📜 判決文全文
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主文
(1) 第1審被告らは、それぞれ、別紙1出版物目録記載2の出版物を廃棄せよ。
(2) 第1審被告らは、第1審原告に対し、連帯して24万8570円及びこれに対する令和6年1月12日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
(3) 第1審原告のその余の請求をいずれも棄却する。
2第1審被告らの控訴をいずれも棄却する。
3訴訟費用は、第1,2審を通じてこれを3分し,その1を第1審原告の負担とし、その余を第1審被告らの負担とする。
4この判決の1項(2)は、仮に執行することができる。
事実及び理由
【略語】
本判決で用いる主な略語は、別紙2「略語一覧」のとおりである。その他、原判決で使用されている略語は、特に断りのない限り、本判決でもそのまま踏襲している。
第1 事案
このような中、本件各商標権(「現代の理論」の文字からなる商標)の設定登録を受けた第1審原告が、第1審被告らに対し、被告各出版物の発行等の差止め、損害賠償等を求めている。
第2当事者の求めた裁判
(2) 第1審被告NPOは、原判決別紙出版物目録記載1の出版物を廃棄せよ。
(3) 第1 審被告らは、それぞれ、原判決別紙出版物目録記載2の出版物を廃棄せよ。
(4) 第1審被告らは、第1審原告に対し、連帯して57万6000円及びこれに対する令和4年7月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
【請求の法的根拠】
・請求(1) :本件各商標権に基づく商標法36条1項の差止請求
・請求(2)、(3):本件各商標権に基づく商標法36条2項の廃棄請求
・請求(4)の主請求:本件各商標権侵害の不法行為を理由とする損害賠償請求同附帯請求:遅延損害金請求(起算日は被告出版物2の最新号発行日、利率は民法所定)
2原審の判断及び控訴の提起等原審は、第1審原告の請求のうち、第1審被告らに対する差止・廃棄請求を全部認容し、損害賠償請求を17万5808円の限度で認容した。
これに対し、第1審原告及び第1審被告らが、各自の敗訴部分を不服として、
それぞれ控訴した。その後、第1審原告は、被告出版物2(21)~(26)を廃棄請求の対象として追加するとともに、同追加分の出版物に係る損害等につき損害賠償請求を増額する訴えの追加的変更(請求の拡張)をしたことから、最終的に当事者の求める裁判は下記のとおりとなっている。
【控訴の趣旨】
(1) 第1審原告原判決主文3項~5項を次のとおり変更する。
ア主文1項(1)と同旨。
イ第1審被告らは、第1審原告に対し、連帯して124万8436円及びこれに対する令和6年1月12日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
(2) 第1審被告らア原判決中第1審被告ら敗訴部分を取り消す。
イ上記取消しに係る部分につき、第1審原告の請求をいずれも棄却する。
ウ第1審原告の当審における拡張請求を棄却する。
第3 事案の概要
2争点
(1) 本件各商標と被告各標章の同一性・類似性(争点1)
(2) 本件各商標権の指定商品と被告各出版物(商品)の同一性・類似性(争点2)
(3) 本件商標2の商標登録無効の抗弁(争点3)
(4) 被告NPOの先使用権の抗弁(争点4)
(5) 権利濫用の抗弁(争点5)
(6) 本件各商標権侵害に係る損害額(争点6)
当審における中心的な争点は、権利濫用の抗弁(争点5)、本件各商標権侵害に係る損害額(争点6)である。
3争点に関する当事者の主張
(1) 争点1~4に関する当事者の主張は、原判決の第2の4(1)~(4)(7頁以下)のとおりであるから、これを引用する。
(2) 争点5(権利濫用の抗弁)に関する当事者の主張
【第1審被告らの主張】
ア雑誌「現代の理論」は、昭和34年5月から同年9月頃まで(雑誌「現代の理論」〔第1次〕)、昭和39年1月から平成元年12月まで(雑誌「現代の理論」〔第2次〕)の発行期間を経て終刊となった。
第1審被告NPOは、このような状況で同誌の再刊を目指して設立された「言論NPO・現代の理論」を前身とするNPO法人であり、平成19年7月に明石書店に出版権を譲渡するまで、雑誌「現代の理論」の発行をしていた。第1審原告は、第1審被告NPOの理事及び内部組織である編集委員会の事務局長を務め、雑誌「現代の理論」の発行主体の一構成員としてその発行に関与していた。
第1審被告NPOは、明石書店に雑誌「現代の理論」の出版権を譲渡した後の平成20年2月以降は、雑誌「FORUMOPINION」の発行を開始していたが、「NPO現代の理論・社会フォーラム」という名称を付記し、奥付には「NPO現代の理論・社会フォーラムFORUMOPINION編集委員会」という記載もある。また、第1審被告NPOの名称には、一貫して「現代の理論」の語が含まれている。このことは、明石書店に雑誌「現代の理論」の出版権が譲渡された後も、第1審被告NPOが雑誌「現代の理論」創刊当初からの精神を引き継いでいるものであることが対外的にも表示されていたことを意味する。
第1審被告NPOが現在に至るまで需要者から雑誌「現代の理論」創刊当初からの精神を引き継いでいると認められていることは、購読者らからのメッセージ(乙13)からも明らかである。
イ第1審被告NPOは、明石書店が雑誌「現代の理論」を終刊することを知って間もなく、平成25年10月30日に財政基盤の確立のための認定特定非営利活動法人制の仮認定を受けるための申請を行うなど、再刊に向けた計画を立てて行動を開始した。
また、Aは、平成26年9月24日、明石書店の当時の社長であるBと面談し、第1審被告NPOが雑誌「現代の理論」を発行することについて了承を得ている。
ウ第1審原告が事務局長である本件編集委員会は、第1審被告NPOが前記イのとおり、被告各出版物の発行に向けて準備を進めている最中である平成26年5月1日、「現代の理論」季刊電子版(原告出版物)の配信を始めた。さらに、第1審原告は、平成28年2月に第1審被告NPOが雑誌「現代の理論」再刊を周知するや否や、第9類「電子印刷物」及び第16類「印刷物」を指定商品として本件商標権1を取得した。令和3年3月24日に本件商標1の指定商品のうち、第16類「印刷物」に係る商標登録について不使用を理由に取り消す審決が確定したが、第1審原告は、それから間もない同年9月6日には、16類「印刷物」を指定商品として、本件商標2について商標登録出願を行い、令和4年2月22日に設定登録を受け、同年8月6日に、第1審被告らに対して本件訴訟を提起した。
その間、第1審原告が、本件各商標を使用して雑誌を発行することは一切なかったし、将来においてもその予定はない。
以上の事情によれば、第1審原告による本件各商標権の行使が第1審被告らによる雑誌「現代の理論」の発行を妨害することを主たる目的としたものであることが明白であり、第1審原告が、第1審被告NPOの編集委員会に所属していたことがあり、第1審被告NPOが創刊当時の精神を引き継いで設立されたことを認識していることを併せ考えれば、上記権利行使は権利の濫用に当たる。
エ第1審原告が、本件各商標を使用して雑誌を発行する予定がないことからすれば、第1審原告の権利行使を認めるとすれば、「現代の理論」という雑誌名がなくなることになる。これは、構造改革派を中心としたリベラル・革新派の論壇誌として歴史ある雑誌が一個人により廃刊に追い込まれることになり、商標法1条の規定する「産業の発達」や「需要者の利益」に反する。
また、差止・廃棄請求を認めることは、経済的自由権である商標権によって、憲法上優越的地位を有する表現の自由を制約することになる。雑誌「現代の理論」は、その歴史的な経緯から、題号に「現代の理論」という標章を用いることに重要な意義があるのであって、本件の請求を認めることは、第1審被告らの出版の自由を侵害することになる。
【第1審原告の主張】
否認ないし争う。
(3) 争点6(本件各商標権侵害に係る損害額)に関する当事者の主張
【第1審原告の主張】
ア第1審被告NPOについて、正会員分の被告出版物2の売上を会費1万円の4割とする原判決の算定方法、被告出版物2(5)~(18)まで(令和3年度まで)の売上を492万9325円とする原判決の認定を認める。
イ令和4年度における第1審被告NPOの正会員の会員収入は83万円であり、雑誌発行販売収入は98万2030円である(甲49)。そうすると、第1審被告NPOの被告出版物2の売上は(83 万円×0.4)+98 万2030 円=131 万4030 円で、131万4030円となる。
また、原審が認定する令和4年度の第1審被告会社の被告出版物2の2号分の売上は18万0960円であり、被告出版物2は年4回発行されるので、その2倍の36万1920円が第1審被告会社の売上と推計される。
以上を合計すると、令和4年度における第1審被告らの被告出版物2の売上は、167万5950円となる。
ウ令和5年度における第1審被告らの被告出版物2の売上は、令和4年度同様167万5950円と推計される。
エア~ウを合計すると、被告出版物2(5)~(26)の売上の合計は828万1225円となり、これに基づく損害額はその3%の24万8436円となる。
オまた、本件と因果関係を有する弁護士費用相当損害としては100万円が相当である。
【第1審被告らの主張】
ア被告出版物2の売上高は、まず、第1審被告NPOの販売分については、正会員の会費1万円に含まれる雑誌「現代の理論」代金が4割程度なので、会員に対する販売高は会費の4割とし、その他に対する販売価格は1部1000円として計算すべきである。第1審被告会社の販売分については、その取扱部数から在庫分及び廃棄分を控除した販売部数(531部)にAmazon及び出版取次会社に対する販売価格の平均額(780円)を乗じた41万4180円がその売上である。
イ使用料率についての主張は、原判決第2の4(6)(被告らの主張)イ(17頁~)のとおりであるから、これを引用する。
第4 当裁判所の判断
1争点1~4に関する当裁判所の判断は、原判決の第3の1~4(18頁~)
のとおりであるから、これを引用する。
すなわち、本件各商標及び被告各標章はそれぞれ類似しており(争点1)、被告各標章を印刷物に付して使用する行為は、本件各商標権の指定商品又はこれに類似する商品についての使用ということができる(争点2)。そして、本件商標2の商標登録無効の抗弁(商標法4条1項19号違反等をいうもの、争点3)及び第1審被告NPOの先使用の抗弁(争点4)は、「現代の理論」の標章が第1審被告NPOの業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとはいえない等の本件の事情の下では、いずれも
理由がない。
2争点5(権利濫用の抗弁)について(1) 第1審被告らは、第1審原告が本件各商標を使用して雑誌を発行することは一切なかったし、将来においてもその予定はないにもかかわらず、本件各商標権の行使をするのは、第1審被告らによる雑誌「現代の理論」の発行を妨害することを主たる目的としたものであることが明白であり、第1審原告が第1審被告NPOの編集委員会に所属していたことがあり、第1審被告NPOが創刊当時の精神を引き継いで設立されたことを認識していたことを併せ考えれば、上記権利行使は権利の濫用に当たる旨主張する。
しかし、第1審被告らが被告各標章を印刷物に付して使用する行為は、少なくとも、本件商標1の指定商品である第9類「電子印刷物」に類似する商品についての使用ということができるから、第1審原告は、雑誌等「印刷物」
としての「現代の理論」の発行予定がないにしても,「電子印刷物」を指定商品とする商標権に基づき,第1審被告らの上記行為についての差止請求をなし得るものである。また、第1審原告において、競合関係となり得る被告各出版物が販売されている状況において、本件各商標を使用した雑誌を現に販売していないからといって、将来においても販売することがないとは直ちにいえない。
また、雑誌「現代の理論」の創刊当時の精神を誰が引き継いでいるか否かといった事項は、権利関係の帰属の問題と異なり客観的に判断することが困難であり、本件においてこれを確定するに足りる証拠もない。第1審被告NPOが明石書店に雑誌「現代の理論」の出版権を譲渡した後に発行していた雑誌「FORUMOPINION」に「NPO現代の理論・社会フォーラム」という名称を付記していたとか、第1審被告NPOの名称に「現代の理論」が含まれているといった点は、第1審被告NPO側の認識を示すものにすぎないし、購読者らからのメッセージ(乙13)は、雑誌「現代の理論」
を懐かしむ一定の者がいることを示すものとはいえても、第1審被告NPOが需要者から雑誌「現代の理論」創刊当初からの精神を引き継いでいると広く認識されていることを意味するものではない。
(2) 第1審被告らは、第1審原告の権利行使を認めるとすれば、「現代の理論」
という雑誌名がなくなることになり、商標法1条の規定する「産業の発達」
や「需要者の利益」に反する旨主張する。しかし、商標法1条の定めるところは、一定の商標を使用した商品等が一定の出所から提供されるという取引秩序を維持することによって、産業の発達に寄与し、需要者の利益を保護することにあるのであって、伝統ある名称を有する雑誌が存続するかどうかといった事項は、これとは異なる問題である。
また、第1審被告らは、差止・廃棄請求を認めることは、経済的自由権である商標権によって、憲法上優越的地位を有する表現の自由を制約することになる旨主張するが、差止・廃棄請求を認めたからといって、被告各標章を用いない意見表明や出版の機会が制約されるわけではない。
(3) 以上によれば、第1審被告らの権利濫用の抗弁は理由がない。
3争点6(本件各商標権侵害に係る損害額)について第1審原告は、商標法38条3項に基づき、前訴において損害賠償請求が認められた被告出版物2(1)~(4)を除いた被告出版物2(5)~(26)に係る本件各商標権の使用料相当額の損害賠償を求めている(このうち、被告出版物2(21)~(26)に係るもの及び弁護士費用相当額が、当審における請求拡張分である。)。
そこで検討するに、第1審被告らの上記出版物の売上額は、761万900円(別紙3「被告出版物2(5)~(26)の売上額」記載の第1審被告NPOの売上719万3905円と第1審被告会社の売上42万5100円の合計額)と認められる。これに相当使用料率3%を乗じると、22万8570円となる。
そして、弁護士費用相当額は2万円と認めるのが相当であるから、第1審原告が第1審被告らに請求できる損害賠償額は24万8570円である。
なお、売上額の認定に関する詳細は、別紙3「被告出版物2(5)~(26)の売上額」で原審判断の変更点を示したほか、原判決第3の7(2)ア、イ(34頁~)
のとおりであり、相当使用料率に関する詳細は、原判決第3の7(2)ウ(37頁)
のとおりである。
第5 結論
したがって、第1審原告の控訴及び当審における請求の拡張に基づき、原判決を本判決主文1項のとおり変更し、第1審被告らの控訴は棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長
裁判官宮坂昌利
裁判官本吉弘行
裁判官岩井直幸別紙1出版物目録
(1) 『現代の理論』2016 夏号(通巻33 号)
(2) 『現代の理論』2016 秋号(通巻34 号)
(3) 『現代の理論』2017 新春号(通巻35 号)
(4) 『現代の理論』2017 年4 月春号(通巻36 号)
(5) 『現代の理論』2017 年夏号(通巻37 号)
(1) 『現代の理論』2017 秋号 ISBN /カタログNO:9784886838261(2) 『現代の理論』2018 冬号 ISBN /カタログNO:9784886838322(3) 『現代の理論』2018 春号 ISBN /カタログNO:9784886838360(4) 『現代の理論』2018 夏号 ISBN /カタログNO:9784886838407(5) 『現代の理論』2018 秋号 ISBN /カタログNO:9784886838469(6) 『現代の理論』2019 冬号 ISBN /カタログNO: 9784886838506(7) 『現代の理論』2019 春号 ISBN /カタログNO: 9784886838568(8) 『現代の理論』2019 夏号 ISBN /カタログNO: 9784886838605
(9) 『現代の理論』2019 秋号 ISBN /カタログNO: 9784886838643(10) 『現代の理論』2020 冬号 ISBN /カタログNO: 9784886838681(11) 『現代の理論』2020 春号 ISBN /カタログNO: 9784886838735(12) 『現代の理論』2020 夏号 ISBN /カタログNO: 9784886838803(13) 『現代の理論』2020 秋号 ISBN /カタログNO: 9784886838865(14) 『現代の理論』2021 冬号 ISBN /カタログNO: 9784886838926(15) 『現代の理論』2021 春号 ISBN /カタログNO: 9784886838995(16) 『現代の理論』2021 夏号 ISBN /カタログNO: 9784886839039
(17) 『現代の理論』2021 秋号 ISBN /カタログNO: 9784886839084(18) 『現代の理論』2022 冬号 ISBN /カタログNO: 9784886839152(19) 『現代の理論』2022 春号 ISBN /カタログNO: 9784886839220(20) 『現代の理論』2022 夏号 ISBN /カタログNO: 9784886839268(21) 『現代の理論』2022 秋号 ISBN /カタログNO: 9784886839336(22) 『現代の理論』2023 冬号 ISBN /カタログNO: 9784886839374(23) 『現代の理論』2023 春号 ISBN /カタログNO: 9784886839428(24) 『現代の理論』2023 夏号 ISBN /カタログNO: 9784886839480(25) 『現代の理論』2023 秋号 ISBN /カタログNO: 9784886839534(26) 『現代の理論』2024 冬号 ISBN /カタログNO: 9784886839589別紙2略語一覧(略語) (意味)
〇本件各商標:本件商標1と本件商標2の総称
・本件商標1:原判決別紙商標権目録1記載の登録商標
・本件商標2:同目録2記載の登録商標〇本件各商標権:本件商標権1と本件商標権2の総称
・本件商標権1:本件商標1に係る商標権
・本件商標権2:本件商標2に係る商標権〇被告各標章:被告標章1と被告標章2の総称
・被告標章1:原判決別紙被告標章目録1記載の標章
・被告標章2:同目録2記載の標章〇被告各出版物:被告出版物1と被告出版物2の総称
・被告出版物1:別紙1出版物目録1記載の出版物個別には「被告出版物1(1)」などという。
・被告出版物2:別紙1出版物目録2記載の出版物個別には「被告出版物2(1)」などという。
出典: 令和5年(ネ)第10091号 裁判所ウェブサイト掲載の判決文 →