📜 判決文全文
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主 文
1被告は,別紙被告製品目録記載の各製品を販売し,又は販売の申出をしては
ならない。
2被告は,前項記載の各製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,7116万8343円及びこれに対する令和元年5月
27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用のうち被告補助参加人の参加によって生じた費用は,これを4分し,その1を被告補助参加人の負担とし,その余は原告の負担とし,その余の訴訟費用は,これを4分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
6この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由(目次は省略)
第1 請求
1被告は,別紙被告製品目録記載の各製品を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。
2被告は,前項記載の各製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,4億0200万円及びこれに対する令和元年5月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1事案の要旨本件は,発明の名称を「シート貼付構造体及びシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法」とする特許第5547792号(以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である原告が,別紙被告製品目録記載のスマートフォン向け液晶保護フィルム(以下,同目録の「番号」欄記載の番号に対応して「被告製品1」などといい,これらを併せて「被告各製品」という。)は,本件特許権の請求項1及び請求項3に係る各発明の技術的範囲に属するとともに,本件特許権の請求項6に係る発明の方法の使用にのみ用いる物であり(以下,上記各請求項に係る発明を順に「本件特許発明1」,「本件特許発明3」,「本件特許発明6」といい,これらを併せて「本件各特許発明」という。),被告が,被告各製品を製造し,販売し,販売の申出をする行為は,本件特許権を侵害する行為であるか,又は本件特許権を侵害する行為であるとみなされると主張して,以下の請求をする事案である。
(1) 特許法100条1項に基づく,被告各製品の製造,販売,販売の申出の差止請求(請求の趣旨第1 項)。
(2) 特許法100条2項に基づく,被告各製品の廃棄請求(請求の趣旨第2項)。
(3) 特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づく,損害金4億0200万円(特許法102条3項による損害金4億円及び弁護士費用4020万円の合計額のうちの一部請求である。)及びこれに対する不法行為後の日である令和元年5月27日(訴状送達の日)から支払済みまでの民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(請求の趣旨第3項)。
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)(1) 当事者等
ア原告原告は,テレビゲーム機等周辺機器の製造及び販売を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ被告被告は,コンピュータ周辺機器の製造,販売及び輸出入等を目的とする株式会社であり,現在は,スマートフォンアクセサリー等の製造,販売を主として行うものである(弁論の全趣旨)。
ウ被告補助参加人被告補助参加人(以下単に「補助参加人」といい,被告と補助参加人を併せて「被告ら」という。)は,スマートフォン向け液晶保護シートを製造すること等を業とする株式会社である(丙24,弁論の全趣旨)。
(2) 本件特許
ア原告は,平成24年12月6日,本件特許の特許出願(特願2012-267651号。優先権主張番号:特願2012-169781号,優先日平成24年7月31日,優先権主張国日本国)をし,平成26年5月23日,本件特許権の設定登録(請求項の数6)を受けた(甲1,2。以下,本件特許に係る特許出願の願書に添付した明細書を,図面と合わせて「本件明細書」という。なお,本件明細書を含む明細書の段落番号を【0001】などと,図を【図1】などと記載することとする。)。
イ被告は,令和元年10月24日,本件特許の請求項1,3及び6について特許無効審判請求(無効2019-800076号)を行い(甲8の1),原告は,同年12月26日,請求項1及び請求項6に係る特許請求の範囲を訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2ないし5についても請求項1と同様に訂正する)訂正請求を行った(甲12。以下,この請求に係る訂正を「本件訂正」という。)。特許庁は,令和3年5月20日,本件訂正を認め,本件特許発明1,3及び6に係る上記無効審判の請求は成り立たない旨の審決をし,同審決は,同年7月2日,確定した(弁論の全趣旨)。
(3) 本件各特許発明に係る特許請求の範囲本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1(本件特許発明1),請求項3(本件特許発明3)及び請求項6(本件特許発明6)の各記載は,以下のとおりである(下線部は,本件訂正による訂正箇所である。)。
ア【請求項1】装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって,接着面を有する保護シートと,前記接着面を覆うと共に,分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと,前記第1剥離部及び前記第2剥離部それぞれから前記保護シートの外側に延びる延出部と,前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられる仮止部であって,前記第1剥離部の外側にはみ出ないように前記第1剥離部に重なって配置され,前記装置に貼り付け可能であって,前記保護シートを前記装置の表面に仮止めするための前記第1剥離部より小さい1箇所の仮止部と,を備えることを特徴とする保護シート貼付用のシート貼付構造体。
イ【請求項3】前記延出部は,前記第1剥離部から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と,前記第2剥離部から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と,を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の保護シート貼付用のシート貼付構造体。
ウ【請求項6】装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって接着面を有する保護シートと,前記接着面を覆うと共に分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと,前記第1剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と,前記第2剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と,前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられ且つ前記第1剥離部の外側にはみ出ないように前記第1剥離部に重なって配置されると共に前記装置に貼り付け可能な前記第1剥離部より小さい1箇所の仮止部と,を備える保護シート貼付用のシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法であって,前記仮止部を装置の表面に前記保護シートを仮止めする仮止工程と,前記仮止工程により前記保護シートを前記仮止部で仮止めした後に,前記第2剥離部を前記第2延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がして,前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第1剥離貼付工程と,前記第1剥離貼付工程の後に,前記仮止部が設けられる前記第1剥離部を前記第1延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がすと共に前記仮止部を前記装置の表面から剥がして,前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第2剥離貼付工程と,を備えるシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法。
(4) 本件各特許発明の構成要件本件各特許発明は,以下の構成要件に分説することができる(以下,各構成要件につき,頭書の記号に従って「構成要件A」などという。なお,本件各特許発明以外の発明及び考案の構成要件については「構成A」などという。)。
ア本件特許発明1(【請求項1】)A装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって,接着面を有する保護シートと,B前記接着面を覆うと共に,分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと,C前記第1剥離部及び前記第2剥離部それぞれから前記保護シートの外側に延びる延出部と,D前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられる仮止部であって,E前記第1剥離部の外側にはみ出ないように前記第1剥離部に重なって配置され,前記装置に貼り付け可能であって,前記保護シートを前記装置の表面に仮止めするための前記第1剥離部より小さい1箇所の仮止部と,を備えることを特徴とする保護シート貼付用のシート貼付構造体。
イ本件特許発明3(【請求項3】)F前記延出部は,前記第1剥離部から前記保護シートの外側に延びる
第1延出部と,前記第2剥離部から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と,を有するGことを特徴とする請求項1又は2に記載の保護シート貼付用のシート貼付構造体。
ウ本件特許発明6(【請求項6】)H装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって接着面を有する保護シートと,I前記接着面を覆うと共に分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと,J前記第1剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と,前記第2剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と,K前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられ且つ前記第1剥離部の外側にはみ出ないように前記第1剥離部に重なって配置されると共に前記装置に貼り付け可能な前記第1剥離部より小さい1箇所の仮止部と,Lを備える保護シート貼付用のシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法であって,M前記仮止部を装置の表面に前記保護シートを仮止めする仮止工程と,N前記仮止工程により前記保護シートを前記仮止部で仮止めした後に,前記第2剥離部を前記第2延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がして,前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第1剥離貼付工程と,O前記第1剥離貼付工程の後に,前記仮止部が設けられる前記第1剥離部を前記第1延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がすと共に前記仮止部を前記装置の表面から剥がして,前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第2剥離貼付工程と,Pを備えるシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法。
(5) 被告らの行為等
ア被告各製品の概要(ア) 被告各製品は,いずれも,スマートフォンの液晶画面表面に貼り付けるための液晶保護フィルムと,液晶保護フィルムをスマートフォンに対し位置ずれを低減して容易に貼り付けるためのはく離フィルム及びはく離フィルムからはみ出ないように設けられた「クイックスコープ」又は「貼付用キット」と称する部位(以下「クイックスコープ」との呼称に統一する。)などからなるシート貼付構造体である。すなわち,被告各製品には,図1及び図2のとおり,上部はく離フィルムと下部はく離フィルムが,液晶保護フィルムに重なるように,かつ分離ラインを挟んで上下に並ぶように配置されており,液晶保護フィルムの全周にわたって,上部はく離フィルムと下部はく離フィルムに余白部分(後に定義する「余白部分」と同義である。)が存在する。そして,下部はく離フィルムには,同フィルムからはみ出ないようにクイックスコープが1箇所配置されている。(甲3ないし7,弁論の全趣旨)なお,被告各製品は,それぞれ,対応製品であるスマートフォンの機種によってサイズが異なるほか,反射防止コーティングの有無や光沢の有無などの差異があるが,スマートフォンへの貼付けに関わる構成は,いずれもおおむね同じである。図1図2(イ) 被告製品609のパッケージ(甲3)には,その表紙に図3が記載されているほか,「ぴったり貼れる貼付けキット「クイックスコープ」」との項目の箇所に図4が記載されている(なお,クイックスコープは,「クイックスコープ」との記載部分から延びる直線で示された,図4の黒い横長の略長方形状の部位である。)。また,上記パッケージには,「液晶保護フィルムの貼り方」として,次の①ないし⑥の記載がある。「①液晶画面の汚れやゴミ,油分を添付のクロスできれいにふき取ってください。」。「②クイックスコープの「はく離フィルム」を剥がします。」。「③液晶画面に当て,貼り位置・上下を確認してください。」。「④フィルムの貼り位置が確定したらクイックスコープを上から強く押し固定します。」。「⑤クイックスコープを指2本で押さえながら上部の保護シートを剥がし,フィルムを液晶画面に貼り付けてください。」。「⑥フィルム下部も同様に貼り付けてください。」。図3図4
イ被告各製品の製造,販売の状況等(ア) 補助参加人は,被告各製品のうち,被告製品24,26,27,39,41ないし43,66ないし68,78ないし81,181ないし183,199,201,202,211,216,232,267,269ないし271,274,276,277,290,291,300,301及び314ないし316を除くものについて製造し,被告に販売した。
(イ) 被告は,被告各製品を,家電量販店やインターネット通販サイト等を介して,一般の顧客に販売した。被告各製品の販売開始月及び販売終了月は,それぞれ,別紙被告製品目録の「販売開始月」欄及び「販売終了月」欄記載のとおりである。なお,「販売終了月」欄が空欄のものについては,販売は終了していない。
ウ充足について争いのない構成要件被告各製品は,本件特許発明1及び3に係る構成要件A及びB並びに本件特許発明6に係る構成要件H及びIを充足する。
3争点(1) 被告各製品又はこれらを用いた液晶保護フィルムの貼付方法が本件各特許発明の技術的範囲に属するか等(争点1)
ア本件特許発明1に係る構成要件充足性(争点1-1)
イ本件特許発明3に係る構成要件充足性(争点1-2)
ウ本件特許発明6に係る構成要件充足性(争点1-3)
エ本件特許発明6に係る間接侵害の成否(争点1-4)(2) 無効の抗弁の成否(争点2)
ア特開2012-46713号公報(乙1,丙11。以下「乙1公報」という。)を主引用例とする進歩性欠如(争点2-1)
イ実用新案登録第3141815号公報(乙2,丙12。以下「乙2公報」という。)を主引用例とする進歩性欠如(争点2-2)
ウ韓国公開特許第10-2010-0107652号公報(丙6。以下「丙6公報」という。)を主引用例とする進歩性欠如(争点2-3)
エ国際公開第2012/074802号公報(丙8。以下「丙8公報」という。)を主引用例とする進歩性欠如(争点2-4)
オ特開2006-168344号公報(乙5,丙9。以下「丙9公報」という。)を主引用例とする進歩性欠如(争点2-5)
カ本件特許発明6に係る明確性違反(争点2-6)
キサポート要件違反又は実施可能要件違反(争点2-7)(3) 損害の発生及び額(争点3)(4) 差止請求及び廃棄請求の当否(争点4)
第3 争点に関する当事者の主張
ア構成要件C(ア) 「延出部」の解釈本件特許発明1の構成要件Cは「前記第1剥離部及び前記第2剥離部それぞれから前記保護シートの外側に延びる延出部と,」というものであるところ,この記載によれば,第1剥離部及び第2剥離部に相当する構成要素から保護シートに相当する構成要素の外側に延びた部位が「延出部」に相当することは明らかである。
(イ) 被告各製品との対比被告各製品は,第1剥離部に相当する下部はく離フィルム及び第2剥離部に相当する上部はく離フィルムから,保護シートに相当する保護フィルムの外側に延びる部位(以下「余白部分」という。)を備えている。そして,被告各製品では,液晶保護フィルムをスマートフォンの液晶画面の前面に対して位置合わせした後,余白部分を,水平方向成分を持たせるように引っ張ることによって,保護フィルムを貼付しつつ,上部はく離フィルム及び下部はく離フィルムを保護シートから剥離することになる。以上によれば,被告各製品が備える余白部分は,構成要件Cの「延出部」に当たる。
(ウ) 被告らの主張に対する反論a被告らは,本件明細書の記載(【0064】,【図1】,【図2】等)を根拠として,「延出部」とは,剥離部に保護フィルムの外縁より外側に設けられた部位であって,それを水平方向に引っ張ることによってシート貼付構造体1全体には水平方向の力を加えつつ,剥離部を保護シートの接着面から容易に剥離させることができる構造を有する部位であり,具体的には,各剥離部の切断可能ライン23寄りの部分において剥離部の端部から外側に延び,切断可能ライン23に略直交する方向に折り返され,かつ,各他方の剥離部から遠ざかる方向に延び,把持部(【0030】及び【0034】)を構成する等の構造を有するものであるなどと主張する。確かに,本件明細書には,「第1実施形態」に関して,被告らが主張するような構成の「延出部」が記載されており,このような構成によれば,「延出部」を引っ張ることによって剥離部を保護シートから剥がすことができると記載されている。しかし,この記載は,本件特許発明1の理解を助けるとともに,同発明を容易に実施できるようにするために,実施例として提示されたものにすぎない。本件特許発明1の特許請求の範囲の記載には,延出部を折り返した構成とするとの限定はないのであるから,その記載を離れて,「延出部」の構成を実施例に限定して解釈することは誤りである。また,被告らは,原告が本件特許の出願審査において平成25年10月23日に提出した意見書(丙5。以下「本件意見書」という。)及び平成26年4月21日に提出した本件特許に係る拒絶査定不服審判請求書(丙4。以下「本件拒絶査定不服審判請求書」という。)を根拠として,「延出部」は,剥離部の剥離に際し,シート貼付構造体1の面に対して水平方向に引っ張ることで剥離部を剥離させることができる構造を有していることが必須であると主張する。しかし,被告らが指摘する原告の上記の本件意見書等における主張は,本件特許発明1の構成要件Dの「仮止部」の作用・効果に関するものである。すなわち,本件特許発明1では,第1剥離部の仮止部が装置の表面に貼り付けられることにより,装置の表面及び仮止部が存在する第1剥離部の面に対して垂直方向に保護シートが仮止めされるから,水平方向に引っ張るような操作を加えて第1剥離部を剥離しても保護シートの位置ずれが起こりにくいという作用・効果が生じるということを主張したものである。そうすると,原告の上記主張によって第1剥離部を引っ張る方向が水平方向に限定されるものではないから,被告らの指摘は誤りである。したがって,被告らの上記主張はいずれも理由がない。b被告らは,本件明細書において,「第2実施形態」の「把持片215」が「延出部」と区別して記載されており,被告各製品は,はく離フィルムを剥がすために余白部分を把持してめくり上げるという垂直方向の動作が必要であるから,被告各製品の余白部分は,「把持片215」に相当するものであって,「延出部」に当たらないと主張する。しかし,上記「第2実施形態」は,本件特許発明1にいう「保護シートと反対側の面に設けられる仮止部」を有しないから(【0070】及び【0074】。なお,【0074】中に「仮止貼付部30」との記載があるが,誤記である。),本件特許発明1の実施形態ではない。また,「把持片」は,実施例中に示された構成要素に関する呼称にすぎず,本件明細書において,「延出部」は水平方向にのみ引っ張る操作を受ける構成要素を意味するとか,「把持片」はめくり上げる操作のみを受ける構成要素を意味するなどと定義されているものではない。したがって,被告らの上記主張は理由がない。c被告らは,被告各製品のはく離フィルム全体がコシのある分厚い材料からなるから,はく離フィルムを剥がすためには,その余白部分を把持してめくり上げるという垂直方向の動作が必要であるとして,被告各製品の余白部分は「延出部」には当たらないと主張する。しかし,水平方向への力を加えつつ,剥離部を保護シートの接着面から容易に剥離させることができる構造などのような,本件特許発明1を実施例の構成に限定する被告らの主張に理由がないことは,前記aのとおりである。仮に,被告らが指摘するような垂直方向の動作が必要であるとしても,はく離フィルムと液晶保護フィルムの接着面は水平方向に延びているのであるから,水平方向の成分を有するように引っ張るような動作を行うことも必須である。特に,ほこりが付着するのを防止するという観点からは,液晶保護フィルムを液晶画面から大きく離隔するような操作を行うことは禁忌であるから,実際には,被告各製品の余白部分をほとんど水平方向に引っ張って,はく離フィルムを剥がす操作が行われることになる。したがって,被告らの上記主張には理由がない。
(エ) 以上のとおり,被告各製品は,構成要件Cを充足する。
イ構成要件D及びE(ア) 「仮止部」の解釈本件特許発明1の構成要件Dは「前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられる仮止部であって,」というものであり,構成要件Eは「前記第1剥離部の外側にはみ出ないように前記第1剥離部に重なって配置され,前記装置に貼り付け可能であって,前記保護シートを前記装置の表面に仮止めするための前記第1剥離部より小さい1箇所の仮止部と,を備えることを特徴とする保護シート貼付用のシート貼付構造体。」というものである。これらの記載によれば,「仮止部」とは,第1剥離部に相当する構成要素において,保護シートに相当する構成要素の反対側の面に設けられ,
第1剥離部に相当する構成要素からはみ出さないように重なって配置され,装置に貼り付け可能であって,保護シートに相当する構成要素を装置の表面に仮止めする,前記第1剥離部に相当する構成要素より小さい1箇所の部材であることは明らかである。
(イ) 被告各製品との対比被告各製品には,第1剥離部に相当する下部はく離フィルムにおいて,保護シートに相当する液晶保護フィルムとは反対側の面に設けられ,下部はく離フィルムからはみ出ないように重ねて配置された,下部はく離フィルムよりも小さいクイックスコープが1箇所存在する。そして,上記クイックスコープは,スマートフォンの表面に貼付して液晶保護フィルムを仮止めするものである。そうすると,被告各製品のクイックスコープは,本件特許発明1における「仮止部」に相当する。
(ウ) 被告らの主張に対する反論a被告らは,本件明細書の記載(【0052】及び【0067】)並びに本件意見書及び本件拒絶査定不服審判請求書を根拠として,構成要件D及びEの「仮止部」並びに構成要件Eの「貼り付け可能」は,第1剥離部を保護シートから剥がす作業と,仮止部を装置の表面から剥がす作業とが1回の工程で行われる構成であることが必要であると解釈し,その解釈を前提として,被告各製品では,吸着部材を装置の表面から剥離させた後,はく離フィルムを液晶保護フィルムから剥離させるという2回の工程が必要となるから,クイックスコープは構成要件D及びEの「仮止部」に当たらず,構成要件Eの「貼り付け可能」との構成を備えないと主張する。被告らの上記主張にいう1回の工程とは,第1 剥離部が保護シートから剥がれる事象と,仮止部が装置の表面から剥がれる事象が同時に進行して,第1剥離部が保護シートから除去されることを意味するものと解される。しかし,本件明細書の【0052】及び【0053】には,第1剥離貼付工程の後に第2剥離貼付工程を経ることによって,保護シートを装置の表面に貼付するとともに,第1剥離部を剥離させるだけで装置に貼付した仮止貼付部を容易に除去することができる旨が記載されているにすぎない。そうすると,第1剥離部を保護シートから剥離する際に仮止部が先に装置から離れることがあったとしても,そのことを理由に「仮止部」及び「貼り付け可能」に当たらないということにはならない。また,本件明細書の【0067】に,「第1剥離部を剥離させるだけで,ゲーム機の表示面に貼付した仮止貼付部を剥離することができるため,仮止め用に使用した仮止貼付部を容易に除去することができる」と記載されているのは,第1剥離貼付工程後に,第1剥離部を保護シートから剥離して保護シートを表示面に貼り付ける作業工程の中で,仮止部に相当する仮止貼付部の除去が合わせて行われることをいうにすぎず,上記の記載は被告らの主張の裏付けとはならない。そして,原告は,本件拒絶査定不服審判請求書において,「第1剥離部を保護シートから剥離させるだけで,装置の表面に仮止した仮止部を,第1剥離部とともに容易に除去することができます」と記載し,本件明細書の上記記載と同様の主張をしており,第1剥離部が保護シートから剥がれる事象と,仮止部が装置の表面から剥がれる事象が,瞬時瞬時で同時に進行して,第1剥離部が保護シートから除去されるといった主張はしていない。このことからも,第1剥離部を保護シートから剥離する際に仮止部が先に装置から離れることがあったとしても,本件特許発明1の技術的範囲に含まれることは明らかである。したがって,被告らの上記主張は理由がない。b被告らは,被告各製品のクイックスコープが極めて厚いため,段差に起因する保護シート貼付け時の位置ずれを防止するという本件各特許発明の課題を解決することができないから,「仮止部」及び「貼り付け可能」の構成要件をいずれも充足しないと主張する。しかし,本件特許発明1では,仮止部を第1剥離部における保護シートとは反対側の面に設けるという発明であり,特許請求の範囲においては,仮止部の厚みについて何ら特定されていないから,クイックスコープの厚みは,技術的範囲の属否を左右するものではない。さらに,被告らが指摘する課題は,シート貼付構造体の厚さの分だけ段差が生じることによる問題であり(本件明細書【0005】),仮止部の厚さに起因するものではないから,この点においても,被告らの主張には理由がない。
(エ) 以上によれば,被告各製品は,構成要件D及びEを充足する。
ウ小括以上に加え,前記前提事実(5)ウによれば,被告各製品は本件特許発明1の構成要件を全て充足するから,同発明の技術的範囲に属する。なお,被告らは,原告が,発明の要旨認定において,明細書に明示的に記載されたものの中の主要な部分を特定し,特許請求の範囲の解釈をこれに限定しようとする解釈手法によっており,これを本件特許発明1にあてはめると,構成要件Aにいう「装置」は「ゲーム機」(本件明細書【0001】,【0002】等)に限られると主張するが,原告は,被告らが主張するような解釈手法を採用しておらず,構成要件Aの「装置」には携帯電話が含まれるから,被告らの上記主張は理由がない。
ア構成要件C(ア) 「延出部」の解釈a「延出部」という用語は,本件特許発明1に係る特許請求の範囲において具体的な定義がされておらず,社会一般に通用しているものでもないから,本件明細書及び出願経過書類の記載内容に照らして,その意味を確定すべきである。そして,「延出部」は剥離部を保護シートから剥がす操作に用いられる部位であると考えられるから,「延出部」の意味を解釈するに当たっては,操作に関する要素を考慮せざるを得ない。bこの点,本件明細書には,課題を解決するための手段として,「剥離部を」,「延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥が」す旨の記載があり(【0018】),発明の効果として,「保護シートの位置ずれを低減することができるシート貼付構造体及びシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法を提供することができる」との記載がある(【0019】)。したがって,「延出部」とは,引っ張ることによって剥離部を保護シートから剥がすという機能を果たすための構成であり,保護シートの位置ずれを生じにくくするという効果を奏するための構造ないし特性を有するものといえる。cまた,本件特許の出願審査において,原告は,一貫して,「延出部」は水平方向に引っ張る構造としており(丙4,5),本件特許発明1において,「延出部」は,剥離部の剥離に際し,シート貼付構造体1の面に対し,水平方向に引っ張ることで剥離部を剥離させることができる構造を有していることが必須であるといえる。dさらに,本件明細書の【図1】,【図2】,【0028】ないし【0036】及び【0064】には,前記b及びcの構成,構造ないし特性を有する「延出部」の具体的構造として,各剥離部の切断可能ライン寄りの部分において剥離部の端部から外側に延び,切断可能ラインに略直交する方向に折り返され,かつ,各他方の剥離部から遠ざかる方向に延び,把持部を構成するという構造が記載されている。そして,このような構造を有する「延出部」を水平方向に引っ張ることで剥離部を剥離させることができる機序については,本件明細書の【0064】において,延出部が切断可能ラインに近い部分で,折り返し傾斜ライン213,223に沿って切断可能ラインと交差する方向に折り返されているため,「延出部」を水平方向に引っ張れば,シート貼付構造体1全体には水平方向の力を加えつつ,折り返し傾斜ラインに沿っては剥離部に対する垂直方向の力が加わり,剥離部を容易に剥離させることができる旨が記載されている。e以上を総合すれば,「延出部」とは,剥離部に保護フィルムの外縁より外側に設けられた部位であって,それを水平方向に引っ張ることによってシート貼付構造体1全体には水平方向の力を加えつつ,剥離部を保護シートの接着面から容易に剥離させることができる構造を有する部位であり,具体的には,各剥離部の切断可能ライン寄りの部分において剥離部の端部から外側に延び,切断可能ラインに略直交する方向に折り返され,かつ,各他方の剥離部から遠ざかる方向に延び,把持部を構成する等の構造を有するものと解すべきである。fその結果,前記eの構造を備えていない限り,仮に,剥離部が保護フィルムの外縁より外部にはみ出た部分を有するとしても,当該部分は「延出部」に当たらないというべきである。この点に関し,本件明細書では,「第2実施形態」において,剥離シートをめくり上げて剥離させるために設けられた,保護シートの外縁よりも外部にはみ出た剥離部の外縁部分を「把持片215」と称している(【0070】,【0072】,【0074】及び【0075】参照)。また,本件明細書に「把持片」が「延出部」の機能を包摂していることを示す記載は一切ない。そうすると,本件明細書では,めくり上げることによって剥離部を剥離させる「把持片」と引っ張ることによって剥離部を剥離させる「延出部」とが明確に区別されていることは明らかである。
(イ) 被告各製品との対比被告各製品の余白部分は,はく離フィルムから折り返されることなく,液晶保護フィルムの外側に数ミリメートル程度はみ出ているという構造になっている。また,被告各製品のはく離フィルムは,全体がコシのある分厚いフィルム材料からなっている。そのため,余白部分の任意の一点を把持し,液晶保護フィルムの面に対して水平方向に引っ張っても,はく離フィルムと液晶保護フィルムの接着面に接着しているので,両フィルムの摩擦により,はく離フィルムを液晶保護フィルムから剥離させることができず,剥離のためには,余白部分を把持してはく離フィルムをめくりあげるという,液晶保護フィルムに対して垂直方向の動作が必要となる。そうすると,被告各製品の余白部分は,剥離部に保護フィルムの外縁より外側に設けられた部位であって,それを水平方向に引っ張ることによってシート貼付構造体1全体には水平方向の力を加えつつ,剥離部を保護シートの接着面から容易に剥離させることができる構造を有する部位とはいえないから,構成要件Cの「延出部」に当たらない。
(ウ) 原告の主張に対する反論これに対し,原告は,特許請求の範囲の記載を離れて特許発明を実施例に限定して解釈することは許されないと主張する。しかし,特許請求の範囲で使用されている用語が明確でなければ,実施例を含む発明の詳細な説明の記載を参酌することは何ら妨げられないところ,前記(ア)の被告らの解釈は,単に実施例に限定するものなどではなく,本件明細書から読み取ることのできる本件特許発明の技術的思想に基づいて「延出部」の具体的意味を探求したものであるから,原告の上記主張は理由がない。
(エ) したがって,被告各製品は,構成要件Cを充足しない。
イ構成要件D及びE(ア) 「仮止部」及び「貼り付け可能」の解釈a本件明細書の【0052】及び【0067】において,「仮止め用に使用した仮止貼付部30を第1剥離部21とともに容易に除去することができる」などと記載されていること,原告が,本件意見書及び本件拒絶査定不服審判請求書において,仮止部を第1剥離部とともに容易に除去できることが本件特許発明1の特徴であることを強調していること等に照らせば,本件特許発明1の「仮止部」の特徴は,保護シートと反対側の面に設けられるとともに,剥離部とともに容易に除去できるものである点にあるといえる。そうすると,本件特許発明1の効果を奏する上で,構成要件Cの「第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられている」との構成が作用するためには,構成要件D及びEの「仮止部」並びに構成要件Eの「貼り付け可能」について,剥離部を保護シートから剥離させるだけで剥離部とともに容易に除去できる状態,すなわち,
第1剥離部を保護シートから剥がす作業と仮止部を装置の表面から剥がす作業とが1回の工程で行われる構成であることが必要と解釈すべきである。b加えて,本件明細書の【0005】によれば,本件各特許発明が解決しようとする課題は,保護シートの一端側をゲーム機の表示面の外側の枠体部分に仮止シールで上方側から貼り付けるという従来の方法において,仮止シールにより仮止めした部分にシート貼付構造体の厚さの分だけ段差が生じ,これに起因して保護シート貼付時の位置ずれが生じるというものである。この位置ずれを回避するためには,仮止部の厚みを薄くし,保護フィルムと装置の表面との間の隙間を極力小さくする必要があるというべきである。
(イ) 被告各製品との対比a被告各製品のクイックスコープは,液晶保護フィルム側から押圧されることによって装置の表面に吸着する吸着部材であり,ある程度の厚みを有する弾性部材で構成されている。また,被告各製品のはく離フィルムの全体は,コシのある分厚いフィルム材料で構成されている。そのため,被告各製品においては,吸着部材が吸着された状態のままはく離フィルムを液晶保護フィルムから剥離させることは,およそ不可能であり,吸着部材を装置の表面から剥離させた後,はく離フィルムを液晶保護フィルムから剥離させるという2回の工程が必要となる。b加えて,被告各製品のクイックスコープの厚みは,液晶保護フィルムよりも極めて厚い。そのため,クイックスコープは,段差に起因する保護シート貼り付け時の位置ずれという前記(ア)bの課題を解決することができない。cしたがって,被告各製品のクイックスコープは,構成要件D及びEの「仮止部」に該当せず,かつ,構成要件Eの「貼り付け可能」の構成を有するものとは認められない。
(ウ) そうすると,被告各製品は,構成要件D及びEを充足しない。
(ウ) したがって,被告各製品を用いた液晶保護フィルムの貼付方法は,構成要件Jを充足する。
(イ) これに対し,被告らは,被告各製品の余白部分の任意の一点を把持し,液晶保護フィルムの面に対して水平方向に引っ張っても,はく離フィルムを液晶保護フィルムから剥がすことはできないとして,被告各製品を用いた液晶保護フィルムの貼付方法は構成要件Nの「引っ張る」という工程を含まないと主張する。しかし,構成要件Nでは,延出部を「引っ張る」方向が水平方向に特定されていないし,前記(ア)のとおり,被告各製品において,はく離フィルムを液晶保護フィルムから剥がすためには,余白部分をほぼ水平の方向に引っ張ることになる。したがって,「引っ張る」を充足しないとする被告らの上記主張は理由がない。
(ウ) 以上によれば,被告各製品を用いた液晶保護フィルムの貼付方法は,構成要件Nを充足する。
オ小括以上のとおり,被告各製品は,本件特許発明6の構成要件HないしPを充足する。したがって,被告各製品を用いた液晶保護フィルムの貼付方法は,本件特許発明6の技術的範囲に属する。
ア構成要件J(ア) 「分離ライン寄りの部分」について構成要件Jにおいて「第1延出部」及び「第2延出部」がそれぞれ「分離ライン寄りの部分」から保護シートの外側に延びると規定されているのは,「延出部」を水平方向に引っ張ることで剥離部を剥離させる構造とするため,分離ライン寄りに延出部を設けることにより,剥離部を分離ラインから切断して,剥離部を保護シートから容易に剥離させることが可能となるからである。しかるに,被告各製品の余白部分は,液晶保護フィルムの全周囲に存在するため,「分離ライン寄りの部分から」液晶保護フィルム「の外側に延びる」という構成を備えない。これに対し,原告は,被告各製品の余白部分についても「分離ライン寄り」に設けられていると主張するが,本件明細書において「分離ライン寄り」の解釈の手掛かりとなるものは図面しかなく,そこでは分離ライン付近の一部にのみ延出部が設けられている構成しか開示されていないから,全周に延出部が設けられている構成まで含むと解釈することは困難である。
(ウ) したがって,被告各製品を用いた液晶保護フィルムの貼付方法は,構成要件Jを充足しない。
(エ) したがって,被告各製品を用いた液晶保護フィルムの貼付方法は,構成要件Nを充足しない。
(ウ) 「引っ張る」について前記ウ(ウ)のとおり,被告各製品を用いた液晶保護フィルムの貼付方法は,「引っ張る」に当たらない。
(オ) したがって,被告各製品を用いた液晶保護フィルムの貼付方法は,構成要件Oを充足しない。
イこれに対し,被告らは,被告各製品の利用者は消費者であるとして,間接侵害の成立を否定する。しかし,同号の「業として」は,文言上,譲渡等の行為にかかっており,直接侵害が成立することを要件としていないから,上記主張は独自の見解を前提としたものであって,理由がない。
イこの点,原告は,特許法101条4号所定の間接侵害の成立には,直接侵害が成立することが要件とされていないとして,被告らの上記主張を争う。しかし,同条は,特許権の直接侵害の準備的・幇助的行為を規制したものであり,直接侵害を誘発する蓋然性のある行為について,特許権行使の実効性を確保するために侵害行為と同視する制度であるから,原告の上記主張には理由がない。
ア乙1公報の記載本件各特許発明の優先日である平成24年7月31日(以下「本件優先日」という。)より前の同年3月8日に頒布された刊行物である乙1公報には,以下の構成が開示されている(以下,乙1公報に記載された発明を「乙1発明」という。)。
(ア) 構成要件A,B,H,I関係乙1公報の【0002】ないし【0005】,【図20】及び【図21】には,本件特許発明1の構成要件A,本件特許発明6の構成要件Hに相当する「電子機器の表示画面に貼り付けられて表示画面を保護する基材シート10であって,貼付面を有する基材シート10」と本件特許発明1の構成要件B,本件特許発明6の構成要件Iに相当する「貼付面を覆うと共に,スリットを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シート30」が開示されている。
(イ) 構成要件D,L,M,P関係乙1公報の【0032】,【0033】,【図18】及び【図19】には,乙1発明の第7実施形態の構成が開示されており,これらによれば,本件特許発明1の構成要件Dに相当する「第1剥離部における基材シート10とは反対側の面に設けられる第2粘着層40」,本件特許発明6の構成要件L,Pに相当する「基材シート10貼付用のフィルムシートAを用いて基材シート10を貼付する貼付方法」,本件特許発明6の構成要件Mに相当する「第2粘着層40を表示画面に基材シート10を仮止めする仮止工程」が開示されている。
(ウ) 構成要件E,K,N関係乙1公報の【0032】,【0033】,【図18】及び【図19】には,本件特許発明1の構成要件Eと部分的な相当関係にある「第1剥離部の外側にはみ出ないように第1剥離部に重なって配置され,表示画面に貼り付け可能であって,基材シート10を表示画面に仮止めするための第2粘着層40,を備えることを特徴とする基材シート10貼付用のフィルムシートA」,本件特許発明6の構成要件Kと部分的な相当関係にある「第1剥離部における基材シート10とは反対側の面に設けられ且つ
第1剥離部の外側にはみ出ないように第1剥離部に重なって配置されると共に表示画面に貼り付け可能な第2粘着層40」,本件特許発明6の構成要件Nと部分的な相当関係にある「仮止工程により基材シート10を第2粘着層40で仮止めした後に,第2剥離部を基材シート10から剥がして,基材シート10を表示画面に貼付する第1剥離貼付工程」が開示されている。
(エ) 構成要件O関係乙1公報の【0033】には,本件特許発明6の構成要件Oとは異なる構成として,「第1剥離貼付工程の後に,第2粘着層40を表示画面から剥がし,その後に第2粘着層40が設けられる第1剥離部を基材シート10から剥がして,基材シート10を表示画面に貼付する第2剥離貼付工程」が開示されている。
(オ) 剥離シート30の構成関係加えて,乙1公報の【0034】ないし【0037】及び【図22】ないし【図27】には,第8実施形態ないし第11実施形態の構成として,剥離シート30が余白部分を有していることが開示されている。
(イ) 相違点a本件各特許発明の構成要件E及びKの「仮止部」が「第1剥離部より小さい1箇所の仮止部」であるのに対し,乙1発明の「第2粘着層40」が「第1剥離部」と同じ大きさである点で相違する。bなお,原告は,本件各特許発明は「分離ライン」を有するのに対し,乙1発明は引き裂くための切り込みを有するものの分離ラインを有しない点において,両者が相違すると主張する。しかし,乙1公報の【0038】には,第7実施形態において引き裂き方向性のあるシートを採用しないことが示唆されているから,「引き裂き方向性のあるシート」を採用する代わりに【図20】及び【図21】で開示されたスリットを採用することが乙1公報に記載されていることは明らかであり,原告の上記主張には理由がない。
ウ相違点に係る構成の容易想到性(ア) 保護フィルムの一部に仮止部を設けることは周知技術であり,仮止部の位置,数,大きさ等は設計事項であること本件優先日より前の平成12年10月24日に頒布された刊行物である特開2000-299722号公報(乙6。以下「乙6公報」という。),同日に頒布された刊行物である特開2000-298434号公報(乙7。以下「乙7公報」という。),平成11年9月24日に頒布された刊行物である実用新案登録第3061870号公報(乙8。以下「乙8公報」という。),平成12年6月16日に頒布された刊行物である実用新案登録第3069314号公報(乙9。以下「乙9公報」という。)及び平成18年8月10日に頒布された刊行物である特開2006-206782号公報(乙10。以下「乙10公報」といい,乙6公報ないし乙10公報に記載された発明及び考案を「乙6発明等」と総称する。)の各記載によれば,本件優先日当時において,小型携帯端末等の装置に保護フィルムを貼付するに際し,保護フィルムの一部に保護フィルムの位置決めのための仮止めの手段を設けることは,周知技術であったし,当該仮止めのための手段を保護フィルムより小さくし,保護フィルムの一箇所に設けることを含め,その位置,数,大きさ等は,当業者が任意に選択する設計事項であったと認められる。
(イ) 乙1発明の「クリーニング機能」は付加的な機能にすぎないこと乙1公報には「クリーニング機能」に関する記載があるが,そのような記載がされているのは,【0001】,【0033】及び【0038】の3箇所のみである。また,乙1公報の【0001】において,クリーニング機能を「追加可能」であると記載されていることからも明らかなように,「クリーニング機能」は飽くまでも付加的な機能であって,【図18】及び【図19】に示した第7実施形態には「クリーニング機能」が採用されているものの,「クリーニング機能」を追加しないことも可能であるし,他の実施形態において「クリーニング機能」を追加することも可能である。したがって,乙1公報には,クリーニング機能を追加せず,位置決め(仮付着)の機能のみを採用することも記載されているというべきである。また,「クリーニング機能」に係る課題は,事前にクロスで拭き取るなどの方法によっても解決可能であることが技術常識であったといえる。
(ウ) 設計事項との組合せにより容易に発明できたものであることa乙1公報の【図18】及び【図19】に示した第7実施形態において,「クリーニング機能」を省略し,位置決め(仮付着)の機能のみを採用する場合,第2粘着層40及び第2剥離シート50が剥離シートと同じ大きさである必要はなく,剥離シートよりも小さくても位置決め(仮付着)の機能を発揮することができる。したがって,第2粘着層40及び第2剥離シート50を剥離シートよりも小さくすることは設計事項にすぎない。b原告は,乙1発明の第2粘着層は,表示画面に対する仮止性を剥離シートに付与するために形成される部位であるから,剥離シートの一部だけに第2粘着層を設けるという思想は導入されようがないと主張する。しかし,前記(ア)のとおり,第2粘着層40及び第2剥離シート50を剥離シート30より小さくしても表示画面に対する仮止性を付与することは可能であるから,原告の上記主張は失当である。また,原告は,乙1発明は,第2粘着層を表示画面全体に貼り付けることにより表示画面からほこりや塵を取り除くことをその意義とした発明であると主張する。しかし,前記(イ)のとおり,「クリーニング機能」は飽くまで付加的な機能であるから,乙1発明は,表示画面からほこりや塵を取り除くことを意義とした発明でないことは明らかである。さらに,原告は,乙1発明は,スリット加工(背割れスリット)が施された従来のフィルムシートの問題点を解決するためにされたものであるから,乙1発明にスリット加工を施すことに当業者が想到することには阻害要因があると主張する。しかし,前記イ(イ)bのとおり,乙1 公報には,スリットを採用する実施例が記載されているというべきである。したがって,原告の上記主張にはいずれも理由がなく,乙1発明に設計事項を組み合わせることについて阻害要因はない。cそうすると,本件各特許発明は,乙1発明と設計事項の組合せにより,当業者が容易に発明できたものであって,進歩性が否定される。
(エ) 周知技術との組合せにより容易に発明できたものであることaシートを位置決めするための「仮止(仮付着)」という概念は,乙1公報のみならず,乙6公報ないし乙10公報にも記載されており,本件優先日における周知技術である。当該周知技術からも明らかなとおり,仮止めは,シートの裏面の全体で行う必要はなく,その一部で行えば十分であることは周知であって,当業者であれば,仮止めする位置を任意に選択できることは明らかである。特に,乙6公報ないし乙9公報に,仮止めをする位置がシートの中央部に設けられた構成が開示されるなどしていることに照らすと,シートの中央部の1箇所だけ仮止部を設けることは,本件優先日における周知技術であった。bまた,前記(ウ)bと同様の理由により,乙1発明に当該周知技術を組み合わせることに阻害要因はない。cしたがって,本件各特許発明は,乙1発明と周知技術の組合せによっても,当業者が容易に発明できたものであり,進歩性が否定される。
エ延出部に関する相違点が存在するとしても,当該相違点に係る構成は周知技術であること乙1発明と本件各特許発明との相違点は,前記イ(イ)のとおりであるが,被告らは,被告各製品のはく離フィルムの余白部分が本件特許発明1の「延出部」に該当しないと主張しており,乙1発明の第8ないし第11実施形態(乙1公報【0034】ないし【0037】及び【図22】ないし【図27】)に開示された剥離シート30の余白部分についても,その主張が当てはまる。そのため,被告らの上記主張を前提とすると,乙1発明と本件各特許発明とは,本件各特許発明の「延出部」に関しても相違点が存在することとなる。この点,本件優先日の前である平成20年5月22日に頒布された刊行物である乙2公報(以下,乙2公報に記載された考案を「乙2考案」という。),同年6月19日に頒布された刊行物である実用新案登録第3142562号公報(乙3,丙13。以下「乙3公報」という。),同月12日に頒布された刊行物である実用新案登録第3142328号公報(乙4,丙14。以下「乙4公報」という。)及び平成18月12日に頒布された刊行物である特開2006-168344号公報(乙5,丙9。丙9公報。以下,乙3公報,乙4公報及び丙9公報を「乙3公報等」と総称する。)の記載によれば,本件各特許発明の「延出部」の構成が開示されているから,当該構成は周知技術にすぎないと認められる。したがって,仮に,乙1公報に,「前記第1剥離部及び前記第2剥離部それぞれから前記保護シートの外側に延びる延出部」という本件特許発明1の構成要件C,「前記延出部は,前記第1剥離部から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と,前記第2剥離部から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と,を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の保護シート貼付用のシート貼付構造体」という本件特許発明3の構成要件F及び構成要件G,「前記第1剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と,前記第2剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第2延出部」という本件特許発明6の構成要件Jが,それぞれ記載されていないという点において,本件各特許発明と乙1発明との間に相違点が存在するとしても,本件各特許発明は,乙1発明に「延出部」の構成に関する上記周知技術及び前記ウ(ウ)の設計事項又は前記ウ(エ)の「仮止部」に関する周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に発明できたものであり,進歩性が否定される。
オ本件特許発明6に他の相違点が存在するとしても,進歩性が否定されること(ア) なお,原告の主張を前提とすれば,本件特許発明6と乙1発明には,以下の相違点も存在することになる。すなわち,①乙1発明には,「仮止工程により基材シート10を第2粘着層40で仮止めした後に,第2剥離部を基材シート10から剥がして,基材シート10を表示画面に貼付する第1剥離貼付工程」という本件特許発明6の構成要件Nと部分的な相当関係にある構成が開示されている一方,構成要件Nのうち第2延出部を引っ張ることについては開示されていない点で相違する。さらに,②本件特許発明6では,第1剥離部を第1延出部を引っ張ることにより保護シートから剥がすことと仮止部を装置の表面から剥がすことが同時に行われるのに対し,乙1発明では,第1延出部を引っ張ることについて開示されていない点で,両者は相違し,③乙1発明は,第2粘着層40を表示画面から剥がし,その後に第2粘着層40が設けられる第1剥離部を基材シート10から剥がす点で,本件特許発明6の構成要件Oとは相違する。
(イ) しかし,前記(ア)の相違点のうち①及び②の点については,乙2公報ないし乙4公報に開示されているとおり,本件優先日の時点における周知技術にすぎない。また,③の点については,乙1公報において,第2粘着層40を表示画面から剥がすことと第1剥離部を基材シート10から剥がすことを同時に行うという構成を採用することに阻害要因はなく,当業者であれば容易に行い得ることである。
カ小括したがって,本件各特許発明は,乙1発明及び仮止部の位置,数及び大きさに関する設計変更により又は周知技術の組合せにより,当業者が容易に発明をすることができたから,進歩性を有しない。
ア乙1公報の記載乙1発明は,電子機器の表面画面に貼り付けるフィルムシートに関するものであり,従来,スリット加工を利用して剥離シートを横断するハーフカットを施したものが存在したところ,これには,剥離シートの切りカスが発生し粘着面に付着したり,ハーフカットに沿って白濁ラインが生じたりするなどの課題があったことから,この課題を解決するため,剥離シートに強い引き裂き方向性のあるシートを用いることで,剥離シートに分離するためのハーフカットを施す必要をなくす構成としている。特に,乙1公報に記載された第7実施形態では,基材シートの裏面に形成された第1粘着層に仮付着した剥離シートの反対面上に,更に積層した
第2粘着層と,第2粘着層上に仮付着する第2剥離シートとを有するフィルムシートの構成としている。この構成においては,剥離シートと第2剥離シートには切り込みが形成されており,当該切り込みを利用することで,まず第2剥離シートを左右に切り裂き,左右順に第2粘着層を用いてフィルムシートを表示画面の全面に貼り付ける。その後,再びフィルムシートを表示画面から剥がし,切り込みを利用して剥離シートを左右に切り裂き,左右順に剥離シートを除去することでフィルムシートを表示画面の全面に貼り付けるようにしている。剥離シートだけでなく,第2剥離シートも用いて順にフィルムシートを表示画面の全面に貼り付ける構成としたのは,最終的にフィルムシートを表示画面に貼り付ける前に,第2粘着層を用いて表示画面上のほこりや塵を取り除き,クリーニング機能を発揮するためであるから,最終的に表示画面に貼り付けられることになる基材シート,剥離シート,第2粘着層及び第2剥離シートは少なくとも同じ大きさとする必要がある。以上から,乙1発明は,「基材シートの粘着面を覆うと共に,切り込み(ノッチ)が形成された剥離シート」と,「剥離シートの外側にはみ出ないように剥離シートに重なって配置され,表示画面に貼り付け可能であって,基材シートを表示画面の表面に仮止めするための剥離シートと同じ大きさの第2粘着層を備えることを特徴とするフィルムシート」を構成として有するものである。(以上,乙1公報の【0001】,【0004】,【0005】,【0007】,【0015】,【0032】,【0033】及び【図18】ないし【図21】)
イ本件特許発明1の進歩性(ア) 乙1発明と本件特許発明1との対比a乙1発明と本件特許発明1とを対比すると,乙1発明の基材シート,粘着面,剥離シート,表示画面,第2粘着層及びフィルムシートは,それぞれ,本件特許発明1の保護シート,接着面,剥離シート,装置,仮止部及びシート貼付構造体に相当する。したがって,両者は,①本件特許発明1の構成要件Bに関して,本件特許発明1は「分離ライン」を有するのに対し,乙1発明は切り裂くための切り込みは有するが,分離ラインは有さない点,②本件特許発明1の構成要件Eに関して,本件特許発明1の「仮止部」は,「第1剥離部より小さい1箇所の仮止部」であるのに対し,乙1発明の第2粘着層が剥離シートと同じ大きさである点において相違する。bこれに対し,被告らは,乙1公報において,【図20】及び【図21】に示される従来例に,フィルムシートAにおける粘着層20をカバーする剥離シート30にスリット加工が施されることにより,剥離シート30がスリットを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部に分離されている構成が記載されていることを根拠として,乙1発明は,本件特許発明1の構成要件Bに相当する「貼付面を覆うと共に,スリットを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シート30」との構成を有すると主張する。しかし,乙1公報に記載された第7実施形態に着目して把握される乙1発明は,スリット加工が施された従来のフィルムシートの課題を解決するためのものであるから,乙1発明にスリット加工を施すことは,乙1発明が否定した技術を乙1発明自身が採用することにほかならず,想定し得ないものである。したがって,乙1発明は,被告らが指摘する上記の構成を有するものとは認められない。
(イ) 相違点に係る構成が容易に想到できたものではないことa前記(ア)aの相違点①についてみるに,「分離ライン」の構成自体は周知であるといえる。しかし,前記(ア)bのとおり,乙1発明は,スリット加工が施された従来のフィルムシートの課題を解決するためにされたものである。そして,乙2公報ないし乙4公報及び丙9公報に記載されたフィルムシートに係る構成は,上記のフィルムシートと同じものであって,同様の課題を内在する。そうすると,スリット加工,すなわち「分離ライン」を有するフィルムシートに関する技術が周知であるとしても,これを乙1発明自身に適用して上記の相違点①に係る構成とすることについて,当業者が想到することはないというべきである。b(a) 次に,前記(ア)aの相違点②についてみるに,乙2公報に記載されたセパレータ付き保護フィルムは,本件特許発明1の構成要件Eにおける「仮止部」に対応する粘着層2a及び3aを有するが,これらは,本件特許発明1の「剥離部」に相当するセパレータを液晶画面に仮止するために裏面に形成された層であるから,それぞれセパレータ2及び3と同じ大きさである。したがって,乙2公報は,「第1剥離部より小さい1箇所の仮止部」の構成を開示するものではなく,これは乙3公報等も同様であるから,乙1発明に,乙2公報ないし乙5公報に開示された構成を適用することにより,相違点②に係る構成とすることはできない。そもそも,乙1発明における第2粘着層は,剥離シートに対し,装置の表示画面への仮止めの機能を付与するために形成される層であるから,剥離シートの一部だけに第2粘着層を設けるという思想は導入されようがない。しかも,乙1発明は,第2粘着層を表示画面全体に貼り付けることにより,装置の表示画面からほこりや塵を取り除くことをその意義とした発明であるから,相違点②に係る「第1剥離部より小さい1箇所の仮止部」という構成を採用すると,ほこりや塵の取り残しが生じることになり,上記の意義を没却する。よって,仮に相違点②に係る構成が周知であったとしても,乙1発明から相違点②に係る構成を当業者が想到することはできない。(b) 被告らは,乙6公報ないし乙10公報の記載を根拠に,本件優先日当時,小型携帯端末等の装置に保護フィルムを貼付するに際して保護フィルムの一部に保護フィルムの位置決めのための仮止めの手段を設けることは周知技術であったし,当該仮止めのための手段を保護フィルムより小さくして保護フィルムの一箇所に設けることを含め,その位置,数,大きさ等は当業者が任意に選択する設計事項であったと主張する。しかし,乙6公報ないし乙10公報は,いずれも,保護フィルムを液晶画面等に貼り付けるために保護フィルムの裏面全面に形成された粘着層を覆う剥離材の一部を,あらかじめ切断して仮止片とし,当該剥離材の一部である仮止片を先行して剥離した上で,保護フィルムを液晶画面等に仮止して貼り付け作業を行う構成を開示するものである。これに対し,本件特許発明1は,保護シートを液晶画面等に貼り付けるために保護シートの裏面に形成された粘着層を覆う剥離材(第1剥離部,第2剥離部)に,保護シートとは反対側の面に,第1剥離部に重なって仮止部を配置するものであって,乙6公報ないし乙10公報に開示された仮止片と,本件特許発明1の仮止手段とは,全く異なる構成である。しかも,乙6公報ないし乙10公報において,仮止手段の大きさを調整して保護フィルムより小さくする技術思想に関する記載はない。よって,本件特許発明1において,保護フィルムの一部に位置決めのための仮止手段を設けることが周知技術であるとは認められず,仮止手段の位置,数,大きさ等の選択が設計事項であるともいえない。(c) 被告らは,①乙1発明における「クリーニング機能」は付加的な機能であり,乙1発明の第7実施形態において「クリーニング機能」を追加しないことは可能であって,②「クリーニング機能」を省略した場合は第2剥離シート50を小さくしても位置決め機能を発揮することができ,小さくすることは設計事項であるから,本件特許発明1は乙1発明と設計事項の組合せにより容易想到であり,③
第2粘着層及び第2剥離シートを剥離シートよりも小さくしても仮止性を付与することは可能で,「クリーニング機能」は付加的な機能であるから,第2粘着層及び第2剥離シートを剥離シートよりも小さくすることに阻害要因はないと主張する。しかし,乙1公報が主引用例とされたのは,そこに記載された第7実施形態に第2粘着層40及び第2剥離シート50という本件特許発明1の「仮止部」と類似する構成が開示されているからである。そして,第7実施形態が,他の実施例と異なって,第2粘着層40と第2剥離シート50を備えるのは,乙1公報の【0033】の記載からもうかがわれるとおり,乙1発明に「クリーニング機能」を備えさせるためである。そうすると,第7実施形態から,「クリーニング機能」を除去することは想定し難い。なお,前記(b)のとおり,乙1発明のように剥離材の保護シートとは反対側の面に剥離材に重なって仮止手段を配置する構成において,仮止手段の大きさを調整して保護フィルムより小さくすることは,そもそも設計事項とはいえない。したがって,第7実施形態において「クリーニング機能」を追加しないことは不可能であるし,第2粘着層及び第2剥離シートを剥離シートよりも小さくすることは,設計事項ではなく,阻害要因があるから,被告らの上記①ないし③の主張はいずれも理由がない。
(ウ) 小括以上の次第で,乙1公報を主引用例とする本件特許発明1の進歩性欠如の主張には理由がない。
ア乙2公報の記載乙2公報は,乙2考案の構成に関して,以下のとおり開示している。
(ア) 構成要件AないしD,H,I関係乙2公報の【0007】ないし【0012】及び【図3】ないし【図9】には,本件特許発明1の構成要件A及び本件特許発明6の構成要件Hに相当する「液晶画面に貼り付けられて液晶画面を保護する保護フィルム1であって,粘着層1aを有する保護フィルム1」,本件特許発明1の構成要件B及び本件特許発明6の構成要件Iに相当する「粘着層1aを覆うと共に,分離部分4を介して並んで配置されるセパレータ2及びセパレータ3を有するセパレータ」を有する。また,乙2考案は,本件特許発明1の構成要件Cに相当する「セパレータ2及びセパレータ3それぞれから保護フィルム1の外側に延びるガイド2b,3b」,本件特許発明1の構成要件Dに相当する「セパレータ3における保護フィルム1とは反対側の面に設けられる粘着層3a」を有する。
(イ) 構成要件F,G関係乙2公報の【0007】ないし【0012】及び【図3】ないし【図9】には,本件特許発明3の構成要件F及びGに相当する「ガイド2b,3bは,セパレータ2から保護フィルム1の外側に延びるガイド2bと,セパレータ3から保護フィルム1の外側に延びるガイド3bと,を有することを特徴とする保護フィルム1貼付用の粘着セパレータ付き保護フィルム」を有する。
(ウ) 構成要件J,LないしN,P関係乙2公報の【0007】ないし【0012】及び【図3】ないし【図9】には,本件特許発明6の構成要件Jに相当する「セパレータ2における分離部分4寄りの部分から保護フィルム1の外側に延びるガイド2bと,セパレータ3における分離部分4寄りの部分から保護フィルム1の外側に延びるガイド3b」,本件特許発明6の構成要件L及びPに相当する「保護フィルム1貼付用の粘着セパレータ付き保護フィルムを用いて保護フィルム1を貼付する貼付方法」,本件特許発明6の構成要件Mに相当する「粘着層3aを液晶画面に保護フィルム1を仮止めする仮止工程」並びに本件特許発明6の構成要件Nに相当する「仮止工程により保護フィルム1を粘着層3aで仮止めした後に,セパレータ2をガイド2bを引っ張ることにより保護フィルム1から剥がして,保護フィルム1を液晶画面に貼付する第1剥離貼付工程」が開示されている。
(エ) 構成要件E,K関係乙2公報の【0010】ないし【0012】及び【図5】ないし【図9】には,本件特許発明1の構成要件Eと部分的な相当関係にある「セパレータ3に重なって配置され,液晶画面に貼り付け可能であって,保護フィルム1を液晶画面に仮止めするための粘着層3a,を備えることを特徴とする保護フィルム1貼付用の粘着セパレータ付き保護フィルム」が開示されるとともに,本件特許発明6の構成要件Kと部分的な相当関係にある「セパレータ3における保護フィルム1とは反対側の面に設けられ且つセパレータ3に重なって配置されると共に液晶画面に貼り付け可能な粘着層3a」が開示されている。
(オ) 構成要件O関係乙2公報の【0008】ないし【0012】及び【図5】ないし【図9】には,本件特許発明6の構成要件Oとは異なる構成として,「第1剥離貼付工程の後に,粘着層3aを液晶画面から剥がし,その後に粘着層3aが設けられるセパレータ3をガイド3bを引っ張ることにより保護フィルム1から剥がして,保護フィルム1を液晶画面に貼付する第2剥離貼付工程」が開示されている。
イ乙2考案と本件各特許発明との対比(ア) 一致点乙2考案と本件各特許発明とを対比すると,乙2考案は,本件特許発明1の構成要件AないしDにおいて同発明と一致し,かつ,本件特許発明6の構成要件HないしJ,LないしN及びPにおいて同発明と一致する。
(イ) 相違点乙2考案と本件各特許発明とを対比すると,同発明の構成要件E及びKに関し,①本件各特許発明では「仮止部」が「第1剥離部」の外側にはみ出ていないのに対し,乙2考案では粘着層3aがセパレータ3の外側にはみ出ている点,②本件各特許発明の「仮止部」は「第1剥離部」より小さいのに対し,乙2考案では粘着層3aがセパレータ3より大きい点において,両者は相違する。また,乙2考案と本件特許発明6とを対比すると,同発明の構成要件Oに関し,③同発明では第1剥離部を第1延出部を引っ張ることにより保護シートから剥がすことと仮止部を装置の表面から剥がすことが同時に行われるのに対し,乙2考案では,まず粘着層3aを液晶画面から剥がし,その後に粘着層3aが設けられるセパレータ3をガイド3bを引っ張ることにより保護フィルム1から剥がす点で,両者は相違する。
ウ相違点に係る構成の容易想到性(ア) 前記イ(イ)の相違点①についてみるに,乙2公報の【0003】ないし【0005】にも記載されているとおり,乙2考案の粘着層3aは,液晶画面のほこりの除去及び位置決めのためのものであるところ,粘着層3aにおけるセパレータ3の外側にはみ出した部分は,液晶画面のほこりの除去及び位置決めのために必要な部分ではないから,粘着層3aを液晶画面と同じサイズにして,粘着層3aがセパレータ3の外側にはみ出さない構成とすることは,当業者であれば容易に行い得る。加えて,乙1公報には,本件特許発明1の構成要件Eの一部に相当する「第1剥離部の外側にはみ出さないように第1剥離部に重なって配置され,表示画面に貼り付け可能であって,基材シート10を表示画面に仮止めするための第2粘着層40,を備えることを特徴とする基材シート10貼付用のフィルムシートA」が開示されており,かつ,本件特許発明6の構成要件Kの一部に相当する「第1剥離部における基材シート10とは反対側の面に設けられ且つ第1剥離部の外側にはみ出ないように第1剥離部に重なって配置されると共に表示画面に貼り付け可能な第2粘着層40」が開示されている。したがって,相違点①の構成は,乙2考案に乙1発明を組み合わせることによっても,当業者が容易に想到することができる。
(ウ) さらに,前記イ(イ)の相違点③については,粘着層3aを液晶画面から剥がすこととセパレータ3を保護フィルム1から剥がすことを同時に行うことに阻害要因はなく,当業者であれば容易に行い得ることである。
エ小括したがって,本件各特許発明は,乙2考案に乙1発明及び設計事項又は周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたから,進歩性を有しない。
ア乙2公報の記載乙2考案は,従来,液晶画面等を保護する目的で使用者が保護フィルムを貼り付ける場合,ほこりの除去と位置設定が困難であったという課題を解決するものであり,そのために請求項に係る構成を有するが,特に,保護フィルムの粘着層面に分割したセパレータを貼り,当該セパレータの裏面にも粘着層を設けることで,保護フィルムを貼り付ける際のほこりの除去という課題を解決し,また貼り付け位置の設定を容易に行うことができるという意義を有するものである。また,粘着材付きセパレータ2,3を保護フィルムより大きく作り,少なくとも一部を剥離のためのガイド2b,3bとして保護フィルム1の外側に張り出した形状として,容易に剥離できる形態としている。ここで,ガイドは粘着剤セパレータの一部であるから,その裏面には当然粘着剤の層が形成されていることになる。以上によれば,乙2考案は,保護フィルムより大きな粘着材付きセパレータにおける保護フィルムとの貼り合わせ部位をはみ出して当該貼り合わせ部位に重なって配置され,液晶画面に貼り付け可能であって,保護フィルムを液晶画面に仮止するための粘着材付きセパレータと同じ大きさの粘着層を備えることを特徴とするセパレータ付きフィルムという構成を有する。(以上,乙2公報の【0002】,【0004】,【0006】ないし【0008】,【0010】ないし【0012】,【図1】,【図2】,【図6】及び【図8】)
イ本件特許発明1の進歩性(ア) 乙2考案と本件特許発明1との対比乙2考案における保護フィルムより大きな粘着材付きセパレータにおける保護フィルムとの貼り合わせ部位,保護フィルム,液晶画面,粘着層及びセパレータ付きフィルムは,それぞれ,本件特許発明1における
第1剥離部,保護シート,装置,仮止部及びシート貼付構造体に相当する。したがって,本件特許発明1と乙2考案は,少なくとも,本件特許発明1の構成要件Eに関し,本件特許発明1の「仮止部」は,第1剥離部の外側にはみ出さないように配置され,しかも第1剥離部より小さいのに対し,乙2考案の粘着層は,上記貼り合わせ部位からはみ出し,かつ上記貼り合わせ部位より大きな構成となっている点において相違する。
(イ) 相違点に係る構成が容易に想到できたものではないことa本件特許発明1は,前記(ア)の相違点を有するため,第1実施形態における保護シート10の接着面10aが露出していない状態で仮止貼付部30を表示面81に位置決めして貼り付けることにより,保護シート10の位置決めを容易に行うことができるという意義を有する。特に,仮止部が第1剥離部よりはみ出さず,かつ小さいから,上記作用・効果が顕著に表れるものである。これに対し,乙2公報には,上記構成や,それによる作用・効果に関して何らの開示もなく,乙1公報にも,そのような構成や,それによる作用・効果に関する開示はない。そもそも,乙2考案は,粘着材付きセパレータの粘着層を液晶画面に一度貼り付けることにより,液晶画面上に付着したほこりを除去することをその意義とする考案である。上記粘着層を,粘着材付きセパレータにおける保護フィルムとの貼り合わせ部位より小さくすると,ほこりの除去漏れが生じることになるから,そのような構成を乙2考案に採用することはあり得ない。よって,乙2考案に乙1発明を組み合わせることにより,相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到できたものではない。b被告らは,乙2考案と本件特許発明1の相違点に関し,粘着層3aにおけるセパレータ3の外側にはみ出した部分は,液晶画面のほこり除去及び位置決めのために必要な部分ではないため,粘着層3aを液晶画面と同じサイズにして,粘着層3aがセパレータ3の外側にはみ出さない構成とすることは,当業者であれば容易に行い得ることであるなどと主張する。しかし,上記主張は,本件特許発明1を知得した上での後知恵の論理であり,そのような変更が容易であることの証拠はない。しかも,粘着層3aが液晶画面から張り出さない構成とするためには,保護フィルムより大きいとされる粘着材付きセパレータの裏面に,特殊な工程を介在させて粘着層を形成する必要が生じるから,当業者がそのような構成を想到するはずはない。したがって,被告らの上記主張は理由がない。
ア丙6公報の記載本件優先日の前である2010年10月6日に頒布された刊行物である丙6公報には,次の構成を有する発明(以下「丙6発明」という。)が記載されている。丙6a携帯電話等の個人携帯用情報端末の画面やキー入力部又は外部表面を保護する保護フィルムであって,底面に接着剤層12を有する保護フィルム11と,丙6b前記接着剤層22を覆うと共に,分離ラインを介して並んで配置される左右の仮粘着裏紙21A,21Bを有する仮粘着裏紙21と,丙6c前記左右の仮粘着裏紙21A,21Bから前記保護フィルム11のフレームの外に突出する取っ手24と,丙6d前記仮粘着裏紙21Aの底面に設けられた粘着剤層22であって,丙6e前記仮粘着裏紙21Aの底面に配置され,前記情報端末の表面に対して付け外しを繰り返すことが可能であって,前記保護フィルム11を前記情報端末の表面に粘着させるための前記粘着剤層22と,を備えることを特徴とする携帯用情報端末保護フィルム。丙6f前記取っ手24は,前記仮粘着裏紙21Aの端部から前記保護フィルム11のフレームの外に突出する取っ手24と,前記仮粘着裏紙21Bから前記保護フィルム11のフレームの外に突出する取っ手24と,を有する丙6gことを特徴とする上記aからeまでの構成を有する携帯用情報端末保護フィルム。丙6h携帯電話等の個人携帯端末の表面を保護するために付着する保護フィルムであって,底面に接着剤層12を有する保護フィルム11と,丙6i前記接着剤層22を覆うと共に分離ラインを介して並んで配置される左右の仮粘着裏紙21A,21Bを有する仮粘着裏紙21と,丙6j前記仮粘着裏紙21Aの端部から分離ラインの延長線上に沿って前記保護フィルム11のフレームの外に突出する取っ手24と,前記仮粘着裏紙21Bの端部から分離ラインの延長線上に沿って前記保護フィルム11のフレームの外に突出する取っ手24と,丙6k前記仮粘着裏紙21Aの底面に設けられて配置されると共に前記携帯端末の表面に対して貼り付け可能な前記粘着剤層22と,丙6lを備える携帯用情報端末保護フィルムを用いて保護フィルムを貼付する貼付方法であって,丙6m前記仮粘着裏紙21Aを前記携帯端末の表面に対して付け外しを繰り返しながら,前記保護フィルム11を粘着させる工程と,丙6n該工程の後に,前記仮粘着裏紙21Bを取っ手24を利用して前記保護フィルム11から剥ぎ取って,前記保護フィルム11を前記携帯端末の表面に貼り付ける工程と,丙6o該工程の後に,前記粘着剤層22が設けられる前記仮粘着裏紙21Aを取っ手24を利用して剥ぎ取ることにより前記保護フィルム11から剥がすことにより,前記粘着剤層22を前記携帯端末の表面から剥がして,前記保護フィルム11を前記携帯端末の表面に貼り付ける工程と,丙6pを備えるフィルム貼付構造体を用いて保護フィルムを貼付する貼付方法。
(イ) 相違点他方,本件各特許発明と丙6発明とを対比すると,本件各特許発明のでは「仮止部」が「第1剥離部」より小さいという構成を有するのに対し,丙6発明はそのような構成を有しない点で相違する。
(イ) 丙8公報を副引用例とする進歩性欠如についてa丙8公報の記載本件優先日の前である2012年6月7日に頒布された刊行物である丙8公報には,次の構成を有する発明が記載されている(以下,丙8公報に記載された発明のうち,争点2-3及び2-5において副引用発明とされるものを「丙8副引用発明」という。)。丙8a電子ディスプレイデバイスの表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護フィルム等の光学フィルムであって,接着剤層14を有する光学フィルム12と,丙8b前記接着剤層14を覆うと共に,分離ラインを介して並んで配置される第1の部分38a及び第2の部分38bを有する分割剥離ライナーと,丙8d前記第2の部分38bにおける前記光学フィルム12とは反対側の面に設けられる感圧接着剤(PSA)領域39であって,丙8e前記第2の部分38bの外側にはみ出ないように前記第2の部分38bに重なって配置され,前記電子ディスプレイパネルに貼り付け可能であって,前記光学フィルム12を前記電子ディスプレイパネルの表面に接着するための前記第2の部分38bより小さいPSA領域39と,を備えることを特徴とする光学フィルム貼付用のフィルム貼付構造体。丙8h電子ディスプレイデバイスの表面に貼り付けられて前記表面を保護する光学フィルムであって接着剤層14を有する光学フィルム12と,丙8i前記接着剤層14を覆うと共に分離ラインを介して並んで配置される第1の部分38a及び第2の部分38bを有する分割剥離ライナーと,丙8k前記第2の部分38bにおける前記光学フィルムとは反対側の面に設けられ且つ前記第2の部分38bの外側にはみ出ないように前記第2の部分38bに重なって配置されると共に前記装置に接着可能な前記第2の部分38bより小さい感圧接着剤(PSA)領域39と,丙8lを備える光学フィルム貼付用のフィルム貼付構造体を用いて光学フィルムを貼付する貼付方法であって,丙8m前記PSA領域39を電子ディスプレイパネルの表面に接着させ前記光学フィルムを配置する工程と,丙8n前記工程により前記光学フィルムを前記PSA領域39で配置した後に,前記第1の部分を前記光学フィルムから剥がして,前記光学フィルムを前記電子ディスプレイパネルの表面に配置する工程と,丙8o前記工程の後に,前記PSA領域39が設けられる前記
第2の部分を前記光学フィルムから剥がすと共に前記PSA領域39を前記電子ディスプレイデバイスの表面から剥がして,前記光学フィルムを前記電子ディスプレイデバイスの表面に配置する工程と,丙8pを備えるフォルム貼付構造体を用いて光学フィルムを貼付する貼付方法。b相違点に係る構成の容易想到性丙6発明と丙8副引用発明は,装置の画面に貼り付ける保護フィルムという点で技術分野が関連していること,丙6発明の課題は一回で正確に保護フィルムを情報端末に貼り付け可能にすることである一方,丙8副引用発明の課題は保護フィルムの位置合わせであり,両者の課題が共通していること,丙6発明と丙8副引用発明は,作用・効果においても共通していること,丙8副引用発明を丙6発明に適用することを阻害する事情はなく,位置決めという点において本件各特許発明に丙6発明及び丙8副引用発明と比較して有利な効果はないことに照らすと,当業者は,本件各特許発明の「仮止部」に相当するPSA領域39が剥離ライナー38bより小さいという構成を有する丙8副引用発明を丙6発明に組み合わせることにより,前記イ(イ)の相違点に係る構成を容易に想到できたというべきであるから,本件各特許発明は進歩性を欠く。
(ウ) 丙15公報を副引用例とする進歩性欠如についてa丙15公報の記載本件優先日より前の平成12年12月5日に頒布された刊行物である特開2000-335200号公報(丙15。以下「丙15公報」という。)には,次の構成を有する発明(以下「丙15発明」という。)が開示されている。丙15aシート状物の表面に接着されて前記シート状物をパネル化する透明樹脂版11であって,接着剤層12を有する透明樹脂板11と,丙15b前記接着剤層12を覆うと共に,切れ目14を介して並んで配置される剥離性シート材13から端辺縁部15を除いた部分と,端辺縁部15を有する剥離性シート材13と,丙15d前記剥離性シート材13から端辺縁部15を除いた部分における透明樹脂板11とは反対側の面に設けられる仮留め部であって,丙15e前記剥離性シート材13から端辺縁部15を除いた部分の外側にはみ出ないように前記剥離性シート材13から端辺縁部15を除いた部分に重なって配置され,前記シート状物に接着可能であって,透明樹脂板11を前記シート状物の表面に仮留めするための前記剥離性シート材13より小さい仮留め部16と,を備えることを特徴とする装飾用パネル。丙15hシート状物の表面に接着されて前記シート状物をパネル化する透明樹脂板11であって接着剤層12を有する透明樹脂板11と,丙15i前記接着剤層12を覆うと共に切れ目14を介して並んで配置される剥離性シート材13から端辺縁部15を除いた部分と,端辺縁部15を有する剥離性シート材13と,丙15k前記剥離性シート材13から端辺縁部15を除いた部分における透明樹脂板11とは反対側の面に設けられ且つ前記剥離性シート材13から端辺縁部15を除いた部分の外側にはみ出ないように前記剥離性シート材13から端辺縁部15を除いた部分に重なって配置されると共に前記シート状物に接着可能な前記剥離性シート材13から端辺縁部15を除いた部分より小さい仮留め部と,丙15lを備える装飾用パネルを用いてシート状物をパネル化する接着方法であって,丙15m前記仮留め部16をシート状物の表面に前記透明樹脂板11を仮留めする仮留工程と,丙15n前記仮留工程により前記透明樹脂板11を前記仮留め部16で仮留めした後に,前記端辺縁部15を前記透明樹脂板11から剥離させて,前記透明樹脂板11を前記シート状物の表面に接着させる第1接着工程と,丙15o前記第1接着工程の後に,前記仮留め部16が設けられる前記剥離性シート材13から端辺縁部15を除いた部分を前記透明樹脂板11から剥離させると共に前記仮留め部16を前記シート状物の表面から引き剥がして,前記透明樹脂板11を前記シート状物の表面に接着させる
第2接着工程と,丙15p備える装飾用パネルを用いてシート状物をパネル化する接着方法。b相違点に係る構成の容易想到性丙6発明の課題は,一回で正確に保護フィルムを情報端末に貼り付け可能にすることであるのに対し,丙15発明の課題は,シート状物を簡単な作業で常に体裁良くパネル化することであり,位置ずれの防止という点で両者の課題は共通している。また,丙6発明と丙15発明は,作用・効果においても共通している。他方,丙6発明に丙15発明を適用することによって丙6発明の作用・効果が害されるなど,丙15発明の適用を阻害する事情はないし,位置決めという点において本件各特許発明に丙6発明や丙15発明と比較して有利な効果はない。したがって,当業者は,本件各特許発明の「仮止部」に相当する仮留め部16が剥離性シート材13から端辺縁部15を除いた部分より小さいという構成を有する丙15発明を丙6発明に組み合わせることにより,前記イ(イ)の相違点に係る構成を容易に想到できたというべきであるから,本件各特許発明は進歩性を欠く。
(イ)aこの点,本件優先日より前の平成6年8月9日に頒布された刊行物である特開平6-220411号公報(丙7。以下「丙7公報」という。)には,次の構成を有する発明(以下「丙7発明」という。)が開示されている。丙7a接着面を有するシートと,丙7b前記接着面を覆うと共に,分割ラインを介して並んで配置される剥離紙7及び剥離紙7’を有する剥離紙と,丙7c前記剥離紙7及び前記剥離紙7’それぞれから前記シートの外側に延びる延出部分と,を備え,丙7f前記延出部分は,前記剥離紙7から前記シートの外側に延びる延出部分7aと,前記剥離紙7’から前記シートの外側に延びる延出部分7’aと,を有し,丙7v延出部分7aは,剥離紙7の接着体の接着面につながる面が外側に配置されるように折り返されると共に,分割ラインに交差する方向で且つ前記剥離紙7’から遠ざかる方向に延びており,丙7w延出部分7’aは,剥離紙7’の接着体の接着面につながる面が外側に配置されるように折り返されると共に,分割ラインに交差する方向で且つ前記剥離紙7から遠ざかる方向に延びている丙7xことを特徴とするシート貼付構造体。丙7h接着面を有するシートと,丙7i前記接着面を覆うと共に分割ラインを介して並んで配置される剥離紙7及び剥離紙7’を有する剥離紙と,丙7j前記剥離紙7における横側方の辺全体から前記シートの外側に延びる延出部分7aと,前記剥離紙7’における同一側方の辺全体から前記保護シートの外側に延びる延出部分7’aと,丙7lを備えるシート貼付用のシート貼付構造体を用いてシートを貼付する貼付方法であって,丙7n前記剥離紙7’を前記延出部分7’aを引っ張ることにより前記保護シートから剥がして,前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第1剥離貼付工程と,丙7o前記仮止部が設けられる前記剥離紙7を前記延出部分7aを引っ張ることにより前記保護シートから剥がす第2剥離貼付工程と,丙7pを備えるシート貼付構造体を用いてシートを貼付する貼付方法。b前記aの構成丙7v及び丙7wのとおり,丙7発明の延出部分7aは,剥離紙7の接着体の接着面が外側に配置されるように折り返されると共に,分割ラインに交差する方向で且つ延出部分7から遠ざかる方向に延びている。加えて,延出部分7’aは,剥離紙7の接着体の接着面が外側に配置されるように折り返されると共に,分割ラインに交差する方向で且つ延出部分7’aから遠ざかる方向に延びている。そうすると,丙7発明は,前記(ア)の相違点①に相当する「延出部」の構成を開示するものといえる。そして,丙7発明の技術分野は,接着体一般の剥離紙であり,丙6発明の技術分野を含む技術を対象としているから,丙7公報は,本件特許発明1及び3の当業者が当然に参酌すべき文献であるといえる上,丙7発明と丙6発明は,主要な構成,課題,作用・機能を共通している。その一方で,丙7発明を丙6発明に適用することを阻害する事情はない。よって,当業者は,丙6発明に丙7発明の延出部分7a及び7’aを組み合わせることにより,前記(ア)の相違点①に係る構成を容易に想到することができたものである。c前記bのとおり,丙6発明に丙7発明の延出部分7a及び7’aを組み合わせることは,当業者にとって容易に想到することができたものである。そして,このような延出部分は,接着体の裏面と被接着物の表面とが接触している位置決めの状態のまま,剥離紙を延出部分の折返し方向に反転させながら滑らせて,剥離紙を接着面より徐々に剥し取るためのものであるから,延出部分を引っ張る方向は,接着体の面と水平方向となる。したがって,丙6発明と本件特許発明6との間に前記(ア)の相違点②及び③が存在するとしても,上記のような延出部を「保護シートの面に対して水平方向に引っ張る」という構成について,当業者は容易に想到することができたものである。
(ウ) よって,本件各特許発明は,「延出部」及び「引っ張る」に関する被告らの主張を前提にしても,当業者が丙6発明に丙7発明を組み合わせることにより容易に発明をすることができたものであって,進歩性を欠く。
オ原告の主張について原告は,丙6発明において,仮粘着裏紙21が透明である必要があると主張するが,仮粘着裏紙21が透明でなくとも,保護フィルム11の外周の端部を携帯用情報端末の画面のフレームに合わせるなどすれば,保護フィルム11を定位置に貼り付けることは可能であるから,誤りである。また,原告は,丙6発明の取っ手24の裏面にも粘着剤層22が形成されていると主張するが,丙6公報の【図4】のとおり,粘着剤層22は取っ手24の裏面には形成されておらず,その他,丙6公報に取っ手24の裏面に粘着剤層22が形成されていることを示す記載はなく,また,技術的にも取っ手24の裏面に粘着剤層を設ける意味はない。
カ小括以上の次第で,本件各特許発明は,丙6発明に設計事項,丙8副引用発明若しくは丙15発明を組み合わせ,又はこれらの組合せに加えて丙7発明を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を有しない。
ア丙6公報の記載丙6公報に記載された丙6発明は,本件各特許発明の構成要件C,E,J及びKに対応する次の構成を有する。丙6c’ 前記左右の仮粘着裏紙21A,21Bの前記保護フィルム11のフレーム外に突出する取っ手24と,丙6e’ 前記透明の仮粘着裏紙21Aの底面に配置され,前記情報端末の表面に対して付け外しを繰り返すことが可能であって,前記保護フィルム11を前記情報端末の表面に粘着させるための前記粘着剤層22と,を備えることを特徴とする携帯用情報端末保護フィルム。丙6j’ 前記仮粘着裏紙21Aの分離ラインの延長線上に沿って前記保護フィルム11のフレームの外に突出する取っ手24と,前記仮粘着裏紙21Bの分離ラインの延長線上に沿って前記保護フィルム11のフレーム外に突出する取っ手24と,丙6k’ 前記透明の仮粘着紙21Aの底面に設けられて配置されると共に前記携帯端末の表面に対して貼り付け可能な前記粘着剤層22と,
イ丙6発明と本件特許発明1との対比(ア) 本件特許発明1において,保護シートにおける接着面を覆う部分が剥離シートであり,剥離シートは分離ラインを介して並んで配置された第1剥離部と第2剥離部から構成されている。そして,第1剥離部から保護シートの外側に延びる部分が延出部となっている。これに対し,丙6発明の仮粘着裏紙21Aにおける保護フィルム11の接着剤層12を覆う部位が本件特許発明1における第1剥離部に,取っ手24が本件特許発明1における延出部にそれぞれ相当するところ,丙6公報の記載を踏まえると,取っ手24の裏面には粘着剤層22が形成されていると解されるから,丙6発明では,本件特許発明1の「第1剥離部」に相当する部位の外側にはみ出して,「仮止部」に相当する部位が設けられていることになる。したがって,本件特許発明1と丙6発明は,丙6発明の構成丙6e’及び丙6k’が,本件特許発明1の構成要件Eにおける「第1剥離部の外側にはみ出さないように前記第1剥離部に重なって配置され」た「仮止部」を有さないという点において,相違する。
(イ) また,前記(ア)のとおり,丙6発明の仮粘着裏紙21Aの底面には粘着剤層22が配置されているから,仮止部と第1剥離部は同じ大きさとなる。したがって,本件特許発明1と丙6発明は,丙6発明の構成丙6e’及び丙6k’が,本件特許発明1の構成要件Eにおける「第1剥離部より小さい」「仮止部」を有さないという点においても,相違する。
ウ相違点に係る構成が容易に想到できたものではないこと(ア) 丙6発明の仮粘着裏紙21A及び粘着剤層22は,本件特許発明1の「第1剥離部」及び「仮止部」にそれぞれ相当するものとされているところ,そもそも,粘着剤層22は,その全面が粘着剤の層であるため,最初から位置ずれなく貼り付ける必要があり,相当に手際よく貼り付けないとほこりが混入することは防ぎようがないから,本件特許発明1の「仮止部」に相当するということはできない。また,粘着剤層22は,仮粘着裏紙21に粘着性を持たせるために形成される粘着剤の層であるから,仮粘着裏紙21の一部だけに粘着剤層22を設けるという思想は導入されようがない。そうすると,第1剥離部より小さい仮止部に相当する技術が周知であったとしても,当業者が前記イ(イ)の相違点に係る構成を丙6発明から想到することはあり得ない。
(イ) また,丙6発明は,透明な仮粘着裏紙21の底面の粘着剤層22を携帯用情報端末の表面に付け外しを繰り返しながら表面に定位置をとると同時に,異質物を吸着除去して保護フィルムを貼り付けるときに清潔な面を取得することができ,内側に気泡が形成することなく清潔かつ鮮明に,優れた透明度を有するように保護フィルム11を携帯用情報端末の表面に貼り付けることができるという意義を有するものである。すなわち,丙6発明の仮粘着裏紙21は,保護フィルム11の接着剤層12を保護しつつ,粘着剤層22を携帯用情報端末の表面に付け外しを繰り返して保護フィルムを貼り付けるときの清潔な面を取得するのであるから,仮粘着裏紙21及びその粘着剤層22は,少なくとも保護フィルム11と同じ大きさである必要がある。もっとも,粘着剤層22と保護フィルム11を同じ大きさとするのみでは,保護フィルム11を正しく位置決めすることができないため,仮粘着裏紙21は透明とされている。この点,粘着剤層22を仮粘着裏紙21や保護フィルム11より小さくすると,保護フィルム11を貼り付ける領域に異質物の吸着除去漏れが生じることになるから,そのような改変は,丙6発明が有する上記の意義を没却することになる。しかも,本件特許発明1の構成要件Eでは,位置決めのために仮止部を透明にする必要はないのに対し,丙6発明では,仮粘着裏紙21を透明とすることにより位置決めのしやすさを確保しているのであるから,仮粘着裏紙21及びその粘着剤層22の構成を,本件特許発明1の構成要件Eに相当する構成に変更する必要性も認められない。以上によれば,丙6発明に前記イの相違点に係る構成を導入することはできないから,丙6発明に基づいて本件特許発明1の進歩性が否定されることはない。
エ本件特許発明3及び6の進歩性本件特許発明3は,本件特許発明1に従属するものであるから,本件特許発明1が丙6発明に基づいて進歩性を否定されない以上,本件特許発明3についても丙6発明に基づいて進歩性を否定されることはない。また,本件特許発明6は,本件特許発明1と丙6発明の相違点と同じ相違点を有するから,本件特許発明1が丙6発明に基づいて進歩性を否定されない以上,本件特許発明6についても丙6発明に基づいて進歩性が否定されることはない。
オ丙6発明に丙7発明を組み合わせることについて被告らは,丙6発明と本件各特許発明を対比した場合に「延出部」に係る相違点が認められるとしても,丙7発明を組み合わせることによって,当業者が当該相違点に係る構成を容易に想到することができた旨を主張する。しかし,丙6発明と本件各特許発明とを比較すると,本件特許発明1の構成要件E及び本件特許発明6の構成要件Kに関して,前記イのとおりの相違点が存在するところ,丙7発明は,それらの各相違点と同じ構成を有するものではなく,そのような構成に関する開示はない。したがって,当業者は,丙6発明に丙7発明を組み合わせても,上記相違点に係る本件各特許発明の構成に想到することはできないから,本件各特許発明の進歩性は否定されない。
(イ) これに対し,原告は,丙8公報の【図6】においてPSA領域39が4箇所に配置された構成が開示されていることを根拠として,丙8主引用発明は丙8k’の構成(「前記第1の部分における前記光学フィルムとは反対側の面に設けられ且つ前記第1の部分の外側にはみ出さないように前記第1の部分に重なって配置されると共に前記装置に接着可能な分離ラインの近くと分離ラインから離れた位置の4箇所の感圧接着剤(PSA)領域39と,」)を有すると主張する。しかし,上記【図6】は実施態様を示したものにすぎず,丙8公報の特許請求の範囲や明細書において丙8主引用発明のPSA領域39の個数や位置を限定する記載は存在しないから,原告が主張するような4箇所の配置に限定されるものではない。むしろ,フィルム部材を他の部材に貼付するに際して仮止めをするという思想ないしそのための具体的手段を設けることは周知であるから,当業者であれば,貼付対象の大きさや構造,貼付する光学フィルムの重量,仮止部の生産コストや材質,接着剤の特性,それらによる作業性等に応じ,PSA領域の個数や位置,大きさを適宜調整するのは当然といえる。丙8主引用発明が対象とするディスプレイにおいても,PSA領域を1箇所とする構成を採用することは可能であると考えられる。以上によれば,丙8主引用発明においては,丙8公報の特許請求の範囲や明細書の記載によっても,技術常識によっても,PSA領域39の個数や位置,大きさが限定されていると解することはできず,丙8主引用発明は,1以上で任意の数のPSA領域を有する構成を開示したものと解すべきである。したがって,構成丙8k’にかかる原告の主張のうち,「4箇所の感圧接着剤(PSA)領域39」とあるのは,「1以上任意の数の感圧接着剤(PSA)領域39」とすべきである。
イ丙8主引用発明と本件各特許発明との対比(ア) 一致点丙8主引用発明と本件特許発明1とを対比すると,本件特許発明1の構成要件A,B,D及びEと丙8主引用発明の構成丙8a,b,d及びeが一致する。また,丙8主引用発明と本件特許発明6とを対比すると,本件特許発明6の構成要件H,I,KないしPと丙8主引用発明の構成丙8h,i,kないしpが一致する。
(イ) 相違点a本件各特許発明は,以下の点において丙8主引用発明と相違する。(a) 本件特許発明1に関する相違点本件特許発明1が構成要件Cに係る「前記第1剥離部及び前記第2剥離部それぞれから前記保護シートの外側に延びる延出部と,」を有するのに対し,丙8主引用発明は「延出部」を有しない点。(b) 本件特許発明3に関する相違点本件特許発明3が構成要件Fに係る「前記第1剥離部から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と,前記第2剥離部から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と,」を有するのに対し,丙8主引用発明は「延出部」を有しない点。(c) 本件特許発明6に関する相違点①本件特許発明6が構成要件Jに係る「前記第1剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と,前記第2剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と,」を有するのに対し,丙8主引用発明は「第1の延出部」及び「第2の延出部」を有しない点,②本件特許発明6の第1剥離貼付工程では「前記第2延出部を引っ張ることにより」第2剥離部が剥がされるのに対し(構成要件N),丙8主引用発明ではそのような限定がない点(構成丙8n),③本件特許発明6の第2剥離貼付工程では「前記第1延出部を引っ張ることにより」第1剥離部が剥がされるのに対し(構成要件O),丙8主引用発明ではそのような限定がない点(構成丙8o)。b以上に関し,原告は,本件特許発明1の第1剥離部が備える仮止部は1箇所であるのに対し,第1剥離部に相当する丙8主引用発明の第1の部分38aはPSA領域39を分離ラインの近くと分離ラインから離れた位置の4箇所である点においても相違すると主張する。しかし,前記ア(イ)のとおり,丙8主引用発明は「1以上の任意の数の感圧接着剤(PSA)領域39」を開示したものであるから,原告が主張する上記の点は,本件特許発明1と丙8主引用発明の相違点とはならない。
(イ) 丙9公報を副引用例とする進歩性欠如についてa本件特許発明1と丙8主引用発明の相違点に係る構成の容易想到性丙8主引用発明と本件特許発明1との相違点は,前記イ(イ)a(a)のとおりである。この点,丙8主引用発明と丙9発明は,いずれもディスプレイパネルへの保護フィルム貼付に関する発明であり,技術分野が関連する。また,丙8主引用発明の課題,作用・効果は,丙9発明と共通する。そのため,分割剥離ライナーを剥がしやすくするために丙8主引用発明に丙9発明の第一の突起部343及び第二の突起部344を組み合わせることは,当業者にとって容易に想到できることである。したがって,上記相違点に係る構成は当業者が容易に想到できたものである。b本件特許発明3と丙8主引用発明の相違点に係る構成の容易想到性丙8主引用発明と本件特許発明3との相違点は前記イ(イ)a(b)のとおりであり,「延出部」を有するか否かが相違するという点において,相違点は本件特許発明1と同様である。したがって,前記aと同様の理由により,丙8主引用発明に丙9発明の第一の突起部343及び第二の突起部344を組み合わせて,本件特許発明3に容易に想到できた。そのため,上記相違点に係る構成は当業者が容易に想到できたものである。c本件特許発明6と丙8主引用発明の相違点に係る構成の容易想到性本件特許発明3と丙8主引用発明には前記イ(イ)a(c)の相違点①ないし③が存在する。上記相違点①に関し,構成要件Jは,本件特許発明3の延出部に,延出部が分離ライン寄りの部分に設けられるという構成を付加するものであるところ,当業者は,丙8主引用発明に丙9発明の第一の突起部343及び第二の突起部344を容易に組み合わせることができるが,丙9発明の第二の突起部344は分離ラインに沿った部分に設けられているのに対し,第一の突起部343は,分離ラインから離れた位置に設けられている。しかし,丙9公報の【0025】において,「当該所定位置は,使用者が手で第一の突起部343を持って,第一の離型膜341を便利に剥がせることができれば,どこでも良い」とされているし,本件特許の特許出願にかかる拒絶理由通知書(丙1)及び拒絶査定(丙3)においても,「当業者が適宜なしうる」事項と認定されている。そうすると,丙9発明の第一の突起部343及び第二の突起部344を離型膜のどこに設けるかは,当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎないと認められ,丙9発明の第一の突起部343が分離ラインから離れた位置に設けられていることを考慮してもなお,当業者は相違点にかかる構成に容易に想到することができる。したがって,丙8主引用発明に,各分離ライン寄りの部分から延びる第1延出部及び第2延出部を設けることは,丙9発明との組合せ及び設計事項により,当業者が容易に想到できたものである。また,相違点②及び③についても,当業者にとって,丙8主引用発明において各分割分離ライナーを剥離する際に,丙9発明及び設計事項により付加した延出部を「引っ張ることにより」剥離することは,容易に想到できたものである。d小括したがって,本件各特許発明は,丙8主引用発明と丙9発明を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠く。
(ウ) 丙7公報を副引用例とする進歩性欠如についてa本件特許発明1及び3との対比並びに相違点に係る構成の容易想到性丙8主引用発明と本件特許発明1及び3との相違点は前記イ(イ)a(a)及び(b)のとおりである。この点,丙7発明の技術分野は接着物の接着一般であるのに対し,丙8主引用発明の技術分野を含むより広い技術を対象としており,両者は関連する。また,丙8主引用発明の課題,作用・機能は保護フィルムの位置合わせを容易にすること等であるのに対し,丙7発明の課題,作用・機能は,ズレ防止や正確な位置への接着等であり,両者は共通する。よって,丙8主引用発明に丙7発明の延出部分7a及び7’aを組み合わせることによって,当業者は容易に上記相違点に係る本件特許発明1及び3の構成に想到することができる。b本件特許発明6との対比並びに相違点に係る構成の容易想到性本件特許発明6と丙8主引用発明の相違点は,前記イ(イ)a(c)の相違点①ないし③のとおりである。この点,上記相違点①については,丙7発明の延出部分7a及び7’aは,剥離紙7及び剥離紙7’それぞれにおける横側方の辺全体からシートの外側に延びており,「分離ライン寄り」の意味いかんにかかわらず,分離ライン寄りに設けられているといえるから,本件特許発明1と同じ理由により,丙8主引用発明と丙7発明の組合せにより,容易に想到できたものである。また,上記相違点②及び③については,前記(ア)dと同様の理由から,当業者にとって,丙8主引用発明において各分割分離ライナーを剥離する際に,丙7発明により付加した延出部分を「引っ張ることにより」剥離することは,容易に想到できたものである。c以上より,本件各特許発明は,丙8主引用発明と丙7発明との組合せにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠く。
エ小括以上の次第で,本件各特許発明は,丙8主引用発明に周知技術,設計事項,丙9発明又は丙7発明を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を有しない。
ア丙8公報の記載丙8公報に記載された丙8主引用発明は,本件各特許発明の構成要件A,E,H及びKに対応する次の構成を有する。丙8a’82インチに適する少なくとも17インチ以上の大型電子ディスプレイデバイスの表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護フィルム等の光学フィルムであって,接着剤層14を有する光学フィルム12と,丙8e’前記第1の部分の外側にはみ出さないように前記第1の部分に重なって配置され,前記82インチに適する少なくとも17インチ以上の大型ディスプレイパネルに貼り付け可能であって,前記光学フィルムを前記82インチに適する少なくとも17インチ以上の大型電子ディスプレイパネルの表面に接着するための分離ラインの近くと分離ラインから離れた位置の4箇所のPSA領域39と,を備えることを特徴とする光学フィルムの貼付用のフィルム貼付構造体。丙8h’82インチに適する少なくとも17インチ以上の大型電子ディスプレイデバイスの表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護フィルム等の光学フィルムであって,接着剤層14を有する光学フィルム12と,丙8k’前記第1の部分における前記光学フィルムとは反対側の面に設けられ且つ前記第1の部分の外側にはみ出さないように前記
第1の部分に重なって配置されると共に前記装置に接着可能な分離ラインの近くと分離ラインから離れた位置の4箇所の感圧接着剤(PSA)領域39と,
イ丙8主引用発明と本件各特許発明との対比丙8主引用発明と本件各特許発明とを対比すると,被告らが主張する相違点である,①本件特許発明1の構成要件Cが「前記第1剥離部及び第2剥離部それぞれから前記保護シートの外側に延びる延出部と,」を有するのに対し,丙8主引用発明の構成は「延出部」を有しないという点に加え,②本件特許発明1の第1剥離部が備える仮止部は1箇所であるのに対し,第1剥離部に相当する丙8主引用発明の第1の部分38aは,PSA領域39を分離ラインの近くと分離ラインから離れた位置に4箇所備える点においても相違する。
ウ本件各特許発明の進歩性(ア) 相違点に係る構成が容易に想到できたものではないことa相違点①についてまず,前記イの相違点①についてみると,本件特許発明1に係るシート貼付構造体は,相当程度小型の装置のディスプレイを主要な貼付対象に想定した部材であるから,非常に幅広いユーザーが存在するところ,本件特許発明の「延出部」は,作業に不慣れな携帯機器の一般ユーザーであっても,小型ディスプレイへの貼り付け作業を容易に行うことができるという意義を有する部位である。一方,丙8主引用発明のフィルム貼付構造体は,82インチに適する少なくとも17インチ以上の大型電子ディスプレイデバイスが貼付対象とされているものであり,丙8主引用発明が前提とする貼付け作業の技術水準は相当高く,極めて技術に習熟した作業者が行うことが前提とされた技術である。そのような技術者が行う作業のために,一般消費者が作業を行うことができるようにするための「延出部」を設けることなど全く不要である。また,丙8主引用発明のフィルム貼付構造体は,貼付対象に合わせてかなり大きいことから,たわみやすい。このため,剥離ライナー38と光学フィルム32を分離するために,丙8公報の図7bに示されるように第1の部分38aを持ち上げれば容易に両者は分離するから,光学フィルム32と剥離ライナー38の積層部を持ち上げる作業を行うことで,光学フィルム32の貼付作業が進行する。このように,作業性の観点からしても,丙8主引用発明のフィルム貼付構造体に延出部を設ける必要がない。さらに,丙8主引用発明におけるフィルム貼付構造体を大型ディスプレイパネルに貼付する作業は,丙8公報の図4bに示されているように,両手でそれぞれ光学基材16と剥離ライナー18を把持して実施されるところ,この貼付作業において,仮に,本件特許発明の延出部のように,貼付作業に利用できるように把持部を形成する場合,最低でも10cm程度の大きさが必要になる。しかし,PSA領域39を用いて貼り付けを行う図7aないし図7dに示された実施例では,光学フィルムをディスプレイパネルに配置した際に,光学フィルムの部分の縁部と,覆われるディスプレイパネルの縁部との間に,約3mm未満のギャップを有することが許容され得るとされているところ,10cmもの把持するための余剰部が剥離ライナー38に設けられていては,到底そのような精度の作業を行うことはできない。したがって,丙8主引用発明において延出部に相当する部位を形成することは,丙8主引用発明自身の成立を阻害するものである。以上のとおり,本件特許発明と丙8主引用発明が対象としているディスプレイとでは使用者が異なり,丙8主引用発明のフィルム貼付構造体に「延出部」を設ける必要はなく,また,丙8主引用発明において相違点①に係る「延出部」を設けることは丙8主引用発明自身の成立を阻害するものである。よって,他に延出部に相当する部位を有するディスプレイ用のフィルム貼付構造体が存在したとしても,当業者が丙8主引用発明を基に相違点①に係る本件各特許発明の構成を容易に想到することはできない。b相違点②について次に,前記イの相違点②についてみると,本件各特許発明では,仮止部が1箇所であるから,ディスプレイに対するシート貼付構造他の位置決めに当たって,当該1箇所の仮止部に注意を絞ることにより,容易で,しわを寄せることなく正確に位置決めをすることができる。また,仮止部のディスプレイからの除去作業も簡単であるという利点がある。一方,丙8主引用発明のPSA領域39は4箇所もあるため,4箇所とも正確に位置決めする必要があり,1箇所でも適正な位置から外れるとしわが生じた状態で位置が保持されてしまう。そして,4箇所も止めたのでは,本件特許発明の仮止部がその機能として意図しているような位置の微調整が不可能となり,正確な位置決めができないので,PSA領域39は本件各特許発明の仮止部に相当するとはいえない。仮にPSA領域39が仮止部に相当するとしても,82インチに適する少なくとも17インチ以上の大型電子ディスプレイデバイスの表面に貼り付けられて,その表面を保護する保護フィルムという,極めて大型の光学フィルムであるから,PSA領域がわずか1箇所であると,光学フィルム32を位置ずれなく正確な位置に保持することができないという問題が生じることは明らかである。このため,丙8主引用発明のシート貼付構造体では,PSA領域39を分離ラインの近くと分離ラインから離れた位置の4箇所備える構成とされている。すなわち,丙8主引用発明のシート貼付構造体において,仮止部を一つとすることは不可能であり,仮に1箇所の仮止部を有するディスプレイ用のフィルム貼付構造体が存在したとしても,当業者が丙8主引用発明を基に相違点②に係る構成を容易に想到することはできない。
ア丙9公報の記載丙9公報に記載された丙9発明の構成は,次のとおりである。丙9aスクリーンに貼り付けられて前記スクリーンを保護する保護シートであって,粘着層32を有するスクリーン保護膜30と,丙9b前記粘着層32を覆うと共に,スリット35を介して並んで配置される第二の離型膜342及び第一の離型膜341を有する離型膜と,丙9c前記第二の離型膜342及び前記第一の離型膜341それぞれから前記スクリーン保護膜30の外側に延びる突出部と,丙9eを備えることを特徴とするスクリーン保護シート貼付用のシート貼付構造体。丙9f前記突出部は,前記第二の離型膜342から前記スクリーン保護膜の外側に延びる第二の突起部344と,前記第一の離型膜341から前記スクリーン保護膜30の外側に延びる第一の突起部343と,を有する丙9gことを特徴とする丙9aないし丙9eに記載のスクリーン保護シート貼付用のシート貼付構造体。丙9hスクリーンに貼り付けられて前記スクリーンを保護するスクリーン保護シートであって粘着層32を有するスクリーン保護膜30と,丙9i前記粘着層を覆うと共にスリット35を介して並んで配置される第二の離型膜342及び第一の離型膜341を有する離型膜と,丙9j前記第二の離型膜342における前記スリット35近くの部分から前記スクリーン保護膜30の外側に延びる第二の突起部344と,前記第一の離型膜341から前記スクリーン保護膜30の外側に延びる第一の突起部343と,丙9lを備える保護シート貼付用のシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法であって,丙9n前記第一の離型膜341を第一の突起部343を引っ張ることにより前記スクリーン保護膜30から剥がして,前記スクリーン保護膜30を前記スクリーンに貼付する第1剥離貼付工程と,丙9o前記第1剥離貼付工程の後に,前記第二の離型膜342を前記第二の突起部344を引っ張ることにより前記スクリーン保護膜30から剥がして,前記スクリーン保護膜30を前記スクリーンに貼付する第2剥離貼付工程と,丙9pを備えるシート貼付構造体を用いてスクリーン保護シートを貼付する貼付方法。
イ丙9発明と本件各特許発明との対比(ア) 一致点丙9発明と本件特許発明1とを対比すると,構成要件AないしC及びEに関し,両者は「装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって,接着面を有する保護シートと,前記接着面を覆うと共に,分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと,前記第1剥離部及び前記第2剥離部それぞれから前記保護シートの外側に延びる延出部と,を備えることを特徴とするスクリーン保護シート貼付用のシート貼付構造体」である点において一致する。次に,丙9発明と本件特許発明3とを対比すると,本件特許発明3は,本件特許発明1の構成に,延出部として第1剥離部から延びるものと第2剥離部から延びるものの2つが設けられるという構成要件Fを付加するものである。この点,丙9発明では,突起部として,第1剥離部に相当する第一の離型膜から延びるものと,第2剥離部に相当する第二の離型膜から延びるものの2つが設けられている。したがって,丙9発明と本件特許発明3は,付加された構成要件Fの点において一致する。さらに,丙9発明と本件特許発明6とを対比すると,構成要件HないしJ,L及びNないしPに関し,両者は,「装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって接着面を有する保護シートと,前記接着面を覆うと共に分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと,前記第1剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と,前記第2剥離部から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と,を備える保護シート貼付用のシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法であって,前記第2剥離部を前記第2延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がして,前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第1剥離貼付工程と,前記第1剥離貼付工程の後に,前記第1剥離部を前記第1延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がして,前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第2剥離貼付工程と,を備えるシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法」である点において一致する。
(イ) 相違点a本件特許発明1について本件特許発明1の構成と丙9発明の構成については,次の点が相違する。すなわち,①本件特許発明1の構成要件Dが「前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられる仮止部であって,」を有するのに対し,丙9発明は「仮止部」を有さない点,②本件特許発明1の構成要件Eが「前記第1剥離部の外側にはみ出ないように前記第1剥離部に重なって配置され,前記装置に貼り付け可能であって,前記保護シートを前記装置の表面に仮止めするための前記第1剥離部よりも小さい1箇所の仮止部」を有するのに対し,丙9発明は「仮止部」を有さない点で,両者は相違する。b本件特許発明6について丙9発明と本件特許発明6とを対比すると,①本件特許発明6では,構成要件Jとして,第2剥離部「における前記分離ライン寄りの部分」から延びる第2延出部を有するのに対し,丙9発明の第一の突起部343はスリット35寄りの部分以外から延びている点,②本件特許発明6では,構成要件Kとして,「前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられ且つ前記第1剥離部の外側にはみ出ないように前記第1剥離部に重なって配置されると共に前記装置に貼り付け可能な仮止部」を有するのに対し,丙9発明は「仮止部」を有さない点,③本件特許発明6が,構成要件Mとして,「前記仮止部を装置の表面に前記保護シートを仮止めする仮止工程」を有するのに対し,丙9発明は,「仮止部」を有さないため,仮止工程を有さない点,④本件特許発明6では,構成要件Nとして,「前記仮止工程により前記保護シートを前記仮止部で仮止めした後に,」第1剥離貼付工程が行われるのに対し,丙9発明は,「仮止部」を有さないため,仮止工程を有さない点,⑤本件特許発明6では,構成要件Oとして,第2剥離貼付工程において,第1剥離部を前記保護シートから剥がすと共に前記仮止部を前記装置の表面から剥がすのに対し,丙9発明は,「仮止部」を有さないため,仮止部を剥がす工程を有さない点で,両者は相違する。c被告らの主張を前提とする場合の「延出部」に関する相違点被告らの主張を前提とすれば,丙9発明の第一の突起部343及び第二の突起部344は折り返されておらず,また,各他方の剥離部から遠ざかる方向に延び,把持部を構成する構造を有さない点も,本件各特許発明の構成と相違することとなる。
ウ相違点に関する進歩性の有無(ア) 丙8副引用発明及び「仮止部」に関する設計事項を組み合わせることによる進歩性欠如a本件特許発明1と丙9発明の相違点に係る構成の容易想到性丙9発明と丙8副引用発明は,いずれもディスプレイパネルへの保護フィルム貼付に関する発明であり,技術分野が関連する。また,丙9発明の課題,作用・効果は,大きなサイズのスクリーン保護膜にしわと泡が生じる欠点を克服することであるのに対し,丙8副引用発明の課題,作用・効果は,大型光学フィルムの取扱いを容易にし,泡を最小限にすること及び保護フィルムの位置合わせであって,両者の課題,作用・効果は共通する。したがって,丙9発明に,丙8副引用発明のPSA領域39を組み合わせることにより,当業者は,前記イ(イ)aの相違点①及び②に係る本件特許発明1の構成に容易に想到できる。b本件特許発明3と丙9発明の相違点に係る構成の容易想到性本件特許発明3と丙9発明との間には,前記イ(イ)aと同様の相違点が存在するものであるから,前記aと同様の理由により,丙9発明に,丙8副引用発明のPSA領域39を組み合わせることにより,当業者は,本件特許発明3の構成に容易に想到できる。c本件特許発明6と丙9発明の相違点について進歩性が欠けること(a) 相違点①について第一の突起部343及び第二の突起部344を離型膜のどこに設けるかは,当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。したがって,相違点①については,丙9発明及び丙8副引用発明に基づき,当業者が容易に想到できた。(b) 上記相違点②ないし⑤について前記aのとおり,丙9発明に,丙8副引用発明のPSA領域39を組み合わせることは,当業者が容易に想到できた。加えて,丙8公報が開示する剥離貼付の方法は,仮止部を設けた保護シートの剥離貼付方法として,当業者が通常行う内容のものにすぎないから,丙9発明に丙8副引用発明のPSA領域39を配置した上で,これらの剥離貼付方法を加えることについても,当業者が容易に想到できた。以上によれば,上記相違点①ないし⑤に係る本件特許発明6の構成は,いずれも,丙9発明に丙8副引用発明を組み合わせることにより,当業者が容易に想到できたものである。
エ小括以上の次第で,本件各特許発明は,丙9発明と丙8副引用発明の組合せにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を有しない。
ア丙9発明と本件特許発明1との対比(ア) 本件特許発明1と丙9発明は,①本件特許発明1の構成要件Dが,「前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられる仮止部であって,」を有するのに対し,丙9発明は仮止部を有しない点,②本件特許発明1の構成要件Eが「前記第1剥離部の外側にはみ出ないように前記第1剥離部に重なって配置され,前記装置に貼り付け可能であって,前記保護シートを前記装置の表面に仮止めするための前記第1剥離部よりも小さい1箇所の仮止部」を有するのに対し,丙9発明は仮止部を有しない点で相違する。
(イ) しかるところ,丙9発明は,7インチ以上の電子デバイスのスクリーンに対し一般消費者が自分でスクリーン保護シートを良好に貼り付けることを可能とするものである。これに対し,丙8副引用発明は,少なくとも17インチ以上の大型ディスプレイパネルに対し,極めて技術に習熟した作業者が保護フィルムの貼り付けをすることを想定したものである。このように,丙9発明と丙8副引用発明は,貼り付けの対象とするディスプレイパネルも,貼り付け作業を行う実施主体も,全く異なる。そうすると,丙9発明に丙8副引用発明を適用することはそもそもできない。また,丙8副引用発明には,仮止部に相当するPSA領域39が4箇所に設けられているが,本件特許発明1の仮止部は1箇所である。この点,丙8副引用発明は,大型ディスプレイパネルへの保護フィルムに適するものであるところ,このような巨大な保護フィルムにおいてはPSA領域が1箇所であると,作業の過程で位置ずれなく正確な位置に保持することができないから,PSA領域39を4箇所備えているものである。そうすると,PSA領域を1箇所に変更することは,巨大な保護フィルムの良好な貼り付けという丙8副引用発明の意義を没却することになるから,当業者がそのような変更を想到することはできない。したがって,仮に丙8副引用発明を丙9発明に適用できたとしても,上記の相違点に係る構成を想到することはできないから,本件特許発明1の進歩性は否定されない。
(ウ) 以上によれば,丙8副引用発明に被告らが主張するような「延出部」に関する構成が開示されていたとしても,本件各特許発明の進歩性が否定されることはないので,丙8公報を副引用例とする被告らの主張には理由がない。
イ丙9発明と本件特許発明3との対比本件特許発明3は,本件特許発明1に従属する発明である。そして,前記アのとおり,本件特許発明1は丙9発明を根拠として進歩性を否定されないから,本件特許発明3も同様に進歩性を否定されない。
ア本件特許の特許請求の範囲の請求項6には,「前記第1剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第1延出部と,前記第2剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる第2延出部と,」との記載がある。しかし,当業者は,上記文言から,具体的にどの部分を起点にして延出部を保護シートの外側に延ばせばよいのか,また,どの部分を起点にすれば本件特許発明6との抵触を回避することができるのかを知ることができず,かつ,本件明細書の記載及び図面並びに技術常識を考慮しても明確にはならない。
イ原告は,「分離ライン寄りの部分」の意味について,分離ラインを容易に切断することができるようにするためであり,そのような意義を有する構成であるなどとした上で,定量的な特定は不可能であるとし,少なくとも分離ライン寄りの部分であれば分離が困難になるような問題は生じないから,請求項6において当該位置に延出部を設けることを特定したものであると主張する。しかし,上記の主張における説明は,要するに,定量的特定はできず,「分離ライン寄り」であれば「分離ライン寄り」であると述べるものにすぎない。また,作用・効果が特定されたからといって明確性要件が充足されるわけではないことは当然であり,特許請求の範囲の記載においては,そのような作用・効果を得るための具体的構成が特定されなければならないところ,原告の上記主張は,こうした点の主張が欠けており,失当である。
ウよって,請求項6にかかる特許請求の範囲の記載では,請求項の記載自体が不明確である結果,発明が不明確となる場合,そして,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても,請求項に記載された用語の意味内容を当業者が理解できない結果,発明が不明確となる場合に該当し,「特許を受けようとする発明が明確である」とはいえないから,同請求項にかかる本件特許発明6は,特許法36条6項2号に違反するものとして,無効にされるべきである。
アサポート要件違反原告の主張によれば,本件各特許発明を82インチのような大型ディスプレイへの貼付に用いることはできないところ,特許請求の範囲には「装置」の大きさについて限定がない。そうすると,「82インチのような大型ディスプレイ」への貼付は,本件特許の特許請求の範囲には含まれているにもかかわらず,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が実施可能な程度の記載がないこととなる。したがって,原告の主張を前提とすると,本件各特許発明にはサポート要件違反がある。
イ実施可能要件違反原告の主張によれば,本件各特許発明を「82インチのような大型ディスプレイ」への貼付に用いることはできない。そうすると,本件明細書の記載が実施可能要件を充足するためには,「82インチのような大型ディスプレイ」を,他のサイズのディスプレイと区別した上で,「82インチのような大型ディスプレイ」についても実施が可能になるよう,明確かつ十分な記載をしなければならないということとなる。ところが,本件明細書の発明の詳細な説明には,「82インチのような大型ディスプレイ」について,他のサイズと区別する記載もなければ,当業者が発明を実施することができる程度の明確かつ十分な記載もない。したがって,原告の主張を前提とすると,本件各特許発明には,実施可能要件違反がある。
アゲーム機やスマートフォンを購入した消費者は,その画面を保護するためのシート貼付構造体を自ら貼り付けている。そのような一般消費者が,82インチのような大型ディスプレイに,ほこりの混入も,位置ずれもなく,本件各特許発明のシート貼付構造体を貼り付けることは,常識的に考えて極めて困難である。原告が,本件各特許発明のような構成であると82インチのような大型ディスプレイへの貼付に用いることはできないと主張したのは,その旨を指摘したものである。しかし,複数の非常に熟練した職人が,相互に協力し合って,クリーンルームのような清浄な作業場所で,時間をかけて慎重な貼付作業を行えば,本件各特許発明のシート貼付構造体であっても82インチのような大型ディスプレイに貼付することが可能である。
イ本件各特許発明は,ゲーム機などの装置に貼付するシートを主な対象とする技術である(【0001】)。そして,本件明細書の【図3】に示されているように,上記装置として,本体上に操作ボタンが配置されるような携帯型のものが想定されている。このような装置を貼付対象とするシート貼付構造体に関する当業者が,本件各特許発明の保護シートを,82インチのような大型のディスプレイに適用することは通常想定されず,そのことは本件明細書の記載から常識であるといえる。
ウこのように,本件明細書に82インチのような大型ディスプレイに対する貼付に関する記載がないとしても,本件各特許発明についてサポート要件違反及び実施可能要件違反を基礎づけるものではない。
ア計算方法(ア) 特許法102条3項に基づく損害の額の算定は,侵害品の売上総額に,特許権者が受けるべき実施料率を乗ずる計算方法によるべきである。
(イ) この点,被告らは,本件各特許発明が,例えば仮止部を2つに分割するだけで,容易に回避可能なものであるとして,いわゆるコストアプローチ(対象特許の価値を,その特許と同じ効果を持つ代替的技術を構築する費用と考えて推定する方法をいう。)により,特許法102条3項に基づく損害の額を計算すべきと主張する。しかし,このような計算方法は独自の見解であって,本件に採用できるとする根拠はない。また,本件各特許発明は,仮止部の構成のみが特徴であるわけではなく,他の請求項に記載された本件各特許発明の構成と一体となることで,位置決めの容易さなどの効果を奏することができること,仮止部を2つに分割した場合には,コストは増大する上,迅速な作業にも大きな支障を生じさせることからすると,本件各特許発明の効果を維持しながら,仮止部を2つに分割するなどして容易に本件各特許を回避することはできないといわざるを得ない。したがって,損害の額の計算方法に関する被告らの上記主張には理由がない。
イ被告による被告各製品の売上総額(ア) パーソナルコンピュータ,デジタル家電のマーケティング調査及びこれと関連する情報を扱う株式会社BCN(以下「BCN社」という。)の調査によると,平成24年(2012年)1月から平成31年(2019年)2月までの被告各製品の販売総額は,16億0281万4048円(税別)である。もっとも,BCN社の調査対象には,大手の家電量販店が含まれていないため,BCN社の調査対象となっている企業の市場規模が市場全体に占める割合を約6割と推定するとし,市場全体における被告各製品の販売総額は26億7200万円(税別)と推計される。そして,被告による卸販売価額は店頭での販売価格の60%と推定されるところ,店頭消化率も60%と推定されるので,被告による被告各製品の売上総額は,上記販売総額(26億7200万円)×60%÷60%=26億7200万円(税別)と推計される。
(イ) これに対し,被告らは,その主張に係る返品計上及びリベート支払前の売上総額が●(省略)●円(別紙売上等一覧表の●(省略)●)であったと主張するところ,その事実を証明する証拠は提出されていないものの,少なくとも同額の売上があったことは認め,被告が主張する返品の額(別紙売上等一覧表の番号6及び7)については,不知であるが,積極的には争わない。また,リベートの額を売上総額から控除すべきとの被告の主張に関しては,リベートの額は不知であり,同額を控除するべきとする主張は争う。リベートは,通常,販売経費等に計上されるべきものであって,実施料率を計算する基礎となる売上から控除すべきものではない。
ウ実施料率(ア) 経済産業省知的財産政策室編「ロイヤルティ料率データハンドブック」に記載されたロイヤルティ料率アンケート調査結果の表における「全体」の項目には,平均値3.7%,最大値32.5%,最小値0.5%との記載がある。また,上記ハンドブックの日本の産業別司法決定ロイヤルティ料率(2004~2008年)の表における「合計」の項目には,平均値は4.2%,最大値20.0%,最小値0.3%との記載がある。この点,被告各製品は,基本的にPET製シートを成型しただけであるから,機械装置などと比べて格段に製造コストは低く,原価率は低い。また,スマートフォンの使用者の大部分は,保護フィルムを購入するため,広告宣伝費をさほど掛けることなく販売できる。そうすると,被告各製品の利益率は非常に高く,平均的な製品の少なくとも数倍の利益率であると推測される。また,スマートフォン向け保護フィルムは,多数のメーカーから競合製品が販売されている。そして,フィルムの素材がPETかガラスかという差異を除いては,いずれの製品もほぼ同様の形状,構成の製品であり,競合製品との差別化が非常に難しく,消費者に対する唯一かつ最大のアピールポイントとなるのは,保護フィルムの貼りやすさや,位置ずれやほこり及び気泡の混入等の起きにくさである。したがって,本件各特許発明が被告各製品の売上に貢献した度合いは非常に高い。以上によれば,原告が受けるべき実施料率は15%とするのが相当である。
(イ) これに対し,被告らは,原告が前記(ア)で示した「ロイヤルティ料率データハンドブック」の記載が,「化学」や「バイオ・製薬」のものであることを根拠として,本件各特許発明の実施料率の算定に当たってこれを適用することができないと主張する。しかし,実施料率は,当該発明の有用さからが定まるものであるから,業界分野によってあるべき実施料率の高低が定まるとの前提がそもそも誤っており,被告の上記主張は理由がない。また,「ロイヤルティ料率データハンドブック」の記載は過去の事例にすぎず,それ自体が規範的基準として機能するものではないから,同記載に直接当てはまるものがないとしても,前記(ア)の方法による算定をすべきでないということにはならない。また,被告らは,本件各特許発明の技術的な特徴は仮止部を1箇所かつ小さくすることにあるとした上で,本件各特許の技術的な価値は極めて限定的であるなどと主張する。しかし,特許発明の価値は,請求項で特定された構成全体で把握する必要があり,本件各特許発明は,仮止部の構成と剥離部の構成等によって,ほこりや気泡の混入を防ぎながら正確に位置決めをし,剥離部と保護フィルムの剥離を容易に行うことができるのであるから,その価値は非常に高いというべきである。さらに被告らは,原告と被告が競業関係にないことを,実施料率を低く設定すべき根拠に挙げる。しかし,競業関係があるか否かは,実施料率の設定において考慮され得る一つの要素にすぎず,競業関係にないからといって直ちに実施料率を低く設定すべきことにはならない。以上のとおり,被告らの上記主張は,いずれも理由がない。
エ損害額前記アないしウによれば,特許法102条3項により原告が受けた損害の額とされるのは,26億7200万円×15%により算定される額であり,少なくとも4億円となる。(2) 弁護士費用原告が要した弁護士費用のうち,本件と相当因果関係のある損害は4020万円を下回らない。(3) 小括以上の次第で,原告に生じた損害額は4億円を下らないというべきである。
ア計算方法及び損害額(ア) 原告は,侵害品の売上総額に特許権者が受けるべき実施料率を乗ずる計算方法によるべきであると主張するところ,特許法102条3項の損害額の計算方法としてこのような方法があり得ることは否定しないが,本件においては次の計算方法によるのが相当である。すなわち,本件各特許発明は,被告各製品のクイックスコープを2つに分割して取り付けることによって容易に回避可能なものであったから,当業者にとって実施料を支払ってまで利用する動機はない。また,本件各特許発明は,「ロイヤルティ料率データハンドブック」に掲載された技術分野のいずれにも該当しない。このような発明の損害額については,「ロイヤルティ料率データハンドブック」に依拠して算定することはできず,発明の特徴や同一産業分野における取引常識に照らした判断がされるべきである。具体的には,本件各特許発明については,侵害されたとされる当時から本件各特許発明を回避するための代替的技術が存在しており,かつ,それに要する費用は容易に算定可能であったから,いわゆるコストアプローチに基づいて販売単位当たりの実施料を計算するべきである。これに対し,原告は,上記の計算方法について,国内では採用例がないと主張するが,コストアプローチに基づいた計算は,他者からの技術導入を考える企業が通常行っている検討手法であって,特殊な考え方ではなく,裁判例においてもこのような計算方法が排除されているわけではない。また,原告は,コストの増大や迅速な作業への支障を理由に,被告各製品のクイックスコープを2つに分割して取り付けることによって容易に本件各特許発明を回避可能であるとはいえないと主張する。しかし,クイックスコープが1個でも2個でもクイックスコープのはく離フィルムの長さは変わらず,剥がす時間もほとんど変わらないから,クイックスコープを2つに分割したところで,位置決めのしやすさや作業の迅速さには支障が生じないため,原告の上記主張に理由はない。
(イ) 被告各製品のクイックスコープを2つに分割して取り付けることによる保護フィルム製品の生産原価の増加分は,1製品当たり●(省略)●円である。そして,被告各製品の販売数量は●(省略)●個である。したがって,本件における損害額は,●(省略)●円に●(省略)●個を乗じた●(省略)●円を超えることはない。
イ被告による被告各製品の売上総額(ア) 仮に被告各製品の売上総額に実施料率を掛けることで特許法102条3項の損害額を算定するとしても,売上総額が26億7200万円であるとする原告の主張は否認する。被告各製品の売上総額は,別紙売上等一覧表記載のとおり,●(省略)●円である。
(イ) これに対し,原告は,被告各製品の売上総額を算定する過程においてリベート支払額を控除する点を争う。しかし,メーカーと家電量販店との間の取引では,リベート目的で金銭を支払い,値引きしたのと同様の効果を生じさせるという取引実態が存在する。これは,実態としては売買代金の値引きに等しいものであり,●(省略)●。こうした取引実態は,スマートフォンアクセサリーにも同様に当てはまり,●(省略)●こうした取引実態が存在し,リベートによって被告各製品の取引価格の調整がされている以上,当該リベート部分は売上げから控除されるべきである。
ウ実施料率(ア) 仮に,被告各製品の売上総額に実施料率を掛けることで特許法102条3項の損害額を算定するとしても,実施料率が15%であるとする原告の主張は否認ないし争う。
(イ) 原告が引用する「ロイヤルティ料率データハンドブック」記載のデータは,技術分類や産業の区別を考慮しない「全体」や「合計」に関するものであり,「全体」の最大値とされる32.5%は,業界として実施料率が高いといわれる「化学」及び「バイオ・製薬」におけるものであり,「合計」の最大値である20.0%も「化学」の最大値である。しかるに,本件各特許発明は,保護フィルムそれ自体の機能や,それを実現するための材料の化学的構造や組成等に関するものではないから,本件各特許発明の実施料率として,「化学」や「バイオ・製薬」の実施料率を適用することはできない。そして,原告において本件各特許発明の実施を許諾した例はないから,実際の実施例や業界相場が実施料の算定に当たっての具体的な指標となることはない。また,本件各特許発明は,本件訂正前には無効原因があり,本件各特許発明の技術的な特徴は,仮止部を1箇所かつ小さくすることにあるが,そのような特徴の技術的な価値は極めて限定的であって,このことは大幅な減額要素になるというべきである。この点,原告は,消費者に対する唯一かつ最大のアピールポイントとなるのは,保護フィルムの貼りやすさや,位置ずれやほこりや気泡の混入等の起きにくさであると主張する。しかし,上記のとおり仮止部を1箇所かつ小さくすることに特徴がある本件各特許発明は,ほこりや気泡の混入とは何ら関係はなく,現に,本件明細書には,発明の効果として「本発明によれば,保護シートの位置ずれを低減することができるシート貼付構造体及び・・・貼付方法を提供する」としか記載されておらず,位置ずれの防止は仮止部の有無・構成が差別化要因になるものではない。さらに,貼付のしやすさは,消費者は購入後に1回だけしか貼付を行わず,実際の貼付作業は販売店が行うことも珍しくないから,消費者の行動に大きな影響を与える要素とはなり得ない上,位置決めをしやすくする構成としては,仮止部が唯一のものではなく,現に,被告各製品のクイックスコープには,突出部を備えた吸着部材であるという点で本件各特許発明とは異なる特徴を備えており,この点が他の製品との差別化要素として被告各製品の売上に貢献していたものである。加えて,原告の製造販売する液晶保護フィルムはゲーム機向けであるのに対し,被告各製品はスマートフォン向けの液晶保護フィルムであって,両フィルムに互換性はないから,原告と被告は競業関係にない。この観点からも,本件の実施料率は低く設定すべきである。そして,被告各製品が本件各特許発明の技術的範囲に属さないかもしれないリスクや本件各特許が無効であるかもしれないリスクが存することを前提に,それらのリスク分の値引きを考慮して,より一層低い実施料率が定められるべきであり,訂正前の本件各特許が無効とされるべきものであったことも,実施料率の減少要因とすべきである。したがって,仮止部の有無や構成は,消費者にとっての差別化要素ではなく,仮止部の構成にのみ特徴を有する本件各特許発明は売上や利益に貢献するものではないから,実施料率は低く設定すべきであって,「ロイヤルティ料率データハンドブック」に記載された最小値である0.3%をさらに大きく下回るといわざるを得ない。
(ウ) そうすると,原告が主張する計算方法による場合であっても,損害額は●(省略)●円に0.3を乗じた●(省略)●円を上回ることはない。
エ損害額否認ないし争う。(2) 弁護士費用否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1本件明細書の記載事項等(1) 本件明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」には,別紙本件明細書(甲2)のとおりの記載がある。
(2) 前記(1)の記載事項によれば,本件明細書には,本件各特許発明に関し,次のような開示があることが認められる。
ア従来,ゲーム機(装置)などの被貼付部材の表示面(表面)を保護するための保護シート,保護シートの接着面を保護する剥離シート,剥離シートに形成され保護シートからはみ出す大きさのフリー部分及び保護シートの一端側を仮止めするための仮止シールとを備えるシート貼付構造体,並びに,保護シートの一端側を表示面の外側の枠体部分に仮止シールで上方側から仮止めした状態で,保護シートを上側から押さえつけて保護シートの接着面と被貼付部材の表示面を密着させながら保護シートの接着面を保護する剥離シートからはみ出たフリー部分を引っ張ることで,接着面と被貼付部材の表示面とを密着させた状態で剥離シートを剥離して,保護シートを被貼付部材の表示面に貼り付けることができるシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法が存在し,このようなシート貼付構造体を用いて保護シートを添付する貼付方法においては,表示面と保護シートの間に気泡やほこり等が入ることが抑制されることが知られていた(【0002】及び【0003】)。しかし,上記のシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法においては,保護シートの一端側を表示面の外側の枠体部分に仮止シールで上方側から貼り付けた状態で,保護シートをゲーム機の表示面に貼り付けていることから,仮止シールにより仮止めした部分にシート貼付構造体の厚さの分の段差が生じ,シート貼付構造体からフリー部分を引っ張って剥離シートを剥がす際に,仮止シールがシート貼付構造体の厚さの分だけ水平方向に移動しやすく,保護シートの水平方向への位置ずれが起こりやすいという問題があり,また,シート貼付構造体から剥離シートを剥がす際に,剥離シートを斜めに引っ張ると,仮止シールが傾きやすく,保護シートの位置ずれが生じる可能性があったため,保護シートの位置ずれを低減することができるシート貼付構造体及びシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法が望まれていた(【0005】)。
イ「本発明」は,前記アの課題を解決するため,保護シートの位置ずれを低減することができるシート貼付構造体及びシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法を提供することを目的として,装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって,接着面を有する保護シートと,前記接着面を覆うと共に,分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シートと,前記第1剥離部及び/又は前記第2剥離部から前記保護シートの外側に延びる延出部と,を備えることを特徴とする保護シート貼付用のシート貼付構造体,並びに,このような保護シート貼付用のシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法であって,前記仮止部を装置の表面に前記保護シートを仮止めする仮止工程と,前記仮止工程により前記保護シートを前記仮止部で仮止めした後に,前記第2剥離部を前記第2延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がして,前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第1剥離貼付工程と,前記第1剥離貼付工程の後に,前記仮止部が設けられる前記第1剥離部を前記第1延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がすと共に前記仮止部を前記装置の表面から剥がして,前記保護シートを前記装置の表面に貼付する第2剥離貼付工程と,を備えるシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法を採用したものである(【0006】,【0007】及び【0018】)。「本発明」によれば,保護シートの位置ずれを低減することができるシート貼付構造体及びシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法を提供することができる(【0019】)。
2争点1(被告各製品又はこれらを用いた液晶保護フィルムの貼付方法が本件各特許発明の技術的範囲に属するか等)について(1) 被告各製品の構成前記前提事実2(5)並びに証拠(甲3ないし7,乙11,12)及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告各製品は,いずれも,以下の構成を有していると認められる。
ア被告各製品の液晶保護フィルムは,スマートフォンなどの装置の表面に接着して貼り付けられ,スマホ画面を保護するためのものである。
イ被告各製品のはく離フィルムは,分離ラインを介して下部はく離フィルムと上部はく離フィルムに分かれて並んで配置されており,液晶保護フィルムの接着面を覆っている。
ウ被告各製品の上部はく離フィルム及び下部はく離フィルムは,それぞれ液晶保護フィルムの外側に延びる余白部分を備えている。
エ被告各製品の下部はく離フィルムは,液晶保護フィルムとは反対外の面にクイックスコープを有する。
オ被告各製品のクイックスコープは,下部はく離フィルムより小さく,同フィルムからはみ出さないように同フィルムに重なって1箇所配置され,液晶保護フィルムを装置に貼り付ける過程において,一度装置の画面に貼り付けられる。その後液晶保護フィルムを装置に貼り付け終わったときは,装置の表面から除去されるものである。
カ被告各製品の余白部分は,下部はく離フィルムから液晶保護フィルムの外側に延びる部分と,上部はく離フィルムから液晶保護フィルムの外側に延びる部分がある。
キ被告各製品の上部はく離フィルム及び下部はく離フィルムは,それぞれ液晶保護フィルムの外側に延びる余白部分を備えている。そして余白部分は,分離ラインを境目として下部はく離フィルムから保護フィルムの外側に延びる部分と,上部はく離フィルムから保護フィルムの外側に延びる部分がある。
ク被告各製品の下部はく離フィルムは,液晶保護フィルムとは反対側の面にクイックスコープを有する。このクイックスコープは,液晶保護フィルムを装置に貼り付ける過程において,一度装置の表面に貼り付けられる。
ケ被告各製品は,液晶保護フィルムを装置の表面に貼付けるための貼付構造体であって,「液晶保護フィルムの貼り方」(前記前提事実(5)ア(イ))で説明されたような所定の貼付方法で貼り付けられる物である。
コ被告各製品は,クイックスコープの「はく離フィルム」を剥がし,液晶画面に当てて位置を確認した後,クイックスコープを装置表面に固定して仮止めする工程で貼り付けられる物である。
サ被告各製品は,仮止工程により液晶保護フィルムをクイックスコープで仮止めした後で,クイックスコープを指2本で押さえながら上部の保護シート(上部はく離部)を剥がし,フィルム(液晶保護フィルム)を液晶画面に貼り付ける(貼付用ヘラが付属した製品では貼付用ヘラを用いて貼り付ける)工程で貼り付けられる物である。
シ被告各製品は,上部はく離部が剥がされた後で,「液晶保護フィルムの貼り方」で説明されているように,保護フィルム下部(液晶保護フィルム下部)も同様に貼り付けられる。
(2) 争点1-1(本件特許発明1に係る構成要件充足性)について
ア構成要件C(ア) 「延出部」の解釈a本件特許発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「保護シート」が「接着面」を有していること(構成要件A),「接着面を覆う」「剥離シート」が「分離ラインを介して並んで配置される第1剥離部及び
第2剥離部」を有していること(構成要件B),「延出部」が「第1剥離部」及び「第2剥離部」それぞれから「保護シート」の外側に延びていること(構成要件C)を規定している。これらの特許請求の範囲の記載に照らすと,「延出部」とは,第1剥離部及び第2剥離部に相当する構成要素から,保護シートに相当する構成要素の外側に延びた部位をいうものと解釈するのが相当である。b被告らは,構成要件Cの「延出部」とは,剥離部に保護フィルムの外縁より外側に設けられた部位であって,それを水平方向に引っ張ることによってシート貼付構造体1全体には水平方向の力を加えつつ,剥離部を保護シートの接着面から容易に剥離させることができる構造を有する部位であり,具体的には,各剥離部の切断可能ライン寄りの部分において剥離部の端部から外側に延び,切断可能ラインに略直交する方向に折り返され,かつ,各他方の剥離部から遠ざかる方向に延び,把持部を構成する等の構造を有するものをいうと主張する。そして,その根拠として,
①本件明細書の記載(【0018】及び【0019】)によれば,「延出部」は引っ張ることにより剥離部を保護シートから剥がすための構成であり,保護シートの位置ずれを生じにくくするための構造ないし特性を有するものといえることや,
②本件明細書の【図1】,【図2】及び【発明を実施するための形態】に記載された「延出部」の構成,
③本件明細書の「第2実施形態」において,保護シートの外縁よりも外部にはみ出た剥離部の外縁部分を「把持片215」と称して(【0070】,【0072】,【0074】及び【0075】参照),「延出部」と「把持片」とを区別していることを挙げる。しかし,上記①についてみると,構成要件Cの文言は「前記第1剥離部及び前記第2剥離部それぞれから前記保護シートの外側に延びる延出部と」というものであり,「延出部」が延びる起点と延びる方向が記載されているのみであって,その文言上,被告らが主張するような構造を有するものに限定されていない。また,本件明細書の【0018】の記載は,その内容に照らし,本件特許発明6に関するものと認められるから,本件特許発明1の構成要件Cの「延出部」の解釈を限定する根拠とはならない。そして,本件明細書の【0019】は,本件各特許発明の効果を記載したものにすぎないところ,同段落には,その効果を奏する構造が,被告らが主張するものに限定されることを根拠づける記載はない。次に,上記②についてみると,本件明細書の【図1】及び【図2】は,【発明を実施するための形態】のうち,【0021】以下に記載された「第1実施形態」に係るものであるところ,これは,本件特許発明1の最適な実施例を記載したものにすぎない(【0094】参照)。したがって,「延出部」の解釈において,本件特許発明1が本件明細書の【図1】,【図2】及び【発明を実施するための形態】に記載された実施形態に限定されると解することはできない。さらに,上記③についてみると,「第2実施形態」は仮止貼付部30を備えていないから(【0070】),「仮止部」を備える構成を採用した本件特許発明1の実施例とは認められない。しかも,「第2実施形態」に係る本件明細書の【0069】から【0078】までの記載において,「把持片」が「延出部」とは異なるものとして明確に定義されているとは認められず,むしろ,「第2実施形態」における【図7】で示された構成を特定するのにふさわしい用語として,「把持片215」が採用されたにすぎないと理解するのが相当である。したがって,被告らの上記①ないし③の主張にはいずれも採用することができない。c被告らは,原告が本件特許の出願審査において提出した本件意見書(丙5)及び本件拒絶査定不服審判請求書(丙4)を根拠として,「延出部」は,剥離部の剥離に際し,シート貼付構造体1の面に対し,水平方向に引っ張ることで剥離部を剥離させることができる構造を有していることが必須であると主張する。しかし,本件意見書では,拒絶理由通知書で指摘された引用文献には,特に,保護シートを仮止部により仮止めした状態で第1剥離部を保護シートから剥離させる際及び第2剥離部を保護シートから剥離させる際において,保護シートの位置ずれを低減することができるとの効果が,記載も示唆もされていないとの説明がされている。また,本件拒絶査定不服審判請求書においては,同請求書と同時に提出された手続補正書により特許請求の範囲のうち「仮止部」について規定した構成要件Dを補正したことにより,拒絶理由が解消される旨の説明がされている。そうすると,本件意見書及び件拒絶査定不服審判請求書でされた原告の主張によって「延出部」について限定解釈することはできないというべきであり,被告らの上記主張は採用することはできない。
(イ) 被告各製品の構成要件充足性前記前提事実(5)ア(ア)及び前記(1)のとおり,被告各製品は余白部分を有するところ,当該余白部分は,被告各製品の上部はく離フィルム及び下部はく離フィルムから,液晶保護フィルムの外側に延びている。そして,上部はく離フィルム及び下部はく離フィルムは本件特許発明1の構成要件Cにいう第2剥離部及び第1剥離部に相当し,液晶保護フィルムは保護シートに相当する。したがって,当該余白部分は「延出部」に該当するから,被告各製品は,いずれも構成要件Cを充足すると認めるのが相当である。
イ構成要件D及びE(ア) 「仮止部」の解釈a構成要件Dは,本件特許発明1のシート貼付構造体が,第1剥離部における保護シートとは反対側の面に「仮止部」を備えることを規定し,構成要件Eは,上記「仮止部」が,第1剥離部の外側にはみ出ないように第1剥離部に重なって配置され,装置に貼り付け可能であって,保護シートを装置の表面に仮止するための第1剥離部より小さい1箇所の部材であることを規定している。これらの「仮止部」の位置及び構成に関する特許請求の範囲の記載に照らすと,「仮止部」とは,第1剥離部に相当する構成要素における保護シートに相当する構成要素の反対側の面に設けられ,第1剥離部に相当する構成要素からはみ出さないように重なって配置され,装置に貼り付け可能であって,保護シートに相当する構成要素を装置の表面に仮止めするための,第1剥離部より小さい1箇所の部材であると解釈するのが相当である。bこれに対し,被告らは,本件明細書の記載(【0052】及び【0067】)並びに本件意見書(丙5)及び本件拒絶査定不服審判請求書(丙4)における原告の説明を根拠に,構成要件Dの「第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられる」との構成が作用し,本件特許発明1の効果を奏するためには,前記aの解釈に加え,構成要件D及びEの「仮止部」は,剥離部を保護シートから剥離させるだけで剥離部と共に容易に除去できる状態,すなわち,第1剥離部を保護シートから剥がす作業と仮止部を装置の表面から剥がす作業とが1回の工程で行われる構成であることが必要であると主張する。しかし,被告らの指摘する本件明細書の記載は,本件特許発明6の「第2剥離貼付過程」(構成要件O)に関するものであるから,これをもって直ちに本件特許発明1の「仮止部」を限定解釈する根拠とすることはできない。そして,構成要件Eは,「装置の表面の仮止めするための」と記載されているにとどまり,文言上,本件特許発明1を,
第1剥離部を保護シートから剥がす作業と,仮止部を装置の表面から剥がす作業とが1回の工程で行われる実施形態に限定するものではなく,その他,本件特許発明1の「仮止部」を被告らが主張するものに限定することを根拠づける記載は,本件特許の特許請求の範囲にも本件明細書にも見当たらない。また,原告は,本件拒絶査定不服審判請求書において,本件特許発明1においては,第1剥離部を保護シートから剥離させるだけで,装置の表面に仮止した「仮止部」を,第1剥離部とともに容易に除去することができるとの効果を奏する旨を説明していたものの,その説明には括弧書きで「段落[0052]及び[0067]等参照」と付記されており,これに対応する本件明細書の記載(【0052】及び【0067】)は,上記のとおり,本件特許発明6に関するものである。加えて,本件特許発明1の「仮止部」は,構成要件Dによって「第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられる」と規定されているところ,「反対側の面に設けられる」か否かは,「保護シート」との位置関係によって決まる事項であり,その位置関係によって決定された「仮止部」が上記の効果を奏さなかったからといって,構成要件Dの「仮止部」の構成を有しないということになるというのは,不合理である。そして,前記ア(ア)cのとおり,本件意見書において「仮止部」の奏する効果として強調されているのは,保護シートの位置ずれを低減することができるという点である。そうすると,本件意見書及び本件拒絶査定不服審判請求書における原告の上記説明によって,「仮止部」を限定解釈することはできないというべきである。したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
(イ) 被告各製品の構成要件充足性前記前提事実(5)ア(ア)及び前記(1)のとおり,被告各製品にはクイックスコープと称される部材が存在するところ,前記(1)によれば,クイックスコープは,下部はく離フィルムのうち,液晶保護フィルムの反対側の面に設けられており,その大きさは下部はく離フィルムより小さく,かつ下部はく離フィルムの外側へはみ出ないように下部はく離フィルムに重なって設置されているものであって,設置個所は1箇所である。さらに,クイックスコープは吸着部材によって構成されており,スマートフォンの表面に貼り付けることが可能であると認められる。また,前記ア(イ)のとおり,下部はく離フィルムは本件特許発明1の構成要件D及びEの第1剥離部に相当し,液晶保護フィルムは保護シートに相当する。したがって,被告各製品のクイックスコープは本件特許発明1の構成要件D及びEの「仮止部」に該当すると認められ,被告各製品は,いずれも構成要件D及びEを充足すると認めるのが相当である。
ウ小括以上に加え,前記前提事実(5)ウによれば,被告各製品は,本件特許発明1の構成要件を全て充足するから,本件特許発明1の技術的範囲に属すると認められる。
(3) 争点1-2(本件特許発明3に係る構成要件充足性)について前記(2)のとおり,被告各製品の余白部分は構成要件Cの「延出部」に該当し,下部はく離フィルムは構成要件CないしEの「第1剥離部」に,上部はく離フィルムは「第2剥離部」に該当するから,被告各製品の余白部分のうち上部はく離フィルムの外側に延びた部分は構成要件Fの「第2延出部」に,下部はく離フィルムの外側に延びた部分は構成要件Fの「第1延出部」に該当すると認められ,また,被告各製品は,本件特許発明1の技術的範囲に属すると認められるから,構成要件Gの「請求項1又は2に記載の保護シート貼付用のシート貼付構造体」に該当する。以上によれば,被告各製品は,本件特許発明3の構成要件を全て充足するから,本件特許発明3の技術的範囲に属すると認められる。
(4) 争点1-3(本件特許発明6に係る構成要件充足性)について
ア構成要件J(ア) 「分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる」の解釈a構成要件Jは,第1延出部が,第1剥離部における「分離ライン寄りの部分から」「保護シートの外側に延びる」こと,第2延出部が,
第2剥離部における「分離ライン寄りの部分から」「保護シートの外側に延びる」ことを規定する。そして,構成要件Nの「前記第2剥離部を前記第2延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がして,」との記載及び構成要件Oの「前記第1剥離部を前記第1延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がす」との記載に照らせば,延出部が「分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる」とは,延出部を引っぱる操作により,剥離部を分離ラインから切断して,剥離部を保護シートから容易に剥離させることを可能とする構成であると解釈すべきである。b被告らは,「分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる」とは,延出部が分離ライン寄りの部分を起点として保護シートの外側に延びている構成に限定され,延出部が保護シートの全周に存在する構成を含むものではない旨と主張する。しかし,構成要件Jの文言上,第1延出部及び第2延出部が分離ライン寄りの外側に延びる方向にのみ設けられているものと限定するものではない。また,本件明細書において,第1実施形態に係る【図1】及び【図2】では,被告らの主張に係る構成が示されているものの,直ちに,そのような実施例に限定して解釈することはできない。むしろ,それらの図面からは,分離ライン寄りに延出部が存在すれば,その部分を引っぱることによって剥離部を保護シートから剥離することができ,それ以外の部分に延出部が存在したとしても,剥離の工程を阻害するものではないことが理解できる。したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
(イ) 被告各製品の構成要件充足性a前記(2)のとおり,被告各製品の余白部分のうち上部はく離フィルムの外側に延びた部分は構成要件Fの「第2延出部」に,下部はく離フィルムの外側に延びた部分は構成要件Fの「第1延出部」に該当すると認められる。そして,上記余白部分は液晶保護フィルムの全周に設けられているものの,被告各製品の上部はく離フィルムと下部はく離フィルムの分離ライン寄りの部分に着目すれば,当該部分を引っぱる操作により,上部はく離フィルムと下部はく離フィルムを分離ラインから切断して,液晶保護フィルムから容易に剥離させることを可能とする構成を有しており,分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる」に該当すると認められる。このように,被告各製品は,分離ライン寄りの部分から,液晶保護フィルムの外側に延びる上部はく離フィルム及び下部はく離フィルムを備えるシート貼付構造体であるから,これらを用いた保護シート貼付方法は,構成要件Jを充足するものと認められる。bこれに対し,被告らは,被告各製品の余白部分は,液晶保護フィルムの全周囲に存在し,「分離ライン寄りの部分から」余白部分が延びているものではないとして,被告各製品を用いた液晶保護フィルムの貼付方法は構成要件Jを充足しないと主張するが,前記(ア)bで説示したとおり,「分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる」の解釈を誤っているというべきであるから,同主張を採用することはできない。
イ構成要件K及びM(ア)a前記(2)イ(イ)のとおり,被告各製品が備えるクイックスコープは,構成要件D及びEの「仮止部」に該当すると認められるところ,同様の理由により,クイックスコープは構成要件K及びMの「仮止部」にも該当すると認められる。bまた,構成要件Mは,「前記仮止部を装置の表面に前記保護シートを仮止めする仮止工程と」と規定するにとどまり,「仮止工程」の内容を限定する記載は存在しない。そうすると,前記(1)のとおり,被告各製品を用いた液晶保護フィルムの貼付方法は,クイックスコープをスマートフォンの液晶表面に貼り付け,その後,液晶保護フィルムを貼付する過程において剥離されるものである以上,クイックスコープを上記のとおり貼り付ける行為は「前記仮止部を装置の表面に前記保護シートを仮止めする仮止工程」に該当すると認められる。したがって,被告各製品を用いた液晶保護フィルムの貼付方法は,構成要件K及びMを充足すると認められる。
(イ) これに対し,被告らは,クイックスコープが構成要件K及びMの「仮止部」に該当しないことを前提に,被告各製品を用いた液晶保護フィルムの貼付方法は,構成要件K及びMを充足しないと主張するが,前記(ア)で説示したところに照らし,同主張を採用することはできない。
ウ構成要件N(ア) 「引っ張る」の解釈構成要件Nは,本件特許発明6の貼付方法が,構成要件Mの仮止工程により保護シートを仮止部で仮止めした後に,第2剥離部を「第2延出部を引っ張ることにより」保護シートから剥がして,保護シートを前記装置の表面に貼付する第1剥離貼付工程を備えることを規定している。「引っ張る」という用語の一般的な語義に照らすと,「第2延出部を引っ張ることにより」とは,保護シート及び第2剥離部の水平方向,すなわち,第2延出部を含む第2剥離部が伸びる平面方向に,第2延出部を引く操作を加えることと解釈するのが自然である。そして,構成要件J の「前記第2剥離部における前記分離ライン寄りの部分から前記保護シートの外側に延びる」との記載等に照らし,本件特許発明6において,
第2延出部は保護シートに対して水平方向に延びていると解されることからすると,「引っ張る」操作には,少なくとも,第2延出部を水平方向に引く操作を加えることが不可欠と認められる。もっとも,構成要件Nは,その文言上,「引っ張る」操作を加える際に,水平方向に力を加えることと合わせて,保護シートに対して垂直方向の力を加えることを排除しておらず,その他,本件明細書の記載においても,「引っ張る」を水平方向の力を加える動作のみを指すものと限定して解釈すべき根拠は見当たらない。かえって,本件明細書には,発明が解決しようとする課題として,「保護シートの位置ずれを低減することができるシート貼付構造体及びシート貼付構造体を用いて保護シートを貼付する貼付方法を提供することを目的とする」(【0006】)と記載されており,「引っ張る」操作のみによってシート貼付構造体を保護シートに貼付することは解決すべき課題とされていない。さらに,構成要件HないしLのとおり,本件特許発明6は,装置の表面に貼り付けられる保護シート並びに保護シートの接着面を覆うように配置される第1剥離部及び第2剥離部を備えたシート貼付構造体を用いた貼付方法であるから,当該貼付方法の過程において,保護シートに垂直方向に重なって配置された第1剥離部及び第2剥離部を剥離しなければならない。このような剥離を実現するためには,「引っ張る」操作を加えるに先立ち,あるいは「引っ張る」操作の際に,垂直方向の力が加わることは不可欠であるといえる。以上を総合すると,「引っ張る」とは,水平方向の力を加えるように引っ張る操作を加えることをいうと解釈すべきであり,水平方向の力を加えるように引っ張る操作を加える限り,これに垂直方向の力を加える動作が加わるとしても,当該操作は「引っ張る」に該当するものというべきである。被告らの主張は,「引っ張る」に該当するためには,本件特許発明6の第2延出部を水平方向に引っ張ることのみにより第2剥離部を保護シートから剥がすことができることを前提とするものと解されるが,上記のとおり,垂直方向成分の力を加える動作が加わっても「引っ張る」に該当するものと解されるから,被告らの上記主張は,「引っ張る」の解釈を誤るものであって,採用することはできない。
(イ) 被告各製品の構成要件充足性前記(1)のとおり,被告各製品の使用方法は,クイックスコープをスマートフォン本体の液晶面に吸着させて固定した後,上部はく離フィルムをめくり上げ,余白部分のうち,分離ラインに近い部分を把持して引っ張り,上部はく離フィルムを徐々に液晶保護フィルムから剥離しつつ,液晶保護フィルムを,分離ライン寄りの部分から徐々にスマートフォン本体の液晶面に貼付するというものである。この点,前記イのとおり,クイックスコープを上記のように吸着させて固定する工程は,構成要件Nの「仮止工程」に該当する。また,被告各製品の上部はく離フィルムは「第2剥離部」に該当し,被告各製品の余白部分を把持して引っ張る行為は,分離ラインに近い部分を把持して引っ張り,上部はく離フィルムを保護シートから剥がし,スマートフォン本体の液晶面に貼付するものである以上,「前記第2剥離部を前記第2延出部を引っ張ることにより前記保護シートから剥がして,前記保護シートを前記装置の表面に貼付する」に該当する。なお,被告各製品においては,その余白部分を把持して引っ張る前に,上部はく離フィルムをめくり上げる行為が必要となるものの,前記(ア)のとおり,水平方向成分を持たせるように引っ張る操作を行う限り,これに垂直方向成分の力が加わるような行為を伴うとしても,当該操作は「引っ張る」に該当するものというべきであるから,上部はく離フィルムをめくり上げる行為の要否は,構成要件Nに該当するという上記結論を左右するものではない。したがって,被告各製品を用いた液晶保護フィルムの貼付方法は,構成要件Nを充足すると認められる。
エ構成要件O(ア) 「共に」の解釈構成要件Oは,本件特許発明6の貼付方法が,第1延出部を引っ張ることにより,第1剥離部を保護シートから剥がすと共に,仮止部を装置の表面から剥がして,保護シートを前記装置の表面に貼付する第2剥離貼付工程を備えることを規定している。「共に」との一般的な語義に照らすと,構成要件Oは,第1延出部を引っ張ることにより,第1剥離部を保護シートから剥離する事象,仮止工程により装置の表面に仮に貼付されていた仮止部が当該表面から剥離する事象及び保護シートが装置の表面に貼付される事象が同時に生じることを規定するものと解釈するのが自然である。これに対し,原告は,仮止部を装置の表面から剥離させた後,剥離部を保護シートから剥離させるという工程であっても,構成要件Oの第2剥離貼付工程に該当すると主張する。しかし,原告の上記解釈は,上記のとおり「共に」の語義に沿うものではないし,本件明細書に「第1剥離部21を剥離させるだけで,ゲーム機8の表示面81に貼付した仮止貼付部30を剥離することができるため,仮止め用に使用した仮止貼付部30を容易に除去することができる」(【0067】)と記載されていることにも整合しないから,採用することができない。
(イ) 被告各製品の構成要件充足性前記(1)及び前記ウ(イ)のとおり,被告各製品を用いた貼付方法は,上部はく離フィルムを引っ張って液晶保護フィルムの上半分をスマートフォン本体の液晶面に貼付した後,まず,下部はく離フィルムをめくり上げてクイックスコープをスマートフォン本体の液晶面から剥離した上で,次に,下部はく離フィルムの余白部分を把持して引っ張ることにより,液晶保護フィルムから,下部はく離フィルムとクイックスコープを剥離するとともに,液晶保護フィルムの下半分をスマートフォン本体の液晶面に貼付するというものである。このように,クイックスコープをスマートフォン本体の液晶面から剥離する事象は,
①下部はく離フィルムをめくり上げるという行為により生じるものであって,これは,
②下部はく離フィルムの余白部分を引っ張る行為とは別の行為により生じるものであり,行為の順序としても,
①の行為の完了後に②の行為に及ぶものであるから,被告各製品を用いて装置の表面に保護シートに相当する液晶保護フィルムを貼付するためには,「引っ張る」に相当する行為とは別に,下部はく離フィルムをめくり上げて,「仮止部」に相当するクイックスコープを剥離させる工程を必要とし,それらの工程には経時的な先後関係がある。したがって,被告各製品を用いた貼付方法では,被告各製品の下部はく離フィルムを引っ張ることにより,下部はく離フィルムを保護シートから剥離する事象,仮止工程によりスマートフォンの表面に仮に貼付されていたクイックスコープが当該表面から剥離する事象及び液晶保護フィルムがスマートフォンの表面に貼付される事象が同時に生じるとは認められないから,被告各製品を利用した貼付方法は,構成要件Oの「共に」を充足しない。
オ小括以上のとおり,被告各製品は,本件特許発明6の構成要件Oを充足しないから,本件特許発明6の技術的範囲に属するとは認められない。
(5) 構成要件充足性に関する結論以上の次第で,被告各製品は,本件特許発明1及び3の技術的範囲に属する。他方,本件特許発明6の技術的範囲に属するとは認められないから,本件特許発明6に関する争点1-4及び争点2-8について判断するまでもなく,被告各製品が本件特許権6を侵害することを前提とする原告の請求にはいずれも理由がない。
3争点2(無効の抗弁の成否)について(1) 争点2-1(乙1公報を主引用例とする進歩性欠如)について
ア乙1公報の記載事項等(ア) 乙1公報には,別紙乙1公報・丙11公報のとおりの記載がある。
(イ) 前記(ア)の記載事項によれば,乙1公報には,以下のような開示があると認められる。a携帯電話や液晶テレビなどの電子機器の表示画面には,さまざまな目的でフィルムシートを貼り付けられるところ,従来のフィルムシートは,電子機器の表示画面に貼付後に露出する露出面と,表示画面に装着する貼付面とからなる基材シートと,基材シートの前記貼付面に粘着剤(接着剤)を塗布して形成する粘着層と,フィルムシートを表示画面に装着する前の粘着層を一時的にカバーする剥離シートとで構成するのが一般的であったが,このようなフィルムシートは,光学シートとして,例えば,表示画面に貼り付ける場合に,その全体を一挙に貼り付けようとすると焦点が外れたりして位置決めが難しく,また,中央部に気泡が封じ込まれ易く熟練を要する(【0002】及び【0003】)。これらの問題を解決するために,剥離シートにスリット加工(背割れスリット)を施した剥離シートを採用し,左半分を位置決めして貼り付け,その後,右半分を貼り付ける方法,すなわち,スリット加工を利用して,剥離シートを横断するハーフカットを施した剥離シートを利用することが行われているが,ハーフカットを施す距離が長くなると,剥離シートの切りカスが発生し,粘着面に付着する可能性も高くなり,また,ハーフカットを施す際,粘着層までナイフが入って気泡が混ざる結果,剥離シートを剥がした後に白濁ラインが生じることもある上,ハーフカットを施す際,粘着層を突き抜けるまで深くナイフが入って,基材シートが傷つくことが多く,品質に大きく影響する場合がある(【0004】及び【0005】)。b「本発明」は,前記aの問題点を背景に開発されたものであり,基材シートと,基材シートの裏面に形成された粘着層と,粘着層に仮付着される剥離シートとを有するフィルムシートにおいて,剥離シートに強い引き裂き方向性のあるシートを用いることで,任意部分の粘着層の露出を可能とし,また,基材シートに傷が付くことなく,切りカスも粘着層に付着せず,かつ,ほぼ真っ直ぐに正確に裂き易いフィルムシートを提供するものである(【0007】及び【0015】)。
イ乙1発明の認定前記アで認定した乙1公報の記載からすると,乙1公報には,以下の構成を有する乙1発明が記載されていると認められる。「電子機器の表示画面に貼り付けられて表示画面を保護する基材シート10であって,貼付面を有する基材シート10と,基材シート10の粘着層20を覆うと共に,切り込み(ノッチ)が形成された剥離シート30と,剥離シート30における基材シート10とは反対側の面に設けられる第2粘着層40であって,剥離シート30の外側にはみ出ないように剥離シート30に重なって配置され,表示画面に貼り付け可能であって,基材シート10を表示画面の表面に仮止めするための剥離シート30と同じ大きさの第2粘着層40,を備えることを特徴とする基材シート10貼付用のフィルムシートA」
ウ乙1発明と本件特許発明1及び3との対比(ア) 一致点乙1発明の基材シート10,粘着層20,剥離シート30,表示画面,
第2粘着層40及びフィルムシートAは,それぞれ,本件特許発明1及び3の保護シート,接着面,剥離シート,装置,仮止部及びシート貼付構造体に相当すると認められる。したがって,乙1発明と本件特許発明1及び3とを対比すると,本件特許発明1及び3と乙1発明とは,共に,装置の表面に貼り付けられて前記表面を保護する保護シートであって,接着面を有する保護シートである点,前記接着面を覆う剥離シートを有する点,剥離シートにおける保護シートとは反対側の面に設けられ,剥離シートの外側にはみ出ないように剥離シートに重なって配置され,装置に貼り付け可能であって,保護シートを装置の表面に仮止めするための仮止部を備える点において一致する。
(イ) 相違点これに対し,本件特許発明1及び3と乙1発明とは,以下の点において相違すると認められる。(相違点①)本件特許発明1及び3の「仮止部」が「第1剥離部より小さい1箇所の仮止部」であるのに対し,乙1発明の仮止部に相当する「第2粘着層40」は,第1剥離部に相当する「剥離シート30」と同じ大きさである点。(相違点②)本件特許発明1及び3は「分離ライン」を有するのに対し,乙1発明は上記分離ラインに相当する構成を有しない点。
(ウ) 相違点についての補足説明前記(イ)の相違点②に関し,被告らは,乙1公報の【0002】ないし【0005】,【図20】及び【図21】には従来のフィルムシートの構成として,本件特許発明1の構成要件Bに相当する「貼付面を覆うと共に,スリットを介して並んで配置される第1剥離部及び第2剥離部を有する剥離シート30」が開示されているところ,乙1公報の【0038】の記載は引き裂き方向性のあるシートを採用しないことを示唆するものであるから,引き裂き方向性のあるシートに代えて上記のスリットを設けたシート配置することが可能である旨を主張する。しかし,乙1公報の【0038】には,「クリーニング機能のみを採用することもできる」と記載されているにとどまり,その記載から,基材シートを横断するような長さのスリットが入った構造を採用することが示唆されていると理解することはできない。そもそも,乙1発明は,前記ア(イ)のとおり,スリット加工を施した剥離シートを採用したフィルムシートという従来技術が有する技術的課題である,剥離シートの切りカスが発生して粘着面に付着すること,剥離シートを剥がした後に白濁ラインが生じること及びハーフカットを施す際に基材シートを傷つける場合があることを解決するために,強い引き裂き方向性のあるシートによって剥離シートを構成することとしたものである。したがって,第1剥離部と第2剥離部がスリットを介して並んで配置される構成を備えること,すなわち,基材シートを横断するような長さのスリットを入れることは,乙1発明が解決しようとした技術的課題を生じさせる原因にほかならない。そうすると,乙1発明において基材シートを横断するような長さの切れ込みを入れることは,乙1発明の技術思想と矛盾するものというほかはなく,およそ想定されていないというべきであるから,乙1公報の【0038】は,基材シートを横断するような長さのスリットが入った構造を採用することを示唆するものと認めることはできない。したがって,本件特許発明1及び3と乙1発明との相違点に関する被告らの主張には理由がなく,前記(イ)のとおりの相違点が存在すると認めるのが相当である。
エ相違点①についての容易想到性(ア) 相違点①に係る構成が設計事項か否かについてa乙6公報ないし乙10公報には,順に,別紙乙6公報ないし別紙乙10公報のとおりの記載がある。b被告らは,乙6公報ないし乙10公報の記載によれば,小型携帯端末の装置に保護フィルムを貼付するに際し,保護フィルムの一部に位置決めのための仮止手段を設けることや,仮止手段を設ける位置,数,大きさなどは当業者が任意に選択するものであって,相違点①に係る構成は設計事項であるから,乙1発明から本件特許発明1及び3を想到することは容易である旨を主張する。確かに,乙6公報ないし乙10公報には,位置決めのための仮止手段の幅や形状を任意に形成することができることや,仮止手段を2つ設けることができることが記載されている(乙6公報の【0027】,乙7公報の【0021】,乙10公報の【0023】,【0024】)。しかし,乙6公報等に記載されている乙6発明等は,いずれも粘着シートの裏面全体に形成された粘着層を覆う剥離材の一部を仮止手段とするものであるのに対し,本件特許発明1及び3は,保護フィルムの裏面に形成された剥離部に,剥離部に重なるように仮止部を配置するものであって,乙6発明等と本件特許発明1及び3は,仮止部の構造に関して大きく相違する。また,乙6発明等は,粘着シートの裏面全体に形成された粘着層を覆う剥離材の一部を仮止片とするものであるから,仮止手段は必然的に粘着シートより小さくなる。そうすると,乙6発明等には,仮止手段の大きさを調整して粘着シートより小さくするという技術思想は含まれていないものと認めるのが相当である。以上によれば,乙6公報等の記載を考慮しても,相違点①に係る乙1発明の構成について,保護フィルムの裏面に形成された剥離部に重なるように剥離部より小さい1箇所の仮止部を配置することが,当業者において適宜設計変更することが可能な事項であるとは認められない。そうすると,相違点①に係る構成は設計事項とは認められないから,乙1発明から本件特許発明1及び3を想到することは容易であるとする被告らの上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
(イ) 乙1発明に周知技術を組み合わせることによる進歩性欠如の有無a被告らは,乙6公報ないし乙10公報によれば,小型携帯端末等の装置に保護フィルムを貼付するに際し,保護フィルムの一部に位置決めのための仮止手段を設けることは周知技術であると認められるから,相違点①が存在するとしても,上記周知技術を乙1発明と組み合わせることにより,本件特許発明1及び3に容易に想到することができた旨を主張する。bしかし,前記(ア)bのとおり,乙6公報ないし乙10公報に記載された仮止手段は剥離材の一部を仮止手段とするものであるのに対し,本件特許発明1及び3は剥離部に重なるように仮止部を配置するものであって,構造が大きく異なる。そうすると,乙6公報ないし乙10公報によって周知とされた技術は,飽くまでも剥離材の一部を仮止手段とする構造によるものにとどまり,本件特許発明1及び3のように,剥離部に重なるように仮止部を配置した構造による技術は開示されていないといわざるを得ない。したがって,乙6公報ないし乙10公報によって,小型携帯端末等の装置に貼付する保護フィルムの一部に位置決めのための仮止手段を設ける技術が当業者において周知であったと認めることはできない。cしたがって,相違点①について,乙1発明に,乙6公報ないし乙10公報によって認定される周知技術を組み合わせることにより,本件特許発明1及び3に容易に想到できたとする被告らの主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
(ウ) 延出部に関する相違点が存在することを前提とする被告らの主張について被告らは,「延出部」に関する相違点があるとしても,当該相違点に係る構成は,乙2公報ないし乙5公報の記載により周知であるから,「仮止部」に関する相違点①については設計事項又は乙6公報ないし乙10公報により認められる周知技術を,「延出部」に関する相違点については乙2公報ないし乙5公報の記載により認められる周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に発明できたとして,進歩性が欠如すると主張する。この点,乙2公報ないし乙5公報には,順に別紙乙2公報・丙12公報,別紙乙3公報・丙13公報,別紙乙4公報・丙14公報,別紙乙5公報・丙9公報のとおりの記載があると認められるが,そもそも,前記(ア)及び(イ)のとおり,相違点①が設計事項であるとも,小型携帯端末等の装置に貼付する保護フィルムの一部に位置決めのための仮止手段を設ける技術が当業者において周知であったとも認められないから,被告らの上記主張は前提を欠くものであって,理由がない。
オ相違点②についての容易想到性本件優先日の時点において,装置の表面に貼付する保護フィルムに分離ラインを設ける技術が当業者に周知であったことは,当事者間に争いがない。しかし,上記分離ラインは剥離シートにスリット加工を施すことにより形成されるものであるところ,前記ア(イ)のとおり,剥離シートにスリット加工を施した剥離シートを採用した従来技術では,剥離シートの切りカスが粘着面に付着する可能性が高くなることや,スリット加工時に白濁ラインが発生したり,基材シートにナイフ跡が入ったりする可能性があることなどの課題があったことから,乙1発明では,これらの課題を解決するため,スリット加工に代えて,切り裂き方向性のあるシートを用いることとしたものである。そのため,乙1発明に対し,上記「分離ライン」を有する構造を周知技術として適用した場合には,上記課題を解決しようとした乙1発明の趣旨を没却することとなる。そうすると,乙1発明と上記「分離ライン」を設ける周知技術とでは,技術分野の関連性は認められるものの,課題及び作用・機能に共通性があるとはいえず,乙1公報において,当該周知技術を適用する示唆があるともいえないから,当業者において,乙1発明に上記「分離ライン」を設ける周知技術を適用する動機付けがあるとは認められない。したがって,相違点②について,乙1発明に周知技術を組み合わせることにより,本件特許発明1及び3に容易に想到できたとする被告らの主張は,理由がない。
カ小括以上の次第で,乙1公報を主引用例とする進歩性欠如に関する被告らの主張には理由がない。
(2) 争点2-2(乙2公報を主引用例とする進歩性欠如)について
ア乙2公報の記載事項等(ア) 乙2公報の記載事項は,別紙乙2公報・丙12公報記載のとおりである。
(イ) 前記(ア)の記載事項によれば,乙2公報には,以下のような開示があると認められる。a液晶画面等を保護する目的で使用者が保護フィルムを貼り付ける場合,従来の技術思想では,液晶画面のほこりを除去することや,保護フィルムを液晶画面に合わせて正確に貼り付けるための位置設定が困難であった(【0002】)。b「本考案」は,液晶画面等に保護フィルムを貼り付ける際のほこり除去と位置設定を容易にするという課題を解決するため,保護フィルムの粘着層面に分割したセパレータを貼り,同セパレータの裏面にも粘着層を設けたものである(【0003】及び【0004】)。これにより,一度に液晶画面等の全面に保護フィルムを貼り付ける必要がなく,保護フィルムやセパレータの半分又は一部を残しながらの作業となるため,容易に正確な位置決めを行うことが可能になり,かつ,粘着剤付きセパレータを保護フィルムから一部剥がす際にほこりが当該粘着層面に付着して除去される(【0005】)。
イ乙2考案の認定前記アで認定した乙2公報の記載からすると,乙2公報には,以下の構成を有する乙2考案が記載されていると認められる。「液晶画面に貼り付けられて液晶画面を保護する保護フィルム1であって,粘着層1aを有する保護フィルム1と,粘着層1aを覆うと共に,分離部4を介して並んで配置されるセパレータ2及びセパレータ3を有するセパレータと,セパレータ2及びセパレータ3それぞれから保護フィルム1の外側に延びるガイド2b及び3bと,セパレータ3における保護フィルム1とは反対側の面に設けられる粘着層3aであって,セパレータ3に重なって配置され,液晶画面に貼り付け可能であって,保護フィルム1を液晶画面に仮止するための粘着層3a,を備えることを特徴とする保護フィルム1貼付用の粘着セパレータ付き保護フィルム」
ウ乙2考案と本件特許発明1及び3との対比乙2考案と本件特許発明1及び3とを対比すると,以下の点において相違すると認められ,その余の点は一致すると認められる。(相違点①)本件特許発明1及び3の仮止部が第1剥離部の外側にはみ出さないように配置されているのに対し,乙2考案の粘着層3aは保護フィルム1からはみ出している点(なお,被告らは,粘着層3aがセパレータ3の外側にはみ出していると主張するが,乙2公報によれば,これらは同じ大きさであると認められるから,同主張を採用することはできない。)。(相違点②)本件特許発明1及び3の仮止部が第1剥離部より小さいのに対し,乙2考案の粘着層3aがセパレータ3と同じ大きさとなっている点。
エ相違点②についての容易想到性被告らは,相違点②について,クリーニング機能が付加的な機能にすぎないこと,シートの中央部に1箇所だけ仮止部を設ける構成が本件優先日当時において周知であったことから,本件特許発明1及び3には進歩性が欠如すると主張する。しかし,前記ア(イ)のとおり,乙2公報には,従来技術の課題として,「埃除去と位置設定が困難であった」こと(【0002】),「本考案は,液晶画面等に保護フィルムを貼り付ける際の埃除去と位置設定を容易にすることを課題とする」こと(【0003】),そして,「考案の効果」として,「粘着材付きセパレータを保護フィルムから一部剥がす。このとき埃は該セパレータの粘着層面に付着して除去される」,「このように保護フィルムと剥離シートの間に粘着材付きセパレータを加えることで,保護フィルム貼り付け時の埃付着を防止し,また容易に正確な位置決めを行うことが可能になる」こと(【0005】)が記載されている。これらの記載によれば,乙2考案の粘着層3aは,液晶画面のほこりを除去する機能を持たせるための構造を有すべきものと認められ,かつ,それは単なる付加的機能とはいえないから,粘着層3aの大きさを液晶画面よりも小さくすると,液晶画面のほこりを除去する機能を損ない,乙2考案の技術的意義を没却することとなる。そうすると,仮に,シートの中央部に1箇所だけ仮止部を設ける構成が周知技術であり,その技術分野が乙2考案の技術分野と関連するとしても,両者の課題及び作用・機能が共通するとはいえない上,乙2公報において,当該周知技術を適用する示唆があるともいえないから,当業者において乙2考案に当該周知技術を適用する動機付けがあるとは認められない。したがって,相違点②について,乙2考案に上記周知技術を組み合わせることにより,本件特許発明1及び3に容易に想到できたとする被告らの主張は,理由がない。
オ小括したがって,相違点①についての容易想到性に関する検討をするまでもなく,乙2考案を主引用考案とする被告らの進歩性欠如の主張には理由がない。
(3) 争点2-3(丙6公報を主引用例とする進歩性欠如)について
ア丙6公報の記載事項等(ア) 丙6公報には,別紙丙6公報のとおりの記載がある。
(イ) 前記(ア)の記載事項によれば,本件明細書には,丙6発明に関し,以下のとおりの開示があると認められる。a携帯電話やPDA等の携帯用情報端末の画面等に保護フィルムを貼り付ける際,一回で定位置に正しく貼り付けることができなかったときには,定位置からずれて貼り付けられた保護フィルムを取り外す必要があるところ,その場合,接着剤の面に異質物が流入したり,指紋が付着したりするなどして,接着力が低下し,新しいフィルムを使用しなければならなくなることがあるいう問題があった。「本発明」は,このような問題を解決するために考え出されたものである。(【0008】ないし【0011】)b前記aの課題を解決するため,「本発明」は,合成樹脂材からなる保護フィルム11の底面の接着剤層12と,裏紙31の間に,透明な合成樹脂フィルム材からなる仮粘着裏紙21を有するとともに,前記仮粘着裏紙21は左右仮粘着裏紙21A,21Bに分離され,前記仮粘着裏紙21の底面には粘着剤層22が存在し,前記左右仮粘着裏紙21A,21Bそれぞれから,前記保護フィルム11のフレームの外に突出した取っ手24を有するという構成を採用したものである(【0025】ないし【0027】,【0030】,【0038】)。そして,「本発明」は,前記仮粘着裏紙21を携帯用情報端末の対象表面に付け外すことを繰り返し,仮粘着裏紙21を定位置に貼り付けてから,一側の仮粘着裏紙21Aを携帯用情報端末に貼り付けた状態で,反対側の仮粘着裏紙21Bを合成樹脂材からなる保護フィルム11から取り外した後,保護フィルム11の一側を携帯用情報端末に貼り付け,反対側の仮粘着裏紙21Aを透明保護フィルム11の接着剤層12から取り外した後,残り半分側の合成樹脂材からなる保護フィルム11を携帯情報端末の表面に貼り付け,合成樹脂材からなる保護フィルム11の携帯用情報端末の表面に貼り付ければ,合成樹脂材からなる保護フィルム11が正確に貼り付けられるという効果を奏し,加えて,仮粘着裏紙21の底面の粘着剤層22を携帯用情報端末の表面に付け外しを繰り返しながら表面に定位置をとると同時に,異質物を吸着除去して保護フィルムを貼り付けるとき清潔な面を取得することができ,左右仮粘着裏紙21A,21Bを順に取り外した後,合成樹脂材からなる保護フィルム11を押しながら接合するため,内側に起泡が形成することなく清潔かつ鮮明に,優れた透明度を有するよう保護フィルム11を携帯用情報端末の表面に貼り付けることのできるとの効果を奏する(【0033】ないし【0035】)。
イ丙6発明の認定前記アで認定した丙6公報の記載からすると,丙6公報には,以下の構成を有する丙6発明が記載されているものと認められる。
(ア) 「携帯電話等の個人携帯用情報端末の画面やキー入力部又は外部表面を保護する保護フィルムであって,底面に接着剤層12を有する保護フィルム11と,前記接着剤層22を覆うと共に,分離ラインを介して並んで配置される左右の仮粘着裏紙21A,21Bを有する仮粘着裏紙21と,前記左右の仮粘着裏紙21A,21Bから前記保護フィルム11のフレームの外に突出する取っ手24と,前記仮粘着裏紙21Aの底面に設けられた粘着剤層22であって,前記仮粘着裏紙21Aの底面に配置され,前記情報端末の表面に対して付け外しを繰り返すことが可能であって,前記保護フィルム11を前記情報端末の表面に粘着させるための前記粘着剤層22と,を備えることを特徴とする携帯用情報端末保護フィルム」(イ) 「前記(ア)の取っ手24は,前記仮粘着裏紙21Aの端部かから前記保護フィルム11のフレームの外に突出する取っ手24と,前記仮粘着裏紙21Bから前記保護フィルム11のフレームの外に突出する取っ手24と,を有することを特徴とする前記(ア)の構成を有する携帯用情報端末保護フィルム」
ウ丙6発明と本件特許発明1及び3との対比(ア) 一致点及び相違点丙6発明と本件特許発明1及び3とを対比すると,本件特許発明1及び3においては,仮止部が第1剥離部より小さいという構成を有するのに対し,丙6発明においては,上記仮止部に相当する粘着剤層22が,上記第1剥離部に相当する仮粘着裏紙21Aの全体に配置されている点において相違すると認められ,その余の点においては一致すると認められる。
(イ) 相違点に関する補足説明a原告は,丙6発明の仮粘着裏紙21Aにおける保護フィルム11の接着剤層を覆う部位が本件特許発明1及び3における第1剥離部に,丙6発明の取っ手24が延出部に相当するところ,取っ手24の裏面には粘着層22が設けられているから,丙6発明は,本件特許発明1及び3における仮止部に相当する部分が,その第1剥離部に相当する部分の外側にはみ出して設けられている点においても,本件特許発明1及び3と相違すると主張する。しかし,丙6公報に記載された請求項において,仮粘着裏紙21と取っ手24にはそれぞれ別の符号(21と24)が付されていることからも明らかなとおり,両者は携帯用情報端末保護フィルムを構成する要素として明確に区別されている。そして,丙6公報において,請求項1では「仮粘着裏紙21の底面には粘着剤層22を有する」と,請求項4では「仮粘着裏紙21の左右仮粘着裏紙21A,21Bには,保護フィルム11のフレームの外側に突出する取っ手24を有することを特徴とする,請求項1に記載の携帯用情報端末保護フィルム」と,それぞれ記載されているものの,取っ手24の底面にも粘着剤層22が配置されていることについては何ら記載されていない。このことは,取っ手24に関する丙6公報の【0030】の記載においても同様である。また,取っ手24の底面に粘着剤層が配置されなくとも,取っ手としての機能は何ら損なわれることはなく,かえって,粘着剤層が配置されることにより,使用者が取っ手を把持して剥離する際にその手指に粘着剤が付着し,剥離の操作性が悪くなるといえる。以上によれば,丙6発明の取っ手24の底面には粘着剤層が設けられていないと認めるのが相当である。したがって,丙6発明の構成は前記イのとおりと認められ,本件特許発明1及び3と丙6発明の相違点は前記(ア)のとおりと認められる。b原告は,丙6発明の仮粘着裏紙21Aが透明であることが丙6公報によって開示されている旨も主張するが,丙6公報の記載から,仮粘着裏紙21Aが透明の部材によることに限定されているとは認めることはできず,原告の上記主張は採用できない。
エ相違点についての容易想到性(ア) 相違点に係る構成が設計事項か否かについて被告らは,丙6発明において,仮粘着裏紙21Aの粘着剤層22の大きさを仮粘着裏紙21Aより小さくすることは設計事項にすぎないから,前記ウ(ア)の相違点が存在するとしても,当業者は,丙6発明に基づいて容易に本件特許発明1及び3に想到できたものであり,進歩性を欠く旨を主張する。しかし,前記(1)エ(ア)bと同様の理由により,丙6発明においても,保護フィルムの裏面に形成された剥離部に重なるように,剥離部より小さい1箇所の仮止部を配置することが設計事項であるとは認められない。加えて,前記ア(イ)bで認定したとおり,丙6発明は,仮粘着裏紙21Aの粘着剤層22を携帯用情報端末の画面等に付け外しすることを繰り返すことによって,上記画面等に付着した異質物を吸着除去して,携帯用情報端末の表面を清潔にする効果を奏するものである(丙6公報の【0033】ないし【0035】及び【0039】)。この点,異質物を除去する効果の程度は,付け外しする粘着剤層の大きさや位置により左右されるのは明らかであり,上記の効果を奏するためには,丙6発明における粘着剤層22と保護フィルム11を同じ大きさにする必要がある。そうすると,丙6発明において,仮粘着裏紙21Aの粘着剤層22の大きさを仮粘着裏紙21Aより小さくすることは,上記画面等に付着した異質物を除去する効果を損なうものである。このような観点からも,丙6発明の仮粘着裏紙21Aの粘着剤層22の大きさを仮粘着裏紙21Aより小さくすることが設計事項であると認めることはできない。なお,被告らは,本件特許発明1及び3では,そもそも異質物の吸着除去は課題とされていないところ,丙6発明の効果のうち少なくとも保護フィルムを定位置に貼付するという点との関係では,粘着剤層22と保護フィルム11が同じ大きさを有する必要はない旨を主張する。しかし,上記のとおり,丙6発明が,携帯用情報端末の表面等の異質物を吸着除去するという効果を奏するものである以上,本件特許発明1及び3における解決すべき課題のいかんを問わず,丙6発明において,仮粘着裏紙21Aの粘着剤層22の大きさを仮粘着裏紙21Aより小さくすることにより,上記効果が損なわれることに変わりはないというべきである。したがって,前記ウ(ア)の相違点に係る構成は設計事項とは認められないから,丙6発明から本件特許発明1及び3を想到することが容易である旨の被告らの上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
(イ) 丙8公報を副引用例とする進歩性欠如の有無a丙8公報の記載事項等丙8公報には,別紙丙8公報のとおりの記載があり,これによれば,丙8公報において,以下の構成を有する丙8副引用発明が記載されていると認められる。「電子ディスプレイパネルの表面に貼り付けられる光学フィルム12が有する接着剤層14を覆うとともに,分離ラインを介して並んで配置される分離ライナーの第2の部分38bにおける上記光学フィルム12とは反対側に設けられるPSA領域39を備えることを特徴とする光学フィルム貼付用のフィルム貼付構造体であること,上記PSA領域39は,上記第2の部分38bの外側にはみ出ないように上記
第2の部分38bに重なって配置され,電子ディスプレイパネルに貼り付け可能であって,上記光学フィルムを電子ディスプレイパネルの表面に接着するためのものであること,上記PSA領域39の大きさは上記第2の部分38bよりも小さいこと」b丙6発明に丙8副引用発明を組み合わせることの可否被告らは,丙6発明と丙8副引用発明が技術分野や課題,作用・効果において共通し,他方,丙8副引用発明を丙6発明に適用しても,丙6発明の作用・効果が害されるなどの事情はないから,前記ウ(ア)の相違点に関し,当業者は,丙6発明に丙8副引用発明のPSA領域39が剥離ライナー38bより小さいという構成を組み合わせることにより,本件特許発明に容易に想到することができたと主張する。しかし,前記(ア)のとおり,丙6発明において,仮粘着裏紙21Aの粘着剤層22の大きさを仮粘着裏紙21Aより小さくすることは,画面等に付着した異質物を除去する効果を損なうものである。そうすると,丙6発明と丙8副引用発明は,技術分野が関連するとはいえても,課題及び作用・機能が共通するということはできず,丙6公報及び丙8公報のいずれにおいても,両発明を組み合わせることについての示唆があるとはいえないから,当業者において,相違点に係る丙6発明の構成に丙8副引用発明の構成を適用する動機付けがあるとは認められない。したがって,丙6公報を主引用例とし,丙8公報を副引用例とする進歩性欠如の主張は,理由がない。
(ウ) 丙15公報を副引用例とする進歩性欠如の有無a丙15公報の記載事項等丙15公報には,別紙丙15公報のとおりの記載があり,これによれば,被告らの主張するとおり,丙15公報には,本件特許発明1及び3の「仮止部」に相当する仮留め部16が剥離性シート材13から淵辺縁部15を除いた部分より小さいという構成を有する丙15発明が記載されていることが認められる。b丙6発明に丙15発明を組み合わせることの可否被告らは,丙6発明と丙15発明が,位置ずれを防止するという課題や作用・効果において共通し,他方,丙15発明を丙6発明に適用することを阻害する事情はないから,丙6発明に丙15発明の前記aの構成を組み合わせることにより,当業者は,本件各特許発明に容易に想到することができると主張する。しかし,前記(イ)bと同様の理由により,当業者において,丙6発明に丙15発明を組み合わせる動機付けがあるとは認められない。したがって,丙6公報を主引用例とし,丙15公報を副引用例とする進歩性欠如の主張は,理由がない。
(エ) 丙7公報等を副引用例とする進歩性欠如の有無丙7公報には,別紙丙7公報のとおりの記載があり,これによれば,丙7発明の構成として,被告らが主張するとおりのものが開示されていることが認められる。そして,被告らは,本件特許発明1及び3の「延出部」は,前記第3の2(3)(被告らの主張)エのとおり解釈すべきであるから,「延出部」の構成について,本件特許発明1及び3と丙6発明が相違するとした上で,丙7公報には当該相違点に相当する「延出部」の構成が開示されており,かつ,丙7発明の技術分野は接着体一般の剥離紙であり,丙6発明の技術分野を含む技術分野を共通とするなど,丙6発明に丙7発明を適用する動機づけもあるから,「延出部」に関する上記の相違点に丙7発明を適用し,「仮止部」に関する相違点について丙8副引用発明又は丙15発明を適用することによるか,「仮止部」については設計事項と認められることによって,進歩性が欠如すると主張する。しかし,「仮止部」に関する相違点が設計事項とは認められないこと,丙8副引用発明又は丙15発明を副引用例として丙6発明に適用することがいずれも認められないことは,前記(ア)ないし(ウ)で説示したとおりであるから,被告らの上記主張には理由がない。したがって,丙6公報を主引用例とし,丙7発明及び丙8副引用発明又は丙15発明を副引用例とする進歩性欠如の主張は,理由がない。
オ小括以上の次第で,丙6公報を主引用例とする進歩性欠如に関する被告らの主張にはいずれも理由がない。
(4) 争点2-4(丙8公報を主引用例とする進歩性欠如)について
ア丙8公報の記載事項等(ア) 丙8公報には,別紙丙8公報のとおりの記載がある。
(イ) 前記(ア)の記載事項によれば,丙8公報には,以下のような開示があると認められる。a大型ディスプレイパネルに用いられる光学フィルムは,面積が大きいので,空気の入り込みや接着剤層上に望ましくない破片が堆積することを最小限にしようとする際に,折れたりしわが寄ったりすることなくフィルムを取り扱うことが難しく,また,フィルムとパネルとをうまく位置合わせすることは不可能に近い。これに対し,「本発明」の方法によれば,大型の光学フィルムを大型ディスプレイパネルに比較的容易に貼り付けることができる上,本貼付する作業のどの時点においても,接着剤層の露出及び汚染をほとんど伴うことがなく,かつ,気泡がそれ自体で消散し得る。b前記aの「大型」とは,光学フィルムが貼り付けられるディスプレイパネルの領域を指し,その領域は,少なくとも17インチの対角寸法であり,82インチの対角寸法で16:9のアスペクト比の可視領域を備え得る。c丙8公報の図6で示される例示的な積層体30は,光学基材と基材上に配置された接着剤層とを含む光学フィルム32を有する。また,積層体30は,第1の部分38a及び第2の部分38bを有する分割剥離ライナーを含み,同ライナーは,接着剤層上に配置される。そして,第2の部分38b上には,PSA領域39が配置されており,これらの領域は,光学フィルム32の接着層の反対側にある。丙8公報の図7aないし7dが開示する実施形態において,積層体30は,PSA領域39がパネルと接触した状態でディスプレイパネル上に配置される。これにより,第2の部分30bが容易に移動しないようにする。剥離ライナー38の第1の部分38aは,接着剤層から分離されて,接着剤層の一部を露出する。第1の部分38aが除去された後,接着剤層の露出部分は,ディスプレイパネルの一部と接触する。その後,
第1の部分30bを持ち上げ,剥離ライナー38の第2の部分38bを接着剤層から分離して接着剤層の残りの部分を露出させ,接着剤層の残りの部分をディスプレイパネルと接触させて,光学フィルムがディスプレイパネルの少なくとも約95%を覆うようにする。そして,剥離ライナー38の第2の部分38bが接着剤層から除去された後,光学フィルム32の残りの部分がディスプレイパネルに接着される。
イ丙8主引用発明の認定(ア) 前記アで認定した丙8公報の記載からすると,丙8公報には,以下の構成を有する丙8主引用発明が記載されていると認められる。「①82インチに適する少なくとも17インチ以上の大型電子ディスプレイデバイスの表面に貼り付けられて上記表面を保護する保護フィルム等の光学フィルムであって,接着剤層14を有する光学フィルム12と,
②上記接着剤層14を覆うとともに分離ラインを介して並んで配置される第1の部分38a及び第2の部分38bを有する分割剥離ライナーと,上記第2の部分38bにおける上記光学フィルムとは反対側の面に設けられるPSA領域39であって,
③上記第2の部分38bの外側にはみ出ないように上記第1の部分に重なって配置され,上記82インチに適する少なくとも17インチ以上の大型ディスプレイパネルに貼り付け可能であって,上記光学フィルムを上記82インチに適する少なくとも17インチ以上の大型電子ディスプレイパネルの表面に接着するための複数のPSA領域39を備えることを特徴とする光学フィルムの貼付用のフィルム貼付構造体」(イ)aこれに対し,原告は,前記(ア)①の構成について,貼付の対象となるディスプレイは82インチに適する少なくとも17インチ以上の大型ディスプレイであると主張するのに対し,被告らは,そのような限定を加えることを争う。また,原告は,前記(ア)③の構成について,丙8主引用発明ではPSA領域39が,前記(ア)の分離ラインの近くと分離ラインから離れた位置の4箇所に配置されると主張するのに対し,被告らは,上記PSA領域39の数は1又は2以上であると主張する。bそこで,まず,前記(ア)①の構成について検討すると,丙8公報には,「分野」として「光学フィルムを大型ディスプレイに適用する方法に関する」と明記され,「背景技術」及び「発明の詳細な説明」では,大型ディスプレイパネルに光学フィルムを貼付する際の課題について記載されている。加えて,丙8公報の「発明の詳細な説明」では,「大型」の定義を「少なくとも162mm(17インチ)の対角寸法で,一般的なアスペクト比…を有する。」,「大型ディスプレイパネルは…(17,…,又は82インチ)の対角寸法で16:9のアスペクト比の可視領域を備え得る。」等と記載されている。こうした記載内容に照らせば,丙8公報が前提とする電子ディスプレイデバイスの大きさが「82インチに適する少なくとも17インチ以上の大型」とされていることは明らかである。次に,前記(ア)②の構成について検討すると,丙8公報には,PSA領域39に関して,「発明の詳細な説明」や「請求項」において,「regions 39 of pressure sensitive adhesive(PSA)」(丙8公報7頁,8頁,請求項16(b) ,(c) ,(f) )などと一貫して複数形(「regions」)によって記載されており,他方で,PSA領域39が1箇所のみであることをうかがわせる記載は存在しないこと,剥離ライナーについては「1つ又は複数の」(one or more release liners)という表現が用いられていること(丙8公報7頁31行目)からすれば,丙8公報が開示する構造は,PSA領域が複数のものに限られるものと認めるのが相当である。もっとも,仮止部の個数に関しては,図6には4箇所に配置された実施形態が開示されているものの,これは実施例の一つにすぎないから,直ちには,丙8主引用発明において仮止部が4箇所であると認める根拠にはならず,その他,丙8公報には,仮止部の個数について何ら具体的な記載はない。したがって,丙8公報は,複数のPSA領域39が配置される構成を開示するものと認めるのが相当である。c以上によれば,丙8公報に記載された丙8主引用発明の構成は,前記(ア)のとおりであると認めるのが相当である。
ウ丙8主引用発明と本件特許発明1及び3との対比前記イを前提に,丙8主引用発明と本件特許発明1及び3とを対比すると,以下の相違点が存在するものと認められ,その余の点については,両者の構成が一致するものと認められる。(相違点①)本件特許発明1及び3が,第1剥離部及び第2剥離部それぞれから保護シートの外側に延びる延出部を有するのに対し,丙8主引用発明は延出部を有しない点。(相違点②)本件特許発明1及び3の第1剥離部が備える仮止部は1箇所であるのに対し,上記第1剥離部に相当する丙8主引用発明の第2の部分38bは,PSA領域39を複数備える点。
エ相違点②についての容易想到性事案にかんがみ,相違点②についての容易想到性から検討する。
(ア)a被告らは,本件特許発明1及び3と丙8主引用発明との間に相違点②が存在するとしても,丙8主引用発明を実施するに当たり,PSA領域39の個数,位置及び大きさを適宜調整するのは極めて当然であり,小型デバイスを貼付対象とする場合,PSA領域を1箇所にすることは当業者にとって設計事項にすぎないと主張する。bしかし,前記ア(イ)のとおり,丙8主引用発明は,丙8主引用発明は少なくとも17インチの,最大では82インチの対角寸法を有する大型のディスプレイパネルに保護フィルム等の光学フィルム32を貼付する方法に係る発明である。このような大型のディスプレイパネルに,PSA領域39を配置した第2の部分38bを備える光学フィルム32を貼付する場合,そのPSA領域39が1箇所にとどまると,同領域によって仮止めされない第2の部分38bの面積が大きくなるため,PSA領域39によってディスプレイパネルに仮止めした後に
第1の部分38aや第2の部分38bを接着剤層から分離して光学フィルムをディスプレイパネルに貼り付ける際,仮止めした光学フィルム32がずれたり,たわんだりなどして,的確な仮止めや貼付けを実現できないおそれがある。他方,光学フィルム32に生じ得る上記のずれやたわみを回避しようとして,PSA領域39の面積を拡大した上で第2の部分38bの1箇所に配置しようとしても,PSA領域39自体が大きくなる結果,しわやたわみのないようにディスプレイパネルに仮止めすることが困難となり,かつ,仮止めの作業を修正するためにPSA領域39を貼り直そうとしても,同領域自体が大きいため,貼り直す作業も困難であるなど,作業性が著しく低下するものと認められる(甲14)。以上によれば,丙8主引用発明が対象とする大型のディスプレイパネルに対し,光学フィルム32をしわやたわみを生じさせることなく的確に貼付するためには,仮止めのための構成であるPSA領域39を複数配置することによって,仮止めの作業の際にPSA領域39自体にしわやたわみが発生することを防止しつつ,光学フィルム32をディスプレイパネルに貼付する際に第1の部分38a,第2の部分38b及び光学フィルム32にしわやたわみが発生することをも防止できるような構成とすることが必要であるといえる。そうすると,丙8主引用発明を実施する際,PSA領域39を複数個とするか,1個とするかという選択について,当業者において任意に決定し得る設計事項であると認めることはできない。c被告らは,前記aの主張に関連して,丙8主引用発明は17インチのディスプレイパネルをも対象としており,そのような比較的小さなサイズのディスプレイパネルに関しては,PSA領域39領域を比較的小さくし,かつ,1箇所のみに設けることとしても,適切に位置決めをすることができるとすると主張し,これに沿う実験結果を提出する(丙16)。確かに,この実験では,23インチからなるディスプレイパネルに対して比較的小さい1箇所の仮止めのための構成による位置決めが実現されている。しかし,上記の実験結果は1例のみにとどまる上,当該実験に用いられたディスプレイ用保護フィルムは保護フィルムの中央に分離ラインが設けられているのに対し,丙8主引用発明は「接着剤層から剥離ライナーを分離して接着剤層の一部を露出され,露出部分は接着剤層の総面積の25パーセント未満を構成する」というものであって(丙8公報の請求項1),分離ラインの位置が大きく異なるから,その実験結果を直ちに援用することはできない。また,被告らは,丙6発明における仮止手段として設けられるのは仮粘着裏紙21Aの1箇所であること,丙15発明における仮止め部16が2箇所であることを根拠に,前記aのとおりの主張をする。しかし,前記(3)のとおり,丙6発明では,その課題を解決するために,仮止手段として仮粘着裏紙21Aの全体を配置するという構成を採らざるを得ないのであって,丙6発明に開示されているのは,その個数や大きさを当業者の任意の選択に委ねることができない技術である。そうすると,丙6発明を根拠として,丙8主引用発明のPSA領域39の個数及び大きさを第2の部分38bより小さい1箇所のものとすることが設計事項に当たると認めることはできない。また,丙15発明では,被告らも認めるとおり,2箇所の仮止め部16が配置されているにとどまり,丙15発明自体が1箇所の仮止め部16を有する構成を示すものではないから,丙15発明を根拠として,丙8主引用発明のPSA領域39の個数及び大きさを第2の部分38bより小さい1箇所のものとすることが設計事項に当たると認めることもできない。したがって,被告らの主張立証を踏まえても,PSA領域39を1箇所に設置することを選択することが当業者にとって設計事項であると認めるには足りないというべきである。
(イ) 以上のとおり,本件特許発明1及び3と丙8主引用発明の相違点②は設計事項とは認められない。
オ小括被告らによる丙8公報を主引用例とする進歩性欠如の主張は,いずれも,相違点②に係る本件特許発明1及び3の構成が設計事項に属することを前提とするものである。したがって,前記エのとおり,上記構成が設計事項と認められない以上,争点2-4に関するその余の点について検討するまでもなく,被告らの上記進歩性欠如の主張には理由がない。
(5) 争点2-5(丙9公報を主引用例とする進歩性欠如)について
ア丙9公報の記載事項等丙9公報には,別紙乙5公報・丙9公報のとおりの記載があり,これによれば,丙9公報において,以下の構成を有する丙9発明が記載されていると認められる。「スクリーンに貼り付けられて前記スクリーンを保護する保護シートであって,粘着層32を有するスクリーン保護膜30と,前記粘着層32を覆うと共に,スリット35を介して並んで配置される第二の離型膜342及び第一の離型膜341を有する離型膜と,前記第二の離型膜342及び前記第一の離型膜341それぞれから前記スクリーン保護膜30の外側に延びる突出部とを備えることを特徴とするスクリーン保護シート貼付用のシート貼付構造体であることを開示するとともに,前記突出部は,前記第二の離型膜342から前記スクリーン保護膜の外側に延びる第二の突起部344と,前記第一の離型膜341から前記スクリーン保護膜30の外側に延びる第一の突起部343とを有することを特徴とするスクリーン保護シート貼付用のシート貼付構造体」
イ丙9発明と本件特許発明1及び3との対比前記アを前提に,丙9発明と本件特許発明1及び3とを対比すると,本件特許発明1及び3が,「前記第1剥離部における前記保護シートとは反対側の面に設けられる仮止部であって,前記第1剥離部の外側にはみ出ないように前記第1剥離部に重なって配置され,前記装置に貼り付け可能であって,前記保護シートを前記装置の表面に仮止めするための前記
第1剥離部よりも小さい1箇所の仮止部」を有するのに対し,丙9発明は「仮止部」を有さない点が相違し,その余の構成については一致するものと認められる。
ウ相違点についての容易想到性(ア) 被告らは,
①丙9発明と丙8副引用発明は技術分野,解決するべき課題,作用・効果が共通するから,丙9発明に,丙8副引用発明のPSA領域39の構成を組み合わせることが可能である,
②丙8副引用発明において,PSA領域39を1箇所に配置することとすることは当業者が任意に選択し得る設計事項と認められるとして,丙9発明から本件特許発明1及び3を想到することは容易である旨を主張する。しかし,丙8副引用発明において,PSA領域39を1箇所に配置することが設計事項と認められないことは,前記(4)で説示したとおりである。したがって,丙9公報を主引用例とする被告らの進歩性欠如の被告らの主張は,前提を欠くものであって,理由がない。
(イ) なお,被告らは,丙7公報をさらに副引用例とする進歩性欠如の主張をするが,当該主張についても,丙8副引用発明においてPSA領域39を1箇所に配置することが設計事項と認められることを前提とするものであるから,前記(ア)と同様に理由がない。
エ小括以上のとおり,丙9公報を主引用例とする進歩性欠如に関する被告らの主張には,いずれも理由がない。
(6) 争点2-7(サポート要件違反及び実施可能要件違反)について被告らは,原告の主張によれば,本件特許発明1及び3を82インチのような大型ディスプレイへの貼付に用いることはできないこととなるとの理解を前提に,本件特許発明1及び3にはサポート要件違反及び実施可能要件違反の無効理由が存在する旨を主張する。しかし,原告の主張を全体としてみれば,原告は,本件特許発明1及び3を上記大型ディスプレイに適用することができないと主張するのではなく,本件特許発明1及び3の主要な貼付対象としては,ゲーム機や携帯電話等の小型ディスプレイが想定されていることを強調する趣旨の主張をするものであることは明らかである。このような理解は,保護シートの位置ずれを低減することができるシート貼付構造体を提供するという本件特許発明1及び3の技術的意義が,ディスプレイの大きさのいかんにより限定されるものではないこととも整合する。以上の次第で,被告らのサポート要件違反及び実施可能要件違反の主張は,原告の主張を正解しないものであり,前提を欠くものであって,いずれも理由がない。
(7) 結論以上の次第で,本件特許発明1及び3は,特許無効審判により無効とされるべきものとは認められない。
4争点3(損害の発生及び額)について(1) 特許法102条3項による損害額
ア特許法102条3項による損害額の算定方法(ア) 特許法102条3項は,「特許権者…は,故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定する。そうすると,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。そして,実施に対し受けるべき料率は,
①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,
②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,
③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,
④特許権者と侵害者の競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
(イ) これに対し,被告らは,本件特許発明1及び3については,侵害当時から本件各特許発明を回避するための代替的技術が存在し,かつ,それに要する費用は容易に算定可能であったから,いわゆるコストアプローチに基づいて販売単位当たりの実施料を計算するべきであると主張する。しかし,特許法102条3項は,特許侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,通常の実施料率に比べて自ずと高率になるものと見込まれるところ,被告各製品のクイックスコープを2個に分割することで本件特許発明1及び3の技術的範囲に属さないようにするために要する追加費用を基礎とするという被告らの算定方法は,特許侵害を前提に事後的に特許権者が受けるべき金銭の額という視点を捨象するものといわざるを得ず,このような算定方法に基づき算定された費用では,特許権者が請求し得る最低限度の損害額を満たさないものというほかはない。したがって,算定方法に関する被告らの上記主張を採用することはできず,前記(ア)で説示した原則的な算定方法により,同法102条3項による損害額を算定するのが相当である。
イ被告各製品の売上額(ア) 弁論の全趣旨によれば,被告が販売した被告各製品の数量,そのうち返品がなされた数量,被告が被告各製品を販売したことによる売上額は,別紙売上等一覧表記載のとおりであると認められる。これに対し,原告は,BCN社の調査結果に基づき算定された額をもって,被告が被告各製品を販売したことによる売上額とするべきである旨を主張する。しかし,上記調査結果は,被告各製品が取引される小売市場の全部を反映したものではないばかりか,上記調査結果により明らかにされた売上額は,そもそも被告自身の販売によるものではない。この点につき,原告は,卸販売価額及び店頭消化率がいずれも6割であるとした上,その数値を前提として,被告が販売したことによる売上額を推計するが,上記卸販売価額及び店頭消化率が6割であることを客観的に裏付ける証拠はないから,そのような推計を採用することはできない。
(イ) 被告らは,返品された製品の額を控除して算定された売上額(別紙売上等一覧表●(省略)●の欄に記載された額である●(省略)●円)から,被告が家電量販店にリベートとして支払った金員を控除した額を基礎に,侵害品の売上高を算定すべきであると主張する。そこで検討すると,証拠(乙13及び17)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告各製品を販売する際,販売店に対しリベートとして販売価格に対する一定の割合の金員を支払っていたこと,その支払率は別紙売上等一覧表●(省略)●記載のとおりであり,リベートを支払った後の売上げの額は同●(省略)●記載のとおりであること,家電製品の流通実態として,メーカーと大手の家電量販店との間で事実上の値引きとなるリベートの支払交渉が行われることが多いこと(乙13),販売価格の対象となるロイヤルティベースには,純販売価格が採用されることが比較的多いとされ,控除費用項目としてリベートが含まれ得ること(乙17)が認められる。以上の認定事実に照らせば,本件においては,被告が家電量販店にリベートとして支払った金員を控除した額を基礎に,侵害品の売上高を算定すべきであり,具体的には,別紙売上等一覧表●(省略)●の欄に記載された●(省略)●円と認めるのが相当である。
ウ実施に対し受けるべき料率(ア) 証拠(甲17,甲18の2ないし5,丙23の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。a「ロイヤルティ料率データハンドブック」には,司法決定によるロイヤルティ料率に関し,「(1) 日米長期データ」のうち「①日本・司法決定(1997~2006年累計)」として,全産業の平均値が4.1%,中央値が3.0%,最高値が12.0%,件数が70件であること,「(2) 司法決定ロイヤルティ料率調査結果」のうち「(i) 日本」の「① 産業別司法決定ロイヤルティ料率(2004~2008年)」として,全産業の平均値が4.2%,最大値が20.0%,最小値が0.3%,件数が46件であることが記載されている(甲17)。bスマートフォンの液晶を保護するフィルムの販売者は,フィルムの機能として,衝撃を吸収すること,液晶が発するブルーライトをカットすること,指紋が付きづらいこと,気泡が入りにくいこと,光の反射を防止すること,傷が付きにくいこと,貼り付けの位置合わせが容易であること及び貼り付けに用いるクロスやヘラ,ホコリ取りシールが同梱されていること等を製品の概要や特徴として挙げている。(甲18の2ないし5)cスマートフォンの液晶を保護するフィルムの使用者が,貼りやすさやフィルムの使用感についての感想をインターネット上に投稿している(甲18の1,甲21の1,甲21の2,甲22,丙21の1ないし10)。特に,被告各製品の使用者の感想として貼りやすさを評価するものが散見される(丙23の1ないし5)。
(イ) 前記(ア)の認定事実及び本件に表れた諸事情に基づき,実施に対し受けるべき料率について検討する。まず,原告が本件特許権の実施を許諾した例があることを認めるに足りる証拠はなく,また,本件全証拠によっても,スマートフォンの液晶を保護するフィルムに関する特許発明の実施許諾料に関する業界相場は明らかでないものの,前記(ア)aのとおり,全産業のロイヤルティ料率の平均値が4パーセント台前半であることをうかがわせる統計資料が存在する。また,前記(ア)cのとおり,スマートフォンの液晶を保護するフィルムの使用者は,フィルム自体の機能である衝撃の吸収やブルーライトのカット等と共に,フィルムを的確に貼付しやすいか否かに関しても,相当の関心を有するものであることがうかがわれる。そして,前記(ア)bのとおり,メーカーも,上記の機能の宣伝広告と併せて,フィルムの貼りやすさを強調した宣伝活動を行っていることがうかがわれる。そうすると,フィルムの貼りやすさは,フィルム自体の機能と同程度の顧客誘引力を有するものであって,貼りやすい構造を有するフィルムは,その売上げ及び利益に相当程度貢献していることが推認される。そして,本件特許発明1及び3は,前記1(2)イのとおり,装置に保護フィルムを貼付する際の位置ずれを防止することを課題とし,この課題を解決するものであるから,フィルムに関する発明として重要であるということができ,フィルムの顧客誘引力を生じさせる一要素として売上げ及び利益への貢献度が高いというべきである。さらに,原告も被告もゲーム機又はスマートフォンの液晶画面を保護するフィルムを販売又は販売の申出をする株式会社であるから,競業関係にあるものと認められる。以上の諸事情を総合すれば,特許権侵害をした者に対して事後的に定められる,実施に対し受けるべき料率は,本件においては5%と認めるのが相当である。
(ウ) 被告らは,本件訂正前の本件特許発明1及び3には無効原因があるから,上記各発明の特徴を見出すとしても,それは,仮止部が第1剥離部より小さく,かつ1箇所であることにとどまり,その技術的価値は極めて限定的であること,仮止部が上記の構成を有することが売上等に貢献していたとはおよそ観念できないこと,当事者間には特に実施料を高額にしなければならないという特段の営業的事情がないことから,実施に対し受けるべき料率はごく低廉なものになると主張する。しかし,本件特許発明1及び3は,仮止部が第1 剥離部より小さい1箇所に設けられたことのみを発明特定事項とするものではなく,前記前提事実(4)ア及びイのとおり分説される構成要件を一体として備えることによって,前記1(2)イの保護シートの位置ずれを低減することができるシート貼付構造体を提供するという目的を達成するものである。被告らの上記主張は,この観点を捨象するものであって,相当ではない。しかも,本件特許発明1及び3は,第1剥離部より小さい1箇所の仮止部を有するという構成を採ることにより,仮止部が第1剥離部と同じ大きさであったり,仮止部が複数個に及んだりする構成を採る場合と比較して,仮止めの作業を簡易迅速に行うことができるようになるほか,
第1剥離部を剥離して保護シートを貼付する作業が容易になるなどの効果を奏するといえるところ,こうした効果が,本件特許発明1及び3が目的とする保護シートの位置ずれの低減に直接的に資するものであることは明らかであり,その技術的な価値は大きいものというべきである。そして,前記(イ)のとおり,携帯電話の保護フィルムにおいては,貼りやすい構造を有することが売上げ及び利益に相当程度貢献していることが推認されることに照らせば,本件特許発明1及び3の仮止部の構成自体も,その売上げ及び利益に相当の影響を与えているものと評価すべきである。また,前記(イ)のとおり,原告と被告との間には競業関係が認められることからすると,当事者間には特に実施料を高額にしなければならないという特段の営業的事情がないということはできない。以上の次第で,被告らの上記主張は採用することができないというべきであり,その他,損害額に関し被告らが種々主張する事情も,前記(イ)の認定を左右するものではない。
エ小括以上によれば,基準とするべき売上高は●(省略)●円となり,実施に対し受けるべき料率は5%となるので,特許法102条3項による損害額は,両者を乗じた額である●(省略)●円と認められる。
(2) 弁護士費用被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,前記(1)により認定される損害額の約1割に相当する●(省略)●円を下らないと認めるのが相当である。
(3) 結論よって,原告の被告に対する損害賠償請求は,特許法102条3項による損害の額(●(省略)●円)及び弁護士費用(●(省略)●円)の合計額である7116万8343円及びこれに対する不法行為後の日である令和元年5月27日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。
5争点4(差止請求及び廃棄請求の当否)について(1) 前記2及び3で説示したとおり,被告各製品は本件特許権を侵害するものであるところ,被告は,被告各製品を販売して●(省略)●円を売り上げたこと,本件全証拠によっても,被告が本件特許権を侵害する被告各製品を一切保有していないとまでは認められないこと,被告において,今後,被告各製品を販売し,販売の申出をすることが困難であることをうかがわせる事情が見当たらないことからすると,被告には,終売した製品を含め,被告各製品を販売し,販売の申出をするおそれがあると認められる。したがって,被告が被告各製品を販売し,又は販売の申出をすることを差し止めるとともに,被告各製品を廃棄する必要性がある。
(2) さらに,原告は,被告各製品の製造の差止めを請求する。確かに,被告は,スマートフォンのアクセサリーの製造を業とするものではあるが,被告各製品の製造は行っていない上,補助参加人その他の製造業者に被告各製品の製造を委託し,被告各製品を仕入れて,家電量販店等に納入したものにすぎず,被告がそれらの業者の行為を支配していたといった事情を認めるに足りる証拠もない。そうすると,被告が被告各製品を製造したとは認められず,被告が被告各製品の製造の主体であると評価することもできないというべきである。したがって,被告に対し,被告各製品の製造を差し止める必要性は認められない。
(3) よって,原告の被告に対する差止め及び廃棄請求は,被告各製品の販売及び販売の申出の差止め並びに被告各製品の廃棄を求める限度で理由がある。
第5 結論
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官國分隆文
裁判官小川 暁
裁判官佐々木 亮(別紙一覧は省略)
出典: 平成31年(ワ)第10945号 裁判所ウェブサイト掲載の判決文 →