グループ再編にあたり、子会社が使っている商標の名義を親会社からその子会社に移したい。あるいは、事業を集約する会社に商標をまとめたい。グループ内での商標の譲渡は、事業が成長していく中でごく自然に生じるものです。
しかし、必ず問題になるのが「いくらで商標を譲渡すればいいのか?」という価格の話です。「グループ内だし、登録にかかった実費でいいだろう」──そう考える方が多いのですが、実費で問題ないケースと、「時価(適正価格)」が求められるケースがあります。この区別を間違えると、売った側・買った側の双方に追加の法人税がかかるリスクがあります。
この記事では、グループ会社間での商標の譲渡において、「実費でいいのか、時価が必要なのか」を資本関係の違いから判定する方法をわかりやすく解説します。
判定マトリクス:あなたのケースは「実費」?「時価」?
商標の譲渡価格をいくらに設定すべきかは、「誰から誰へ商標を移すか(資本関係)」で決まります。以下の表で、ご自身のケースを確認してください。
| 譲渡パターン | 適正価格の基準 | 根拠となる制度 | リスク |
|---|---|---|---|
| 国内 100%親子間(間接保有を含む完全支配関係) | 会社の帳簿に載っている金額(簿価)でOK | グループ法人税制(法人税法61条の13) | ★☆☆ |
| 国内 100%未満の関連会社間(兄弟会社・50%出資先など) | 時価(適正価格)が必要 | 寄附金課税(法人税法37条) | ★★★ |
| 海外子会社(100%親子を含む) | 時価(適正価格)が必要 | 移転価格税制(租特法66条の4) | ★★★ |
※ 社長個人から自分の法人への譲渡は、グループ会社間の譲渡とはルールが異なります。詳しくは「社長個人の商標を会社に移す時、いくらが正解?「0円・実費」の税務リスクと適正価格の算出ルール」をご確認ください。
100%親子間なら「簿価」でOK ── グループ法人税制とは?
国内で100%の完全支配関係にある法人間(直接の親子だけでなく、親→子→孫のような間接保有も含みます)であれば、商標権を簿価で譲渡しても課税の問題が生じない仕組みが用意されています。これが「グループ法人税制」です。
通常、時価より安く売ると、売った側には「寄附金」(安く売った分=タダであげたとみなされる金額)、買った側には「受贈益」(安く買えた分=タダでもらったとみなされる利益)として、それぞれ追加の法人税がかかります。しかし100%親子間であれば、以下のとおり課税が生じない仕組みになっています。
【簿価(安い価格)で譲渡した場合】
売った側(親会社):差額は「寄附金」に該当しますが、100%親子間であれば全額が課税対象外になります(法人税法37条2項)。
買った側(子会社):差額は「受贈益」に該当しますが、こちらも全額が課税対象外です(法人税法25条の2)。
つまり100%親子間であれば、簿価(会社の帳簿に載っている金額)で譲渡しても、売った側・買った側ともに課税されない仕組みになっています。そのため実務上は、簿価での譲渡が一般的です。
なお、グループ法人税制のもとでの寄附金・受贈益の課税対象外措置については、『Q&A 知的財産権取引の国際課税・国内課税』(手塚崇史著、清文社、2010年)においても、知的財産権の取引に関する基本的な税務上の取扱いとして解説されています。
「簿価」と「実費」はイコールではない ── 注意点
「簿価で譲渡すればいい」とわかると、次に出てくるのが「簿価って、登録にかかった費用(実費)のことでしょ?」という疑問です。実は、簿価と実費は同じとは限りません。
商標権は会計上、「無形固定資産」として扱われ、毎年少しずつ減価償却(価値が減っていく処理)が行われます。そのため、登録してから年数が経つほど、帳簿上の金額(簿価)は実費よりも下がっていきます。
- 取得して間もない商標: 簿価 ≒ 実費(ほぼ同額)
- 長年保有している商標: 簿価 < 実費(減価償却で簿価が下がっている)
グループ法人税制を使う場合の譲渡価格は「簿価」です。そのため、「登録にかかった実費」ではなく、直近の決算書(固定資産台帳)で簿価を確認してください。もし簿価がわからない場合は、顧問の税理士にご確認ください。
100%未満の関連会社間は「時価」が必須 ── 寄附金課税のリスク
資本関係が100%未満の兄弟会社や関連会社間では、グループ法人税制は適用されません。
この場合、商標を時価よりも安い価格で譲渡すると、売った側は差額が「寄附金」として、買った側は差額が「受贈益」として認定され、双方に追加の法人税がかかる(=追徴課税を受ける)リスクがあります。たとえば、時価500万円の商標を実費の10万円で譲渡した場合、差額の490万円に対して、売った側にも買った側にも法人税がかかる可能性があるのです。
「うちは兄弟会社の間だから、グループ内には変わりない」──そう思いたくなりますが、グループ法人税制は「100%の完全支配関係」がなければ適用されません。資本関係が100%でない場合は、第三者との取引と同じように「時価」での取引が必要になります。
こうした「関連会社間であっても独立した第三者間と同様の価格(時価)で取引しなければならない」という原則については、『移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ50(第2版)』(田島宏一ほか編著、中央経済社、2023年)等でも、注意すべき基本ルールとして解説されています。
「時価」が必要なケースでの対応策
時価での商標の取引が求められるケースでは、「その商標をすでにビジネスで使っているか(売上があるか)」によって、価格の算出方法が変わります。
- 売上がない商標: 取得にかかった実費相当額での譲渡が合理的です。費用の明細をまとめ、その金額で譲渡証書を作成してください。
- 売上がある商標: その商標の将来の収益力をもとにした専門的な計算(収益還元法など)による時価の算出が必要です。専門家(弁理士など)による商標の価値評価をご依頼ください。
海外子会社への譲渡は「別ルール」── 100%親子でも時価が必要
注意が必要なのが、海外子会社への譲渡です。国内の100%親子間で認められる「簿価での譲渡」は、海外子会社には適用されません。
海外子会社との取引には「移転価格税制」(親子会社間の取引価格が適正かどうかを税務署がチェックする制度)が適用され、たとえ100%の親子関係であっても「時価(独立企業間価格)」での取引が必須です。しかも、ブランドが成功しているほど商標の時価が高額になり、「譲渡価格が高すぎて商標を譲渡できない」という問題に直面することがあります。
海外子会社への譲渡については、別の選択肢(ライセンス、新ブランド戦略など)も含めて「海外子会社への商標移転、評価額が高すぎて「詰んだ」時の打開策|無理な譲渡を回避するライセンスと新ブランド戦略」で詳しく解説しています。
よくある質問
Q1. 100%子会社ではなく「99%出資」の会社への譲渡です。グループ法人税制は使えますか?
A. 使えません。グループ法人税制の適用には「100%の完全支配関係」が必要です。99%では1%足りず、時価での取引が求められます。まずは資本関係を正確に確認してください。
Q2. 親会社→孫会社への譲渡でも、グループ法人税制は適用されますか?
A. 親→子→孫のいずれも100%の完全支配関係であれば、適用されます。グループ法人税制は直接の親子間だけでなく、間接保有を含む完全支配関係にある法人間に適用されます。ただし、途中に100%未満の法人が挟まると、その先には適用されませんのでご注意ください。
Q3. 簿価がわからない場合、どうすればいいですか?
A. 直近の決算書(固定資産台帳)を確認してください。商標権は「無形固定資産」の項目に記載されています。もし見つからない場合や判断が難しい場合は、顧問の税理士にご確認ください。
まとめ
グループ会社間で商標を譲渡する場合の「適正価格」は、資本関係で決まります。
- 【国内100%親子間(完全支配関係)】 👉 グループ法人税制により、簿価での譲渡が可能です。直近の決算書(固定資産台帳)で簿価を確認してください。
- 【国内100%未満の関連会社間】 👉 時価(適正価格)での取引が必要です。安い価格で譲渡すると、売った側・買った側の双方に追加の法人税がかかるリスクがあります。
- 【海外子会社(100%含む)】 👉 移転価格税制により、時価が必須です。「時価が高すぎて商標を譲渡できない」場合は、ライセンスや新ブランド戦略も検討してください。
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※本記事に関する免責事項:本記事は、商標権の移転登録手続きを日常的に代理する弁理士の立場から、移転時に実務上生じやすい税務上の論点を整理したものです。税務に関する記述は、『Q&A 知的財産権取引の国際課税・国内課税』(手塚崇史著、清文社、2010年)および『移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ50(第2版)』(田島宏一ほか編著、中央経済社、2023年)等の公開文献に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断や税務申告上のアドバイスを行うものではありません。具体的な税務処理については、必ず税理士等の税務の専門家にご相談ください。
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参考文献
- 田島宏一ほか編著『移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ50(第2版)』(中央経済社、2023年)
※ 100%完全支配関係における寄附金の取扱い(P.13)、国外関連者への寄附金の全額損金不算入(P.17)等を参照しています。 - 手塚崇史『Q&A 知的財産権取引の国際課税・国内課税』(清文社、2010年)
※ 寄附金認定等の基本的な法解釈の参考として引用しています。移転価格税制等の最新の運用については税理士等にご確認ください。
この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)












