商標を「放棄」して子会社に「再出願」させれば高額な譲渡価格を回避できる?──税務署に「実質的な贈与」と認定されるリスクと回避策

商標を「放棄」して子会社に「再出願」させれば高額な譲渡価格を回避できる?税務署に「実質的な贈与」と認定されるリスクと回避策|弁理士が解説 知育特許事務所

「商標を身内の会社に正式に譲渡しようとしたら、適正価格(時価)が想定以上に高くて資金的に厳しい。だったら、いったん権利を放棄して、相手側に新しく出願し直させれば、高い譲渡価格を払わずに移せるのでは?」

親会社と子会社、社長個人と自分の会社、兄弟会社同士などのように身内間で商標を譲渡する際に、高い譲渡価格をなんとか回避したいと考えたとき、「商標権の放棄→再出願」という抜け道が頭をよぎったことがある方がいるかもしれません。

しかし結論から言うと、この方法は税務署から、価値のある資産をタダで渡したもの(実質的な贈与)とみなされるおそれがあります。そうみなされると、渡した側・受け取った側の双方に課税が生じます。さらに、この「タダで渡したとみなされる分」を税務申告に反映していなければ、後の税務調査で指摘されたとき、本来の税金に加えて加算税・延滞税も課されることがあります(いわゆる追徴課税)。

この記事では、こうした身内間の取引のうち、代表的な親会社→子会社のケースを中心に、なぜ「商標権を放棄して再出願」でも課税されるのか、そしてどうすればリスクを回避できるのかを解説します。

なぜ「放棄して再出願」でも課税されるのか

親会社が商標権を捨てる。子会社が新しく商標出願する。一見すると、親会社と子会社の間で商標の「売買」は起きていないように見えます。

しかし、税務上は「形式」ではなく「実態」で判断されるのが原則です。

具体的には、無償や低い価格で渡しても、税務上は「時価(適正な売買価格)で売った」ものとして扱われます。そして、実際に受け取った金額と時価との差額は、相手にタダであげた(贈与した)分とみなされ、「寄附金」として扱われます(法人税法22条2項・37条8項)。この「会社が資産を時価より安く譲渡しても、税務上は時価で売ったものとして課税する」という考え方は、最高裁判決(平成7年12月19日・民集49巻10号3121頁)でも示されており、税務の取扱いとして定着しています。

すでに売上がある商標──つまり「お金を生んでいる資産」を親会社がわざわざ捨てて、その直後にグループ内の子会社が同じ商標を取得する。これは税務上、「親会社が持っていた価値のある資産を、実質的に子会社へ無償で渡した」のと同じだと見られかねません。

わかりやすくたとえるなら、「1,000万円の宝石を、親会社がわざと道端に置いて、子会社に”偶然”拾わせたようなもの」です。形式上は「落とし物」と「拾得」ですが、実態としては「渡した」のと同じです。

この場合、税務上は「経済的利益の無償供与」として扱われ、商標の時価との差額について、渡した側では「寄附金」、受け取った側では「受贈益」(タダで得た利益)として課税の対象になり得ます。

「ウチは身内だから大丈夫」が一番危ない

こうした指摘を受けやすいのは、特に身内同士の取引です。

グループ会社間、あるいは社長個人と法人の間では、「どうせ身内なんだから」「グループ全体では損得ゼロだから」と、つい価格設定が甘くなりがちです。しかし税務上は、法人格が別であれば「他人同士の取引」と同じ基準が適用されます。

この「身内間でも原則として時価での取引が必要」という考え方は、親子会社間に限った話ではありません。社長個人が自分の商標を自分の会社に移すケースでもまったく同じです。「自分の商標を自分の会社に移すだけなのに、なぜ税金がかかるのか」──この疑問については、「社長個人の商標を会社に移す時、いくらが正解?「0円・実費」の税務リスクと適正価格の算出ルール」で詳しく解説しています。

なお、国内で100%の完全支配関係にあるグループ会社間(親会社と100%子会社など。間接保有を含む)であれば、グループ法人税制により会社の帳簿に載っている金額(簿価)での移転が認められるケースが多く、「放棄して再出願」のような回り道をする必要はありません。ただし、この特例で課税されないのは「受け取った側の受贈益」の部分です。渡した側は、簿価で移しても税務上は「時価で売った」ものとして計算するため、時価と簿価の差額(譲渡益)には税金がかかります。自社がどのケースに該当するかは、「グループ会社間で商標を移転するとき、実費でいいケースと時価での譲渡が必要なケースの判定ガイド」で確認できます。

商標を「放棄」すること自体は自由だが…

もちろん、商標権を放棄すること自体が常にNGなわけではありません。不要になった権利を整理すること自体は、ふつうに行われています。

しかし、税務上問題視されるのは、「親会社が放棄した直後に、グループ内の別法人が同じ商標を取得する」という一連の流れです。

この動きに対し、税務署は「形式」ではなく「実態」を見ます。 もし、そこに合理的な理由(その商標が本当に無価値である等)がないにもかかわらず、この一連の取引が行われた場合、「実質的には親会社から子会社へ、価値ある資産を無償で譲渡した(贈与した)」と判断され、寄附金課税の対象とされるおそれがあります。

「なんとなく」で放棄するのが最も危険──最も危険なのは、この「放棄→再出願」を「なんとなく節税になりそうだから」という感覚だけで実行することで、これがいちばん避けたいパターンです。税務調査の場面では、「なぜ譲渡ではなく放棄を選んだのか」「なぜ直後に子会社が取得したのか」といった点を説明できるかが問われ得ます。放棄と再出願がセットで行われていると、合理的な理由がない限り、「実質的な贈与ではない」と示すのは難しくなりがちです。

逆に言えば、「商標権の放棄→再出願」のような回り道をせず、適正価格で譲渡手続きをする方が、結果的にリスクが低くなります。

では、どうすれば安全に移せるのか

「放棄→再出願」という回り道をせず、適正な譲渡価格で正規に手続きを進めるのが基本です。具体的には、ケースによって次のように分かれます。

  • 国内100%の完全支配グループ内なら、帳簿価格(簿価)で移す(グループ会社間で商標を移転するとき、実費でいいケースと時価での譲渡が必要なケースの判定ガイドで自社ケースを確認できます)
  • それ以外は、適正価格(時価)で正式に譲渡する(適正な根拠を示すために評価書を用意する)
  • 使っていない(売上ゼロ)商標は、実費相当で普通に譲渡する
  • 譲渡価格が高くて負担が重いなら、ライセンス(使用許諾)にする——商標権そのものは移さず、相手に使用料を支払ってもらう。一度にまとまった譲渡代金を用意する必要がなく、使用料として少しずつ支払う形にできます。

よくある質問

Q1. まだ売上がない商標でも、放棄+再出願で課税されますか?

A. まだ事業に使っていない(売上がない)商標であれば、時価は取得にかかった実費(出願料・登録料・弁理士費用など)相当と評価されるのが一般的です。そのため、仮に贈与とみなされても課税額は小さくなります。ただ、放棄して再出願するより、そのまま実費相当で普通に譲渡した方が手続きとして手っ取り早いです。なお、「本当に使っていない」と言えるよう、①未使用であることの証拠と②出願・登録費用の明細を資料として残しておきましょう。

Q2. 評価書の費用と作成期間はどのくらいですか?

A. 弊所では、一律110,000円(税込)、最短5営業日で作成しています。想定外の税負担を避けるための費用として、合理的な投資です。必要な情報(売上データ等)をご提供いただければ、すぐに着手できます。

まとめ

商標をグループ内で動かすとき、「なるべくお金をかけたくない」と考えるのは自然なことです。しかし、譲渡価格を回避しようとする「抜け道」こそ、かえって代償が高くつきやすいのが税務の現実です。

安易な「商標権の放棄+再出願」は、目先の大きな支出こそ避けられますが、後から想定外の税負担が生じるリスクと隣り合わせです。

  • 「商標権の放棄+再出願」は節税の裏技ではない 👉 合理的な理由がなければ、税務署に「実質的な贈与」と判断され、課税の対象になり得ます。
  • 「感覚」での判断が一番危ない 👉 「無価値」だと思って手放したものが、税務上は「価値ある資産」と判断されれば、想定外の税負担が生じることがあります。
  • 回避策はいくつもある 👉 ライセンス(使用許諾)にする/100%グループなら簿価で移す/適正価格で正規に譲渡する(評価書で根拠を示す)など、状況に応じた選択肢があります。商標の使用料率の相場については、知財ロイヤルティ料率データベースで裁判例・調査データを検索できます。

先に適正な価格を確かめておけば、あとで想定外の税負担を負うリスクを避けられます。「お金をかけずに商標を移したい」と思ったら、自己判断で動く前に、まずは弊所の無料相談で「そもそも、正式に譲渡するといくらになるのか」を確認するところから始めてください。

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※本記事に関する免責事項:本記事は、商標権の移転登録や放棄手続きに携わる弁理士の立場から、「放棄+再出願」による商標移転に伴う税務上のリスクを整理したものです。税務に関する記述は、下記の参考文献等に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断や税務申告上のアドバイスを行うものではありません。具体的な税務処理については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。

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参考文献

  • 井上康一『移転価格税制についての素朴な疑問』(税務研究会出版局、2025年)
    ※ 完全支配関係にある法人間の低額譲渡における寄附金・受贈益・譲渡損益の取扱い、低額譲渡でも時価相当額を収益に算入すること、および低額譲渡課税の代表的な判例である最高裁平成7年12月19日判決(民集49巻10号3121頁)の解説(P.50〜52)等を参照しています。
  • 田島宏一ほか編著『移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ50(第2版)』(中央経済社、2023年)
    ※ 100%完全支配関係における寄附金・受贈益の取扱い(P.13)等を参照しています。
  • 手塚崇史『Q&A 知的財産権取引の国際課税・国内課税』(清文社、2010年)
    ※ 寄附金課税における「実質的に贈与と認められる場合」の定義(P.20)等、基本的な法解釈の参考として引用しています。移転価格税制等の最新の運用については税理士等にご確認ください。

この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

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米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。