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判例調査 化学

特許権(スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法)

2.0% 認定料率
事件番号 平成24年(ワ)第30098号
判決日 2014/07/10
裁判所 東京地裁
認容額 1億1,166万円(売上高55億8,300万円×2%)

📋 判決要旨

判決日: 2014年7月10日 | 裁判所: 東京地裁 | 料率: 2.0%(102条3項)


三井金属鉱業(原告)が日揮触媒化成(被告)に対し、リチウムイオン二次電池の正極材料であるスピネル型マンガン酸リチウム(=リチウムイオン電池の+極に使われる材料で、高温での電池性能を左右する)の製造方法に関する特許権侵害の差止め・損害賠償を求めた事件。被告は製造工程にホウ酸添加工程が含まれるため特許の技術的範囲外と主張したが、裁判所は特許がホウ酸等の非列記元素の添加を排除していないと判断し、侵害を認定。被告の新規性・進歩性欠如の無効主張もいずれも退けた。差止め(製造方法の使用禁止・製品の使用等禁止・廃棄)が認容された。


料率の決め方:(102条3項=特許権者が受けるべき実施料相当額)


  • 📊 基準: 無機化学製品の契約実績(H4〜H10・イニシャルなし)5%×2件・2%×1件(※数値は発明協会研究センター編「実施料率〔第5版〕」(2003年刊行)の「無機化学製品」H4〜H10イニシャル無し平均4.0%(3件)と一致し、同書に基づくものと推定される)、化学分野のアンケート平均5.3%・H9〜H20の裁判認定平均3.1%(甲9, 38, 39, 46)
  • 📈 引き上げ要因: 本件発明は二次電池の正極材料の基本性能に関わる(=電池の高温保存特性を向上させる製造方法であり、正極材料の品質を根本的に左右する技術)
  • 📉 引き下げ要因: 被告製品の売上には発明以外の性能要素が大きく寄与(=安全性・容量・充電時間・サイクル寿命など、高温特性以外の電池性能が購入動機に影響)
  • 被告の減算主張(退けられた): 被告は、本件発明は乾式前提で被告方法は湿式である、原料投入順序が異なる、ホウ酸添加により高品質になっている、として料率引下げを主張→裁判所は、特許は乾式に限定していない、投入順序の主張は従前の主張と矛盾し立証もない、ホウ酸の効果に関する試験結果は数値が不自然で信用できないとして、いずれも認めず
  • 結論: 実施料率2%(102条3項)

認容額1億1,166万円(売上高55億8,300万円×2%)。

📜 判決文全文

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裁判所の判断
▼ 判決文全文(クリックで折りたたみ)
主文
1被告は,別紙被告方法目録記載の方法を使用してはならない。

2被告は,別紙物件目録記載の製品の使用,譲渡又は輸出をしてはならない。

3被告は,前項記載の製品を廃棄せよ。

4被告は,原告に対し,1億1166万円及びこれに対する平成年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5原告のその余の請求を棄却する。 6訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の,その余を被告の各負担とする。

7この判決は,第4項に限り,仮に執行することができる。
第1 請求
1主文第1項~第3項と同旨2被告は,原告に対し,1億8000万円及びこれに対する平成24年11月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,発明の名称を「スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法」とする特許権を有する原告が,被告による別紙被告方法目録記載の方法(以下「被告方法」という。)の使用等が上記特許権の侵害に当たる旨主張して,特許法100条1項及び2項に基づき,上記方法の使用の差止め,別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)の使用等の差止め及び廃棄を求めるとともに,特許権侵害に基づく損害賠償金の支払(一部請求)を求める事案である。

1争いのない事実(1) 当事者原告は,金属素材,電池材料の製造販売等を業とする株式会社である。被告は,色素増感型太陽電池材料,リチウムイオン二次電池用部材,燃料電池用触媒等エネルギー関連材料の製造販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告の特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許出願(以下「本件出願」という。)の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)を有している。 特許番号特許第4274630号発明の名称スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法出願番号特願平11-141722出平成11年5月21日願日登平成21年3月13日録日イ本件特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,当該発明を「本件発明」といい,本件発明に係る特許を「本件特許」という。)。「電析した二酸化マンガンをナトリウム化合物もしくはカリウム化合物で中和し,pHを2以上とする共にナトリウムもしくはカリウムの含有量を0.12~2.20重量%とした電解二酸化マンガンに,リチウム原料と,上記マンガンの0.5~15モル%がアルミニウム,マグネシウム,カルシウム,チタン,バナジウム,クロム,鉄,コバルト,ニッケル,銅,亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上の元素で置換されるように当該元素を含む化合物とを加えて混合し,750℃以上の温度で焼成することを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。」

ウ本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件A」などという。なお,構成要件Aの「pHを2以上とする共に」を「pHを2以上とすると共に」と改めた(以下同じ。)。また,構成要件C掲記の元素を併せて「列記元素」といい,それ以外の元素を「非列記元素」という。)。A電析した二酸化マンガンをナトリウム化合物もしくはカリウム化合物で中和し,pHを2以上とすると共にナトリウムもしくはカリウムの含有量を0.12~2.20重量%とした電解二酸化マンガンに,Bリチウム原料と,C上記マンガンの0.5~15モル%がアルミニウム,マグネシウム, カルシウム,チタン,バナジウム,クロム,鉄,コバルト,ニッケル,銅,亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上の元素で置換されるように当該元素を含む化合物とDを加えて混合し,750℃以上の温度で焼成するEことを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。
(3) 被告の行為被告は,平成22年1月1日から平成25年10月31日までの間に,スピネル型マンガン酸リチウムを合計3722トン製造し(ただし,その製造方法については後記のとおり一部争いがある。),販売した。その単価は,1㎏当たり1500円であり,上記期間の販売金額は合計55億8300万円である。被告は,現在もスピネル型マンガン酸リチウムを製造・販売している。

2争点被告は,上記1(3)のスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法につき,「電解二酸化マンガンにリチウム原料と,上記マンガンの3.5~4.8モル%がアルミニウムで置換されるようアルミニウムを含む化合物と,上記マンガンの一部がホウ素で置換されるようホウ酸とを加えて粉砕・混合し,750℃程度以上の温度で焼成することを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法」と主張している。これを原告の主張する別紙被告方法目録記載の被告方法と対比すると,
①電解二酸化マンガンの中和条件及びナトリウムの含有量,
②アルミニウムによるマンガンの置換量,
③ホウ酸の添加工程の有無,
④粉砕の有無において相違するが,
①につき,被告は,原告の主張する「電析した二酸化マンガンをナトリウム化合物で中和し,pHを2以上とすると共にナトリウムの含有量を0.12~1重量%としたもの」との点は不知としつつ,構成要件Aの充足性は争わないとしている。
②については,被告の主張するアルミニウムによるマンガンの置換量3.5~4.8 モル%は被告方法の3~10モル%の範囲内にあり,また,
④については,電解二酸化マンガンとリチウム原料及びアルミニウム化合物とを混合する際にこれらを粉砕するかどうかは被告方法において限定されていない。そうすると,被告の主張する方法は,
③のマンガンの一部がホウ素で置換されるようにホウ酸を添加する工程(以下「ホウ酸添加工程」という。)を伴うことを除き,被告方法と一致する。そして,原告が,被告方法にホウ酸添加工程が付加されたとしても本件発明の技術的範囲に属すると主張するのに対し,被告は,ホウ酸添加工程を伴う製造方法は,構成要件A~Cを充足するものの,構成要件D及びEを充足しないと主張している。また,被告は,本件特許は新規性又は進歩性を欠くから特許無効審判により無効にされるべきものであると主張するほか,差止請求等の当否及び損害論を争っている。したがって,本件の争点は,次のように整理することができる。
(1) ホウ酸添加工程を伴う製造方法の構成要件D及びEの充足性(2) 新規性欠如の有無(3) 進歩性欠如の有無(4) 差止請求等の当否(5) 損害論3争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(ホウ酸添加工程を伴う製造方法の構成要件D及びEの充足性)について(原告の主張)本件発明は,マンガンが少なくとも1種以上の列記元素で置換されることを要件とする一方,非列記元素の含有やそれによる置換を排除していないから,列記元素による置換がされている限り,ホウ酸添加工程を伴うものであったとしても,構成要件D及びEの充足性は否定されず,本件発明の技術的範囲に属する。 被告は,ホウ酸の添加によって原料の焼結が促進され,充填密度が高まると主張するが,被告がその主張の根拠とする特開2010-73370号公報(乙23。段落【0025】)においても,ホウ酸の添加による化学反応や物質としての変化は示されていない。ホウ酸添加工程を伴う製造方法は,本件発明の構成要件を全て充足し,高温保存性,高温サイクル特性等の高温での電池特性の向上という本件発明の作用効果を享受するものであるから,ホウ酸添加工程に何らかの作用効果があるとしても,本件発明及びその作用効果を利用するものであることは否定されない。

(被告の主張)ホウ酸添加工程を伴う製造方法は,次のとおり,本件発明の構成要件Dの「を加えて混合し,750℃以上の温度で焼成する」及びEの「ことを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。」を充足しない。

ア本件発明の構成要件C及び本件明細書には,置換元素の特定において,「例えば」,「など」等の文言は付されておらず,実施例及び比較例にも非列記元素を用いた例は記載されていないことから,本件発明の原料にホウ素を含む化合物を用いることは想定しておらず,構成要件C記載の列記元素は限定列挙と解すべきである。

イホウ酸添加工程を伴う製造方法による生産物は,スピネル構造系リチウムマンガンアルミニウムホウ素複合酸化物(組成式はLiAlxByMnzO4。x,y及びzの関係は不明であるが,合計は2近くになると考えられる。)であり,本件発明の「スピネル構造リチウムマンガン系酸化物」(構成要件E)とは異なる。

ウホウ酸添加工程を伴う製造方法においては,ホウ酸が原料の混合物の間隙を充たす融剤として機能し,原料の混合物の固相反応がスムーズになることで,結晶成長及び結晶粒子の集合した微粒子の焼結が促進され,粒子密度の高い,高品質の製品が得られる。本件発明は物の生産方法の 発明であるところ,上記のとおり,ホウ酸添加工程を伴う製造方法における混合・焼成の工程は,本件発明におけるものとは異なるものとなり,独自の作用効果のある生産物が製造されるのであるから,構成要件D及びEを充足しない。
(2) 争点(2)(新規性欠如の有無)について(被告の主張)乙11文献(特開平11-7956号公報)には,一般式Li[Mn2-x-yLixMey]O4(0<x≦0.2,0<y≦0.2,Me:Al,Co,Cr,Fe,Ni,Mg,Ti)で表される非水電解液二次電池用正極材料を提供する発明が記載されている。上記一般式は,いわゆる一部金属置換マンガン酸リチウムであって,明細書の記載を踏まえれば,上記発明は,電解二酸化マンガンの中和条件及びナトリウム等の含有量(構成要件A)が特定されていない点を除き,本件発明と一致する。そして,次の公知文献によれば,非水電解質二次電池用正極材料であるマンガン酸リチウムの原料としての電解二酸化マンガンにはナトリウム中和型のものが当然含まれることが一般的な技術常識であったから,乙11文献には本件発明の構成要件Aの電解二酸化マンガンが記載されているに等しいものである。すなわち,乙12文献(特開平3-93163号公報)には,所定のマンガン酸リチウムを正極とする非水系二次電池に関し,「一般的に,電池活物質として用いられる二酸化マンガンはその製造過程において,アルカリによる中和処理が行われるが,この際アルカリとしてNa塩が多く用いられる。Na塩による中和処理を処した二酸化マンガンは,通常1000~5000ppm程度のNaを含有していることが判明した。」という従来技術が記載されている。また,乙13文献(平成8年12月20日発行『最新電池ハンドブック』)には,電池の正極として用いられる電解二酸 化マンガンの製造方法が記載され,「電解二酸化マンガン(EMD)の代表的な分析値」として,ナトリウム及びカリウムの含有量がそれぞれ2550ppm(0.255重量%)及び235ppm(0.0235重量%)と記載されている(134頁表10.4)。さらに,乙14文献(特開昭62-295354号公報)及び乙15文献(特開平9-73902号公報)には,二酸化マンガンを製造する際に水酸化ナトリウムのようなアルカリで洗浄すれば,得られた二酸化マンガンのpHが上昇し,ナトリウムが二酸化マンガンに残留することが記載されている。よって,乙11文献には,本件発明の構成要件を全て備えたスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法が記載されており,本件発明は乙11発明に対して新規性がない。

(原告の主張)本件出願当時,スピネル型マンガン酸リチウムは開発初期の段階にあり,専用の電解二酸化マンガンは存在しておらず,いかなる電解二酸化マンガンを用い,いかなる方法でスピネル型マンガン酸リチウムを製造すれば優れた特性のリチウムイオン二次電池が得られるかも知られていなかった。したがって,ナトリウム中和,アンモニア中和,カリウム中和,リチウム中和又は未中和等の電解二酸化マンガンから何を選ぶか,その場合の具体的な条件等は不明であり,乙11文献にもこの点についての示唆はない。被告の挙げる文献のうち,乙12文献は,スピネル型マンガン酸リチウムに関するものではない上,ナトリウム中和した電解二酸化マンガンを用いないことを開示するものである。乙13文献及び乙14文献は,いずれもアルカリマンガン電池の正極活物質としての二酸化マンガンが記載されているにすぎず,リチウムイオン二次電池についての技術常識の根拠となるものではない。乙15文献も,スピネル型マンガン酸リチウムとは異なる正極活物質に関する文献であり,ナトリウム中和した電解二酸化マンガ ンを用いることも開示されていない。したがって,これらの文献は,いずれもスピネル型マンガン酸リチウムにおいてナトリウム中和した電解二酸化マンガンを用いる技術常識が存在したことの根拠となるものではない。よって,被告の主張は失当である。
(3) 争点(3)(進歩性欠如の有無)について(被告の主張)

ア乙11文献を主引例とし,乙12文献,乙15文献及び乙18文献を副引例とする進歩性欠如の主張について乙11文献に記載された発明は,電解二酸化マンガンの中和条件及びナトリウム等の含有量(構成要件A)が特定されていない点を除き,本件発明と一致する。そして,乙12文献には,二酸化マンガン中のナトリウム含有量が増加するほど電池の初期放電容量が小さくなるという技術常識が記載されている。他方,乙15文献には,リチウムマンガン複合酸化物を活物質とする正極を有する非水溶媒二次電池について,リチウムマンガン複合酸化物中のナトリウム含有量が非水溶媒二次電池の充放電サイクル寿命に影響を与えることが記載され,乙18文献(特開平11-45702号公報)には,マンガンの一部をアルミニウム等で置換したリチウム・マンガン複合酸化物(LiMn2O4)を主体とする正極活物質を用いたリチウム二次電池においては,正極活物質にナトリウムイオンが0.01~0.3モル%が添加されていると,二次電池としての充放電サイクル特性が向上することが記載されている。このように,乙15文献及び乙18文献には,電解二酸化マンガン中のナトリウム含有量が充放電サイクル寿命に影響するという技術常識が記載されている。本件明細書に記載された実施例は,いずれもこのような技術常識を確 認するものにとどまり,格別の作用効果を示すものではなく,本件発明のように,二酸化マンガン中のナトリウム含有量及びマンガン酸リチウム中のマンガンの金属置換量の範囲を適当に規定することは,当業者にとって単なる設計事項にすぎず,技術的困難を伴うものではない。よって,本件発明は,乙11文献記載の発明と,乙12文献,乙15文献及び乙18文献に記載された技術常識に基づいて出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり,進歩性がない。

イ乙17文献を主引例とし,乙11文献を副引例とする進歩性欠如の主張について乙17文献(特開平8-2921号公報)の実施例6には,スピネル型マンガン酸リチウムの製造用原料として東ソー株式会社(以下「東ソー」という。)製の電解二酸化マンガン(商品名はHHU)を用いたことが記載されており,また,乙21文献(平成19年3月発行の吉田和正「一次電池技術発展の系統化調査」)には,上記HHUはナトリウム中和型であり,そのナトリウム含有量及びpHはそれぞれ0.20%及び6.5であることが示されている。したがって,上記実施例6の電解二酸化マンガンは,本件発明の構成要件Aの電解二酸化マンガンそのものである。そして,二次電池の充電時にマンガンが溶出しやすいという課題は周知であり,この課題を解決するために,スピネル型マンガン酸リチウムのマンガンを一部置換するという乙11文献記載の技術を用いることも周知であった。よって,本件発明は,乙17文献記載の発明と乙11文献に記載された周知技術に基づいて出願前に当業者が容易に想到することができたものであり,進歩性がない。

(原告の主張) ア乙11文献を主引例とする進歩性欠如の主張について乙12文献は,スピネル型とは結晶構造や物性を異にするLi2MnO3を含有するマンガン酸化物を正極活物質としている点,ナトリウムがほとんど含まれていない二酸化マンガンを使用する点で,本件発明とは異なるものである。また,乙15文献に記載された「LixMnOy」もスピネル型ではなく,その焼成温度も,本件発明における焼成温度(750℃以上)とは異なる380℃である上,その記載からは,ナトリウムを少なくした場合,初期放電容量と高温保存容量維持率がいかなる特性を示すのかも不明である。さらに,乙18文献に記載されているのは,ナトリウムイオンやアンモニウムイオンが添加剤として添加されてなる正極活物質であり,ナトリウムやアンモニウムイオンが含まれていない二酸化マンガンが前提とされている点で,本件発明の製法と異なるものである。また,乙18文献の記載からは,充放電サイクル特性が向上するナトリウム添加量が知られていたとしても,その場合に初期放電容量と高温保存容量維持率がいかなる特性を示すのかも不明である。よって,当業者が乙11文献記載の発明とこれらの文献に基づいて本件発明を容易に想到し得たということはできない。

イ乙17文献を主引例とする進歩性欠如の主張について被告の挙げる乙21文献及び同文献中のHHUの品質を示す記載の引用元は,いずれも本件出願より後に作成されたもので,かつ,後者は私信である。また,乙21文献記載のHHUは,本件出願のされた平成6年の8年後の平成14年のものであり,そもそも乙17文献の実施例6に記載されたHHUと同一の品質のものとはいえない。したがって,乙17文献は,本件特許の無効を主張する根拠とならない。
(4) 争点(4)(差止請求等の当否)について(原告の主張)前記(1)(原告の主張)のとおり,被告方法は本件発明の技術的範囲に属するから,被告の行為は本件特許権の侵害に当たる。よって,原告は,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告方法の使用及び被告製品の使用,譲渡又は輸出の差止め並びに被告製品の廃棄を求める。

(被告の主張)争う。
(5) 争点(5)(損害論)について(原告の主張)前記争いのない事実(3)のとおり,被告が平成22年1月1日から平成25年10月31日までの間に被告製品を販売した合計金額は55億8300万円である。一時金がない場合の無機化学製品の実施料率の平均値は4.0%であるところ,原告と被告は,リチウムイオン二次電池用正極活物質市場において競業関係にあるから,仮に原告が被告に対して本件特許権の実施を許諾するとしても,上記平均値を下回る実施料率を設定することはあり得ない。したがって,本件発明を実施許諾した場合の実施料相当額は,販売価格の4%を下回ることはなく,被告が原告に支払うべき実施料相当の損害金(特許法102条3項)は2億2332万円を下らない。よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,その一部請求として1億8000万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成24年11月3日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の主張) 我が国の裁判所の判断の統計(乙39)及びリチウムイオン電池の市場がほぼ飽和状態にあることなどからすれば,本件における適正な実施料率は3%を超えるものではない。また,本件においては,
① 本件明細書には,電解二酸化マンガンにリチウム原料と列記元素を含む化合物を混合する際に水を用いない乾式を前提とした記載しかないのに対し,被告方法は水を用いる湿式で混合するから,本件発明は技術的に被告方法に寄与していない,
② 被告方法においては,原料の投入順序が本件発明の構成要件A~C記載の順序と異なるから本件発明は技術的に被告方法に寄与していない,
③ ホウ酸添加工程を伴う製造方法を使用して製造されるスピネル型マンガン酸リチウムは,電池の基本的性能である初期放電容量,高温保存容量維持率及びサイクル容量維持率のいずれの点においても高品質となっており,顧客の購入動機に大きく寄与している,という減算要素がある。そして,前記実施料率に対する本件発明の寄与は,上記①及び②により1割程度,
③により2割程度と考えられるから,被告が原告に支払うべき金員は,55億8300万円×0.03×0.1×0.2=334万9800円を上回るものではない。
第3 当裁判所の判断
1争点(1)(ホウ酸添加工程を伴う製造方法の構成要件D及びEの充足性)について(1) 被告の使用する方法は,本件発明の構成要件A~Cを充足することに争いはなく,構成要件Aの電解二酸化マンガンに構成要件Bのリチウム原料と構成要件Cの化合物とを加えて混合し,750℃以上の温度で焼成することも争いがないから,構成要件Dを充足すると認められる。また,上記方法により製造されるマンガン酸リチウムがスピネル型であることも争いがないから,上記方法は構成要件A~Dを充足することを特徴とするス ピネル型マンガン酸リチウムの製造方法(構成要件E)も充足すると判断すべきものである。
(2) これに対し,被告は,構成要件Cにおいてマンガンを置換するのは特許請求の範囲に記載された列記元素に限定されており,これに加えて非列記元素でも置換するものは本件発明の技術的範囲に含まれないという解釈を前提に,被告の使用する方法ではマンガンがホウ素により置換されることから,本件発明とは混合及び焼成がされる対象物が異なり,これにより生成される物も異なるので,構成要件D及びEを充足しない旨主張する。そこで,以下,この主張の当否について検討する。

アまず,被告の主張する製造方法においてマンガンがホウ素により置換されているとの立証はない(被告はその実際の製造方法を具体的に立証していない上,被告の出願に係るホウ素(ホウ酸)を添加する発明についての明細書を見ても,ホウ素はマンガンの一部を置換していると考えられる旨記載されているにとどまる。乙8,24参照)。

イ上記アの点をおくとしても,本件発明の特許請求の範囲の記載上,マンガンの置換に関しては,その一定割合がアルミニウム等の列記元素で置換されることが要件とされているが,この要件が充足されていれば,これに加えてマンガンの他の部分が非列記元素により置換されることが排除されているとみることはできない。なお,列記元素と非列記元素を合わせた置換割合が15モル%を超え,本件発明の効果を奏しないような場合には,その技術的範囲から外れると解する余地はあるが,本件の被告方法ないし被告製品において置換割合が15モル%を超えたり,上記効果を奏しなかったりすることはうかがわれない。

ウまた,本件明細書(甲1の2)の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明は,非水電解質二次電池用正極材料としてのスピネル型マンガ ン酸リチウムには,高温においてマンガンが溶出し,高温保存性,高温サイクル特性等の高温での電池特性に劣るという問題があることから(段落【0001】,【0004】,【0005】),この課題を解決するために,原料である電解二酸化マンガンの中和条件と,マンガンを置換する元素に着目し,電池特性を向上させるのに適した中和条件及び置換元素を特定することで(段落【0006】~【0008】),高温下でのマンガンの溶出を抑制し,高温保存特性,高温サイクル特性等の高温での電池特性を向上させ,また電流負荷率を改善するという効果を奏することができる(段落【0028】,【0072】)スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法を提供するという発明である。そして,本件明細書には,置換元素を加えることなく電解二酸化マンガンとリチウム原料だけを混合した場合は効果が不十分であることは記載されているものの(段落【0020】),置換元素を加える場合については,実施例及び比較例(段落【0030】~【0066】)に,列記元素により置換したものの記載しかなく,非列記元素との比較において最適の列記元素が特定されたことを示唆する記載はない。また,列記元素と共に非列記元素を添加した場合に,そのような添加をしない場合と比較して高温下での電池特性が低下するなど好ましくない結果となることを示唆する記載もない。このように,本件明細書には,非列記元素の使用や添加を好ましくないものとして排除することを示唆する記載は見当たらない。そうすると,本件明細書の記載を参酌しても,原料混合の際にマンガンの一部が置換されるように列記元素に加えて非列記元素が添加されたということで本件発明の技術的範囲から外れることとなるという解釈を裏付けるような記載は見当たらないというほかない。
(3) 以上によれば,被告の前記(2)の主張は,その前提を欠き,採用することができないというべきである。 そして,構成要件Dは,構成要件Aの電解二酸化マンガンに,構成要件Bのリチウム原料と,構成要件Cの列記元素を含む化合物とを加えて混合し,焼成することを要件とするものであるが,特許請求の範囲の文言上,これら以外の物質を加えることを排除していないから,ホウ酸添加工程の存在により構成要件Dの充足性を欠くことはないと解される。また,構成要件Eについてみても,以上に説示したところによれば,本件発明はマンガンの一部がどのような元素で置換されたかを問うことなく「スピネル型マンガン酸リチウム」と総称しているとみることができるから,ホウ素を含む複合酸化物であったとしても,構成要件Eの充足性を否定することはできないというべきである。
(4) したがって,ホウ酸添加工程を伴う製造方法は構成要件D及びEを充足するものであるから,その存否は本件発明の技術的範囲の属否の判断に影響しないものとなるので,結局のところ,被告は被告方法を実施していると認めることができる。また,前記争いのない事実(3)の被告の製造販売するスピネル型マンガン酸リチウムは,被告方法により製造されたものとして,別紙被告製品目録記載の被告製品に当たるということができる。

2争点(2)(新規性欠如の有無)について(1) 本件出願の前に頒布された刊行物である乙11文献には,次の発明(以下「乙11発明」という。)が開示されているものと認められる。(乙11)電解二酸化マンガンに,リチウム原料と,上記マンガンがMn:Al=1.85:0.05の原子比でアルミニウムにより置換されるように水酸化アルミニウムとを加えて混合し,800℃で焼成することを特徴とする非水電解液二次電池用正極材料であるマンガン酸リチウムの製造方法。
(2) 乙11発明を本件発明と対比すると,乙11発明におけるアルミニウ ムによるマンガンの置換率は,0.05÷(1.85+0.05)×100≒2.63%となるから,本件発明における置換率(構成要件Cの0.5~15モル%)の範囲内にある。また,スピネル型マンガン酸リチウムの組成式はLiMn2O4で表されるところ,乙11文献に開示された一般式は,上記マンガンの一部をリチウム及びアルミニウム等の特定の元素でいずれも0~0.2のモル比で置換するものであるから,スピネル型マンガン酸リチウムである蓋然性が大きいものと認められる。他方,本件発明が,電析した二酸化マンガンをナトリウム化合物又はカリウム化合物で中和し,pHを2以上とするとともにナトリウム又はカリウムの含有量を0.12~2.20重量%とした電解二酸化マンガンを用いるものである(構成要件A)のに対し,乙11文献にはこの点についての記載がない。そうすると,本件発明と乙11発明は少なくともこの点で相違するから,本件発明が乙11文献に記載されていると認めることはできない。
(3) これに対し,被告は,乙12文献ないし乙15文献によれば,非水電解質二次電池用正極材料であるマンガン酸リチウムの原料としての電解二酸化マンガンにはナトリウム中和型のものが当然含まれることが一般的な技術常識であったから,乙11文献には本件発明の構成要件Aの電解二酸化マンガンが記載されているに等しく,本件発明は新規性を欠く旨主張するが,以下のとおり,これを採用することはできない。

ア後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。(ア) 電池には再充電が不可能な一次電池とこれが可能な二次電池があるが,その正極活物質として用いられる材料は電池の種類ごとに様々であり,一次電池に用いられる材料をそのまま二次電池に適用することはできない。(甲5,6)(イ) 一次電池(アルカリマンガン電池)の正極材料として用いられる 電解二酸化マンガンについては,代表的な分析値がナトリウムにつき2550ppm,カリウムにつき235ppmであること,電解二酸化マンガンの中和剤としての水酸化ナトリウム添加量と二酸化マンガンのpH値との間に相関関係がみられることが知られていた。(乙13,14)(ウ) 他方,非電解質二次電池の正極材料として用いられる電解二酸化マンガンとしては,本件出願の当時,ナトリウム中和型のものとアンモニア中和型のものが存在することが知られていた。ただし,ナトリウム中和型についてはマンガン中のナトリウムの存在が充放電サイクルを改善する上では好ましくないので,二酸化マンガン中のナトリウム量をできるだけ低減することが望ましいとの知見が示されていた。(乙12,15)

イ上記認定事実によれば,本件出願当時,乙11文献に接した当業者において,乙11発明の非水電解質二次電池の正極材料として用いられる電解二酸化マンガンが当然にナトリウム中和型のものであると認識したとは認められない。そうすると,乙11文献に本件発明の構成要件Aが記載されているに等しいということはできない。

3争点(3)(進歩性欠如の有無)について(1) 乙11文献を主引例とし,乙12文献,乙15文献及び乙18文献を副引例とする進歩性欠如の主張についてア前記2(2)のとおり,本件発明と乙11発明は,本件発明が,電析した二酸化マンガンをナトリウム化合物又はカリウム化合物で中和し,pHを2以上とするとともにナトリウム又はカリウムの含有量を0.12~2.20重量%とした電解二酸化マンガンを用いるもの(構成要件A)であるのに対し,乙11発明には,単に電解二酸化マンガンを用いるとあるのみで,その中和条件やナトリウム含有量についての記載がな い点で少なくとも相違する。被告は,上記の相違点につき,
① 乙12文献には,二酸化マンガン中のナトリウム含有量が増加するほど初期放電容量が小さくなるという技術常識が記載されている,
② 乙15文献及び乙18文献には,電解二酸化マンガン中のナトリウム含有量が充放電サイクル寿命に影響するという技術常識が記載されているなどとして,本件発明には進歩性が認められないと主張する。

イそこで判断するに,乙12文献には,非水電解質二次電池用正極材料として用いられる電解二酸化マンガン中にナトリウムが含まれていると放電容量が小さくなるので,電池特性を向上させる上では電解二酸化マンガン中のナトリウム量はできるだけ低減することが望ましいとの知見が示されている(乙12)。そうすると,乙11文献に接した当業者が,これと乙12文献に開示された技術的事項を組み合せて,一定量のナトリウムを積極的に含むべきものとする本件発明を容易に想到し得たと認めることはできない。また,乙15文献においてリチウムマンガン複合酸化物として用いるのが好ましいとされているのは,LixMnOy(ただし,x及びyは原子比で,0.05≦x≦0.35,1.8≦y≦2.0を満たす。段落【0010】参照。)であり,スピネル型とは認められない。そして,好適な正電極用材料が電池の種類によって異なること(甲5,6),乙15文献においては,上記原子比xが0.35を超えると複合酸化物の構造が変化して2V~3.4V電圧での電池容量が低下するおそれがあるとの知見が示されていること(段落【0010】参照)に照らすと,乙15文献に記載されたナトリウム含有量をスピネル型マンガン酸リチウムに適用することが容易であるとみることは困難である。しかも,乙15文献の実施例における二酸化マンガン・リチウム混合物の焼成温度 (380℃。段落【0019】参照。)は,本件発明のもの(750℃以上)と大きく異なっている。したがって,乙11発明に乙15文献を組み合せて本件発明を想到することが容易であるとは認められない。さらに,乙18文献にはサイクル特性に優れたリチウム二次電池の正極活物質としてナトリウム又はナトリウム化合物を含有するスピネル型マンガン酸リチウムが開示されているが,これらのナトリウム化合物等は,焼成前に添加して結晶構造中に取り込ませる場合を含め,飽くまでも添加剤として用いられており,原料である電解二酸化マンガンのpHを整える中和剤としては用いられていない。しかも,乙18文献においては,複合酸化物に添加してもよいとされる遷移金属元素等の置換量は特定されていない。そうすると,乙11発明に乙18文献を組み合せても,本件発明が容易に想到されるとは認められない。

ウしたがって,乙11文献を主引例とする進歩性欠如の主張は理由がない。
(2) 乙17文献を主引例とし,乙11文献を副引例とする進歩性欠如の主張についてア被告は,乙17文献を主引例とする進歩性欠如の主張の前提として,乙17文献の実施例6に用いられた東ソー製の電解二酸化マンガン(商品名HHU)が乙21文献186頁表5.3に記載された「HH-U」と同一のものであると主張している。しかし,乙17文献に係る特許出願の日が平成6年6月20日であるのに対し,乙21文献に記載された「HH-U」の品質は平成14年当時のものであり(乙21),その間に約8年の期間があること,BET比表面積が異なること(乙17文献記載のものは30㎡/gであるのに対し,乙21文献記載のものは34㎡/gである。)に照らすと,両者の品質が同一であると認めることはできない。 したがって,被告の前記主張は前提を欠くというほかない。

イこれに加え,乙17文献に記載されているのは,リチウム,マンガン及び酸素から成るスピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物において,各元素の割合を調整することによりサイクル安定性が改善されたリチウム二次電池の正極用リチウムマンガン複合酸化物及びその製造方法を提供するという発明であり,その明細書においてナトリウムの量を制御することやマンガンの一部を他の元素で置換することについては何ら触れられていない。そうすると,乙17文献に記載された発明に他の周知技術を組み合せたとしても,ナトリウムの中和条件及び置換する元素に着目して高温での電池特性を向上させるという本件発明を想到することが容易であると認めることはできない。

ウしたがって,乙17文献を主引例とする進歩性欠如の主張も失当というべきである。

4争点(4)(差止請求等の当否)について以上によれば,被告方法はホウ酸添加工程の存在にかかわらず本件発明の構成要件を全て充足するものであり,かつ,本件特許に被告の主張する無効理由があるとは認められない。したがって,被告方法の使用及び被告製品の使用,譲渡又は輸出の差止め並びに被告製品の廃棄を求める原告の請求は理由がある。

5争点(5)(損害論)について(1) 前記争いのない事実(3)のとおり,被告が平成22年1月1日から平成25年10月31日までの間に被告製品を販売した合計金額は55億8300万円である。
(2) そこで,原告が被告による本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額(特許法102条3項)について検討すると,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア本件発明は,非水電解質二次電池用正極材料とした時に,マンガンの溶出量を抑制し,高温保存特性,高温サイクル特性等の電池の高温特性を向上させたスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法に関するものであり(本件明細書段落【0001】),電解二酸化マンガンの中和条件及び置換する元素を特定することにより従来技術の課題を解決し得るとの知見に基づき(同【0007】),特許請求の範囲記載の構成を採用することにより(同【0008】),高温保存特性,高温サイクル特性等の高温での電池特性を向上させるとの効果を奏するとされている(同【0028】,【0072】)。ただし,上記効果のうち高温保存特性については実施例及び比較例による検証がされているが(同【0033】~【0066】),高温サイクル特性については本件明細書に具体的な記載はない。(甲1の2)

イ被告方法及び被告製品は構成要件Cに列記された置換元素のうちアルミニウムを用いるものであるが,アルミニウムを置換元素として用いることは本件出願時に既に周知の技術であった。(乙11)

ウ本件発明及び被告製品が属する技術分野であるリチウムを使用した二次電池に求められる一般的な性能としては,高温特性のほか,安全性が高いこと,容量が大きいこと,充電時間が短いこと,サイクル寿命が長いこと(繰り返し使用できること)などが挙げられている。(乙41~43)

エ原告と被告は,リチウムイオン二次電池用正極活物質市場において競業関係にある。平成22年及び23年における市場占有率は被告の方が高く,被告製品は小型民生用電池,車載用電池等に採用されている。(甲8)

オ上記技術分野における実施料率に関しては,
① 平成4年度~10年度の無機化学製品の契約件数(イニシャルペイメントなし)は3件であ り,実施料率別では5%が2件,2%が1件であった旨,
② 平成21年頃の国内企業へのアンケートによると化学分野の実施料率は平均5.3%であった旨,
③ 平成9年~20年に損害賠償訴訟で判断された化学分野の実施料率は平均3.1%であった旨の調査結果が報告されている。(甲9,38,39,46)(3) 上記事実関係によれば,本件発明は二次電池の正極材料の基本性能に関するものであり,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属する被告方法により製造されたものとして,高温保存特性が優れるという効果を奏するものということができるが,他方,被告製品の売上げに関しては,それ以外にも二次電池に求められる上記各性能を被告製品が有していることによる部分が大きいと推認される。以上に説示した本件の諸事情を総合すると,原告が被告による本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額は,前記(1)の55億8300万円に2%を乗じた1億1166万円と認めるのが相当である。したがって,原告の損害賠償請求は,1億1166万円及びこれに対する遅延損害金(なお,原告はその起算日を訴状送達日の翌日の平成24年11月3日と主張するが,損害の発生期間とされるのは平成22年1月1日から平成25年10月31日までであり,その間の損害発生状況は不明なので,上記期間の末日の翌日である同年11月1日を起算日と認定した。)の支払を求める限度で理由がある。
(4) これに対し,原告は,本件における相当な実施料率は4%である旨主張するが,以上に説示したところに照らし,これを採用することはできない。
(5) 他方,被告は,本件において原告が被告による本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額を定めるに当たっては,
① 本件明細書には乾式を前提とした記載しかないのに対し,被告方法は水を用いる湿式であるから, 本件発明は技術的に被告方法に寄与していないこと,
② 被告方法においては,原料の投入順序が本件発明の構成要件A~C記載の順序と異なること,
③ ホウ酸添加工程を伴う製造方法を使用して製造されるスピネル型マンガン酸リチウムは,電池の基本的性能である初期放電容量,高温保存容量維持率及びサイクル容量維持率のいずれの点においても高品質となっており,顧客の購入動機に大きく寄与していることという減算要素があることを考慮すべきであると主張する。そこで判断するに,上記①については,本件発明における混合工程を乾式のものに限定する記載は,特許請求の範囲にも本件明細書にも見当たらない。また,上記②については,この主張は,構成要件A~Cの充足を認めていた従前の主張を覆すものである上,実際の投入順序を認めるに足りる証拠はない。したがって,これらの主張は明らかに失当である。次に,上記③の主張について検討する。被告は,上記主張を裏付ける証拠として,本件発明の実施品であって,ホウ素を含まないものと含むものを比較すると後者の方が性能が優れる旨の試験報告書(乙45,47。なお,乙40はアンモニア中和型の電解二酸化マンガンを用いた試験報告書であり,本件発明に関するものではない。)を提出する。それによれば,被告が本件明細書の記載に準じてホウ素を混合しない試料(試料B3,B5)とホウ素を0.01のモル比で混合した試料(試料B4,B6)を調製してスピネル型マンガン酸リチウムを製造したところ,これを正極材料とするコイン型非水溶媒二次電池は次の特性を示したというのである。試料B3試料B4試料B5試料B6初期放電容量941029298[mAh/g] 高温保存容量36.859.420.156.1維持率[%]サイクル容量95.398.093.499.2維持率[%]上記のうちホウ素を含まない試料B3及び試料B5と本件明細書の実施例1~26(甲1の2)を対比すると,本件明細書の実施例における初期放電容量109~122mAh/gを大きく下回る94及び92mAh/gとなっている。また,高温保存容量維持率は,本件明細書の実施例が71~89%であるのに対し,被告の実験結果では20.1%及び36.8%という不自然に低い値になっている。一方,ホウ素を含む試料B4及び試料B6についての被告の実験結果の数値を,被告が出願人となって登録されたスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物の特許(特許第5199522号。乙24。その生産物は,マンガンの一部がホウ素により置換されるほかは本件特許を実施することにより得られる生産物と概ね一致すると解してよいものである。)の明細書に記載された実施例1~11における初期放電容量及び高温保存容量維持率と比較すると,特に高温保存容量維持率(59.4%及び56.1%)が上記特許の実施例の数値(88~97%)を大きく下回る不自然なものとなっている。このような差異が生じた原因は明らかではないが,被告により行われた実験の条件や過程に看過し得ない疑問を投げ掛けるものであって,上記実験結果を根拠として,上記(3)に認定したところ以上に,ホウ酸添加工程を伴う製造方法により製造されたスピネル型マンガン酸リチウムがこれを伴わない方法により製造されたものよりも高品質のものであり,顧客の購入動機に大きく寄与しているという事実を認めることはできないものといわざるを得ない。 したがって,被告の上記③の主張も採用することができない。

6結論よって,主文のとおり判決する。なお,主文第1項ないし第3項の請求について仮執行宣言を付するのは相当でないから,これを付さないこととする。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官 清野正彦
裁判官 植田裕紀久 (別紙)録被告方法目電解二酸化マンガン(電析した二酸化マンガンをナトリウム化合物で中和し、pHを2以上とすると共にナトリウムの含有量を0.12ないし1重量%としたもの)に、リチウム原料と、上記マンガンの3ないし10モル%がアルミニウムで置換されるようにアルミニウム化合物とを加えて混合し、750℃以上の温度で焼成して、スピネル型マンガン酸リチウムを製造する方法。 (別紙)
物件目録被告方法目録記載の方法で生産したリチウムイオン二次電池用スピネル型マンガン酸リチウム(LMO=Lithium Manganese Oxide)。

出典: 平成24年(ワ)第30098号 裁判所ウェブサイト掲載の判決文 →

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