「新しく開発したイチゴの品種をブランド化したい」「新品種について、品種登録と商標登録をどう使い分ければいいのかが分からない」──そんなお悩みを持つ生産者さん・苗生産者の方が、このページにたどり着いていると思います。
この記事では、新品種を守るときの「品種登録」と「商標登録」の違いと使い分けを、イチゴの「あまおう」「とちおとめ」などの事例を交えながら整理します。
先にポイントだけまとめると、次のようなイメージです。
- 品種登録 … 新品種そのもの(苗・果実・花など)を守る権利。一定期間だけ独占的に生産・販売できる
- 商標登録 … 新品種につけるブランド名(商品名)を守る権利。更新を続ければ半永久的に使い続けられる
- 両方を組み合わせると、新品種の「中身」と「名前」の両方からブランド価値を守りやすくなる
「品種登録と商標登録の違い」「品種とは?品種名とは?」「登録商標とは?」といった基礎用語も合わせて解説しますので、新品種の保護やブランド化を考える際の整理にお役立てください。
1. まずは用語の整理|品種・品種名・商標・登録商標
まずは、「品種」「品種名」「商標」「登録商標」といった基本用語の意味を押さえておきましょう。ここが整理できていると、このあと出てくる「品種登録」と「商標登録」の違いもぐっと分かりやすくなります。
1-1. 品種とは?新品種とは?
品種とは、ある植物について、形・色・収量・耐病性などの特徴が共通している、同じタイプの植物をひとまとめにしたグループのことです。たとえば「とちおとめ」「コシヒカリ」「シャインマスカット」など、農作物ごとに多くの品種があります。
新品種とは、既存の品種にはない特徴を持つように育成された、新しい品種のことです。新品種を育成した人(育成者)は、一定の条件を満たせば品種登録により権利を得られます。
1-2. 品種名とは?
品種名は、品種登録の際に登録する、「その品種を特定するための名前」です。
例:
- イチゴ「あまおう」 … 品種名は「福岡S6号」
- イチゴ「とちおとめ」 … 品種名「とちおとめ」として品種登録
このように、品種名と、店頭でのブランド名(商品名)が同じとは限りません。後で説明しますが、品種登録した品種名はそのまま商標登録できないケースが多いため、「品種名」と「ブランドとして見せたい名前(商品名)」は分けて考えることが重要です。
1-3. 商標・登録商標とは?
商標は、商品やサービスにつける名前・ロゴなどの総称です。消費者が「このマークならあの商品だ」と識別できる目印の役割を果たします。
登録商標とは、その商標について特許庁に出願・登録され、商標権が発生しているものを指します。
「商標」と「登録商標」の違いは何かというと、登録の有無(権利の有無)の違いです。
- 商標 … 名前そのもの(出願前も含む)
- 登録商標 … 商標登録が完了し、権利が発生している状態(®マークを付けられる)
新品種をブランド名で差別化したい場合、このブランド名を商標出願して商標登録しておくことが重要になります。
2. 品種登録とは|新品種そのものを守る制度
品種登録は、新しく育成した植物の品種について、育成者が一定期間、種苗や収穫物・加工品の生産や販売を独占できるようにする制度です(種苗法にもとづく制度で、申請先は農林水産省)。
2-1. 登録できる対象と保護される内容
新品種について品種登録が認められると、原則として次のような行為を独占的に行うことができます。
- 登録品種の苗や種子の生産・販売
- 登録品種から収穫した果実・穀物・花などの生産・販売
- 登録品種を原料にした加工品の販売(一定の範囲内)
許可なく登録品種を増殖・販売すると、品種権の侵害になる可能性があります。つまり、新品種そのものの「中身」を守る仕組みが品種登録です。
2-2. 保護期間(有効期限)の目安
品種登録には有効期限があります。植物の種類などにより異なりますが、おおむね次の期間が多いです。
- 通常の農作物・花など … 登録から25年
- 果樹・森林の樹木など … 登録から30年
この期間を過ぎると、品種権は消滅し、誰でも自由にその品種を栽培できる(いわゆる「特許切れ」のような状態)になります。
3. 商標登録とは|新品種につける名前(ブランド名)を守る制度
商標登録は、商品やサービスにつける名前・ロゴなどについて、特許庁に出願・登録することで、その名前を独占的に使える権利(商標権)を得る制度です。
新品種に関係する場面では、「果物の名前」「苗に付けるブランド名」「加工品のブランド名」などを商標として登録することになります。
3-1. 何を守れるのか
商標登録によって守られるのは、品種そのものではなく、名前(ブランド)です。例えば、次のようなイメージです。
- イチゴの果実や苗を売るときに使うブランド名(例:「あまおう」などの名前)
- 新品種を使ったお菓子・スイーツ・飲料のブランド名
- 苗木販売に使うブランド名・ロゴマーク など
このブランド名について商標登録しておけば、同じ分野で他社が同じ・紛らわしい名前を使うのを止めやすくなるというメリットがあります。
3-2. 商標登録の有効期間
商標登録の有効期間は10年ですが、10年ごとに更新手続を行えば、何度でも更新できます。つまり、ブランド名については、更新を続ける限り半永久的に独占的に使い続けられるということです。
ここが、25年・30年で終わってしまう品種登録との大きな違いです。
4. 品種登録と商標登録の違いを整理
ここまでの内容を整理すると、「新品種に関する品種登録と商標登録」の違いは次のようにまとめられます。
- 何を守るか
品種登録:新品種そのもの(種苗・果実・加工品の生産等)
商標登録:新品種につける名前・ロゴ(ブランド) - どれくらい守れるか
品種登録:25年または30年程度(有効期限あり)
商標登録:10年ごとに更新すれば半永久的 - 守り方
品種登録:無断増殖・無断販売を禁止して、新品種の品質・流通をコントロール
商標登録:紛らわしい名前の使用を止めることで、ブランドの信用を守る
このように、品種登録は「中身」を守る制度、商標登録は「名前」を守る制度とイメージしていただくと分かりやすいと思います。
5. どう使い分ける?3つの基本パターン
「結局、品種登録と商標登録のどちらを取ればいいの?」という疑問に対しては、何を優先したいかで考えると整理しやすくなります。
5-1. パターン① 新品種そのものをしっかり守りたい(最低限のライン)
新品種の種苗や果実を、一定期間は限られた生産者だけで扱いたい場合、まず優先すべきは品種登録です。
- 勝手な増殖・販売を防ぎたい
- 契約した農家さんだけに栽培を許可したい
- 一定の出荷基準を守ったものだけを市場に出したい
といったニーズが強い場合、品種登録はほぼ必須といえます。
5-2. パターン② ブランドとして長く育てたい(名前を軸にした戦略)
「スーパーやギフト売場で名前を見ただけで選んでもらえるようなブランドに育てたい」という場合は、商標登録が重要になります。
- 品種名とは別に、覚えやすいブランド名を付けたい
- 新品種を使ったお菓子・飲料などの加工品ブランドも展開したい
- 将来、品種を改良してもブランド名は引き継ぎたい
このような場合は、ブランド名について商標出願して商標登録をしておくことで、長期的なブランド戦略が組みやすくなります。
5-3. パターン③ 中身も名前も守りたい(両方活用するケース)
イチゴの「あまおう」のように、新品種としての価値も、ブランドとしての価値も高めたい場合は、品種登録と商標登録の両方を組み合わせるのが有効です。
- 育成した新品種は品種登録で守る
- 市場で使うブランド名は商標登録で守る
- 特定の品質基準を満たすものだけにブランド名の使用を許可する
このようにすると、品種登録が切れたあとも、商標登録されたブランド名を軸に品質とブランド価値を守り続けることができます。
6. 事例で見る品種登録と商標登録|あまおう・とちおとめ など
6-1. あまおう|品種名とブランド名を分けて両方で保護

イチゴの「あまおう」は、品種登録と商標登録の両方を活用している代表例としてよく紹介されます。
- 品種名「福岡S6号」として品種登録し、新品種そのものを保護
- 市場でのブランド名「あまおう」について商標登録を行い、名前・ブランドを保護
このように、品種名とブランド名を分けたうえで、それぞれ適切な制度で守ることで、ブランド価値を長期的に維持しやすくなります。
6-2. とちおとめ|品種名そのものを品種登録しているケース
日本で長く親しまれているイチゴの「とちおとめ」は、品種名「とちおとめ」として品種登録されていました(現在は品種登録の期限は切れています)。
このように品種名と市場での呼び名が同じ場合、もし今からブランド化を図るのであれば、
- 品種登録:品種名「とちおとめ」で新品種を守る
- 商標登録:別に考えたブランド名で商標を取る
というように、「品種名」と「商標としてのブランド名」を分けて考える必要があります。
実際の現場でも、「品種登録した品種名は商標登録できない」というルールを知らずに、後からブランド戦略を練り直さざるを得ないケースが見られますので注意が必要です。
6-3. 他の果物にも共通する考え方
ブドウやミカン、米など、他の農作物でも新品種をどう守り、名前をどう守るかという考え方は共通です。
迷ったときは、
- これは品種そのものを守りたい話なのか
- それとも名前・ブランドを守りたい話なのか
という2つの切り口で整理すると、どの制度を使うべきかが見えやすくなります。
7. よくある質問
Q1. 品種登録とは何ですか?
A. 新しく育成した植物の品種について、種苗や収穫物などの生産・販売を一定期間独占できるようにする制度です。
育成者(新品種を作った人)が農林水産省に申請し、登録が認められると、登録品種の苗や果実を、許可なく増やしたり販売したりすることを禁止できます。保護期間は多くの場合25年または30年で、期限を過ぎると誰でも栽培可能になります。
Q2. 品種名と商品名(ブランド名)の違いは?
A. 品種名は「その品種を特定するための名前」、商品名(ブランド名)は「市場での呼び名」です。
例えば、「あまおう」の場合、品種名は「福岡S6号」、市場でのブランド名が「あまおう」です。品種登録では品種名を、商標登録ではブランド名(商品名)を扱うのが基本になります。
Q3. 品種登録した品種名を、そのまま商標登録できますか?
A. 原則としてできません。
品種登録された品種名は、その品種を示す一般的な名称とみなされるため、商標としては保護が認められません。そのため、品種名とは別にブランド名を考え、そのブランド名で商標登録するのが望ましい運用になります。
Q4. 品種登録の期限が切れたらどうなりますか?
A. その品種は誰でも自由に栽培・販売できるようになります。
品種登録の有効期限(25年または30年)が過ぎると、品種権は消滅します。ただし、ブランド名について商標登録しておけば、その名前を使って販売できるのは引き続き商標権者に限られます。
つまり、品種登録が切れた後も、商標を軸にブランド価値を守り続けることが可能です。
Q5. 品種登録と商標登録はどちらを先にすべきですか?
A. 新品種としての保護を急ぎたい場合は「品種登録」が先行することが多いですが、ブランド戦略とセットで考えるのがおすすめです。
実務的には、
- まず新品種としての特徴を整理し、品種登録の要件を確認する
- 同時に「どんなブランド名で売り出したいか」を決め、商標の空き状況を調査する
- 条件が整えば、品種登録と商標登録を並行して進める
という流れがスムーズです。どちらを優先すべきか迷う場合は、早めに専門家に相談されることをおすすめします。
8. まとめ|新品種の「中身」と「名前」をどう守るかを設計しよう
この記事で見てきたように、新品種に関する品種登録と商標登録には、役割と得意分野の違いがあります。
- 品種登録 … 新品種そのもの(種苗・収穫物・加工品)の生産・販売を一定期間独占できる制度
- 商標登録 … 新品種につけるブランド名を半永久的に独占できる制度
- 両方を組み合わせることで、新品種の品質とブランド価値を長期的に守りやすくなる
「新品種の種苗等を守りたい場合は品種登録、新品種のブランド化を図りたい場合は商標登録」という基本を押さえたうえで、自分たちの品種をどのように位置づけたいのかに応じて、どの制度をどう活用するかを検討してみてください。
品種登録・商標登録の使い分けや、新品種のブランド価値をどのように守っていくかでお悩みの場合には、当サイトの無料相談もご利用いただけます。
具体的な状況をお伺いしながら、「どこまで品種登録を検討すべきか」「ブランド名はどう設計するか」などを一緒に整理していきましょう。
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この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)







