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裁判所の判断
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第3 当裁判所の判断
1当裁判所も,被控訴人の請求のうち,1億7383万9240円及び内
60万円に対する平成8年8月28日から,内1億2823万9240円に対する平成14年7月2日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却すべきであると判断するが,その理由は,以下のとおりである。
(1) 争点(1)ア「構成要件B及びCの充足の有無」((ア)イ号物件の「摺動子50」が摺動する部分は,構成要件Bの「バレルの・・側壁の一方のみに・・案内レールを・・突設し」の充足を否定するか。)について ア法26条,特許法70条1項は,「特許発明(考案)の技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求(実用新案登録請求)の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」とし,同条2項は,「前項の場合においては,願書に添付した明細書の特許請求(実用新案登録請求)の範囲の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求(実用新案登録請求)の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定する。これらの規定の趣旨からすると,実用新案権請求の範囲に記載された文言の意味内容を解釈するには,その言葉の一般的な意味内容を基礎としつつも,詳細な説明に記載された発明の目的,技術的課題,その課題解決のための技術的思想又は解決手段及び作用効果並びに図面をも参酌して,その文言により表現された技術的意義を考察した上で,客観的,合理的に行うべきである。ただし,実用新案請求の範囲は,実用新案権の及ぶ範囲を画し,第三者に対してこれを明示する作用を有するものであるから,上記のように周辺事情を斟酌する場合も,請求の範囲に記載された文言の通常の意味以上に考案の技術的範囲を拡大するような解釈をしてはならないことはいうまでもない。
イところで,本件考案は,前記のとおり,ピストンロッドを有しないいわ
ゆるロッドレスシリンダについての考案であるところ,本件考案の明細書(甲1,
37,59)によれば,(ア)同シリンダは,構造上,ドライバーに軸芯と直角方向の加重が作用すると,加重方向(明細書添付の第2図面においては,右又は左)に倒れ,スリットの側壁及び2本のバンドに摺接しながら移動することによって摺動抵抗が増大し,正確な直線移動が行い得なくなる欠点があり,また,シリンダへの圧流体の供給によって,バレルが押し広げられてスリットが広くなる傾向があるため,これによって上記の欠点がさらに助長される欠点を有していたこと,(イ)従来技術は,これを是正しようとするものであったところ,このうちの1つは,ドライバーが傾倒する欠点は防止することができたものの,正確な直線移動を行うためのガイドロッドや左右のガイドレールの機構をシリンダと別個に設けなければならなかったため,装置の大型化の欠点を有し,他の1つは,圧流体の供給に起因するスリットの広がりによって,ガイドレールのゲージがともに広がることによる摺動抵抗の増大という欠点を有していたたこと,(ウ)本件考案は,上記のような欠点を有する従前技術を改良するため,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには,その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し,そのベース上に棒状の案内レール(スリット幅方向の両外側にピストンの軸心と平行な案内面をそれぞれ備えたもの)を一体に突設し,この案内レールによって片持ち状態でドライバーを案内する構成を採っていること,(エ)このような構成を採ることにより,前記「第2事案の概要」3(2)オ記載のとおりの作用効果(主として,
①ドライバーにピストンの軸心と直角方向の負荷が作用してもドライバーが傾倒することなく直線運動を行うことができること,
②圧流体の供給によりバレルがふくれても支障なくドライバーを案内することができ,最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となること,
③装置の小型化)が得られるようにしたものであることが認められ,技術常識を考え合わせれば,本件構成要件B及びCの技術的意義は,上記の作用効果(前記「第2事案の概要」3(4)カ記載の特許庁の審決(甲66)によれ
ば,「側壁がスリット幅方向へ傾倒する場合でも,案内レールの移動や両案内面間の距離変動を防止でき,側壁の下方部に突設したベース上の案内レールの案内面により正確に直線案内できるという効果も生じるものと考えられる。」)をもたらす点にあると考えられる。 上記のような本件考案の課題及び効果,ロッドレスシリンダの分野においては,「案内」がドライバーを正確に(精密に)導くことを意味すると解されること(乙2,3,5の1等)からすると,構成要件B,Cの「案内レール」は,構成要件Cで示されるとおり,スリットの幅方向の両外側に(すなわち,互いにその背面が向き合って),前記軸芯と平行な(すなわち,上記変位の移動方向と直交する)2つの案内面を備えることを要し,しかも,シリンダの移動途中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用しても,ドライバーを傾倒することなく正確に案内し(導き),保持する機能を果たすためのレール状のものを意味すると解され,そのような機能を有するものが,「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみ」に設けられていることを要するというべきである。
ウこの点について,控訴人は,イ号物件の摺動子50が摺動する部分は構
成要件Bの「案内レール」に相当する機能を有し,他方の案内レールとともに両持
ちで負荷を担持し案内している旨主張し,上記構成要件Bを充足しないとする。 そこで検討すると,摺動子50は,原判決別紙イ号
物件目録記載のとおり,その中央部で一体になっている係合部52(118)と摺動部55とで形成されており,係合部52と摺動部55(122)との間には対向する1組のスリット58が形成され,係合部52と摺動部55の両端部が上下,左右に撓むようになっていること,そして,係合部52は,側方に張り出す係止片53を備え,係止片53がバレル1Aの上面に載置され,一方の側面がバレル1Aの溝60の一方の内側面に対面すること,他方,摺動部55は,両端部の外側の側面が張り出すように幅広く形成されるとともに両端部が高くなるように上側へ折り曲げ形成され,中央部がバレル1Aの上面に載置され,両端部の上面が凹部48の天井面に対面し,両端部の張り出し側面が凹部48の一方の側面に対面すること,以上の構造を有していることが明らかであり,その係止片53及び摺動部55がバレル1Aの上面及びバレル1Aの溝60に沿って摺動することが看取できる。
しかしながら,証拠(乙28の1ないし15,甲29)及び弁論の全趣
旨(控訴人の平成12年9月1日付け準備書面(原審)の第一の三参照)によれ
ば,摺動部55は,連結板14の下面に対面してはいるが,連結板14に対して無負荷ないし軽負荷の場合,摺動部55と連結板14との間若しくは摺動部55とバレル1Aの上面との間に,肉眼によってもその存在が容易に判別し得る程度の間隙が存在する。ただし,原判決別紙イ号
物件目録の第7図及び乙43によれば,摺動部55の厚さは均一であるものの,その両端が上方に向かってゆるやかに湾曲しているものと認められるため,切断面の位置によって上記間隙が生ずる位置は異なるものと推認されるが,いずれにせよ各切断面において合計値としては同一の間隙が存在するものと考えられる。連結板14に対して13キログラム(イ号物件における最大荷重とされる27.5キログラムの約半分)の負荷を掛けた場合,両者の間隙が消失し,摺動部55は連結板14の下面とバレル1Aの上面に接すること,摺動子50(摺動部及び係合部)は,樹脂製であって,素材自体,撓みを許す性質のものである上,形状的にも,摺動部55と係合部52とは中央部で一体となってはいるものの,両端部にはスリットが形成され,撓みを許す構造になっていること,以上の事実が認められる。これによれば,摺動部55は,連結板14に掛かる負荷が増加した場合等に連結板14を支持する機能を有することは否定できないものの,それ以外の場面においては,その弾性に由来する一定の反力が作用して,ドライバーの安定を保つことにある程度貢献するとしても,その効果は「案内レール」の効果に比して極めて限定的なものであり,未だ前示のような「案内レール」に相応する作用効果(シリンダの作動中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用してもドライバーを傾倒することなく案内保持する機能)を有すべきものとは認められず,専ら他方の案内レールによって本件考案における構成要件B及びCの有する技術的意義が実現されているというべきである。
上記の点に関し,控訴人は,証拠(乙24,25,31,63)を援用
して反論する。乙24,25には,イ号物件(メカジョイント式ロッドレスシリン
ダMY1H25)を横向きに取り付け,摺動子50を取り外して連結板に軸芯と直交する方向の負荷を加えた場合に,負荷の大きさ(1キログラムから6キログラム)に比例して連結板の変位量が増大するのに対し,摺動子50を取り付けて同様
の負荷を加えた場合には,比例的に生ずる摺動子の反力によって変位することはない旨の記載があり,乙31,63には,上記イ号物件に摺動子がある場合,負荷荷重の大きさに比例して増大する連結板の変位量が,摺動子がない場合のそれと比較して小さい旨の記載がある。しかしながら,乙24,25については,前記のとおり,摺動部と連結板との間若しくは摺動部とバレルの上面との間には,肉眼によっても判別し得る程度の間隙があるところからすると,少なくともその間隙が消失するまでは,負荷に比例して変位が生ずるはずであり(控訴人提出の乙31も変位が生ずることを示している。),更に負荷が大きなものになると,樹脂製の摺動子自体の変形も予想されるから,乙24,25は前記判断を覆すものとはいえない。また,乙31,63については,摺動子が取り付けられている場合とそうでない場合で,横荷重についてある程度変位の生じ方に差があることが看守されるものの,乙63については,当該横荷重の大きさは同証拠自体からは明らかでない上,いずれも限定的な範囲にとどまるものであって,これらの数値をもって,上記のような「案内レール」に相当する機能を果たすものと認めるには足りないといわざるを得ない。エしたがって,イ号物件は,案内レールと摺動子の両持ち状態でドライバーが案内される構成であるとする控訴人の主張は採用できず,専ら案内レールによって片持ちで案内されているものというべきであるから,構成要件Bを充足することになる。
(2) 争点(1)ア「構成要件B及びCの充足の有無」((イ)イ号物件の案内レールは,構成要件Bの「棒状の案内レール」,構成要件Cの「その案内レール」に当たるか)について
原判決「第3当裁判所の判断」の3に記載のとおりであるから,これを
引用する。
(3) 争点(1)ア「構成要件B及びCの充足の有無」((ウ)構成要件Bの「その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部」に一体となって突設される「ベース」を充足するか。)について 原判決「第3当裁判所の判断」の4に記載のとおりであるから,これを引用する。
(4) 争点(1)イ「構成要件Dの充足の有無」(構成要件Dの「案内子をドライバーに設け」を充足するか。)について 原判決「第3当裁判所の判断」の5に記載のとおりであるから,これを引用する。
(5) 争点(1)ウ「イ号物件は,本件考案と均等といえるか。」について ア構成要件Aの「スチールバンド」は,「スチール」の材質からなる「バンド」の意味と解されるところ,イ号物件においては,これが存在せず,「樹脂製」の「バンド」によって構成されているから,構成要件Aの「スチールバンド」を充足しない。したがって,イ号物件は,本件考案を文言侵害しないことは明らかである。
イ被控訴人は,上記の相違にかかわらず,イ号物件は,本件考案の請求の
範囲に記載された構成と均等なものとしてその技術的範囲に属する旨(均等論)主
張する。一般に,実用新案権侵害訴訟において,相手方が製造等をする製品(以下「対象製品等」という。)が考案の技術的範囲に属するか否かを判断するときは,願書に添付した明細書の請求の範囲の記載に基づいて,その技術的範囲を確定しなければならず(法26条,特許法70条1項),請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合には,これらの対象製品等は,考案(実用新案権)の技術的範囲に属するということはできない(したがって,権利侵害は存しない)のが原則である。しかし,(ア)出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の請求の範囲を記載することは極めて困難であり,相手方において,その構成の一部を出願後に明らかになった物質・技術等に置き換えることによって,実用新案権者による権利行使を容易に免れることができるとすれば,考案の保護・奨励を通じて産業の発達に寄与する等の法の目的に反するばかりでなく,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるのであって,このような点を考慮すると,考案の実質的価値は,第三者が請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び,第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当である。他方,(イ)考案の出願時において公知であった技術や,当業者が出願時にこれから容易に推考することができた技術について
は,そもそも何人も実用新案権を受けることができなかったはずのものであるから(法3条),対象製品等がそのようなものであれば,考案の技術的範囲に属するものということはできないし,(ウ)出願手続において出願人が請求の範囲から意識的に除外したなど,考案者の側においていったん考案の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとった等,権利者が後にこれと反する主張をすることが,禁反言の法理に照らし許されないといった事情が存在する場合には,当該考案について保護は与えられるべきではない。したがって,以上を総合すると,上記のように対象製品等に考案の構成要件と一部に異なる部分が存する場合であっても,
①当該部分が考案の本質的部分ではなく,
②当該部分を対象製品におけるものと置き換えても,考案の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,
③上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,
④対象製品が,考案の出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく,かつ⑤対象製品が考案の出願手続において登録請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,その対象商品等は,実用新案登録請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,考案の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁判所平成10年2月24日第3小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
ウそこで以下検討すると,まず①の本質的部分とは,登録請求の範囲のう
ちで,先行技術と対比して当該考案特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部
分,言い換えれば,当該部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該考案の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解される。そのような本質的特徴に係る構成要件を欠く場合には,もはや対象製品等は当該考案と技術的思想を異にするものであって,同一の技術という余地はないと考えられるからである。 しかるところ,本件明細書によれば,本件考案はピストンロッドを有しないいわゆるロッドレスシリンダについての考案であること,ロッドレスシリンダは,バレルに封入したピストンに一体に止着したドライバーの先端を,バレルの長手方向にピストンの軸線と平行に穿設したスリットにより外部に突出させ,2本のバンドのうちインナーバンドにて圧流体を密封するとともに,アウターバンドにてスリット内の防塵を行うように構成され,圧流体供給口よりバレル内に圧流体を供給することにより,ピストンと一体構成のドライバーがスリット内において左右に移動し,ドライバーによって被移送体を移送する構造になっていること,そして,スリットはドライバーの摺動抵抗を少なくするため,スリットの側壁とドライバーとの間に遊隙が設けられていること,そのため,このままの状態でシリンダを作動させ被移送体を移送させると,ドライバーに軸芯と直角方向の荷重が作用した場合には,その荷重方向によって右又は左(本件明細書第2図参照)に倒れ,スリットの側壁と2本のバンドに摺接しながら移動するので,摺動抵抗を増大させるばかりでなく,正確な直線移動を行い得なくなり,精密機械に使用することは適当でなくなる問題が生じること,さらに,シリンダは圧流体を供給することにより,バレルが押し広げられてスリットが広くなる傾向があり(この広がり幅は圧流体の圧力の強弱,ピストンのストロークの長短等の条件により種々変化する),そのため上記の欠点は更に助長されること,このような欠点を是正するために,従来は,ドライバーに案内子を取り付け,この案内子をガイドロッドによって案内する方法か,バレル上面の左右の稜角部にガイドレールを取り付け,この左右のガイドレールによってドライバーを案内する方法がとられてきた(本件明細書第4図参照)こと,しかし,上記の各従来技術によれば,ドライバーが傾倒する欠点は防止することができるが,ガイドロッドによって案内する方法は,ガイドロッドをシリンダと別個に設けなければならないため装置が大型になり,また,バレルの稜角部にガイドレールを設ける方法は,圧流体の供給によってスリットが広がることにより,ガイドレールのゲージも共に広がり,摺動抵抗が増大するおそれがあるという欠点を有していたこと,本件考案は,上記欠点を解決するために,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに,その側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に設け,その上にスリット幅方向の両外側に案内面をそれぞれ備えた棒状の案内レールを一体に突設して,片持ち状態でドライバーを案内することによって,装置を小型化しつつ,圧流体が供給されてピストンの軸芯に負荷が作用してもドライバーが左右に傾倒することなく,摺動抵抗を極めて小さくして,ドライバーを支障なく正確に案内できるようにしたもの(かつセンサスイッチ等の制御機構の取付けにも支
障ないようにしたもの)であること,以上の事実が認められる。 これによれば,本件考案の特徴は,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに,その側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に設け,その上にスリット幅方向の両外側に案内面をそれぞれ備えた棒状の案内レールを一体に突設して,片持ち状態でドライバーを案内することによって,装置を小型化しつつ,圧流体が供給されてピストンの軸芯に負荷が作用してもドライバーが左右に傾倒することなく,摺動抵抗を極めて小さくして,ドライバーを支障なく正確に案内できるようにしたことにあり,この構成が本質的部分であると認められる。他方,ロッドレスシリンダにおいて,スリットを密封し,バレル内に供給された圧流体を封じ込めるものとして,スチールバンドを用いることは,本件考案の本質的部分でないことも明らかである。
この点について,控訴人は,構成要件Aは,いわゆる「おいて書き」の
形式で記載され,本件考案の前提要件であるから,「スチールバンド」は,本件考
案の本質的部分である旨主張するところ,なるほど,「おいて書き」に記載される構成は,公知技術や上位概念を表示する場合の用語例として用いられることが多いことは否定できないが,本質的部分か否かは,その記載形式だけで決定されるものではなく,前記のとおり,従前技術と比較して,当該考案の特徴がどの部分に存在するかを実質的に考察して判断すべきものであるところ,上記のとおり,本件考案の本質的部分が,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁のうち,一方のみに案内レールを突設して,片持ち状態でドライバーを案内することにあると認められるから,控訴人の主張は採用できない。
エ次に,前記のとおり,構成要件Aの「スチールバンド」は,スリットを
密封し,バレル内に供給された圧流体を封じ込める作用効果を有しているところ,
この目的,作用効果を達成するためのバンドが鋼製でなければならないという技術的理由は見当たらず,イ号物件の樹脂製のベルトも,同様の目的,作用効果を有していることは,その構成から明らかであるから,
②の置換可能性を肯認することができる。 この点について,控訴人は,樹脂製バンドが,「スチールバンド」と比較して,種々の利点を有すると主張し,両者の作用効果が同一であることを否定するが,本件考案における「スチールバンド」が果たすべき役割は,上記のとおり,スリットを密封し,バレル内に供給された圧流体を封じ込めることにあり,かつそれでもって足りるから,樹脂製バンドが,この役割を果たすに際して,「スチールバンド」が有していない利点を持っているとしても,置換可能性が否定されるものではなく,控訴人の上記主張は,採用できない。
オ続いて,
③の要件について判断するに,証拠(甲3,乙3,5の1,
2)によれば,ロッドレスシリンダにおいて,スリットを密封するシールバンドと
してスチールバンド又は樹脂製バンドを用いることは,本件考案出願当時において公知であったと認められ,これに照らせば,イ号物件の製造開始時において,当業者は,「スチールバンド」を樹脂製バンドに置き換えることを容易に想到することができたというべきである。 カさらに,控訴人は,
④の要件に関し,イ号物件は,公知技術1,公知技術4及び公知技術5を併せれば,当業者が極めて容易に推考できた旨主張するが,この点に関する判断は後記(2)のとおりであり,上記の各公知技術によって,本件考案ひいてはイ号物件を容易に推考できたと認めることはできない。 キ最後に,控訴人は,本件出願時に樹脂製バンドは既に存在し,容易想到であり,上位概念である「シールバンド」という用語を用いるについて何の支障もなかったにもかかわらず,被控訴人は,出願に際し,あえて(誤って)樹脂製バンドを含まない「スチールバンド」という文言で請求の範囲を特定し,これを訂正することなく放置しているというのであるから,そもそも予見不可能な構成要件を備えた被疑侵害品の出現による不利益・不公平の防止を目的とする均等論を適用する余地はなく,不作為による意識的除外(⑤の要件)に該当するか,包袋禁反言の法理により,これに反する主張をすることは許されない旨主張する。
確かに,出願人は出願に際し,自由にその請求の範囲を確定し得るこ
と,また,請求の範囲が,先に述べたとおり,実用新案権の及ぶ範囲を第三者に対
して明示する根幹的な役割を果たすものであることからすれば,周辺技術を開発しようとする第三者に対し不合理な危険を強いる結果になることは,厳に慎まなければならない。しかしながら,本件考案の技術的特徴及びその課題と効果は先に判示したとおりであり,「シールバンド」が属する構成要件Aは公知であって,本件考
案において,その本質的部分ないし技術的特徴に関する限り,スリットを密封するシールバンドの材質が何らの技術的意味も有しないことは,当業者であれば,一見明らかにこれを知り得るものというべきである。そして,被控訴人が,本件考案の出願手続において,樹脂製バンドによる構成を意識的に除外したと認めるに足りる証拠はない(甲1によれば,本件明細書中の考案の詳細な説明にも,従来技術の説明においてロッドレスシリンダの一般的な構成を示すために1回だけ「スチールバンド」の用語が使用されているにすぎないことが認められる。他の案件に関しいかなる用語を使用していたかは,本件の判断を左右するに足りない。)。均等論の本質が,前記のとおりの点にあって,本質的でない文言の相違によって保護を否定される権利者と第三者との間の利害を法の趣旨及び正義,衡平の観点から調整を試みようとするものであることに鑑みると,本件のように構成要件を異にする部分が考案と実質的に同一の範囲に属することを第三者が一見明白に知り得るような場合には,これに考案の技術的範囲が及ぶことを予想することを強いる結果となったとしても,なお衡平に悖るとは言えないというべきである。 控訴人は,包袋禁反言の法理を援用するが,上記の法理は,例えば出願中の審査官からの登録拒絶通知又は無効理由通知に対応して,権利者がその権利の登録ないし存続を図るべく,権利の範囲を限定し,あるいはそれを明確ならしめる特定文言を付加したなどの事情が存する場合に,後日,これに反する主張をすることは,信義則によって禁じられるという内容であるところ,本件のように,より広義の用語を使用することができたにもかかわらず,過誤によって狭義の用語を用い,かつ広義の用語への訂正をしない(このような訂正が許されるか否かはともかく)というだけでは,均等の主張をすることが信義則に反するといえないというべきである。
クしたがって,樹脂製ベルトを用いたイ号物件は,「スチールバンド」を
構成要件Aの要素とする本件考案と均等であり,同考案の技術的範囲に属するもの
と解するのが相当である。
(6) 争点(2)「本件考案は,新規性(公知の擬制に係るものを含む。)ないし進歩性を欠くことから明らかに無効である(法3条1項,2項,3条の2)として,本件権利に基づく請求は権利濫用に当たるか」及び同(3)「本件考案は,平成10年法律第51号改正前の法5条4項,37条1項3号に違反し,無効か」について実用新案権に無効理由が存在することが明らかであるときは,その権利に基づく損害賠償等の請求は,特段の事情がない限り,権利の濫用に当たり,許されないものとされているが,本件では,前記「第2事案の概要」3(4)カないしク記載のとおり,無効審判について請求が成り立たない旨の審決がなされ,これが確定した。証拠(甲66,77)に前記前提事実及び弁論の全趣旨を併せ鑑みれば,本件において,本件考案の無効原因として主張されている事実及び証拠は同一であるものと認められる。したがって,本件において,控訴人の主張するような無効理由が存在することが明らかとは言えないし,実用新案権登録無効の審判の確定審決の登録があったときは,何人も,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することはできない(法41条,特許法167条)のであって,上記と異なる判断がされる可能性もない以上,その余の点について判断するまでもなく,これらの争点に係る控訴人の主張は理由がない。
(7) 争点(4)「損害」について
アイ号物件の販売代金総額
証拠(甲39)によれば,イ号物件の1本当たりの定価は,本体の平均価格が8万6870円,ストローク調整ユニットのそれが1万1823円,オートスイッチのそれが6340円とされており,その合計額は10万5033円であることが認められる。 しかしながら,一般に,実際の販売価格が定価を下回る状況はまれではなく,特にイ号物件は一般産業用機械であり,大半が特約店や代理店等を介して取引されているものと推測できるから,定価を相当程度下回る価格で販売しているものと考えられる。証拠(乙47)によれば,その平均販売単価は5万8477円であり,合計販売代金総額が18億2043万6000円であると記載され,この金額を上回る金額で販売されたことを裏付ける証拠は見当たらないことからすると,定価は名目上のものにすぎず,上記金額をもって控訴人の販売代金総額であると認めるのが相当である。 この点,被控訴人は,控訴人は販売代理店方式を採用して自社製品を市
場に流通させているところ,そのような流通方式を採る製造会社としては,仮に販売代理店等への販売価格が定価を下回っていたとしても,販売代理店の販売についても一定の管理を行い,利益を得ている以上,最終販売価格を基礎として実施料相当額を算定すべきである旨主張する。しかしながら,本件全証拠に照らしても,控訴人の採用する販売方式ないし販売代理店等との関係,利益分配率等についての実態を認めるに足りる証拠は見当たらないから,被控訴人の主張は採用の限りでない。 また,控訴人は,上記ストローク調整ユニット等の本体以外の価格は控除されるべきである旨主張するが,その点については,下記イ(寄与率)において考慮することとする。イ寄与率
前記のとおり,イ号物件は,ストローク調整ユニット(定価の平均価格
が1万1823円)及びオートスイッチ(同6340円)と組み合わされて販売さ
れているところ,ストローク調整ユニットやオートスイッチは,ロッドレスシリンダ本体に付属する部品にすぎず,その機能や購入の動機づけにおいては,これに完全に依存した部品と考えられることなどを考慮すると,本件考案のイ号物件に占める寄与率は,90パーセントをもって相当と判断する。 ウ実施料率 一般に,実施料率の算定に当たっては,権利者の実施状況,実施契約の状況,侵害された権利が基本的技術か又は改良的技術か,従前技術との距離,イ号物件において果たしている重要性,商業的実施における困難性,実施に際し更に投資を要するものであったか否か,当該権利の技術内容と程度,控訴人の規模,控訴人製品の単価数量等,当該事案における諸般の事情に加え,平成10年法律第51号による改正によって,現行の実用新案法29条3項の規定が新設された趣旨を総合的に考慮して,相当な割合を算定すべきである。
これを本件についてみるに,前記のとおり,本件権利は,ロッドレスシ
リンダの分野においては,小型化しつつ正確な直線運動を確保し得る,有用性の高
い考案を対象とするものであること,他方,製造については,特段複雑な工程を要するものではなく,利益率は高いと考えられること,控訴人は,空圧機器で世界シェア2割,国内シェア5割を占める大手の会社であり,被控訴人と比較して規模に格段の相違があること(甲40),控訴人において相当数の販売実績を有し,その販売数量が増加傾向にあること(乙47),それが,控訴人の上記シェアの拡大,維持に貢献していると考えられることが認められる。 一方,本件考案は,基本的に改良発明型の考案であり,先に認定したとおり,本件考案については,数次にわたる無効審決や訂正審決等が繰り返されてきたことからもうかがわれるように,当初出願の時点においては,必ずしもその技術的範囲に明らかでない部分があったこと,その意味で控訴人の実施態様ばかりを責めることはできないこと,イ号物件は,控訴人の技術と努力によって本件考案に更に改良を加えたものであることがうかがわれること等の事情が存在する。
そして,被控訴人は,本件権利を同業他社に販売金額の12パーセント
の実施料で実施することを許諾し,その実施料の支払を受けていたことが認められ
るものの,実施契約はこの1件のみで,販売数量も少ない上,本件実用新案権以外に意匠権等も併せてその使用を認める契約であること(甲41)が認められるから,同実施料率をただちに採用することはできないといわざるを得ない。 その他本件に顕れた上記の諸般の事情を総合考慮すれば,本件において相当な実施料率は,10パーセントと判断するのが相当である。 この点について,控訴人は,発明協会発行の「実施料率」における当該分野の最頻値や平均値を採用すべきである等と主張するが,上記のとおり,各事案における実施料率は,具体的な事情に基づいて個別的に判断されるべきものであり,いわゆる業界相場はその一要素として検討され得るにすぎないから,上記判断を覆すには足りず,控訴人の上記主張は,採用できない。
エよって,アの金額にイ及びウの各割合を乗じて算出した実施料相当損害
金は,1億6383万9240円となる。
オ弁護士費用被控訴人が,本訴の提起・追行を訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであり,これに本件事案の性質・内容・複雑さ等本件訴訟の経過及び認容額並びに本件実用新案権の存続期間内であれば差止請求が認容されるべきであったこと,その他本件に顕れた一切の事情を参酌すると,被告による侵害行為と相当因
果関係を有する弁護士費用としては,1000万円をもって相当と認める。
(8) 以上の次第で,被控訴人の本訴請求は,損害金1億7383万9240円並びにうち4560万円に対する履行期後であることの明らかな平成8年8月28日から,うち1億2823万9240円に対する同様の平成14年7月2日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。
2よって,原判決は相当であり,控訴人の控訴及び被控訴人の附帯控訴はいずれ
も理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第3部
裁判長
裁判官青山邦夫
裁判官田邊浩典
裁判官手嶋あさみ
出典: 平成15年(ネ)第277号 裁判所ウェブサイト掲載の判決文 →