海外子会社への商標移転、評価額が高すぎて「詰んだ」時の打開策|無理な譲渡を回避するライセンスと新ブランド戦略

海外子会社への商標移転、評価額が高すぎて「詰んだ」時の打開策:無理な譲渡を回避するライセンスと新ブランド戦略|弁理士が解説 知育特許事務所

海外子会社に商標権を集約したい。海外展開が進むにつれて、こうしたニーズが出てくる場合があります。

しかし、いざ譲渡に向けて専門家に商標の時価を算出してもらうと、思いもよらない結果が出ることがあります。「時価が数億円」──ブランドが育ち、売上が大きくなっている商標ほど、評価額は跳ね上がります。

海外子会社への商標の譲渡では、移転価格税制(租税特別措置法66条の4)により、たとえ100%の親子関係であっても時価(独立企業間価格)での取引が必要です。つまり、算出された数億円規模の評価額が、そのまま譲渡コストに直結します。

正当な時価で売買すれば、子会社は数億円の資金を用意しなければなりません。かといって安い価格で譲渡すれば、日本側に寄附金課税(法人税法37条)、現地側に受贈益課税が発生します。譲渡価格が高すぎて商標を動かせない──事業が成功しているがゆえに、商標の譲渡が止まってしまうケースもあります。

この記事では、こうしたジレンマを解消するために、状況に応じた3つの選択肢を解説します。

※ そもそも商標を譲渡する際の価格が「実費でいいのか、時価が必要なのか」の判断基準については、「グループ会社間で商標を移転するとき、実費でいいケースと時価での譲渡が必要なケースの判定ガイド」で整理しています。

選択肢A:資金があるなら「正当な時価」で譲渡する(王道)

最もシンプルで、権利関係がクリーンになるのがこの方法です。子会社に資金的な余裕がある場合や、将来的なIPO(上場)を目指している場合は、この選択肢が第一候補になります。

完全譲渡のメリット:経営の独立性

商標権を完全に子会社に移すことで、子会社は親会社の意向に左右されず、独自のブランド戦略を展開できるようになります。

特に海外子会社自身が現地でのIPO(上場)を目指している場合、この方法はほぼ必須となります。上場審査では「企業の独立性」が厳しく問われるため、主要な商標を親会社からライセンスで借りている状態(親会社の判断ひとつでブランドが使えなくなるリスクがある状態)では、審査をクリアするのが難しいためです。

では、譲渡価格はどう決めるのか?

「お金があるから言い値で買う」のであれば簡単ですが、税務上はそうはいきません。

  • 高すぎる価格で買うと:親会社側に余計な利益が乗り、税金が増える(相手国で寄附金認定されるリスクも)。
  • 安すぎる価格で買うと:日本側で寄附金課税のリスクがある。

つまり、譲渡する場合でも「税務署に否認されない適正価格の範囲」を知るために、専門家が商標の時価を算定した評価報告書が不可欠なのです。特にIPOを目指す場合は、評価ロジックを工夫して(子会社の貢献分を控除するなど)、「適正な範囲内で、できるだけ安く譲渡する」ための根拠資料として評価書が活躍します。

海外子会社への資産の低廉譲渡(安く売ること)が「寄附金」として認定されるリスクや、その具体的な事例については、『移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ50(第2版)』(田島宏一ほか編著、中央経済社、2023年)においても、実務上注意すべきポイントとして詳しく取り上げられています。

選択肢B:商標権は親会社に残し、ライセンスで使わせる

選択肢Aのように正当な時価で譲渡したくても、高額な資金を用意できないケースは少なくありません。そんなときの現実的な解決策が、そもそも譲渡しないという選択です。

商標権は日本の親会社が保有したまま、海外子会社にはライセンス(使用許諾)を付与します。子会社は親会社の許可のもとでブランドを使い続けることができ、権利の譲渡は発生しません。

ライセンス方式のメリット

  • 譲渡にまつわる課税リスクが発生しない:権利が動かないので、譲渡価格をめぐる寄附金課税の問題が生じません。
  • ブランドの一元管理を維持できる:商標権が親会社に集約されたまま、品質管理やブランドコントロールを本社主導で行えます。
  • 親会社にライセンス収益が入る:適正なロイヤリティ(使用料)を設定すれば、親会社にとっては安定的な収益源にもなります。

ライセンス方式の注意点:ロイヤリティ料率の根拠が必要

ライセンス方式は譲渡の課税リスクを回避できますが、ロイヤリティ(使用料)の設定が不適切だと、それ自体が移転価格税制(親子会社間の取引価格が適正かどうかを税務署がチェックする制度)の対象になります。

「グループ内だからロイヤリティは形だけでいい」「ゼロでも問題ないだろう」──こうした対応は、税務署から「本来親会社が受け取るべきライセンス料を受け取らず、海外子会社に不当に利益を残している」と指摘されるリスクがあります。このようなロイヤリティ料率の適正性についても、上記の『移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ50(第2版)』等で実務上の論点として取り上げられています。

適正なロイヤリティ料率を設定するには、その商標の時価を把握しておく必要があります。「商標価値評価報告書」で時価とロイヤリティ相当額を算出しておくことが、ライセンス料率の客観的な根拠として活用できます。

選択肢C:海外子会社が「自社ブランド」を新たに育てる

譲渡(選択肢A)は資金的に厳しい、ライセンス(選択肢B)では経営の独立性が確保できない──そんなときに検討したいのが、発想そのものを変えるアプローチです。

海外子会社がIPO(上場)を視野に入れている場合や、現地市場で独自のポジションを確立する必要がある場合、親会社の商標を「もらう」のではなく、子会社自身が新しいブランドを立ち上げるという道があります。

なぜ「新ブランド」が有力な選択肢になるのか

  • IPOでは「独立性」が求められる:上場審査では、親会社への過度な依存がないかがチェックされます。商標を親会社からライセンスで借りている状態では、「親会社がライセンスを打ち切ったら事業が成り立たないのでは」という懸念が生じます。子会社が自社ブランドを持つことで、この点をクリアしやすくなります。
  • 現地市場への最適化:日本のブランド名がそのまま現地で通用するとは限りません。現地の言語や文化に合わせた新ブランドの方が、マーケティング上有利なケースは少なくありません。
  • 税務リスクがゼロ:子会社が自ら考案し、自ら出願したブランドであれば、親会社の商標を譲渡もライセンスもしていないので、譲渡価格や移転価格税制を気にする必要がなくなります。

新ブランド戦略のポイント:時間を味方につける

新ブランドの構築には時間がかかります。しかし、IPOを見据えているケースでは、上場準備には通常2〜3年のスケジュールがあります。この期間を「新ブランドの立ち上げ・浸透期間」として戦略的に活用できるのです。

たとえば、以下のようなスケジュール感で進めることが考えられます。

時期アクションブランド状態
1年目新ブランドの商標出願・登録。親会社ブランドと新ブランドの併用(ダブルブランド戦略)を開始親会社ブランド=主、新ブランド=従
2年目新ブランドへの切り替えを段階的に進め、市場認知を高めていく新ブランドの認知度が上昇
3年目(上場準備期)新ブランドでの事業実績が蓄積。「親会社ブランドに依存しない独立した事業」として上場審査に臨める状態に新ブランド=主(自立)

この戦略を選ぶ場合にも、「なぜ親会社の商標を譲渡せず、新ブランドを立ち上げるのか」という意思決定の根拠として、現行ブランドの価値評価が役立ちます。「譲渡コストが○億円かかるのに対し、新ブランドの立ち上げコストは○千万円」──こうした比較資料があれば、経営会議や取締役会での意思決定がスムーズに進みます。

どの選択肢を選ぶにも「まず評価する」が出発点

選択肢Aの譲渡か、選択肢Bのライセンスか、選択肢Cの新ブランドか、あるいはその組み合わせか──どのルートが自社にとって最適かは、「今の商標がいくらの価値を持っているか」がわからなければ判断できません。

  • 適正価格の譲渡を選ぶ場合:適正な譲渡価格の根拠になる。
  • ライセンスを選ぶ場合:適正なロイヤリティ料率の根拠になる。
  • 新ブランドを選ぶ場合:「譲渡コスト ○億円 vs 新ブランド構築コスト ○千万円」の比較で、経営判断の根拠になる。
  • まだ方針が決まっていない場合:評価額が出れば、譲渡した場合の税務コストが具体的な数字で見え、どのルートが現実的かの判断材料になる。

つまり、評価報告書は「いくらで売れるか」を知るためだけのものではなく、「次にどう動くか」を決めるための経営判断ツールとなります。

なお、「親会社の商標を放棄して子会社に取り直させれば、お金をかけずに商標を子会社に移せるのでは?」というアイデアが浮かぶこともあるかもしれません。しかし、これは税務上のリスクが非常に高い方法です。詳しくは「商標を「放棄」して子会社に「再出願」させれば高額な譲渡価格を回避できる?──税務署に「実質的な贈与」と認定されるリスクと回避策」で解説していますので、安易に進める前に必ずご確認ください。

よくある質問

Q1. ライセンス方式と新ブランド、どちらが一般的ですか?

A. 多くのケースでは、まずライセンス方式が検討されます。既存ブランドの認知度をそのまま活用でき、子会社側の事業に影響を与えずに進められるためです。一方、子会社のIPOや事業売却が具体的に見えている場合には、ライセンスへの依存を解消するために新ブランドの構築が選択されることがあります。両方を段階的に組み合わせるケースもあります。

Q2. 国内の100%子会社への譲渡でも、同じ問題が起きますか?

A. 国内の100%完全親子間(間接保有を含む完全支配関係)であれば、グループ法人税制により簿価(会社の帳簿に載っている金額)での譲渡が認められるケースが多いため、「評価額が高すぎて譲渡できない」という問題は通常発生しません。ただし、具体的な適用条件については、税理士等の税務の専門家にご確認ください。ケース別の判断基準は「グループ会社間で商標を移転するとき、実費でいいケースと時価での譲渡が必要なケースの判定ガイド」で整理しています。

Q3. 評価報告書の作成にはどのくらい時間がかかりますか?

A. 弊所では、最短5営業日で作成しています。必要な情報(売上データ等)をご提供いただければ、ロイヤリティ免除法(RFR法)に基づいて商標の時価を算出し、レポートとしてお渡しします。ライセンス料率の根拠資料としても、新ブランド戦略との比較資料としても、そのまま活用いただけます。

まとめ ──「高すぎて譲渡できない」は、選択肢を広げるチャンス

商標の評価額が高すぎて譲渡できない──一見するとプロジェクトの「行き止まり」に見えますが、実はそこから選択肢が広がります。

  • ライセンス方式で、権利は親会社に残しつつ子会社にブランドを使わせる
  • 新ブランド戦略で、子会社の独立性を確保しながらIPOに備える
  • どちらを選ぶにも、まず評価して「数字」を把握することが出発点

「海外子会社への商標の譲渡が止まっている」「評価額が高すぎて、どう進めればいいかわからない」──こうした状況でお悩みの方は、まず弊所の無料相談で状況を整理するところから始めましょう。評価結果をもとに、ライセンス・新ブランド・その組み合わせなど、最適な進め方をご提案いたします。

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※本記事に関する免責事項:本記事は、商標権の移転・ライセンスに関する実務上の選択肢を、知財の専門家(弁理士)の立場から整理したものです。税務に関する記述は、『移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ50(第2版)』(田島宏一ほか編著、中央経済社、2023年)および『Q&A 知的財産権取引の国際課税・国内課税』(手塚崇史著、清文社、2010年)等の公開文献に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断・税務申告上のアドバイスを行うものではありません。具体的に進める際は、税理士等の税務の専門家および現地の知財専門家と連携のうえ、個別の状況に応じた判断を行ってください。

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参考文献

  • 田島宏一ほか編著『移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ50(第2版)』(中央経済社、2023年)
    ※ 海外子会社への無形資産譲渡における独立企業間価格の算定(事例29、P.131)、国外関連者への寄附金の全額損金不算入(P.17)、グループ会社間のロイヤルティ料率の妥当性(事例25、P.112)等を参照しています。
  • 手塚崇史『Q&A 知的財産権取引の国際課税・国内課税』(清文社、2010年)
    ※ 寄附金認定等の基本的な法解釈の参考として引用しています。移転価格税制等の最新の運用については税理士等にご確認ください。

この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

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米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。