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判例調査 機械

営業秘密(製造機械図面データ)

10% 認定料率
事件番号 平成27年(ワ)第30656号
判決日 2021/06/04
裁判所 東京地裁
認容額 合計:1億9531万2710円

📋 判決要旨

判決日: 2021年6月4日 | 裁判所: 東京地裁 | 料率: 10%(不正競争防止法5条3項3号・インカム・アプローチによるライセンス料率)


ラベラー(=容器にラベルを自動で貼付する包装機械)の製造販売を行う光洋自動機が、法人2社(京都製作所・IDK)および個人11名(うち原告元従業員8名、ほか京都製作所取締役・IDK取締役・IDK副社長)に対し、営業秘密である設計図面データ・原価計算データの不正取得・開示・使用の差止め・損害賠償を求めた事件。原告の元営業本部長が中心となり主要従業員6名をIDK社に引き抜き、3名のHDD(ハードディスク)に複製した図面データを持ち出して、6案件の競合ラベラーを製造販売した。刑事事件(不正競争防止法違反)での有罪判決あり。差止請求は認容され、データの使用差止・廃棄が命じられた。


損害の決め方:(不正使用分=5条2項、不正開示分=5条3項3号の2層構成)


  • 📊 【不正使用分】不競法5条2項(限界利益): 被告が図面データを使用して製造・販売した6案件のラベラーについて、受注額から部品費を控除した限界利益で算定 → 合計1億4031万5649円(廣東製薬1号機2789万円、テルモ富士工場機1027万円、昭和薬品化工機1730万円、ユニメッド機978万円、廣東製薬2号機7477万円、廣東製薬部品28万円)
  • 覆滅(=侵害者の利益のうち、営業秘密以外の要因による部分を差し引くこと)の主張: 被告らは「独自設計部分がある」「営業努力で受注した」「図面データの寄与割合はわずか」「周知慣用技術が含まれる」等の覆滅事由を主張したが、裁判所はいずれも認めず。IDK社にはラベラーの独自製造実績がなく、原告データなしでは事業展開が困難であったと認定
  • 📊 【不正開示分】不競法5条3項3号(インカム・アプローチ): HDD内に持ち込まれたが製品製造には使われなかったデータについて、将来ライセンスした場合の収益を現在価値に引き直して算定。基礎売上は不正使用の実績受注額1億5620万円(重複排除のため実際の受注額を控除)、ライセンス料率10%割引率10%有益性維持期間5年3724万1361円
  • 📊 基準: 現に使用されたデータの売上実績を基礎に、未使用データ全体のライセンス価値を推計 → ライセンス料率10%
  • 📉 引き下げ要因: 体系的に未整理、未使用データは過去の案件ファイルの蓄積であり整理されたパッケージではないことから10%にとどめた
  • 過失相殺の主張: 被告らは原告の営業秘密管理体制が万全でなかったとして過失相殺を主張したが、裁判所は認めず
  • 違法勧誘の損害賠償: 原告は従業員引き抜きによる損害(6名×6か月分の営業利益=490万円)を請求したが、算定方法が不合理として棄却
  • 結論: 不正使用分1億4031万5649円+弁護士費用10%=1億5434万7213円、不正開示分3724万1361円+弁護士費用10%=4096万5497円(被告グループ内で連帯の範囲が異なる)

認容額合計:1億9531万2710円。

📜 判決文全文

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原告の主張
被告の主張
裁判所の判断
▼ 判決文全文(クリックで折りたたみ)
第1 請求の趣旨

1主位的請求(1) 被告IDK及び被告京都は,別紙1-1及び同1-2記載の電子データ及び同電子データを印刷した紙媒体を使用して,自動包装機械を製造し,販売してはならない。
(2) 被告Y2,被告Y5,被告Y4,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11,被告Y12及び被告Y13は,前項の電子データ及び同電子データを印刷した紙媒体を使用してはならない。
(3) 被告IDK及び被告京都は,第1項の電子データ及び同電子データを印刷した紙媒体を使用して設計又は製造した製品及び半製品を破棄せよ。
(4) 被告らは,第1項の電子データ及び同電子データを印刷した紙媒体を廃棄せよ。
(5) 被告らは,原告に対し,連帯して●(省略)●円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被告らは,原告に対し,連帯して●(省略)●円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 被告京都,被告IDK,被告Y2及び被告Y6は,原告に対し,連帯して588万1248円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(8) 被告IDK及び被告京都は,原告に対し,別紙3記載第1の謝罪広告を,同記載第2の要領で掲載せよ。
(9) 上記(1)から(7)につき仮執行宣言

2予備的請求(主位的請求(6)に対するもの)(1) 被告京都,被告IDK,被告Y2,被告Y5,被告Y4,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10は,原告に対し,連帯して●(省略)●円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告京都,被告IDK,被告Y2,被告Y5,被告Y4,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11及び被告Y13は,原告に対し,連帯して●(省略)●円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要

1本件は,
①原告の従業員であった被告Y6が,被告京都の取締役である被告Y2と共謀し,元同僚の被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11,被告Y12及び被告Y13を被告IDKに転職させ,
②その際,これらの被告らと共謀するなどし,原告の営業秘密である別紙1-1及び同1-2記載のデータ(以下「本件データ」という。)を不正に取得した上,
③これを被告IDK,同被告の副社長(従業員)である被告Y5及び取締役である被告Y4に不正に開示し,同被告らに不正に取得させ,
④被告IDKにおいて,これを不正に使用することにより原告と競合する製品を製造し,又は不当な方法を用いることにより原告の案件を奪取したなどとして,原告が,被告らには以下に記載する責任があると主張し,該当の被告に対し,請求の趣旨記載のとおり,不正競争防止法(以下「不競法」という。)3条1項,2項に基づき,本件データの使用等の差止め,本件データを使用した製品等の廃棄を求め,同法14条に基づき,謝罪広告の掲載を求め,同法4条,民法709条,715条,会社法429条に基づき,その損害の賠償と不法行為の後である訴状送達の日(別紙2記載2)の翌日から支払済みまで民法(平成29年法律

第44号による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(1) 本件データの一次的な不正取得(以下の不正取得①~③をまとめて「本件不正取得」ということがある。)

ア不正取得①被告Y7が,被告Y6,被告Y2,被告IDK及び被告京都と共謀の上,不正の手段により,本件データの一部を被告Y7のハードディスク(以下「Y7HDD」という。)に複製して取得した不競法2条1項4号(予備的に同項7号)所定の不正取得行為に対する不法行為責任

イ不正取得②不正の手段により,本件データの一部を,被告Y7が,被告Y6,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y5,被告Y4,被告Y2,被告IDK及び被告京都と共謀の上,Y7HDDに,また,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10が,被告Y6,被告Y5,被告Y4及び被告Y2と共謀の上,被告Y10のハードディスク(以下「Y10HDD」という。)に,それぞれ複製して取得した不競法2条1項4号(予備的に同項7号)所定の行為に対する不法行為責任

ウ不正取得③被告Y11が,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y13,被告Y5,被告Y4,被告Y2,被告IDK及び被告京都と共謀の上,不正の手段により,本件データの一部を被告Y11のハードディスク(以下「Y11HDD」という。)に複製して取得した不競法2条1項4号(予備的に同項7号)所定の行為に対する不法行為責任(2) 本件データの不正開示及び二次的な不正取得

ア以下の各被告の行為について,不正の手段で取得した本件データを開示した不競法2条1項4号(予備的に同項7号)の不正開示行為(以下の不正開示④~⑥をまとめて「本件不正開示」ということがある。)に対する不法行為責任(主位的主張)被告Y7,被告Y10及び被告Y11が,被告Y6,被告Y8,被告Y9,被告Y13,被告Y12,被告Y5,被告Y4及び被告Y2と共謀の上,被告IDK等に対して,本件データを不正開示した行為(行為の内容は下記不正開示④~⑥と同様であり,責任主体が異なる。)(予備的主張)(ア) 不正開示④被告Y7が,被告Y6,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y5,被告Y4及び被告Y2と共謀の上,被告IDKに持ち込まれたY7HDD内の本件データを不正開示した行為(イ) 不正開示⑤被告Y10が,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y5,被告Y4及び被告Y2と共謀の上,被告IDKに持ち込まれたY10HDD内の本件データを不正開示した行為(ウ) 不正開示⑥被告Y11が,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y13,被告Y5,被告Y4及び被告Y2と共謀の上,被告IDKに持ち込まれたY11HDD内の本件データを不正開示した行為

イ被告IDK,被告Y5,被告Y4及び被告京都が,本件不正取得の介在を知り又は重過失により知らず,本件不正開示に係る本件データを取得した不競法2条1項5号(予備的に同項8号)の不正競争行為に対する不法行為責任(3) 本件データの不正使用及び案件奪取

ア不正使用㋐~㋗(以下,まとめて「本件不正使用」ということがある。)被告ら(実行・共謀関係は案件により異なる。)が,被告IDKの受注した8件の案件(不正使用㋐~㋗)について,不正の手段で取得した本件データを使用した不競法2条1項4号又は5号(予備的に同項7号又は8号。なお適用条項は被告により異なる。)の不正使用行為に対する不法行為責任

イ案件奪取(ア) 案件奪取㋑被告IDKに転職した被告Y6及び被告Y7,原告に在職中であった被告Y8,被告IDK及び被告京都が共謀し,原告が受注交渉をしていた不正使用㋑の機械に係る案件を不当に奪取した一般不法行為責任(イ) 案件奪取㋒被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11,被告Y13,被告IDK及び被告京都が共謀し,原告の顧客を欺くなどし,不正使用㋒の機械に係る案件を不当に受注した行為に対する一般不法行為責任(ウ) 案件奪取㋓被告Y6,被告Y10,被告IDK及び被告京都が共謀し,原告在職中に担当していた不正使用㋓の機械に係る案件を被告IDKにおいて不当に受注した行為に対する一般不法行為責任(4) 原告の従業員らに対する不当勧誘被告Y6,被告IDK,被告京都及び被告Y2が,共謀の上,原告の従業員らに違法な転職勧誘をした行為に対する一般不法行為責任(5) 被告Y2の一般不法行為責任又は会社法429条に基づく責任

ア被告Y2が,取引上一般に要求される注意義務に違反し,本件データの不正取得,不正開示又は不正使用を阻止することなく,被告IDKにおける自動包装機械事業を漫然と遂行させた行為に対する一般不法行為責任

イ被告京都の取締役としての任務懈怠についての会社法429条に基づく責任(6) 被告IDK及び被告京都の使用者責任

ア被告IDKが,被告らのうち上記不正競争行為又は不法行為の当時に被告IDKの被用者であった者の行為について,使用者として負う使用者責任

イ被告京都が,被告Y2の上記行為について使用者として負う使用者責任

2前提事実(1) 当事者

ア原告は,包装機械の設計・製造及び販売等を目的とする会社であり(甲1),医薬品,食品,飲料,化学製品等の容器にラベルを貼付する自動包装機械(ラベラー)を製造販売していた。

イ被告京都は,包装機械及び自動組立機械など各種産業用機械,器具の製作販売ならびに修理等を目的とする会社であり(甲2),被告Y2は,その取締役専務執行役員として,営業統括責任者の地位にある。

ウ被告IDKは,包装機械の自動化及び機械の設計・製作等を目的とする会社である(甲3)。被告IDKは,平成22年12月13日,被告京都の出資を受け入れ,被告京都のグループ会社となっていた。

エ被告Y5は,被告京都の従業員の出身であり,平成25年5月,被告IDKの副社長の肩書を有する従業員となった者である。被告Y4は,被告IDKの従業員から取締役になった者である(甲3,乙B15)。

オその余の被告ら(以下「被告転職者ら」という。)は,原告の従業員であったところ,以下のとおり,原告を退職し,被告IDKに転職した。(乙B26,乙D3)。

(ア) 被告Y6は,原告の営業本部の本部長を務めていたが,平成25年7月22日,被告IDKに入社した。

(イ) 被告Y7は,原告の営業を担当する従業員であったが(乙E1),平成25年8月26日,被告IDKに入社した。

(ウ) 被告Y10は,原告の設計部の次長を務めていたが,平成25年11月1日,被告IDKに入社した。

(エ) 被告Y11は,原告の設計部に属する従業員であったが,平成25年11月18日,被告IDKに入社した。

(オ) 被告Y13は,原告の製造部組立課の課長を務めていたが,平成26年1月6日,被告IDKに入社した。(カ) 被告Y12は,原告の設計部に属する従業員であったが,原告を平成24年12月に退職後,平成26年3月3日,被告IDKに入社した。(キ) 被告Y9は,原告の包装機器営業部に属する従業員であったが,平成26年5月21日,被告IDKに入社した。(ク) 被告Y8は,原告の包装機器営業部の課長を務めていたが,平成26年6月2日,被告IDKに入社した。
(2) 被告Y6の転職勧誘の経過

ア被告Y6は,平成24年7月頃,被告Y2に対し,原告を退職し,新会社を設立するという計画について相談した。

イ被告Y7は,平成24年8月頃から12月頃にかけ(甲32),原告のサーバ上の共有フォルダから,原告から貸与されたハードディスクであるY7HDD内に本件データの一部を含む原告の業務上のデータ(営業関係等)である多数のファイルを複写するなどした。〈不正取得①〉

ウ被告Y6は,平成24年12月頃から,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10などとともに,「決起集会」と名付けられた飲み会をするようになった。

エ被告Y10は,平成25年5月頃,原告のサーバ上の共有フォルダから,Y10HDD内に本件データの一部を含む原告の業務上のデータ(設計関係等)である多数のファイルを取り込んだ。被告Y7は,Y7HDD内に取り込んだ本件データの一部をY10HDDに再複写した。〈不正取得②〉

オ被告Y2は,平成25年5月2日,被告Y6とともに,原告の設計・製造部門を統括するI工場長と会食した(甲25)。

カ被告Y11は,被告Y6から転職の勧誘を受けていたが,平成25年9月21日頃から退職するまでの間,原告のサーバ上の共有フォルダから,本件データを含む原告の業務上のデータ(設計関係等)である多数のファイルをY11HDDに複写した。〈不正取得③〉

キ被告Y13は,被告Y6から転職の勧誘を受けていたが,平成25年10月18日,前記の「決起集会」に参加した(甲45)。
(3) 被告転職者らの被告IDK入社後の経過

ア被告Y7,被告Y10及び被告Y11は,被告IDKに入社する際,それぞれY7HDD,Y10HDD及びY11HDDを社内に持ち込んだ。〈不正開示④~⑥〉

イ被告IDKは,平成25年10月16日,廣東製薬株式会社向けのラベラー(以下「廣東製薬1号機」という。)を受注し,平成26年5月12日に出荷した(甲9,乙B26)。〈不正使用㋐〉

ウ被告IDKは,平成26年1月31日,テルモ株式会社(富士工場)向けのラベラー(以下「テルモ富士工場機」という。)を受注し,同年5月20日に納品した(甲11,乙B26)。〈不正使用㋑〉

エ被告IDKは,平成26年3月10日,ユニメッドファーマ社向けのラベラー(以下「ユニメッド機」という。)を受注し,同年12月12日に出荷した(甲13,乙B26)。〈不正使用㋓〉。

オ被告IDKは,平成26年7月1日,廣東製薬株式会社のラベラーの部品である●(省略)●及び●(省略)●2セット(以下「廣東製薬●(省略)●」という。)を受注し,同年9月5日までに出荷した(乙B26)。〈不正使用㋗〉。

カ被告IDKは,平成26年7月7日,昭和薬品化工株式会社向けのラベラー(以下「昭和薬品化工機」という。)を受注し,同年11月15日に出荷した(甲12,乙B26)。〈不正使用㋒〉。

キ神奈川県警察本部は,平成26年9月16日,不競法違反被疑事件について,被告IDKを捜索し,Y10HDD,Y11HDDなどを差し押さえ,同年10月7日,Y7HDDの任意提出を受けた(甲31,48)。

ク被告IDKは,平成26年10月1日,大幸薬品株式会社向けのラベラー(以下「大幸薬品機」という。)を受注し,平成27年4月21日に納品した(甲15,乙B26)。〈不正使用㋔〉。

ケ被告IDKは,平成26年12月6日,メルシャン株式会社向けのラベラー(以下「メルシャン機」という。)を受注し,平成27年3月28日に納品した(甲14,乙B26)。〈不正使用㋕〉。

コ被告IDKは,平成27年2月9日,廣東製薬株式会社向けのラベラー(以下「廣東製薬2号機」という。)を受注し,同年7月2日に出荷した(甲10,乙B26)。〈不正使用㋖〉(4) 刑事事件の結果

ア横浜地方裁判所は,平成29年1月29日,
①被告Y11が,被告Y6と共謀の上,被告Y6に原告の営業秘密をメール送信したことが,平成27年法律第54号による改正前の不競法21条1項5号に該当し,
②被告Y11が,原告の社内において,別紙1-1記載第2の2及び11(不正使用㋑関係),第3の16及び17(同㋒関係)並びに第8の1(同㋖関係)を含む6個のファイルをY11HDDに複製したことが,同項3号ロに該当し,被告IDK社内において,前記第2の2及び11のファイルを被告Y10に開示し,前記第3の16のファイルを被告Y12に開示し,前記第8の1のファイルを使用したことが,包括して,同項4号,3号ロに該当するなどとして,被告Y11を懲役2年6月(執行猶予4年)及び罰金100万円に処し,被告Y6を懲役2年(執行猶予4年)及び罰金80万円に処する旨の判決を言い渡した(甲19,甲139)。

イ横浜地方裁判所は,平成29年1月29日,
①被告Y10が,被告IDK社内でY11HDDから別紙1-1記載第2の11(不正使用㋑関係)のファイルを複製し,これを使用したことが,平成27年法律第54号による改正前の不競法21条1項7号に該当し,
②被告Y12が,被告IDK社内において,Y11HDDから同第2の2(不正使用㋑関係)のファイルを複製し,これを使用したことが,同号に該当し,
③被告IDKは,前記①及び②の被告IDKの従業者の行為について,包括して,同法22条1項,21条1項7号に該当するなどとして,被告Y10を懲役1年6月(執行猶予4年)及び罰金80万円に処し,被告Y12を懲役1年2月(執行猶予4年)及び罰金80万円に処し,被告IDKを罰金1400万円に処する旨の判決を言い渡した(甲20,139)。
(5) 本件データの概要

ア本件データは,CADソフトで作成されたラベラーの図面の電子データである「本件図面データ」とラベラーの原価計算のために用いられる営業関連の電子データである「本件原価計算データ」とからなる。本件図面データは,
①組図及び部品図,
②電気図面からなる。

イ別紙1-1は,本件図面データの組図及び部品図のうち,原告が,現に不正使用㋐~㋗の設計に使用されたと主張するものであり,Y11HDD内に同記載のフォルダパスのファイルとして保存されていた(なお,当該フォルダパスのうち,「Y11HDD:」の部分は,Y11HDD内のフォルダパスを意味するものと理解する。別紙1-3は,別紙1-1の図面と証拠との対応関係を示すものである。)。

ウ別紙1-2は,その余の本件データ(以下「本件不使用データ」という。)のうち,各HDD内の各記載フォルダパス以下のファイルとして保存されていたものである(なお,同記載のフォルダパスは,前記イと同様に理解し,同別紙記載第1にいう「データ一式」とは,当該機械に関するデータのうち,当該フォルダパス以下に保存されていたファイルを意味するものと理解する。)。

(ア) 同別紙記載第1の1は,本件図面データのうち,前記イに含まれない組図及び部品図であり,Y11HDD内に保存されていたものである(イ) 同別紙記載第1の2は,本件図面データである電気図面であり,Y10HDDに保存されていたものである。

(ウ) 同別紙記載第2は,本件原価計算データであり,Y7HDD内に保存されていたものである。

3争点(1) 本件データの秘密管理性(争点1)(2) 本件データの不正取得に係る被告転職者らの責任(争点2)(3) 本件データの不正開示に係る被告転職者らの責任(争点3)(4) 本件データの不正使用及び案件奪取に係る被告転職者らの責任(争点4)(5) 原告従業員の転職勧誘に係る被告Y6の責任(争点5)(6) 被告京都及び被告Y2の責任(争点6)(7) 被告IDK,被告Y5及び被告Y4の責任(争点7)(8) 原告に生じた損害の有無及び額

ア争点3に係る損害(争点8-1)

イ争点4に係る損害(争点8-2)

ウ争点5に係る損害(争点8-3)
第3 争点に関する当事者の主張
(以下,被告京都及び被告Y2を「被告京都ら」,被告IDK及び被告Y4を「被告IDKら」,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y13を「被告Y7ら」ということがある。なお,被告らは,相互に矛盾しない限り,相被告の主張を援用している。)
👤 原告の主張
1争点1(本件データの秘密管理性)について(原告の主張)原告は,以下のとおり,本件データについて,秘密管理といえるだけの十分な措置をとっており,原告の従業員は,その秘密管理意思を容易に認識できる状態にあったから,本件データには秘密管理性がある。(1) 本件データはその性質上当然に営業秘密性を有し,社内でもその旨が認識されていたこと

ア本件データは,その情報の種類・性質からして,重要な営業秘密であることが明白である。組図や部品図などの図面データが当然に各社の営業秘密となることは,製造機械業界の常識である。本件図面データには,ラベラーを構成し得る機構に関する多数の選択肢の中から,いずれかを「選択」し,他の機構と調整の上,どのように「配置」するかという情報が具体的に表現されている。その情報は,これまでに作成された多数の設計図面の上に成り立ったノウハウの結晶としての価値を有し,将来の案件にも利用され得る価値を有するものである。

イ本件データが,原告にとって極めて重要であり,外部に漏れれば多大な損害を負うことになることは,全ての原告従業員が認識していた事柄である。被告らの多くは,刑事手続において,本件データが営業秘密であることを認めていたが,本件訴訟の本人尋問においても,本件データは競合企業に流してはならないものであること,その無断の持出しが禁じられていること,本件データに含まれる組図や部品図は,営業部員との間で共有するにも上長の許可が必要であったことなど,それらが営業秘密であると認識していた旨の供述している。(2) 本件データにアクセス制限措置を取っていたこと

アサーバに対するアクセス権限原告は,本件データを,原告のサーバ内の特定のフォルダに,データの種類ごとに分けて保存させ,他のデータとは区別して管理している。そして,原告のサーバには,原告が指定したIPアドレスのPCから,アカウント及びパスワードを入力しなければアクセスすることができず,本件データの保存されている各フォルダは,原告従業員の職位や立場により,閲覧できる者などが制限されていた。このようなアクセスに制限が設けられていることにより,原告従業員は,本件データが営業秘密として管理されていると認識していた。

イ被告らの反論について被告Y7らは,本件図面データに対するアクセス制限がなかったと主張するが,仮に一般の営業部員も本件図面データにアクセスできたことがあったとしても,それは会社がアクセス権を設定したからであって,本件図面データが,職位や立場によりアクセス権が制限されていたことに変わりはないのであるから,秘密管理性を左右する事情にはなり得ない。また,被告Y7らは,「共用PC」により自由にファイルサーバにアクセスできる状態であったと主張するが,当該主張に係る「共用PC」とは,複数の従業員が使用できるものの,パスワードが設定され,上長等の管理の下,特定の部署・業務の従業員が業務に必要な範囲でアクセスすることのできるPCや,そもそも特定の原告従業員が使用していたPCであり,被告Y7らの主張は,その利用状況自体が事実に反している。被告Y10及び被告Y11は,設計部のPCにパスワードがかかっていなかった,従業員に自己のPCからメールを送るよう依頼することもあったなどと供述する。しかし,一部のPCにおいてパスワードの入力の省略設定がされていたとしても,それは,会社の方針によるものではない。また,従業員が,他の従業員に自分のPCを使わせたことがあったにせよ,業務上緊急の必要があった場合など,例外的・限定的な状況下で行われたことにすぎない。(3) 本件データを顧客に開示しない方針をとっていたこと

ア本件図面データ本件データに係る図面の種類には,組図,部品図,商用図,承認図,ライン図,取合い部分の図面及び取扱説明書に添付する図面があるが,組図及び部品図については,詳細な寸法等が記載されているため,顧客に交付しないこととされており,このことは従業員にも周知されていた。原告では,このような会社の方針を徹底するため,図面を外部に交付する場合には,必ず上長の確認・許可を得ることになっていた。被告Y10は,図面を顧客に交付する際に許可は必要でなかったと供述するが,被告Y10自身がそもそも次長であり,その許可・決定をする権限を有する者であった。

イ本件原価計算データについて原告は,本件原価計算データについて,一切顧客等に交付しない方針をとっている。本件原価計算データがあれば,原告の利益,原価,利益率等が明らかになってしまい,顧客との交渉が不可能になるだけでなく,競合他社との受注競争に負けてしまうためである。

ウ被告らの主張について被告Y7ら及び被告Y10は,図面データを制限なく顧客に交付していたなどと主張し,図面データをCADデータのまま顧客に対し交付していたと供述する。しかし,被告Y7らや被告Y10のいう図面は,組図や部品図ではなく,ライン図や取合い部分の図面にすぎない。確かに,原告が,●(省略)●などの顧客に対し,一部の組図を交付したことはある。しかし,それは顧客の強い要望を受けた例外的な場合のことであり,それも,図面上の詳細な寸法等を削除した上で,編集ができないよう紙媒体又はPDFファイルで交付していた。(4) 本件データのコピー・社外持出しを管理していたこと

ア本件データの社外への持出しは,業務上必要な場合に限られ,設計部員が出張の際にデータを持ち出す場合であっても,上長の許可の上,必要最低限の持出しのみが認められており,出張後はデータを削除するよう指導していた。また,本件データをプリントアウトする際も,上長に声を掛けることとされていた。

イこれらの管理がされていなかったとする被告Y7らの主張は事実に反する。また,仮に,このような管理がされていなかったとして,被告らが,原告を退社する際に意図的に●(省略)●個の電子データを外付けハードディスクに複製し,競合会社に転職して開示し,その業務に用いることを正当化する根拠にはなり得ない。(5) 情報管理に係る規則等を周知していたこと

ア就業規則による周知原告は,従業員就業規則において,「会社,取引先等の秘密,機密性のある情報,顧客情報,企画案,ノウハウ,データ,ID,パスワード及び会社の不利益となる事項を第三者に開示,漏洩,提供しないこと。又コピー等をして社外に持ち出さないこと。」と定め,原告従業員に対し営業秘密等の守秘義務を課していた(甲4)。同規則は,誰でも閲覧可能なファイルとして保存されており,改定の度に「社報」(甲107)で周知されていた。実際,被告Y7も,退職金について,Y7HDD内の「従業員規定」フォルダの従業員規則を参照していた(甲103)。

イ情報管理の徹底の周知原告は,情報管理を徹底する方針をとり,従業員に周知している。例えば,平成16年3月1日,原告のIT委員会において,情報管理の徹底に関する遵守事項が定められ(甲187),平成19年8月には,原告の本部長会やMM月報会において,「会社全体で情報の漏洩が起きないように教育を行う」,「情報が競合他社に流れないように」注意することが決定され,原告の設計部の従業員等にも周知された(甲188~190)。被告Y10も,原告が,原告従業員に対し,情報管理について周知,指導していたことを認めている(被告Y10・8頁)。

ウ退職時の誓約書の提出原告は,被告Y6,被告Y7,被告Y10及び被告Y11を含め,全ての従業員に対して,退職する際には必ず秘密保持に関する誓約書を原告に提出するよう求めている(甲191)。同誓約書には,本件データを含む原告の情報が,会社に返却するなどして,外部に漏えいされないよう秘密に管理されるべきものであることが明確に示されている。さらに,原告は,退職する従業員に対して面談を行い,原告のデータを持ち出したり外部に漏洩したりすることのないよう,口頭でも明確に注意している。(6) 具体的事情に即した秘密管理措置がとられていたこと

ア被告らは,原告における本件データの秘密管理措置が不十分であったとして,種々の事情を指摘する。しかし,営業秘密として管理するために必要な措置の程度は,企業規模の大小によっても異なり,企業規模が小さい場合には,要求される管理措置の程度は緩やかに判断すべきと考えられている。原告は従業員数が約120人程度の中小企業であったのであり,その規模に鑑みて,十分な管理措置を講じていたというべきである。

イまた,秘密管理性の判断においては,情報の重要性だけではなく,当該情報を日常的に使用する必要があるかも考慮すべきである。必要以上に厳格な管理をし「金庫」の中にしまったままでは,企業価値向上のための秘密情報という本来あるべき姿が失われてしまう。本件データは,原告の設計業務等に使用されるものであり,設計担当者等による日常的なアクセスを必要以上に制限することができない性質のものである。

(被告Y7らの主張)原告の本件図面データ等の管理体制は,以下のように杜撰なものであり,原告社内では同データ等が営業秘密であると認識されていなかった。したがって,本件図面データ等は,秘密管理性の要件を欠き,「営業秘密」に該当しない。(1) 全従業員が,全てのデータにアクセス可能であったこと

ア原告の営業部員は,原告のサーバ上のデータに自由にアクセスすることができた。原告が提出するアクセス権限一覧表(甲109)は,その作成経緯や内容が曖昧である上,原告のシステム開発室に所属する証人Jが証言するように,編集権限はないが閲覧権限を有する者はアクセス不可という表記になっている。

イまた,原告においては,各従業員専用の貸与PCのほか,誰でも使用可能な共用PCが存在しており(甲109),原告の全従業員は,これらを使用し,本件図面データに自由にアクセスすることが可能であった。

ウ確かに,本件図面データに関しては,設計部員の方が検索や変換の技術に長けていたから,営業部員が,それを必要とする場合,実際には,設計部員にデータの複写や変換を依頼していた。しかし,そのようにしてデータを入手するために何らの許可も必要とされていなかった。(2) 従業員が,私物の記憶媒体を自由に持ち込むなどしていたこと

ア被告Y7や被告Y11など原告の従業員は,自由に私物の記憶媒体を持ち込み,その業務に使用していた。原告の設計部長である証人Lも,設計部において,USBメモリ等を持ち込むことは,「特に禁止はされていない」という認識であると証言している。それどころか,原告は,従業員の私物PCをサーバに接続し,本件図面データにアクセスすることも認めていた。

イそして,原告においては,このような外部記憶媒体を出張先など社外に持ち出したり,自宅に持ち帰ったりすることは自由であった。また,そのようにして保有したデータを複製,保存又は転送することにも,何らの制限はなかった。しかるに,原告は,それらの記憶媒体について,持出し時はおろか,退職時についても,何らの確認もしていなかった。

ウ以上のとおり,原告は,各従業員に対し,私物の外付HDDやUSBメモリを業務として使用することを推奨し,これについて何らのルール等も定めないどころか,その使用に関し,何らの指導や確認等をしていなかった。原告のデータ管理は,明らかに杜撰であったと評価すべきである。(3) 原告が,取引先に本件図面データを開示していたこと原告営業部においては,必要に応じて,原告の了解を得ることなく,取引先や受注前の商談先に対し,本件図面データをCADデータやPDFデータ等の形で渡していた。その際に,秘密保持契約書を取り交すこともなかった。そして,原告上層部が,営業部員に対し,このような取扱いを注意することはなかった。証人Lも,本件図面データをクライアント等に提供することがあったことを認めている。(4) 原告には,データ管理に関する規則が存在しなかったこと

ア原告には,データの管理に関する就業規則は存在したが(甲4),実際には,本件図面データなど設計図面をプリントアウトし,また,外部に持ち出すことなどについて,原告の許可を得ることは必要ではなかった。

イ原告は,従業員に対し,データ管理に関する指導をしていなかった。原告は,従業員が私物の記憶媒体を持ち込んでいたことを認識せず,社員教育などもしていなかった。また,過去に図面データが流出した事件があった際も,管理体制の見直しはされていない。

ウ実際,証人Lも,本件図面データ等を従業員間で共有すること,プリントアウトすること,外付けHDDを持ち込むことについて,ルールはなかったと証言している。このような実態からして,原告従業員が本件図面データ等を重要な秘密情報と認識するはずもない。(5) そのほか,被告Y7らが,秘密管理意思を認識し得なかったこと

ア本件図面データのようなCADデータは,CADソフトがなければ閲覧・編集ができないが,原告は,これを不正に従業員各自のPCにインストールし,従業員が,不正に本件図面の閲覧・編集をすることが可能な状態にしていた。営業秘密というためには,秘密を維持する合理的な努力が払われていることを要するが,原告は,これに逆行する行為をしており,その秘密管理意思に対する認識可能性が確保されるはずもない。

イまた,原告は,本件図面データの価値が,機器の「選択」と「配置」にあると主張するが,原告が指摘するノウハウは周知慣用な情報であるから,この観点からしても,本件図面データの秘密管理意思が原告従業員に明確に示されていたということはできない。

(被告Y11の主張)本件データが秘密管理性を欠いていたことは,以下に補充するほか,被告Y7らが主張するとおりである。(1) 原告では,実際上,貸与PCのパスワード管理がされていなかった。証人LのPCにもパスワードが掛っておらず,被告Y11が,部長である同証人に代わり,メールのチェックをしたこともあった。しかも,設計部の鍵の所在などは全従業員が知っており,実質的に出入りが自由であった。(2) 原告では,秘密情報の取扱いについて,実質的なルールは存在せず,研修やマニュアルなどは存在しなかった。実際,被告Y11は,原告在職中,客先との打ち合わせのため,CADデータを外部に持ち出し,これをメールに添付して送ったこともあった。
👤 原告の主張
2争点2(本件データの不正取得に係る被告転職者らの責任)について(原告の主張)(1) Y7HDDに対する複製(不正取得①)被告Y7は,被告Y6,被告IDK,被告京都及び被告Y2と共謀の上,被告IDKに持ち出す目的で,原告の営業秘密をY7HDDに複製した(なお,争点2~4においては,被告転職者らの責任に関する主張のみを摘示する。)。

ア被告Y6は,平成24年夏頃,被告Y7に対し,原告の従業員らで新会社を設立する計画を伝えた上,「私についてこないか。」と告げた。被告Y7は,これに応じ,両名は,新会社の設立のために必要な人材確保と新会社の事業のために必要な原告のデータの取得とを分担して進めることとした。

イ被告Y7は,平成24年8月頃及び12月頃,Y7HDDに本件原価計算データを始めとするデータを複製した。当該複製は,前記アの直後のことであり,被告Y6との共謀に基づき,原告の営業秘密を不正に取得する意図をもってなされたものである。

ウ被告Y7及び被告Y6の上記行為は,不競法2条1項4号所定の不正取得行為に当たり,仮に同号所定の行為に該当しないとしても,同項7号所定の不正競争行為に該当する。(2) Y7HDD及びY10HDDに対する複製(不正取得②)被告Y7は,被告Y6,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告IDK,被告Y5,被告Y4,被告京都及び被告Y2と共謀の上,原告の営業秘密をY7HDDに,また,被告Y10,被告Y7,被告Y8,被告Y9は,被告Y6,被告IDK,被告Y5,被告Y4,被告京都及び被告Y2と共謀の上,原告の営業秘密をY10HDDにそれぞれ複製した。

ア被告Y6は,平成24年7月頃から,被告Y7に加え,順次,被告Y8,被告Y9及び被告Y10に対し,新会社設立の計画などを伝えた上,一緒に被告IDKに転職しないかと持ち掛け,「決起集会」と名付けた飲み会を月1回程度の頻度で開催するようになった。

イ被告Y6は,平成24年12月頃の「決起集会」において,前記4名の被告らに対し,光洋が倒産するかもしれないとして,「光洋の機械関係,営業関係のデータのバックアップを取っておこう,バックアップを取るための外付けハードディスクを買おう」などと告げた。

ウ被告Y6は,平成25年1月頃の決起集会において,前記4名の被告らに対し,「図面データが必要ですよね。」として,役割分担を記載したメモ紙を示し,前記4名の被告らも「各自それぞれ,自分の担当業務のデータを外付けハードディスクにコピーしよう。」などと,これに呼応した。

エ被告Y10は,平成25年4月中旬頃~5月中旬頃,被告Y9が,被告Y6の1万円で購入したY10HDDに本件データなどを取得した。また,被告Y9は,これとは別に,被告Y8と共謀の上,原告から貸与を受けたHDDに原告サーバからデータを取得し,これも被告Y10に渡した。

オ被告Y7も,同様に平成25年3月6日,7日,12日,25日及び同年4月29日,原告のサーバからY7HDDに本件データを含むデータを大量に複製した。被告Y7は,その後,Y7HDDに複製した本件データを含む複数のフォルダをY10HDDに二重に複製した。

カ被告Y7,被告Y10,被告Y6,被告Y8及び被告Y9の上記行為は,不競法2条1項4号所定の不正取得行為に当たり,仮に同号所定の行為に該当しないとしても,同項7号所定の不正競争行為に該当する。(3) Y11HDDに対する複製(不正取得③)被告Y11は,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y13,被告IDK,被告Y5,被告Y4,被告京都及び被告Y2と共謀の上,原告の営業秘密をY11HDDに複製した。

ア被告Y11は,当初,「決起集会」には参加していなかったが,平成25年6月4日頃,被告Y6から原告を辞めて別の会社に移ろうと誘われ,転職することを決意し,後に転職先が被告IDKであることを知った。被告Y6は,Y11が被告IDKに転職することを被告Y7など他の参加者にも伝えた。。

イ被告Y6は,被告Y11に対し,転職先では韓国企業向け製品の設計を担当してもらう予定であるとして,原告の設計図面の持出しを指示した。被告Y11は,これに応じ,平成25年7月16日,被告Y6に対し,それ以外に準備するものはないかと尋ねるメールを送信した。

ウ被告Y6は,被告Y11に対し,「出来る限りの図面の入手」を指示し,HDD代1万円を手渡した。被告Y11は,これを受け,平成25年9月19日,Y11HDDを購入し,同月21日から退職するまでの間,本件データを含む原告のデータをY11HDDに複製した。

エ被告Y11は,平成25年10月18日の「決起集会」でも,「光洋のCAD図データをコピーして,IDKに持って行きます。」と述べたが,その場には,被告Y6,被告Y7,被告Y10,被告Y8及び被告Y9に加え,被告Y13が参加しており,同被告らは,これを認識及び認容した。

オ被告Y11,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y13,の上記行為は,不競法2条1項4号所定の不正取得行為に当たり,仮に同号所定の行為に該当しないとしても,同項7号所定の不正競争行為に該当する。

(被告Y6の主張)被告Y6は,本件不正取得について,他の被告と共謀しておらず,本件データの取得を指示したこともない。(1) 被告Y6が,被告Y7に対し,転職の勧誘をしたとしても,そのことを根拠に本件データの不正取得についての意思の連絡があったと推認することはできない。(2) 原告のいう「決起集会」なるものは,単なる飲み会であり,「原告が倒産した場合,その客先のラベラーのメンテナンスに必要な図面データがあればいいね」などということが話題になったことがあった程度である。(3) 被告Y6は,被告Y9に1万円を渡したが,金銭に不自由しているという同被告に対する「カンパのつもり」で渡したにすぎない。

(被告Y7らの主張)(1) Y7HDDについて被告Y7は,原告在職中,バックアップや検索の便宜のため,サーバから貸与品であるY7HDDにデータをダウンロードし,これを退職時に返却し忘れてしまったにすぎない。また,被告Y7は,それらのデータに対する正当なアクセス権限を有していたから,そのダウンロードは,不競法2条1項4号の不正取得行為に当たらない。(2) Y10HDDについて被告Y6は,平成25年の初め頃の飲み会において,被告Y7らに対し,原告が倒産しそうであり,その場合に顧客にアフターフォローするには,データをHDDにバックアップしておく必要があるという話をし,被告Y9に1万円を渡した。被告Y7は,これを受け,被告Y9が購入したY10HDDに原告のデータをバックアップし,Y7HDDのデータを複写したにすぎず,被告IDKで当該データを使用することを積極的に意図していたわけではない。また,被告Y9及び被告Y8がY10HDDに複製した「●(省略)●」などのフォルダのデータには,原告が営業秘密と主張するデータは含まれていない。(3) Y11HDDについて被告Y7,被告Y9及び被告Y8は,平成25年10月の飲み会に参加したが,被告Y11が,その際,本件データを被告IDKに持ち込むなどの発言をした事実はなかった。被告Y13に至っては,原告が主張する一連の飲み会の最終盤にしか参加しておらず,被告Y6から何らかの指示を受け,共謀したことはない。

(被告Y10の主張)(1) 不正取得②について

ア被告Y6との飲み会において,原告の倒産が危ぶまれるが,その場合,取引先から元従業員にメンテナンスの要請がされる可能性があることが話題に上がった。これを受け,被告Y10は,誰に指示されたというわけでもなく,上記のような場合に備え,Y10HDDにデータをバックアップした。なお,被告Y10は,被告Y7によるデータの複製を関知していない。

イ被告Y10は,前記アの当時,未だ原告の従業員であり,原告の図面データに対する正当なアクセス権限を有していた。また,その複製の目的も,前記アのとおり,原告が倒産するという不測の事態を想定したバックアップにすぎなかった。したがって,前記アの複製行為は,不競法2条1項4号の不正取得行為に該当しない。(2) 不正取得③について確かに,被告Y10は,平成25年10月18日の飲み会において,被告Y11からデータを持ち出すことを聞いた。しかし,被告Y10は,被告Y11による複製行為は,被告Y10による前記(1)と同じく,原告の倒産に備えたバックアップにすぎないと思い,不正使用の目的によるとは理解しなかった。また,この点について,その場に参加していた他の被告との意思の連絡もなかった。

(被告Y11の主張)(1) 被告Y11が,平成25年9月頃,被告Y6から「Mr.Hの役割」,「出来うる限りの図面入手」などと記載されたメモを受け取り,不正取得③とされる複製行為を決意し,同年10月18日の飲み会において,被告Y10に対してのみその決意を告げた上,これを実行したことは認める。(2) しかし,それが不正な行為であったことは争う。被告Y11は,原告が経営破綻した際に,アフターサービス等のために図面データが必要になると考えて,本件図面データを持ち出したのであり,転職先において,積極的に本件図面データを使用・利用する意図はなかった。
👤 原告の主張
3争点3(本件データの不正開示に係る被告転職者らの責任)について(原告の主張)(1) 不正開示(主位的主張)これらの不正開示のよる損害は,開示された営業秘密から得られたであろう被告IDKの事業収益に着目して算定し得る。したがって,原告の営業秘密を利用して行われた被告IDK事業に関わる意思のあった者には,全ての不正開示について,意思の連絡があったと評価し得る。具体的にいうと,被告Y7,被告Y10,被告Y11は,被告Y6,被告Y8,被告Y9,被告Y13,被告Y12,被告Y5,被告Y4,被告Y2と共謀の上,本件データ(Y7HDD,Y10HDD,Y11HDD)を不正取得し(不競法2条1項4号,予備的に同項7号),被告IDK,被告Y5,被告Y4及び被告京都は,不正取得行為が介在したことを知って原告の営業秘密を取得したものである(同項5号,予備的に同項8号)。(2) 不正開示(予備的主張)仮に,被告ら全てが上記(1)の責任を負わないとしても,下記該当の被告は同記載の責任を負う。

ア不正開示④被告Y7は,被告Y6,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y5,被告Y4,被告Y2と共謀の上,平成25年8月15日,原告の営業秘密が複製されているY7HDDを保持したまま原告を退職し,被告IDKに入社し,同HDDを持ち込むことで,これを被告IDKに不正開示した(不競法2条1項4号,予備的に同項7号)。被告IDK,被告Y5,被告Y4及び被告京都は,同不正取得行為が介在したことを知って原告の営業秘密を取得した(同項5号,予備的に同項8号)。

イ不正開示⑤被告Y10は,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y5,被告Y4,被告Y2と共謀の上,平成25年10月31日,原告の営業秘密が複製されているY10HDDを保持したまま,原告から退職し,被告IDKに入社し,同HDDを持ち込むことで,これを被告IDKに不正開示した(不競法2条1項4号,予備的に同項7号)。被告IDK,被告Y5,被告Y4及び被告京都は,不正取得行為が介在したことを知って原告の営業秘密を取得した(同項5号,予備的に同項8号)。

ウ不正開示⑥被告Y11は,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y11,被告Y13,被告Y5,被告Y4,被告Y2と共謀の上,原告を退職した翌日の平成25年11月16日,被告IDK2階の設計室において,被告Y10に対し,原告の営業秘密が複製されたY11HDDを手渡すことで,これを被告IDKに不正開示した(不競法2条1項4号,予備的に同項7号)。そして,被告IDK,被告Y5,被告Y4及び被告京都は,不正取得行為が介在したことを知って原告の営業秘密を取得した(同項5号,予備的に同項8号)。

(被告Y6の主張)共謀を否認する。既に主張したとおり,被告Y6は,他の被告らに対し,本件不正取得を指示したことはなく,本件不正開示についても,ハードディスクの持込みを指示したことはない。

(被告Y7らの主張)(1) 被告らは,単にハードディスクを返却し忘れ,あるいは,これを単に被告IDKに持ち込んでそのまま所持したにすぎず,被告IDKと共有したわけではいないから,その行為は,不競法2条1項7号の「開示」に該当しない。(2) 被告Y13は,被告Y6から本件データを取得してくるよう指示を受けたわけでもなく,それが被告IDKで使用されている事実も知らなかったのであるから,不正開示に対する共謀があるはずもない。

(被告Y10の主張)(1) 被告Y10は,被告IDKにY10HDDを持ち込んではいない。被告Y10は,被告IDKに転職後,同HDDを自ら保有していたにすぎず,これを被告IDKで使用していないからである。また,被告Y10は,同HDDにデータを取得した時点では原告に在職中であり,被告IDKとの意思の連絡はない。したがって,Y10HDDについて,不正開示に該当する行為はない。(2) 被告らは,被告IDKに持ち込むことを目的として,原告のデータを複製したわけではないから,仮に,複製に係る共謀が成立していたとしても,持込みに対する共謀があったということはできない。少なくとも,被告Y10は,Y7HDDに係る認識を有していなかったから,Y7HDDの不正開示に係る共謀が成立することはあり得ない。

(被告Y11の主張)被告Y11が,原告のデータが記憶されたY11HDDを被告IDKに持ち込んだ事実は認める。ただし,被告Y11は,平成25年10月18日の「決起集会」において,参加者全員の前でそのような決意を伝えたことはなく,被告Y10にこっそりと伝えたにすぎない。

(被告Y12の主張)被告Y12が,本件データを「開示」したことはない。被告Y12が,被告IDK入社後,Y11HDD内のごく少数のデータを使用したことがあることは認めるが,他の被告らとの共謀をしたとの主張は否認する。
👤 原告の主張
4争点4(本件データの不正使用及び案件奪取に係る被告転職者らの責任)について(原告の主張)(1) 不正使用㋐(廣東製薬1号機)被告Y10,被告Y11,被告Y12,被告IDK及び被告京都は,その余の被告と共謀の上,廣東製薬1号機の設計のため,別紙1-1記載第1のデータを不正使用した。被告Y12も,当該機械の不具合修正を行っており,共謀の上,当該データの不正使用を実行したと評価されるべきである。このうち,被告Y10及び被告Y11の行為は,不競法2条1項4号(予備的に7号)に該当し,被告Y12の行為は同項5号(予備的に8号)に該当する(以下,被告Y10,被告Y11,被告Y12の不正使用行為について同様)。そして,その余の被告転職者らも,既に被告IDKに入社し,又は,不正取得に係る共謀をした者であるから,この不正使用にも意思の連絡を有していたということができる。廣東製薬1号機の設計図面のうち,本件図面データが使用されたものは別紙4-1の1枚目のとおりである。両者の図面を対比すると,①組図の内容が一致するもの,②部品番号が一致するもの,③原告における「スタンダード図面の記番号」が残留するもの,④原告の表題や図枠のフォーマットを流用したり,部品に関する記載や特殊な用語の記載が一致したりしているものがあることから,本件図面データの一部が使用されたことは明らかである(甲140,150)。(2) 不正使用㋑及び案件奪取㋑(テルモ富士工場機)

ア不正使用㋑被告Y10,被告Y11,被告Y12,被告IDK及び被告京都は,その余の被告と共謀の上,テルモ富士工場機の設計のため,別紙1-1記載第2のデータを不正使用した。その余の被告転職者らも,この不正使用を実行し,又は,意思の連絡を有していたと評価されるべきことは,不正使用㋐と同様である。テルモ富士工場機の設計図面のうち,本件図面データが使用されたものは別紙4-2の1枚目のとおりである。両者の図面を対比すると,①組図の内容が一致又は類似するもの,②部品と部品番号の対応関係が一致するものがあることから,本件図面の一部が使用されたことは明らかである(甲142,151)。

イ案件奪取㋑また,テルモ富士工場機に係る案件は,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告IDK及び被告京都が,以下のとおり,原告から不当に奪取したものであり,原告の商権を奪取する悪質性の高い行為として,独立の不法行為(民法709条)を構成する。

(ア) 被告Y8は,原告の営業担当として,テルモ株式会社と同社富士工場機に係る商談を進行させ,平成25年11月頃には,価格交渉に入っており,原告の提示額●(省略)●円は相手方の予算額に近づいている状況にあった(甲69,93)。同社は,原告の重要な顧客であり,継続的な納入先であった。

(イ) ところが,被告Y8は,被告Y6及び被告Y7と共謀し,同年12月初旬頃,同社に対し,原告と価格が折り合わないのであれば,原告の「OEM先のメーカー」である被告IDKを紹介するとして,原告の従業員を装った被告Y7とともに,テルモ株式会社を訪問するなどした。

(ウ) その結果,同社は,被告IDKを原告のOEM先の協力企業であると誤信し,被告IDKにテルモ富士工場機を発注し,原告は,当該案件を失注した。当該欺罔行為がなければ,被告IDKが,当該案件を受注することはなかった。(3) 不正使用㋒及び案件奪取㋒(昭和薬品化工機)

ア不正使用㋒被告Y10,被告Y11,被告Y12,被告IDK及び被告京都は,その余の被告と共謀の上,昭和薬品化工機の設計のため,別紙営業目録(1)記載の

第3のファイルを不正使用した。その余の被告転職者らも,既に被告IDKに転職しており,当該不正使用について意思の連絡を有していたと評価されるべきである。昭和薬品化工機の設計図面のうち,本件図面データが使用されたものは別紙4-3の1枚目のとおりであり,①組図の内容が一致するもの,②部品と部品番号の対応関係の一致するもの,③部品に関する記載や特殊な用語が一致するものがあることから,本件図面データの一部が使用されたことは明らかである(甲143,152)。

イ案件奪取㋒また,昭和薬品化工機に係る案件は,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11,被告Y13,被告IDK及び被告京都が,以下のとおり,原告から不当に奪取したものであり,これは独立の不法行為(民法709条)を構成する。

(ア) 原告は,平成25年7月頃,長年の顧客である昭和薬品化工株式会社からラベラーの引合いを受けたが,機器の配置の調整などをしているうち,平成26年5月21日,同社から他社製の機械を選定することにしたとの連絡を受け,これを失注するに至った。その後,原告は,同案件を受注したのが被告IDKであることを知った。

(イ) ところが,被告IDKは,その受注に当たり,昭和薬品化工株式会社に対し,現実の導入実績(甲47)と異なる虚偽の導入実績(甲72・資料4)をプレゼンテーションした上,本件図面データを基にした参考図面を交付し(甲52),不正使用㋐に係る製品を実際に見学させるなどし(甲41),その技術力を誤信させた(甲72)。

(ウ) なお,被告Y9は,平成26年4月30日,原告に在職中でありながら,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y10,被告Y11及び被告Y13に対し,「昭和薬品化工,受注おめでとうございます!光洋では…特許を侵害している可能性ありで何か社長,けんちゃん中心に動いているみたいです」(甲64)などと,原告の情報を横流ししていた。(4) 不正使用㋓及び案件奪取㋓(ユニメッド機)

ア不正使用㋓被告Y10,被告Y11,被告Y12,被告IDK及び被告京都は,その余の被告と共謀の上,ユニメッド機のため,別紙1-1記載第4のファイルを使用した。その余の被告転職者らも,既に被告IDKに転職しており,意思の連絡を有していた。実際,ユニメッド機の機器配置図(甲51の2)とY11HDDに記録されていた図面(甲51の3)とを比較すれば,2つのユニットの構成が一致していることを確認することができる(甲51の4)。

イ案件奪取㋓また,当該案件は,被告Y6,被告Y10,被告IDK及び被告京都が,以下のとおり,原告が見積依頼を受けたのを被告IDKに横流ししたものと考えられ,直接的に原告の商権を奪ったものとして,独立の不法行為(民法709条)を構成する。

(ア) 被告Y6は,平成25年5月,原告の従業員として,ユニメッド機に係る見積依頼を受け,見積書を作成するともに(甲91の1),被告Y10に図面データを作成させていた(甲91の2)。

(イ) しかるに,被告Y6は,その事実を原告に報告せず原告を退職した。その後,被告IDKが,当該案件を受注していることからすれば,被告Y6は,これを被告IDKに持ち去ったと推測することができる。

(ウ) 当該案件は,原告が長年の営業努力の結果獲得した人脈や信頼というリソースによるものである。これを被告IDKに横流ししたことは,直接的に原告の商権を奪った行為と評価することができる。(5) 不正使用㋔(大幸薬品機)被告Y11,被告Y12,被告IDK,被告京都及び被告IDKの従業員であるNは,その余の被告と共謀の上,大幸薬品機の設計図面のため,別紙1-1記載第5のデータを不正使用した。その余の被告転職者らも,意思の連絡を有していた。実際,大幸薬品機の制作仕様図のデータ(甲54の1及び2)とY11HDD内のデータなど(甲54の3及び4)とを比較すれば,容器排出部及びラベルテーブル部の構成が一致する(甲54の5)。また,別紙4-4の大幸薬品機の枢要部の組図について,①内容の類似又は一致,②部品と部品番号の対応関係の位置,③部品に関する記載や特殊な用語又は記載が一致していることによれば,本件図面の一部が使用されたものと認めることができる(甲136,156)。さらに,被告Y4も,被告IDKにおける証拠保全手続において,大幸薬品機を設計するに当たり,昭和薬品化工機のための設計図面を転用したことを認める旨の説明をしていた(甲76)。(6) 不正使用㋕(メルシャン機)被告京都,被告IDK及び被告IDKの従業員であるNは,その余の被告と共謀の上,メルシャン機の設計のため,別紙営業目録(1)の第6記載のファイルを不正使用した。当該機械の機器配置図(甲55の2)と原告の標準仕様図(甲55の3~5)とを比較すると,3つのユニットの構成が一致しており(甲55の6),このことからもNが本件データを不正使用したことは明らかである。(7) 不正使用㋖(廣東製薬2号機)被告Y10,被告Y11,被告Y12,被告IDK及び被告京都は,その余の被告と共謀の上,廣東製薬2号機の設計のため,別紙営業目録(1)の第7記載のファイルを不正使用した。廣東製薬2号機の設計図面に使用された本件図面データは,別紙4-5のとおりである。原告の同図面データと被告IDKの設計図面とを対比すると,①組図の内容の多くが一致するもの(甲56),②部品番号が一致するもの(甲116),③原告における「スタンダード図面の記番号」が残留するもの(甲116),④一致点を指摘するもの(甲117)があることから,本件図面データの一部を使用したことは明らかである。(8) 不正使用㋗(廣東製薬●(省略)●)被告Y11,被告IDK及び被告京都は,その余の被告と共謀の上,廣東製薬●(省略)●の設計のため,別紙営業目録⑴記載第8のデータを不正使用した。

(被告Y6の主張)(1) 不正使用㋐~㋗について原告が主張する意思の連絡は全て否認する。被告Y6が,不正使用㋐~㋗に係る各機械のため,本件図面データを使用するよう指示した事実はない。なお,被告Y6は,不正使用㋗に係る機械について,被告Y11に対し,「できるか?」と確認し,その受注を手配した事実はあるが,本件図面データを使用するよう指示したことはなく,それが使用されることも知らなかった。(2) 案件奪取㋑及び㋒について被告Y6が,営業担当者として,テルモ富士工場機及び昭和薬品化工機に係る案件に関与したような事実は存在しない。この点について,原告が主張する事実関係は,全て知らない。(3) 案件奪取㋓について被告Y6が原告在籍時交渉した案件は,目視検査装置と接続するライン全体の計画が頓挫したため失注しており,被告IDKが受注した案件とは全く別のものである。実際,前者は,Ponglimという商社を介したものであるが,後者は,ステリジャパン株式会社という商社を介したものであり,対象とする目薬用プラスチック容器の寸法や形も異なっている。

(被告Y7らの主張)(1) 不正使用㋐~㋗について

ア他の被告らの不正使用行為について被告Y7らは,問題とされる各機械の設計に関与しておらず,具体的事実を主張することはないが,原告が本件図面データにおける技術上の情報・ノウハウであるとする「選択」と「配置」は,周知慣用な情報にすぎなかったから,被告Y10,被告Y11及び被告Y12が,これを使用する必要性はなかった。したがって,各機械の設計のため,本件図面データが使用されたであろうと推認することはできない。

イ被告Y7らの共同不法行為について原告は,被告Y7らに共謀があるなどというのみで,「各自の行為が客観的に関連し共同して違法に損害を加えた場合において,各自の行為がそれぞれ独立に不法行為の要件を備えるとき」(最高裁昭和39年(オ)第902号同43年4月23日第3小法廷判決・民集22巻4号964頁参照)という共同不法行為の要件を主張・立証していない。被告Y13に至っては,その共謀の根拠も薄弱である。(2) 案件奪取㋑について

ア原告は,甲93の5の見積書記載の見積額が●(省略)●円であることをとらえ,テルモ株式会社の予算と近づいていたと主張するものと思われるが,これは同社が負担する合計●(省略)●円程度の費目を含めないで計算した金額であり,原告の提示額と同社の予算額には大きな乖離があった。

イまた,被告Y8が,テルモ株式会社に対し,被告IDKを「OEM先」と紹介し,被告Y7を原告の従業員と虚偽説明したような事実はない。被告Y7も被告IDKの名刺を渡している。(3) 案件奪取㋒について被告IDKが,昭和薬品化工株式会社に対し,現実と異なる実績が記載された資料を示していたことは認める。昭和薬品化工機に係る図面が,本件図面データを基に作成されたとする原告の主張について,被告Y7らは,この点に関与していないため知らないが,被告Y12からのメールに対し,被告Y7が「●(省略)●どころか,Y12さんが全書き設計している機械です。」などと返信していること(甲64・116番)に照らすと,同被告は,当時,被告IDKがゼロから昭和薬品化工機を設計していると認識していたものと考えられる。

(被告Y10の主張)(1) 不正使用㋐~㋒について被告Y10が,別紙4-1~3の各2枚目に認否するとおり,不正使用㋐~㋒に係る機械について,原告の図面を使用したことは認める。(2) 不正使用㋓について被告Y10は,ユニメッド機の図面を設計するに当たり,「光洋のCADデータを参考にして作成した」(甲48)にすぎない。本件図面データと類似するものがあるにしても,機構の位置関係は,構造上,自ずと定まるから,類似するものがあるのも当然である。(3) 不正使用㋕について原告は,メルシャン機の図面と本件図面データが類似するというが,その主張は不明確であり,根拠も不十分である。(4) 不正使用㋖について被告Y10は,廣東製薬2号機について,フリー素材を使用するなどし,独自に設計を行っており,本件図面データを全く使用していない。本件図面データは,当時,既に警察に押収されていたので,廣東製薬2号機の設計には,廣東製薬1号機の図面が利用されている。

(被告Y11の主張)被告Y11が,本件図面データを「不正使用」したことは争う。また,他の被告らとの間の共謀に関しても否認する。(1) 不正使用㋐について被告Y11が,廣東製薬1号機の図面作成に当たり,別紙4-1の3枚目に認否する限度で,本件図面データを利用・参考にしたことは争わない。(2) 不正使用㋑について被告Y11が,テルモ富士工場機の図面作成に当り,本件図面データを利用・参考にしたことは争わない。(3) 不正使用㋒について昭和薬品化工機について,被告Y11が担当した図面は,被告Y11独自の知見に基づき作成されたものである。(4) 不正使用㋓について被告Y11が,ユニメッド機の図面作成に当たり,本件図面データを利用・参考にしたことは争わない。(5) 不正使用㋔について被告Y11は,大幸薬品機のため,本件図面データを使用していない。本件図面データは,その当時,既に警察に押収されていた。(6) 不正使用㋕について本件図面データを利用されていたとの主張は否認する。同じ性能を有する機械や部品であれば,その構成が類似することは当然のことである。(7) 不正使用㋖について被告Y11は,廣東製薬2号機については,廣東製薬1号機の図面の一部を利用・参考にしたにすぎず,本件図面データは利用していない。原告は,廣東製薬2号機の図面と本件図面データとが一致していると主張するが(甲56,116,117),その中には一致しているとはいえないものが含まれる。また,廣東製薬2号機の図面には,フリー素材などから作成可能な部分もあり,秘密情報でないデータが多く含まれている。(8) 不正使用㋗について被告Y11が,原告在職中,原告退職後の被告Y6の依頼を受け,本件図面データを使用し,廣東製薬●(省略)●を設計したことは認める。(9) 意思の連絡について被告Y10が,どのように自らの担当図面を作成したかは,被告Y11は認識しておらず,逆も然りである。被告らの間に意思の連絡はない。

(被告Y12の主張)(1) 被告Y12の不正使用行為について

ア被告Y12が,昭和薬品化工機の設計のため,以下のとおり,図面のごく一部に本件図面データを使用したことは認める。しかし,その余の図面については,その使用を否認する。ただし,被告Y10が,その元となる図面を作成する際に,本件図面データを利用していた可能性はある。

(ア) 被告Y12が,甲143別紙18-1の図面について,本件図面データを使用した。ただし,その内容は,基本的に無料素材そのままである。

(イ) 被告Y12は,甲143別紙19-1の図面について,前記(ア)のデータの形式的な記載や書式を再利用したにすぎない。

(ウ) 被告Y12は,甲143別紙3-1,14-1の図面について,本件図面データを使用した。ただし,前者は,後に仕様が変更された。

イ被告Y12が,廣東製薬1号機及びテルモ富士工場機の不具合修正やユニメッド機,大幸薬品機及び廣東製薬2号機の一部の設計に関与したことは認めるが,本件図面データは使用していない。メルシャン機に至っては,組図を取りまとめて配置する作業をしたにすぎず,その設計作業をしていない。(2) 被告Y12の共同不法行為について被告Y12は,昭和薬品加工機に係る本件図面データの使用について,他の被告や関係者との間で意思の連絡はなかった。また,被告Y12は,その余の機械についても,被告Y11及び被告Y10と本件図面データの使用の有無を話題にしたことはなく,意思の連絡はなかったから,仮に,被告Y10及び被告Y11がその余の機械の設計に本件図面データを使用していたとしても,被告Y12が責任を負う理由はない。
👤 原告の主張
5争点5(原告従業員の転職勧誘に係る被告Y6の責任)について(原告の主張)(1) 被告Y6,被告IDK,被告京都及び被告Y2は,共謀の上,原告の多数の従業員を引き抜いた。この行為は,原告と同一の事業を立ち上げ,原告の事業を瓦解させるという図利加害目的を持って,秘密裏に行われ,その態様は執拗かつ悪質なものであるから,自由競争の範囲を逸脱したものとして,不法行為(民法709条)を構成する。

ア被告Y6は,平成24年5月下旬頃,原告を退職し,原告の営業秘密を持ち出した上で利用し,原告を退職した従業員らと共に原告と全く同じ事業を営む会社を立ち上げる計画を立て,実行に向けて動き出した。被告Y6は,平成24年夏頃,被告Y7に対し,原告従業員を引き抜いた上で新会社を設立する計画を伝え,「私についてこないか。」と告げた。被告Y7は,同計画に賛同し,被告Y6と行動を共にするようになった。被告Y6は,平成24年7月頃,被告京都の被告Y2に前記計画を説明し,「うちがスポンサーになるから」という返答を得た。これを受け,被告Y6は,被告Y2と共に計画の実現に向けて動き出した。

イ被告Y6は,その後,被告Y10,被告Y8及び被告Y9に対し,前記計画を告げた上で被告IDKに転職することを持ち掛け,その賛同を得ると,原告の営業秘密を持ち出すよう指示した。

ウ被告Y6は,平成24年12月頃から平成25年3月頃,包装機器営業部の係長であったPに対し,執拗な転職勧誘をした(甲124)。被告Y6は,同部の課長代理であるQも勧誘した(甲125)。

エ原告の製造部門を統括し,その中核をなすI工場長は,被告Y6からの転職勧誘を断っていたが,被告Y6は,平成25年5月2日,被告Y2と共にIと会食し,その引き抜きを画策した。

オ被告Y6は,平成25年6月4日頃,設計部の従業員であった被告Y11に対し,別の会社に転職しようと誘い,その承諾を得た後,原告の営業秘密を持ち出すよう指示し,これを不正取得した。

カ被告Y6は,平成25年6月又は7月,原告の設計部の部長であり,Iの実弟である証人Lに対し,出張に同行した機会をとらえ転職を迫るなど,複数回にわたり転職勧誘をした。(甲126)。

キ被告Y6は,平成25年10月11日,被告Y13に対し,転職を勧誘する文書を送付した(甲128)。この勧誘は奏功し,被告Y13は,同年12月15日頃,原告を退職し,被告IDKに転職した。

クそのほか,被告Y6は,原告の製造部組立課の課長であるR,課長補佐であるS,課員であるTやUに対して,被告IDKへの転職を勧誘する行為を執拗に行った(甲129~131,133~135)。(2) 被告Y6は,被告Y6が被告Y13を勧誘したのは,原告を退職した後のことであったと主張するが,退職後の勧誘であっても,社会的相当性を逸脱すれば不法行為が成立する。被告Y6は,被告Y13を不正競争行為に加担させようという意図の下,原告の経営状況が悪化しているなどと虚偽の事実を告げ,その不安感を煽るなどの手段をとっており,このような手段を用いた転職勧誘は社会的相当性を逸脱した違法なものである。

(被告Y6の主張)(1) 転職勧誘の違法性判断に当たり,被告Y6が本件データの不正取得に関与したか否かという退職行為とは無関係な事情は考慮すべきでない。そして,転職の声掛けの経緯,態様,対象人数等についてみれば,いかなる意味においても,被告Y6の行為が違法と評価される余地はない。(2) 被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11及び被告Y13は,被告Y6による声掛けが契機になったにせよ,原告の経営状態を不安に思い,原告会長及び原告代表者に不満を抱く中,自己の判断により被告IDKでの勤務に希望を見出し,原告を退職したにすぎない。(3) また,原告は,平成23年6月16日付けの組織図(乙D3)上,133人の構成員を擁し,原告の主張によれば,平成25年当時,124人の労働者を有していたというのであるから,わずか6名という転職者の人数が「多数」と評価されるはずもない。(4) さらに,被告Y6が,被告Y13に声掛けをしたのは,被告Y6が原告を退職した後のことである。退職後の行為について,雇用契約上の誠実義務違反としての不法行為責任が成立する余地はない。したがって,少なくとも,被告Y13に対する関係において,原告の主張が失当であることは明らかである。
👤 原告の主張
6争点6(被告京都及び被告Y2の責任)について(原告の主張)(1) 被告Y2の責任

ア不正競争行為に関する共謀(ア) 被告Y2は,被告Y6から,平成24年7月8日,「光洋自動機が販売した機械のアフターサービス」などを事業の内容とする「新会社の立上げ概要」と題する書面の送付を受け(甲21・5~7頁),同月23日,被告京都の事務所において被告Y6と新会社の立上げに関する協議を行った。原告が販売した機械の図面データなしに,他社製の機械のアフターサービス事業を展開することはできないので,この時点で,被告Y2は,被告Y6が,原告の図面データの持出しを前提とする計画を立案していることを認識したと考えられる。これによれば,被告Y6と被告Y2の間には平成24年7月頃までに共謀が成立したということができるので,被告Y2は,本件不正取得,本件不正開示及び本件不正使用の全てについて責任を負う。

(イ) 仮に,平成24年7月の時点で事前共謀が成立していないとしても,被告Y2が被告Y6に対して「いいねえ,光洋の商権をそっくり頂こう。」発言し(甲21・16頁),原告と同一の事業を営むという被告Y6の計画を熟知している旨の認識を示している。また,平成25年3月6日に被告京都と被告IDKとの合意(甲21・15頁)が成立した時点で,被告IDKの当時の状況では原告の営業秘密の不正取得,不正開示及び不正使用を前提としない限り実現できない計画,例えば「再来年のインターフェックスでラベラーを展示する」ことなどを立案しているので,遅くとも同日時点までに被告Y2と被告Y6の間に共謀が成立した。

(ウ) また,被告Y2は,被告Y6から,被告Y6の新規事業は,転職勧誘に応じて原告を退社した従業員らと共に事業を立ち上げるものであることの説明を受けていた。そして,被告Y2は,原告のI工場長が,原告のラベラー事業の中核をなす人物であることを理解しながら,平成25年4月26日,被告Y6とともに,同人と会食し,転職を勧誘したばかりか,その後も同人と会った際,勧誘の言葉を掛けた。なお,被告Y2は,同年5月27日,被告Y6とともに,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10とも会って,今後の協議を行っている。

(エ) 以上によれば,被告Y2は,平成24年7月以降の本件データの不正取得行為,不正開示行為及び不正使用行為の全てについて,それぞれの実行行為者と共謀関係にあるというべきである。

イ民法709条及び会社法429条に基づく責任被告Y2は,本件データの不正取得,不正開示及び不正使用について,上記アの共謀としての行為とは別に,民法709条及び会社法429条に基づく独立した責任を負う。

(ア) 民法709条に基づく損害賠償責任被告Y2は,業界トップ水準にあった原告の営業部長であった被告Y6に対し,被告京都の子会社ある被告IDKで競合事業を立ち上げるという構想を提示し,被告Y6に当該事業を立ち上げさせた。そして,被告Y2は,原告の従業員が被告IDKに順次転職していく計画があることを認識し,その勧誘行為にも関与した上,実際に被告転職者らが被告IDKに順次転職して来ていることを了知していた。被告Y2は,被告Y6から,廣東製薬に対し,被告IDKに転職した事実を隠して営業活動を行う必要があるから,原告の従業員が被告IDKに在職している事実を公表しないで欲しいとの要望を受けていた。そして,被告Y2は,実績に乏しく,原告と競合するレベルにすらなかった被告IDKが,極めて短期間にラベラー事業を開始し,短期間に次々と製品を納入しているという事実を認識していた。自動包装機械という複雑な工業用機械について,短期間で事業を開始するには,原告の保有する本件データが不可欠であり,これを何らかの手段で入手する必要がある。このことは,競合する事業を営む被告京都の営業統括責任者の地位にある被告Y2が取引上要求される注意義務を尽くせば容易に認識し得るものであった。しかるに,被告Y2は,この義務に反し,自らが被告Y6に依頼した本件データの不正取得,不正開示及び不正使用を阻止することなく被告IDKにおける自動包装機械事業を漫然と遂行させたのであり,この行為は不法行為(民法709条)を構成する。さらに,被告Y2は,平成26年9月16日,被告IDKが捜索差押を受けた直後,その報告を受けているから,同日,本件データの不正取得及び不正使用について,悪意に陥ったというべきである。しかるに,被告Y2は,被告Y5に十分な調査を行わせることなく,本件図面データの不正使用を放置し,受注済みの製品を納品させ,新たな受注までさせているのであるから,それ以後の製造納入に係る不正使用㋒~㋖について,少なくとも重過失がある。

(イ) 会社法429条に基づく損害賠償責任被告Y2が被告IDKにおける不正競争行為を阻止することなく漫然と遂行させたことは,被告京都の職務遂行における重大な過失に該当し,被告Y2は,原告に対し,会社法429条に基づく損害賠償責任を負う(上記一般不法行為に基づく請求と選択的併合)。

ウ原告従業員の転職勧誘に係る被告Y2の責任被告Y6は,原告従業員に対して転職勧誘を行い,多数の従業員の引抜きに成功しており,被告Y6の引抜き行為は不法行為を構成するところ,被告Y2は,被告Y6による違法な転職勧誘について,被告Y6と共謀していたから,当該行為について不法行為責任を負う。(2) 被告京都の責任について被告京都は,被告Y2の不正競争行為又は不法行為に対する使用者責任を負い,又は,本件データの一次的不正取得,二次的不正取得,本件データの不正使用及び原告従業員の転職勧誘について法人自身の責任を負う。なお,被告Y2が,被告京都において,被告IDKを統括する立場になかったとしても,被告京都は,いずれにせよ,被告IDKを担当する者の使用者としての責任を負うことに変わりはない。

(被告京都らの主張)(1) 被告Y2の責任について

ア被告Y2が,被告Y6や他の被告らと不正競争行為等を共謀したとの事実は存在しない。被告Y6が,被告Y2に新会社設立の協力を依頼し,被告Y2が,そうであれば,むしろ,被告IDKに転職するよう打診した事実があった程度である。被告Y2が,被告Y6から「新会社の立ち上げ概要」に相当する内容の書面を受け取ったことは確かであるが,原告の営業秘密を不正取得する計画などは記載されていなかった。また,被告Y2が,被告Y6に対し,「いいねえ,光洋の商権をそっくり頂こう」と発言したことがあったとして,その発言が,原告の営業秘密を不正取得する文脈でのものであるともいえない。インターフェックスにしても,単なる展示会にすぎない(乙A1)。

イ被告Y2が会社法429条の責任を負うとの主張も争う。被告Y2は,被告IDKの25%の株式を有する被告京都の取締役にすぎず,被告IDKを担当していたわけでもない。被告Y2が,被告Y6を始めとする原告の従業員らが被告IDKに転職したことを認識し,被告Y6から同社における実績をアピールするメール(甲60・14頁)を受け取るなどしていたことはあるが,同社のラベラー事業に関与していたわけではない。同社は,従前からタックラベラーの製造技術を有し,そこに原告からロールラベラーの設計担当者が転職してきたのであるから,その実績も不自然ではなかった。被告Y2は,同社の出荷予定を把握する立場にさえなく,被告Y6を始めとする原告の従業員らの転職に関与したからといって,同社における出荷を阻止する作為義務を負うものではない。また,原告は,被告Y2が被告IDKの出荷を阻止する義務を負うことを前提として民法709条の責任を負うと主張するが,上記と同様の理由から失当である。

ウ原告は,被告Y2が,被告IDKに対する捜索差押えの後,本件データの不正取得及び不正使用について悪意に陥ったと主張するが,否認する。被告Y2は,そのような「可能性」を認識したにすぎない。また,それを受けての対応は,被告IDKが判断すべき事柄である上,サーバを差し押さえられた以上,図面データの照合も不可能であった。しかも,捜索差押後に出荷された製品は,ロールラベラーではなかったから,被告Y2が,その出荷に疑問を抱く理由もなかった。したがって,捜索差押え後に限っても,被告Y2が会社法429条の責任を負う理由はない。

エまた,被告Y2の転職勧誘に対する関与にしても,Iとの会食に同席し,被告Y6のために口添えをし,その後,被告Y6と被告Y7ら4名との食事会に参加し,被告IDKの説明をしたことに尽きる。労働者の転職は原則自由であり,それらの転職勧誘の結果,従業員6名が転職したからといって,社会的相当性を逸脱した違法性があるとはいうことはできない。また,被告転職者らに,転職と同時に営業秘密を不正取得するなどの意図があったとしても,被告Y2には,これに対する故意・過失がない。被告Y2が,転職勧誘に関する不法行為責任を負う理由もない。(2) 被告京都の責任について前記(1)のとおり,被告Y2は責任を負わない。また,被告Y2以外の被告の被用者が,何らかの不法行為に及んだという具体的な主張もない。したがって,被告京都が使用者責任を負う理由はない。原告は,被告京都自身の不法行為責任をも問題とするが,具体的な事実の主張立証はない。
👤 原告の主張
7争点7(被告IDK,被告Y5及び被告Y4の責任)について(原告の主張)(1) 被告Y5の責任

ア被告Y5は,平成25年3月6日頃,被告京都と被告IDKとの間の契約によって,被告IDKに入社し,その社内体制を構築することとなっていた。被告Y6は,その頃までに,被告Y2に対し,転職勧誘に応じた原告の元従業員らと共に,原告の営業秘密を持ち出した上,被告IDKにおいて原告と同一の事業を営むことなどの計画を記載した書面(「今後のスケジュール」)を提出していた。また,被告IDKは,その頃までに,「再来年のインターフェックスでラベラーを展示する」ことを計画していた。インターフェックスは,最先端の技術が披露される展示会であるが,被告IDKの当時の状況では原告の営業秘密の不正取得,不正開示及び不正使用を前提としない限り実現することのできない計画であった。そうすると,平成25年3月6日頃以降の行為(本件データの不正取得②及び③,不正開示及び不正使用)については,被告Y6及び被告Y2らとの間で共謀が成立していたと考えられる。

イ仮に,同時点における意思の連絡が認められないとしても,本件データが被告IDKに持ち込まれた時点で,被告Y5は,不正取得行為の介在を知り又は重過失により知らず,不正開示行為に係る本件データを取得したと評価できる(不競法2条1項5号。仮に,本件データの取得行為が同項7号に当たる場合には同項8号)。(2) 被告Y4の責任

ア被告Y4は,被告IDKの役員であり,被告IDKと被告京都との間の合意内容も認識していたと考えられる。そして,上記(1)のとおり,被告IDKにおいて,原告の営業秘密を不正取得し,不正使用しなければ不可能な計画が立案されていたことからすれば,被告Y4についても,被告Y5と同様に,平成25年3月6日頃以降の行為(本件データの不正取得②及び③,不正開示及び不正使用)について,被告Y6及び被告Y2らとの間で共謀が成立していたと考えられる。

イ仮に,同時点における意思の連絡が認められないとしても,本件データが被告IDKに持ち込まれた時点で,被告Y4は,不正取得行為の介在を知り又は重過失により知らず,不正開示行為に係る本件データを取得したと評価できる(不競法2条1項5号。仮に,本件データの取得行為が同項7号に当たる場合には同項8号)。(3) 被告IDKの責任被告IDKは,本件データの一次的不正取得,二次的不正取得,本件データの不正使用及び原告従業員の転職勧誘について,法人自身の不法行為責任を負い,又は,本件データの不正開示,本件データの不正使用及び原告従業員の転職勧誘について,役員及び従業員の行為に対する使用者責任を負う。

(被告IDKらの主張)(1) 被告Y4の責任について

ア不正取得及び不正開示に対する共謀について被告Y4は,原告主張の不法行為を共謀していない。原告の主張は,真偽も明らかでない被告Y6のノート(甲21)に依拠した憶測にすぎない。

イ二次的な不正取得の実行について原告の主張は否認する。原告が,いかなる行為を「取得」と構成するのか,何を重過失の評価根拠事実とするのか明らかでない。

イ不正使用及び案件奪取に対する共謀ついて,被告Y4は,原告主張の不法行為を共謀していない。原告が,いかなる事実を「共謀」と主張するのか定かでない。(2) 被告IDKの責任について

ア使用者責任について被告Y7,被告Y10,被告Y11が入社したのは,それぞれ平成25年8月26日,同年11月1日,同月18日である。したがって,不正開示④~⑥について,使用者性及び事業執行性がない。

イ法人自身の責任について原告は,被告IDKに法人自身の責任が成立するというが,その具体的な根拠が不明である。また,被告IDKは,被告転職者らが,原告の図面を元に設計しているという認識はなかった。

ウ本件データの不正使用について原告は,被告IDKには本件データの不正使用について,法人自身の責任及び使用者責任があると主張するが,以下のとおり,理由がない。

(ア) 被告IDKは,被告転職者らの行為を認識していなかったのであり,現在も正確な事実関係を把握し得ていない。しかし,少なくとも,問題とされる機械には,被告IDKの独自設計部分がある(乙B1~6)。

(イ) 原告は,図面の類似性を指摘するが,ラベラーの基本的な機構は同じである上,被告Y10,被告Y11及び被告Y12は,原告で設計を担当していた者なのであるから,図面が似てくるのは当然である。

(ウ) むしろ,テルモ富士工場機や昭和薬品化工機には,被告IDKでも製作実績があるウエーブパックマシンと一致する部分があったから,その図面を参照して設計することが十分に可能であったといえる。

(エ) 廣東製薬2号機に至っては,廣東製薬1号機と同じ注文内容のものである上,本件図面データは,平成26年9月16日に押収され,被告IDK内に存在しなかったのであるから,これが使用されたはずはない。

(オ) また,大幸薬品機について指摘すれば,原告が,その組図を入手しながら,商用図レベルでの比較しか主張しないことからして,組図である本件図面データが使用されていないことは明らかである。

(被告Y5の主張)(1) 被告Y5は,被告転職者らによる不正競争行為について,全く知らなかった。被告Y5は,被告IDKの経営改革のため,同社に勤務するようになったのであり,平成25年6月の段階で,被告Y6が入社する予定であると聞いたことがあっただけである。被告Y5は,同年9月に警察の捜索差押えを受けたとき,京都の自宅で電話を受けたが,何があったのかさえ,全く理解し得なかった。(2) 原告の主張は,抽象的に共謀があったというにとどまり,その具体的な時期や内容が明らかでない。被告Y5は,原告が問題とする平成25年3月6日頃,被告Y2と接触したことはなく,同年5月頃,自らが被告IDKに移籍することを初めて聞かされた。また,被告IDKが,インターフェックスに出展する計画のことも聞いたことがなかった。
👤 原告の主張
8原告に生じた損害及び額(1) 争点8-1(争点3に係る損害)について(原告の主張)

ア不競法5条3項3号の適用があること(ア) 営業秘密のライセンス契約では,当該営業秘密を実際に使用したか否かにかかわらず,料金を払うのが通常である。不競法5条3項3号の「使用」には,「取得」及び「開示」をも含むと解するのが相当であり,同号の「受けるべき金銭の額」が損害となる。

(イ) 被告らは,損害不発生の抗弁を主張するが,営業秘密は,「特許権や実用新案権等のようにそれ自体が財産的価値を有するもの」(最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)であるから,その使用の有無にかかわらず,損害を観念し得る。

イ損害の算定方法Ⅰ(コスト・アプローチ)本件不使用データの価値は,その作成を外注した場合にかかる費用を基に算出され得る。したがって,損害額は,その外注単価及びライセンス料率を基準に,以下の合計と計算することができる。① Y7HDD:●(省略)●円(=(原価計算データの作成単価●(省略)●円×●(省略)●個)×ライセンス料率●(省略)●%)② Y10HDD:●(省略)●円(=(電気関係図面の作成単価●(省略)●円×●(省略)●個)×ライセンス料率●(省略)●%)③ Y11HDD:●(省略)●円(=(組図の作成単価●(省略)●円×●(省略)●個+部品図の作成単価●(省略)●円×●(省略)●個)×ライセンス料率●(省略)●%)

ウ損害の算定方法Ⅱ(インカム・アプローチ)(ア) 不競法5条3項3号の損害額は,被告らの不正競争行為で棄損させられた営業秘密の価値に相当するとみることもできる。すなわち,本件不使用データという知的財産の寄与により,被告IDKの事業収益に将来的に生ずると合理的に見込まれた価値である。

(イ) その具体的な額は,正林国際特許商標事務所の令和2年9月24日付け意見書(甲202)のとおり,本件不使用データが生み出したはずのライセンス料相当収入を割引率10%として現在価値に引き直し,以下の①及び②の合計●(省略)●円と算定するのが相当である。① 被告IDKに想定された将来の機械の売上げに対するライセンス料の割引現在価値●(省略)●円(ただし,単年度売上高は,本件図面データが不正使用されたことが確実であると考えられる不正使用㋐~㋓,㋕及び㋖に係る機械の売上高4億0837万3960円とし,算定期間は,技術ライフサイクルの平均である10年間とし,ライセンス料率は,意見書が下限とする15.5%を採用した。)② 被告IDKに想定されたアフターサービス等の売上げに対するライセンス料の割引現在価値●(省略)●円(ただし,算定の基礎とする単年度の売上額は,原告における平均サービス売上高の2分の1に相当する4億1550万円を想定し,算定期間は,平均的なサービス期間を勘案した20年間とし,ライセンス料率は,意見書が上限とする17.5%を採用した。)(ウ) なお,本件不使用データによって,アフターサービスの売上げが見込まれたことは,①被告Y6が,原告のアフターサービスの業務を奪うことを重視していたこと,②本件図面データが,原告が負担した設計時のコストを負担せずにアフターサービスを可能とするものであり,本件原価計算データが,原告よりも有利な価格を顧客に提示することを可能とするものであること,③被告IDKが,●(省略)●を始め,現に原告のアフターサービスの業務を奪っていたことなどから明らかである。

(エ) また,被告Y7らは,本件原価計算データが,ライセンスを受ける価値のない情報であると主張する。しかし,本件原価計算データは,被告IDKにおいて,原告の想定原価や利益率を算出した上,顧客との間で価格交渉などの営業活動を行うことで,販売条件が競合する場合に有利な立場を得ることを可能とする情報である。実際にも,被告IDKは,廣東製薬1号機の受注に当たり,本件原価計算データを利用していた。被告Y7らの当該主張が誤りであることは明らかである。

エ不正開示⑤と不正開示⑥との関係について(ア) 被告Y10は,被告IDK社内において,不正開示⑥に係るY11HDDがあった以上,不正開示⑤に係るY10HDD内のデータが使用される可能性はなかったと主張する。しかし,不正開示⑤による損害は,その時点で確定的に生じているのであるから,結論を左右する事情ではない。

(イ) なお,逆に,Y11HDDに係る不正開示⑥に先立ち,Y10HDDによるに不正開示⑤がされていたことになるが,不正開示⑥は,秘密管理されている営業秘密の法的保護状態を不正開示⑤とは別途に新たに侵害するものであるから,これも結論を左右する事情ではない。

オ被告らが責任を負う額(ア) 被告らは,連帯して,前記ウ(ア)の●(省略)●円に弁護士費用相当損害20%を加算した合計●(省略)●円の損害を賠償する義務を負う(主位的請求⑹)。

(イ) そうでないとすれば,被告京都,被告IDK,被告Y2,被告Y5,被告Y4,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10は,原告に対し,連帯して,前記イ①の●(省略)●円及び同②●(省略)●円に弁護士費用相当損害20%を加算した合計●(省略)●円を支払う義務を負い(予備的請求⑵),これらの被告ら並びに被告Y11及び被告Y13は,連帯して,同③の●(省略)●円に弁護士費用相当損害20%を加算した合計●(省略)●円を支払う義務を負う(同⑶)。

(被告IDKらの主張)

ア不競法5条3項3号の適用がないこと(ア) 営業秘密が侵害されたという事案においても,損害不発生の抗弁(前掲最高裁平成9年3月11日判決)を主張することは許されるというべきである。そして,本件データは,実際に使用されないまま,廃棄又は返還されているから,損害発生の可能性を有しない。

(イ) また,不競法5条3項3号の推定規定は,問題となる営業秘密の使用許諾契約などを観念し得ることを前提とする。本件不使用データのように,「取得」及び「開示」がされたが,「使用」に至らなかった場合に適用されるべきではない。

イ損害の算定方法Ⅰ(コスト・アプローチ)について本件不使用データの個数は莫大であり,重複カウントされている可能性が考えられる。また,各データの内容によって,その価値は千差万別であるはずであり,原告主張のように一律に算定することはできない。

ウ損害の算定方法Ⅱ(インカム・アプローチ)について不競法5条3項3号は,営業秘密の価値を損害と推定するものではないから,原告の算定方法は失当である。また,前記イの点を考慮すれば,営業秘密の価値の算定方法自体も机上の空論である。

(被告京都らの主張)

ア不競法5条3項3号の適用がないこと損害発生の可能性がない以上,不競法5条3項は適用されない(前掲最高裁平成9年3月11日判決)。そして,本件不使用データは原告が既に回収しており,損害発生の可能性がない。

イ損害の算定方法Ⅰ(コスト・アプローチ)について本件不使用データの価値の算定するに当たり,その作成費用を基とするのは不合理である。また,本件図面データには,原告における「スタンダード図面」に依拠して作成されたものもあるはずである。

ウ損害の算定方法Ⅱ(インカム・アプローチ)について原告の計算は,被告IDKが,今後も,年5億円超の売上を継続することを前提としたものである。しかし,被告IDKは,今後,本件データを使用する可能性がないのであるから,机上の空論である。

(被告Y5の主張)原告の主張するインカム・アプローチは,「仮に使用していた場合に発生し得る損害」を計算する内容となっている。したがって,本件不使用データのように,実際に使用されなかった営業秘密に適用する余地はない。

(被告Y7らの主張)

ア原告は取得した情報の使用の有無にかかわらず使用料相当額を賠償すべき義務を負うと主張するが,元の情報の保有者には何ら損害が生じていないのであるから,この主張は不合理である。また,取得のみの許諾に対価を支払うメリットはなく,その使用料相当額を観念することもできない。

イ原告の算定は,本件図面データに技術ノウハウが表れていることを前提とするが,そのような立証はない。仮に表れているとしても,それは周知慣用情報である。本件原価計算データに至っては,実際に利用する方法がなく,ライセンス供与を受ける価値がない情報である。

ウ仮に,何らかの損害が生じているとしても,本件データの不正取得等がされた一因には,原告において,私物HDDの持込みが容認され,データの管理に関するルールや指導,チェックが存在していなかったことなどの事情がある。したがって,大幅な過失相殺がされるべきである。

(被告Y10の主張)

ア損害の算定方法Ⅰ(コスト・アプローチ)について原告の主張は否認し,又は争う。原告は,本件不使用データの具体的内容を明確にしていない。それらのデータは,必ずしも同一の価値を有するわけではない。また,原告の計算は,作成費用やライセンス料率の根拠などを示しておらず,合理的根拠を欠くものである。

イ損害の算定方法Ⅱ(インカム・アプローチ)について原告の主張が失当であることは,他の被告らの指摘のとおりである。本件不使用データは,警察に押収されたため,実際には使用されず,その可能性もなかったものであるから,そこから,10年~20年間にわたり,継続的な利益を得られたことを前提にした算定評価は正当なものではない。

ウ不正開示⑤と不正開示⑥との関係についてY10HDD(不正開示⑤)内のデータは,Y11HDD(不正開示⑥)内のデータが存在したため,実際に使用されず,将来的にも使用される可能性がなかった。そのため,不正開示⑤は,相対的に損害発生の可能性が低いものであり,事業収益を生み出す見込みは皆無のものであった。
👤 原告の主張
(被告Y12の主張)不正開示行為に係る損害賠償請求権の消滅時効は,遅くとも平成27年4月29日から起算される。原告は,同年10月29日付け訴状によって,被告Y12に対し,その損害賠償を求める訴えを提起したが,平成30年3月20日付け訴え変更申立書で,その訴えを取り下げ,これに対する同意が擬制された。原告が主位的主張とする不正開示は,同年8月30日付け訴え変更申立書によって,同請求を再び追加したものであるので,被告は,同年11月26日付け準備書面をもって,その消滅時効を援用する。(2) 争点8-2(争点4に係る損害)について(原告の主張)

ア不競法5条2項の推定を主張するに当たっては,不正競争行為と因果関係のある損害の発生について,権利者と侵害者の競業関係や事業の同種性を主張立証すれば足りる。不正競争行為と因果関係ある損害の立証がないとして,その適用を争う被告らの主張は失当である。

イそして,不正使用の損害の額は,不競法5条2項により,以下の合計●(省略)●円と推定される(なお,案件奪取の損害の額は,当該案件の受注による被告IDKの利益の額に相当するが,これは当該案件に対応する不正使用に係る前記推定額と同一となる。)。

(ア) ラベラーの限界利益は,通常,売上高の●(省略)●%程度であるから,不正使用㋐~㋖について,以下に示す被告IDKの売上高(甲9~14)の合計5億5849万3960円に●(省略)●%を乗じた●(省略)●円が,これらの不正使用に係る限界利益の額である。㋐廣東製薬1号機1億2100万0000円㋑テルモ富士工場機6805万7280円㋒昭和薬品化工機4154万8680円㋓ユニメッド機1576万8000円㋔大幸薬品機9288万0000円㋕メルシャン機5724万0000円㋖廣東製薬2号機1億6200万0000円(イ) また,不正使用㋗については,受注額93万4000円から手数料49万6000円及び材料部品の原価7万円及び5万2000円を控除すれば(甲74),その限界利益は31万6000円となる。

ウこれに対し,被告IDKが主張する経費額は,客観的な裏付けを欠いており,信用し難いものである。その計算結果によれば,被告IDKは,赤字の受注を繰り返していたことになるが,営利企業としてあり得ない。その主張を個別にみても,以下のとおり,種々の問題点がある。

(ア) 部品費は,その具体的内容が不明である。また,被告IDKが,情報が原告に漏れないように,被告京都に部品を発注していた例(甲100の1)があることからすれば,被告IDKは,情報が漏れないことを主目的に発注先を選び,そのために部品費が高額になっていた可能性が十分にある。これを控除すべき経費ということはできない。

(イ) 人件費も,控除すべき経費に当たらない。仮に,侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった費用といい得るものが含まれていたとしても,その算定方法を検証するに足りる証拠は提出されていない。販売管理費も,それが侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったものであることの主張立証がない。

(ウ) 手数料は,証拠が不十分であるばかりか,支払先とされる仲介会社の実態が不明である。支払金額や支払方法も不自然であり,被告Y6など対する不正なキックバックであったと考えられる。そもそも,現金による手数料の支払を経費とすることは,税務上も否認される。

(エ) 不正使用㋐について,被告IDKは,受注額7700万円に対し,総原価を約6773万円と主張する。しかし,被告Y6は,その受注に当たり,被告Y5などに対し,原価率が「57.1%」であり,過去の実績は「●(省略)●%」であるという数字を報告している。

(オ) 不正使用㋑について,被告IDKは,バイナス製ロボットアームに関する金額を控除した計算をする。しかし,テルモ富士工場機は,当該ロボットアームを搭載して1台の製品として完成するものであるから,それも含めて計算するのが相当である。(カ) 不正使用㋓及び㋖についても,被告IDKは,独自設計という装置部分の金額を控除した計算とする。しかし,当該部分が独自設計であると認めるべき根拠はない。被告IDKは,独自設計をするような能力を有していなかった。また,その金額の根拠も客観的でない。

エ被告らは,本件データの不正使用は被告IDKの利益に寄与しておらず,これと相当因果関係ある原告の逸失利益は生じていないなどとして,前記の推定が覆滅されると主張する。しかし,以下のとおり,いずれも失当というべきである。

(ア) 被告らは,不正使用に係る図面の枚数の割合が,本件図面データの寄与率であるなどとする。しかし,被告らは,その余の図面が,被告IDKの独自技術によるものであることを具体的に説明し得てないのであるから,推定の覆滅する事由の主張立証となっていない。また,「タックラベルを貼付する機構」のようなラベラーの「枢要部」の図面と「容器を搬送する機構」のようにラベラーに固有でない「非枢要部」の図面との寄与度を同列に扱う根拠もない。

(イ) なお,原告は,侵害論としては,不正使用㋓(ユニメッド機)に不正使用された本件図面データを1個であると主張している。原告が知得した図面が1枚のみであったからである。しかし,実際には,当該図面には,前記1個に加え,本件図面データ11個が使用され,その使用箇所は,機械の全体に及ぶ(甲197)。そうすると,被告IDKは,ユニメッド機の全ての図面のため,本件図面データを使用したと考えるべきである。したがって,この点にも推定を覆滅すべき事由はない。

(ウ) 被告らは,不正使用に係る図面に,市販の部品を描いたにすぎない部分があるとして,本件図面データの寄与度が低いなどとする。しかし,本件図面データは,市販の部品を含め,適切な機構を「選択」し,所要の調整をした上,必要な場所に「配置」するという点において,ノウハウの結晶なのであるから,明らかに失当である。図面上の部品の点数から寄与度を算定する主張も,同様に「選択」と「配置」の価値を十分意理解しないものであり,誤りというべきである。

(エ) そもそも,被告IDKは,原告と競合し得る機械を製造する能力がなかったからこそ,本件図面データを不正使用し,実際に,これを製造販売したのである。被告IDKの独自技術が,問題となる機械の製造販売に寄与したという有効な主張立証はされていないというべきである。また,被告らの主張する事情は,仮に,それが不正使用に係る損害の推定を覆滅する事情になるとしても,案件奪取による損害の算定を左右する事情ということはできない。

オ以上によれば,被告らは,連帯して,前記イ(ア)及び(イ)の限界利益額の合計に弁護士費用相当損害20%を加算した合計●(省略)●円の損害を賠償する義務を負う(主位的請求⑸)。

(被告IDKらの主張)

ア不競法5条2項は,損害額を推定するものにすぎず,損害発生の事実や因果関係を推定するものではない。そして,本件図面データの使用によって,被告IDKが,本来は製造困難であった機械を製造し得たという因果関係はない。問題とされる機械が販売できたのは,被告IDK及び被告IDKの従業員の寄与によるものである。したがって,仮に,同条項が適用されるとしても,推定の覆滅が認められるべきである。

イ不競法5条2項の「利益」は,純利益(営業利益)と解するべきである。仮に,これを限界利益と理解するとしても,少なくとも,人件費,製造間接費及び販管費は,機械の製造販売に直接関連して追加的に必要になった費用であり,控除すべき経費に当たるというべきである。これを前提すると,被告IDKは,不正使用が認められ得る機械について,以下のとおり,全体では赤字となっている計算となる(乙B28)。

(ア) 廣東製薬1号機(不正使用㋐)の受注額は,仲介会社の手数料(乙B18~20)を控除した売上高7700万円である。そこから総原価及び販管費相当額を控除すると,575万2626円の赤字である。

(イ) テルモ富士工場機(不正使用㋑)の受注額は,バイナス社に支払った3922万円(乙B37)を控除した2519万6000円である(仮に受注額から控除し得ないとなれば,いずれにせよ,経費として控除するか,寄与度で考慮すべきことになる。)。そこから総原価及び販管費相当額を控除すると,1299万9443円の赤字となる。

(ウ) 昭和薬品化工機(不正使用㋒)の受注額は3847万1000円であるが,そこから総原価及び販管費相当額を控除すると,334万4925円の赤字となっている。

(エ) ユニメッド機(不正使用㋓)の受注額は1460万円であるが,本件図面データに関係しないバッファー装置の部分の価格を控除すると430万円となる(仮に,これを控除し得ないとしても,いずれにせよ寄与度で考慮すべきである。)。そこから総原価及び販管費相当額を控除すると,60万5508円の赤字である。

(オ) 廣東製薬2号機(不正使用㋖)の受注額は,仲介会社の手数料(乙B21,22,24)及び本件図面データに関係しないラベル供給装置の部分の価格を控除した7500万円である(仮に,後者を控除し得ないとしても,寄与度で考慮すべきである。)。そこから総原価及び販管費相当額を控除すると,営業利益は1713万1747円にとどまる。(カ) そして,廣東製薬●(省略)●(不正使用㋗)の受注額は93万4000円であるが,そこから総原価及び販売管理費を控除すると,営業利益は10万6905円にとどまる(乙B27)。

ウなお,原告は,前記イの計算結果の多くが赤字となっていることに不審を示すが,部品の仕入価格や作業時間が想定以上となってしまったことなどから,結果として赤字になってしまったものにすぎない。

(被告京都らの主張)

ア不競法5条2項は,損害額の推定規定であり,損害が発生したこと,損害と侵害行為との因果関係を推定するものではない。原告は,この点に対する具体的な主張立証をしていない。

イ被告IDKにおける利益率が●(省略)●%もあるとは考え難い。また,不正使用㋑について,原告の計算は,他社であるバイナスの製品代金までも含んだ金額を被告IDKの売上高に計上する点で失当である。

ウ本件データの寄与度の評価に当たっては,被告Y10,被告Y11及び被告Y12が,ラベラーの設計に知見を有する者であったこと,被告IDKが,受注のために営業努力を払ったことが考慮されるべきである。

エ特に,不正使用㋓(ユニメッド機)や不正使用㋕(メルシャン機)に使用された本件図面データの個数はわずかであり,その開発,製造及び販売に本件図面データは,ほとんど寄与していない。

(被告Y6の主張)

ア原告は,被告Y6が想定していた原価率の数字を指摘するが,当該数字は予想の数値にすぎず,実際には部品調達費が高額になるなど想定外の事情のため,結果的に赤字になったものである。

イまた,原告は,仲介業者に対する手数料の支払が不自然であると主張するが,問題とされる仲介業者は,原告自身も使用していた業者又は同社の紹介を受けた仲介業者である。いずれにせよ,仮に,仲介業者に対する支払に不正な点があったとして,被告IDKの利益の額を左右する事情ではない。

ウ仮に,本件データが,ユニメッド機(不正使用㋓)に使用されていたとして,当該案件は,新たな仲介会社を利用したために受注し得たものであるから,相当因果関係のある損害が生じていない。また,そのバッファー装置部分は,被告IDKが完全に独自設計したものである。

エ仮に,本件図面データが,廣東製薬2号機(不正使用㋗)に使用されていたとしても,廣東製薬株式会社は,被告Y6の対応力を評価し,当該案件を被告IDKに発注したのであるから,原告の損害と本件図面データの不正使用との間に相当因果関係がないというべきである。

(被告Y7らの主張)

ア被告IDKは,本件図面データがなければ,不正使用㋐~㋗に係る機械を製造販売し得なかったというわけではないから,不競法5条2項の推定を適用する前提が欠けている。これらの機械の設計図面を作成する作業は,被告Y10,被告Y11及び被告Y12が,その知見や経験を有していたからこそ可能であったものである。原告が主張するように,本件図面データの価値が,「選択」と「配置」という図形デザインの部分にのみ存するのであればなおさらである。原告は,その「選択」と「配置」が,技術的ノウハウであるように主張するが,その立証はされていない上,被告IDKが,その技術ノウハウの部分を利用した旨の立証もない。

イそうでないとしても,被告IDKが,これらの製品を製造販売したことによって,原告が,販売の機会を喪失したというわけでもないから,前記の推定は覆る。すなわち,不正使用㋑に係る案件は,原告の見積額と顧客の予算額とに開きがあったため,原告自身が受注を断念していたものであり,不正使用㋒に係る案件は,原告に顧客の要望に見合った製品を製造する能力がなかったものであり,不正使用㋔に係る案件は,被告京都が受注した製造案件のうち,被告IDKが下請けとしての発注を受けたものにすぎない。したがって,これらの案件において,被告らの行為によって,原告に逸失利益が生じていないことが明らかであるといえる。

ウ仮に,何らかの損害が生じているとしても,本件データの不正使用等がされた一因としては,原告において,私物HDDの持ち込みが容認され,データの管理に関するルールや指導,チェックが存在していなかったことなどの事情がある。大幅な過失相殺がされるべきである。

(被告Y10の主張)不競法5条2項は,損害の額を推定するものであり,損害との因果関係までは推定しない。そして,①被告Y10は,本件図面データを使用しなくても,自らの知識経験や無料素材を利用するなどし,問題とされる機械の図面を作成し得ること,②不正使用㋐~㋒に係る機械の各図面のうち,本件図面データを使用した枚数は,多く見積もっても全体の7.36%にすぎないこと(原告は,それが「枢要部」の図面であるか否かを問題とするが,そのような区別に合理性はない。),③しかも,それらの機械を実際に製造販売するためには,電気設計,組立て,試運転等の作業を要するのであり,例えば,不正使用㋑における各作業時間で案分すれば,本件図面データの寄与は0.7%(=7.36%×10%)にすぎないと計算されること,④実際に利益を上げるに当たっては,被告IDKの営業努力も寄与していることなどによれば,本件図面データの不正使用との間に相当因果関係ある損害は生じていないというべきである。そうでないとしても,推定の一部覆滅が認められるべきである。

(被告Y11の主張)原告が主張する不正使用及び案件奪取による損害について,不競法5条2項が適用されないことは,他の被告らが指摘するとおりである。また,同項は,損害の額を推定するものであり,損害との因果関係までは推定しないところ,被告Y11が作成した図面には,市販品のデータを使用した部分なども多く含まれているから,損害との相当因果関係が欠けるというべきである。この点は,少なくとも,寄与度において考慮されるべきである。

(被告Y12の主張)

ア被告Y12が,昭和薬品化工機のため,本件図面データを使用したことは確かである。しかし,原告が,昭和薬品化工機を失注したのは,昭和薬品化工株式会社の担当者が,原告の機械が,「他社よりサイズが大きく,性能も劣っていたと判断した」(甲72)ためであり,原告の能力不足によるものである。被告IDKが,昭和薬品化工機に関して得た利益と原告に生じた損害との間には相当因果関係も条件関係もない。

イ原告は,本件図面データの不正使用による損害が生じたと主張する。しかし,被告IDKは,本件図面データを使用せずとも,ラベラーの製造が可能であったのであり,被告Y12による本件図面データの利用は,数分の手間を省くためのものにすぎない。しかも,その使用データには,無料素材と同一のものが含まれる。したがって,被告Y12の行為によって,被告IDKが利益を受け,原告が利益を喪失したということはできない。

ウまた,仮に,何らかの利益の侵害があるとして,問題とされる機械の各機構は可分であるから,不正使用行為は,本件図面データごとに観念され,侵害される営業上の利益の対象も,当該図面データに関する範囲に限られることになるはずである。したがって,その損害額は,不正使用が認定された範囲の価値を基準に算定されるべきである。具体的には,以下のように計算した寄与度による認定をするのが相当である。

(ア) 被告Y12が関与した不正使用㋒に係る機器の全組図57枚のうち,本件図面データが使用された割合は,7.02%である。

(イ) それらの組図内の部品のうち,市販品を除いた割合は46.25%にすぎないから,寄与度は,これを乗じた3.77%となる。
👤 原告の主張
(ウ) さらに,それらの組図に加え,電気図面の設計に要する作業時間も考慮すれば,寄与度は,作業時間で案分した3.18%となる。(3) 争点8-3(争点5に係る損害)について(原告の主張)

ア原告は,被告Y6の違法な転職勧誘によって,実際に引き抜かれた被告ら6名が挙げたであろう利益額に相当する損害を被った。そして,原告の業界では,人材流動性が低いため,代替人材の確保が困難であること,前記6名が,いずれも部長,課長相当の者であったことなどからすれば,それによる損害の算定期間は,少なくとも6か月と考えるべきである。

イ原告の労働者1人が挙げる利益は,原告の営業利益2億0257万6410円(平成26年3月期)を労働者数124人で除した163万3680円と計算される(甲194)。したがって,原告は,前記6名が退職したことによって,少なくとも490万1040円(=163万3680円×6か月×6名)の利益を喪失したということができる。

ウこれに対し,被告Y6は,原告において,営業利益が従業員に還元されてなかったなどとして,過失相殺などを主張する。しかし,原告は,昇給や賞与,手当の支給をするなど,従業員に十分な待遇を与えており,実際の退職率も2~3%と低かった。前記6名が退職したのは,被告Y6の違法な勧誘によるものである。被告Y6の当該主張は失当である。

エ以上のとおり,被告京都,被告IDK,被告Y2及び被告Y6は,連帯して,前記アの490万1040円に弁護士費用相当損害20%を加算した合計588万1248円を賠償する義務を負う(主位的請求⑺)。

(被告Y6の主張)

ア原告の計算は,原告に生じた実際の減収,その減収と従業員6名の退職の個別具体的な相当因果関係を踏まえたものではなく,完全なるフィクションである。原告は主張立証責任を果たしてない。原告は,退職した6名が,平成26年3月期の営業利益に対し,どのような貢献をしたのかを立証しない。また,被告Y9及び被告Y8が退職したのは,同期の決算の後のことである。

イまた,前記アの事情に加え,以下の事情を考慮すれば,損害の発生を観念することはできないから,民事訴訟法248条による安易な認定をすることなく,損害の不発生の判断がされるべきである。

(ア) 原告の業界においては,未経験者の採用が主である一方,同業他社からの移籍も珍しくない。実際,原告は,原告において,代替人材の補充が困難である具体的な理由を全く主張立証していない。

(イ) 仮に,退職による欠員が問題となるとしても,前記6名は,約9か月間にわたり,順次に退職していったのであるから,原告は,その間に必要な人員を補充することができたはずである。

(ウ) 原告は,従業員が営業利益を上げても,杜撰な経営のため,これを食い潰され,従業員に還元されない体質を有していた。従業員6名が退職したのは,このような事情も影響している。

ウそもそも,前記6名は,被告Y6の声掛けを契機としたにせよ,原告の経営状態を不安に思い,原告の会長や代表者に不満を抱く中,自らの判断で退職したものである。その退職は,別事業の運営など,従業員の理解を得られない経営手法で業績を悪化させ,空出張や私物の経費購入など,不正行為までしていた原告自身の行為に起因するものである。そうすると,仮に,原告に何らかの損害が生じているとしても,原告には,被告Y6の損害賠償の責任自体を否定されるべき重大な過失があり(なお,平成29年法律第44号による改正前の民法722条2項を同法418条と別異の意義に解する合理性はない。),そうでないとしても,被告Y6に対し,その損害の賠償を請求することは信義則に反し,権利濫用に当たるというべきである。
第4 当裁判所の判断

1認定事実(1) 本件データの管理及び内容に係る事情

ア情報機器の設置及び管理の状況(ア) 原告は,本件データを含む電子データをサーバ上の複数の共有フォルダに保管しており,従業員は,自らに貸与されたPCにログインすることで,そのPCに設定されたアカウントに権限がある共有フォルダにアクセスすることができた。(甲109,証人J・38頁)(イ) 原告は,原則的に従業員個人に1台のPCを貸与しており,I工場長の貸与PCは,製造部門の部員が設計図面を参照するための共用PCとしても用いられていたが,工場長と課員のアカウントは別々に設定されていた。(甲109,証人V・12~13頁)(ウ) また,各従業員個人の貸与PCとは別に,設計部門には,設計部長である証人Lが出張用に管理するPCがあり,カスタマー部門には,部員のWが,ホームページの管理用に使用していたPC1台があった(証人V・111~112頁,証人L・22頁)(エ) 製造部門の部員であるXは,PCの貸与は受けず,私物のPCを原告のサーバに接続することが許されていたが,これは原告のIT委員会において,貸与PCと同様の設定をする条件で特に許可をされたものであった。(甲109,証人J・6頁)(オ) 従業員は,自らに貸与されたPCにログインするために,パスワードを入力する必要があった。ただし,証人Lを始めとする一部の従業員は,自らの貸与PCについて,パスワードの入力を省略する設定をしていた。(証人V・10頁,証人L・8頁)

イ本件図面データに係る事情(ア) 本件図面データは,原告の過去の製品に係る設計図面であり,客先との商談に用いる概略図である商用図及び承認図と異なり,実際に機械を製造し得る精度のものであった。(証人L・2~4,37頁)(イ) 設計図面のデータは,設計,開発,組立部門の担当者のほか,マネージャー職の従業員などの貸与PCのためにアクセス権限が設定され,共有フォルダに保管されていた。(甲109,証人L・2頁)(ウ) 設計部長である証人Lは,部内において,設計図面を第三者に交付するような場合は,同証人又は同部次長である被告Y10の許可を得るように指導していた。(証人L・5~6頁)(エ) 設計部員であった被告Y11も,第三者である客先から設計図面の交付依頼を直接受けたような場合には,証人Lに相談し,その指示に従った対応をとっていた。(被告Y11・6~7頁)(オ) 証人Lは,該当製品の客先からの依頼であっても,組図及び部品図は交付せず,商用図及び承認図のみを交付するという方針を採っていた。(証人L・6~7,44~45頁)

ウ本件原価計算データに係る事情(ア) 本件原価計算データは,個々の案件ごとに作成され,予測される材料費や人件費などのコストを計算し,顧客に見積価格を提示するためなどに用いられるエクセルシートであるCM計算表(甲111参照),原告が過去に販売した製品の材料費や人件費,利益率などの情報を一覧にしたファイルである工場集計・個別原価表,部品の原価を記載したファイルである部品価格表からなる。(甲162)(イ) 本件原価計算データは,いずれも第三者に開示することは想定されていないものであり,原告のサーバ上,CM計算表及び工場集計・個別原価表は,マネージャー職の従業員のPCにのみ権限の設定がされ,部品価格表は,営業及びカスタマー部門の従業員のPCなどにアクセス権限が設定され,それぞれ共有フォルダに保管されていた。(甲109,証人V・9頁)

エ就業規則及び誓約書(ア) 原告は,従業員の「情報管理」に関する遵守事項として,その就業規則53条2項において,「(1)会社内外を問わず,在職中又は退職後においても,会社,取引先等の秘密,機密性のある情報,顧客情報,企画案,ノウハウ,データ,ID,パスワード及び会社の不利益となる事項を第三者に開示,漏洩,提供しないこと。又コピー等をして社外に持ち出さないこと。」と定めていた。(甲4)(イ) 被告Y6,被告Y7,被告Y10及び被告Y11は,それぞれ原告を退職するに当たり,原告に対し,貸与された「パソコン,CD-ROM,デジタルファイル」などを返却し,「会社在職中に知り得た会社の秘密情報及び個人情報」を「他に漏らし又は使用すること」をしないこと,その漏洩又は使用によって,原告に損害を与えた損害の賠償をすることなどを約した誓約書を提出していた。(甲191)(2) 本件データの不正取得に係る経緯

ア被告Y6は,平成24年6月頃,原告の経営方針に不満が募り,また,その倒産を危惧したことなどから,原告を退職し,同僚とラベラーの製造販売や原告製品のアフターサービスを業とする新会社の設立を構想するようになり,同年夏頃,被告Y7を計画に勧誘した。(甲21~23)

イ被告Y6は,前記の新会社を設立する際のスポンサーとして,被告京都を考えるようになり,平成24年7月頃,被告Y2に対し,前記の新会社設立の構想を説明するとともに,被告京都から出資を受けることなどを相談した。(甲21,22,乙A4,被告Y2・1頁)

ウしかし,被告Y2は,新会社の設立計画には現実性がないと感じたことから,被告IDKのラベラー部門の強化を図るべく,被告Y6に対して被告IDKに移籍してはどうかと提案をし,その際,被告Y6から被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10なども原告から移籍する予定であると聞いた。(甲21,乙A4,被告Y2・10頁)。

エ被告Y6は,平成24年の夏頃までに,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10などに対して転職の話を持ち掛け,同年12月頃には,「決起集会」と銘打って居酒屋に集まり,原告に対する不満や転職に関する具体的な計画などを相談するようになっていた。(甲23,34~36)

オ被告Y6は,平成25年1月頃までに,居酒屋に集まった被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10に対し,「図面データが必要ですよね」などと述べ,役割分担を示したメモを渡すなどした上,設計図面を始めとする原告のデータを持ち出すことを依頼した。(甲23,34~36)

カ被告Y6は,平成25年2月から3月にかけて,被告Y7や被告Y8,被告Y9に対し,被告IDKにおける受入れ準備の進捗状況などを報告していた。また,被告Y6は,被告Y7に対し,同月16日には「資料関係のコピーはよろしくおねがいします。」と記載されたメールを,同月24日に「何れにしても四月半ば頃までには,資料関係を入手しないといけません。」と記載されたメールを各送付した。(甲62)

キ被告Y7は,平成24年8月頃,本件原価計算データなどをY7HDDに複製した上で,平成25年3月から4月にかけて,本件原価計算データ,本件顧客関係データ,本件図面データの一部などを複製した(甲32別紙1の2,同別紙1の3)。

ク被告Y9は,前記オの指示を受けた後,被告Y6から受け取った1万円でハードディスク(Y10HDD)を購入し,被告Y8とともに,原告のサーバの共有フォルダに保存されていた取扱説明書に収納された機械の写真などのデータを同ハードディスク内に取り込んだ上,これを被告Y10に渡した。(甲34~37,乙E5)

ケ被告Y2は,平成25年5月2日,被告Y6とともに,I工場長と会食し,転職を勧誘した。また,被告Y2は,同月27日頃,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10と会食し,被告IDKに関する説明をするなどした。(甲24番号22,乙A4,被告Y2・2~3頁)

コ被告Y7は,平成25年5月21日,既にY7HDDに取り込んでいた本件データの一部をY10HDDに二重に複写し,被告Y10は,同年4月19日から同年6月5日にかけ,本件図面データの一部をY10HDDに取り込んだ。(甲22,31,32別紙2,36)

サ被告Y6は,平成25年5月末頃から6月初め頃にかけて,被告Y11に対し,転職の勧誘を行い,同年9月には,「出来る限りの図面の入手」などと記載したメモを渡し,原告の設計図面のデータを被告IDKに持ち出してくるよう依頼した。(甲42・13~14頁,43・18頁)

シ被告Y11と被告Y7,被告Y9及び被告Y8とは,遅くとも平成25年7月11日までには,互いに被告IDKに転職する予定であることを知った(甲65)。被告Y10も,被告Y6,被告Y7,被告Y9及び被告Y8との飲み会で,被告Y6から被告Y11も被告IDKに転職する予定であると聞かされた(甲36)。

ス被告Y11は,平成25年9月中旬頃,被告Y6から受け取った1万円でハードディスクを購入し,同月21日から同年10月8日にかけての頃,原告のサーバから本件図面データの一部を含む設計図面のデータなどをY11HDDに取り込んだ。(甲32別紙3,甲42・14頁,甲44,被告Y11・11頁)

セ被告Y11は,平成25年10月18日,被告Y6とともに,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10との飲み会に参加した。被告Y13も,従前から被告Y6の転職勧誘を受けていたが,この飲み会に初めて参加し,他のメンバーと顔を合わせた。(甲36,45,128,乙E4)被告Y11は,この飲み会において,他のメンバーと同様に被告IDKに移籍することを明かすとともに,被告Y10に対し,原告の設計図面のデータを自らのハードディスクに取り込んでおり,これを被告IDKに持ち出す予定であることを告げた。(甲36,乙G7,被告Y11・12頁)

ソ被告Y6は,被告IDK転職後も含め,原告の包装機営業部のQ(課長代理),P(係長),製造部組立課のR(課長),S(課長補佐),T(課員)にも,転職の勧誘をした。(甲124,125,129~132,134)。
(3) 本件データの不正開示及び不正使用に係る経緯

ア被告IDKは,平成2年4月から平成25年12月まで合計26台のタックラベラーの納品実績を有していたが,近年はウエーブパックマシーンにタックラベラー機能を付したものが中心であり,また,ロールラベラーの製造実績はなかった。(甲47,甲66・13~14頁)

イ被告京都は,被告IDKの25%の株式を有していたが,経営状況が悪化していた被告IDKの支援として,平成25年5月,被告京都の関連会社の役員をしていた被告Y5を副社長の肩書で送り込み,経営改革に当たらせることとした。(乙A4,乙C1,被告Y2・6頁)

ウ被告Y6は,平成25年7月22日,被告IDKに入社すると,営業活動を始め,同年8月26日には,被告Y2に対し,新たな案件(廣東製薬1号機)を受注する可能性があり,過去の実績からすると,売価は●(省略)●円(原価率●(省略)●%)になると想定されると報告した。(甲60)

エ被告Y7も,平成25年8月26日,被告IDKに入社し,営業活動を始めたが,入社に当たり,原告から貸与されたままのY7HDDを被告IDK社内に持ち込み,これを被告IDKにおけるデータのバックアップなどにも利用した。(乙E1,被告Y7・16~20頁,33頁)

オ被告Y6は,廣東製薬1号機の商談の参考図とするため,原告に在籍中の被告Y11に依頼し,平成25年9月2日,原告の設計図面のデータの送付を受け(前記前提事実(4)アの①),被告Y4に依頼し,その作成名義の記載を原告から被告IDKに書き換えた。(甲79,80)

カ被告Y7は,平成25年9月20日,別件の客先に対し,見積書(甲84)を提出したが,そのころ,本件原価計算データである別紙1-2記載

第2の1899番のCM計算表(甲111)を当該案件のデータに書き換えるなどしたファイル(甲85)を作成していた。

キ被告Y6は,平成25年10月9日,被告Y2及び被告Y5に対し,廣東製薬1号機の受注が7700万円で決定したこと,「K社での前回機」の製造原価率は●(省略)●%であったことなどを報告し,被告Y2から「早々の受注」を祝う返信メールを受けた。(甲60)

ク被告Y5は,平成25年11月頃,被告IDK内に「特機部」という部署を設立し,原告からの転職者を遇することとした。特機部のうち,被告Y6や被告Y7などの営業要員は,被告Y5の副社長室内において,被告Y5と机を並べていた。(甲92,181,乙C1,被告Y5・22頁)

ケ被告Y10は,平成25年11月1日,被告IDKに入社し,Y10HDDを社内の自らの机に保管していたが,被告Y11が,同月18日,被告IDKに入社し,Y11HDDを社内に持ち込むと,被告Y11とともにこれらのHDDに収納されたデータを業務に使用するようになった。(甲36,44,乙F4,被告Y11・12頁)

コ被告Y10及び被告Y11は,廣東製薬1号機の設計図面48枚のうち,少なくとも28枚に本件図面データを使用した(別紙4-1の2・3枚目)。被告Y13は,平成26年1月6日,被告IDKに入社し,同機の組立てに従事した。(甲67・17~18頁,140,乙G7,被告Y13・11~12頁)

サ被告IDKは,平成26年1月31日,テルモ富士工場機の受注をしたが,被告Y10は,その設計図面28枚のうち,少なくとも11枚に本件図面データを使用し(別紙4-2の2枚目),被告Y11も,同様に本件図面データを使用した。(甲42・35頁,67・17~18頁,142,乙G7)

シ被告Y12は,原告を早くに退職していたが,被告Y11から,原告のデータを持ち出した上で転職した話を聞き,その勧誘を受けたことから,平成26年3月3日,被告IDKに入社し,廣東製薬1号機やテルモ富士工場機の不具合修正などに従事した。(甲68・3~5頁,甲73)

ス被告IDKは,平成26年3月10日,ユニメッド機を受注し,同年11月15日に出荷したが,被告Y10及び被告Y11は,その設計図面の作成に当たり,本件図面データを参考にした上,少なくとも,これを機器配置図の作成のために使用した。(甲48,51,197)

セ被告IDKは,平成26年7月1日,原告の過去の製品の部品である廣東製薬●(省略)●を受注したが,被告Y11は,同年9月8日頃,Y11HDD内の本件図面データ(別紙1-1記載第8)を使用し,その設計図面を作成した。(甲19,甲42・11~12頁,44)

ソ被告IDKは,平成26年7月7日,昭和薬品化工機を受注したが,被告Y10及び被告Y12は,その設計図面60枚のうち,少なくとも4枚の図面に本件図面データを使用した。(甲67・17~18頁,73,143,乙H7)

タ神奈川県警察本部は,平成26年9月16日,被告IDKを捜索し,Y10HDD及びY11HDDのほか,被告IDKのサーバに利用されていたネットワーク型ハードディスクをも差し押さえ,被告IDKは,そのうち業務に支障が生じるデータの返却等を受けた。(甲48,甲66・21頁)

チ前記タのネットワーク型ハードディスクには,Y10HDD及びY11HDDのものと同じフォルダ名及びファイル名による多数のファイルが保存されていたほか,「_完成図書(最終図面データ)」と題するフォルダには,原告が使用しているCADソフトの一つであるFCADの拡張子のついたファイルが保存され,これらのファイルを開くと,画面上に,被告IDKの社名入りの図面の周囲に原告の社名入りの図面が貼り付けられていることが確認された。(甲48)

ツ被告IDKは,平成26年10月1日及び同年12月6日,大幸薬品機及びメルシャン機を受注し,それぞれ,平成27年3月28日及び同年4月21日に納品した。前者の設計図面は,組図25枚からなり(甲136),後者の図面は1枚(甲55の1)のみが確認されている。

テ被告IDKは,平成27年2月9日,廣東製薬2号機を受注し,同年7月2日に出荷したが,被告Y10及び被告Y11は,その設計図面60枚の一部について,本件図面データを使用して作成された廣東製薬1号機の図面を利用した。(甲56,甲67・14頁,甲77,116,117,140,150)

ト原告は,平成27年3月10日頃以降,横浜地方検察庁に被告Y6,被告Y10,被告Y11及び被告Y12を告訴し,また,同年9月1日,被告IDKに対する証拠保全決定(当庁平成27年(モ)第383号)を得,同月10日,同社内の検証手続に立ち会った。(甲5~7,76,顕著な事実)

2争点1(本件データの秘密管理性)について原告は,本件データが秘密として管理されており,不競法2条6項の「営業秘密」に該当すると主張するのに対し,被告らはこれを争うので,以下検討する。
(1) 本件図面データは,前記前提事実(5)及び認定事実(1)イ(ア)のとおり,原告の過去の製品の設計図面のCADデータであり,実際に機械を組み立て得る精度のものであると認められる。そうすると,本件図面データは,新たに同種機械を設計する際には,原告における現実の設計例として,機器の配置などの参考に利用し,あるいは,その一部を流用し得るものであり,また,当該機械のメンテナンスの際にも有益な情報になるものであって,その性質上,秘密性が極めて高い情報であるということができる。そして,原告は,前記認定事実(1)のとおり,
①本件図面データを社内サーバ上の共有フォルダ内に保管し,関係する従業員の貸与PCにアクセス権限を設定し,
②原告では,顧客からの依頼であっても,組図及び部品図は交付せず,商用図及び承認図のみを交付することとしており,第三者に設計図面を交付する場合には上長の許可を得ることが原則とされ,
③就業規則において,「機密性のある情報」,「ノウハウ」,「データ」などの持ち出しを禁じていたものと認められる。そうすると,本件図面データは,その内容及び性質に照らし,原告の従業員において,秘密であると認識し得るものであり,かつ,秘密であると客観的に認識し得る態様で管理されていたと評価すべきであり,不競法2条6項にいう「秘密として管理されている…技術上又は営業上の情報」に当たる。また,本件原価計算データも,前記認定事実(1)ウのとおり,原告の製品の想定コストから見積価格や利益率を計算又は記載する資料やツールであり,その秘密性は高く,第三者に開示することが予定されていないことが明らかなものであって,従業員の貸与PCにアクセス権限を設定して管理されていたと認められるので,同情報も不競法2条6項の「秘密として管理されている…営業上の情報」ということができる。
(2)アこれに対し,被告らは,原告のサーバ上に保管されたデータには原告の従業員全員がアクセス可能であったなどとして,原告が提出するアクセス権限一覧表(甲109)の信用性を争い,被告Y7及び被告Y9は,これに沿う供述をする(被告Y7・8頁,被告Y9・12頁)。しかし,原告において,本件図面データが社内サーバ上の共有フォルダ内で保管され,関係する従業員の貸与PCにアクセス権限が設定されていたことは,前記認定事実(1)のとおりである。そして,被告Y10や被告Y11もこれに沿う供述をし(被告Y11・9~10頁,被告Y10・3~4頁),被告Y8及び被告Y9も刑事手続における警察官に対する供述調書において設計図面についてアクセス制限が設定されていた旨の供述をしていること(甲34,35)などからすると,原告の従業員全員がサーバ上に保管された本件データにアクセス可能であったとの被告らの主張は採用することはできない。なお,証人Jの証言には,前記の権限一覧表において,閲覧の権限のみを有する者の記載を省略したかのような部分もあるが(証人J・23頁),同証言はアクセス権限の設定があったとの認定を左右するものではない。

イまた,被告らは,原告の社内には,本件図面データに自由にアクセスし得る共用PCがあったと主張する。しかし,前記認定(1)ア(イ)及び(ウ)のとおり,それらのPCは組立課又はWが管理するものであり,これらのPCをアクセス権限のない従業員が業務遂行の必要に応じて使用し,本件図面データを閲覧することが事実上可能である実態があったとしても,そのことをもって全ての従業員にアクセス権限を付与していたと評価することはできない。

ウさらに,被告らは,原告の従業員の中には,証人Lを含め,自らの貸与PCのパスワードの入力を省略する設定をしていた者もいた(前記認定事実(1)ア(オ))ことを指摘し,実際上は,原告においてパスワードによる秘密管理はされていなかったと主張する。しかし,秘密管理の措置を潜脱する従業員がいたからといって,そのことから直ちに原告において本件データが秘密として管理されていなかったということはできない。また,被告Y11は,自らが証人LのPCに自らが代わりにログインしたことがあるという事実に加え,設計部の部屋の鍵の所在は全従業員が知っていたという事情も主張するが,原告において,設計部以外の従業員が,恒常的に設計部に出入りし,そのPCからアクセス権限のない情報にアクセスしていたなどの事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) 被告らは,原告の営業部においては,必要があれば,原告の了解を得ず,商談先に本件図面データをCADデータやPDFデータなどの形で提供していたと主張し,被告Y7,被告Y8及び被告Y9は,これに沿う供述をする(被告Y7・10~11頁,被告Y9・8頁,乙E2,3)。しかし,被告Y7及び被告Y9の本人尋問における前記供述は,原告製品を設置した製造ラインなどにおいて,他社の機械と接続の調整のために必要な部分の図面データを交付していたというものにすぎず,設計部の部長である証人Lや次長であった被告Y10の供述によれば,それは,基本的には商談用の概略図である商用図又はそれと同程度の精度のものであったと認めるのが相当である(証人L・3~4頁,被告Y10・5~6頁,乙F4)。このように,原告が必要な部分の商用図のデータを顧客に交付することを許容していたことは,本件図面データの秘密管理性を否定するものではないというべきである。この点について,被告Y11は,他社の機械と接続の調整のための部分に限らず,多数の客先に対し,組図や部品図を含む図面データを交付していた旨の供述をするが(被告Y11・7頁),これを裏付ける客観的な証拠は存在しない。また,被告Y10は,組図を交付した客先として,例外的な1社に係る伝聞事例を挙げているが(被告Y10・6~7頁),仮にそのような事実があったとしても,例外的な事例であって,本件図面データの秘密管理性を直ちに否定する事情とはならない。
(4) 被告らは,原告においては,実態として,データ管理に関するルールが存在しなかったから,本件図面データの秘密管理性に対する認識可能性がなかったなどと主張し,被告Y7は,実際,設計図面のPDFデータをプリントアウトし,社外に持ち出しても注意を受けるようなことはなかったなどと供述する(被告Y7・13頁)。確かに,設計部門の責任者である証人Lは,設計図面のプリントアウトに係るルールを認識していなかったと証言していること(証人V・32~33頁,証人L・18頁)などに照らすと,原告において,設計図面のプリントアウトに関し,具体的なルールが存在したとは認め難い。しかし,原告において,アクセス権限の設定のほかに,設計図面のプリントアウト等に関するルールが存在しなかったとしても,そのことから,原告における本件データの管理が杜撰であり,あるいは本件図面データの秘密管理性に対する認識可能性がなかったということはできない。被告Y7の前記供述にいう図面の持出しについても,顧客に対する説明という営業上の必要性から承認図等を顧客に交付したものと推認され,秘密性の高い組図及び部品図等を含む設計図面を営業担当の従業員が許可なく自由にプリントアウトし,顧客に交付することが原告で常態化していたと認めるに足りる証拠はない。また,被告らは,原告において,USBメモリなど,私物の記録媒体の持込みに係るルールが存在せず,実際に持ち込まれていたといった事情も指摘するが,出張などの業務上の必要から私物の記録媒体が持ち込まれていたとしても,アクセスすることができるのは権限が付与されている情報に限られることに変わりはない上,従業員が私物の記録媒体に保存した本件図面データを許可なく顧客に交付することが許容されていたなどの事情は認められない以上,私物の記録媒体の持ち込みが行われていたとの事情は秘密管理性が認められるとの前記判断を左右しないというべきである。
(5) そのほか,被告らは,原告が本件図面データを閲覧・編集するためのCADソフトを不正インストールしていたことや,本件図面データにおける「選択」と「配置」に係るノウハウは周知慣用であることなどを根拠にして,原告の従業員には本件データが営業秘密であることの認識可能性がなかったと主張する。しかし,仮に,原告が,CADソフトを不正インストールしていたとして,本件図面データの秘密管理性を否定する理由とはならず,本件図面データにおける「選択」と「配置」のノウハウが周知慣用な情報であったことを認めるに足りる証拠はないので,この点についての被告らの主張も採用し得ない。
(6) 以上のとおり,被告らの主張を考慮しても,原告における本件データの管理は,不競法2条6項の秘密管理性を認めるに十分なものであったというべきであり,本件データの性質も考慮すれば,それに対する認識可能性もあったといえるから,本件データは,同条項の「秘密として管理されている…技術上又は営業上の情報」に当たるといえる。

3争点2(本件データの不正取得に係る被告転職者らの責任)について(1) 不正取得①について

ア前記前提事実(2)イ並びに認定事実(2)及び(3)によれば,被告Y7は,平成24年夏頃,被告Y6から新会社設立の勧誘を受け,同年8月頃,本件データの一部を含む原告の業務上のデータをY7HDDに取り込み,被告IDK入社後,これを被告IDK社内に持ち込んでいるのであるから,少なくとも,同月頃,被告Y6と共謀の上,不正の手段により本件原価計算データの一部を取得したと認めるのが相当である。

イこれに対し,被告Y6は,被告Y7に対する転職の勧誘をもって本件データの不正取得についての意思の連絡があったと推認することはできないと主張する。しかし,被告Y7が上記のとおり大量の業務上のデータを複製した時期は,被告Y6から転職の勧誘を受けた直後であり,その時期に被告Y7が大量の業務上のデータをハードディスクに保存する業務上の必要があったことをうかがわせる証拠はない上,被告Y6はその半年後である平成25年1月頃までに被告Y7らに対し本件データの持出しを依頼し(前記認定事実(2)オ),被告Y7は,これに応じて前記不正取得①に係るデータと区別することなく本件原価計算データ等をY7HDD内に複製していることなどによれば,前記アのとおり認定するのが相当である。

ウ被告Y7らは,被告Y7に原告のデータに対する正当なアクセス権限があったことを指摘し,そのデータの取込みは,不競法2条1項4号にいう不正取得行為に当たらないと主張する。しかし,被告Y7が,当該データにアクセスする権限を付与されていたのは,原告の通常の業務に使用するためであり,本件不正取得①のように,競業する転職先の業務に使用するために原告の保有する多量のファイルをハードディスクに複製し,許可なく社外に持ち出すとの態様による情報の取得は,不競法2条1項4号にいう「窃取,詐欺,強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為」に該当するというべきである。

エしたがって,被告Y6及び被告Y7による不正取得①の行為は,不競法2条1項4号所定の不正競争行為に該当する。
(2) 不正取得②について

ア前記前提事実(2)エ並びに認定事実(2)及び(3)によれば,被告Y6が,既に転職を勧誘していた被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10などと飲み会を開き,それぞれの分担を決め,原告のデータを持ち出すことを指示したことを受け,被告Y9及び被告Y8は,原告のサーバから被告Y9のHDDにデータを取り込み,被告Y7は,前記不正取得①の行為の後にY7HDD内に取り込んでいた本件原価計算データの一部をY10HDDに複写し,被告Y10は,平成25年4月19日から同年6月5日にかけ,原告のサーバから本件図面データの一部をY10HDDに取り込み,被告Y7及び被告Y10は,それぞれ被告IDK入社後,Y7HDD及びY10HDDを被告IDK社内に持ち込んでいるのであるから,少なくとも,被告Y10は,被告Y6,被告Y7,被告Y8及び被告Y9と共謀の上,不正の手段により本件図面データの一部を取得したと推認することができる。

イこれに対し,被告Y6及び被告Y10は,原告のデータを持ち出す旨の指示や共謀があったことを否認する。しかし,被告Y6が,平成25年1月頃までに,「決起集会」と銘打った飲み会の際に,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10に対し,図面データが必要であるなどと伝え,役割分担を示したメモを渡すなどして,設計図面を始めとする原告のデータを持ち出すことを依頼し,これに応じて,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10らが分担して本件データをY7HDD及びY10HDDに複製したと認められることは,前記判示のとおりであり,これによれば,被告Y6から,被告Y7等及び被告Y10に対して,本件データの持出しに関する指示があったことは明らかである。

ウしたがって,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10は,前記認定に係る不正取得②の行為について,不競法2条1項4号に係る責任を負う。
(3) 不正取得③について

ア被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10は,前記(2)アのとおり,それぞれが分担した上,原告のデータを持ち出すことを共謀したものであるが,前記前提事実(2)カ並びに認定事実(2)及び(3)のとおり,被告Y6は,その後,被告Y11に対し,同様に原告のデータを持ち出すことを指示し,被告Y11は,原告のサーバから本件図面データの一部をY11HDDに取り込んだと認められるのであるから,被告Y11は,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10と順次共謀の上,不正の手段により本件図面データの一部を取得したというべきである。

イ被告Y7ら,被告Y10及び被告Y11は,被告らの間の具体的な意思の連絡があったことを否認する趣旨の主張をするが,前記判示のとおり,被告Y6,被告Y7ら及び被告Y10が,被告Y6の指示に基づき,相互に意思を連絡して,平成25年6月頃までに本件データをY7HDD及びY10HDDに複製していること,被告Y7ら及び被告Y10は同年10月頃までに被告Y11が被告Y6の勧誘に応じて被告IDKに転職することを認識していたこと,被告Y11は同年9月から10月にかけて本件データをY11HDDに複製していたこと,被告Y11は,同月18日,被告Y6,被告Y7ら及び被告Y10の参加した飲み会の場で本件データを被告IDKに持ち出す予定である旨の発言をしていることなどを総合すると,同日までの間に,被告Y11,被告Y6,被告Y7ら及び被告Y10の間でY11HDDに複製された本件図面データの取得について共謀が成立したと認めるのが相当である。

ウ原告は,被告Y13に関しても,本件データの不正取得について,被告Y6,被告Y7ら,被告Y10及び被告Y11との間に共謀があったと主張する。しかし,被告Y13は,唯一の製造部員であり,その余の被告転職者らとは部署が異なる上,被告Y13が「決起集会」と銘打った飲み会に参加したのは,平成25年10月18日が初めてであり,他に同被告が原告のデータの持出しに関与したことをうかがわせる証拠は存在しない。したがって,被告Y13が不正取得③について不正競争防止法に基づく責任を負うということはできない。

エしたがって,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10及び被告Y11が,前記認定に係る不正取得③の行為について,不競法2条1項4号に係る責任を負う。

4争点3(本件データの不正開示に係る被告転職者らの責任)について(1) 不正開示④について

ア被告Y7は,前記判示のとおり,被告Y6,被告Y8,被告Y9及び被告Y10と原告のデータを持ち出すことを共謀した上,前記認定事実(3)のとおり,平成25年8月26日,被告IDKに入社すると,本件原価計算データを保存したY7HDDを被告IDKの社内に持ち込み,実際に同データを被告IDKの業務に使用したのであるから,被告Y6,被告Y8,被告Y9及び被告Y10と共謀の上,被告IDKに対し,不正取得行為により取得した営業秘密を開示した(不競法2条1項4号)というべきである。

イこれに対し,被告Y7らは,被告Y7は,単にY7HDDを返却し忘れていたにすぎないと主張するが,被告Y7がY7HDDを被告IDKにおいて使用することを意図して複製したことは明らかであり,単にY7HDDを返却し忘れていたとは考え難い。また,被告Y7らは,被告Y7がY7HDDを被告IDKと共有したことはないと主張するが,被告Y7は,不正取得に係るY7HDDを被告IDK社内に持ち込み,被告IDKのための業務に使用していたのであるから,同被告はY7HDDに係る情報を被告IDKと共有していたというべきである。

ウしたがって,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10は,前記認定に係る不正開示④の行為について,不競法2条1項4号に係る責任を負う。
(2) 不正開示⑤について

ア被告Y10は,前記判示のとおり,被告Y6,被告Y7,被告Y8及び被告Y9と原告のデータを持ち出すことを共謀した上,前記認定事実(3)のとおり,平成25年11月1日,被告IDKに入社し,本件図面データの一部を保存したY10HDDを被告IDK社内に持ち込んでいるのであるから,被告Y10は,被告Y6,被告Y7,被告Y8及び被告Y9と共謀の上,被告IDKに対し,不正取得行為により取得した営業秘密を開示した(不競法2条1項4号)というべきである。

イ被告Y10は,Y10HDDを被告IDKに持ち込んだことを否認するが,Y10HDDを被告IDKの社内に携行し,自らの机内に保管していたのであるから,被告IDKに対してY10HDDに複製された本件情報を開示したというべきである。

ウしたがって,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10は,前記認定に係る不正開示⑤の行為について,不競法2条1項4号に係る責任を負う。
(3) 不正開示⑥について

ア被告Y11は,前記判示のとおり,被告Y6,被告Y7,被告Y10,被告Y8及び被告Y9と共謀の上,不正取得③を実行した者であるが,前記認定事実(3)ケのとおり,平成25年11月18日,被告IDKに入社すると,Y11HDDを社内に持ち込み,これを先に入社していた被告Y10と被告IDKの業務のために使用するようになったのであるから,被告Y6,被告Y7,被告Y10,被告Y8及び被告Y9と共謀の上,被告IDKに対し,不正取得行為により取得した営業秘密を開示した(不競法2条1項4号)というべきである。

イ被告Y11は,被告Y10以外との共謀を否認するが,前記3(3)ア及びイのとおり,被告Y11,被告Y6,被告Y7ら及び被告Y10の間でY11HDDに複製された本件図面データの取得について共謀が成立したと認められるところ,同データを取得したのは被告IDKに転職した後,その業務に使用するためであることは明らかである。そうすると,同被告らの間には,Y11HDDに複製された本件データを被告IDKに不正開示することについての共謀も成立していたと認めるのが相当である。

ウしたがって,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10及び被告Y11は,前記認定に係る不正開示⑥の行為について,不競法2条1項4号に係る責任を負う。
(4) 不正開示(主位的主張)について原告は,不正開示④~⑥に係る営業秘密を利用して行われた被告IDKの事業に関わる意思のあった被告転職者らの間には,被告IDKに持ち込まれた本件データの全てについて,意思の連絡があったと評価し得ると主張する。しかし,個々の不正開示に対する知情の有無,それら不正開示が実行された時期と知情の時期の前後を問わず,被告転職者らの間に,当然に共謀が成立すると考えるべき根拠は存在しない。したがって,原告の上記主張は理由がない。

5争点4(本件データの不正使用及び案件奪取に係る被告転職者の責任)について(1) 不正使用㋐について

ア被告Y10及び被告Y11は,前記認定事実(3)コのとおり,廣東製薬1号機の設計図面の作成に当たり,本件図面データを使用しているのであるから,不正取得行為により取得した営業秘密を使用したということができる(不競法2条1項4号)。そして,被告Y6,被告Y7,被告Y9及び被告Y8は,前記4のとおり,被告Y10及び被告Y11と不正開示④~⑥を共謀した者であり,本件図面データが被告IDKの業務で使用されることは当然認識していたというべきであるから,本件不正使用についても共謀関係にあると認めるのが相当である。なお,被告Y7らは,共謀のみでは共同不法行為は成立しないと主張するが,所論引用の判例は,客観的関連共同による共同不法行為に係る事案における判断であり,本件において共謀による共同不法行為が成立しないと解すべき理由はない。

イ被告Y12に関しては,廣東製薬1号機の約2か月前に被告IDKに入社し,完成した廣東製薬1号機の不具合修正に関与しているものの,その関与の程度は本件図面データを不正に使用して同機械の製造に関与したと評価し得るものではなく,被告Y12が,不正開示④~⑥を共謀していないことも勘案すれば,不正使用㋐について被告Y10,被告Y11らとの間に共謀があったと認めることはできない。

ウ被告Y13は,前記認定事実(3)のとおり,廣東製薬1号機の組立て作業を担当しており,その設計図面のデータには,原告の社名の表記を残すものがあると認められる(甲140)。しかし,前記判示のとおり,被告Y13が不正開示④~⑥について被告Y10,被告Y11らと共謀したとの事実は認められず,また,同被告は廣東製薬1号機について本件図面データを使用して設計をし又は本件原価計算データを使用して営業をすべき立場にはなく,同機械の製造に関し他の被告転職者らとの間に意思の連絡があったことをうかがわせる証拠も存在しない。そうすると,被告Y13がその組立て作業に使用した設計図面に原告の社名の表記があったとしても,そのことをもって,被告Y13が不正使用㋐について被告Y10,被告Y11らと共謀したということはできない。

エしたがって,前記認定に係る不正使用㋐の行為については,被告Y6,被告Y7,被告Y9,被告Y8,被告Y10及び被告Y11が,不競法2条1項4号に係る責任を負う。
(2) 不正使用㋑について

ア被告Y10及びY11は,前記認定事実(3)サのとおり,テルモ富士工場機の設計図面の作成についても,本件図面データを使用しているから,不正取得行為により取得した営業秘密を使用したということができる(不競法2条1項4号)。そして,前記(1)アに説示したのと同様の理由から,被告Y10及び被告Y11と被告Y6,被告Y7,被告Y9及び被告Y8との間に不正使用㋑についての共謀があったと認めることが相当である。

イ被告Y12については,完成したテルモ富士工場機の不具合修正に関与したと認められるが,前記(1)イと同様の理由から,不正使用㋑について被告Y10,被告Y11らとの間に共謀があったと認めることはできない。

ウ被告Y13についても,前記(1)ウと同様の理由から,不正使用㋑について被告Y10,被告Y11らとの間に共謀があったと認めることはできない。。

エしたがって,前記認定に係る不正使用㋑の行為については,被告Y6,被告Y7,被告Y9,被告Y8,被告Y10及び被告Y11が,不競法2条1項4号に係る責任を負う。
(3) 不正使用㋒について

ア被告Y10は,前記認定事実(3)ソのとおり,昭和薬品化工機の設計図面の作成に本件図面データを使用したのであるから,不正取得行為により取得した営業秘密を使用したといえる(不競法2条1項4号)。

イ被告Y12は,同シのとおり,被告Y11が,原告のデータを持ち出していることを聞いており,被告IDK入社後は被告Y11及び被告Y10と同じ執務室において業務を行い,本件図面データが保存されたY11HDDを使用し,昭和薬品化工機の設計図面の作成に本件図面データを使用したのであるから,不正開示行為が介在したことを知って,営業秘密を使用したと推認することができる(同項8号)。被告Y12は,前記の各被告との意思の連絡を否認するが,被告Y12は,被告Y11が,原告のデータを持ち出してきていることを聞いた上,被告IDKに転職し,そのデータが保存されたY11HDDを使用し,これを被告IDKの業務に使用していたのであるから,少なくとも被告Y11との間に,明示又は黙示の意思の連絡があったと推認するのが相当であり,その余の各被告との間にも順次共謀が認められるというべきである。

ウ被告Y11は,刑事手続において,原告のデータの使用を概括的に認めていたものの(甲42・35頁),本件訴訟においては,原告が具体的に指摘する図面について,本件図面データの使用を否認する供述をするところ(乙G7),原告の主張に係る図面の対比(甲143)によっても,被告Y11が自ら本件図面データを使用して設計を行ったかどうかは明らかではない。しかし,少なくとも,被告Y11には,被告Y6,被告Y7,被告Y9及び被告Y8とともに,不正使用㋒について被告Y10との間に共謀があったと認めるのが相当である。

エ被告Y13が,前記アの不正使用を共謀したと認められないことは,前記(1)ウと同様である。

オしたがって,前記認定に係る不正使用㋒の行為については,被告Y6,被告Y7,被告Y9,被告Y8,被告Y10,被告Y11及び被告Y12が,不競法2条1項4号又は8号に係る責任を負う。
(4) 不正使用㋓について

ア被告Y10及び被告Y11は,前記認定事実(3)スのとおり,ユニメッド機の設計に本件図面データを参考にし,少なくとも,これを機器配置図の作成に使用しているのであるから,不正取得行為により取得した営業秘密を使用したということができる(不競法2条1項4号)。そして,前記(1)アに説示したのと同様の理由から,被告Y10及び被告Y11と被告Y6,被告Y7,被告Y9及び被告Y8との間に不正使用㋓についての共謀があったと認めることが相当である。

イ被告Y12については,ユニメッド機の設計に一定の関与をしたことは自認しているものの,同被告が本件図面データを使用したことを示す的確な証拠はなく,同機械は,昭和薬品化工機に先立ち,被告Y12の入社直後に受注していることや,被告Y12について不正開示④~⑥の共謀が認められないことなども勘案すれば,不正使用㋓について被告Y10,被告Y11らとの間に共謀があったと認めることはできない。

ウ被告Y13が,前記アの不正使用㋓を共謀したと認められないことは,前記(1)ウと同様である。

エしたがって,前記認定に係る不正使用㋓の行為については,被告Y6,被告Y7,被告Y9,被告Y8,被告Y10及び被告Y11が,不競法2条1項4号に係る責任を負う。
(5) 不正使用㋔及び㋕について

ア原告は,大幸薬品機及びメルシャン機についても,図面の対比(甲54,55,136)等に基づき,本件図面データの不正使用があったと主張するが,原告が根拠とする図面を対比しても,本件図面データを使用したと明確に認め得る図面は存在せず,他に被告Y11,被告Y10らが大幸薬品機及びメルシャン機の設計に当たり本件図面データを使用したと認めるに足りる証拠はない。また,被告IDKは,Y10HDD,Y11HDD及び被告IDKのサーバなどを警察に差し押さえられた後,大幸薬品機及びメルシャン機を受注しており,その設計図面のために,本件図面データを使用することが客観的に可能であったと認めることもできない。

イ原告は,被告Y4が,検証の際に昭和薬品化工機の図面を大幸薬品機に転用したことを認める発言をしたと指摘するが,被告Y4の当該発言(甲76)の根拠は明らかではなく,また,同被告が大幸薬品機の設計過程をどの程度理解していたかについても明らかでない上,転用元の図面が本件図面データを使用したものであったとは限らないことも考慮すると,被告Y4の上記発言をもって,大幸薬品機の設計に本件図面データが使用されたと認めることはできない。

ウしたがって,被告Y11,被告Y12又は被告IDKの元からの従業員であるNが,大幸薬品機及びメルシャン機のため,本件図面データを使用したと認めることはできず,その余の各被告も共謀による責任を負うことはない。
(6) 不正使用㋖について

ア被告Y10及び被告Y11は,前記認定事実(3)テのとおり,廣東製薬2号機の設計図面について,本件図面データを使用して作成された廣東製薬1号機の図面を利用し,廣東製薬1号機のデータを使用したのであるから,不正取得行為により取得した営業秘密を使用したということができる(不競法2条1項4号)。そして,前記(1)アに説示したのと同様の理由から,被告Y10及び被告Y11と被告Y6,被告Y7,被告Y9及び被告Y8との間に不正使用㋖についての共謀があったと認めることが相当である。

イこれに対し,被告Y10は,廣東製薬2号機の図面は,フリー素材を使用して作成したと主張する。しかし,その具体的な立証はされておらず,被告Y10が,刑事手続において,被告Y6の指示を受け,廣東製薬2号機にも原告のデータを使用した旨の供述をしていたことに照らしても(甲77),被告Y10の上記主張を採用することはできない。

ウ被告Y12については,廣東製薬2号機の設計に一定の関与をしたことは自認しているものの,被告Y12が作成名義の図面と原告の指摘する本件図面データとを対比しても,被告Y12が本件図面データを使用して同機械の設計図面を作成したと明確に認めることはできず,他に,被告Y12が同機械の設計において本件図面データを使用したと認めるに足りる的確な証拠はない。

エ被告Y13が,前記アの不正使用を共謀したと認められないことは,前記(1)ウと同様である。

オなお,被告IDKらは,廣東製薬2号機の設計が行われた時点において本件図面データが押収されていたことなどを指摘するが,例えば,廣東製薬2号機の甲116別紙16-1の図面は,本件図面データである同別紙16-2のデータによったと考えるより,これと同一のデータである甲150別紙35-3を使用した廣東製薬1号機の図面である甲140別紙35-1を流用したと考えるのが自然である。このことからしても,廣東製薬2号機における本件図面データの使用は,廣東製薬1号機の図面を通じて行われたものであると認めるのが相当である。

カしたがって,前記認定に係る不正使用㋖の行為については,被告Y6,被告Y7,被告Y9,被告Y8,被告Y10及び被告Y11が,不競法2条1項4号に係る責任を負う。
(7) 不正使用㋗について

ア被告Y11は,前記認定事実(3)セのとおり,廣東製薬●(省略)●の設計のため,本件図面データを使用したのであるから,不正取得行為により取得した営業秘密を使用したということができる(不競法2条1項4号)。そして,前記(1)アに説示したのと同様の理由から,被告Y11と被告Y10,被告Y6,被告Y7,被告Y9及び被告Y8との間に不正使用㋗についての共謀があったと認めることが相当である。

イ被告Y12が廣東製薬●(省略)●の設計に関与したことを認めるに足りる証拠はない。

ウ被告Y13が前記アの不正使用を共謀したと認められないことは,前記(1)ウと同様である。

エしたがって,前記認定に係る不正使用㋗の行為については,被告Y6,被告Y7,被告Y9,被告Y8,被告Y10及び被告Y11が,不競法2条1項4号に係る責任を負う。
(8) 小括

ア被告Y6,被告Y7,被告Y9,被告Y8,被告Y10及び被告Y11は,不正使用㋐~㋓,㋖及び㋗について,不競法2条1項4号の責任を負い,被告Y12は,不正使用㋒について,同項8号の責任を負う。

イ原告は,案件奪取㋑~㋓をも主張するが,争点8-2によれば,それらの不法行為による損害は,不正使用㋑~㋓による損害を超えるものではないので,独自に検討・判断はしない。なお,原告は,被告Y13について,案件奪取㋒について不法行為責任を負うと主張するが,被告Y13は,原告の主張によっても,被告Y9から「昭和薬品化工,受注おめでとうございます!光洋では…特許を侵害している可能性ありで何か社長,けんちゃん中心に動いているみたいです」(甲64)というメールの一括送信を受けたにすぎず,これをもって,被告Y13が,案件奪取㋒に共謀していたと認めることはできない。

6争点5(原告従業員の転職勧誘に係る被告Y6の責任)について(1) 従業員が,その在職中に,同僚の従業員等に対して自らが転職する同業他社に転職するよう勧誘を行ったとしても,それをもって直ちに違法な引抜行為であるということはできないが,当該行為が単なる転職の勧誘の範囲を超え,著しく背信的な方法で行われ,社会的相当性を逸脱した場合には,退職後の行為を含め,不法行為を構成するというべきである。そして,当該行為が,社会的相当性を逸脱した引抜行為であるか否かの判断においては,勧誘の方法・態様,引抜きをした従業員の地位や数,従業員の転職が会社に及ぼした影響等の事情を総合的に考慮するのが相当である。
(2) これを本件についてみるに,前記認定事実(2)のとおり,被告Y6は,被告IDKに転職し,原告と競業するラベラーの製造販売や原告製品のアフターサービスの事業に従事することを企図し,同僚の従業員に転職を勧誘したにとどまらず,同事業を成功させるため,その転職に当たり,同事業に使用するため,原告の営業秘密を含む営業上のデータを持ち出すよう指示しているのであるから,その勧誘の方法・態様が,著しく背信的であり,社会的相当性を逸脱していたといわざるを得ない。そして,原告従業員の勧誘の範囲も,管理職員を含め,営業,製造及び設計の各部門の相当数にわたり,実際に設計部次長を含む6名が被告IDKに転職しており,それらの原告の元従業員が,原告の営業秘密である本件データを原告の競業事業に使用し得るに至っていたことも考慮すれば,被告Y6による引抜き行為が原告に及ぼす影響も重大なものであったと評価するのが相当である。そうすると,被告Y6が,原告の従業員に転職を勧誘し,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11及び被告Y13を転職させたことは,原告に対する不法行為を構成するというべきである。
(3) これに対し,被告Y6は,本件データの不正取得に係る事情は,退職行為と無関係のものであるから,転職勧誘の違法性を判断する上で考慮すべきではないと主張する。しかし,本件データを不正取得することは,被告Y6が,同僚とともに転職し,原告と競業する事業を遂行するという計画の一環をなしていたというべきであるから,これを退職行為と無関係な事情と考えることはできず,転職勧誘の方法,態様として考慮するのが相当である。
(4) 被告Y6は,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11及び被告Y13は,それぞれ原告の経営方針等に不満を有しており,自らの判断として,転職を決意したにすぎないとも主張する。しかし,上記6名が,原告の経営方針等に不満を抱いていたとしても,実際に転職を決断したのは,被告Y6が,被告IDKで競業事業に従事する計画を準備していたからであることは明らかであり,これらの者の転職は被告Y6の転職勧誘行為によるものというべきである。
(5) 被告Y6は,原告の従業員124名のうち,実際の転職者は6名にすぎないと主張するが,被告Y6が転職を勧誘したのは最終的に転職しなかった者も含めると相当数に及び,その結果,転職した者は,設計部次長を含む営業,設計及び製造の3分野にわたり,各分野に精通した従業員であったというべきであり,その数及び地位が被告Y6の不法行為責任を否定するに足りるほど小さく又は重要でなかったということはできない。
(6) また,被告Y6は,被告Y13を勧誘した時点では,被告Y6は既に原告を退職していたという事情を主張する。しかし,退職後の勧誘行為であっても,社会的相当性を逸脱すれば不法行為を構成し得ることは前記(1)に判示したとおりである。
(7) 以上のとおり,被告Y6の主張を考慮しても,被告Y6が,原告の従業員に転職を勧誘し,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11及び被告Y13を転職させたことは,原告に対する不法行為を構成する。

7争点6(被告京都及び被告Y2の責任)について(1) 被告Y2の責任原告は,被告Y6が,被告Y2に対し,原告の営業秘密を持ち出すことを明かしていたことを前提に,被告Y2が,本件不正取得,本件不正開示,不正使用及び案件奪取について,他の被告らと共謀していたと主張するので,以下検討する。

ア原告は,被告Y2が,平成24年7月頃,「新会社の立上げ概要」と題する書面の送付を受けるなどして,被告Y6と新会社の立上げに関する協議を行ったところ,原告が販売した機械の図面データなしに,他社製の機械のアフターサービス事業を展開することはできないので,この時点で,被告Y2は,被告Y6が原告の図面データを持ち出すことを認識していたと主張する。しかし,原告が指摘する証拠(甲21・5~7頁)には,原告の保有する営業秘密を新会社に持ち込むことをうかがわせる記載はなく,被告Y6が新会社の立上げの協議に際し,原告から営業秘密を持ち出すことを被告Y2に相談又は告知したとは考えられない。また,被告Y6が原告製のラベラーのアフターサービス事業を展開すると被告Y2に伝えたとしても,そのことから,被告Y2が,当該事業を遂行するために被告Y6が原告の営業秘密を違法に持ち出すとの認識を抱いたと推認することもできない。

イ原告は,被告Y2が,平成25年2月頃,「光洋の商権をそっくり頂こう」(甲21)と述べていたとされることや,被告Y2が,翌々年のインターフェックスに出展しようと述べたことなどを指摘し,これらの事実は共謀を基礎付けるものであると主張する。しかし,新会社設立の協議に当たり,被告Y2が「光洋の商権をそっくり頂こう」と発言したとしても,同発言は原告と競合する新会社の事業を成功させようとの意思を誇張して述べたにすぎないと解するのが相当であり,同発言をもって,被告Y6が原告の営業秘密を持ち出すことを被告Y2が知っていたと推認することはできない。また,インターフェックスへの出展についても,原告の営業秘密を使用しなければ実現できないとは認められず,同出展を計画していたことから,原告の営業秘密の持ち出しの意図を推認することはできない。

ウ原告は,被告Y2が原告のI工場長と会食した事実や,被告Y7ら及び被告Y10とも会って協議をした事実を指摘するが,これらの会食等の場において,被告Y6や転職予定者から原告の営業秘密を持ち出す旨の話題が出たことをうかがわせる証拠はない。被告Y2が上記の会食等に参加したとの事実は,被告Y2が被告IDKの立上げや原告からの転職者の受入れに関与していたことを示すにとどまり,これらの事実をもって,被告Y2が,原告の営業秘密が持ち出されることを知っており,それに共謀したと推認することはできない。

エ原告は,被告Y6や被告Y7が,被告Y2に対し,ラベラーに関する事業の進捗状況を報告するのみならず,被告京都や被告IDKの関係者に対し,原告名義の設計図面を参考送付していたなどの事実(甲53の1,60,77)を指摘する。しかし,被告Y2に対する報告や連絡には,同被告に送付する書面が不正取得された原告の営業秘密であることをうかがわせる記載はなく,被告Y2がその旨を認識していたことを示す証拠もない。これらの報告等をもって,被告Y2を含め,被告京都や被告IDKの関係者が,営業秘密の不正な持出しを知っていたと推認することはできない。

オ原告は,仮に,共謀の事実が認められないとしても,被告京都の営業統括責任者の地位にある被告Y2は,短期間で自動包装機械事業を開始するには原告の保有する本件データが不可欠であり,被告Y6や他の被告転職者らがこれを何らかの手段で入手する必要があることを容易に認識し得たにもかかわらず,取引上要求される注意義務を尽くすことなく,被告IDKの事業を漫然と遂行させたものであり,被告Y2のこの行為は不法行為を構成し,又は会社法429条に基づく責任を負うと主張する。しかし,新規の事業展開には様々な方法があるのであり,通常は,転職者が転職元の営業秘密を大量に違法に持ち出して新たな事業に使用することなどは想定し得ないところ,被告Y2が,本件において,被告Y6がそのような行為に及ぶことを容易に認識し得たということはできず,また,被告京都の取締役である被告Y2が別会社である被告IDKにおける本件データの不正開示及び不正使用を阻止すべき一般取引上の注意義務を負っていたと解することもできない。また,原告は,被告Y2は,被告IDKが捜索差押を受けた直後に報告を受け,その時点で本件データの不正取得及び不正使用について認識したにもかかわらず,被告Y5に十分な調査を行わせることなく,本件図面データの不正使用を放置したのであるから,それ以後の製造納入に係る不正使用㋒~㋖について少なくとも重過失があると主張する。しかし,被告IDKの業務における違法行為の是正は,本来的には被告IDKが対応すべきものであり,関連会社の取締役である被告Y2が,直ちに何らかの行動をとらなかったからといって,それが不法行為又は被告京都の取締役としての任務懈怠に当たるということはできない。

カ原告は,被告Y2が,被告Y6による違法な転職勧誘について,被告Y6と共謀していたと主張する。確かに,前記認定事実(2)の経緯によれば,被告Y2は,被告IDKのラベラー部門の強化を図るべく,被告Y6が原告の従業員らを勧誘して被告IDKに転職させることを認識し,認容していたと考えられる。しかし,原告従業員の転職勧誘に関する被告Y2の関与は,認定事実(2)ケのとおり,I工場長や被告Y7らとの会食にとどまり,特定の原告従業員の転職勧誘を指示するなどの積極的な役割を果たしたとは認められず,また,前記判示のとおり,被告Y6が転職勧誘した従業員に原告の営業秘密を持ち出すよう指示したことを認識していたとは認められない。そうすると,被告Y2が,被告Y6による違法な転職勧誘について,被告Y6と共謀したということはできない。

オ以上のとおり,被告Y2が,被告Y6や他の被告らとともに,本件不正取得,本件不正開示,本件不正使用及び違法な転職勧誘を共謀したということはできず,また,独立して不法行為責任又は会社法429条の責任を負うということもできない。
(2) 被告京都の責任

ア前記(1)のとおり,被告Y2は,本件不正取得,本件不正開示,本件不正使用及び被告Y6による転職勧誘に対し,原告主張の責任を負わないから,被告京都がこれに対する使用者責任を負う余地はない。

イ原告は,被告京都自身が不正競争行為又は不法行為を実行したと主張するが,被告Y2の行為についての使用者責任とは別に,実行行為者又は共謀者としての責任を認めるに足りる証拠はない。

8争点7(被告IDK,被告Y5及び被告Y4の責任)について(1) 被告Y5の責任

ア原告は,被告Y5が,平成25年3月6日頃までに,原告の営業秘密を使用した不正競争行為について意思の連絡を有したと主張する。しかし,被告Y5が,その頃までに,被告Y6や他の転職者らが原告の営業秘密を持ち出すことを認識していたことをうかがわせる証拠はない。また,被告Y6が原告製の機械のアフターサービス事業を展開することを意図していたとしても,そのことから,被告Y5が,当該事業を遂行するために被告Y6が原告の営業秘密を違法に持ち出すとの認識を抱いたと推認することもできない。インターフェックスへの出展についても,原告の営業秘密を使用しなければ実現できないとは認められず,同出展を計画していたことから,原告の営業秘密の持ち出しの意図を推認することはできない。したがって,原告の上記主張は理由がない。

イ原告は,被告Y5が,少なくとも重過失によって,不正開示④~⑥を受け,二次的に営業秘密を不正取得したと主張する。しかし,被告Y5は,前記認定事実(3)イのとおり,被告IDKの経営改革のため,副社長の肩書で従業員となったものにすぎず,自ら営業や設計を行っていたものでもないので,営業又は設計部員である被告Y7,被告Y10及び被告Y11が原告の営業秘密を保存したハードディスクを被告IDK社内に持ち込んでいたからといって,その開示を受けたと評価することはできず,他に,被告Y5に対して本件データが開示されたことを示す証拠はない。したがって,原告の上記主張は理由がない。

ウもっとも,被告IDKに対する不競法違反被疑事件による捜索差押えが行われた後は,別に考えるべきである。すなわち,前記認定事実(3)のとおり,被告Y5は,特機部に所属し,営業を担当していた被告Y7らと同じ部屋で執務していたところ,平成26年9月16日には,神奈川県警察本部による不正競争防止法違反を被疑事件とする被告IDKの捜索が行われたことが認められる。このように,刑事被疑事件により会社内の捜索差押えが行われることは,企業にとって深刻かつ重大な事態であり,当然のことながら,副社長の肩書きを持つ被告Y5に対してもその原因,経過,内容などの報告がされ,被告Y5はその時点で原告の営業秘密が被告IDKに持ち込まれ,業務に使用されていることを認識するとともに,その後の方針が協議されたものと推認するのが相当である。しかるに,被告IDKにおいては,上記捜索差押え後にも,本件データの不正使用にかかる昭和薬品化工機(不正使用㋒)及びユニメッド機(不正使用㋓)の出荷及び廣東製薬2号機の受注・出荷が中止されることなく行われているのであり,被告Y5は,上記捜索差押えの後においては,これらの行為について,本件データが違法に使用されていることを知りながら,その使用を容認していたものというべきである。そうすると,上記捜索差押え後に製造・納入がされた不正使用㋒,㋓及び㋖に係る機械について,被告Y5は,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10及び被告Y11と共謀の上,本件図面データを不正使用したと評価するべきである。

エしたがって,被告Y5は,不正使用㋒,㋓,㋖に限り,不競法2条1項4号の責任を負う。
(2) 被告Y4の責任

ア原告は,被告Y4も,被告IDKの役員として,平成25年3月6日以後の不正競争行為に関し,意思の連絡を有していたと主張する。しかし,被告Y4が,本件不正取得,不正開示及び不正使用について,関与又は認識していたことを示す証拠はない。なお,証拠によれば,被告Y4は,被告Y6からの依頼を受け,原告の作成名義が記載された設計図面を被告IDKの作成名義の記載に書き換えるなどしていることが認められるが(甲80),当該図面は営業秘密に当たらない商用図に相当するものであり,上記の名義書換え行為をもって,被告Y4が,営業秘密の持ち出しを知っていたはずであり,不正競争行為に係る意思の連絡を有していたということはできない。

イ原告は,被告Y4が,少なくとも重過失によって,不正開示④~⑥を受け,二次的に営業秘密を不正取得したと主張するが,被告Y4が,被告Y7,被告Y10又は被告Y11から本件データの開示を受けていたことを認めるに足りる証拠はない。被告Y4は,被告IDKの従業員から取締役になった者であり,被告IDKに移籍してきた被告Y7,被告Y10又は被告Y11が,被告Y4に対し,不正に取得した営業秘密である本件データを開示したと当然に考えることもできない。

ウなお,被告Y4も,被告IDKが捜索差押えを受けた後は,不正競争行為の存在を知り得たということはできるが,被告Y4は,被告京都から「副社長」の肩書きで送り込まれ,特機部と同室であった被告Y5とは自ずと立場や関与の程度が異なるのであり,その後に製造・納入がされた機械について,当然に不正競争行為を共謀していたと考えることもできない。

エ以上のとおり,被告Y4が,不正取得②,
③,不正開示④~⑥(これに対応する二次的不正取得を含む。)及び不正使用㋐~㋗について,共謀又は実行による責任を負うということはできない。
(3) 被告IDKの責任

ア被告IDKは,先に責任を認めた被告IDK入社後の被告転職者らの行為及び被告Y5の行為(不正開示④~⑥,不正使用㋐~㋓,㋖及び㋗)に対する限度において,その使用者責任を負う。これに対し,被告IDKは,不正開示④~⑥と被告Y7,被告Y10及び被告Y11の入社日の前後関係を問題とするが,不正開示④~⑥は,それぞれの入社の際に行われたと認められるのであるから失当である。他方,被告Y6の転職勧誘は,被告Y6の入社後にされた行為を含むものであるが,その主要な部分は入社前に実行されているから,これに被告IDKの事業執行性を認めることはできない。

イ原告は,被告IDK自身の不正競争行為及び不法行為に対する責任をも主張するが,使用者責任とは別に,前記アとは別に実行行為者又は共謀者としての責任を認めるに足りる証拠はない。

9原告に生じた損害及び額(1) 争点8-1(争点3に係る損害)について

ア不競法5条3項3号の「不正競争」は,不正競争行為である営業秘密の「開示」及び「取得」を含むと理解されるが,その場合に同号柱書の推定の対象となる「受けるべき金銭の額」は,その「開示」又は「取得」に対するものをいうと解するのが相当である。したがって,争点3で認定した不正開示④~⑥の「開示」の対価相当額が,それらの不正開示に対する損害の額と推定されるというべきである。これに対し,被告京都ら,被告IDKら及び被告Y7らは,当該不正開示によって,損害は発生しておらず,あるいは,損害が発生する可能性がない場合には,不競法5条3項の推定は適用されないなどと主張する。しかし,営業秘密は,それが秘密であることに価値があるのであるから,不正開示④~⑥によって,その営業秘密の価値が毀損され,これに対応する損害が生じたものというべきである。

イ不法に取得されたものの,機械等の製造には使用されていない営業秘密の価値に関し,原告は,その作成を外注した場合にかかる費用を基に算出され得ると主張する。しかし,営業秘密の価値は,主としてその情報の有用性や経済的な価値に着目して算定することが相当であり,その情報の内容を捨象し,営業秘密が収納されたフォルダやファイルの作成に係る費用を基準に定めることが合理的であると解することはできない。このため,原告の主張する損害の算定方法Ⅰ(コスト・アプローチ)を基礎に,その対価相当額を算定すべきではない。

ウむしろ,使用されていない営業秘密の対価相当額は,当該営業秘密の使用によって得られると見込まれる将来の利益を現在価値に引き直したものという観点から評価することが相当である。原告の主張する損害の算定方法Ⅱ(インカム・アプローチ)は,
①将来の一定期間について,
②被告IDKの各年度のラベラー事業の売上高を想定した上,
③原告の営業秘密の寄与した部分をライセンス料率として乗じ,
④それを現在価値に引き直すというものであり,その算定方法自体は合理的であるということができる。もっとも,その個々の算定要素については,
①技術の陳腐化を考慮すると,本件不使用データが有益性を維持し得る期間については5年間と認めるのが相当であり,
②その各年度における売上高は,平成25年10月から1年間(不正使用㋐~㋓,㋗)の実績の受注額1億5620万1000円(争点8-2)を基礎とし,不正使用の損害との重複を避け,実際の受注額を控除するのが相当であり,
③本件不使用データが,過去のファイルを蓄積したものであり,体系的に整理されたものでもないことなどからすれば,そのライセンス料率は10%とし,
④割引率は,甲169のとおり,10%とするのが相当である。これを前記の算定方法に当てはめると,別紙5の表のように計算することができるから,不正開示④~⑥の「開示」の対価相当額は,3724万1361円と認めるのが相当である。原告は,被告IDKにおいては,機械の売上げのほかに,アフターサービスによる売上げが当然に付随するとして,将来のアフターサービスの売上高を機械の売上高とは別に計上した計算をするが,原告が製造・販売した機械についてアフターサービスが当然に付随するということはできず,また,前記の売上高の算定は,原告自身が原告製品のアフターサービスに相当するという廣東製薬●(省略)●(不正使用㋗)をも計算の基礎としているのであるから,それとは別にアフターサービスによる売上げを基礎として計算すべき理由はないものというべきである。

エこれに対し,被告らは,本件不使用データの価値は,ファイルごとに千差万別であることを考慮すると,インカム・アプローチによる損害の算定方法は机上の空論であると主張する。しかし,前記ウの算定は,本件不使用データを含む本件データのうち,現に使用された部分による売上実績を基礎に,平均化した価値を算定しているのであるから,本件不使用データ全体の価値を算定する限りでは合理的なものというべきである。また,被告らは,本件不使用データは,仮に技術ノウハウが表れているとしても,周知慣用情報であり,あるいは,実際にライセンスを受ける価値のない情報であると主張するが,本件データに有益性があることに争いはなく,その一部は,現に使用されているのであるから,同データが周知慣用情報であるということはできない。

オ被告らは,不正開示④~⑥による損害について,過失相殺が認められるべき事情があると主張する。しかし,被告らの主張する事情は,原告における営業秘密の管理体制が万全ではなかったことをいうにすぎず,そもそも,かかる事情が本件不正取得行為,本件不正開示行為及び本件不正使用行為について斟酌すべき原告側の事情に当たるということはできない上,原告における本件データの管理体制が被告らの主張する程度に杜撰であったとも認めることもできない。

カ以上によれば,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11及び被告IDKは,不正開示④~⑥について,前記ウの3724万1361円の責任を負う(なお,被告Y11は,不正開示⑥のみに関与したにすぎないが,前記ウの算定の基礎となった不正使用㋐~㋓,㋗が,不正開示⑥に係る本件データを使用したものであることやY11HDDに収納された情報の量などからすれば,その全額に対する責任を負うと考えるべきである。)。
(2) 争点8-2(争点4に係る損害)について

ア被告IDKは,本件図面データを不正に使用し,不正使用㋐~㋓,㋖及び㋗に係る機械や部品を販売したのであるから,不競法5条2項によって,その販売により得た利益は原告の損害と推定されるところ,証拠によれば,不正使用㋐~㋓,㋖及び㋗について,不競法5条2項の「利益の額」は,それぞれ以下のように算定することができるから,これらが原告に生じた損害と推定される。

(ア) 不正使用㋐の利益の額は,受注額7700万円から部品費4910万9884円(乙B28)を控除した2789万0116円であると認めることができる。原告は,仲介会社に支払った手数料(乙B18~20)が,不正なキックバックであるとして,これを売上高に含めることを主張するが,不正使用㋐について,不正なキックバックがあったことを認めるべき十分な証拠はない。また,被告IDKが手数料を支払ったことに変わりはないのであるから,これを受注額に加算する理由もない。また,原告は,乙B28による利益率が,被告Y6の報告(前記認定事実(3)キ)による利益率と乖離していることなどを理由に,その信用性を争うが,当該報告は,受注の段階において,原告における実績を参考に想定したものにすぎないと考えられるのであり,これを理由に乙B28の信用性を否定することはできない。

(イ) 不正使用㋑の利益の額は,外注したバイナス社の製品部分を含めた税抜きの受注額6301万6000円(甲11の1記載1及び3)から同社に対する税抜きの支払額3630万円(乙B37)及び部品費1643万9930円(乙B28)を控除した1027万6070円と認めるのが相当である。被告IDKらは,前記バイナス社の製品の販売代金を受注額から控除した計算をするが,不正使用㋑に係る機械は,全体で一体の製品であると認められるから(乙B2),これを受注額に含めた上,バイナス社に対する支払を経費控除するのが相当である。

(ウ) 不正使用㋒の利益の額は,争いのない受注額3847万1000円から部品費2116万3551円(乙B28)を控除した1730万7449円と認めるのが相当である。

(エ) 不正使用㋓の利益の額は,バッファー装置の価格を含めた受注額1460万円から部品費481万8548円(乙B28)を控除した978万1452円と認めるのが相当である。被告IDKらは,バッファー装置の部分は本件図面データに関係しないとして,当該部分の価格を控除し計算をするが,それらは一体をなす製品であり,それらを別々に販売し得たとも考え難いから(乙B3),その計算によることはできない。

(オ) 不正使用㋖の利益の額は,ラベル供給装置の部分の価格を含めた受注額1億1500万円から部品費4022万2869円を控除した7477万7131円と認めるのが相当である。前記の受注額について,原告は,仲介会社に支払った手数料(乙B21,22,24)を加算するべきであると主張するが,これを採用し得ないことは,前記(ア)に説示したところと同様である。他方,被告IDKらは,本件図面データに関係しないというラベル供給装置の部分の価格を控除した計算をするが,それらは一体の装置と認められるから(乙B7),当該計算によることはできない。(カ) 不正使用㋗の受注額は,受注額93万4000円から部品費等の経費65万0569円(乙B27)を控除した28万3431円と認めるのが相当である。

イ原告は,乙B27,28が,部品費の具体的な内容も示さないものであり,その計算によれば,機械ごとの営業利益の多くが赤字になってしまうと指摘し,その信用性を争うが,被告IDKの主張する部品費が特に不合理・不自然であることを示す証拠はない。また,原告は,被告京都から部品を購入したことによって,部品費が高額となっている可能性を指摘するが,これを裏付ける証拠はない。他方,被告IDKらは,前記アの「利益」は,純利益(営業利益)であると解すべきであるとして,乙B27,28のとおり,部品費に加え,人件費や販管費,一般管理費を控除した計算をする。しかし,不競法5条2項の「利益の額」は,侵害の行為により得た利益をいうのであるから,侵害行為を組成した物の販売に係る売上高を基礎に,その販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した額(限界利益)をいうと解される。

ウ被告らは,それぞれ,前記の不正使用について,不競法5条2項の推定を覆滅すべき事由があるとするが,以下のとおり,いずれも採用することができない。

(ア) 被告らは,被告IDKが営業努力を払ったことが推定を覆滅すべき事由に当たると主張する。しかし,前記認定事実(2)ウ及び(3)アのとおり,被告IDKの近年の納品実績はウエーブパックマシーンにタックラベラー機能を付したものにとどまり,ロールラベラーの製造実績はなかった上,被告Y2は,むしろ,被告IDKのラベラー部門の営業力・技術力の強化を図るべく,被告Y6に対して被告IDKに移籍してはどうかと提案をしているとの事実が認められる。そうすると,本件不正使用に係る機械の受注をしたことについて,被告IDKの営業努力が寄与したということはできず,この点を覆滅事由として考慮することはできない。

(イ) 被告らは,本件不正使用に係る機械には被告IDKが独自に設計した部分が含まれるので,この点を考慮すべきであると主張する。しかし,ラベラーのうちに被告IDKの独自設計とされるのがどの部分であり,またどの程度含まれるかは証拠上明らかではなく,仮に,本件不正使用に係る機械の一部に被告IDKの設計に係る部分が含まれるとしても,同部分が本件不正使用に係る機械の受注や製造に寄与したと認めるに足りる証拠はない。このため,被告IDKが独自に設計した部分が含まれることを覆滅事由として考慮すべき理由はない。

(ウ) 被告らは,被告Y10及び被告Y11は,本件図面データを使用せずとも問題とされる機械の図面を作成することができたとして,この点を覆滅事由として考慮すべきであると主張する。しかし,ラベラーの設計の経験を有する被告Y10,被告Y11及び被告Y12が,本件図面データを原告から持ち出した上,被告IDKにおいて機械の設計に実際に使用していたとの事実は,本件データの有用性を示すものであり,これにより,試行錯誤をすることなく,被告IDKにおける事業を早期に展開することが可能になったものというべきである。そうすると,被告Y10や被告Y11が,その経験に照らし,本件不正使用に係る図面を作成することができるとしても,同様の期間及び精度でこれを作成することができたかどうかは疑問であり,この点を覆滅事由として考慮することはできない。

(エ) 被告らは,本件不正使用に係る機械の図面データには,周知慣用技術や市販のデータを利用した部分があるなどと主張するが,同機械の図面データの一部に周知慣用技術や市販のデータを利用した部分が含まれているとしても,本件図面データの有用性を左右するものではなく,周知慣用技術の存在などを覆滅事由として考慮することはできない。

(オ) 被告らは,本件図面データが使用された設計図面の割合などを計算し,被告IDKの利益のうち,本件図面データの寄与した割合はわずかであると主張する。しかし,本件図面データが使用された設計図面の割合は必ずしもその有用性の程度を示すものとはいえず,また,本件図面データの有用性を正確に数値化することは困難である。前記判示のとおり,ラベラーの設計の経験を有する被告Y10,被告Y11及び被告Y12が,本件図面データを原告から持ち出した上,被告IDKにおいて機械の設計に実際に使用していたとの事実は,本件データの有用性を示すものであり,本件データは被告IDKにおける事業を早期に展開することに寄与したものというべきである。

エなお,被告Y7らは,争点8-1における主張と同じ事情を主張し,過失相殺が認められるべきであると主張するが,要するに,原告における営業秘密の管理体制が万全ではなかったことをいうにすぎず,これを採用することができないことは,前記(1)オに説示したとおりである。

オ以上によれば,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11及び被告IDKは,前記イの合計1億4031万5649円の責任を負い,被告Y12は,同(ウ)の1730万7449円の責任を負い,被告Y5は,同(ウ)~(オ)の合計1億0186万6032円の責任を負う。
(3) 争点8-3(争点5に係る損害)について原告は,被告Y6の違法な転職勧誘によって,実際に引き抜かれた被告ら6名が挙げたであろう利益額に相当する損害を被ったとして,平成26年3月期における原告の営業利益である2億0257万6410円を原告の現在の従業員数で除した金額(163万3680円)を基礎として,転職者6名の6か月分の営業利益に相当する490万1040円が違法勧誘による損害であると主張する。しかし,営業利益は,種々の経済的な要因等で変動するものであり,原告の従業員1名が退職することにより,その分の利益が失われるという関係にあると認めることはできない。原告の主張によれば,従業員の引抜き行為が行われた当時,経済的な要因等により原告の営業利益がマイナスであった場合には損害が発生しないことになるが,そのような算定方法が不合理であることは明らかである。また,被告Y6ら6名が原告から退職することにより,原告の営業利益のうち490万1040円が失われたことを示す証拠もない。本件においては,被告Y6の違法な転職勧誘によって,短期間に退職者が生じていることからすれば,原告に何らかの損害が発生している可能性はあるが,原告の主張する上記の算定方法が不合理であることは前記判示のとおりであり,原告は,他の算定方法に関する主張・立証をしない。また,民事訴訟法248条は,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは,相当な損害額を認定することができるとしているが,本件においては,退職した従業員の補充状況を明らかにした上で,そのために要した費用の主張・立証をすることや,退職者が所属した事業部における売上げ又は利益の減少を明らかにした上で,そのうち違法な転職勧誘と相当因果関係のある金額を推計することなどにより損害額を主張・立証することが極めて困難であるとは認められない。このため,民事訴訟法248条を適用することは相当ではない。以上のとおり,被告Y6の違法な転職勧誘に関する原告の損害賠償請求は理由がない。

10結論(1) 争点1~4に係る認定及び判断によれば,主位的請求(1)~(4)は,被告IDK,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11及び被告Y12に対する限度で理由がある。
(2) 争点5及び争点8の2の認定及び判断によれば,主位的請求(5)は,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11及び被告IDKに対し,1億4031万5649円に弁護士費用相当額1403万1564円を加算した1億5434万7213円及び訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求め,被告Y12に対し,1730万7449円に弁護士費用相当損害173万0744円を加えた1903万8193円及び訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求め,被告Y5に対し,1億0186万6032円に弁護士費用相当損害1018万6603円を加えた1億1205万2635円及び訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(なお,主文第5項(1)~(3)は,これらの連帯関係を明確にするため,
(1)前記の被告ら全員が責任を負い,連帯する部分,
(2)被告Y12を除いた前記の被告らが責任を負い,連帯する部分,
(3)被告Y12及び被告Y5を除いた前記の被告ら責任を負い,連帯する部分に書き分けたものである。)。
(3) 争点4及び争点8の1の認定及び判断によれば,主位的請求(6),予備的請求(1)及び(2)は,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11及び被告IDKに対し,3724万1361円に弁護士費用相当損害372万4136円を加えた4096万5497円及び訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(4) 争点5及び争点8の3の認定及び判断によれば,主位的請求(7)は理由がない。
(5) 前記前提事実及び認定事実並びに各争点に対する判断によれば,被告IDKの不正競争行為によって,原告の営業上の信用が害されたということはできず,前記の損害の賠償に加え,別紙3記載の謝罪広告の掲載によって,その信用を回復する措置を命じることが必要であるとはいえないから,主位的請求(8)は理由がない。
(6) 以上のとおり,原告の請求は,主文掲記の限度で理由があり,その余の請求はいずれも理由がないので,これを棄却することとし,よって,主文のとおり判決する(なお,主文における「連帯して」とは,遅延損害金の起算日が異なる場合は,その限度をいう趣旨である。)。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官佐藤達文
裁判官𠮷野俊太郎
裁判官齊藤敦(別紙1-1,1-2,3,4-1,4-2,4-3,4-4及び4-5について,いずれも添付省略)

出典: 平成27年(ワ)第30656号 裁判所ウェブサイト掲載の判決文 →

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