商標登録の「その後」ガイド|更新・指定商品追加・使用管理・監視の基本

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「商標登録までは弁理士と一緒に進めたけれど、その後は正直よく分からない」「更新や監視をちゃんとやれているのか不安」──そんな心配があるかもしれません。

商標は「登録したら終わり」ではなく、「登録してからどう運用するか」で守りやすさが大きく変わります。更新の管理や指定商品・指定役務の見直し、実際の使い方のルールづくり、他社の模倣チェックなど、地味ですが大切な「アフターケア」がいくつかあります。

この記事では、商標登録をしたあとの基本的な運用(更新・指定商品/指定役務の追加・使用状況の管理・監視など)を、できるだけ実務寄りに整理します。
「とりあえず取ったけれど、その後はノープラン」という状態から、「最低限ここだけは押さえておきたい」という運用の型をつくるイメージで読んでいただければと思います。

1. 商標登録はゴールではなく「スタートライン」

まず押さえておきたいのは、商標登録は事業の看板となるブランドを守るうえでの大きな一歩ではあるものの、それだけで安心してよいゴールではなく、その後の運用や管理とセットで考える必要があるという点です。

商標登録をすると、出願時に指定した商品・サービスについて、登録したブランド名やロゴ(商標)を自社だけが使える権利(商標権)が与えられます。

一方で、登録後の運用しだいでは、次のような問題も起こりえます。

  • きちんと使っていないと、不使用取消審判の対象となり、権利が取り消されてしまうリスクがある
  • 登録したまま見直しをせずに放置していると、事業の中身と、権利でカバーしている商品・サービスの範囲がズレてしまうことがある

つまり、重要なのは「登録したかどうか」だけではなく、
「今の事業内容と商標の権利範囲が合っているか」「登録した商標をきちんと使えているか」を定期的に点検することです。この見直しこそが、商標のアフターケアの出発点になります。

2. 更新管理:期限を落とさないための基本

商標権には有効期限があり、一定期間ごとに更新の手続が必要です(日本では登録から10年ごと)。ここを落としてしまうと、せっかくの権利が失効してしまいます。

  • 更新期限:登録から10年ごと(更新を繰り返すことで、半永久的に維持可能)
  • 受付期間:有効期間満了の6か月前から満了日までが通常の更新期間(満了日を過ぎても、さらに6か月間は割増料金で更新が可能)
  • うっかり失効:有効期限と、その後6か月の猶予期間も過ぎてしまうと、商標権は消滅し、元に戻すことはできない(新たに出願し直す必要がある)

実務的には、次のような運用が現実的です。

  • 登録証を受け取ったタイミングで、社内カレンダーなどに「更新予定年」を入れておく
  • 事業の重要度が高い商標については、2〜3年前から「更新するか、整理するか」の検討を始める
  • 更新するか迷う商標は、売上や今後の展開とセットで見直す

登録したときのファイル一式(出願時の指定商品・サービス、登録番号、登録日など)は、更新検討のたびにすぐ取り出せるようにしておくのがおすすめです。

3. 指定商品・指定役務の見直しと「追加」の考え方

商標登録後に事業の中身が変わり、「当初は想定していなかった商品・サービスにブランドを広げたい」という場面も出てきます。

このとき注意したいのは、既に登録されている商標に「あとから指定商品や指定役務を追加する」ということはできないという点です。新しい分野に広げる場合は、次のような整理になります。

  • 同じブランド名で新分野に広げる:
    → 新しい商品・サービスについて別途商標出願を行うことを検討
  • 商標登録の指定商品・指定役務が現在の事業とズレてきた:
    → 更新のタイミングで、本当に必要な商標だけを残す/不要なものは更新を見送るという整理も選択肢

区分の考え方や、どこまでを同じ商標でカバーするかといった判断は、
商標の区分をどう考えるか|45のジャンルと優先順位の決め方ガイドとも関連します。
「将来的にこの事業はどこまで広がりうるか」をイメージしながら、出願時だけでなく登録後もときどき見直すのが現実的です。

4. 実際の「使い方」をそろえる:ロゴ・表記・ガイドライン

商標は、登録された「標章」(文字・ロゴなど)を、指定された商品・サービスについて使うことで力を発揮します。ところが、現場での使い方がバラバラだと、いざというときに権利主張しにくくなることもあります。

  • ロゴを大きく変えすぎていないか?
    文字の並びやデザインが大きく変わると、登録商標と別物と評価されるリスクがあります。
  • 表記ゆれが激しくなっていないか?
    カタカナ/英語/略称などが混在すると、どの形が「基本の商標」なのか分かりにくくなることがあります。
  • ®や™マークの扱いはどうするか?
    登録状況ごとに、「登録商標には®を付ける」「出願中のものには™を付ける」「まだ何もしていない名前にはマークを付けない」といったルールを決めておくと、ユーザーや取引先にも状況が伝わりやすくなり、社内でも表記のばらつきや誤解を防ぎやすくなります。

すべてを厳密に管理するのが難しい場合でも、「公式なロゴ」と「基本表記」を1,2パターン決めて社内で共有しておくだけでも、日々の使い方のブレはかなり抑えられます。

5. 使用状況の記録:いざというときの「証拠」を残す

商標登録は、一定期間まったく使っていないと「不使用取消審判」で取り消されるリスクがあります。
また、他社との交渉やトラブル対応の場面でも、いつからどのように使っているかを示せるかどうかが重要になります。

そこで、次のようなものを定期的に保管しておくと安心です。

  • 商標を表示したパンフレット・チラシ・カタログ(発行日が分かるもの)
  • 商標を表示したパッケージ・ラベル・タグの写真
  • 商標を表示したWebサイト・ECページのスクリーンショット(日付入り)
  • 商標を使った請求書・納品書などの取引書類

完璧を目指す必要はありませんが、「年に1回は、代表的な使用例をまとめてフォルダに入れておく」といった簡単なルールを決めておくと、将来の証拠として役立ちます。

6. 他社の使用をどう監視するか:やりすぎず、放置もしない

せっかく商標登録をしても、他社が似た名前を自由に使い続けてしまうと、お客さんから見て「どの会社の商品・サービスなのか分かりにくくなり」、ブランドとしての独自性や信頼感が弱まってしまうことがあります。ただ、すべての場面を完璧にチェックするのは現実的ではありません。

現実的なラインとして、次のようなものを「ときどき見る」くらいから始めるのがおすすめです。

  • 自社ブランド名での検索エンジンの検索結果(同業他社の類似名が出ていないか)
  • 主要なECモールやアプリストアでの検索結果
  • 気になる分野についての商標公報(新しい出願)の簡易チェック

気になる出願や他社の使い方を見つけたときは、いきなり対立的な対応を取るのではなく、「自社の権利範囲と本当にぶつかるのか」「どういう選択肢があるか」を整理したうえで、対応の優先度を決めていくイメージです。

7. 社内での役割分担と「見直しタイミング」を決めておく

商標のアフターケアは、一人の担当者の頭の中だけに入れておくと、退職や異動で途切れてしまうことがあります。最低限、次の2つだけは決めておくと安心です。

  • 「商標の窓口」を誰にするか
    法務・知財担当がいない会社でも、管理部門や経営者の中で一人「商標ファイルの管理者」を決めておく。
  • いつ見直すか
    毎年一度、主要な商標について「使い方」と「今後の事業」とのズレを確認する
    新規事業・新ブランドの企画が出たときは、必ず商標の観点もセットで検討する

出願前の準備資料の整理については、
出願前の準備資料チェックリスト(名前・ロゴ・商標編)もあわせて確認しておくと、「取る前」「取った後」の両方で迷いにくくなります。

8. よくある質問

Q1. 更新をうっかり忘れてしまった場合、あとから取り戻せますか?

商標権の更新は「有効期間満了日の6か月前〜満了日まで」が通常の更新期間で、満了日を過ぎてもさらに6か月間は、割増料金を支払えば更新することができます。

この猶予期間内に手続をすれば、商標権をそのまま維持できますが、満了日と猶予期間の両方を過ぎてしまうと、その商標権は消滅し、登録を元に戻すことはできません。あらためて商標出願を行うこと自体はできますが、すでに他社が同じ分野で似た商標を出願・登録していると、同じ名前では商標登録が認められない場合もあります。

重要なブランドについては、早めに更新方針を決め、期限管理を徹底しておくことが大切です。

Q2. ロゴを少し変えたのですが、商標も取り直した方がよいでしょうか?

どこまで変わると「別の商標」と評価されるかは、ケースによって異なります。
一般的には、文字の並びや読み方が同じで、全体の印象もほぼ変わらない程度のマイナーチェンジであれば、従来の登録商標をベースに主張できることもあります。一方で、ロゴの構成やデザインが大きく変わる場合には、その新しいロゴで改めて商標出願することも視野に入れておく必要があります。

判断が難しい場合は、出願前の準備資料チェックリストで現状を整理したうえで、弁理士に相談いただくのがおすすめです。

Q3. 登録後に事業内容が広がりました。指定商品・指定役務を増やしたいのですが?

既に登録されている商標に、あとから指定商品・指定役務を追加することはできません。
新しい分野をきちんとカバーしたい場合は、同じブランド名で新たに商標出願を行うことを検討する形になります。どの区分・どの指定商品・指定役務が適切かは、区分の考え方ガイドも参考にしながら整理していくとスムーズです。

Q4. 他社の類似ブランドをどの程度までチェックしておくべきでしょうか?

すべてを完全に監視するのは現実的ではありません。
まずは、自社ブランド名での検索結果・主要なECモール/アプリストアでの検索結果を、ときどき確認するところから始めるのがおすすめです。気になる事例を見つけた場合は、感情的に反応する前に、本当に自社の権利とぶつかっているのか・どんな選択肢があるかを落ち着いて整理することが大切です。

9. まとめ:「取ったあとどうするか」を最初から決めておく

商標の運用(アフターケア)は、派手さはありませんが、ブランドを長く使っていくうえで欠かせない下支えです。

  • 商標登録はゴールではなくスタートラインと考える
  • 更新期限をカレンダーに入れ、更新するかどうかを事業とセットで見直す
  • 新しい分野に広げるときは、指定商品・サービスの範囲を意識して追加出願を検討する
  • ロゴ・表記・使用実績をある程度そろえて記録しておく
  • 他社の使用状況は、やりすぎない範囲で「ときどき」チェックする
  • 社内で「商標の窓口」と「見直しタイミング」を決めておく

「商標を取るかどうか」の考え方については、
商標をあえて取らない?「取らないリスク」と後追い出願の考え方もあわせて読んでいただくと、取る前・取った後の全体像が整理しやすくなると思います。

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「取る前」と「取った後」の両方を整理しておくと、商標まわりで迷いにくくなります。

次の一歩

ここまで読んでみて、「うちの商標、ちゃんと運用できているのか不安だな…」と感じた場合は、いきなり全部を完璧にしようとしなくても大丈夫です。まずは次のどれか1つから始めてみるのがおすすめです。

  • 登録商標の一覧をつくる
    登録番号・商標名・区分・指定商品・登録日・更新予定年を、シンプルな表にまとめておきましょう。
  • 「看板レベルの商標」だけでも更新・運用をチェックする
    会社名やメインブランドについて、
    ・更新期限
    ・実際の使い方(ロゴ・表記)
    ・最近の使用実績(パンフレット・Webなど)
    をざっくり棚卸ししてみるだけでも、リスクの見え方が変わります。
  • 新規事業やリブランディングのタイミングを「見直しの合図」にする
    新しいブランドやサービスを立ち上げるときは、既存の登録商標との関係も含めて、
    「取る前」と「取った後」の運用をセットで見直すタイミングにするのが効率的です。

こうした簡単な棚卸しを一度やっておくと、
「どのブランドから優先的に守るべきか」「どのタイミングで専門家に相談すべきか」も判断しやすくなります。

この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

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米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。