標準化とは、例えばボルトとナットが適切に嵌ったり、通信機器同士が互いに通信できたりするように、一定のルールに従って形状や寸法などの規格や仕様を定め、互換性を確保して安全に利用できるようにすることです。
技術が標準化されると、多くのメーカーが同じ仕様で製品を作れるようになり、市場は一気に拡大します。一方で、標準化によって競合が増えたり、価格競争が激しくなったりと、デメリットもあります。
この記事では、
- そもそも「標準化」とは何か
- 標準化のメリット・デメリット
- 企業の標準化戦略の活用事例(Blu-ray Disc・QRコードなど)
- 標準化と特許・商標などの知的財産権との関係
- 自社で標準化を活用する際の考え方
を、知財の視点も交えながら整理していきます。
標準化とは
標準化とは、一定のルールに従って形状や寸法などの規格や仕様を定め、互換性を確保して安全に利用できるようにすることです。
例えば、乾電池の大きさや電圧が標準化されていることで、どのメーカーの乾電池でも同じリモコンやおもちゃに安心して使うことができます。同様に標準化されることで、ボルトとナットが適切に嵌ったり、通信機器同士が互いに通信できたりします。
標準化のメリットとデメリット
標準化のメリット
標準化のメリットとして、特に次のような点が挙げられます。
- 技術が普及し、標準化された技術を用いる製品の市場が拡大する
- 部品や仕様を共通化できるため、大量生産によるコストダウンがしやすい
- ユーザーがメーカーを気にせず製品を選べるようになり、市場全体の利便性が高まる
例えば、部品の納品先ごとに仕様を変える必要がなくなれば、同じ部品を大量に生産でき、生産コストを下げることができます。
標準化のデメリット
一方で、標準化された技術はオープンになり、多くの企業が参入しやすくなります。その結果、次のようなデメリットも生じます。
- 競合他社の参入が促進され、自社シェアが下がるリスクがある
- 標準化された製品は価格競争に陥りやすく、利益率が下がる傾向がある
- 「標準仕様そのもの」では他社と差別化しにくい
このため、標準化を活用する場合は、どの部分をオープンにし、どの部分を差別化要素として守るのかを設計することが重要です。
標準化の主なパターン
標準化の主なパターンとしては、次のようなものがあります。
- 製品そのものの仕様を標準化する
例:乾電池のサイズ、Blu-ray Disc の記録方式 など - ペアになる技術の一方を標準化する
例:QRコード(コード側の仕様)を標準化し、リーダ側で収益を上げる - 機器同士をつなぐインターフェイス部分を標準化する
例:デジタルカメラとプリンタ間のファイルシステム - 性能基準や評価方法を標準化する
例:金属と樹脂の接合技術に関する強度評価方法
どの部分を標準化し、どの部分を自社の「コア技術」として守るかによって、取るべきビジネスモデルも変わってきます。
企業における標準化戦略の活用事例
パナソニック・ソニーが主導した Blu-ray Disc の仕様標準化

パナソニック株式会社やソニー株式会社を中心とする Blu-ray Disc の規格策定団体が、Blu-ray Disc の仕様を標準化しました。
標準化された Blu-ray Disc を作るには、パナソニック株式会社などが保有する特許を使わざるを得ません。このように、標準化された製品を作るのに必ず利用しなければならない特許のことを標準必須特許(SEP)といいます。
標準化された技術は多くの企業が使えるようにする必要があるため、標準必須特許のライセンスは、無償または「非差別的かつ合理的な条件(FRAND 条件)」で提供されるのが原則です。
この仕組みにより、Blu-ray Disc 自体は広く普及し、市場拡大が進む一方で、特許ライセンス収入や関連機器の販売によって収益を確保するモデルが成立しています。なお、Blu-ray Disc の規格ロゴについては商標を取得し、模倣品を排除しています。
デンソーの QRコードの基本仕様の標準化

株式会社デンソー(現:株式会社デンソーウェーブ)は、QRコードと QRコードリーダ(QRコードの読み取り機)というペアになる技術のうち、QRコード側の基本仕様を標準化しました。
QRコードの標準必須特許の使用料を無償とすることで市場の拡大を図り、ペアとなる QRコードリーダなどの機器販売で収益を確保しています。ペア技術の一方を標準化し、他方で収益を上げるビジネスモデルの好例です。
なお、「QRコード」は株式会社デンソーウェーブの登録商標であり、名称とロゴについては商標権で保護されています。
デジタルカメラのファイルシステムの標準化

キャノン株式会社などが参加しているカメラ映像機器工業会は、デジタルカメラやプリンタなどの機器間で画像のやり取りをできるように、ファイル名の付け方やフォルダ構成を規定したファイルシステムの規格を標準化しています。
例えば、キャノンのデジタルカメラとエプソンのプリンタといった異なるメーカー同士でも、画像のやり取りができるようにするため、他社製品とのインターフェイス部分の仕様を標準化しています。これにより、ユーザーはメーカーを気にせず製品を選べ、市場全体の拡大につながります。
一方で、カメラのレンズなど、カメラメーカーにおける競争力の源泉となるコア技術は秘匿化・差別化しておくことで、デジタルカメラ自体の価格下落を抑え、各社の競争力を維持しています。
大成プラスの金属と樹脂の接合技術における強度評価方法の標準化
大成プラス株式会社は、金属と樹脂の接合技術を開発し、その接合強度の評価方法を標準化しました。
大成プラス株式会社にしかできない接合技術に関する評価方法を標準として位置づけることで、自社技術の性能を客観的に証明でき、他社との差別化を図っています。評価方法そのものを標準にすることで、「この基準で評価できるのは自社だけ」という形で優位性を確保している事例です。
標準化と知的財産権の関係
ここまで見てきた事例からも分かるように、標準化と知的財産権(特許・商標など)は切り離せません。ポイントを整理すると、次のようになります。
- 特許:標準必須特許(SEP)としてライセンス収入や交渉力の源泉になる
- 商標:標準ロゴや名称を商標として保護し、模倣品を排除する
- ノウハウ・営業秘密:標準化しないコア技術は秘匿化し、差別化と利益率を守る
標準化を進めるときは、「すべてをオープンにする」のではなく、
どの部分を標準として公開し、どの部分を知財として守るのか
を設計することが重要です。Blu-ray Disc や QRコードのように、標準化と特許・商標の活用を組み合わせることで、「市場拡大」と「収益確保」の両立を図ることができます。
標準化を活用するためのポイント
標準化をうまく活用して競争力を高めるには、次のような視点が役立ちます。
- 競争力の源泉となるコア技術は守る
レンズ設計やアルゴリズムなど、自社の強みそのものは特許・ノウハウで保護する。 - 市場拡大に直結する部分を標準化する
インターフェイスやデータ形式など、他社とつながることで市場が広がる部分は積極的に標準化する。 - 標準化とビジネスモデルをセットで考える
「どの部分でライセンス収入を得るのか」「どの部分の製品・サービス販売で回収するのか」をあらかじめ設計する。
一言でまとめると、競争力の源泉となる部分以外の技術を標準化しつつ、標準化によって市場の獲得・維持を図れるビジネスモデルを構築することがポイントです。
標準化できる技術があるか検討してみよう
標準化を事業戦略に活かすことで、製品やサービスの市場を大きく拡大できる可能性があります。その一方で、標準化の範囲を誤ると、価格競争に巻き込まれてしまうリスクもあります。
自社の技術やサービスについて、
- 製品の仕様として標準化できる部分はないか
- ペアになる技術の一方だけを標準化できないか
- 他社製品とのインターフェイス部分を標準化できないか
- 自社独自の性能基準や評価方法を標準化できないか
といった観点から、一度棚卸ししてみるのも良いでしょう。
標準化をどこまで進めるべきか、どこを特許やノウハウとして守るべきかは、業種やビジネスモデルによって最適なバランスが変わります。自社の技術やサービスについて、標準化と知財戦略の方向性を整理したい場合には、当サイトの無料相談もご活用ください。
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この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)








