社名変更やリブランディングの終盤になってから「この名前は使えない可能性が高い」と分かると、登記・デザイン・社内外への説明をやり直さざるを得ず、費用・スケジュール・社内リソースのすべてに大きな影響が出ます。特に、すでに社内外への準備が進んでいる段階で判明した商標トラブルは、元に戻しにくい性質を持つため、経営判断としても負担が大きくなりがちです。
具体的には、次のような対応が重なって発生するおそれがあります。
- 登記のやり直し
- ロゴやサイトの作り直し
- 社内外への説明のやり直し
この記事では、実際に登記完了後・デザイン制作の途中で商標の問題が見つかったケースをもとに、
- どんな経緯で「名前を見直さざるを得ない状況」になってしまうのか
- そこで発生する具体的な負担は何か
- そもそも、どのタイミングで商標を確認しておくと負担を抑えられるか
という点を、できるだけ平易な言葉で整理します。
あわせて、社名変更・リブランディングのプロジェクトを止めないために、登記やデザイン制作に着手する前の段階で商標チェックをどのように組み込むとよいか、実務で利用しやすい相談窓口も最後にご案内します。
1. 社名変更の終盤で「名前を見直さざるを得なくなった」ケース
1-1. 登記もデザインも進んだあとで相談が来た流れ
ある企業では、新規事業の立ち上げに合わせて社名変更を行うことになりました。
社内で新しい社名案が決まり、次のような準備が進んでいました。
- 新社名での商号変更登記は完了
- コーポレートロゴのデザインも固まり、制作が進行
- コーポレートサイトのリニューアルに着手している
この段階で、企業側が日頃から相談している弁護士の先生との打合せの中で社名の話題になり、
「その社名で事業を進めるのであれば、商標登録も検討した方がよいのでは」
という指摘がありました。そこで、その弁護士の先生から当事務所をご紹介いただき、商標の観点から確認することになりました。
あらためて新社名について商標調査を行ったところ、
- 新社名と同じ表記の商標が既に登録されている
- その登録でカバーされている商品・サービスのうち、今回の事業と一部重なる部分がある
という状況であることが分かりました。そのまま使い続けると、他社の商標権を侵害していると判断されるおそれが否定できない状態です。
すでに登記とデザインの準備が進んでいたため、
- このまま社名を使い続けるのか
- どこかのタイミングで別の名前に切り替えるのか
という、重い判断をしなければならない局面に立たされました。
1-2. 登記後に名前を変えることになったときに起こること
このようなケースでは、「名前を変えるかどうか」という判断だけでなく、次のような負担が一度に発生します。
1. すでに使ったお金が戻ってこない
- ロゴ・ウェブサイト等の制作費
- 社名変更に伴う登記や各種変更届に要した費用
別の社名に切り替える場合、これらは再度発生する可能性が高く、実質的には二重のコストになります。
2. スケジュールが大きく遅れる
- 新しい社名案の検討と社内の合意形成
- デザイン・制作プロセスのやり直し
- 取引先や関係者への説明・資料差し替え
リブランディングのスタートや、新しいブランドでの打ち出し時期が後ろにずれていきます。
3. 社内外への説明が難しくなる
- 社内で「なぜ事前に確認していなかったのか」という疑問が生じやすい
- 取引先や金融機関に対しても、事情を説明したうえで理解を得る必要が出てくる
本来は前向きな取り組みである社名変更・リブランディングに、「やり直し」の話が入り込むことで、プロジェクト全体の雰囲気やスピードにも影響が出てしまいます。
2. 社名変更・リブランディングで商標トラブルが起きると何が困るか
2-1. 社名は会社のあらゆる場面に関わる
ドメイン名や商品名などと比べて、社名は会社のあらゆる場面で使われる名前です。たとえば、
- 登記・契約書・請求書・見積書
- 銀行口座や各種登録情報
- 採用サイト・コーポレートサイト・パンフレット
など、社名が変わると連動して変えなければならないものが多数あります。
ドメイン名と商標の関係や、具体的な影響範囲について詳しく知りたい場合は、ドメイン名と商標の関係は?取得前に確認したい3つのポイント も参考になります。
2-2. 途中で止まると「やり直し」と「遅れ」が同時に発生する
社名変更・リブランディングの作業は、例えば次のような流れで進んでいくことが多いのではないでしょうか。
- 名前の検討
- ロゴやデザイン案の検討
- 登記や各種変更届
- サイトや各種ツールの制作・差し替え
- 社内外への周知
どの段階で商標の問題が見つかっても、何らかの調整は必要になりますが、特に3以降まで進んだ段階で判明した場合には、
- これまでの作業をどこまでやり直すか
- どのタイミングで別の名前に切り替えるか
といった、大きな調整を検討せざるを得ないケースが増えます。
結果として、
- それまでに行った作業のやり直し
- これからの予定の遅れ
が同時に発生しやすい、というのが特徴です。
2-3. 自社だけでのチェックに限界がある理由
社名案を検討する際に、
- 自社でインターネット検索をしてみる
- 公開データベースで同じ名前がないか調べてみる
といったチェックをされる企業も多いと思います。これはとても大切なステップです。
一方で、次のような点では限界があります。
- 表記が違っても、読み方や意味が似ていると問題になるケースがある
- 一見似ていても、取り扱う商品・サービスの範囲や実際の取引の状況によって、判断結果が変わることがある
- 現在の事業だけでなく、今後予定しているサービスとの関係も見ておく必要がある
こうした判断は、どうしても実務で使われている判断基準などに触れているかどうかで差が出てきたりもします。
商標全体の基本的な考え方や、ネーミングから出願までの流れについては、
商標の基礎と実務ガイド|ネーミング・区分・出願の進め方 で整理しています。本記事では、社名変更・リブランディングの場面に絞ってポイントを取り上げています。
3. 社名変更・リブランディングで商標トラブルを減らす3つのポイント
3-1. 候補が固まりきる前に、大きく外れない方向を確認しておく
一番避けたいのは、
社内の合意も取れ、デザインも進んだあとで、商標の観点からNGになる
というパターンです。
これを防ぐには、
- 社内で「このあたりの名前に絞っていきたい」という段階になったときに
- 事業の顔になる名前だけでも構わないので
一度、商標の観点から見て大きなリスクがないかを確認しておくことが有効です。
このタイミングであれば、
- まだ名前を変える余地がある
- デザイン案も方向修正がしやすい
という状態なので、後のダメージを小さくしやすくなります。
ネーミング検討時に整理しておくとよい事項や資料のまとめ方は、
商標出願前に整理しておきたい資料とチェックリスト で別途整理しています。
3-2. 「このタイミングでは必ず商標を確認する」と決めておく
社名変更・リブランディングは、どうしても作業が並行して進みます。
その中で、あらかじめ
- 「ここまで来たら、必ず一度、商標の観点から確認する」
というタイミングを決めておくことが大切です。
例えば、次のような区切り方が考えられます。
- 社名候補を数案に絞った段階で、一度確認する
- ロゴの本制作に入る前に、採用予定の社名について確認する
- 登記やプレスリリースの前に、出願の方針も含めて整理しておく
こうした「進め方のルール」を決めておくことで、
- なんとなくそのまま進んでしまう
- 気づいたときには登記まで終わっていた
といった事態を防ぎやすくなります。
区分の考え方や優先順位の付け方について詳しく知りたい場合は、
商標の区分(第◯類)の考え方と優先順位の付け方 も参考になります。
3-3. 早い段階から弁理士を関わらせるメリット
実務では、次のような形でご相談いただくことが多いです。
- 企業側が普段から相談している弁護士・税理士の先生を通じてのご紹介
- デザイン会社・制作会社の方からのご紹介
- 企業の法務・総務・知財担当の方からの直接のご相談
いずれの場合も、社名やブランドの候補がいくつか出てきた段階で、
- 商標の観点から見て、大きな問題がないか
- 候補の中で、比較的リスクが低いものはどれか
- いつまでに何をしておくと安心か
といった点を一緒に整理していくイメージです。
弁理士には法律上の守秘義務がありますので、
- まだ社内でも限られた人しか知らないリブランディングの話
- 将来の新規事業の構想や、M&A・事業譲渡の検討状況
といった情報も含めて、前提を共有していただけます。
早めに背景を共有していただくほど、無駄なやり直しを減らした進め方を取りやすくなる、というのが実感です。
次の一歩
ここまで見てきたとおり、社名変更やリブランディングに伴う商標の問題は、
「気づくタイミング」によって負担の大きさが変わってきます。
最後に、実務で取り組みやすい「次の一歩」を2つご紹介します。
1. 社名変更・リブランディングに関する個別相談(30分・オンライン)
次のような場面では、一度専門家の視点で整理しておくと安心です。
- これから社名変更・リブランディングを検討したい
- すでに社名候補がいくつかあるが、どこから確認すればよいか迷っている
- 進行中のプロジェクトに、どのタイミングで商標の確認を挟めばよいか相談したい
オンラインで現状とお悩みを伺い、
- どの順番で・どの範囲まで商標を確認しておくとよいか
- いつまでに何をしておくべきか
を一緒に整理していきます。
社名変更・リブランディングに関するオンライン相談(30分)は、オンライン相談(ご予約フォーム) からご予約いただけます。
2. ブランドの価値を数字で整理する簡易RFR(商標権の簡易価値評価)
社名やブランドをどう扱うかを考える際には、
- その商標・ブランドが、事業にどのくらいの価値を持っているのか
- 事業譲渡やグループ内移転の際に、どのあたりの価格帯で考えるべきか
といった点を数字で把握しておきたい場面もあります。
当事務所では、ロイヤルティ免除法(RFR法)をベースに、
商標権の価値を簡易に整理するサービス(簡易RFRレポート)を提供しています。
サービスの概要は、
商標価値の簡易評価サービス(簡易RFRレポート) でご案内しています。
よくあるご質問
Q1. 既に新社名で登記をしてしまいました。今からでも対応できますか?
A. 対応は可能です。
まず、新社名と既存商標との関係を整理し、
- 表記や読み方の似ている度合い
- 事業内容の近さ
- 実際の使用状況
を踏まえて、どの程度のリスクがあるかを確認します。
そのうえで、案件ごとの状況に応じて、例えば次のような選択肢を比較検討していきます。
- 現行の社名をどの範囲で使い続けるか
- 指定する商品・サービスの範囲などを工夫することで、商標出願を行える余地があるか
- どのタイミングで別の名前に切り替えるか
- 既に制作済みのロゴやサイトをどう扱うか
といった選択肢のメリット・デメリットを整理し、現実的な落としどころを一緒に検討していくイメージです。
Q2. 弁理士に相談すると、ネーミングにかかる時間は短くなりますか?
A. 案件ごとに異なりますが、採用できない名前に時間をかけずに済むという意味で、実務上は短くなることが多いです。
- 将来的にトラブルになりそうな候補を、早い段階で外せる
- 将来の事業展開も踏まえて、現実的な候補に絞り込める
結果として、社内で同じ候補について何度も議論する回数を減らすことができます。
Q3. まだ名前が固まっていない段階でも相談してよいですか?
A. 問題ありません。
むしろ、「候補がいくつか出てきたが、まだ確定していない」という段階でご相談いただくケースが多いです。
この段階であれば、
- 候補の方向性を大きく変えることもできる
- 商標の観点から見て避けた方がよいパターンを、早めに把握できる
といったメリットがあり、後のやり直しを減らしやすくなります。
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この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)














