商標権の移転・譲渡における「適正価格」と税務リスク判定ガイド|グループ間・個人・海外・放棄の全パターン解説

商標権の移転・譲渡における「適正価格」と税務リスク判定ガイド:グループ間・個人・海外・放棄の全パターン解説|弁理士が解説 知育特許事務所

グループ再編、海外展開、法人成り、事業撤退──商標権を誰かに譲渡したり、その名義を変えたりする場面はさまざまです。

しかし、譲渡価格の決め方を間違えると、税務調査で「その価格では認められない」と指摘され、追徴課税を受けるリスクがあります。特に多いのが、「グループ内だからタダ(0円)でいい」「実費でいい」と安易に決めてしまうケースです。

商標の「適正な譲渡価格」をどう考えるかは、「誰から誰へ移すか(資本関係)」と「その商標を使っているかどうか(使用状況)」によって大きく変わります。

この記事は、商標の移転・譲渡に関わる税務リスクの全パターンを一覧で整理した「判定ガイド」です。ご自身のケースに該当する項目をクリックすれば、詳細な解説記事にアクセスできます。

【判定チャート】あなたのケースはどのパターン?

まず、以下の表でご自身の状況に最も近いパターンを確認してください。

パターンあなたの状況適正価格の基準税務リスク詳細記事
Case 1国内グループ会社間で譲渡したい100%親子なら簿価OK/100%未満は時価★☆☆〜★★★詳しく見る
Case 2社長個人の名義から法人に移したい時価(必須)★★★詳しく見る
Case 3海外子会社に譲渡したい時価(必須)★★★詳しく見る
Case 4お金をかけずに移したい(放棄して取り直す)NG(実質贈与と認定されるリスク大)★★★詳しく見る
Case 5使っていない商標を整理・譲渡したい再取得コスト以上★★☆詳しく見る

※「税務リスク」は、適正価格を外して譲渡した場合に、寄附金などで課税される可能性の高さの目安です(★が多いほど高リスク)。

Case 1:国内グループ会社間の譲渡

結論:100%の完全支配関係(間接保有を含む)にある親子会社間であれば、会社の帳簿に載っている金額(簿価)での譲渡が認められるケースが多いです(グループ法人税制の適用)。ただし、資本関係が100%未満の兄弟会社や関連会社間では、「時価(適正価格)」での取引が必要になります。

主なリスク:資本関係が100%未満なのに安い価格で譲渡すると、差額が「寄附金」として認定され、課税対象になります。

なお、グループ法人税制の適用で簿価で譲渡できる場合も、渡す側(商標を渡した会社)の税務には注意点があります。詳しくは下記の記事で解説しています。

👉 詳しい判定基準はこちら:グループ会社間で商標を移転するとき、実費でいいケースと時価での譲渡が必要なケースの判定ガイド

Case 2:社長個人 → 法人への譲渡

結論:「時価」での取引が必須です。たとえ自分の会社であっても、個人と法人は別人格。法律上は「他人との取引」と同じルールが適用されます。

主なリスク:個人と法人の間で利害が対立する「利益相反取引」にあたるため、株主総会議事録や価格の根拠資料がないと、所得税(個人側)と法人税(会社側)の両方で課税される「ダブルパンチ」を受けるリスクがあります。「自分の商標を自分の会社に移すだけ」という感覚が、最も危険です。

👉 詳しくはこちら:社長個人の商標を会社に移す時、いくらが正解?「0円・実費」の税務リスクと適正価格の算出ルール

Case 3:海外子会社への譲渡

結論:100%の親子関係であっても「時価」での取引が必須です(移転価格税制の適用)。国内の100%親子間で認められる簿価での譲渡とは、ルールがまったく異なります。

主なリスク:事業が成功しているブランドほど、商標の時価が高額(数億円〜)になり、「高すぎて譲渡できない」という状態に陥りやすいのが特徴です。正当な時価で売買すれば子会社に巨額の資金が必要になり、安い価格で譲渡すれば、日本側で移転価格税制により、独立企業間価格(第三者と取引した場合に成立する価格)との差額が所得に加算されて課税されます(現地側でも、現地の税制に応じて課税が生じる可能性があります)。こうしたケースでは、「譲渡」にこだわらず、ライセンスや新ブランド戦略という選択肢も検討する必要があります。

👉 打開策の詳細はこちら:海外子会社への商標移転、評価額が高すぎて「詰んだ」時の打開策|無理な譲渡を回避するライセンスと新ブランド戦略

Case 4:「放棄して取り直す」方法

結論:極めてリスクが高い方法です。「商標を放棄して、子会社に新しく取り直させれば、譲渡にならないから高い譲渡価格を払わなくて済む」──このアイデアは、税務署に完全に見透かされています。

主なリスク:形式上は「放棄」と「新規出願」という別々の行為ですが、税務上は「形式ではなく実態」で判断されるのが原則です。価値のある商標を放棄した直後に、グループ内の別法人が同じ商標を取得すれば、「実質的な贈与」とみなされ、寄附金課税の対象になり得ます。

👉 詳しくはこちら:商標を「放棄」して子会社に「再出願」させれば高額な譲渡価格を回避できる?──税務署に「実質的な贈与」と認定されるリスクと回避策

Case 5:使っていない商標の整理

結論:「使っていない=無価値(0円)」とは限りません。他社に使わせないために保有している商標には、「防衛的価値(Defensive Value)」が認められる場合があります。

主なリスク:防衛的価値のある商標を0円で譲渡すると、寄附金として課税されるリスクがあります。適正な価格は、その商標が持つ価値(防衛的価値など)の大きさによって変わり、価値が小さい場合は「再取得コスト(数万円〜十数万円)」が一つの目安になりますが、価値が大きい商標は、その価値に見合った時価での取引が必要です。0円にするなら、「防衛的価値もない」ことを客観的に説明できる準備が必要です。

👉 詳しくはこちら:使っていない商標なら「0円譲渡」でいい?|税務署が指摘する「防衛的価値」と寄附金認定のリスク

全パターンに共通する「たった一つのルール」

ここまで5つのケースを見てきましたが、どのパターンにも共通するルールがあります。

それは、「なぜその価格にしたのか」を、客観的な数字で説明できる状態にしておくことです。

税務調査で問われるのは、「高いか安いか」ではなく、「その価格の根拠は何か」です。根拠のある取引と根拠のない取引では、リスクの大きさが大きく変わると言われています。

弊所の「商標価値評価レポート(簡易RFR法)」は、こうした税務リスクや説明責任に対応するための「価格の証明書」として活用いただいています。

  • 適正な譲渡価格やライセンス料率の根拠になる
  • 「譲渡しない」「放棄する」という判断の合理性を裏付ける
  • 未使用商標の「防衛的価値の有無」を判定する

評価レポートの計算ロジック(RFR法)と、なぜそれが税務上の根拠として通用するのかについては、「簡易RFRによる商標価値評価が事業判断の根拠になる理由」で解説しています。

よくある質問

Q1. グループ会社間で商標を譲渡する場合、いくらで譲渡すればいいですか?

A. 国内で100%の完全支配関係にある親子会社間であれば、グループ法人税制により会社の帳簿に載っている金額(簿価)での譲渡が認められるケースが多いです。一方、100%未満の関連会社間や海外子会社への譲渡では「時価(適正価格)」での取引が必要です。なお、簿価で譲渡できる100%親子間でも、渡す側(商標を渡した会社)は税務上「時価で売った」ものとして扱われるため、申告では時価の把握が必要になります。

Q2. 社長個人の商標を自分の会社に移す場合、タダでもいいですか?

A. いいえ、タダ(0円)は税務リスクがあります。社長個人と法人は法律上別の存在であるため、時価(適正価格)での取引が必須です。0円や格安で譲渡すると、所得税と法人税の両方で課税されるリスクがあります。

Q3. 使っていない商標を0円で子会社に渡しても大丈夫ですか?

A. 「使っていない」だけでは0円が認められない場合があります。他社に使わせないために保有している商標には「防衛的価値」が認められ、0円で譲渡すると寄附金として課税されるリスクがあります。適正な価格は、その商標が持つ価値(防衛的価値など)の大きさによって変わるため、その価値に見合った価格での取引が必要です(価値が小さい場合は再取得コストが目安になることもあります)。

まとめ

商標権の譲渡で最もリスクが高いのは、「たぶんこれでいいだろう」という自己判断で動くことです。

  • 国内100%親子間は、グループ法人税制の適用で簿価での譲渡が認められるケースが多い。
  • 国内100%未満の関連会社間は、時価での取引が必要。安い価格は寄附金認定のリスク。
  • 海外子会社は、100%親子でも移転価格税制により時価が必須。
  • 社長個人→法人は、例外なく時価取引が必要。
  • 放棄して取り直す方法は、節税の裏技ではなく税務リスクの塊。
  • 使っていない商標でも、「防衛的価値」があれば0円は通らない。

「自分のケースがどのパターンに当てはまるかわからない」──そう感じたら、まず弊所の無料相談で状況を整理するところから始めてください。なお、商標移転時の適正価格の参考となる使用料率データは、知財ロイヤルティ料率データベースで検索できます。

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※本記事に関する免責事項:本記事は、商標権の移転登録手続きを日常的に代理する弁理士の立場から、移転の際に実務で問題になりやすい税務上の注意点をまとめたものです。税務に関する記述は、下記の参考文献等に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断や税務申告上のアドバイスを行うものではありません。具体的な税務処理については、必ず税理士等の税務の専門家にご相談ください。

関連サービス

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参考文献

  • 田島宏一ほか編著『移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ50(第2版)』(中央経済社、2023年)
    ※ 100%完全支配関係における寄附金の取扱い(P.13)等、国内・海外の寄附金課税ルールの違いについて参照しています。
  • 手塚崇史『Q&A 知的財産権取引の国際課税・国内課税』(清文社、2010年)
    ※ 寄附金の定義における「実質的に贈与と認められる場合」(P.20)、知的財産権の低額譲渡と寄附金課税のリスク(P.235)等、基本的な法解釈の参考として引用しています。移転価格税制等の最新の運用については税理士等にご確認ください。

この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

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米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。