その商標の「ライセンス契約」、賠償リスクが無限大?|大手との取引で実際にあった落とし穴

その商標の「ライセンス契約」、賠償リスクが無限大?大手との取引で実際にあった落とし穴|知育特許事務所

大手企業から「御社のブランド名を商品に使わせてほしい」と打診されたとき、それは大きなチャンスです。喜びのあまり、提示された商標の「ライセンス契約書(使用許諾契約書)」をよく確認せずに、あるいは「相手は大企業だから」と信用して、そのまま契約を締結したくなるかもしれません。

「自分たちは名前を貸すだけで、製造するのは向こうだからリスクはない」「うちは小さい会社だから、何かあっても裁判沙汰にはならないだろう」と考えるのは危険です。契約書の内容次第では、他社が製造した商品のトラブルであっても、商標を貸した側が責任を負わされ、会社の存続に関わる賠償請求を受けるリスクがあります。

特に、賠償額の上限が設定されていない「損害賠償条項」や商標の完全な安全性を約束させられる「保証条項」には注意が必要です。これらが「引き金」となり、年間数万円〜数十万円のライセンス料に対して、数千万円以上のリスクを背負わされる「不条理な契約」になっているケースも目にしたりもします。

この記事では、大手企業との商標ライセンス契約において見落としてはいけない「2つの落とし穴」とリスクを回避するための「具体的な契約書の修正ポイント」を解説します。

「大手は弱小を訴えない」という思い込み

「うちみたいな小さい会社に大手が本気で訴えてくることはないのでは」

経営者の方から、このような声を聞いたりもします。確かに、大企業が中小企業を相手に、感情的に「訴えてやる!」と裁判を起こすケースは稀かもしれません。

しかし、現実は違います。特に、自社のブランドや知的財産(知財)を大切に扱っている企業ほど、相手の規模が小さかろうと、違反が些細なことであろうと、一切の妥協を許しません。そこには「相手が小さいから手加減しよう」という情けは一切介在しません。

【事例】報酬は「数十万」なのに、賠償は「数億円」?!

ここで、実際にあった「怖い事例」をご紹介します(※特定を避けるため、内容は一般化しています)。

ある地方の中小企業(A社)が、全国展開する大手企業と契約を結びました。内容は、大手の商品にA社のブランド名(商標)を使わせるという、いわゆる「名前貸し」のライセンス契約です。

しかし、その契約条件はあまりに不均衡なものでした。 A社が受け取るライセンス料は年間わずか数十万円(固定)。それにも関わらず、契約書には以下の条件が含まれていました。

  • 「賠償額の上限」が設定されていない
  • 貸し出す商標に「無効理由がないこと」を完全に保証している

ここで問題になるのが、「無効理由がないこと」の完全保証です。一度登録された商標であっても、後からライバル社などに「無効審判」を請求され、権利が取り消されてしまう(無効になる)リスクはゼロではありません。

もし、契約期間中に商標が無効になってしまったらどうなるでしょうか? A社は「無効理由がないことを保証する」という約束を破ったことになり、明確な契約違反となります。

その際、契約に「賠償の上限」がなければ、A社は受け取った「数十万円」とは無関係に、大手企業が被った損害(商品の回収コスト、ブランド変更に伴う費用など)をすべて賠償しなければなりません。その額は、数千万円から億単位にのぼる可能性すらあります。

「貰うのは小銭、払うのは巨額」

契約書をよく確認せずにハンコを押すということは、このような不条理なリスクを自ら認めることと同義になります。

会社を守るために修正すべき「損害賠償」と「保証条項」

では、具体的に契約のどこを見ればいいのでしょうか? 契約書チェックにおいて、中小企業が絶対に見逃してはいけないポイントと、その修正案をお伝えします。

損害賠償条項:上限はあるか?

最も危険なのは、以下のような記述です。

× 危険な例:「甲は、本契約に関連して乙に生じた一切の損害を賠償する」これでは賠償額が上限なしとなってしまいます。相手が大手であればあるほど、損害額は大きくなるので、次のような上限を設ける修正を提案しましょう。

◎ 修正案:「損害賠償の額は、過去1年間に甲が乙より受領したライセンス料相当額を上限とする」このように受け取った利益の範囲内で責任を負う、というのが1つの修正方法となります。

保証条項:完全な保証をしていないか?

次に注意すべきは、商標の有効性に関する保証です。

× 危険な例:「本件商標に無効理由が一切存在しないことを保証する」登録された商標であっても、後から無効審判でひっくり返されて無効になるリスク(無効理由)はゼロではありません。専門家であっても「100%絶対に無効にならない」と言い切ることは不可能です。 そのため、誠実かつ安全な契約にするためには、以下のように修正すべきです。

◎ 修正案:「甲の知る限りにおいて、本件商標に無効理由が存在しないことを保証する」これなら、「現時点で把握している限り問題はありません(が、万が一未知の資料が出てきて無効になったらご容赦ください)」というスタンスを保つことができます。

交渉は「わがまま」ではなく、正しい「リスク管理」

「修正をお願いしたら、面倒がられて契約自体がなくなるかも……」

そう不安に思う気持ちはよく分かります。せっかくのチャンスを逃したくない、と考えるのは経営者として当然です。

しかし、ここで一度冷静に考えてみてください。 賠償の上限を設けることや、保証の範囲を限定することは、ビジネスにおいて決して「わがまま」な要求ではありません。「自社の支払い能力を超えた責任は負えない」という、極めてまっとうなリスク管理の話です。

もし、この程度の常識的な修正提案をしただけで「じゃあ契約は白紙だ」と言ってくるような相手なら、そもそもパートナーとして組むこと自体がリスクだったと言えるかもしれません。

逆に、あまりに一方的で無防備な契約書にすぐハンコを押してしまうと、「契約の中身を理解していない会社」「コンプライアンス意識が低い会社」と見なされ、かえって信用を落とすこともあるかもしれません。

もし、相手に直接言いにくい場合は、専門家を「言い訳」に使うのも1つの方法です。

「私は進めたいのですが、うちの弁理士から『この条項だけは修正しないと承認できない』と強く言われてしまいまして……」

このように「専門家のせい」にしてしまえば、角を立てずに、事務的な確認事項として修正協議に持ち込むこともできたりもします。

よくある質問

Q1. 「大手企業は中小企業を相手に本気で訴えてこない」というのは本当ですか?

A. いいえ、それは危険な誤解です。特にブランドやキャラクターなどの知的財産(知財)を重視している企業は、相手の規模に関わらず、ルール違反に対して非常に厳格です。

Q2. 契約書の「損害賠償」の項目で、一番気をつけるべき言葉はありますか?

A. 「一切の損害を賠償する」という記述に注意してください。この言葉があると、賠償額の上限がなくなり、会社の支払い能力を超える巨額の請求を受けるリスクがあります。「過去1年間に受け取ったライセンス料の総額を上限とする」といった、具体的な金額に上限を設けるよう修正を提案すべきです。

Q3. すでに特許庁で商標登録されているのだから、「無効理由がない」と保証しても大丈夫ですよね?

A. いいえ、絶対ではありません。一度登録された商標であっても、後から第三者に「無効審判」を請求され、登録が取り消されるリスクはゼロではありません。そのため、「絶対に無効理由がない」と保証するのではなく、「自社の知る限りにおいて無効理由はない」という表現に留めるのが安全です。

Q4. 契約書の修正を要望すると、面倒がられて話が破談になりませんか?

A. 正当な理由があれば、破談になることはほとんどありません。賠償額の上限設定などは、ビジネスとして一般的なリスク管理の範疇です。

Q5. 相手の担当者との関係を壊したくないので、自分で言いにくいです。どうすればいいですか?

A. 専門家(弁理士など)を口実に使うのも1つの方法です。「うちの弁理士が『この条項を直さないと承認できない』とうるさくて…」と伝えてみてください。そうすれば、あなたの立場を守りつつ、事務的な確認事項として修正協議に持ち込むことができる場合もあります。

まとめ:契約締結前の「確認」が会社を守ります

契約書は、一度締結してしまえば、そこに記載された内容が判断基準となります。

トラブルが起きてから「内容をよく理解していなかった」「そんなつもりではなかった」と主張しても、法的効力を覆すことは難しい場合があります。

目先の取引成立を急ぐあまり、致命的なリスクを見落としていないか。 会社の資産と未来を守るためにも、契約を締結する前に、いま一度冷静に条項を見直してください。

もし、内容に少しでも不安や不明点がある場合は、契約を結ぶ前に専門家へご相談することをお勧めします。

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次の一歩

「手元のライセンス契約書が不安」「大手から提示された使用料などの条件が適正か知りたい」という場合は、以下からご相談ください。

この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

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米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。