【特許 × 試作】出願前の試作品で「どこまで技術を見せていいか」──構造・動作・仕組みの公開リスクを弁理士が整理

特許 × 試作】出願前の試作品でどこまで技術を見せていいかを弁理士が解説

新しい製品や技術を開発する際、試作品(プロトタイプ)を作って構造・動作・仕組みを確認する工程が発生します。試作の過程では、外部の試作会社へデータを渡して製作を依頼したり、ユーザーの反応を見るために試作品の一部をSNSで紹介して見せたりする場面もあります。

しかし、特許出願を予定している場合、こうした試作品に関する「データの渡し方」や試作品の「見せ方」によって、試作品の技術的な特徴が第三者に伝わってしまうことがあります。これが公開リスク(=新規性喪失)です。

この記事では、試作段階で特許の新規性を守るために、試作品をどこまで見せてよいのか/どう見せると危険なのかを弁理士の視点で整理します。

1. 特許の新規性は「技術的な特徴が把握されるか」で決まる

特許の新規性は、公開された情報から技術的な特徴(新しい部分)を第三者が把握できるかどうかで判断されます。

ここでいう技術的な特徴とは、たとえば次のような点です。

  • どんな構造になっているか(部材の形・つながり方 など)
  • どのように動くか(動作の流れ・作用の仕方)
  • どこが工夫点になっているか(改良点・特徴部分)

こうした「発明の核心」が推測できる状態で試作品が公開されると、

  • 「この仕組みはこう動くのだろう」
  • 「この部分がポイントになっているのだな」

と読み取られ、新規性が失われるおそれがあります。

2. 出願前に「見せてよい情報」と「見せると危険な情報」

特許の新規性が喪失するかは、第三者が核心部分(構造・動作・工夫点)を理解できるかどうかで左右されます。
そのため、試作品を見せるときは「核心部分が理解されるか/されないか」を基準に切り分けることが重要です。

2-1. 比較的安全な公開(技術の特徴が読み取れない)

次のように、試作品の構造や動作のポイントが分からない状態であれば、新規性を失う可能性は小さくなります。

  • 遠景の写真(細部が分からない)
  • 手で試作品の大部分が隠れている写真
  • 影・逆光で構造がわからない写真
  • 外観のみで、ポイントとなる動きが分からない状態
  • 利用イメージとして背景的に写っているだけ

ポイントは、構造・動作・工夫点が推測されないこと。

2-2. 危険な公開(技術的特徴が推測できる)

次のように、特徴部分が理解できるような試作品の公開は、新規性の喪失リスクが高く特許出願前は避けるべきです。

  • 試作品の技術的特徴となる動きが分かる動画
  • 試作品の技術的特徴である内部構造や機構が分かる写真
  • 試作品の技術的特徴となる部品がどのように連動しているか読み取れる画像
  • 試作品の分解図・透明モデル・CAD画像
  • 試作品における特徴的な部位のアップ写真

第三者が「仕組みが分かった」と判断できる公開はすべて危険と考えてください。

3. 完成前でも特許出願できる|「決まっている部分だけ」先に出願する戦略

まだ全体の仕様は調整中でも、新製品の「核心となる部分」が固まっているなら、その部分だけ先に特許出願することができます。

たとえば、次のような場合です。

  • 主要な機構の動作原理がすでに固まっている
  • 新製品や新技術のポイントとなる構造が明確になっている
  • 改良や調整は残っているが、核心部分は確定している
  • 仕様変更があっても、重要な働きをする部分は変わらない

このような場合、試作品を公開する前に先にキモとなる構成は出願しておくことで、新規性を喪失するリスクを回避することができます。

4. 外部試作ではNDA(秘密保持契約)が必須

外部に試作を依頼する場合では、試作会社に渡すデータから新製品に関する技術の特徴が読み取られる場合があります。意図しない情報拡散を防ぐため、次のようなNDAの内容が重要です。

  • 再委託(試作を依頼した会社から別会社への再委託)がある場合は事前連絡を必須にする
  • SNS・実績紹介として試作品を公開しない旨を明記
  • データの保存期間・削除方法を明確化する
  • 試作に必要な最小限のデータだけ渡す

👉 外部に試作を依頼する際のNDAに関する詳細はこちら 出願前試作のNDAで必ず確認すべきポイント

5. よくある質問(FAQ)

Q1. 試作品を使った使用シーンをSNSで公開しても大丈夫ですか?

構造や動作が読み取れない範囲なら比較的安全です。 ただし、動作の様子が分かったり、仕組みのヒントになる場合は公開しないのが安全です。

Q2. どんな写真が特に危険ですか?

  • どこが動くか分かる写真
  • 部品同士の関係が読み取れる写真
  • 内部構造が透けて見える写真
  • 仕組みが推測できる写真

ポイントとなる「仕組みがわかるような見せ方」 はすべて危険です。

Q3. 試作を見せてしまった後でも、特許は取れますか?

新規性喪失の例外という救済制度に該当すれば取得できる場合もあります。 ただし、期間制限・証拠の必要性・競合の先出願リスクがあるため、過度な期待は禁物です。

Q4. 出願前にどこまで見せてもいいですか?

第三者が技術の特徴(構造・動作・工夫点)を推測できない範囲にとどめることが前提です。 少しでも「仕組みが分かる」場合は公開を避けてください。

6. まとめ:特許では「技術を推測されないこと」が最重要

特許出願を視野に入れた試作段階では、次の4つを押さえるだけで公開リスクを大きく下げられます。

  • 技術の特徴が分かる見せ方を避ける
  • 公開する場合は、特徴が読み取れない状態にする
  • 外部試作はNDAで管理する
  • 固まっている核心部分だけ先に特許出願する

より詳しい解説は以下をご覧ください。 👉 【特許・意匠の出願前】3Dプリント試作 × 総合ガイド

この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

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米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。