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独自調査 電気

特許権(アンテナ装置)

5.0% 認定料率
事件番号 平成26年(ワ)第28449号
判決日 2016/05/26
裁判所 東京地裁
認容額 1,613万9,735円(損害額1,413万9,735円+弁護士費用200万円)

📋 判決要旨

判決日: 2016年5月26日 | 裁判所: 東京地裁 | 料率: 5.0%(102条3項)

原田工業(原告)がヨコオ(被告)に対し、車載用シャークフィンアンテナに関する特許権(アンテナ装置、特許第5237617号)の侵害差止め・損害賠償を求めた事件。被告製品はトヨタ・日産・スバル・三菱向けのシャークフィンアンテナ。主な争点は、被告製品の金属板が本件発明の「アンテナ素子」(=電波を送受信する導体部品)に該当するか(コイル装荷型と容量装荷型の方式の違い)と、中国実用新案文献に基づく無効理由の有無。裁判所はいずれも原告の主張を認容し、差止め・製品廃棄を命じた(ただし製造装置の廃棄請求は棄却)。

料率の決め方:(102条3項)

  • 📊 基準: 電子・通信用部品ないし電気産業のライセンス契約における実施料率 — 平均3.3〜3.5%ないし2.9%とする調査結果(※「3.3%」は経産省2010年調査・資料編の「電子通信技術」分野〔n=15〕の平均値と一致し、「2.9%」は同調査・本篇の「電気通信」分野〔n=47〕の平均値と一致し、いずれも同調査に基づくものと推定される)
  • 📈 引き上げ要因: 本件発明は被告製品の構成の中核部分に用いられ、取り除くとアンテナとして体をなさない
  • 📈 引き上げ要因: 被告製品は本件発明と同様に背が低いにもかかわらず受信性能に優れ(=高さ約70mm以下のアンテナケースに収まりながら良好な電気的特性を確保する技術)、被告がこの点を宣伝上強調
  • 被告の主張(実施料率0.5%以下): 本件発明が技術的に優れたものといえず、他の構成で代替でき販売に寄与していない → 裁判所は個別に応答せず、上記の事実認定(中核部分・受信性能・業界平均)をもって5%が相当と判断(被告主張と実質的に相反する事実を認定)
  • 結論: 売上額の5%をもって損害とするのが相当

認容額1,613万9,735円(損害額1,413万9,735円+弁護士費用200万円)。売上高2億8,279万4,711円に対し5%で算定。

📜 判決文全文

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裁判所の判断
▼ 判決文全文(クリックで折りたたみ)
主文
1被告は,別紙被告製品目録記載の各製品を生産し,譲渡し,又は譲渡の申出をしてはならない。

2被告は,その占有に係る別紙被告製品目録記載の各製品を廃棄せよ。

3被告は,原告に対し,1613万9735円及びうち450万円に対する平成26年11月11日から,うち1163万97 35円に対する平成27年11月17日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。4原告のその余の請求をいずれも棄却する。5訴訟費用はこれを5分し,その1を原告の,その余を被告の各負担とする。6この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由第1請求1主文第1項同旨2被告は,その占有に係る別紙被告製品目録記載の各製品(以下「被告製品」と総称する。)及び製造のための装置を廃棄せよ。

3被告は,原告に対し,2473万2061円及びうち450万円に対する平成26年11月11日から,うち2023万2061円に対する平成27年11月17日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が被告に対し,被告による被告製品の生産等が原告の特許権の侵害に当たる旨主張して,特許法100条1項及び2項に基づき被告製品の生産等の差止め及び廃棄並びに製造装置の廃棄を,民法709条及び特許法102条3項に基づき損害賠償金2473万2061円及びうち450万円に対する訴状送達の日の翌日(特許権侵害行為の後の日)である平成26年11月11日から,うち2023万2061円に対する平成27年11月10日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日である平成27年11月17日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実) 当事者原告は自動車部品の製造,販売及び修理調整等を業とする株式会社である。被告は自動車部品の製造並びに販売等を業とする株式会社である。原告の特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)の特許権者である。発明の名称アンテナ装置特許番号第5237617号出願日平成19年11月30日登録日平成25年4月5日訂正確定日平成26年9月19日イ本件特許権の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりであり(以下,この発明を「本件発明」という。),下記の構成要件(以下,それぞれを「構成要件A」などという。)に分説される。「車両に取り付けられた際に,車両から約70mm以下の高さで突出するアンテナケースと,該アンテナケース内に収納されるアンテナ部からなるアンテナ装置であって,前記アンテナ部は,アンテナ素子と,該アンテナ素子により受信された少なくともFM放送の信号を増幅するアンプを有するアンプ基板とからなり,前記アンテナ素子の給電点が前記アンプの入力にアンテナコイルを介して接続され,前記アンテナ素子は前記アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振し,前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信することを特徴とするアンテナ装置。」記 A:車両に取り付けられた際に,車両から約70mm以下の高さで突出するアンテナケースと,B:該アンテナケース内に収納されるアンテナ部C:からなるアンテナ装置であって,D:前記アンテナ部は,アンテナ素子と,該アンテナ素子により受信された少なくともFM放送の信号を増幅するアンプを有するアンプ基板とからなり,E:前記アンテナ素子の給電点が前記アンプの入力にアンテナコイルを介して接続され,F:前記アンテナ素子は前記アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振し,G:前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信するH:ことを特徴とするアンテナ装置。訂正請求(甲20)原告は,本件特許権に係る特許無効審判事件(無効2015-800040)において,平成27年10月28日,特許請求の範囲請求項1につき,以下のとおり訂正請求をした(下線部は訂正箇所。以下,上記訂正請求を「本件訂正請求」,本件訂正請求後の特許請求の範囲請求項1に係る発明を「本件訂正発明」という。)。ただし,本件の口頭弁論終結時において,上記無効審判請求及び本件訂正請求に対する審決はされていない。「車両に取り付けられた際に,車両から約70mm以下の高さで突出するアンテナケースと,該アンテナケース内に収納されるアンテナ部からなるアンテナ装置であって,前記アンテナ部は,面状であり,上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状であるアンテナ素子と,該アンテナ素子により受信されたFM放送及びAM放送の信号を増幅するアンプを有するアンプ基板とから なり,前記アンテナ素子の給電点が前記アンプの入力に高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイルを介して接続され,前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し,前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信し,前記アンテナコイルを介して接続される前記アンプによってFM放送及びAM放送の信号を増幅することを特徴とするアンテナ装置。」被告の行為等ア被告は,被告製品の製造,販売及び販売の申出をしている。イ被告製品の構成は,次のとおりである。a被告製品は,車両に取り付けられる高さ70mm以下のアンテナケースを備える。b被告製品は,前記アンテナケース内に収納されるアンテナ部を備える。c被告製品は,車両に取り付けられるアンテナ装置である。d被告製品は,前記アンテナケースの湾曲した天井面と略平行な曲面部を有するように折り曲げられた金属板とアンプ基板を有する。前記アンプ基板はアンテナ部により受信された少なくともFM放送の信号を増幅するアンプを有している。e金属板の下部には,巻回された線状導体(以下「巻線」という。)があり,巻線の一端から延びる導線と金属板とが接続する接続部1及び巻線の他端とアンプ基板の端子部とが接続する接続部2が設けられている。f被告製品は,金属板と巻線が接続されることによりFM波帯で共振す る(ただし,金属板自体が共振するかについては争いがある。)。g被告製品は,金属板を用いてAM波帯を受信している。h被告製品は,上記a~gの特徴を備えるアンテナ装置である。ウ被告による平成25年4月5日~平成27年10月末の間の被告製品の売上額は,合計2億8279万4711円である。

2争点構成要件D~F「アンテナ素子」の充足性被告は,被告製品の金属板が構成要件D~Fの「アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振」する「アンテナ素子」に該当することを争う一方,被告製品が構成要件A~C,G及びHを充足することを認めている。中国実用新案公報CN2648621Y(乙2。以下「乙2文献」という。)に基づく無効理由(新規性・進歩性欠如)の有無訂正の対抗主張の成否原告の損害額3争点に関する当事者の主張争点(構成要件D~F「アンテナ素子」の充足性)について(原告の主張)ア本件発明の「アンテナ素子」は,アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振するものであり(構成要件F),FM放送の信号を受信する機能を有するものである(構成要件D)。被告製品は,巻線のみでも金属板のみでもFM波帯で十分に共振せず,金属板と巻線が接続されることでFM波帯で十分に共振するから,金属板が「アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振」する「アンテナ素子」に該当することは明らかである。イ被告は,本件発明と被告製品は装荷方式が異なり,金属板は容量装荷板であってアンテナ素子ではないと主張するが,結果的にできあがったものは構 造も電気的特性も作用も同じである。被告は,また,「アンテナ素子」はそれのみでFM波帯で共振しなければならないと主張するが,特許請求の範囲の記載上,「アンテナ素子」はそれのみでFM波帯で共振するものではなく,コイルと接続されることによりFM波帯で共振するアンテナとしての機能を有する要素を意味している。被告は,さらに,「金属板+巻線」が共振しても金属板自体は共振しない旨主張するが,金属板と巻線が相互に影響し合いその全体でFM波帯で共振するのであり,巻線だけが共振し金属板は共振していないなどということは当業者の技術常識に照らしあり得ない。アンテナが共振する状態(電波の波長とアンテナの長さが一致する状態)では,電流量の多い部分と少ない部分が存在しつつ全体としてアンテナとしての機能を有するのであり,金属板に流れる電流の量が少ないことは金属板が共振していないことの根拠にはならない。また,被告主張の鏡像効果は,垂直方向の成分に及ばないし,水平方向の成分にも現実には完全に打消しが生じるものではなく,電磁界シミュレーションの結果をみても金属板に電流が流れていることが分かる。

(被告の主張)ア本件発明はコイル装荷型アンテナであり,インダクタンス分の不足するアンテナ素子にアンテナコイルによりインダクタンス分を付加して共振させるものである(本件明細書段落【0017】)。これに対し,被告製品は容量装荷型アンテナであり,対向するグランド面との静電容量(キャパシタンス分)と抵抗成分をアンテナ素子に装荷しアンテナ利得の増加を図るもので,両者は目的も効果も全く異なる。被告製品におけるアンテナ素子は巻線であって,金属板はアンテナ素子ではなく容量装荷板であり,構成要件D~Fを充足しない。イ被告製品の金属板の固有共振周波数は391.3MHz又は424.8MHzであり,日本におけるFM放送の周波数帯76~90MHzとかけ 離れており,かつ,減衰幅が広すぎるためアンテナ素子として使用できる部材ではない。他方,巻線の固有共振周波数は145.6KHz又は135.7MHzであり,容量装荷板(金属板)を用いる設計のためFM波帯より高く設定してあるが,巻数を増やすことでFM波帯のほぼ中央にすることができるのであって,被告製品において一般的意味でのアンテナ素子として機能しているのは巻線である。ウアンテナが「共振する」とは,アンテナに発生する交番電流の電流量が最大になる現象をいう。構成要件Fは「前記アンテナ素子は(中略)共振し」であるから,原告主張によれば,金属板は巻線と接続されることによりFM波帯において電流が極大とならなければならないところ,被告製品で金属板と巻線を接続した状態のFM波帯の電磁界シミュレーションを行うと,金属板部分は電流密度が極めて小さく起電力が生じないのに対し,巻線部分は電流密度が高く起電力が大きい。被告製品は,前記前提事実イの構成fのとおり金属板と巻線が接続されることによりFM波帯で共振しFMの受信アンテナ装置として機能するが,共振するのはあくまでも巻線であって金属板には共振現象が起きない。なお,金属板と巻線を接続した状態で共振が生じても,被告製品の金属板はグランド面に対向して設置されているので,金属板に発生しようとする電流はイメージ電流で打ち消され(鏡像効果),金属板自体は共振しない。このことは,電磁気学的原理から当然に生じる現象である。争点(乙2文献に基づく無効理由の有無)について(被告の主張)ア乙2文献には名称を「自動車ラジオ用共振型アンテナ装置」とする発明(以下「乙2発明」という。)が開示されているところ,本件発明は乙2発明と実質的に同一であり新規性を欠く(特許法29条1項)。イ仮に,
①本件発明のアンテナケースが約70mm以下の高さで突出す る(構成要件A)のに対し,乙2発明のアンテナケースがそのような高さで突出しているかどうか明確でない点(相違点①),
②本件発明ではアンテナ素子の給電点がアンプの入力にアンテナコイルを介して接続されている(構成要件E)のに対し,乙2発明ではインダクタとFMアンテナ区の曲折導電層及びFM信号増幅回路との接続関係が必ずしも明確でない点(相違点②),
③本件発明では,FM波帯で共振するアンテナ素子を用いてAM波帯を受信する構成である(構成要件G)のに対し,乙2発明がそのような構成かどうかが明確でない点(相違点③)が異なるとしても,以下のとおり乙2発明から本件発明の構成に想到することは当業者にとって容易であり,本件発明は進歩性を欠く(同条2項)。車両から突出する外装アンテナの高さは保安基準上70mm以下に制限されており,本件発明における70mmの数値に技術的意義ないし臨界的意義はなく,相違点①は実質的相違点ではない。相違点②について,アンテナ素子にコイルを接続してインダクタ成分を補うコイル装荷は,アンテナを小型化する際の技術常識である。また,技術分野及び課題を乙2発明及び本件発明と共通にする特許第3825408号公報(乙8)及び特開平3-158003号公報(乙18)から容易想到である。相違点③は,上記各文献のほか,特開2007-28357号公報(乙9)及び特開2000-68878号公報(乙10)に開示されている。ウしたがって,原告は被告に対し本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)。

(原告の主張)ア本件発明と乙2発明は,少なくとも,前者ではアンテナ素子の給電点がアンプの入力にアンテナコイルを介して接続され(構成要件E),そのア ンテナ素子を用いてAM波帯を受信する(同G)のに対し,乙2発明にはそのような構成が存在しない点で相違するから,新規性欠如の無効理由はない。イ乙2発明では課題の解決手段としてFM受信アンテナとAM受信アンテナが意図的に分けられており,上記相違点は,技術思想の違いによるものであって,被告指摘の各文献に開示されておらず設計事項にも当たらない。また,乙2発明と被告指摘の各文献記載の発明とは,技術分野,課題及び作用効果が異なり,組み合わせることに阻害要因がある上,仮に乙2発明にこれら文献に開示された事項を組み合わせたとしても本件発明の構成にならない。したがって,本件発明には進歩性欠如の無効理由もない。争点(訂正の対抗主張の成否)について(原告の主張)本件訂正請求は,本件特許権の特許請求の範囲請求項1について,アンテナ素子(構成要件D)を「面状であり,上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状」のものに,アンプ(同)を「FM放送及びAM放送の信号を増幅する」ものに,アンテナコイル(構成要件E)を「高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置する」ものにそれぞれ訂正して特許請求の範囲を減縮するもの,アンテナ素子のみが共振するかのように読まれかねず,本件明細書(段落【0017】)とも整合しないと解されるおそれがあった記載(構成要件F)を「前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し」に訂正して疑義を解消し明瞭でない記載の釈明をするものであって,いずれも本件明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。このように,本件訂正請求は全ての訂正要件を満たし適法であるところ,被告主張の無効理由があるとしても,本件訂正請求により解消した。そし て,被告製品はいずれも本件訂正発明の技術的範囲に属するから,被告の主張する権利不行使の抗弁は理由がない。

(被告の主張)本件訂正請求は,訂正の内容が不明確で減縮に当たらず,本件明細書に記載した事項の範囲内においてされたものとはいえず,また,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当しないから,実質上特許請求の範囲を変更するものであって訂正要件を満たさない。また,本件訂正請求によっても本件特許の無効理由は解消せず,被告製品は本件訂正発明の構成要件を充足しない。したがって,原告の訂正の対抗主張は理由がない。争点(原告の損害額)について(原告の主張)電子・通信用部品業界の平均実施料率は3.3~3.5%程度であること,原告が被告に対し本件訴訟以前,ロイヤリティとして販売価格の5%を提案したこと,被告製品は形状,電気的特性及び作用のいずれについても本件発明とほぼ同じであること,原告は本件発明について第三者への実施許諾を行わず自社実施してきたこと,原告と被告が競合関係にあることに鑑みれば,実施料率は5%を下らない。被告製品の平成25年4月5日~平成27年10月末日の売上合計を4億4967万3858円とすると(ただし,この間の売上げが合計2億8279万4711円であることは争わない。),被告による本件特許権の侵害により原告らが受けた損害(特許法102条3項)の額は2248万3692円となる。また,弁護士費用は224万8369円を下らない。

(被告の主張)争う。本件発明が技術的に優れたものといえないこと,他の構成で代替でき,被告製品の販売に寄与していないことに照らせば,実施料率は0.5%を超えない。 第3当裁判所の判断1争点(構成要件D~F「アンテナ素子」の充足性)について原告は,被告製品の金属板が本件発明における「アンテナ素子」に当たると主張する。そこで検討するに,特許請求の範囲の文言上,「アンテナ素子」は少なくともFM放送の信号を増幅するアンプの入力にアンテナコイルを介して接続され(構成要件D,E),アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振する(構成要件F)ものであり,アンテナ素子のみでFM波帯で共振することは要しない。そして,被告製品において金属板と巻線が接続されることによりFM波帯で共振すること(前記前提事実イの構成f)は当事者間に争いがなく,金属板のみあるいは巻線のみではFM波帯で共振しないことを被告は争っていない(甲8,9,乙7参照)。これらの事実によれば,被告製品の金属板は,巻線と接続されることによりFM波帯で共振するものであって,「アンテナ素子」に該当すると解するのが相当である。これに対し,被告は,
①被告製品は容量装荷型アンテナであって金属板は容量装荷板であり,コイル装荷型アンテナである本件発明とは原理が全く異なる,
②金属板はその固有共振周波数や減衰幅に照らしFM波帯のアンテナ素子ではあり得ない,
③共振とは電流量が極大になる現象をいい,金属板が共振しているというためには金属板に流れる電流量が極大でなければならないところ,金属板と巻線を接続しFM波帯で共振している状態において金属板にはほとんど電流が流れていない旨主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。上記①については,装荷の方法は特許請求の範囲に記載されておらず,金属板がアンテナコイルと接続されることでFM波帯で共振すれば本件発明におけるアンテナ素子に該当するから,装荷方法に違いがあったとしても そのことが構成要件該当性の判断に影響することはない。上記②については,上記のとおりアンテナ素子が単体で共振する必要はないから,この点も金属板がアンテナ素子に該当することを否定する根拠となるものではない。上記③についてみるに,被告が行った電磁界シミュレーション(乙12,17)によれば,金属板と巻線が接続されFM波帯で共振している状態の被告製品において金属板部分に流れる電流量が巻線部分に比べかなり少ないということができるが,この実験において観測されたのが電流密度(A/m)であること,実験結果を示す図において金属板の大部分は青色に表示されているが,電流密度が0ではなく1~2であってもそのように表示されることからすれば,上記シミュレーションをもって金属板部分に電流が流れていないとはいえない。この点に関し,被告は鏡像効果により被告製品の金属板に流れる電流はない旨指摘するが,鏡像効果による電流の打消しが完全に生じるのはアンテナがグランド面と平行な場合であるところ(乙13~16),被告製品の金属板のうち完全にグランド面と平行な部分はほとんどなく,相当の部分はグランド面に対し垂直に近い角度にある上(甲8),被告製品が設置されるのはさほど広くない自動車の屋根であるから,鏡像効果により金属板に流れるべき全ての電流が打ち消されるとは考え難い。かえって,証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば,アンテナで共振が生じているというとき,電流量が最大になる点は波長及びアンテナの構造に応じて決まるが,その両端に必ず電流量が0となる点があること,電流量の分布はアンテナの構造により緩やかに増減する場合もあれば急激に増減する場合もあること,いずれの場合でも共振は当該アンテナ全体で生じていることが認められる。そうすると,被告製品において金属板と巻線が接続されるとFM波帯で共振する以上,金属板も共振していると認められるのであり,巻線の電流量に比し金属板の電流量が極めて少ない としても,そのことは金属板の共振を否定する根拠とはならないというべきである。したがって,被告製品は,構成要件D~Fを充足し,本件発明の技術的範囲に属すると認められる。

2争点(乙2文献に基づく無効理由の有無)について新規性の欠如について前記前提事実に加え,証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明と乙2発明との間には,少なくとも,AM波帯を受信するのが,本件発明では「前記アンテナ素子」(構成要件G),すなわち,FM放送の信号を増幅するアンプの入力にアンテナコイルを介して接続され(同D,E),同アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振するアンテナ素子である(同F)のに対し,乙2発明ではそのような構成が開示されていないという相違点があると認められ,両者が実質的に同一であるということはできない。したがって,新規性欠如の主張は失当である。進歩性の欠如について被告は,本件発明と乙2発明の相違点につき,相違点①(アンテナケースの高さ)は実質的な相違点でなく,相違点②(アンテナ素子とコイル及びアンプとの接続関係)は技術常識及び公知文献(乙8,18)の記載に基づき,相違点③(AM波帯を受信する構成)は公知文献(乙8~10,18)の記載に基づき,いずれも容易に想到し得る旨主張する。そこで判断するに,本件発明は,車両に取り付けるアンテナ装置について,高さ70mm以下のアンテナケースに収納される低姿勢としても感度劣化を極力抑えることが課題であり,構成要件D~Hはそのための手段である(本件明細書段落【0004】,【0017】,【0024】参照)。一方,被告が指摘する文献には,アンテナ素子とアンプをコイルを介して接続するもの(乙8,18),FM波帯で共振するアンテナ素子を用いてAM波帯を 受信するもの(乙8~10)は記載されているが,これらに記載されたFM波帯を受信するアンテナ素子の形状は本件発明におけるものと大きく異なっている。そうすると,これら文献のいずれにも,アンテナコイルを接続することによって初めてFM波帯で共振するほど小型のアンテナ素子を備えたアンテナにおいて,FM波帯で共振する当該アンテナ素子によってAM波帯をも受信するアンテナの構成が開示されているとは認められない。また,乙2発明は,インダクタ及びFM信号増幅回路と接続されたFMアンテナ区の曲折導電層のほかにAM信号増幅回路と接続されたAMアンテナ区の曲折導電層を有しているのであり(乙2),あえてFM波帯を受信するアンテナ素子を用いてAM波帯を受信させる動機付けが見当たらない。したがって,進歩性の欠如についても被告の主張を採用することはできない。

3争点(訂正の対抗主張の成否)について上記2のとおり,本件特許の無効をいう被告の主張には理由がないが,事案に鑑み訂正の対抗主張についても検討する。本件訂正請求の内容及び理由は原告の主張(前記第2の3)のとおりであるところ(甲2,20),これによれば,本件訂正請求は特許法134条の2所定の訂正請求の要件を全て満たすことが認められる。この点につき,被告は,構成要件Fに係る訂正について,訂正前の特許請求の範囲の記載は何ら不明瞭ではなく,アンテナコイルが共振することについて本件明細書に記載がなく技術常識も存在しないから,明瞭でない記載の釈明(同条1項ただし書3号)に当たらない旨主張する。しかし,本件明細書(甲2)には,アンテナコイルをアンテナ素子の給電点とアンプの入力との間に直列に挿入することにより,アンテナ素子とアンテナコイルとからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させられるようになる旨の記載(段落【0017】)があり,アンテナ素子とアンテナコイルが接続された状態で共振している場合にその全 体が共振していると評価すべきことは,金属板と巻線を接続した場合について前記1で判示したとおりである。そうすると,上記訂正はアンテナコイル及びアンテナ素子と共振の関係についての記載をより明瞭にするものと認められるから,被告の主張は採用できない。また,本件発明につき進歩性欠如の無効理由があるといえないことは前記2で判示したとおりであり,本件訂正発明が本件発明の特許請求の範囲を減縮するものであるところからすれば,訂正後の本件特許についても無効理由があるとはいえないと解すべきこととなる。そして,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,アンテナ部の形状,アンテナコイルの位置など本件訂正請求により追加された構成を備えていると認められるから,本件訂正発明の技術的範囲に属するということができる。

4争点(原告の損害額)について原告は平成25年4月5日~平成27年10月末日の被告製品の売上高4億4967万3858円に実施料率5%を乗じた2248万3692円が本件特許権の侵害による損害額(特許法102条3項)であると主張するところ,売上高は被告の自認する2億8279万4711円の限度で認められ,これを上回る額を認めるに足りる証拠はない。次に,実施料率についてみるに,前記前提事実に加え,証拠(甲2,23,24,乙27)及び弁論の全趣旨によれば,
①本件発明は被告製品の構成の中核部分に用いられており,本件発明の技術的範囲に属する部分を取り除くと被告製品はアンテナとして体をなさないこと,
②本件発明は高さ約70mm以下という限られた空間しか有しないアンテナケースに組み込んでも良好な電気的特性を得ることのできるアンテナ装置の提供を目的とするところ,被告製品はこれと同様に背が低いにもかかわらず受信性能に優れたアンテナ装置であって,被告はこの点を被告製品の宣伝上強調してい ること,
③本件発明の属する電子・通信用部品ないし電気産業の分野のライセンス契約における実施料率については平均3.3~3.5%ないし2.9%とする調査結果が公表されていること,以上の事実が認められる。これらの事実を総合すると,本件において特許法102条3項に基づく損害額算定に当たっては被告製品の売上額の5%をもって原告の損害とするのが相当である。したがって,原告の損害額は1413万9735円となる。本件訴訟の内容,認容額等に照らすと,弁護士費用は200万円が相当である。以上によれば,被告は,原告に対し,上記損害額合計1613万9735円及びうち450万円に対する訴状送達の日の翌日である平成26年11月11日から(なお,侵害期間に鑑み同日までに少なくとも9000万円の売上げがあったものと認める。),うち1163万9735円に対する平成27年11月10日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日である平成27年11月17日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。

差止め及び廃棄等の請求について原告は,請求の趣旨において被告製品の生産等の差止め及び廃棄に加え被告製品製造のための装置の廃棄を求めるが,被告製品製造のための装置が特定されていない上,廃棄の必要性について具体的な主張がない。したがって,上記装置の廃棄請求を認めることはできない。

6結論よって,主文のとおり判決する。なお,主文第2項についての仮執行宣言は相当でないから,これを付さないこととする。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官長谷川浩二
裁判官藤原典子
裁判官中嶋邦人 別紙被告製品目録以下の製品名で特定されるアンテナHARRIER搭載シャークフィンアンテナ(86300-48360トヨタ自動車株式会社-A0,86300-48360-B0,86300-48360-B1,86300-48360-C0,86300-48360-C1,86300-48360-D0,86300-48360-E0)SUBARUBRZ搭載シャトヨタ自動車株式会社86及び富士重工業株式会社ークフィンアンテナ(SU003-05507,SU003-05508,SU003-05509,SU003-05510,SU003-05511,SU003-05512,SU003-05513)JUKE搭載シャークフィンアンテナ日産自動車株式会社(B8250-1KC3B,B8250-1KC3C,B8250-1KL0C,B8250-1KL0D,B8250-3YL0A,B8250-3YL0B,B8250-3YM1A,B8250-3YM0B,B8250-3YM1D,B8250-3YM1E,B8250-3YM3E,B8250-3YM5E)IMPREZA搭載シャークフィンアンテナ富士重工業株式会社(H0017FJ810WU,H0017FJ810TQ,H0017FJ810EN,H0017FJ810V2,H0017FJ810U9,H0017FJ810I7,H0017FJ810VW,H0017FJ810RE,H0017FJ810U7,H0017FJ810I4)SUBARU XV搭載シャークフィンアンテナ富士重工業株式会社(H0017FJ810WU,H0017FJ810TQ,H0017FJ810EN,H0017FJ810V2,H0017FJ810I9,H0017FJ810I6,H0017FJ810U9,H0017FJ810I7)SUBARU XV HYBRID搭載シャークフィンアンテナ富士重工業株式会社(H0017FJ810WU,H0017FJ810TQ,H0017FJ810EN,H0017FJ810V2,H0017FJ81 0I9,H0017FJ810I6,H0017FJ810U9,H0017FJ810F4,H0017FJ810I7)FORESTER搭載シャークフィンアンテナ富士重工業株式会社(H0017FJ810WU,H0017FJ810TQ,H0017FJ810EN,H0017FJ810V2,H0017FJ810U9,H0017FJ810F3,H0017FJ810I7,H0017FJ810I8,H0017FJ810U7)LEVORG搭載シャークフィンアンテナ富士重工業株式会社(H0017FJ810W6,H0017FJ810M1,H0017FJ810TQ,H0017FJ810EN,H0017FJ810V2,H0017FJ810RL,H0017FJ810B5)SUBARU BRZ搭載シャークフィンアンテナ富士重工業株式会社(H0017FJ800W6,H0017FJ800TQ,H0017FJ800EN,H0017FJ800V2,H0017FJ800RL,H0017FJ800B5,H0017FJ800E4)WRX搭載シャークフィンアンテナ富士重工業株式会社(H0017FJ800W6,H0017FJ800TQ,H0017FJ800EN,H0017FJ800V2,H0017FJ800RL,H0017FJ800E4)OUTLANDER搭載シャークフィンアンテナ三菱自動車工業株式会社(MZ599916,MZ599917,MZ599918,MZ599919,MZ599920)RVR搭載シャークフィンアンテナ三菱自動車工業株式会社(MZ599926,MZ599927,MZ599928,MZ599929)以上

出典: 平成26年(ワ)第28449号 裁判所ウェブサイト掲載の判決文 →

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