事業やブランドの譲渡、商標権の移転、中小企業の事業承継、あるいは税務調査や金融機関との面談の場面では、「この商標・ブランドをいくらの価値として扱うのか」という問いが発生したりもします。こうした場面では、商標権をどの程度の金額に据えるのかが、交渉や社内判断の出発点になります。譲渡価格や取引条件の妥当性を検討するための指標としても、合理的な算出根拠をもった「商標権の価値評価」が必要になります。
このとき有効となる代表的な手法が、ロイヤルティ免除法(Relief from Royalty:RFR法)です。RFR法は、「もしその商標を他社からライセンスしていたと仮定すると、本来支払うべきロイヤルティがいくらになるか」という視点からブランド価値の価格帯を金銭的に整理する手法であり、中小〜中堅企業における事業判断の材料として用いられることもあります。
当事務所では、RFR法をベースとした簡易RFRによる商標権の価値評価を、短期間・比較的低コストで実施できるようにしています。本記事は、RFR法の計算方法などの解説ではなく、「なぜ簡易RFR評価が税務・金融機関対応や社内稟議などの事業判断の根拠となり得るのか」という論理的理由と、簡易RFRによる商標権の価値評価を事業判断の根拠にする方法(考え方と進め方)に特化して解説します。RFR法の基礎理論や具体的な計算方法などを確認したい方は、以下の総合ガイドもあわせてご覧ください。
簡易RFR法が「事業判断の材料」として有効な3つの理由
客観的な第三者の視点の導入
商標権の譲渡価格や、グループ内でのブランド移転価格を検討する際、当事者同士の感覚だけで金額を決めると、客観性に欠け、社内外に対して合理的な説明がつかなくなります。
簡易RFR評価を前提とした第三者(弁理士)作成の評価書を用いることで、次のような状態が実現されます。
- 「もし他社からライセンスしていたとすれば、どの程度のロイヤルティを支払う水準のブランドか」という共通の仮定が導入される
- その仮定に基づき、「この価格帯の金額が合理的である」という客観的な目安が共有される
- 金額を決めた根拠が、個人の主観ではなく客観的な算定基準に紐づいて記録される
これにより、
- 商標権の譲渡交渉
- グループ内再編におけるブランド移転
- 金融機関との対話におけるブランド価値の説明
といった場面で、交渉のたたき台となる価格と、その論拠を同時に提示できるようになります。
金融機関や銀行向けの活用イメージについては、次のガイドも参考となります。
収益貢献度の金額ベースでの可視化
RFR法は、商標権の価値を「ロイヤルティ免除による経済的利益」として定義する手法です。
そのブランドを他社からライセンスして使用していたと仮定した場合、通常支払うことになるロイヤルティ(売上の◯%)が免除されている。この免除部分がブランドの経済的価値である、と整理します。
この考え方を取るため、ブランドが事業収益にどの程度貢献しているかを金額ベースで整理することが可能となります。
本記事では計算式の詳細には踏み込みませんが、実務上は、
- 対象ブランドに紐づく売上・粗利
- 想定されるロイヤルティ率(相当実施料率)
- ブランドが収益に貢献すると見込まれる期間
などを前提として、将来のロイヤルティ相当額を現在価値に換算する流れを取ります。詳しい手順やロイヤルティ率の検討プロセスは、以下の記事に整理しています。
重要なのは、この枠組みを取ることで、「ブランドが事業にどの程度の金額的インパクトを持っているか」を分解して確認できるようになる点です。RFR評価を行う過程では、次のような整理が避けて通れません。
- ブランドが実際に寄与している売上と、そうでない売上の切り分け
- 広告やブランディングへの投資が、ブランド価値にどう反映されているかの把握
- 複数ブランドがある場合の、それぞれのブランド価値の把握
その結果として、「どの売上がブランドに依存しているのか」「どのブランドにどの程度の投資・重心を置くべきか」を検討するための基盤データとして機能します。
税務・説明責任に耐える金額の根拠づけ
グループ内での商標権移転や、事業再編に伴うブランドの付け替えでは、税務上の「時価」が問われる場面があります。
このとき、商標権の移転金額に合理的な根拠がない場合、
- 税務調査で、価格の妥当性について説明を求められるリスク
- 金額の前提や算定方法について、社内の管理部門・顧問税理士などから確認を受けるリスク
- 後から金額の是非を検証する際に、判断プロセスを再現しにくくなるリスク
が生じやすくなります。
簡易RFR評価に基づく評価書には、少なくとも次の要素が整理されます。
- 使用した売上・粗利・広告費などの基礎データ
- 採用したロイヤルティ率や割引率などの主要な前提条件
- その前提条件を採用した理由(妥当性の根拠)
- これらの前提に基づき導出された価格帯と、その計算プロセス
評価が簡易であっても、「どのような前提を置けば、この価格帯の金額となるのか」を第三者に示せる状態が確保されていれば、税務調査や社内のチェックに対応しやすくなります。
- 「時価の算定方法が不明なまま決裁された金額」ではなく
- 「RFR法に基づき、一定の前提をおいたうえで導出されたレンジの中から決定された金額」
として、理由を説明しやすい価格設定を行うことが可能になります。
簡易評価(RFR)と本格評価(DCF)の違いと使い分け
評価の対象と目的の違い
企業全体の価値を評価する本格的な手法としては、将来のキャッシュフローを割り引いて算定するDCF(Discounted Cash Flow)法などがあります。簡易RFR評価と、このようなDCF法による企業価値評価とでは、評価の対象と目的が異なります。
簡易RFR評価の対象(当事務所の提供範囲)
- 対象:主として国内の特定商標権(またはブランド単位)
- 目的:譲渡交渉・グループ内移転・税務・金融機関説明などにおける、
価格帯の目安と根拠を短期間で提示すること - 成果物:数ページ〜十数ページ程度の評価書(簡易レポート)
本格的なDCF評価の対象(他専門家の領域)
- 対象:企業全体の価値(株式価値、のれんを含む)
- 目的:企業買収・上場・大規模な組織再編などにおける総合的な企業価値評価
- 成果物:詳細な事業計画・市場分析を前提としたボリュームの大きい評価レポート
簡易RFR評価は、企業全体の評価や株式価値の評価を行うものではなく、弁理士として取り扱う「商標権そのもの」の価値を、意思決定に使える水準で素早く整理することに特化したツールです。
そのため、
- 大規模M&Aの最終的な企業価値の決定
- 上場準備における包括的な企業価値評価
などは、公認会計士・税理士等による本格評価の領域となります。一方で、商標権単体の価値感を掴んでおきたい場合や、ブランド単位での譲渡価格・移転価格の目安を把握したい場合には、簡易RFR評価が適合します。
簡易評価でも妥当性を高めるための設計
簡易評価であっても、工夫次第で実務で利用可能な妥当性を確保することが可能です。当事務所では、次の観点を重視して評価を行っています。
1. データの細かさと期間の確認
- 最低限、直近数か月〜数期分の売上・粗利の情報があれば評価を開始できますが、可能であれば月次・ブランド別の売上・粗利・広告費まで確認します。
- 直近数年間(例:3〜5年)の推移が分かる場合には、一時的なキャンペーンの影響と、恒常的な収益基盤を切り分けやすくなります。
- ブランド別の管理が難しい場合でも、現実的な配賦方法(売上比率・粗利比率など)を一緒に検討します。
2. パラメータ設定の透明性
- ロイヤルティ率(相当実施料率)、割引率、ブランドの想定存続期間など、価値に大きな影響を与える前提条件を明示する
- 参考としたライセンス事例、業界慣行、類似案件の判例・実務水準などを踏まえ、「なぜその数値としたのか」を説明できる状態にする
ロイヤルティ率の検討プロセスそのものについては、次の記事に詳しく整理しています。
3. 前提を少し動かしたときの「幅」を確認する(感度分析)
簡易評価では、「1つの固定された数字」だけを見るのではなく、前提条件を少し変えたときに、価値の数字がどの程度動くかを確認することが重要です。専門的には、こうした確認を「感度分析(シナリオ分析)」と呼びます。
具体的には、次のような前提を動かしてみます。
- ロイヤルティ率を±1%動かしたときに、価値がどの程度変化するか
- 成長イメージを「やや保守的」「標準」「やや強気」とした場合の価値の幅
- 将来の売上や利益を「今の価値」にどの程度割り引いて考えるかという前提(割引率)を少し変えたときに、現在の価値がどのように変わるか
このように前提を動かしたケースを評価書に含めておくことで、
- 「この前提なら、このくらいの価格帯が妥当である」
- 「金額に影響が大きいのは、どの前提条件か」
といった点を、数字でイメージしやすくなります。
意思決定の場では、「この1つの数字が正しいかどうか」ではなく、「どの前提を採用するのか」を議論できることが重要です。前提ごとの「幅」を共有しておくことで、譲渡交渉や社内稟議の場でも、合意形成を行いやすくなります。
簡易評価であっても、上記のような設計を行うことで、譲渡交渉・稟議・税務対応に耐えうる「実務レベルの妥当性」を確保できます。
商標権の価値評価を検討するときの進め方
評価開始に必要な最小限の情報
簡易RFR評価の開始にあたっては、必ずしも監査済み決算書一式が揃っている必要はありません。「商標権の価値評価」を検討するための最小限の情報は、概ね次のとおりです。
- 対象とするブランド・商標の範囲(ロゴ・文字商標・シリーズ等)
- そのブランドに紐づくおおまかな売上・粗利(直近3〜6か月、または直近数期)
- 広告宣伝費や販促費の規模(把握できている範囲)
- ブランドの概要(いつ頃から使っているか、主な販売チャネル など)
これらがある程度整理されていれば、商標権の価値について、おおよその金額の幅(目安)を検討することができます。月次やブランド別のデータが揃っている場合には、前述のとおり、より妥当な価格帯を検討しやすくなります。より具体的な資料一覧は、以下の記事で整理しています。
守秘義務のもとでの無料相談フロー
商標権の価値評価を行う過程では、次のような経営の核心に関わる情報に触れることもあります。
- 今後のブランドの活用方針(主力として継続するか否かなど)
- 商標権が具体的にどの程度の事業収益に貢献しているか
- 将来的な子会社や取引先へのライセンスなどの計画
これらは秘匿性の高い情報であるため、弁理士の守秘義務のもとで取り扱われ、当事務所では次のような流れで相談を受け付けています。
- 無料オンライン相談(15分)で、目的と前提条件を整理する
- 評価対象とすべき商標・ブランドの範囲を確認する
- 現時点で利用できる数値・資料を洗い出し、どの範囲と前提条件で価値評価を進めるか
- 簡易RFR評価の対象・スケジュール・費用の提示
まずは「評価を行うべきかどうか」を整理する段階から始めることも可能です。
無料で相談する(15分)|簡易RFR評価のご案内
商標の価値を、事業判断に使える数字として整理したい方へ。
- 商標権の譲渡交渉や事業譲渡の準備を進めている
- グループ内でブランドを移転するにあたり、税務リスクを抑えたい
- 金融機関や社内稟議で説明できる「ブランド価値の根拠」を整えたい
といったニーズに対し、当事務所では簡易RFR法に基づく商標価値の簡易評価レポートを提供しています。
まずは無料オンライン相談(15分)で、対象範囲と必要資料を一緒に整理します。
よくあるご質問
Q1. 簡易RFR評価を始めるために必要な最小限の資料は何ですか?
A. 最低限、次の情報があれば、初期の価値レンジを検討することが可能です。
- 対象とする商標・ブランドの範囲(商品・サービス区分やシリーズ名称など)
- そのブランドに紐づくおおまかな売上・粗利(直近3〜6か月、または直近数期)
- 把握できている範囲での広告宣伝費・販促費
- ブランドの立ち上げ時期と、主要な販売チャネル
これらの情報をもとに、当事務所側で利用可能な指標と評価の前提条件を整理します。
詳細な資料一覧は、商標価値評価を依頼する前に準備しておきたい資料一覧 にまとめています。
Q2. 簡易RFR評価と本格評価(DCF)の適用範囲の違いは何ですか?
A. 簡易RFR評価は、特定の商標・ブランド単位の価値を、短期間で意思決定に使える水準まで整理するためのものです。
一方、本格的なDCF評価は、企業全体の株式価値やのれんなどを含めた包括的な企業価値評価を目的とし、詳細な事業計画や市場分析が前提となります。
- ブランド単位での譲渡価格の目安を知りたい場合や、
- グループ内移転・税務・金融機関向けの説明資料を整備したい場合
には簡易RFR評価が適合します。
当事務所が提供しているのは、商標権(ブランド単位)の簡易RFR評価であり、企業全体の本格的なDCF評価そのものは取り扱っていません。大規模な組織再編や上場準備における最終的な企業価値評価には、公認会計士・税理士等による本格評価が必要となる場合があります。
Q3. 資料が十分に揃っていない段階でも相談できますか?
A. 相談可能です。資料が完備されていない段階でも、無料オンライン相談(15分)で、次のような点を一緒に整理します。
- 現時点で入手できている情報
- 追加で準備しておくとよい資料
- どの範囲と前提条件で価値評価を進めるか
これらを踏まえて、現実的な進め方をご提案します。
「そもそも今、価値評価を行うべきかどうか」の検討から始めることも可能ですので、まずはご相談ください。
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商標価値評価をさらに具体的に検討したい方は、以下の記事も参考となります。
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- 商標価値評価を依頼する前に準備しておきたい資料一覧
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この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)















