商標出願をして拒絶理由通知が届くと、「登録は無理だったのか」と考えてしまう方もいるかもしれません。しかし、拒絶理由通知は審査の終了ではなく、書類を修正したり、理由を説明したりして再審査を受けられる段階です。実際、適切な対応によって登録に至るケースは少なくありません。
ただし、拒絶理由の内容によって対応方法は異なります。区分の指定ミスや商品・役務の記載不備は補正書で修正できます。類似商標の指摘に対しては、意見書で商標の構成や称呼・観念の違いを具体的に説明することで非類似と主張できる場合があります。形式的な不備であれば、審査官の指摘に沿って補正することで登録に至るケースがほとんどです。
当事務所でも、自社サービス「メモリープリント」の商標出願において、事業の方向性が固まる前にあえて広範囲の区分で出願し、拒絶理由通知を受けることを想定した出願を行いました。出願から拒絶理由通知が届くまでの数ヶ月間で実際にサービスを運営し、「どの区分が本当に必要か」「どのサービス領域に注力するか」を見極めた上で、拒絶理由通知後に不要な区分を補正で削除するという戦略です。これにより、無駄な更新料を抑えつつ、必要な権利範囲に絞り込んで審査を進めることができています。
本記事では、拒絶理由通知の主な類型とそれぞれの対応方法、プロに相談する前に整理しておくべき情報、そして対応期限や手続きの流れについて、実例を交えて解説します。
拒絶理由通知とは何か──審査官からの「修正・説明の機会」
拒絶理由通知の正しい理解
拒絶理由通知を受け取ると、「もうダメだ」と思ってしまう方もいるかもしれませんが、これは大きな誤解です。
拒絶理由通知とは、特許庁の審査官から出される「このままでは登録できないので、修正または説明をしてください」という通知です。審査が終わったわけではなく、まだ対応できる段階です。
拒絶査定(審査官が最終的に「登録できない」と判断した状態)とは明確に異なります。拒絶理由通知の段階では、まだ審査が続いており、補正書や意見書で対応すれば登録できる可能性は十分にあります。
適切な対応で登録に至るケースもある
拒絶理由通知を受けた出願のうち、適切な対応によって登録に至るケースは決して少なくありません。特に、以下のような理由での拒絶は、対応次第で十分に突破できます。
- 指定した区分や商品・役務の記載に不備がある
- 類似商標との違いを説明できる余地がある
- 「ありふれた名称」「商品の説明にすぎない」と指摘されたが、意見書で反論できる余地がある
拒絶理由通知が来たからといって、「もう登録できない」わけではなく、修正・説明のチャンスと捉えると良いでしょう。
拒絶理由通知は「事業と権利のすり合わせ期間」として使える
実例:弊所の商標出願「メモリープリント」における拒絶理由通知の戦略的な活用
私自身、弊所が提供するアイデアの試作などを3Dプリンターで行うサービスの名称として、「メモリープリント」の商標を出願した際、意図的に拒絶理由通知が来るような出願をしました。
当時(2025年8月出願時)、提供するサービスの事業モデルがまだ流動的で、「3Dプリンターを使ってどこまでサービス領域を広げるか」が完全には固まっていませんでした。そこで、第20類(家具・装飾品)・第40類(3Dプリント加工)・第41類(教育・研修)・第42類(設計・3Dデータ作成)の4区分で出願し、商標法3条1項柱書(使用の意思)での拒絶理由通知を意図的に受けるように書類を作成して出願をしました。
出願から拒絶理由通知が届くまでの約5ヶ月間で実際にサービスを運営し、その結果、2026年1月に拒絶理由通知が届いた時点で「第41類(教育・研修サービス)は当面使わない」と判断。同月、補正書でその区分を削除し、現在は第20類・第40類・第42類を軸に審査が進んでいます。
これは、「拒絶理由通知を、事業の方向性を見極める猶予期間として戦略的に使った」一例です。出願から拒絶理由通知までの約5ヶ月間で、実際にサービスを運営し、「本当に必要な区分」を見極めることができました。
なぜこの手法が有効なのか
新規事業やスタートアップでは「事業の最終形」が見えない
新規事業やスタートアップでは、以下のような理由で、出願時点では事業の最終形を確定しにくい状況があります。
- リリース直前まで仕様が変わる
- マネタイズポイント(モノを売るのか、SaaSなのか)が揺れ動く
- でも商標は早く押さえないと他社に取られる
このように、「事業が固まるまで待つ」と商標を他社に取られるリスクがあり、かといって「確定していない状態で狭く出願する」と後から区分を追加できません。この矛盾を解決する方法の一つが、「広めに出願しておき、拒絶理由通知の段階で絞り込む」という考え方です。
拒絶理由通知は「やり直しのチャンス」
拒絶理由通知が来るまでの期間を、事業の方向性を見極める時間として活用できます。
- 出願から拒絶理由通知までの数ヶ月〜1年の間に、事業の輪郭が見えてくる
- その時点で「本当に必要な区分」だけに絞り込めば、無駄な維持費(更新料は10年ごとに区分あたり数万円)も抑えられる
- 事業の柔軟性を確保しながら、権利も早期に押さえられる
この手法により、スタートアップ特有の「事業が流動的」という状況と、「商標は早く押さえる必要がある」という要請を両立できます。
この手法を使う際の注意点
この手法には、以下のような点に注意が必要です。
- 拒絶理由通知が来ると、補正書や意見書を作成して提出する必要があり、手続きに時間と手間がかかる
- 弁理士に依頼する場合は、補正書・意見書の作成費用が追加で発生する
- 補正の内容や対応を誤ると、拒絶査定になるリスクもある
「事業が流動的な段階で、どうしても早く出願したい」という状況では、こうした選択肢もあることを知っておくと良いでしょう。リスクを理解した上で、必要に応じて専門家に相談しながら判断してください。
よくある拒絶理由と対応策
拒絶理由通知には、いくつかの典型的なパターンがあります。それぞれの対応方法を見ていきましょう。
1. 商品・役務の記載に関する不備
よくあるパターン
- 「商品・役務の表現が抽象的すぎる」(例:「IT関連サービス」)
- 「指定した商品・役務が、選んだ区分に該当しない」
- 「使用する予定のない商品・役務まで広く指定したため、使用の意思を疑われた」
対応方法
補正書で商品・役務の表現を具体化したり、不要な部分を削除したりできます。
2. 類似商標の存在(商標法4条1項11号)
よくあるパターン
- 「似た商標が既に登録されている」と指摘された
対応方法
意見書で商標の非類似性を主張します。審査官は「外観・称呼・観念」の3要素で類似判断を行うため、この3要素のうち1つでも明確に異なることを説明できれば、突破できる可能性があります。
具体的には:
- 外観の違い:文字の構成、デザイン、全体的な印象の相違を説明
- 称呼の違い:読み方が異なる、音数が異なるなどを主張
- 観念の違い:意味内容が全く異なることを説明
- 指定商品・役務の違い:先行商標と異なる商品・役務であることを明確化
拒絶理由通知の段階なら、意見書で違いを説明できる余地があるならば十分に勝負できるので、諦めずに主張すべきです。
3. 記述的商標・普通名称(商標法3条1項3号・6号)
よくあるパターン
- 「商品の品質や内容を表す言葉だから登録できない」と言われた
- 例:「プレミアム〇〇」「高級△△」「スピード〇〇」など
対応方法
記述的・説明的と指摘された場合、以下のような対応が考えられます。
1. 意見書で「記述的ではない」と反論する
審査官は「この商標は商品の品質・内容を説明しているだけ」と判断していますが、意見書で以下のような点を主張することで、「いや、これは単なる説明ではなく、独自の名称だ」と反論できる可能性があります。
- 既存の言葉の組み合わせ方が独特である
- 一般的な意味とは異なる使い方をしている
- 業界では使われていない新しい表現である
ただし、この反論が認められるかは、商標の内容などによって大きく異なります。判断が難しい場合は、専門家に相談することをお勧めします。
2. 指定商品・役務を限定する
記述的と指摘された商品・役務を削除・限定することで、拒絶理由を回避できる場合もあります。
3. 使用による識別力(3条2項)を主張する
これは非常にハードルが高く、長年の使用実績、多額の広告宣伝費、メディア掲載実績など、市場で広く認知されていることを証明する必要があります。そのため、このような主張は現実的ではないケースが大半です。
4. その他の拒絶理由
- 商品・役務の記載が不明確、または区分と合っていない(6条1項・2項)
- 使用の意思が疑われる(3条1項柱書)
これらは補正書で比較的簡単に修正できるケースがほとんどです。
形式的な不備での拒絶理由通知は、特許庁からの「修正してください」というメッセージです。指示に従って補正すれば、登録できる可能性は十分にあります。
「自分で対応」vs「プロに依頼」の判断基準
拒絶理由通知への対応は、内容によって「自分でできるもの」と「プロに任せるべきもの」に分かれます。
| 状況 | 自分で対応できる可能性 | プロに依頼すべき理由 |
|---|---|---|
| 区分の追加・修正のみ | △(手続き自体は可能) | ◎(最適な区分選定には専門知識が必要) |
| 類似商標の指摘(4条1項11号) | △(意見書の論理構成が難しい) | ◎(判例・審査基準の知識が必須) |
| 識別力なし(3条1項3号) | ×(記述的か否かの判断・主張が高度) | ◎(判例・審査基準の知識が必須) |
| 形式的な補正のみ | ◯(特許庁の指示に従えばOK) | △(念のため相談推奨) |
費用対効果を考える
特に、意見書で主張が必要な場合や、類似商標との違いを論理的に説明する必要がある場合は、専門家の力を借りた方が確実です。逆に、単純な形式不備の補正であれば、特許庁の指示に従って自分で対応することも可能です。
プロに相談する前に「整理しておくと良いこと」
弁理士への相談をより有効にするため、以下の情報を事前に整理しておくとスムーズです。
📋 準備チェックリスト
- 出願番号(願番)(商願20XX-XXXXXX)
- 実際に提供している商品・サービスの内容(Webサイト、パンフレット、写真など)
- 今後の事業展開の予定(どの商品・サービスに力を入れるか)
- ネーミングの由来や込めた想い(造語性や独自性の説明に役立つ)
- この商標で守りたいビジネスを一言でまとめたメモ
出願番号さえあれば、弁理士側で出願内容や拒絶理由通知の内容を確認できます。
「実際に提供している商品・サービス」と「今後の事業展開」を整理しておくことで、出願時に指定した商品・役務が本当に必要かを確認でき、無駄な区分を削除したり、不足している区分を追加したりする判断がしやすくなります。
また、ネーミングの由来(なぜその名前にしたのか、どんな想いを込めたのか)を説明できると、「単なる説明的な言葉ではなく、独自の名称である」という主張の助けになることがあります。
よくある質問
Q. 拒絶理由通知への応答期限はどれくらい?
A. 通常、通知発送日から40日以内(在外者は3か月)です。期限を過ぎると出願が却下されるため、早めの対応が必要です。ただし、期間延長請求(有料:2,100円)も可能なので、時間が足りない場合は手続きを検討しましょう。
Q. 補正書や意見書は何度でも出せる?
A. 応答期限内(40日以内)であれば、補正書や意見書を出し直すことは可能です。ただし、通常は一度の提出で対応するケースがほとんどです。応答期限内に補正書や意見書を提出しなかった場合、出願が取り下げられたものとみなされるため注意が必要です。
Q. 意見書で認められなかったらどうなる?
A. 意見書が認められず拒絶査定になった場合でも、まだ拒絶査定不服審判という手段があります。ただし、審判は時間も費用もかかるため(印紙代:55,000円〜、弁理士費用:別途)、できれば意見書の段階で突破したいところです。
Q. 拒絶理由通知が来たら、もう登録は無理ですか?
A. いいえ、そんなことはありません。繰り返しになりますが、拒絶理由通知は「修正のチャンス」です。適切な対応をすれば、多くのケースで登録に至ります。特に、区分の修正や形式的な補正で解決できるケースでは、諦める必要は全くありません。
まとめ:拒絶理由通知は「改善のチャンス」
拒絶理由通知が届いても、まだ諦める段階ではありません。
- 区分ミスや形式的な不備なら、補正で十分に対応可能
- 類似商標や識別力の問題も、適切な主張で突破できるケースも少なくありません
- 「自分で何とかしよう」とする姿勢は素晴らしいが、専門家に任せるべき部分は任せるのも1つの方法です
拒絶理由通知は「失敗の通知」ではなく、「もう一度チャンスをもらえた」と捉えることもできます。
拒絶理由通知への対応は、スピードが命
拒絶理由通知が届いて「どうすればいいか分からない」とお困りの方へ。
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この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)











