「商標権侵害の警告書が届いたため、すぐにWebサイトやECサイト内の該当する表記を修正・削除した。しかし、Googleの検索結果にはまだキャッシュが残っている」「サイトの仕様で、過去の口コミなどに残った表記がどうしても消せない(削除したいのにできない)」──。
商標権侵害の警告を受けた企業様からご相談をいただく中で、こうした「自社では削除不可能な箇所」に問題となった表記が残ってしまい、どうすればいいか不安に感じられる方もいらっしゃいます。
物理的な商品であれば、「タグやラベルを付け替える」「パッケージを変更する」といった対応で侵害状態を解消できます。 しかしデジタルの世界では、システムの仕様上、自社では削除不可能な箇所(たとえば口コミなど)に問題となった表記が残ることがあります。そのため、できる限りの修正対応を済ませても「このままで対応完了として良いのか?」「後から『まだ残っている』と指摘されないか?」という懸念を抱く方もいるかもしれません。
この記事では、Web・システム特有の「削除できない表記」に対する商標権侵害の有無や、将来の商標トラブルを防ぐための対処法について解説します。
Web・プラットフォーム特有の課題:「完全な消去」の難しさ
Webやプラットフォーム上の情報は、一度公開されると様々な場所に記録・保存されるため、自社の操作だけでは「完全に消し去る」ことが難しいケースが多々あります。具体的には、次のようなケースが挙げられます。
- 検索エンジンのキャッシュ・スニペット: 自社サイトにおいて問題となった表記を削除しても、Google等の検索結果(スニペットなど)にはしばらくの間、古いタイトルや説明文が表示され続け、問題となった表記がしばらく残る。
- プラットフォームの仕様による残留: 予約サイトや口コミサイトにおいて、店舗側で「現在のメニュー名」などは変更できても、「過去のユーザーレビュー」などは、システム権限上、編集・削除ができず、問題となった表記が残る。
- 第三者による転載: アフィリエイトサイトやアーカイブサイト(Wayback Machine等)に、過去の情報が自動的に保存されている。そのため、問題となった表記を消すことが難しい場合もある。
商標権侵害の警告を受けた企業としては「できる限りのことはした」つもりでも、問題となった表記が残り続けることもあるため、対応が不十分ではないかと不安に感じるかもしれません。
「消せない情報」は法的責任を問われるのか?
システム上どうしても消えない情報について、相手から「まだ残っている!商標権侵害だ」と追及された場合、法的にはどう判断されるのでしょうか。
結論から言えば、こうしたケースでは直ちに法的責任(損害賠償など)を負う可能性は低いと考えられます。その理由は、大きく分けて2つあります。
1. 「わざと残しているわけではない」こと(管理の限界)
法律の世界では、「自分たちの力ではどうしようもないこと(不可抗力)」についてまで、重い責任を負わせることは通常ありません。
Googleの検索キャッシュや、第三者が運営するサイトのアーカイブなどは、貴社に管理権限(削除する権限)がありません。「消そうと努力したが、システムの仕様で消せない」という客観的な事実があれば、それは「商標権を侵害する意思がない」ことの証明になり、責任を否定する大きな材料になります。
2. 「看板として機能していない」こと(商標的使用の否定)
商標権侵害が成立するには、その表示が「看板」や「広告」として機能し、お客様を誘導している必要があります(これを専門用語で「商標的使用」といいます)。
しかし、検索結果の古いキャッシュや、過去のログデータなどは、単なる「情報の残骸」にすぎません。そこから商品購入ページに飛べない、あるいは明らかに古い情報だと分かる場合、「現在、商品を売るために使っているわけではない」と判断され、実質的な侵害には当たらないとされるケースがあります。
ただし「放置」はリスクになることも
もちろん、「消せないから仕方ない」と放置して良いわけではありません。もしその「消え残ったページ」から依然として多くの注文が入っているような場合は、利益を得ている以上、責任を問われるリスクが残ります。
だからこそ、「消せない理由」を相手に論理的に伝え、納得させるための回答テクニックが必要になるのです。
自己判断での回答は危険?専門家が介入する3つのメリット
【事例】「余計な報告」を削ぎ落とし、早期解決したケース
これは、ご自身で対応していたら泥沼化していた可能性が高い案件を、専門家の判断でシンプルに解決へ導いた一例です。
過去に、「予約サイト上の商標権侵害について対応してほしい」という警告を受けた企業の代理対応を行いました。このケースでは、店舗側で操作できる箇所はすぐに削除しましたが、システムの仕様上、どうしても消せない古い履歴データが一部残ってしまっていました。
<ご自身で対応しようとしていた時のリスク>
当初、担当者様は不安のあまり、「メインの箇所は消しましたが、こっちはシステムの不具合で消せなくて…」と、聞かれてもいない「消せない部分」のことまで謝罪しようとしていました。しかし、これを自ら伝えてしまうと、相手も「残っているなら消してくれ」と言わざるを得なくなり、問題が長引く可能性もあります。
<専門家による交通整理>
そこで私が介入し、相手方の真の目的は「現在の営業活動における侵害の停止」にあると判断。回答書では「ご指摘の箇所(営業に直結する部分)について、削除対応が完了いたしました」という事実のみを報告し、法的に議論の余地がある残存データについては、あえてこちらからは言及しませんでした。
その結果、相手方も「こちらの主要な要求は通った(現在の侵害状態は解消された)」と納得し、それ以上の細かい詮索(箱の隅をつつくような追及)は行われず、そのまま解決しました。これは「隠蔽」ではありません。相手にとって「解決に必要な情報」と「不要なノイズ」を専門家が選別し、最短ルートで合意形成を図った結果とも言えます。
もちろん、専門家(弁理士や弁護士)が間に入ったからといって、相手が必ずすぐに納得するとは限りません。中には強硬な姿勢を崩さない相手もいます。しかし、ご自身で対応する場合と、知財のプロが対応する場合とでは、「リスクのコントロール」に大きな差が出ます。
1. 「余計な言質」を取られないために
避けたいのは、ご自身で良かれと思って送った回答が、後になって『過失を認めた証拠』として使われてしまうことです。
たとえば、誠意を伝えようとして「どれだけ削除を頑張ったか」を報告するとマイナスになることもあります。「システム会社に確認しましたが、消せませんでした」という報告は、裏を返せば「自社の管理下にあることを自認している(=消せなかったのは管理不十分である)」とも取られかねません。将来の紛争リスクを避けるためにも、言葉を選んで慎重に回答する必要があります。
2. 「実は違反ではない」という反論ロジックを見つける
一般の方から見ると「サイトに登録商標が残っている=100%黒(侵害)」に見えるかもしれません。しかし、専門家の視点は少し違います。私たち弁理士は、「その表示が、お客さんを呼び込む『看板(商標)』として機能しているか?」という基準で判断します。
もし、ただの過去ログやシステム上の残骸として残っているだけであれば、それは「看板」としての役割を果たしていません。この点を突き、「単に文字があるだけで、法律上の『商標の使用』には当たらない(=だから侵害ではない)」と主張することで、相手の追及をストップできるケースもあります。
3. 交渉の「窓口」を専門家に任せる
慣れない法律トラブルの対応は、どうしても心理的な負担がかかるものです。通常業務と並行して相手方とやり取りをするのは、時間的にも精神的にも大きな負担になります。精神的な消耗を防ぎ、通常業務に専念できる環境を作ることも、専門家を活用する大きなメリットです。
「消せない商標」に関するよくある質問
商標権侵害の警告を受けた際、Web上の削除対応についてよくある質問をまとめました。
Q. 検索結果(Googleキャッシュ)に残っているだけで商標権侵害になりますか?
A. 原則として、自社で管理・削除できない場所に情報が残っているだけであれば、法的責任を問われる可能性は低いです。ただし、完全に無視をしてよいわけではありません。「故意に残しているわけではない」という点を適切に主張する必要がありますが、不用意な回答はリスクになるため、専門家を通じて回答することをお勧めします。
Q. 口コミサイトの過去のレビューが消せません。どうすればいいですか?
A. プラットフォームの仕様上、削除できない口コミについては、法的な管理権限外として責任を否定できるケースが多いです。しかし、相手方が納得するかは別問題ですので、システム仕様に基づく客観的な説明や、法的な責任範囲の線引きについて、弁理士にご相談ください。
Q. 相手から「消えるまで解決金を払え」と言われたら払うべきですか?
A. その場で支払いを約束するのは避けてください。「消せない部分」のみを理由とした金銭請求であれば、拒否できる可能性があります。一方で、過去の販売実績などに対して請求されている場合は検討が必要です。個別の事情により判断が分かれるため、必ず専門家に「支払い義務の有無」を確認してから対応してください。
Q. 弁理士に回答書の作成を依頼するといくらかかりますか?
A. 事務所により異なりますが、一般的に警告書への回答書作成は10万円~20万円程度が相場です。当事務所(知育特許事務所)では、事案の難易度に応じてお見積もりいたしますので、まずは無料相談をご利用ください。
まとめ:物理的に消せなくても、法的に「解決」は可能です
Web上のトラブルで特に悩ましいのは、システム上どうしても消せない情報が残ってしまうと、「またいつか指摘されるのではないか」「これで本当に対応完了と言えるのか」という不安が残り続けてしまうものです。
しかし、本記事で解説した通り、物理的に完全に消去することだけが解決策ではありません。重要なのは、物理的な削除に固執するのではなく、「双方にとって納得できる『解決の定義(着地点)』を見つけること」です。
「消せない事実」を前にして、どう説明すればいいか分からず不安なまま放置したり、無理な約束をしてしまったりする前に、まずは専門家にご相談ください。「今の状況で、どのような終わらせ方がベストなのか」。客観的な視点で整理するだけで、解決への道筋が見えやすくなるはずです。
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この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)













