「サービス名やロゴは決まってきたけれど、いつのタイミングで商標を出願すべきか分からない」「ローンチ前に出すべきか、売れてからでも間に合うのか迷っている」──そんな方向けに、商標の出願タイミングを考えるときの実務的な目安をまとめました。
ここでお伝えするのは、業種を問わず共通する「考え方の軸」です。最終的なベストタイミングは事業ごとに異なりますが、まずは次の3つの視点を押さえておくと整理しやすくなります。
- いつから第三者の目に触れ始めるか(公開・PRのタイミング)
- どの名前・ロゴが「事業の柱」になるか
- ネーミングやロゴが、これからどれくらい変わる可能性があるか
この記事では、事業フェーズごとの考え方と、出願を急いだ方がよいケース・少し様子を見てもよいケースを、具体的に整理していきます。
1. 大前提:商標は「できるだけ早く、でも準備ゼロでは出さない」
商標は原則として、「出願が早い人が優先される」先願主義です。そのため、基本的な方向性としては、
- できるだけ早く出願したい
- ただし、事業の方向性やブランドの骨格がまったく固まっていない段階では、出願し直しが増えてしまう
という、スピードと精度のバランスを取る必要があります。
この記事のゴールは、
- 「このフェーズなら、ここまで整理できていれば出願してよい」
- 「まだこの状態なら、もう少し様子を見た方がよい」
という「めやすのライン」を持っていただくことです。
2. フェーズ別:よくある4つのタイミング
ここでは、新しい商品・サービスを立ち上げるときに、よく出てくる4つのフェーズに分けて考えてみます。
A:アイデア・企画段階(社内検討のみ)
B:試験運用・テスト配布の段階(限られた相手に見せ始める時期)
C:本格ローンチ直前(公開・PRが見えてきた時期)
D:ローンチ後〜すでに展開中
A. アイデア・企画段階:
名前候補が揺れているうちは「候補整理」に集中
この段階では、社内でのみ企画書や試作品を見せており、外部への公開はまだ先、という状態が多いと思います。
このタイミングで無理に出願すると、
- 後からネーミングが変わった
- ブランド構成が変わって、別の名前に軸足を移したくなった
という形で出願し直しが増えやすいため、まずは「候補の整理」と「ざっくり調査」に集中する方が現実的です。
このフェーズでは、次の記事のようなチェックリストを使って、候補名と想定している使い方を一覧化しておくのがおすすめです。
ネーミング候補がいくつか挙がっている段階で、登録の可能性や既存商標との抵触リスクを踏まえて候補を絞り込むという方法もあります。この場合は、候補ごとに簡易な調査を行い、「そもそも登録が難しそうな案」や「明らかにぶつかりそうな案」を早めに外しておくイメージです。
B. 試験運用・テスト配布の段階:
限られた相手に見せ始めるタイミング
社内外の一部メンバーにだけサービスを使ってもらう、クローズドなテスト配布を行うなど、限られた範囲ではあるものの第三者の目に触れ始める段階です。
このときに整理しておきたいのは、
- テスト段階の名称をそのまま本番でも使う見込みか
- テストの情報が、どこまで外部に広がる可能性があるか
「テストとはいえ、SNSやメディアで名前を出していく」ような場合は、本番ローンチとほぼ同じ感覚で出願タイミングを検討してよいことが多いです。
一方で、
- テスト版の名称はあくまで仮称で、本番時に変える可能性が高い
- ごく限られた相手にだけ見せており、情報が外部に広がる可能性は低い
といった場合は、本番名称が固まるまで様子を見る選択もあります。
C. 本格ローンチ直前:
原則として「ここまでには出願しておきたい」タイミング
Webサイトの公開、プレスリリース、広告出稿、展示会など──一気に外部への露出が増えるタイミングが見えてきたら、原則としてこの段階までには出願しておくのがおすすめです。
理由はシンプルで、
- 露出が増えるほど、他社に先に出願されてしまうリスクが高まる
- 後から同じ・似た名前が出てきたときに、自社が先に出願していた方が、自社の立場や権利関係を主張しやすい
からです。
この段階では、次のような項目が整理できていることが多いため、出願内容も決めやすくなります。
- 正式なサービス名・ブランド名
- ロゴデザイン(ある程度確定)
- 実際に提供する商品・サービスの範囲
- 当面の提供エリア・販路(オンライン/オフライン)
こうした情報は、先ほどのチェックリストや、ロゴ商標、文字商標、取得すべき商標を見分けるにはの内容とも結びつきやすい部分です。
D. ローンチ後〜すでに展開中:
「今からでも遅い?」と感じたときの考え方
すでにサービスを公開している状態から、
「今さらだけど、この名前・ロゴで商標を取っておいた方がいいのでは?」という相談も少なくありません。
この場合のポイントは、
- どれくらいの規模・期間、その名前で展開しているか
- 今後も、同じブランドで事業を伸ばしていくつもりか
- すでに類似の名称を使っている他社がいないか
といった点です。
「ブランドとして育てていきたい」「乗り換えるのは現実的ではない」と感じるなら、現時点からでも出願を検討する価値があるケースが多くなります。その際は、これまでの使用実績(いつから・どこで・どのように使っているか)を整理しておくと、出願範囲の検討がスムーズです。
また、一定の条件を満たす場合には「早期審査」の対象となることもあります。過去の使用状況や資料を整理しておくことは、出願内容の検討だけでなく、審査を早めたい場合の準備としても意味があります。
3. 先に押さえるべき商標の優先順位
予算には限りがあるため、「すべてを一度に出願する」のが現実的でない場合も多いと思います。その場合は、次のような順番で優先度を考えることが多いです。
- 会社名・屋号(看板として広く使っている場合)
- 事業の柱となるサービス名・ブランド名
- 派生サービス・プラン名など(必要に応じて)
同じような名前が複数ある場合は、
- 売上・利益への影響が大きいもの
- 広告・PR・展示会などで露出が大きいもの
- 他社とバッティングしやすそうな領域(競合が多い市場)
といった観点で、「まずはここから押さえたい」という候補を絞り込んでいきます。
この整理には、出願前の準備資料チェックリスト(名前・ロゴ・商標編)のようなシートを使い、商標候補を一覧化した上で優先度を付けていくと考えやすくなります。
4. 「まだ決まっていないけれど、先に出した方が良い」ケース
ネーミングやロゴの細部が完全に固まっていなくても、「この名前で基本的に行く」方向がほぼ決まっている段階で、先に出願を検討した方がよいケースがあります。
たとえば、次のような状況です。
- プレスリリースやWebサイト、資料などでその名前をすでに使い始めており、今後も基本的に変える予定はない
- 展示会や大規模なイベントで、その名前を前面に出してPRする予定がある
- 似たコンセプトのサービス名が増えており、「誰かに先に出願されるかもしれない」と感じる状況にある
ここで想定しているのは、ロゴデザインや細部のレイアウトは変わる可能性があるが、「名前そのもの」は大きく変えない前提になっているケースです。
こうした場合には、少なくとも「文字商標(標準文字)」だけでも先に押さえておくという選択肢があります。ロゴのデザインは後から整えていくにしても、根本のネーミングを先に出願しておくイメージです。
ロゴの取り扱いや標準文字の考え方については、次の記事でより詳しく整理しています。
5. よくある悩みと考え方の目安
Q1. 売れてから商標を出願しても間に合いますか?
「まずは売上を作ってから」と考える方も多いですが、ある程度認知が広がってからの出願は、同じ・似た商標を他社に先に出願されてしまうリスクが高まります。
「売れてきたら」ではなく、少なくとも本格的な広告・PRを始める前には、一度は出願を検討しておくのがおすすめです。
Q2. まだネーミングが固まっていません。商標出願は待つべきでしょうか?
ネーミングの候補が複数ある場合は、
- 候補ごとに、事業との相性・長期的な使いやすさを整理する
- 候補名の簡易な類似調査をしてみる
といった手順を踏むことで、「最終候補」を絞り込みやすくなります。
実務では、いくつかの候補が出そろった段階で、商標登録の可能性や既存商標との抵触リスクを踏まえて候補を選別することもあります。
「そもそも登録が難しい」「他社との紛争リスクが高い」といった候補を早めに除外しておくと、後からのネーミング変更やブランド変更のリスクを下げることができます。
この記事とあわせて、出願前の準備資料チェックリスト(名前・ロゴ・商標編)を使い、候補名と想定している使い方を一覧化しておくと、判断材料が見えやすくなります。
Q3. 既にサービスを公開しています。今から商標を出願する意味はありますか?
すでに展開しているサービス名・ブランド名であっても、今後もその名前で事業を伸ばしていきたいのであれば、現時点から商標を出願する意味は十分にあります。
その際は、これまでの使用状況(いつから・どこで・どのように使っているか)を整理しておくと、どの範囲で押さえるかの検討がスムーズです。一定の条件を満たす場合には、早期審査の対象となることもあります。
6. まとめ:出願タイミングは「公開」と「優先度」の掛け算で考える
商標の出願タイミングに絶対の正解はありませんが、次の2つを軸にすると整理しやすくなります。
- いつから第三者の目に触れ始めるか(公開・PRの予定)
- その名前・ロゴが、事業全体の中でどれくらい重要か(優先度)
一般的な目安としては、
- アイデア・企画段階:候補整理と簡易チェックに集中
- 試験運用・テスト段階:本番でも同じ名前を使うなら商標出願の検討開始
- 本格ローンチ前:広告・PRの前までに、柱となる商標を出願
- ローンチ後:すでに育っているブランドは、今からでも出願を検討
完璧なタイミングを探すよりも、「どの名前を、どの優先度で押さえるか」を整理することが大切です。そのための具体的な手順やシートは、以下の関連ページで詳しくまとめていますので、あわせてご覧いただければと思います。
関連リンク
- 商標の基本をざっくり押さえたい方はこちら:
└ 商標とは?わかりやすく実例で解説|商品名・ロゴの意味と役割 - ロゴ商標・文字商標の違いと見分け方はこちら:
└ ロゴ商標、文字商標、取得すべき商標を見分けるには - 出願前に整理すべき資料のチェックシートはこちら:
└ 出願前の準備資料チェックリスト(名前・ロゴ・商標編)
次の一歩
この記事を読みながら整理してみて、「うちの場合はいつ、どの商標から出願すべきか」で迷われた場合は、次のページも参考になります。
- 商標出願前の個別相談はこちら(当サイトのオンライン相談)
└ 出願タイミングや優先順位の考え方を、自社の事業計画や予算感に合わせて一緒に整理します。
この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)













