個人で取得した特許を、自分の会社がそのまま製品に使っている——そういう状態のまま、特に何の取り決めもせずに何年も経っている、という経営者は少なくありません。「自分の特許を自分の会社で使っているだけだから、問題ないだろう」という感覚は自然ですが、税務上はそう扱われません。
個人と法人は法律上まったく別の人格です。社長個人が持つ特許を会社が無償で使っている場合、会社は「本来であれば社長に使用料(ロイヤルティ)を払うべきところを免除してもらっている」状態とみなされます。この免除された使用料の分だけ会社が得をしたとみなされ、その得をした分(受贈益)に対して法人税が課されるリスクがあります。
税務上は、毎年「払わずに済んだ使用料の分だけ得をした」とみなされ続けるため、気づかないうちに課税される金額の根拠が年々積み上がっていきます。
本記事では、なぜ個人名義の特許を会社に無償で使わせていることが問題になるのか、税務署から無償使用を問題視された場合にどのような税負担が生じるのか、そして対処法として「有償ライセンスの設定」と「特許権を会社に譲渡する」という2つの選択肢を整理します。
なぜ「タダで使わせているだけ」が問題になるのか
税務のルールでは、「社長個人」と「法人(会社)」は法律上まったく別の人格(別の財布)です。たとえ社長が100%株主の一人会社であっても、この原則は変わりません。
社長個人が持つ特許を、特に使用料の取り決めもなく会社がそのまま使っている場合、会社が払わずに済んだ使用料の分だけ税務上の利益が生じたとみなされます。
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受贈益とは何か|会社側に生じるリスクの仕組み
では、この「払わずに済んだ使用料の分の利益」は税務上どう扱われるのか。これが「受贈益」と呼ばれるものです。受贈益とは、タダまたは相場より大幅に安い金額で資産や利益を受け取ったときに、払わずに済んだ金額に対して課税される法人税上の概念です。
社長個人の特許を会社が無償で使っている場合、「免除された使用料相当額」が受贈益として認定されるリスクがあります。たとえば、その特許を使った製品の年間売上が1,000万円で、適正な使用料率が3%であれば、年間30万円の受贈益が発生しているとみなされる可能性があります。これが何年も続けば、累積額は無視できない水準になります。
さらに注意が必要なのは、現在その特許を事業で使っていない場合でも、競合他社の参入を阻止している「防衛的価値」が認められる特許であれば、使用料の免除が問題視される可能性がある点です。「使っていないから関係ない」とは言い切れません。
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対処法①|適正な有償ライセンスを設定する
無償使用による受贈益リスクを解消するには、どうすればよいのか。対処法は大きく2つあります。1つ目は、社長個人と会社の間で有償ライセンス契約(使用許諾契約)を結び、適正な使用料を設定することです。
有償ライセンスを設定することで、会社は社長個人に使用料を支払い、その使用料は会社の経費として計上できます。社長個人にとっては使用料収入になりますが、少なくとも受贈益リスクという「気づかないまま積み上がるリスク」を解消できます。
使用料の水準は、その特許が事業にどれだけ貢献しているかを根拠に設定する必要があります。「なんとなく決めた金額」では適正とは認められないため、評価書で使用料の根拠を示しておくことが有効です。
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対処法②|特許権を会社に譲渡する
もう一つの根本的な解決策は、特許権を社長個人から会社へ譲渡することです。特許権が会社のものになれば、以後の無償使用による受贈益リスクは発生しません。
ただし、名義の移転には注意が必要です。社長個人から会社への特許の譲渡は、税務上「個人と法人の間の資産売買」として扱われるため、適正な価格(時価)での取引が原則です。「自分の会社だから0円でいい」という判断は、社長個人に所得税(みなし譲渡)、会社に法人税(受贈益)がかかるダブル課税のリスクを生じさせます。
名義移転を選ぶ場合は、譲渡価格の根拠を評価書で示した上で手続きを進めることが重要です。
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有償ライセンスと名義移転、どちらを選ぶか
有償ライセンスと譲渡、どちらを選ぶかは状況によって異なります。たとえば、引き続き個人で権利を保持したい場合は有償ライセンスが向いていますし、長期的に会社で特許を活用したい場合は譲渡の方が管理がシンプルになります。どちらの対処法が適切かは、特許の評価額・会社のキャッシュフロー・将来の事業計画によって異なります。以下はあくまで一般的な目安です。
| 選択肢 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 有償ライセンス | 将来的に個人で権利を保持したい/まず使用料の取り決めだけ整理したい | 毎年の使用料設定と支払いが必要。使用料の根拠も示す必要がある |
| 譲渡 | 長期的に会社で特許を活用したい/管理をシンプルにしたい | 時価での取引が原則。評価書で譲渡価格の根拠を残す必要がある |
いずれの場合も、使用料や譲渡価格は評価書で根拠を示した上で設定することが重要です。税務処理については税理士にご相談ください。
よくある質問
Q1. 使用料の金額はどのように決めればよいですか?評価書がないと認められませんか?
A. 使用料の金額は「なんとなく決めた」では税務上の根拠として認められないリスクがあります。その特許が事業の売上にどれだけ貢献しているかを根拠に算定し、評価書で根拠を示しておくことで、適正な使用料として説明できる状態を作ることができます。評価書が絶対に必要というわけではありませんが、根拠を示せる状態にしておくことが重要です。
Q2. 現在は事業で使っていない特許でも、受贈益リスクはありますか?
A. 使っていない特許であっても、競合他社の参入を阻止している「防衛的な価値」が認められる場合は、無償で使わせていることが問題視される可能性があります。「使っていないから関係ない」とは言い切れないため、気になる場合は専門家に確認することをおすすめします。
まとめ
社長個人名義の特許を会社がタダで使っている状態は、「何もしていない」ように見えて、税務上は毎年「払わずに済んだ使用料の分だけ得をした」とみなされ続けます。気づかないうちに課税される金額の根拠が積み上がっていくため、早めに対処することが重要です。
対処法は大きく2つです。社長個人と会社の間で有償ライセンス契約を結んで適正な使用料を設定するか、特許権を会社に譲渡するかです。どちらを選ぶかは評価額や会社のキャッシュフローによって変わりますが、いずれも「使用料・譲渡価格の根拠を示せる状態にしておく」ことが税務リスクを下げる上で重要です。
「うちもそういう状態かもしれない」と感じたら、現状の整理から始めることをおすすめします。
※本記事に関する免責事項:本記事は、特許権の移転登録や価値評価に携わる弁理士の立場から、個人名義の特許の無償使用に伴う税務上のリスクを整理したものです。税務に関する記述は、下記参考文献等の公開文献に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断や税務申告上のアドバイスを行うものではありません。具体的な税務処理については、必ず税理士等の税務の専門家にご相談ください。
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参考文献
- 井上康一『移転価格税制についての素朴な疑問』(税務研究会出版局、2025年)
- 田島宏一ほか編著『移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ50(第2版)』(中央経済社、2023年)
この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)















