「自社の製品が他社の特許に抵触しているかもしれない」「特許侵害と言われたらどう回避すればいいのか不安」──そんな場面で検討できる選択肢を、弁理士の立場から6つに整理します。
特許権侵害を回避する方法として、次の①~⑥があります。
①特許権侵害の可能性がある製品やサービスの設計を変更する。②特許権侵害の可能性がある製品やサービスを廃止する。③特許権を消滅させる。④特許権の使用許諾を得る。⑤特許権を買い取る。⑥特許権を保有する会社を買収する。
特許権を保有する相手との交渉は見通しが立ちにくいため、まずは設計変更や特許権の消滅(無効化など)、交渉のいらない選択肢から検討するのが基本です。
特許権侵害を回避する6つの方法【対処法の全体像】
特許権侵害を回避する6つの方法は、特許権侵害の可能性がある製品やサービスにアプローチして回避する2つの方法と、特許権そのものにアプローチして回避する4つの方法に分かれます。
特許侵害を回避する方法①:製品・サービスの設計変更

特許権で守られている発明を使わないように製品やサービスを設計変更することで、特許権侵害を回避できます。
具体的には、特許権で守られている発明の内容を特許公報で確認します。特許公報の【特許請求の範囲】には、特許が認められた発明が書かれています。【特許請求の範囲】に書かれた発明と同じ製品を製造販売したり、サービスを提供したりすると特許権侵害になる可能性があるため、【特許請求の範囲】に書かれた発明と違うものになるように製品やサービスを設計変更します。
特許権侵害になるか否かについては、他人の特許に抵触しているかを簡易に判断するためのポイントの記事を参考にして下さい。
特許侵害を回避する方法②:特許権侵害の可能性がある製品・サービスの廃止

特許権侵害の可能性がある製品やサービスを廃止することで、特許権侵害を回避できます。特許権侵害の可能性がある製品やサービスを扱えなくなる消極的な方法ですが、製品やサービスの廃止後の行為は特許権侵害になりません。
特許侵害を回避する方法③:特許権を消滅させる(無効化など)
特許権を消滅させて特許権の効力をなくすことで、特許権侵害を回避できます。
例えば、特許出願前から世の中にあった発明と同じものに特許権が認められている場合は、誤って特許権が認められています。そのため、特許権が認められない証拠を集めた上で、特許権を消滅させる手続きをして特許権を消滅させると、特許権侵害を回避できます。
なお、特許権を消滅させる手順とポイントについては、他人の特許を無効にする手順とポイントの記事を参考にして下さい。
特許侵害を回避する方法④:特許権の使用許諾(ライセンス)を得る
特許権を保有する相手に使用料を払うことで、特許権で守られている発明を使える権利を手にすることができ、特許権侵害を回避できます。支払う使用料の額については、特許権を保有する相手との交渉で決まります。
特許侵害を回避する方法⑤:特許権を買い取る
特許権を保有する相手から特許権を買い取ることで特許権侵害を回避できます。特許権の買取価格は、特許権の価値や特許権を保有する相手との交渉で決まります。
特許侵害を回避する方法⑥:特許権を保有する会社を買収する
特許権を保有する会社を買収することで、買収した会社とともに、買収した会社が保有する特許権を手にすることができ、特許権侵害を回避できます。
優先して検討すべき特許権侵害の回避方法【検討の順番】
特許権の使用許諾を得る方法や特許権を買い取る方法などは、特許権を保有する相手との交渉が必要となり見通しが立ちにくいため、まずは製品やサービスの設計変更をして特許権侵害を回避する方法や、特許権を消滅させて特許権侵害を回避する方法を優先して検討すべきです。
また、特許権を消滅させて特許権侵害を回避する方法を検討する中で、特許権が認められない証拠を探し、そこで見つかった証拠を交渉材料に、特許権の使用許諾や買取交渉を有利に進めることができる場合もあります。そのため、相手との交渉の必要がない方法を優先して検討すべきです。
よくある質問
Q1. 特許侵害を回避したいとき、まず何から確認すべきですか?
まずは、相手の特許公報の【特許請求の範囲】を確認し、「どこまでが権利として主張されているのか」を把握することが出発点になります。そのうえで、自社の製品・サービスの構成と比較し、設計変更で回避できるか、そもそも相手の権利に問題がないか(無効理由がないか)を検討していきます。
Q2. 自社の製品が特許に「抵触」しているか、簡易に判断する方法はありますか?
完全な法的判断は専門家による判断が必要ですが、簡易チェックとしては「特許請求の範囲に書かれた要件が、自社製品にもすべて当てはまっているか」を見る方法があります。要件の一部でも欠けていれば、原則として権利範囲から外れ、簡易的には抵触していないとの判断に傾きます。
Q3. 特許侵害を疑われたときに、すぐにライセンスや買取の交渉をすべきでしょうか?
いきなりライセンスや買取の交渉に入るのはおすすめできません。まずは、設計変更で回避できないか、相手の特許に無効理由がないかなど、「交渉に頼らない選択肢」を検討するのが先です。その過程で集めた技術文献や先行事例があれば、ライセンス料や買取価格の交渉材料になることもあります。
Q4. 設計変更と特許の無効化(消滅)では、どちらを優先すべきですか?
事業への影響が小さい範囲で設計変更ができる場合は、まず設計変更の検討を優先することが多いです。一方で、どうしても設計変更が難しい場合には、相手の特許に無効理由がないかを調べ、無効審判などで権利を消滅させるルートも視野に入ります。実務では、両方を並行して検討するケースも少なくありません。
まとめ|特許侵害の回避は「設計変更→権利の見直し→交渉」の順で検討する
特許権侵害を回避する方法としては、この記事で紹介したように、設計変更・製品やサービスの廃止・特許権の消滅(無効化など)・ライセンス・買取・会社の買収といった複数の選択肢があります。いきなり相手との交渉に踏み込むのではなく、まずは事業への影響が小さい範囲での設計変更や、相手の特許自体に問題がないか(無効理由がないか)といった「交渉に頼らないルート」から検討するのが基本です。
それでも設計変更が難しい場合や、自社だけでは無効理由の有無やリスクの見極めが難しい場合には、弁理士などの専門家に意見を求めることで、どの選択肢をどの順番で取るべきかを整理しやすくなります。特許侵害の疑いがある場合や、今後の対応方針でお悩みの方は、弊所の無料相談もご活用ください。
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この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)









