニトール溶液を、(1)クエン酸水溶液と混合して10mMクエン酸及び5%マンニトールの第1水性混合成分を得、並びに(2)クエン酸ナトリウム一水和物水溶液と混合して10mMクエン酸塩及び5%マンニトールの第2水性混合成分を得た。次に、これらの混合成分を、pH約4(±0.2)の5%マンニトール溶液及びpH約6(±0.2)の5%マンニトールを生成するのに適当な容積で配合して、5%マンニトールのpH調整溶液を得た。

次に、これらの5%マンニトール溶液(pH4及びpH6)に計量した凍結乾燥ヒトPTH(1-84)を加えた。この凍結乾燥ヒトPTH(1-84)は、微生物により生成され、凍結乾燥前に精製して無菌的に濾過したものである。計量したPTHを5%マンニトールのpH4及びpH6の溶液に添加し、1.1mlの容積をバイアルに収容したときに、100、250、500、1,000及び2,500μgの量のPTHを含むバイアルを提供する保存溶液を作製した。

凍結乾燥のために、調製された各濃度でPTHを含有する溶液を、手動もしくは自動分注器のいずれかで、1.1mlの容積を5mlガラスバイアル(SAA型)に無菌的に充填し、トレイに載せて、予め-50℃に冷却した、無菌の、窒素でパージした凍結乾燥器に入れた。搭載して4時間の予備凍結期間の後、圧力を0.26mbarに1時間減圧して凍結乾燥チャンバーからの吸引を行った。次いで、30分間に亘って-50℃から-10℃に徐々に暖め、そこでバイアルを16時間保持することからなる第1乾燥サイクルを実施した。次に、さらに減圧した圧力0.05mbarで3時間に亘って-10℃から25℃にさらに暖め、この温度及び圧力で16時間保持することからなる第2乾燥サイクルを実施した。第2乾燥サイクルの最後に、チャンバーを窒素でパージし、0.85-0.95barとした。圧力を平衡にした後、トレイを起こしてバイアルの口をゴム栓で塞ぎ、バイアルトレイを取り外してアルミニウムシールで蓋をした。

次に、様々な濃度及びpH4もしくはpH6での凍結乾燥PTH調製品を収容するバイアルを、続く1、2、3、6及び9ヶ月の様々な時点での分析に備えて、4℃及び37℃で保存した。バイアルに収容された調製品を1.1mlの無菌の水に再溶解することにより、安定性の分析を行った。これは、ゴム栓を通して水を注入し、再溶解に1分までの時間を費やした後、溶液を取り出して分析することにより達成した。…」(2) 乙2発明の構成について

ア被告は、乙2公報の記載から、乙2発明は、PTHペプチド含有溶液の周囲空気との接触による酸化を防止する構成を客観的に備えた発明であって、薬液とオゾンとの接触の抑制は、薬液と周囲空気との接触の抑制により必然的に内在して実現されていると主張する。

乙2公報の特許請求の範囲請求項1~3及び発明の詳細な説明の記載の概要は、以下のとおりである(前記(1))。

副甲状腺ホルモンを商業的に利用するには、保存安定性の点で許容可能であり、調製及び再溶解が容易な製剤を開発する必要があるが、副甲状腺ホルモンは、伝統的な低分子量薬物よりもかなり不安定であるため、その処方には医薬産業では通常遭遇しない難問を提示することに加え、PTHは酸化に非常に敏感であり、さらに、生理活性を保全するためには、そのN-末端配列を本来のままに保持する必要があるという課題があった。乙2発明は、かかる課題に対し、賦形剤(マンニトール)と緩衝剤(クエン酸塩源)を配合することで改良された保存安定性を有する副甲状腺ホルモン製剤を提供することを目的とする発明である。

そして、実施例では、計量したPTHを5%マンニトールのpH4及びpH6の溶液に添加し、1.1mlの容積をバイアルに収容したときに、100、250、500、1000及び2500μgの量のPTHを含むバイアルを提供する保存溶液を作製し、凍結乾燥のために、調製された各濃度でPTHを含有する溶液を、手動もしくは自動分注器のいずれかで、1.1mlの容積を5mlガラスバイアル(SAA型)に無菌的に充填し、トレイに載せて、予め-50℃に冷却した、無菌の、窒素でパージした凍結乾燥機に入れ、凍結乾燥機内を減圧及び徐々に暖めて乾燥させ、乾燥サイクルの最後に凍結乾燥機内を窒素でパージしてバイアルの口をゴム栓で塞ぐ方法が採用されている。

このような乙2公報の記載に鑑みれば、乙2公報において、PTHペプチド含有溶液調製工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間のうち、少なくとも搬入工程(運搬及び搬入)を含む工程において、薬液が空気環境と接触することを抑制し、薬液の酸化を防止する構成が開示されているとはいえない。

この点、被告は、乙2発明に薬液と周囲空気との接触を抑制する構成が内在しているとする根拠として、本件特許の出願時に原告が提出した実験成績報告書(甲6。

以下本件実験成績報告書」という。)の試験では、予め窒素パージしただけでは課題解決手段にならないことを確認できない点を指摘する。

しかし、本件実験成績報告書には予備窒素パージ+窒素パージ継続」の窒素含有率は約98%であったが、予備窒素パージのみの場合は、60秒後に外気と入れ替わり、予備窒素パージの効果は無くなった」ことが示されており、乙2公報記載の凍結乾燥チャンバーの窒素パージが薬液と周囲空気との接触抑制の効果を奏するかが明らかでない。

以上の乙2公報記載の特許請求の範囲、従来技術の課題、乙2発明の目的、実施例の方法に照らすと、乙2発明は、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法であって、賦形剤(マンニトール)と緩衝剤(クエン酸塩源)を配合することにより、製造後の保存安定性を有する副甲状腺ホルモン製剤を提供することを目的とするものであって、PTHペプチド含有溶液調製工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間のうち、少なくとも搬入工程(運搬及び搬入)を含む工程において、薬液が空気環境と接触することを抑制し、薬液の酸化を防止する構成を有するものとは認められないし、PTHペプチド含有溶液の周囲空気との接触による酸化を防止する構成を客観的に備えた発明とも認められない。

したがって、乙2発明が酸化防止構成を備えていることを前提とする被告の前記主張は採用することができない。

イ以上を踏まえると、乙2発明の構成は次のとおり認められる。

PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法であって、賦形剤(マンニトール)と緩衝剤(クエン酸塩源)を配合することで保存安定性を得ることを特徴とし、PTHペプチド含有溶液調整工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程までの工程を有する製造方法。

(3) 本件発明1と乙2発明の相違点について本件発明1と乙2発明を比較すると、次の相違点を認めることができる。

ア相違点2-1本件発明1は、当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量も1.0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法であるのに対し、乙2発明は、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法であるが、上記の基準を満たすPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法との限定がなされていない点

イ相違点2-2本件発明1では、搬入工程がグレードAである旨定められているのに対し、乙2発明では、その旨明記されていない点

ウ相違点2-3本件発明1では、少なくとも搬入工程を含む1以上の工程においてPTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制するのに対し、乙2発明には、無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することが明記されていない点(4) 容易想到性について

ア事案に鑑み相違点2-3から検討する。

被告は、乙2発明は、PTHペプチドを含有する溶液をガラスバイアルに無菌的に充填したものをトレイに載せて、予め-50℃に冷却した、無菌の、窒素でパージした凍結乾燥機内に搬入することによって、搬入工程において、無菌注射剤製造施設内空気との接触を抑制する方法を開示するから、乙2発明には、PTHペプチドと、無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾンとの接触を抑制する作用がその構成自体に内在しており、本件発明1のオゾンとの接触を抑制することを特徴とする方法」は、乙2発明の構成により当然に実現していること、また、本件特許の優先日前の技術常識から、乙2発明に接した当業者は、乙2発明の搬入工程(凍結乾燥機内にトレイを搬入する工程)において、薬液が空気環境と接触することを抑制し、薬液の酸化を防止する構成が、PTHペプチドのオゾンとの接触抑制のためにも作用するものと当然に理解し、オゾンとの接触抑制を目的の一つに含むものと理解認識する旨を主張する。

しかし、前記(2)アのとおり、乙2発明は、賦形剤と緩衝剤を配合することにより保存安定性を得ることを目的とする発明であり、薬液が空気環境と接触することを抑制し、薬液の酸化を防止するとの技術思想を有するものとは認められない。

乙2公報の実施例においては、ガラスバイアルを予め窒素でパージした凍結乾燥機内に搬入する方法が採用されているものの、凍結乾燥機内に搬入する態様や方法については特段の記載はないところ、本件実験成績報告書によれば、搬入前に予め凍結乾燥庫内を窒素でパージしても、扉を開けてから約1分間で凍結乾燥庫内の空気が外気と入れ替わることが認められるから、前記実施例をもって、乙2発明には、搬入工程において、無菌注射剤製造施設内空気との接触を抑制する構成が内在するとはいえない。

したがって、乙2発明には、PTHペプチドと、無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾンとの接触を抑制する作用がその構成自体に内在しているとはいえず、また、乙2公報にはオゾンによる薬液の酸化についての記載やその示唆はない。

また、証拠及び弁論の全趣旨からうかがえる本件特許の優先日前における技術常識の内容は、前記4(4)イのとおりであり、本件発明は、本件発明の発明者らが、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しようとすると、PTH類縁物質を含んだ製剤が製造されることを知見したことによるものであるところ、乙2公報に工業的製造を前提とする前記課題に関する記載や示唆はなく、本件特許の優先日前において、前記知見が技術常識であったことを裏付ける資料もないから、乙2公報に接した当業者が、PTH含有凍結乾燥製剤の搬入工程においてPTH類縁物質が生成されるという課題を認識することにはならず、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することに関する動機付けがあるとはいえない。

したがって、当業者が、乙2発明及び技術常識から、乙2発明の搬入工程(凍結乾燥機内にトレイを搬入する工程)において、薬液が空気環境と接触することを抑制し、薬液の酸化を防止する構成が、PTHペプチドのオゾンとの接触抑制のためにも作用するものと当然に理解し、オゾンとの接触抑制を目的の一つに含むものと理解認識するものとはいえず、被告の前記主張は採用することができない。

イ以上から、本件発明1は、乙2発明に技術常識を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものではない。

(5) 本件発明1の顕著な効果について前記4(5)のとおり、本件発明1の効果は、当業者が予測することができなかった顕著な効果であるものと認められる。

(6) 以上から、本件発明1は、当業者が、乙2発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

6乙1発明に基づく本件発明13の進歩性欠如の有無(争点2-5)及び乙2発明に基づく本件発明13の進歩性欠如の有無(争点2-6)本件発明13は本件発明1の請求項を引用する発明であるところ、本件発明1が進歩性を有することは前記4及び5のとおりである。

したがって、本件発明13は、乙1発明又は乙2発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

7差止め及び薬価基準収載申請の取下げ又は削除願の提出請求の必要性の有無(争点3)前提事実(5)のとおり、被告は、薬機法に基づいて、テリボンのジェネリック医薬品として、令和4年2月15日、被告製品を製造販売することについての承認を取得し、その後、被告製品の製造販売を開始したところ、被告が被告製品の製造販売を継続すれば、テリボン販売による原告の売上げが減少するなどして、原告に損害が発生するおそれがあるものと認められる。ただし、別紙3被告方法の構成」の裁判所の認定」欄記載の方法以外の方法でテリボンのジェネリック医薬品を製造販売すること自体は認められる。

また、被告は、口頭弁論終結時において、被告製品の製造販売を中止しているが、製造販売を再開することは可能であり、そのことのみで、差止めの必要性が否定されるものではない。

したがって、本件発明を侵害する方法、すなわち、別紙3被告方法の構成」の裁判所の認定」欄記載の方法で製造された被告製品の製造販売等を差し止める必要性があるといえる。

一方、被告が本件発明の技術的範囲に属さない方法によってテリボンのジェネリック医薬品を製造販売することは、許容されるべきであり、本件特許権侵害を理由として、被告が薬価基準収載品目削除願の提出を求められることになれば、原告に過度の保護を与えることになるのに対し、被告に与える不利益の程度は大きいといえる。

したがって、被告に対し、被告製品についての健康保険法に基づく薬価基準収載品目削除願の提出を求める必要性があるとはいえない。

なお、被告製品の廃棄を求める点について、弁論の全趣旨によれば、被告がこれまで製造した被告製品は、いずれも、別紙3被告方法の構成」の裁判所の認定」欄記載の方法で製造したものであると認められるので、この点については、特段、限定を付さない。

8原告の損害(争点4)について原告は、特許法102条1項に基づく損害額を主張するところ、同項は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、同項1 号において、侵害者の譲渡した物の数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、特許権者等の実施の能力の限度で損害額とし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情を侵害者が立証したときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものと規定して、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の立証責任の転換を図るものである。

同号にいう単位数量当たりの利益の額」は、特許権者等の製品の売上高から特許権者等において当該製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した額(限界利益の額)であると解される。特許発明を実施した特許権者等の製品において、特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合であっても、特許権者等の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者等の逸失利益となることが事実上推定されるが、当該特徴部分が特許権者等の製品の販売による利益の全てに貢献しているとはいえない事情がある場合においては、その販売によって得られる限界利益の全額を原告の逸失利益と認めるのは相当でなく、前記の事実上の推定が一部覆滅されるというべきである。

なお、原告は、テリボンを販売することができないとする事情が認められる数量が存する場合、当該数量に、被告の薬価に対する実施料率20パーセントを乗じた金額を同項2号に基づく損害として予備的に主張している。

以上を前提に原告の損害額を検討する。

(1) 認定事実

ア原告の原価計算方法原告の、令和4年4月から令和5年3月までの会計期間(原告2022年度)のテリボンに関する、会計監査を受けた製造原価計算結果は、別紙6の1テリボン原価計算表(上期)」及び同6の2テリボン原価計算表(下期)」の各目標」欄記載のとおりであり、その計算方法は以下のとおりであった。また、実際原価は、同6の1の実績(甲23記載分)」及び同6の2の実績(甲20の2記載分)」のとおりであった。(甲11ないし20の2、23)(ア) テリボンの製造工程の流れは以下のとおりである。作業は全て●(省略)●工場で行われる。

a有効成分であるテリパラチド酢酸塩は第三者から購入しているので、原告における製造工程はない。もっとも、本件訴訟の過程で、●(省略)●工場で原告2018年度に製造された●(省略)●ロットのそれぞれ一部が●(省略)●工場でのテリボンの製造に使用されたことが判明した(甲20の12にテリパラチド酢酸塩」又はテリパラチド酢酸塩(●(省略)●向け製剤製造用)」と記載されているもの)。

bテリパラチド酢酸塩と添加剤である塩化ナトリウムなどをバイアルに充填する工程で TER 充てん品」が得られる(以下充てん工程」という。)。

c TER 充てん品」についてその内容を検査する工程で TER 検査済品」が得られる(以下検査工程」という。)。

d TER 検査済品」を生食溶解液などと包装することでテリボンが得られる(以下包装工程」という。)。

(イ) 原告は、テリボンの1ロットの単位を ●(省略)●」本と定めており、長い製造実績に基づき、製造ロスを考慮して、 TER 充てん品」を ● (省略)●」本製造し、検査工程で TER 検査済品」が ● (省略)●」本に、包装工程で ● (省略)●」本になるものとして原価計算を行っている。

(ウ) 各工程での費用(製造費)の内容は以下のとおりである。

a比例製造費材料費(充てん工程と包装工程で使用される原材料費用)、テリボンを製造している●(省略)●工場における用役費(燃料費、支払電力費、支払用水費)、消耗材料費b固製労務費●(省略)●工場の従業員らの人件費c固製二次発生費製造部門全体に関わる間接費(例えば、製造部門を統括する製造部門長や、工場に関連する人事等を担当する従業員の人件費等)を各工場の人員数等の比率に応じて●(省略)●工場に配賦した額d固定製造費●(省略)●工場の減価償却費や土地の賃借料や修繕費等(エ) 原材料費の算定充てん品」1ロット(●(省略)●本)を得るために、充てん工程では以下の品目が使用される。この表の右欄の予算総数」は、テリボンを1ロット製造するために必要となる各品目の予定数量を示している。なお、予算総数を示す際の値の小数点以下はすべて 000」なので記載を省略する。品目上期予算総数●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●各構成品の予定原価は以下のとおりであり、(1ロット当たりに必要な単位数)÷(1ロット製造に必要な予定数量)×(1単位当たりの原価)=(テリボン1本当たりの予定原価)となる(別紙6の1、同6の2では、甲20の12の記載も参照し、(1ロット当たりに必要な単位数)÷ (1ロット当たりの製造本数)を原単位」、1単位当たりの原価を単価」、テリボン1本当たりの予定原価を単位単価」と表示している。したがって、原単位×単価=単位単価の関係に立つ。なお、上記の定義から、原単位は、(総数量)÷(生産量)と同義であることが自明である。)。品目1000単位の予定原価単位原価●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●●(省略)●(オ) 比例製造費(材料費を除く。)の算定a比例製造費(材料費を除く。)は、その性質上、●(省略)●工場で製造する複数の製剤に直接紐づけることが困難であるため、以下の過程を経て算定している。

(a) 工程ごとに製剤1ロットを製造するのに必要な活動数量(設備稼働時間を基に算出される係数)を設定する。

(b) 期中に予想される●(省略)●工場での総活動数量(製剤ごとに期中での予測生産量と工程毎の活動数量を乗じ、算出された値を全製剤分合計したもの)と、実際に比例製造費として発生が予想される値から、活動数量1」当たりの値を算定する。

(c) ロットの製造に必要な活動数量に、活動数量1」当たりの値を乗じたうえ、1ロットの本数で除することによって、1本当たりの製造に必要な単価を算定する。

b すなわち、(1ロット当たりに必要な活動数)÷ (1ロット当たりの製造本数)×(1活動数量当たりの原価)=(1本当たりの原価)となる(別紙6の1、同6の2では、材料費と同様に、(1ロット当たりに必要な活動数)÷(1ロット当たりの製造本数)を原単位」、1活動数量当たりの原価を単価」、1本辺りの原価を単位単価」と表示している。したがって、原単位×単価=単位単価の関係に立つ。)。

(カ) 固製労務費」、固製二次発生費」及び固定製造費」の算定これらは、●(省略)●工場で固定的に負担している費用である。管理会計上は各製剤に配賦しているが、各製剤に直接紐づけることが困難であることから、比例製造費」と同様の過程を経て算定している。なお、固製二次発生費」及び固定製造費」の活動数量は、比例製造費」同様、設備稼働時間を基に算出されるが、固製労務費」については作業工数を基に算出している。

(キ) 販売費についてa比例販売費の内訳は、包装材料、運賃、保管、荷役料、販売手数料及び保険料である。

b固定販売費は、講演会説明会費用、資材作成費用やその旅費交通費等及び営業本部に所属するMRの労務費等を含む固定販売費(固販」)と広告宣伝費(広宣」)に分類され、それぞれの内訳は以下のとおりである。

(a) 固定販売費営業部門従業員の給与賞与、法定福利費、厚生費、旅費交通費、試験調査費、通信費、会議費、雑費、飲食費、消耗材料費、催物費、運賃、図書費、支払作業賃、業務委託費(一般)、業務委託費(システム)、保管費、資産賃借料(車等)、課金等(b) 広告宣伝費マスコミ出稿費、催物費、販促材料費、宣伝材料費等

イ原告は、前記ア(ア)aのとおり、原材料であるテリパラチド酢酸塩を、全部、外部から調達していたことを前提としていたが、実際には、一部、原告2018年度下期に、原告の●(省略)●工場で製造されたテリパラチド酢酸塩が用いられていた。

そのため、自社製のテリパラチド酢酸塩に関する製造原価及び●(省略)●工場への運搬費用がかかっていた。なお、別紙6の1の実績(甲23記載分)」の原薬:テリパラチド酢酸塩(●(省略)●工場製造分)」欄において、上期のテリパラチド酢酸塩(●(省略)●工場製造分国内用)の実績単価は、●(省略)●工場において製造実績がなかったことから、原告における標準原価の変動費分である●(省略)●円を採用して計算され、同6の2の実績(甲20の2記載分)」の同欄において、下期のテリパラチド酢酸塩(●(省略)●工場製造分国内用)及びテリパラチド酢酸塩(● (省略)●工場製造分 ● (省略)●用)の実績単価は、いずれも、同6の3 ● (省略)●工場下期原価計算表」記載の、下期の● (省略)●工場におけるテリパラチド酢酸塩の標準原価を採用して計算されている。また、原告は、● (省略)●工場への運搬費用は、テリボン原薬1ロット当たり● (省略)●円(段ボール●(省略)●円、発泡スチロール●(省略)●円)であり、いずれも●(省略)●工場の比例製造費に計上している。(甲20の1ないし26の2)

ウ決算を経た●(省略)●工場における下期のテリパラチド酢酸塩の製造原価の計算結果は、別紙6の3 ● (省略)●工場下期原価計算表」の目標」及び実績(甲22記載分)」のとおりであった。

なお、同工場では、国内向けの製品に用いられるテリパラチド酢酸塩と● (省略)●向けの製品に用いられるテリパラチド酢酸塩を作っていたところ、その原価はいずれも同じであるが、原価管理は分けていた。また、原告2022年度は、●(省略)●向けテリパラチド酢酸塩を製造する予算計画がなかったことから、別紙6の3の目標」欄記載の●(省略)●向けテリパラチド酢酸塩の予算は、原告2021年度のものである。●(省略)●工場における原価計算方法は、●(省略)●工場におけるテリボンと同様に、予め定められた予算計画に基づき計算された生産量、単価及び総数を元に計算されていた。(甲22、24)

エ被告は、令和4年9月から令和5年9月末までの間(以下被疑侵害期間」という。)に、薬価5194円で被告製品を●(省略)●本販売した。また、原告は、原告2022年度において、テリボンを●(省略)●本(上期に●(省略)●本、下期に●(省略)●本)販売し、その合計売上高は●(省略)●円であった。

(甲11ないし13、弁論の全趣旨)。

(2) 限界利益について

ア基礎資料の信用性及び計算期間について(ア) 原告は、会計監査人設置会社であるところ、原告が提出する原告2022年度の会計資料(甲11、20の12、22)は、いずれも、会計監査人の監査を経たものであり、システム上、半期ごとに入力がロックされることなども踏まえると、特に、信用性を疑うべき事情は認められない。

被告は、これらの資料の信用性について、証票を突合して正確性を検証すべきであると主張し、そのために、書類提出命令の申立てもしていたものである。しかし、被告も原告と同じく製薬会社であり、原告が提出する会計資料に、実務慣行上明らかに不審な点があればそれを具体的に主張立証すべきであるが、抽象的な疑念をいうのみであり、そのような主張や証拠はなく、被告の主張は採用できない。

(イ) 原告は、特許法102条1項1号に基づく損害額を計算するに際し、テリボン1本当たりの原価を、原告2022年度の決算資料に基づき計算するのに対し、被告は、被疑侵害期間を含むデータに基づいて計算すべきであると主張する。

特許法102条1項は、前示のとおり、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めるものであり、逸失利益は、不法行為がなかった場合、得られたであろう利益を意味するから、同項にいう損害を計算する際も、その基礎とする数字は、被告による特許権侵害がなかった場合によることが相当である。

この点、原告は、標準原価方式を採用し、年間の予算計画を策定しているところ(甲11)、標準原価方式とは、過年度の実績を踏まえ、予め定めた標準原価を元に原価計算を行うというものであるから、原告2022年度の標準原価は、被告による特許権侵害がなかった原告2021年度までの実績に基づいて策定されたものといえる。そうすると、限界利益を求める際に参照すべき資料は、原告2022年度のデータで足り、かつ、それによるべきであると認められる。

なお、被告は、被疑侵害期間に関するデータを含むべき理由として、令和4年2月24日に生じたロシアのウクライナ侵攻等による諸物価上昇の影響が少なくないものと考えられる点も指摘する。しかし、原告2022年度が始まるときは、ウクライナ侵攻が生じて1月強しか経過しておらず、経済に与える影響が一時的なものか永続的なものかが不透明であったことから、原価計算の埒外とすべきである。

したがって、被告の主張は採用できない。

(ウ) よって、以下では、原告が提出する会計資料の値を参照し、検討する。

イテリボンの売上高(リベート及び調整金率の信用性)について証拠(甲11、14、29)及び弁論の全趣旨によれば、医療用医薬品には、卸業者に対してリベート等を支払う慣行があること、原告のテリボン販売時におけるリベート率は、原告2021年度の上期が●(省略)●パーセント、下期が●(省略)●パーセントであったのに対し、原告2022年度では上期●(省略)●パーセント、下期●(省略)●パーセントとなっていたこと、原告が、リベート率を●(省略)●適用していたことが認められ、かかる認定を覆すに足りる証拠はない。

一般に、リベート率が、年度を超えるだけで●(省略)●上昇するというのは、特段の事情がなければ考えがたいところであること、その時期と被告が本件特許権を侵害した時期が重複ないし近接することに鑑みれば、リベート率の上昇は、被告の特許権侵害によって余儀なくされたものであると認められ、原告が恣意的にリベート率を低く設定することで限界利益を多く計上しているものとは認められない。

また、証拠(甲14)によれば、卸業者ごとに割戻率を決め、それに基づく調整金が控除されること、割戻率は卸業者の評価によって決定され、その評価方法に関しては、厚生労働省のガイドラインが存在し、原告はこれに従って評価し、●(省略)●算定したことが認められ、かかる認定を覆すに足りる証拠はない。被告は、原告と同様、医薬品を製造販売する者であり、原告の算定方法や算定結果に疑義があるならば具体的に主張立証し得るものといえるが、そのような主張も証拠もない。

そうすると、リベート率及び調整金率は経営判断により調整可能であり信用性が認められない旨の被告の主張は採用できず、テリボンの純売上高については、別紙6の5原告の損害集計表」の当裁判所の認定」欄のリベート等控除後純売上高」欄記載のとおりの金額と認めるべきである。

ウ経費について(ア) 標準原価方式の採否について原告は、標準原価方式に基づき算出された標準原価を以て経費を算定し、限界利益を計算しているのに対し、被告は、実際原価方式を採用すべきであると主張する。

標準原価方式は、次年度の予算策定時に、過去実績等を参考に次年度の標準原価(予定値)を策定し、製品1個当たりの単価を算定するものであり、標準原価の策定それ自体が適正に行われているのであれば、簡便に原価を計算できる点や、一過性の影響を排除した原価を求めることができるものであり、特許権侵害がなかった場合に得られた蓋然性が高い利益を求めることができる。実際原価方式は、実績値を用いることができるという利点があるが、一方で、各期の偶発的な事情も含んでしまうものであり、必ずしも、蓋然性が高い原価を計算できるものではない。

そして、後記エのとおり、本件では、原告2022年度を通算すると、予算差異は変動費で2パーセント弱、固定費を含めると約1パーセントに収まっており、予算差異の多くは、上期と下期の操業度に起因する固定費の差異によるものと認められる。

そうすると、標準原価方式によってテリボンの限界利益を算定することは合理的なものであり、被告の主張は採用できない。

(イ) 被告は、原告の製造原価が上期と下期で異なる点を指摘し、比例製造費を半期ごとに算出すべきである旨主張するが、前示のとおり、工場操業度によって生じた固定費の差異を通年で平準化すると、予算差異は小さいものとなっており、むしろ、通年で計算する方が、適切な原価を求めることができている。したがって、テリボンの限界利益は、原告2022年度の通年のデータから計算すべきであり、被告の主張は採用できない。

(ウ) 試験試薬について原告は、試験設備等の消耗品について、固定費であると主張する一方で、変動費的な性格を有することを認めており、これを変動費として取り扱うことを積極的に争っていない。また、原告が主張する金額は証拠(甲24、27)により、いずれも認められる。

そうすると、試験試薬費●(省略)●円は、変動費として利益から控除することが相当である。

(エ) 以上のほか、被告は、変動費及び固定費の内訳が不明であるとして、限界利益の計算そのものができないと主張するが、原告2022年度の会計資料に特段不合理な点は認められず、同業者として、具体的な指摘ができるはずの被告の立場を踏まえても、被告の主張は抽象的な疑問をいうもので採用できない。

エ小括(限界利益)以上の点を踏まえ、テリボンの限界利益を計算すると、原告が提出する会計資料(甲11、20の12、22、24)について、以下の及びのとおり、修正する必要があることから、これを行った結果、別紙6の1、同6の2、同6の5の裁判所の認定」又は実績(裁判所の認定)」欄記載のとおり、1本当たり● (省略)●円であると認められる。

なお、原告2022年度における予算差異は別紙6の4予算差異計算表」のとおり、上期と下期では、操業度差異(下期に工場設備等の点検、修繕作業を行った影響で名古屋工場の総活動量が下がり、活動数量1」当たりの金額が上昇して1本当たりの単位原価が上昇した(甲14)。)に起因すると考えられる予算差異はみられるものの、年間で通算すれば、後記する、原告が原告2022年度の原価計算において検討をしていなかった●(省略)●工場で製造したテリパラチド酢酸塩の原価を除けば、変動費は約2パーセント、合計で約1パーセント程度の差異しか生じていない(ただし、ここでは前記ウ(ウ)の試験試薬については考慮されていないが、金額に鑑みれば、微差であるから結論に影響しない。)。そうすると、原告2022年度の標準原価計算における予算計画が不合理なものであるとは認められず、標準原価計算の結果を用いた限界利益の計算は妥当といえる。

(ア) ●(省略)●工場が製造したテリパラチド酢酸塩の取扱いについてa原告2022年度の標準原価には、●(省略)●工場が製造したテリパラチド酢酸塩を使用しないことが前提となっていたことから、同工場のテリパラチド酢酸塩に関する原価が含まれていなかったが、実際には、上期及び下期の双方で、一部使用されていたことが認められる(甲20の12、23)。標準原価は、本来、前年度までの実績と予測に基づき、適正に定められるべきものであるが、その前提となる認識に誤りがあった場合は、適宜、修正することが相当である。

b ●(省略)●工場製造分の単価について原告は、上期のテリパラチド酢酸塩(●(省略)●工場製造分国内用)の実績単価は、●(省略)●工場において製造実績がなかったことから、原告における標準原価の変動費分である●(省略)●円を採用して計算し、下期のテリパラチド酢酸塩(●(省略)●工場製造分国内用)及びテリパラチド酢酸塩(●(省略)●工場製造分 ●(省略)●用)の実績単価は、いずれも、別紙6の3 ●(省略)●工場下期原価計算表」記載の、下期の●(省略)●工場におけるテリパラチド酢酸塩の標準原価(変動費●(省略)●円、固定費●(省略)●円)を採用して計算している。

前記●(省略)●円という単価は、原告2022年度下期の価格より安価であるところ、当該金額の根拠となる資料がなく、直ちに採用できない。また、● (省略)●工場では、国内向け製品用のテリパラチド酢酸塩と●(省略)●向け製品用のテリパラチド酢酸塩の双方を、同じ原価で製造しているにもかかわらず、原告2022年度の国内向け製品用のテリパラチド酢酸塩の標準原価よりも安価な原告2021年度の値を採用する合理的理由も見出し難い。

そうすると、本件では、●(省略)●工場で製造されたテリパラチド酢酸塩の原価については、原告が主張立証するものの中で最も高額な、原告2022年度の国内向け製品用のテリパラチド酢酸塩の標準原価(変動費●(省略)●円、固定費●(省略)●円)を採用することが相当である。

c総数について原告2022年度の標準原価を計算する際、●(省略)●工場が製造したテリパラチド酢酸塩の原価を含めるに際しては、想定される総数を求める必要があるところ、原告は、●(省略)●工場で製造された●(省略)●ロット(上記のとおり、原告2022年度の国内向け製品用のテリパラチド酢酸塩の標準原価を採用することから、別紙6の3のとおり、1ロットあたり●(省略)●本となるので、●(省略)●ロットで●(省略)●本となる。)のうち一部が使用されたことを明らかにするのみで(認定事実ア)、具体的な数量を明らかにしないから、最も被告に有利に、●(省略)●ロット全てが●(省略)●工場でのテリボン製造に使用されたものとして標準原価を計算することとする。

具体的には、まず、●(省略)●ロット分である●(省略)●本を、上期と下期の充てん工程における予定生産量(上期●(省略)●本、下期●(省略)●本)で按分すると、上期は● (省略)●本、下期は● (省略)●本となる。上記のとおり、国内向け製品用のテリパラチド酢酸塩と●(省略)●向け製品用のテリパラチド酢酸塩の標準原価は同じ金額を採用しているので、この按分した本数から更に国内用と●(省略)●用を分けることは行わない。これにより、生産量、総数及び単価が明らかになるので、原単価、単位単価及び総額が明らかになり、別紙6の1及び6の2のとおり、上期の単位単価は●(省略)●円、下期の単位単価は●(省略)●円と認められる。

(イ) 下期の検査工程における前工程の原価について原告が提出する下期の会計資料(甲20の2)では、充てん工程における単位原価が変動費●(省略)●円、固定費●(省略)●円となっているところ、これに続く検査工程では、前工程の製品の単価が変動費●(省略)●円、固定費●(省略)●円となっている。

しかし、原告の計算方法では、前工程の製品を次の工程で用いる場合、前工程の単位原価が次の工程の単価と同額となるべきであるが、下期は、充てん工程とこれに続く検査工程で金額が異なっている。これは、●(省略)●工場製造分テリパラチド酢酸塩に関する修正を加える前の会計資料(甲11)の値を用いたことによるものと解されるが、特に、この値を採用すべき理由はない(なお、甲20の1では、前工程の単位原価が次の工程の単価と同額となっている。)。上記の値は、誤入力であると認められるので、別紙6の2テリボン原価計算表(下期)」の充てん工程」の単位単価」欄及び検査工程」の単価」欄の裁判所の認定」欄記載のとおりに改める。

(3) 推定覆滅について

アセット販売品であることについて被告は、溶解液が添付されたテリボンがPTHペプチド含有凍結乾燥製剤と溶解液とのセット販売品であることを指摘し、①本件発明の実施品であるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤がもたらす利益と、②溶解液入りのシリンジ及びバイアルコネクター(シリンジとバイアルを繋ぐ部品)がもたらす利益並びにPTHペプチド含有凍結乾燥製剤、溶解液入りのシリンジ及びバイアルコネクター(シリンジとバイアルを繋ぐ部品)のセット販売品であることがもたらす利益とに割り付けをした上、少なくとも、上記②の範囲については、特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となるとの事実上の推定は覆滅されるべきであると主張する。

しかし、本件発明は、前記4(5)のとおり、骨粗鬆症の治療に有効なPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を従来方法に比べて高い純度で提供することができるという方法の発明であり、溶解液等については製剤が合成された後に付加される付随品であるところ、証拠(甲11)によれば、溶解液が添付されたテリボンの実売単価が●(省略)●円、溶解液等が添付されていない製品の実売単価が●(省略)●円であって、溶解液等が添付されているものの方が約●(省略)●円高いものの、原告の計算方法に基づく1バイアル当たりの利益は、溶解液等が添付されていない製品より、溶解液等が添付されている製品の方が、むしろ低いことが認められる。

したがって、溶解液が添付されたテリボンが溶解液とのセット品であることは、推定を覆滅させるべき事情であるとは認められず、被告の主張は採用できない。

イ製造方法の一部であること等について被告は、本件発明が、テリボンの製造工程のごく一部でしか用いられないものであることや代替可能であること、テリボンが最も顧客誘引力を有するのは、これまで毎日自己注射をしなければならなかったが、テリボンによって週1回の医療機関における投薬で済むようになった点であること等を指摘する。

前示のとおり、本件発明において最も重要な効果は、骨粗鬆症の治療に必要な薬剤そのものであるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を高純度で提供することができるというものであり、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が安定して供給されるようになったという事実それ自体が利益に貢献している。被告は、本件発明は、他の手段で代替可能であるとも主張するが、被告自身、そのような試みに成功していないし、商品化ベースに載せられるほどに代替可能な方法を具体的に指摘するものではなく、採用できない。

一方、投薬の負担を軽減するための方法を顧客が選択できるようになったことにより、投薬を開始しやすくなるという意味で、被告が指摘する用法用量や効能の点に、顧客誘引力がないとはいえないことから、テリボンの販売により得られる限界利益の全額を逸失利益と認めるのは相当でなく、10パーセント程度の推定覆滅が認められるというべきである。

(4) 原告が販売することができないとする事情について

ア従来品の存在について被告は、テリボン及び被告製品は、いずれも、週1回投与の注射剤であり、毎日自己注射をする必要があった従来品(第三者の製品)に置き換わったものであるから、被告製品の販売数の相当部分は、単に、従来品から置き換わった部分にすぎず、本件特許権侵害とは相当因果関係がないと主張する。

証拠(乙41)及び弁論の全趣旨によれば、平成23(2011)年11月以前から販売されていた従来品が毎日自己注射をする必要があるものであったこと、テリボン及び被告製品が医療機関において週1回投与を受けるべき注射剤であることが認められる。

そうすると、テリボン及び被告製品は、いずれも、患者の負担を相当程度軽減させるものであり、これらが販売されたことで初めて患者に新たな選択肢が生じたものであるから、被告製品の販売数には、従来品から置き換わった部分が存在するものと認められる。この点、原告は、自己注射をする従来品と、医療機関への通院を要するテリボン及び被告製品とでは互換性がないと主張する。確かに、従来品と、テリボン及び被告製品では等価の互換性があるとはいえず、被告製品が存在しない場合にその需要は通常はテリボンに向かうと考えられるものの、従来品の、通院を要さないという点は、それ自体、患者の負担を軽くする面もあり、いずれの処方も可能な場合にテリボンではなく従来品が選択される余地はあるものと認められる。

よって、従来品の存在は、原告が販売することができないとする事情であると認められる(なお、その割合については他の事由も含め、後記する。)。

イオートインジェクター型への切替えについて被告は、原告が、患者が自宅で注射が可能なオートインジェクター型のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を自ら製造販売しており、医療機関においてもオートインジェクター型への切替えが推奨されていたことを指摘して、被告製品の販売数の相当部分はオートインジェクター型への切替えと置き換わって生じたにすぎず、本件特許権侵害とは関係がないと主張する。

原告は、令和元年12月から令和4年9月までの間に、オートインジェクター型への切替えが推奨されていてもなお通院による投薬を希望する患者がいたことを指摘するが、同時に、切替えが●(省略)●パーセント程度進んだこと自体は認めている。そうすると、被告製品の販売の一部については、オートインジェクター型に置き換わり得るものであると解されるから、オートインジェクター型への切替えは、原告が販売することができないとする事情であると認められる。

ウ営業努力について被告は、ジェネリック医薬品の製造販売業者として、先発薬にさらなる改良を加え、販路を拡大してきたものであり、被告製品の販売数の相当程度は、このような営業努力によって獲得されたものであると主張する。

しかし、被告が主張する事情は、いずれも、一般的な医薬品メーカーとして当然の事情であり、後発薬である被告製品が販売されてもなお、テリボンと被告製品の販売数には大きな差があることを踏まえると、特定数量が生じる程度に顕著な営業努力であるというべき事情は認められない。

被告の主張は採用できない。

エ薬価について被告は、被告製品の薬価がテリボンの約2分の1であることを指摘し、これによって、乗換えが生じたと主張する。しかし、政策的にジェネリック医薬品の使用が推奨されているとしても、単に薬価が安いからといって被告製品が選好され処方されるものではないから、薬価の差異が、原告が販売をすることができないとする事情であるということはできない。

被告の主張は採用できない。

オ小括以上のとおり、従来品との置換え及びオートインジェクター型への切替えについては、原告が販売することができないとする事情があるものと認められる。しかし、従来品が10年以上使用され続けてきたものであること、医療機関における継続的治療を求める患者の需要も少なくないものと見込まれることに加え、本件発明が、純度を向上させ、市場にPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を安定供給できることに寄与したものであることを踏まえると、被告製品の販売総数のうち、特定数量と認められる数の割合は大きいものとはいえず、10パーセントに相当する●(省略)●個とすることが相当である。

(5) 特許法102条1項2号に基づく主張について原告は、テリボンを販売することができないとする事情が認められる数量(特定数量)が存する場合、特許法102条1項2号に基づく損害額の主張として、当該数量につき、本件発明により、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が安定供給できるようになったこと等を指摘し、実施料率は、被告製品薬価の20パーセントを下回らないと主張する。一方、被告は、本件発明が製造方法の一部にすぎないこと、患者にとって負担が軽い用法用量の注射剤であることに顧客誘引力が見いだされることなどを指摘し、実施料率が0.5パーセントにすぎないと主張する。

本件発明は、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の純度を向上させ、市場に安定供給できるようにするものであり、利益に直結する効果を有するものである。患者にとって負担が軽い用法用量の注射剤を提供できるというのも、そもそもPTHペプチド含有凍結乾燥製剤が大量生産できることが前提であることや、上記のとおり、現時点において被告において代替技術を開発できていないこと等を踏まえると、本件発明の実施料率は相応に高いものというべきであり、特許法102条4項の趣旨をも考慮して、被告製品薬価の15パーセントとすることが相当である。

(6) 消費税について特許権侵害によって生じた損害に対する賠償金は、実質的には資産の譲渡等の対価であると解することが相当である(消費税法4条、消費税法基本通達5-2-5)。

そうすると、原告に生じた損害を計算する際には、消費税込みの価格とすることが相当である。

(7) 損害額合計及び弁護士費用並びに総計以上のとおり検討したところによると、被告の特許権侵害によって原告に生じた損害は、別紙6の5原告の損害集計表」の当裁判所の認定」欄記載のとおり、消費税込みで27億8628万7494円であると認められる。

そして、原告が、被告に対し、同額の賠償を求めるために必要かつ相当な弁護士費用はその10パーセントに相当する2億7862万8749円とすることが相当である。

よって、原告に生じた損害額は、30億6491万6243円であると認められる。

9なお、被告は、令和5年8月4日付け訴えの変更書による訴えの追加的変更(差止め、廃棄及び薬価基準収載申請の取下げ等を求めるものに、損害賠償請求を加えるもの)について、当該訴えの変更がなされたとき、既に侵害論の審理がほぼ終結しており、その段階で損害論の審理を要する訴えの変更をなすことは、訴訟手続の著しい遅滞を招くものであるから許されるべきではないと主張する。しかし、被告が被告製品を販売したのは、本件訴訟提起後の令和4年9月9日からであり、原告としては、そこから損害論について主張立証を準備する必要があったこと、侵害論の審理を経た後に損害論について審理を行うという
知的財産権訴訟の一般的な実務からすると、侵害論の審理の結果、侵害の心証が開示された後に損害賠償請求の追加又は拡張がなされることは想定できる訴訟活動であることを踏まえると、同訴えの変更を許し、当裁判所において損害論の審理を行ったとしても、訴訟手続が著しく遅滞するものとは認められない。

よって、被告の主張は採用できない。
第5 結論
以上の次第で、原告の請求は、特許法100条1項に基づき、被告製品を別紙3被告方法の構成」の裁判所の認定」欄記載の方法で製造、販売、又は販売の申出を行うことの差止めを求め、同法100条2項に基づき、被告製品の廃棄を求め、民法709条に基づき、損害賠償金30億6491万6243円及び内19億6875万円に対する令和5年8月4日付け訴えの変更申立書の送達日である同年8月28日から、内10億9616万6243円に対する不法行為の日の後の日である同年10月30日付け訴えの変更申立書の送達日である同年11月14日から各支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について、民訴法64条、61条を適用し、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官武宮英子
裁判官阿波野右起
裁判官西尾太一(別紙1)
物件目録骨粗鬆症治療剤テリパラチド皮下注用56.5μgサワイ」以上別紙2特許公報は省略

出典: 令和4年(ワ)第3344号 裁判所ウェブサイト掲載の判決文 →

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