「日本の特許制度は『先願主義』で、1日でも早く出願した人が優先されるルールです。」 このルールがあるため、実務において「どの段階で出願に踏み切るか」は、その後の展開を左右する重要な分岐点となります。
たとえば画期的なアイデアがあるなら、まずは一刻も早く出願するのが定石です。 そのアイデアが画期的であればあるほど、将来的な市場価値は計り知れません。その利益を確実なものとして独占するためには、1日も早い出願が不可欠です。
しかし、ここに実務上の悩ましいジレンマがあります。 権利化を急いで「検証不足のまま」出願しては、後から判明した重要な改良点を取りこぼす恐れがあります。かといって、じっくり試作をして完璧な状態を目指そうとすれば、開発の遅れで他社に先を越されたり、外部への発注でアイデアが流出したりするリスクが高まります。
「とりあえず急ぐべきか、それとも質を高めるべきか」。 この「スピード」と「質」のトレードオフを、当事務所の「弁理士法に基づく守秘義務」と「所内完結の3D試作」でどう解決するか、その戦略的なタイミングについて解説します。
特許戦略の前提となる「先願主義」と「新規性」のルール
まずは、知財戦略を考える上で避けて通れない「先願主義」と「新規性」の関係について整理します。
1日でも早い出願が有利になる「先願主義」
日本の特許制度は、同じ発明であれば「1日でも先に書類を出した人」に権利を与える「先願主義」を採用しています。 そのため、独自性のある優れた着想(コアとなるアイデア)があるならば、まずは出願を行い、その時点での「出願日」を確保することが鉄則です。ここを躊躇して他社に先に出願されてしまえば、元も子もありません。
外部での試作が招く「新規性喪失」のリスク
一方で、着想を具体的な製品レベルに落とし込むためには、試作や実験が欠かせません。 しかし、ここで問題になるのが「新規性」です。出願前に、守秘義務のない外部業者へ試作データを渡したり、製品を見せたりしてしまうと、その時点で「公知の技術」となり、自分自身の権利化を阻害する要因となります。
つまり、「具体化(試作)は進めたいが、外部に漏れると知財戦略上の致命傷になる」という状況が発生します。
なぜ「構想段階」のままでは不十分なのか
「とりあえず着想だけで出願しておけば安心」と考える方もいるかもしれませんがが、それだけではビジネスを守る「強い特許」にはなりにくい場合があります。
特許の権利範囲を支える具体例の不足
特許出願においては、独占したいアイデアの範囲を定める「特許請求の範囲」と、そのアイデアが実現可能であることを裏付ける「発明の詳細な説明」という2つの書類が必要です。 机上の検討(構想段階)だけで書いた書類は、どうしても具体例(実施例)が乏しくなりがちです。その結果、審査官から「実現できるのか疑わしい(実施可能要件違反)」などを指摘されたり、権利範囲が大幅に狭められたりするリスクがあります。
試作で見つかる「改良」が権利をより強くする
実際に3Dプリンター等で試作を行ってみると、机上の検討では見えなかった課題が浮かび上がってくることがあります。
「強度が足りないのでリブを追加した」「組み立てやすくするために形状を変えた」といった試作を通じて得られた現実的な改良案が、結果として競合他社の模倣(抜け道)を防ぐための「防波堤」になったりもします。
なぜなら、特許化されたアイデアが魅力的であればあるほど、ライバル企業は「特許権を侵害せずに、同じ利益を得られる別の方法(回避策)」を必死で探してくるからです。
もし、試作を省略して「一番使いやすい形状(改良点)」を権利として押さえ損ねたらどうなるでしょうか? ライバルは、その「一番使いやすい形状」を採用することで、張り巡らせた特許網を巧みにすり抜け、堂々と似たような商品を販売してしまうリスクがあるのです。
そうさせないためにも、誰かに見つけられる前に、自ら試作をして「一番使いやすい形状」を見つけ出し、権利として押さえておくことが重要なのです。
最初の出願で「着想」を確保し、その後の試作で得られた「改良」を後から追加して権利を補強する(国内優先権主張など)。こうした戦略的なプロセスをスムーズに進めるためにも、安全な環境での迅速な試作が重要になります。
弁理士が直接行う3D試作が「安全」かつ「合理的」な理由
「試作はしたいが、外部に出すと情報管理が不安」。 この課題を解消するのが、当事務所が提供する「弁理士による3Dプリント試作」です。
弁理士法第30条が担保する「契約不要の機密保持」
通常、試作業者と秘密保持契約(NDA)を結ぶには、契約書の確認や調整に時間を要します。しかし、弁理士には法律(弁理士法第30条)によって厳しい守秘義務が課されています。
特別な契約を交わさずとも、相談した瞬間から法律によってアイデアの秘密が守られます。 これにより、タイムロスなく試作に着手し、検証結果をスピーディーに出願内容へ反映させることが可能です。
外部流出の経路を断つ「所内完結」の運用
当事務所では、お預かりした3Dデータ等を外部へ再委託することはありません。事務所内に設置した3Dプリンターを使用し、弁理士自身が造形・検証を行います。 データが外部サーバーや第三者の目に触れることがない「所内完結」の環境であるため、出願前の極めてデリケートな段階であっても、安心して具体化のプロセスを進められます。
「出願日の確保」と「具体化」を両立させる戦略ルート
安全性とスピードを両立させるため、当事務所では以下のような戦略的サポートを行っています。
過剰な仕上げを省いて検証を高速化する
出願段階の試作において、見た目の美しさは重要ではありません。重要なのは「思い通りに動くか」を確認すること、ただ1点です。
当事務所の「触れる試作パック(8.7万円〜)」は、弁理士自身が試作を行うことで「この構造なら、こういう権利の取り方ができる」「ここを工夫すれば、他社の回避を防げる」といった、権利化の方向性を決定づけるアドバイスをセットで提供できる点に最大の特徴があります。
通常、外部の試作業者に頼むと、完成した試作品を弁理士に見せながら、構造や特徴をイチから説明し直さなければなりません。この過程で、どうしても「細かな改良点」や「発明のニュアンス」が伝わりきらず、情報の抜け漏れが発生しがちです。
しかし当事務所なら、「試作を作った本人」がそのまま「特許の書類」を書くため、重要なポイントを一切の抜け漏れなく権利に反映できます。
この「試作と出願の連携」こそが戦略の要です。 コストや時間を抑えられるだけでなく、「まずはアイデアだけで出願して『日付』を確保し、後から試作の成果を『上乗せ』して権利を完成させる」という理想的なサイクルを、最も質の高い状態で回すことができるのです。
試作の気づきを特許出願に反映する
試作を行えば、当初は想定していなかった新たな発見(発明)が生まれることも珍しくありません。当事務所であれば、試作で見つかった改良点を、弁理士が即座に特許出願へ落とし込むことが可能です。
- 安全な環境で試作を行う
- 「着想」だけでなく、実用的な「改良点」まで網羅する
- 他社が回避困難な、骨太な権利を取得する
技術と法律の両面から、お客様の発明の価値を最大限に高めます。
よくある質問
Q. 3Dデータがなく、手書きのイラストしかありませんが依頼できますか?
A. はい、可能です。
簡単な手書き図面や、ヒアリングでお伺いした内容を元に、当事務所で3Dデータを作成いたします(データ作成費は別途お見積り)。弁理士が発明の意図を汲み取りながらデータ化するため、その後の出願手続きもスムーズに進められます。
Q. まだ出願するか決めていませんが、「試作のみ」の依頼は可能ですか?
A. はい、試作のみのご依頼も承っております。
「まずは作ってみて、事業化できそうなら出願する」という判断材料としてご活用ください。弁理士法に基づく守秘義務があるため、試作の結果が出願に至らなかった場合でも、アイデアが外部に漏れる心配はありません。
Q. 試作から出願まで、どのくらいの期間がかかりますか?
A. 試作の規模にもよりますが、最短で1週間程度での検証が可能です。
一般的な試作代行業者とは異なり、試作の完了と同時に弁理士が発明の内容を完全に把握している状態となるため、試作完了から出願までのリードタイムを大幅に短縮できます。
Q. 試作の結果、思い通りに動かなかった場合はどうなりますか?
A. 「出願前に課題が見つかった」ことは、ある意味で成功と言えます。
実現不可能なアイデアへの無駄な出願費用を抑えられるほか、その失敗を糧に「どう改良すれば動くか」を弁理士と一緒に検討し、より実現性の高い発明へと方向転換することが可能です。
アイデアを「権利」に変えるタイミングに迷ったら
手元にあるアイデアは、今すぐ出願すべき段階なのか。それとも、試作をしてデータを補強すべき段階なのか。 その判断には、技術的な完成度だけでなく、「今の内容で権利化できそうか」「具体例不足で権利が狭くなってしまわないか」といった、専門的な視点が欠かせません。
まずは「30分のオンライン無料相談」で、現在の状況をお聞かせください。着想の良さを活かしつつ、将来的にビジネスを守れる強い権利を取得するためのロードマップを一緒に描きませんか?
なお、本記事でご紹介した「試作プラン」の具体的な内容や料金については、以下からご確認いただけます。
関連記事
次の一歩
- 特許の基礎と実務ガイド 特許全体の流れを整理したい方はこちら。
- 知財・試作・商標価値評価の総合ガイド 全体像を俯瞰したい場合はこちらをご覧ください。
- 無料相談(30分) 状況に合わせて「試作と出願のベストタイミング」を一緒に検討します。
この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)













