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判例調査 電気

特許権(トナーカートリッジチップ)

1.5% 認定料率
▼部分的寄与
事件番号 令和2年(ネ)第10057号
判決日 2022/03/29
裁判所 知財高裁
認容額 470万円(2項損害額420万円+弁護士費用50万円)

📋 判決要旨

判決日: 2022年3月29日 | 裁判所: 知財高裁 | 料率: 1.5%(102条3項)


リコーがリサイクルトナー販売業者であるディエスジャパンら3社に対し、トナーカートリッジ用ICチップ(=プリンタ本体とカートリッジ間でトナー残量等の情報をやり取りするための情報記憶装置)に関する特許3件の侵害を主張した控訴審。被控訴人らは、使用済み純正カートリッジからリコー製ICチップを取り外し、自社製ICチップに付け替えてリサイクルトナーを製造・販売していた。原審は、リコーがICチップにデータ書換制限措置を講じたことがリサイクル業者に著しい不利益を与えるとして権利濫用で全面棄却したが、控訴審は書換制限措置にはトナー残量管理・品質保証の合理性があるとして逆転認容した。消尽の抗弁についても、被告電子部品はリコーが譲渡した原告電子部品と同一性を欠くとして不成立と判断。設計変更後の製品(穴部の縁部を一部切り取った形状)についても文言侵害が成立するとした。差止め・廃棄認容。


料率の決め方:(主: 102条2項=侵害者の利益から損害額を推定、副: 102条3項=実施料相当額で確認)

  • 📊 基準: 発明協会「実施料率〔第5版〕」(※正式には発明協会研究センター発行)電子・通信用部品 イニシャル有3.5%・無3.3%、経済産業省知的財産政策室編「ロイヤルティ料率データハンドブック」電気2.9%器械3.5%

(※「ロイヤルティ料率データハンドブック」の元データは[経産省2010年調査報告書](https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/guideline/list15.html)として公開)

  • 📉 引き下げ要因: ICチップはカートリッジの一部品にすぎず、発明の技術的意義は端子配置構造(=プリンタ本体との接触不良を防ぐための端子の物理的配置に関する工夫)のみ。トナーカートリッジの基本性能(トナー搬送)とは無関係
  • 📉 覆滅(=侵害者の利益のうち、特許発明以外の要因による部分を差し引くこと): 寄与割合5%。裁判所は、ICチップが被告製品の一部品にすぎないこと、発明の技術的意義がトナー搬送という基本性能と無関係であることから、被告製品の購買動機に対する本件発明の寄与割合を5%と認定した。→被控訴人らは他にも覆滅事由を主張したが、裁判所はいずれも認めず(「他の特許も実施されている」→具体的根拠が不明、「侵害回避可能な再生品に置き換わる」「残量表示なしのリサイクル品に置き換わる」→いずれもシェアの立証がない、「業務態様・価格差が異なる」→被告製品は原告プリンタ専用品で顧客層が共通)
  • 結論: 2項=限界利益8,400万円(21,000本×4,000円)×寄与割合5%=420万円。3項=売上高2億7,300万円(21,000本×13,000円)×1.5%410万円。2項が3項を上回るため2項を採用

認容額470万円(2項損害額420万円+弁護士費用50万円)。

📜 判決文全文

⚠️ 本文はPDFから自動抽出し、プログラムで一括クリーニング処理を行ったものです。変換精度の限界により、誤字・脱字・書式崩れが含まれる場合があります。正確な内容は裁判所公開の原文PDFをご確認ください。

控訴人の主張
被控訴人の主張
裁判所の判断
▼ 判決文全文(クリックで折りたたみ)
第1控訴の趣旨

1原判決を取り消す。

2主文第1項(1)及び(2)と同旨

3被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,1000万円及びこれに対する被控訴人株式会社ディエスジャパンについて平成29年12月9日から,被控訴人株式会社ディエスロジコ及び被控訴人株式会社奥美濃プロデュースについて各同月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
(略称は,特に断りのない限り,原判決に従う。)

1事案の要旨本件は,発明の名称を「情報記憶装置,着脱可能装置,現像剤容器,及び,画像形成装置」とする特許第4886084号の特許(以下「本件特許1」といい,本件特許1に係る特許権を「本件特許権1」という。),発明の名称を「情報記憶装置及び着脱可能装置」とする特許第5780375号の特許(以下「本件特許2」といい,本件特許2に係る特許権を「本件特許権2」という。)及び特許第5780376号の特許(以下「本件特許3」といい,本件特許3に係る特許権を「本件特許権3」という。また,本件特許1ないし3を併せて「本件各特許」と,本件特許権1ないし3を併せて「本件各特許権」という。)の特許権者である控訴人が,被控訴人らが製造する別紙1及び2記載の電子部品(以下「被告電子部品」という。)が本件各特許に係る発明の技術的範囲に属し,被控訴人らが,控訴人が製造及び販売するプリンタに対応する使用済みの控訴人製のトナーカートリッジ製品からその電子部品を取り外し,被告電子部品に取り替えた上で,トナーを再充填して製造した別紙1及び2記載の各トナーカートリッジ製品(以下,これらを併せて「被告製品」という。)を販売する行為が,本件各特許権の侵害に当たる旨主張して,被控訴人らに対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の販売等の差止め及び廃棄並びに被告電子部品の廃棄を求めるとともに,本件各特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の一部として1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定(以下「改正前民法所定」という。)の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。原審は,被告電子部品は本件各特許に係る発明の技術的範囲に属するが,控訴人による本件各特許権に基づく被告製品の製造,販売等の差止請求及び損害賠償等請求は,権利の濫用に当たり許されないとして,いずれも棄却した。そこで,控訴人が,原判決を不服として本件控訴を提起した。

2前提事実以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決4頁6行目から12行目までを「控訴人は,以下のとおりの本件各特許権を有している。」と改め,同頁19行目の「平成22年6月11日」の次に「,平成23年3月22日及び同年4月6日」を加える。
(2) 原判決5頁3行目及び13行目の各「平成22年6月11日」の次にいずれも「及び平成23年3月22日」を加え,同頁16行目から9頁21行目までを次のとおり改める。「(3) 本件各特許の特許請求の範囲

ア本件特許1本件特許1の特許請求の範囲は,請求項1ないし14からなり,その請求項1,2及び6の記載は,次のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,「本件発明1-1」などといい,請求項1,2及び6に係る発明を併せて「本件各発明1」という。甲4)。

【請求項1】画像形成装置本体に対して着脱可能に構成された着脱可能装置に設置される情報記憶装置であって,前記画像形成装置本体と前記着脱可能装置との間で通信される情報が記憶される情報記憶部と,前記画像形成装置本体に設置された本体側端子に接触して,前記画像形成装置本体との間で前記情報を通信するための端子と,前記情報記憶部と前記端子とが保持されるとともに,前記画像形成装置本体に設置された突起部に係合する穴部が形成された基板と,を備え,前記端子は,短手方向に隙間を空けて並設された複数の金属板であり,前記基板に形成された前記穴部は,前記画像形成装置本体の前記突起部に形成された接地用の本体側端子に接触するアース端子が形成され,前記複数の金属板のうち2つの金属板に間に挟まれる位置に配設されたことを特徴とする情報記憶装置。

【請求項2】前記アース端子は,少なくとも,前記穴部の内径部に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の情報記憶装置。【請求項6】前記本体側端子は複数の金属部材端子で構成されていて,前記複数の金属板は,前記本体側端子の第1の金属部材端子に接触した状態でシリアルクロックが入力されるクロック信号用の入力端子と,前記本体側端子の第2の金属部材端子に接触した状態でシリアルデータの入出力が行われるシリアルデータ用の入出力端子と,前記本体側端子の第3の金属部材端子に接触した状態で電圧が入力される電源用の入力端子であることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかに記載の情報記憶装置。」

イ本件特許2本件特許2の特許請求の範囲は,請求項1ないし60からなり,その請求項1ないし4,25及び49の記載は,次のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,「本件発明2-1」などといい,請求項1ないし4,25及び49に係る発明を併せて「本件各発明2」という。甲5)。

【請求項1】画像形成装置本体に対して着脱可能に構成された着脱可能装置に設置される情報記憶装置であって,前記画像形成装置本体が備える本体側端子に接触される情報記憶装置側端子と,前記画像形成装置本体が備える本体側突起部が挿入される穴部が,形成された基板と,を備え,前記情報記憶装置側端子は,クロック信号用端子と,シリアルデータ用端子と,電源用端子と,アース端子と,を含み,前記アース端子は,前記穴部に設けられ,前記情報記憶装置側端子は,前記クロック信号用端子,前記アース端子,前記シリアルデータ用端子,前記電源用端子の順に前記基板に配置されていることを特徴とする情報記憶装置。

【請求項2】請求項1に記載の情報記憶装置であって,前記アース端子は,少なくとも,前記穴部の内径部に形成されていることを特徴とする情報記憶装置。【請求項3】請求項1又は2に記載の情報記憶装置であって,前記クロック信号用端子,前記シリアルデータ用端子及び前記電源用端子は,金属板からなることを特徴とする情報記憶装置。【請求項4】請求項1又は2に記載の情報記憶装置であって,前記クロック信号用端子,前記シリアルデータ用端子及び前記電源用端子は,金属パッドからなることを特徴とする情報記憶装置。【請求項25】画像形成装置本体に対して着脱可能に構成された着脱可能装置に設置される情報記憶装置であって,前記画像形成装置本体が備える本体側端子に接触される情報記憶装置側端子と,前記画像形成装置本体が備える本体側突起部が挿入される穴部が,形成された基板と,を備え,前記情報記憶装置側端子は,クロック信号用端子と,シリアルデータ用端子と,電源用端子と,アース端子と,を含み,前記アース端子は,前記穴部に設けられ,前記穴部は,前記クロック信号用端子と前記シリアルデータ用端子との間に配置されていることを特徴とする情報記憶装置。【請求項49】画像形成装置本体に対して着脱可能に構成された着脱可能装置に設置される情報記憶装置であって,前記画像形成装置本体が備える本体側端子に接触される情報記憶装置側端子と,前記画像形成装置本体が備える本体側突起部が挿入される穴部が,形成された基板と,を備え,前記情報記憶装置側端子は,シリアルクロックが入力されるシリアルクロック入力端子と,シリアルデータが入力されるシリアルデータ入力端子と,電源入力部と,アース端子と,を含み,前記アース端子は,前記穴部に設けられ,前記穴部に対して,前記情報記憶装置が前記画像形成装置本体に装着された状態における鉛直方向上方の位置には前記シリアルクロック入力端子が設置され,鉛直方向下方の位置には前記シリアルデータ入力端子と前記電源入力部が設置されていることを特徴とする情報記憶装置。

ウ本件特許3本件特許3の特許請求の範囲は,請求項1ないし83からなり,その請求項70,77,78及び80の記載は,次のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,「本件発明3-70」などといい,請求項70,77,78及び80に係る発明を併せて「本件各発明3」という。甲6)。【請求項70】水平方向に突出する突起部と,当該突起部に設置された接地用の本体側アース端子と,前記突起部と同一方向に突出する一対のリブと,を備えた画像形成装置本体に情報を伝達するための情報記憶装置であって,前記情報記憶装置は,前記画像形成装置本体側に伝達するための情報を記憶する情報記憶部と,前記突起部が挿入される穴部と,前記情報記憶部と,を備えた基板と,前記穴部に形成され,前記本体側アース端子と接触する情報記憶装置側アース端子と,を備え,前記穴部に前記突起部が挿入された状態において,前記情報記憶部は前記穴部よりも下方に設けられ,前記基板は,前記穴部に前記突起部が挿入されていく間に,当該基板の側面であって前記穴部よりも下方に,前記一対のリブのうちの少なくとも一方が当接可能な縁部を備えたことを特徴とする情報記憶装置。【請求項77】請求項70ないし76のいずれかに記載の情報記憶装置であって,前記基板の表面に設けられ,前記画像形成装置本体に設けられた本体側端子と接触する情報記憶装置側端子を備えることを特徴とする情報記憶装置。【請求項78】請求項77に記載の情報記憶装置であって,前記情報記憶装置が前記画像形成装置本体に接続される際,前記情報記憶装置側アース端子が前記本体側アース端子と接触した後に,前記情報記憶装置側端子が前記本体側端子と接触可能に形成されていることを特徴とする情報記憶装置。【請求項80】請求項70ないし79のいずれかに記載の情報記憶装置であって,前記穴部は,前記基板に1つだけ形成されていることを特徴とする情報記憶装置。」(3) 原判決14頁12行目の「を特徴とする」を「ことを特徴とする」と改める。

⑷ 原判決15頁5行目から17頁末行までを次のとおり改める。

「(5) 控訴人製のトナー用カートリッジの電子部品のデータの書換制限措置等

ア控訴人は,「IPSiOSPC830シリーズ」のレーザープリンタ(以下「C830シリーズ」といい,このうち,型番「C830」及び「C831」のプリンタを「原告プリンタ」という。)及びその後継機種である「RICOHSPC840シリーズ」のレーザープリンタ(以下「C840シリーズ」という。また,これら以外のシリーズも含め,控訴人が製造するレーザープリンタを「原告製プリンタ」と総称する。)に対応する控訴人製のトナーカートリッジ(以下「原告製品」又は「純正品」という。)の情報記憶装置である電子部品(ICチップ)(以下「原告電子部品」という。)についてデータの書換えを制限する措置(以下「本件書換制限措置」という。)を講じている。控訴人によるC830シリーズの販売は終了しており,控訴人が現在販売している原告製プリンタの製品群(カラーレーザープリンタ及びモノクロレーザープリンタの合計30機種)のうち,本件書換制限措置が講じられているのは,「RICOHSPC840ME」等のカラーレーザープリンタ5機種である(甲31)。

イ原告プリンタに原告製品が装着されると,原告プリンタのプリンター画面において,「印刷できます」との表示がされるとともに,原告製品のトナーの残量が段階的に表示され,トナーが少なくなってくると,「トナーがもうすぐなくなります。」,「交換用のトナーがあるか確認してください。」との予告表示(以下,単に「予告表示」という場合がある。)がされ,トナーを使い切ると,「トナーがなくなりました。」,「トナーを補給してください。」との表示がされ,赤色ランプが点灯し,印刷を停止し(乙25),その際,原告製品の原告電子部品(ICチップ)のメモリに●●●●●●●●●●が書き込まれる。

ウ原告電子部品に●●●●●●●●●●が書き込まれた使用済みの原告製品にトナーを再充填して原告プリンタに装着すると,別紙3の写真1のように,原告プリンタのプリンター画面において,トナーの残量表示が「?」と表示され,黄色ランプが点滅し,「非純正トナーボトルがセットされています。」との表示がされる(甲48の写真1,乙25)。「?」と表示されている部分をタッチパネルで1回押すことにより,別紙3の写真2のような「サプライ情報」の画面に遷移し,同画面上の「保守/補給」の「▶トナー残量」の項目に「検知不可」との表示がされる(甲48)。この場合でも,別紙3の写真1のように原告プリンタのプリンター画面上に「印刷できます」との表示がされ,印刷操作を行うと支障なく印刷することができる。一方で,トナーの残量の段階的な表示や「トナーがもうすぐなくなります。」,「交換用のトナーがあるか確認してください。」との予告表示はされず,トナーを使い切ると,「トナーがなくなりました。」,「トナーを補給してください。」との表示がされ,赤色ランプが点灯し,印刷を停止する(甲48,乙25)。一方で,原告電子部品(ICチップ)に本件書換制限措置がされていなければ,電圧の操作によって●●●●●●●●●●のデータを書き換えることが可能であり,このようにデータを書き換えた上,トナーを再充填した使用済みの原告製品を装着した原告製プリンタにおいては,トナー残量の段階的表示及び残量予告表示をすることができる。

⑹ 被控訴人らの行為等

ア被控訴人らをはじめとするリサイクル事業者は,原告製プリンタのうち,本件書換制限措置がされていない機種に適合するトナーカートリッジについては,使用済みのトナーカートリッジに搭載された電子部品(ICチップ)のメモリのデータを書き換え,トナー残量の表示をすることができるようにした上で,トナーを充填し,再生品として販売している(乙26,46)。

イ被控訴人ロジコ及び被控訴人奥美濃は,使用済みの原告製品から原告電子部品を取り外し,別紙1及び2の電子部品(被告電子部品)に取り替えた上で,トナーを充填し,再生品として別紙1及び2記載の各トナーカートリッジ製品(被告製品)を製造している。株式会社ディエスホールディングス(以下「ディエスホールディングス」という。)は,被告ロジコ及び被告奥美濃から仕入れた被告製品を被控訴人DSジャパンに販売している。

被控訴人ら及びディエスホールディングスは,グループ会社である。

ウ被控訴人らは,平成25年4月から平成29年10月までの間,日本国内において,直販又は被控訴人DSジャパンが運営する「eco-choice(エコチョイス)」との名称のウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。)において,別紙4の写真1ないし3記載の形状の被告電子部品(以下「被告電子部品(設計変更前)」という。)が搭載された被告製品(以下「被告製品(設計変更前)」という場合がある。乙15)を販売し,又は販売の申出をし,同年11月以降,被告電子部品の形状を別紙4の写真4ないし6記載の形状に設計変更した電子部品(以下「被告電子部品(設計変更後)」という。乙15)が搭載された被告製品(以下「被告製品(設計変更後)」という場合がある。)を販売し,又は販売の申出をしていた(甲7ないし10,乙2,15)。

被告電子部品(設計変更後)の形状は,別紙4の写真5及び6のとおり,設計変更前のICチップの基板に設けられた穴部の上側の縁部を切り取った形状である(以下,上記切り取った部分を「本件設計変更部分」という場合がある。)。

⑺ 被告電子部品の構成要件充足性被告電子部品(設計変更前)は,本件各発明1及び2の構成要件を全て充足すること,本件各発明3の構成要件のうち,構成要件3-70Aないし3-70D以外の各構成要件を充足することは,争いがない。」

3争点(1) 被告電子部品(設計変更前)の本件各発明3の技術的範囲の属否(構成要件3-70Aないし3-70Dの充足性)(争点1)(2) 被告電子部品(設計変更後)の本件各発明1ないし3の技術的範囲の属否(争点2)

ア本件各発明1ないし3の構成要件1-1D等の「穴部」の充足性等(争点2-1)

イ均等侵害の成否(争点2-2)(3) 無効の抗弁の成否(争点3)

ア本件各発明1ないし3の特開2002-198627号公報(乙5)を主引用例とする進歩性の欠如(争点3-1)

イ本件各発明3に関する明確性要件違反(争点3-2)(4) 消尽の成否(争点4)(5) 権利の濫用の成否(争点5)(6) 差止めの必要性(争点6)(7) 控訴人の損害額(争点7)
第3 争点に関する当事者の主張

1争点1(被告電子製品(設計変更前)の本件各発明3の技術的範囲の属否(構成要件3-70Aないし3-70Dの充足性))について以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の1記載のとおりであるから,これを引用する。

15(1) 原判決19頁2行目から5行目までを次のとおり改める。「被告電子部品(設計変更前)が搭載された被告製品は,原告プリンタ用のトナーカートリッジとして被控訴人らによって販売されており,当然に構成要件3-70Aないし3-70Cの構成を備えた原告プリンタに着脱可能であるから,被告電子部品は,構成要件3-70Aないし3-70Dを充足する。」(2) 原判決19頁6行目,12行目,17行目ないし19行目及び22行目の各「被告電子部品」をいずれも「被告電子部品(設計変更前)」と改める。(3) 原判決19頁9行目末尾に行を改めて次のとおり加える。「したがって,被告電子部品(設計変更前)は,構成要件3-70Aないし3-70Dを充足するから,本件各発明3の技術的範囲に属する。」

2争点2(被告電子部品(設計変更後)の本件各発明1ないし3の技術的範囲の属否)について(1) 争点2-1(本件各発明1ないし3の構成要件1-1D等の「穴部」の充足性等)について以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の2(1)記載のとおりであるから,これを引用する。

ア原判決20頁3行目の「構成要件1-1D等」を「構成要件1-1D,1-1-F1,2-1C及び3-70F」と,同行目の「本件明細書等1~3」を「本件特許1の願書に添付した明細書及び図面(以下「本件明細書等1」という。),本件特許2の願書に添付した明細書及び図面(以下「本件明細書等2」という。)及び本件特許3の願書に添付した明細書及び図面(以下「本件明細書等3」という。)」と改める。

イ原判決21頁14行目末尾に行を改めて次のとおり加える。

「オ以上のとおり,被告電子部品(設計変更後)は,構成要件1-1D等の「穴部」を備えるものであるから,本件各発明1及び2の構成要件をすべて充足し,その技術的範囲に属する。

加えて,被告電子部品(設計変更後)は,前記争点1で述べたのと同様の理由により,構成要件3-70Aないし3-70Dを充足するから,本件各発明3の技術的範囲に属する。」

ウ原判決22頁24行目末尾に行を改めて次のとおり加える。

「また,被告電子部品(設計変更後)は,前記争点1述べたのと同様の理由により,構成要件3-70Aないし3-70Dを充足しないから,この点においても,本件各発明3の技術的範囲に属さない。」(2) 争点2-2(均等侵害の成否)について以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の2(2)記載のとおりであるから,これを引用する。

ア原判決23頁6行目,17行目,20行目,24行目,24頁3行目及び6行目の各「本件発明1」をいずれも「本件各発明1」と改める。

イ原判決24頁25行目,末行,25頁2行目から3行目にかけての各「本件発明2及び3」をいずれも「本件各発明2及び3」と改める。

ウ原判決25頁9行目の「本件各発明」を「本件各発明1ないし3」と改める。

3争点3(無効の抗弁の成否)について以下のとおり訂正するほか,原判決別紙5記載のとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決145頁1行目から5行目までを次のとおり改める。

「(別紙5)争点3(無効の抗弁の成否)に関する当事者の主張
第1 争点
3-1(本件各発明1ないし3の特開2002-198627号公報(乙5)を主引用例とする進歩性の欠如)

1争点3-1-1(本件各発明1の進歩性の欠如)について」15(2) 原判決145頁8行目の「乙5発明」を「本件各特許の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-198627号公報(乙5。以下「乙5公報」という場合がある。)記載の回路基板10に係る発明(以下「乙5発明」という。)」と,同頁15行目の「乙6考案」を「本件各特許の優先日前に頒布された刊行物である実願平2-71037号(実開平4-30784号)のマイクロフィルム(乙6。以下「乙6公報」という場合がある。)記載の基板ガイド構造に係る考案(以下「乙6考案」という。)」と改める。

(3) 原判決153頁6行目の「乙6発明」を「乙6考案」と改める。

(4) 原判決158頁8行目を「2争点3-1-2(本件各発明2の進歩性の欠如)について」と改める。

25(5) 原判決171頁24行目を「3争点3-1-3(本件各発明3の進歩性の欠如)について」と改める。
(6) 原判決178頁17行目から18行目までを次のとおり改める。「第2争点3-2(本件各発明3に関する明確性要件違反)について

1争点3-2-1(本件発明3-70,3-77,3-78及び3-80に関する明確性要件違反)について」5(7) 原判決180頁3行目及び4行目を「2争点3-2-2(本件発明3-78に関する明確性要件違反)について」と改める。

4争点4(消尽の成否)について以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の4記載のとおりであるから,これを引用する。

10(1) 原判決25頁22行目から24行目までを削る。

(2) 原判決27頁22行目末尾に行を改めて次のとおり加える。

「しかるところ,被控訴人らが原告電子部品(ICチップ)のメモリを書き換える態様で使用済みの原告製品をリサイクルしていたとすれば,リサイクル品について本件各特許権は消尽するのに,控訴人は,原告電子部品(ICチップ)のメモリの書換えを技術的に困難にする本件書換制限措置という合理性及び必要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品を取り外し,被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,上記消尽の成立を妨げたものであり,控訴人に二重の利得を得ることを認める必要性はないから,被告電子部品について本件各特許権の消尽が成立するというべきである。」(3) 原判決28頁13行目の「行使することはできず」から15行目末尾までを「行使することはできない。」と,同頁19行目の「仮に」から20行目の「あるから」までを「特許権者が,消尽が成立していない特許製品について特許権の行使により利得機会を実現するにあたり,特許製品の仕様を決定することは基本的に自由であり,「必要性及び合理性」なるものによって制約を受けるいわれはないし,仮にこの点を措くとしても,本件書換制限措置を講ずることには「必要性及び合理性」があるから」と改める。

(4) 原判決29頁23行目の「消尽は成立せず」から24行目末尾までを「消尽は成立しない。」と改める。

5争点5(権利の濫用の成否)について次のとおり原判決を訂正し,当審における当事者の補充主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の5記載のとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決の訂正

ア原判決30頁1行目から3行目までを次のとおり改める。

「仮に被告電子部品について本件各特許権の消尽の成立が認められないとしても,控訴人の本件請求は,以下のとおり,消尽の趣旨を潜脱し,公正な競争を阻害するものであることを総合考慮すると,権利の濫用に当たり許されない。

(1) 消尽の趣旨の潜脱前述のとおり,控訴人は,原告電子部品(ICチップ)のメモリの書換えを技術的に困難にする本件書換制限措置という合理性及び必要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品を取り外し,被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,原告電子部品(ICチップ)のメモリを書き換える態様により原告製品をリサイクルしたリサイクル品の原告電子部品についての本件各特許権の消尽の成立を控訴人の意思により妨げたものであり,控訴人の本件請求は,このように消尽の成立を妨げた結果を利用したものであるから,消尽の趣旨を潜脱するものにほかならない。」

イ原判決30頁4行目の「(1)」を「(2)」と,同頁5行目の「本件各特許」を「本件各発明1ないし3」と改める。

ウ原判決31頁5行目の「(2)」を「(3)」と,同頁6行目の「上記(1)」を「上記(2)」と改める。

エ原判決32頁1行目の「(3)」を「(4)」と改める。

オ原判決34頁5行目の「(4)」を「(5)」と,同頁6行目,7行目及び9行目の各「本件各発明」をいずれも「本件各発明1ないし3」と改める。

カ原判決42頁1行目の「(5)」を「(6)」と改める。

(2) 当審における控訴人の補充主張原判決は,
①控訴人は,使用済みの原告製品についてトナー残量が「?」と表示されるように設定した上で,本件各発明1ないし3の実施品である原告電子部品のメモリについて,十分な必要性及び合理性が存在しないにもかかわらず本件書換制限措置を講じることにより,リサイクル事業者である被控訴人らが原告電子部品のメモリの書換えにより本件各特許権の侵害を回避しつつ,トナー残量の表示される再生品を製造,販売等することを制限し,その結果,被控訴人らが当該特許権を侵害する行為に及ばない限り,トナーカートリッジ市場において競争上著しく不利益を受ける状況を作出した上で,当該各特許権の権利侵害行為に対して権利行使に及んだものと認められる,
②このような控訴人の一連の行為は,これを全体としてみれば,トナーカートリッジのリサイクル事業者である被控訴人らが自らトナーの残量表示をした製品をユーザー等に販売することを妨げるものであり,トナーカートリッジ市場において控訴人と競争関係にあるリサイクル事業者である被控訴人らとそのユーザーの取引を不当に妨害し,公正な競争を阻害するものとして,独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)と抵触するものというべきである,
③そして,本件書換制限措置による競争制限の程度が大きいこと,同措置を行う必要性や合理性の程度が低いこと,同措置は使用済みの製品の自由な流通や利用等を制限するものであることなどの点も併せて考慮すると,本件各特許権に基づき被告製品の販売等の差止めを求めることは,特許法の目的である「産業の発達」を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するものとして,権利の濫用(民法1条3項)に当たるというべきである,
④控訴人は,本件各発明1ないし3の実施品である電子部品が組み込まれたトナーカートリッジを譲渡等することにより既に対価を回収していることや,本件書換制限措置がなければ,被控訴人らは,本件各特許権を侵害することなく,トナーカートリッジの電子部品のメモリを書き換えることにより再生品を販売していたと推認されることなども考慮すると,本件においては,差止請求と同様,控訴人の損害賠償請求についても,権利の濫用に当たると解するのが相当である旨判断したが,以下のとおり,原判決の判断は誤りである。

ア判断枠組みについて権利の濫用の有無は,権利を行使する者とその相手方についての主観的及び客観的事情や,濫用の有無が問題となる権利の性質,その権利を発生させる規定の立法趣旨等の具体的事情を考慮して判断されなければならない。

ところで,特許権は,発明者に発明の実施の独占を認めることにより,発明へのインセンティブを与え,企業間の技術開発競争を促進するものであり,他方で,特許権の存続期間は限定され,存続期間満了後は,発明の自由な実施を認めることにより,発明を利用した商品・サービスの自由競争が促進される。特許法は,発明の保護と利用のバランスを取りつつ,発明の対象とする商品,サービスの公正な競争を確保し,それによって産業の発達に寄与することを目的とする(特許法1条)。このような枠組みの中で,特許法は,特許権の存続期間中においては,特許権者の独占的実施の利益を保護することにより,企業間の技術開発競争を促進することに主眼を置く形で競争秩序を規律しており,発明の対象とする商品・サービスの自由競争が一定程度制約されることは制度上織り込み済みであるといえるから,どのように特許権や特許発明を利用して発明の対価を取得するかについての特許権者の決定は,原則として尊重されなければならない。また,競争法的観点からみても,知的財産権侵害を理由とする差止請求訴訟等の提起が独占禁止法に基づいて規制されるのは例外的な場合に限られ,極めて慎重でなければならない。なぜなら,第1に,競争水準を上回る利潤を獲得する可能性が社会経済にとって有益な活動を促進するという見方をもとに,現在の知的財産保護制度は設計されており,それにもかかわらず,差止請求訴訟等の提起を自由に行うことができなくなれば利潤の獲得可能性は低くなり,現行の知的財産保護制度の機能が損なわれるからである。第2に,知的財産法の下では競争水準を超える利潤の獲得が予定されており,この目的を追求する過程で行われるライセンス拒絶や知的財産権侵害を理由とする差止訴訟等の提起は通常,不当とは考えられていない。このような行為を規制することは,恣意的ないし予測不可能な形で法を運用することになるおそれがあるからである。第3に,知的財産法による保護が過度に過ぎるのであれば,知的財産法制の変更や裁定実施権制度を利用して解決すれば足りるからである。以上を踏まえると,特許権者による特許製品の仕様の決定や販売の態様が製品の属性上一定の合理的根拠に基づくものであって,特許権の行使その他の特許権者の行為が相応の合理性を有するものと認められるという事案の下にあっては,特許権の行使を認めることにより看過し難い競争制限効果が生じるといった特段の事情がない限り,公正な競争を阻害するおそれがあるものとはいえず,権利の濫用に当たらないというべきである。これと異なり,特許権者である控訴人において原告電子部品のメモリに本件書換制限措置を講じることについて十分な必要性及び合理性があることの主張立証を求める原判決の判断枠組みは妥当でない。

イ公正競争阻害性の成否を論ずる市場の画定の必要性独占禁止法において,公正な競争を阻害するおそれ,すなわち公正競争阻害性の成否を論ずるに当たっては,適切な市場画定を行い,どの市場における公正競争阻害性や正当化理由を検討するのかを明らかにする必要がある。控訴人のC830及びC840シリーズのプリンタは,ビジネス用プリンタに該当し,原告製プリンタの中ではハイエンドの製品として位置づけられる(甲47,75,乙46)。ビジネス用プリンタの販売市場においては,キヤノン株式会社をはじめ,富士ゼロックス株式会社,ブラザー工業株式会社など多くの事業者間で激しい競争が展開され,本体機器の販売市場における競争が維持されていること,需要者がビジネス用プリンタを購入する段階で消耗品及び保守費用といったランニングコストの総額まで念頭においた上でプリンタを選ぶ状況があることを踏まえると,プリンタのトナーカートリッジの価格が過度に上昇した場合,需要者は消耗品等のコストを一体として考え,当該プリンタを使い続けるよりは,プリンタ自体を他社に買い換えた方が得であると判断し,他社のプリンタに乗り換えることが容易にできるから,プリンタメーカー間の競争は,トナーカートリッジの価格を過度に上昇させることを抑える機能を有しており,特定1社のプリンタ用トナーカートリッジの市場というアフターマーケット市場における過度の値上げに対する有効な牽制力となっていると考えられる。

したがって,複数のプリンタメーカーから構成されるプリンタ本体の販売市場とアフターマーケットの市場は,相互関連性を有しているから,本件においては,プリンタ本体の販売市場とアフターマーケットの市場は分離せずに一体として評価されるべきである。一方で,独占禁止法が禁止する不公正な取引方法の一類型である「競争者に対する取引妨害」(一般指定14項)は,少なくとも「市場における有力な事業者」によって行われる必要があるが,公正取引委員会は,市場シェア20%以下である場合には,「市場における有力な事業者」に該当しないことを明示している(公取委事務局「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平3年7月11日最新改正平成29年6月16日)(以下「流通・取引慣行ガイドライン」という。)第1部3(4))。

しかるところ,ビジネス用プリンタの販売市場における控訴人のC830及びC840シリーズのシェアは約12.5%(2018年度)であって,20%を下回るので,控訴人は,ビジネス用プリンタの販売市場において,流通・取引慣行ガイドライン上の「市場における有力な事業者」に該当するとはいえず,控訴人による本件書換制限措置を含む一連の行為は,プリンタ本体の販売市場とアフターマーケット市場を一体として評価した市場において,公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)はなく,独占禁止法(同法19条,2条9項6号,一般指定14項)と抵触するものではない。

ウ競争制限効果が認められないこと仮にトナーカートリッジ市場のみを前提としても,控訴人の本件書換制限措置を含む一連の行為には,以下のとおり,競争制限効果は認められない。(ア) トナーの残量表示が「?」と表示され,予告表示がされないことによるユーザーへの影響原判決は,
①プリンタにとってトナー残量表示は一般的に備わっている機能であると認められるところ,トナー残量が「?」と表示されると,ユーザーとしてはいつトナーが切れるかの予測がつかないことから,トナーが切れたときに備えて予備のトナーカートリッジを常時用意しておかなければならず,トナー残量の表示がされる場合に比べ,本来不必要な保守・管理上の負担をユーザーに課すこととなる,
②プリンタに純正トナーカートリッジを装着した場合にトナー残量が「?」と表示されることは通常あり得ないことから,同表示に接したユーザーは,トナーカートリッジの再生品の品質にはやはり問題があって,プリンタのトナー残量表示機能が正常に作動していないのではないか,あるいは,トナーカートリッジが純正品ではないことからプリンタがトナーカートリッジに記録された情報を適正に読み取ることができないのではないかなどの不安感を抱き,再生品の使用を躊躇すると考えられる,
③公的機関によるカラーレーザープリンタ用トナーカートリッジ等の入札においては,メーカーによる再生品以外の再生品について,トナーカートリッジに装着するチップの情報を,リサイクルの都度確実に書き換えることや,純正品と同等の機能を有することなどが条件とされていることによれば,本件書換制限措置がされている原告電子部品について,被告電子部品と取り替えることなく,トナー残量が「?」と表示される再生品を製造,販売等した場合,このような条件を課す公的機関による入札において当該再生品が入札条件を満たす可能性は低いなどとして,本件書換制限措置により,被控訴人らがトナーの残量の表示が「?」であるトナーカートリッジを市場で販売した場合,被控訴人らは,競争上著しく不利益を被ることとなる旨判断した。しかしながら,
①については。原告製品では,再生品を使用する場合も「トナーがなくなりました」等のトナー切れを通知する内容の表示が出されるから,この場合における「負担」の内容は「必要最低限の予備のトナーを用意しておく,その上で,トナー切れ表示が出たら交換する」という程度のものであって,予告表示が出る場合における「予告表示が出たらトナーを用意し,トナー切れ表示が出たら交換する」という処理に比べて,ユーザーにそれほど重大な負担を課すものとはいえない。そして,原告プリンタ及びC840シリーズの需要者である事業者においては,消耗品不足による業務への支障が生じないよう予備のトナーカートリッジを必要最低限の個数は備えておくことは当然であり,かつ自然な対応と考えられる(甲46の1)。また,トナーカートリッジに不具合が生じる場合もあるから,ユーザーが予備のトナーを用意しておくことは,円滑な業務遂行のためにごく自然な対応であるといえ,現に,リサイクル事業者は,各社のウェブサイトにおいて,ユーザーに対し,予備のカートリッジを在庫として用意することを推奨している(甲65の1ないし7)。次に,
②については,「?」の表示は,別紙3のとおり,原告プリンタの印刷の待機画面において,残量メータの中に記号として小さく表示されるところ,「?」は一般的に「分からないとか,疑問である」ことを指すから,残量表示部分に「?」が出ていれば,ユーザーは,「残量が分からない」との趣旨であると容易に理解することができるといえるし,画面最下部に「非純正トナーボトルがセットされています」との表示もされるから,非純正トナーボトルがセットされていることによって,残量表示が分からないとの趣旨であると理解することができる。この場合でも,原告プリンタの印刷の待機画面では「印刷できます」と大きく表示され,ユーザーが印刷できることを容易に理解できるようにしており,実際にそのまま印刷することが可能である。また,トナー残量が表示されている部分をタッチパネルで1回押すことにより「サプライ情報」の項目を出すと,「トナー残量」が「検知不可」との表示もされる。加えて,そもそも純正品と比べた場合の再生品の主な訴求力は価格の安さにあると考えられ(甲59,60の1ないし10等),ユーザーは,再生品がその性質上,純正品と異なることを当然に想定しているから,再生品の使用時にトナーの残量が表示されなくても,再生品に欠陥があると認識することはない。上記の各点を踏まえれば,「?」の表示は,ユーザーにおいては,「再生品であるためにトナーの残量を検知することが不可能である」ということを表示するものとして受け止められ,そのような意味内容は格別不安を抱かせるようなものではなく,原判決が述べるようなユーザーが再生品の品質について特別な不安感を抱くとか,再生品の使用を躊躇するなどということはない。仮に「?」の表示が問題であるというのであれば,被控訴人らが自ら説明をすれば,ユーザーへの影響は緩和できるはずであり,実際に,トナーの残量が表示されないリサイクル品については,リサイクル事業者の方で,トナーの残量が表示されないが,「問題なく使用できます」旨を記載した書面をリサイクル品に同梱したり,ウェブサイトで説明している事例もある(甲67の1及び2,68の1ないし3)。

③については,ユーザーがトナーカートリッジの「品質」として考慮するのは,印字品質,規定枚数を印刷できるか否か,アフターサービスの内容(甲47,甲62ないし64等)であり,トナーカートリッジの「品質」には,トナー残量の表示や,トナー残量について「?」の表示が出ないことまで含まれておらず,トナー残量の表示は,ユーザーの判断要素として必須のものではないことからすると,原判決が挙げる公的機関によるカラーレーザープリンタ用トナーカートリッジ等の入札条件(乙38,39の2)には,トナーの残量がプリンタ上に表示なされなければ,かかる入札条件を満たさないという趣旨までは含んでいないと考えられる。また,公的機関の入札には,仕様書において,「純正品と同等」や,トナー残量表示を要求するなどの条件を明らかに設けていないものも存在する(甲72)。仮に特定の公的機関がトナー残量の表示を必須とする事例が存在したとしても,「?」と表示される再生品を受け入れる他のユーザーが存在することは十分想定されること(甲72)からすれば,直ちに再生品メーカーが競争上の不利益を受けているとまではいえない。以上によれば,原判決が挙げる①ないし③は,本件書換制限措置により,被控訴人らがトナーの残量の表示が「?」であるトナーカートリッジを市場で販売した場合,被控訴人らは,競争上著しく不利益を被ることの根拠となるものではないから,原判決の上記判断は誤りである。

(イ) 本件各特許権侵害の回避可能性について原判決は,
①被控訴人らをはじめとするリサイクル事業者が,現状において,本件書換制限措置のされた原告製プリンタについて,トナー残量表示がされるトナーカートリッジを製造,販売するには,原告電子部品を被告電子部品に取り替えるほかに手段はないと認められる,
②そして,本件各特許権に基づき電子部品を取り替えた被告製品の販売等が差し止められることになると,被控訴人らはトナー残量が「?」と表示される再生品を製造,販売するほかないから,被控訴人らは,トナーカートリッジ市場において競争上著しく不利益を受けることとなる旨判断した。しかしながら,原告プリンタ側の端子の位置や突起部の形状は決まっているので,ICチップは,それらに合う構造のものであればよく,例えば,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●にするなどして,本件各特許権に抵触しないようにすることも十分に可能であると考えられる。例えば,●(省略)●控訴人が,●●●●●●●●●●●に挿入した時の動作を確認する実験(甲73,74)を実施したところ,●●●●において,「?」と表示されることなく,トナーの残量表示がされ,正常に動作することを確認した。

このように,リサイクル事業者は,本件各特許権侵害を回避しつつ,「?」と表示されない再生品を製造することができるから,原判決の上記判断は誤りである。(ウ) 乙70及び71に基づく被控訴人らの主張についてa被控訴人らは,当審において,トナーの残量表示が表示されず,「?」と表示されることのユーザーへの影響の根拠として,被控訴人ロジコが株式会社インテージ(以下「インテージ社」という。)に依頼して実施したアンケート調査(以下「本件アンケート調査」という。)の調査報告書(乙70)を提出する。しかし,本件アンケート調査は,実際に原告プリンタを操作する場面での「?」の残量表示を見た上での反応を調査したものではなく,被控訴人らの想定する仮想の事例に基づくものにすぎず,また,対象者に何ら必要な背景情報の説明もなく質問されており,対象者の属性に応じて当然に前提とされるべき事項が適切に設定されていないなどの点において,不適切であり,本件アンケート調査の結果は信用することができない。このほか,聞き取り調査結果の報告書(乙66)及びこれに言及する被控訴人ロジコの従業員作成の陳述書(乙25)等も,乙70と同様に信用することができない。

b被控訴人らは,当審において,プリンタのディスプレイ上に残量表示がされず,「?」と表示されるリサイクルトナーカートリッジは東京国税局の入札要件を満たさないことの根拠として,東京国税局の回答書(乙71)を提出する。しかし,上記回答書の回答結果によれば,トナーのリサイクル品の「品質」等に関する規格の内容においては,印字品質等だけが規格の要素として挙げられており,トナー残量表示については要素となっておらず,トナー残量表示が「?」となる再生品が粗悪品又は不良品であると判断する可能性については一切言及がなく,前述の通り,東京国税局が,トナー残量表示が「?」となる再生品を「粗悪品」と判断していないことは明らかであるから,乙71は,トナーの残量がプリンタ上に表示なされなければ東京国税局の入札条件を満たさないことの根拠となるものではない。(エ) まとめ以上によれば,控訴人の本件書換制限措置を含む一連の行為には,競争制限効果は認められない。

エ本件書換制限措置の必要性及び合理性について(ア) 本件書換制限措置の導入目的は,控訴人が20年以上前から検討を進めているICチップを用いた●●●●●●●●●●●を確実にし,それらの●●●●●●を介してユーザーへのメリットを生じさせるためにICチップ上の情報の正確性を常に確保しようとする点にある。従来のRFIDチップの課題であった●●●●●とICチップのデータ保護の問題を解決するという経緯で誕生したのが,本件各発明1ないし3の特徴である穴あき形状と本件書換制限措置を導入した新型ICチップである。トナー残量が表示される場所は,トナーカートリッジでなく,控訴人のプリンタ製品のディスプレイであるから,トナー残量表示が不正確である場合に信頼を落とすのはプリンタメーカーである控訴人である。控訴人は,本件書換制限措置が講じられていない場合には,自ら品質等をコントロールできない第三者の再生品のトナーの残量を表示させられるのであって,残量表示の正確性を自らコントロールできないプリンタメーカーが,このような弊害を排除したいと考えて一定の措置を設けようとすることは,特に不合理なものとはいえない。したがって,控訴人による本件書換制限措置の導入は,ICチップ上の情報の正確性の担保を行うという目的を達するための合理的手段である。次に,現在,控訴人の取り扱う製品のうち,本件書換制限措置が講じられているのは,全ての製品ではなく,ユーザーからの要求水準が高く本件書換制限措置の導入の必要性が高い一部のハイエンド機種に限られており,本件書換制限措置が導入された機種の選択についても,ビジネス上の効果を最大化させるという観点での総合的な販売戦略上の判断に基づくものである。また,原告製プリンタでは,本件書換制限措置を前提とした場合でも,リサイクル品の使用時に何らの特別な操作を要求するものではなく,トナー残量表示の点以外については,純正品の場合と同様に印刷のための操作をすることを可能としている。このように控訴人は,特定の機種に関して狙い撃ちで排除する目的や,特許権行使の可能性を考慮して本件書換制限措置を導入したなどということは全くない。以上のとおり,控訴人による本件書換制限措置の導入は,他のプリンタメーカーとの競争の観点から,ICチップ上の情報の正確性の担保を行うという目的を達するための合理的手段であり,必要性及び合理性があることは明らかである。また,控訴人の主観的な意図としても,リサイクル事業者排除の意図や特許権行使の可能性を考慮して本件書換制限措置を導入したことなどない。(イ) この点に関連して,原判決は,乙3先例(公正取引委員会による審査事例)を挙げて,公正取引委員会が,プリンタのメーカーが,技術上の必要性等の合理的理由がなく又はその必要性等の範囲を超えてICチップの書換えを困難にし,カートリッジを再生利用できないようにした場合や,ICチップにカートリッジのトナーがなくなったなどのデータを記録し,再生品が装着されたときにレーザープリンタの機能の一部が作動しないようにした場合には一般指定14項(競争者に対する取引妨害)に違反するおそれがあるとの見解を示していると述べる。しかし,乙3先例の事案は,特許権の行使に係る事案でも,権利の濫用の成否が判断された事案でもなく,また,乙3は,プリンタメーカーの行為によって,再生品の使用自体に支障が生じたり,本来の目的の達成を不能とするような重大な機能の一部が作動しなくなったりする場合を念頭に置き,再生品の使用自体に支障が生じるか否かを重視して判断しているから,乙3を本件の先例とすることには根拠がない。

オ小括以上によれば,控訴人の本件請求が権利の濫用に当たるとした原判決の前記判断は誤りである。
(3) 当審における被控訴人らの補充主張控訴人は,原判決の論理構成及び事実認定について縷々批判するが,原判決の判断に誤りはなく,控訴人の主張は,以下のとおり,いずれも失当である。

ア公正競争阻害性の成否を論ずる市場の画定の必要性の主張に対し競争手段の不公正さが公正競争阻害性の内容となっている本件のような取引妨害の事案では,そもそも市場が画定される必要はない。仮に市場を画定しなければ公正競争阻害性の成否を論ずることはできないという控訴人の主張を前提とするとしても,その際に検討されるべき市場は控訴人が主張する一次市場と二次市場を一体のものとして評価する市場などではなく,ロックイン現象を前提とした狭い市場(控訴人のC830シリーズ及びC840シリーズのプリンタのためのトナーカートリッジ市場)となる。この市場において,純正品メーカーである控訴人が占めるシェアは80%を下ることはなく(乙56),控訴人が主張する「市場における有力な事業者」に該当するから,そのような行為者による妨害行為により,公正競争阻害性が生じていることは明白である。これに反する控訴人の主張は失当である。

イ競争制限効果が認められないとの主張に対し(ア) 「?」表示は被控訴人らの競争上著しく不利益を与えることaトナーカートリッジの消費者は,トナー残量表示の有無を製品選択における重要な要素であると考えており(乙25),いくら価格が安くとも,トナー残量表示のないリサイクル製品は,純正品とは同等ではない「中途半端な再生品」として消費者に受け入れられない。「?」表示がされるリサイクル品は市場にほとんど存在しておらず,このことは,「?」表示がされるリサイクル品では,純正品との競合品として市場に受け入れられないことを端的に示している。現に,「?」マークが表示されたために不良品として返品された事例(乙46,56)が存在する。本件において,ICチップを書き換えずにトナーを再充填した場合には,トナー残量表示が常に「?」となりトナー残量が分からなくなるという不都合にとどまらず,トナーが少なくなってきた時のカートリッジ交換予告メッセージが出ないため,トナーがなくなった時に突然トナーの補給を求める表示が出てプリンタが動かなくなるという不便をユーザーが被ることになる(乙2,56)。したがって,残量表示に「?」が表示されるということは,トナー残量を表示するという機能一つに止まらない,大きな不利益をリサイクル事業者に与えるものである。

20b残量表示がされず,「?」が表示される製品がユーザーに受け入れられないことは、被控訴人らの実施した聴き取り調査の結果(乙25,66)から明らかであり,また,残量表示がされないことは、官公庁の入札条件を満たさない(乙67の1ないし4,68の1ないし4)ことからも明らかである。

さらに,このことは,本件アンケート調査(乙71)の結果及び東京国税局の回答書(乙71)からも,裏付けられる。被控訴人らは,マーケティングリサーチ等を主たる業務とする外部調査機関であるインテージ社に依頼して,本件書換制限措置によって残量が表示されず「?」と表示されることの競争上の不利益について,ユーザーの受け止め方を明らかにするため,令和3年3月,本件アンケート調査(乙70)を実施した。本件アンケート調査の結果によれば,残量表示がされず,「?」と表示される画面を初めて目にしたユーザーの最初の印象は,「何らかのエラーが起きている」,「印刷できないと思う」(22頁)というものであり,印刷自体は可能であるとの説明が事前にされた上で,「?」マークが表示された場合,どのような対応をとるかについて,実際の業務においてコピー機,プリンタの機種選定やこれら機器の備品・消耗品選定を行っている選定者に質問したところ,リサイクルトナーカートリッジの使用をとりやめる者(「トナーカートリッジの購入先を切り替える」,「トナーカートリッジを返品・交換する」又は「純正品しか使わないようにする」と答えた者)が約6割を占めた(30頁)。かかる本件アンケート調査の結果から,残量表示がされず,「?」と表示されることはユーザーに対して不安感を与え,公正競争を阻害する抽象的な危険性を超えて,具体的な危険性を有することが分かる。また,東京国税局の同年4月13日付け回答書(乙71)によれば,東京国税局の入札条件として,ISO14001等を取得したものであるとの条件とは別に要求されている「チップ装着タイプのトナーカートリッジに装着するチップは,リサイクルの都度,確実に情報を書き換えること」との条件(乙39の2)の趣旨は,「チップ装着タイプのトナーカートリッジについては,プリンタが純正品を使用した場合と同様の作動状況となるよう,リサイクルの都度,チップの情報を書き換える必要がある」とのことである。これによれば,本件書換制限措置により,ICチップの書換ができないこと自体によってリサイクルトナーカートリッジは東京国税局の入札要件を満たさないこととなるだけでなく,プリンタのディスプレイ上に残量が表示されず「?」と表示されてしまえば「プリンタが純正品を使用した場合と同様の作動状況」とはならないのであるから,この点でも東京国税局の入札条件を満たさないこととなる。

cこの点に関し控訴人は,「?」表示がされたとしても問題なく印刷できることを説明すれば足りる旨主張する。

しかし,残量が表示されず「?」と表示されることを説明しなければならないこと自体が競争上不利益であるのみならず,たとえ説明を行ったとしても,実際に使用する者に周知することは極めて困難であり,さらに,事前に説明を行い,了承を得た上で,正常に残量表示がなされない商品を販売したにもかかわらず,残量表示が正常になされないことを理由にクレームがあり返品された事例すら存在すること(乙64)からすれば,控訴人の上記主張は,失当である。(イ) 本件書換制限措置を回避することは不可能か,著しく困難であること控訴人が本件各特許権侵害を回避しつつ「?」と表示されない再生品を製造することができることの根拠として挙げる甲73及び74は,●20●●●の製品を原告プリンタに装着した際に●(省略)●を原告プリンタに挿入した際に通常の印刷動作を行ったことを述べるものである。しかし,本件書換制限措置を回避できたというためには,大量に販売されるリサイクルトナーカートリッジが長期間安定的にプリンタで使用できる必要があるのであって,1本のトナーカートリッジが数枚印刷可能であったとしても,本件書換制限措置を回避できることは意味しない。実際,被控訴人らは,これまで●●●●●●と類似の形状の製品開発を試み,流通させたことがあるが,プリンタ側の接点が1つでも接触不良を起こすとエラーとなってしまうため動作が不安定となってしまった。その結果,接続不良の不良品ということで返品されてきてしまったため,導入を断念したこともある(乙56)。このような不安定な動作の製品が消費者に到底受け入れられないことの証左である。また,本件各特許権侵害の回避が容易でないことは,原判決が,被告製品の構成や形状は,適合させる原告プリンタの構成や形状に合わさざるを得ず,その設計上の自由度は相当程度制限されると考えられると認定しているとおり,本件各発明1ないし3は,カートリッジとプリンタとの接続部にあたる情報記憶装置を,穴部を介した形状により特定したものであり,安定した接続を確保するためには,プリンタ側の構成や形状に合致したものにせざるを得ないことからも明らかである。したがって,実用に耐えうる程度の本件書換制限措置の回避は事実上不可能か,著しく困難である。

ウ本件書換制限措置を講ずることに必要性及び合理性がないこと控訴人は,本件書換制限措置の導入の目的は,控訴人が20年以上前から検討を進めているICチップを用いた●●●●●●●●●●●を確実にし,それらの●●●●●●を介してユーザーへのメリットを生じさせるためにICチップ上の情報の正確性を常に確保しようとする点にあり,本件書換制限措置を講ずる必要性がある旨主張する。しかし,本件書換制限措置が講じられているトナーカートリッジ製品は,C830シリーズ及びその後継機種に対応するもののみであり,これの機種についてだけ,本件書換制限が必要であることについての立証はされておらず,ICチップのメモリの書換えがされたリサイクル品の存在によって,●●●●●●●●●●●●●●●●●に支障が生じたり,生じるおそれが存在することを裏付ける追加の主張立証もされていない。このことは,ICチップのメモリの書換えがされたリサイクル品の存在によって,●●●●●●●●●●●●●●●●●に支障が生じた事実もないし,生じるおそれすらないことを示している。また,被控訴人らは,2014年(平成26年)から2018年(平成30年)の過去5年間に限っても,これまで,控訴人製トナーカートリッジ製品のリサイクル品を約36万本以上販売してきており,そのうち,96%以上のICチップは全て書換えがされている。リサイクル事業者全体では,同期間の原告製トナーカートリッジ製品のリサイクル品の販売台数は約580万本にも及び,このうち560万台ほどのICチップは全て書換えがされているものと推計される(乙46)。こうした事実は,控訴人が主張するような本件書換制限措置の必要性が存在しないことを裏付けるに十分なものである。したがって,控訴人の上記主張は,失当である。

エ小括以上によれば,控訴人は,リサイクル品が装着された場合にディスプレイ上に「?」が表示されるような設定と本件各特許権とは何ら関わりのない本件書換制限措置という妨害行為を組み合わせる方法で,人為的に,純正品と同等のリサイクル品を競争上劣位におき,被控訴人らリサイクル事業者の取引を妨害しているものであり,かかる控訴人の行為は,必要性も合理性も欠き正当化されないから,競争者に対する取引妨害として独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)に抵触する。このように控訴人の本件各特許権に基づく本件請求は,消尽の成立を妨げた上でされた権利行使であって,また,独占禁止法違反を前提とした権利行使であるから,権利の濫用に当たり許されない。

したがって,原判決の判断に誤りはない。

6争点6(差止めの必要性)について(控訴人の主張)(1) 原告製品には,原告電子部品が保持部材によって保持されて搭載され,同保持部材は,上下2か所がピンにより圧着され(甲10の写真6-1~6-4),この圧着ピンを破壊しない限り原告電子部品を取り外すことはできず,圧着ピンを破壊した後は,取り外した保持部材を再度圧着することができない。このため,被告製品は,原告製品からその保持部材を破壊して原告電子部品を取り出し,被告電子部品に入れ替えた上,保持部材の4か所に接着剤を付し,トナーカートリッジに再度装着して製造される(甲10の写真3-1~3-4-1,4-2,乙15の写真2)。

このように被告電子部品が被告製品と物理的に一体となっており,かつ,被告電子部品を単体では製造,販売等をしておらず,被告電子部品が組み込まれた被告製品を製造,販売等しているから,控訴人は,被告製品の販売を差止めの対象とせざるを得ないから,その差止めの必要がある。

この点に関し,被控訴人らは,被告電子部品を用いない被告製品の製造,販売を準備しているから,被告製品の販売の差止めの必要性はない旨主張するが,仮に被控訴人らが電子部品(ICチップ)の設計変更をしたとしても,被控訴人らは,容易に設計変更前の被告電子部品を用いて被告製品の製造,販売をすることが可能であるから,被控訴人らの主張する設計変更の事実の有無やその設計変更の内容如何にかかわらず,本件において,被告製品の販売等の差止めの必要性は依然として優に認められる。

(2) 被告電子部品は,被告製品と物理的に一体となっており,被告製品から被告電子部品を取り外すには,被告製品の保持部材を破壊しなければならないことからすると,被告製品全体が「侵害の行為を組成した物」(特許法100条2項)に該当し,その廃棄の必要性がある。

また,実質的にも,被告電子部品を廃棄する際に,被告製品から取り外すには,被告製品の保持部材を破壊しなければならず,被告電子部品のみを廃棄請求の対象としても執行の実効性がないことになるから,この点においても,被告製品全体を廃棄請求の対象とせざるを得ない。さらに,被控訴人らは,今後回収する空になったトナーカートリッジを用いて,本件各特許権を侵害しない態様でリサイクルトナー製品を製造販売することは何ら禁じられないのであるから,現時点で保有する「侵害の行為を組成した物」である被告製品について廃棄請求を認めても,被控訴人らに酷な結果になることもない。

(3) 以上のとおり,被告製品全体の販売等の差止め及び廃棄の必要性があり,これに反する被控訴人らの主張は理由がない。

(被控訴人らの主張)(1) 被告製品から被告電子部品を保持する保持部材を取り外して,被告電子部品を取り出した上で,これを再度組み付けなおして利用することができるから,被告製品と被告電子部品は可分であって物理的に一体となっているものとはいえないから,被告製品全体の販売の差止めは,過剰であり,その必要性はない。また,被控訴人らは,現在,被告電子部品(設計変更後)からさらに設計を変更した製品(以下「本件再設計変更品」という。)を搭載したリサイクルトナーカートリッジを製造・販売するようになっており,被告電子部品を搭載したリサイクルトナーカートリッジの製造・販売を行っておらず,また今後も行うことはないこと(乙80)からすると,本件各特許権の侵害のおそれはないから,差止請求の要件を欠いている。

(2) また,現時点において,被控訴人らは,被告電子部品を搭載した被告製品を保有しておらず(乙87),「侵害の行為を組成した物」が存在しないから,控訴人の廃棄請求はその要件を欠いている。すなわち,トナーカートリッジ製品である被告製品と被告電子部品は,可分であって物理的に一体とはいえないこと,物の発明においてその物がある構成物の一部をなす場合には,その構成物の特許発明の対象である物以外の部分は,「侵害の行為を組成した」とはいえないこと,また,現時点において,被控訴人らは,被告電子部品を搭載した被告製品を保有していないこと(乙87)から,被告製品の廃棄請求を認める余地はない。

7争点7(控訴人の損害額)について(控訴人の主張)(1) 特許法102条2項に基づく損害額

ア被告製品の販売に係る利益(限界利益)の額被控訴人らは,平成25年4月から平成29年10月までの間,被告電子部品(設計変更前)が搭載された被告製品(設計変更前)を販売し,同年11月から令和3年8月3日までの間,被告電子部品(設計変更後)が搭載された被告製品(設計変更後)を販売し,被告製品(設計変更前・設計変更後。以下,単に「被告製品」という場合がある。)の販売総数は,2万1000本を下らず,これにより被控訴人らが得た利益(限界利益)の額は,合計8400万円(1本当たり4000円)を下らない。被控訴人らによる被告製品の販売は本件各発明1ないし3に係る本件各特許権の侵害行為に当たるから,特許法102条2項により,被控訴人らが得た上記利益の額は,控訴人が上記侵害行為により受けた損害額と推定される(以下,この推定を「本件推定」という場合がある。)。

イ被控訴人らの主張について(ア) 被控訴人らは,被告製品から被告電子部品を保持する保持部材を取り外して,被告電子部品を取り出した上で,これを再度組み付けなおして利用することができることから,控訴人の損害額は,被告電子部品の販売価格又はその限界利益を基準として算定すべきである旨主張する。しかしながら,原告製品においては,原告電子部品(ICチップ)は「保持部材」の中に保持されているが,ユーザーが電子部品(ICチップ)を取り出すことは全く想定されていないから,「保持部材」は原告製品の一部として完全に溶着されており,かかる「保持部材」を破壊しなければ電子部品(ICチップ)を取り出すことはできない。そして,被告製品についても,真正品である原告製品と同様に,ユーザーが被告電子部品(ICチップ)を取り出すことは想定されておらず,「保持部材」は被告製品の一部として接着剤で固く接着されており,かかる「保持部材」を破壊しなければ被告電子部品(ICチップ)を取り出すことはできないから,被告電子部品は被告製品と物理的に一体となっていることは明らかである。また,被告製品は,そこに含まれる被告電子部品が本件各発明1ないし3と同じ構成を備えていることによって,必然的に「画像形成装置本体に対して着脱可能に設置される着脱可能装置に接触式の情報記憶装置を設置した場合であっても,画像形成装置本15体のコネクタの本体側端子との位置決め不良による接触不良が生じにくい,情報記憶装置及び着脱可能装置を提供することができる」などの本件各発明1ないし3の作用効果を享受しているから,被告製品ひいてはプリンタ等の画像形成装置の機能に対しても寄与をしている。したがって,被控訴人らの上記主張は理由がない。

20(イ) また,被控訴人らは,被告電子部品は被告製品の一部品であること,被告製品において本件各発明1ないし3の顧客吸引力がないこと,控訴人は,被告電子部品を用いなくても,本件各特許権の侵害を回避しつつ,「?」と表示されない再生品を製造することができることを認めていること,被告製品の売上げに原告プリンタの販売台数が寄与していること,被告製品においては本件各特許以外の控訴人の他の特許が実施されていること,被告製品の価格は原告製品の販売価格よりも大幅に安価であり,被控訴人らと控訴人の業務態様等が相違すること,被控訴人らが被告製品を販売しなかったとしても,その販売分は,本件書換制限措置により残量表示がされないままのリサイクル品に置き換わるにすぎないことは,本件推定の覆滅事由に該当し,かかる事情を考慮すると,本件推定は全部覆滅される旨主張する。しかしながら,被告製品において本件各発明1ないし3の顧客吸引力がないとする点は客観的な根拠に基づくものではなく,また,被控訴人らが被告製品を販売しなかったとしても,その販売分は,本件書換制限措置により残量表示がされないままのリサイクル品に置き換わるにすぎないとはいえず,被控訴人らが挙げる上記事情は,いずれも本件各発明1ないし3が被告製品の売上げに寄与又は貢献していることを否定するものではない。したがって,被控訴人らの上記主張は失当である。
(2) 特許法102条3項に基づく損害額

ア本件各特許権の実施料は,被告製品1本当たり2000円を下らないから,控訴人の特許法102条3項に基づく実施料相当額の損害額は,4200万円(2000円×2万1000本)を下らない。この場合の実施料率は,被控訴人らが提出した乙37の記載を根拠として被控訴人らが販売する被告製品の平均小売価格である約1万3000円を基に算出した場合には,約15.4%となる。

イこの点に関し,被控訴人らは,本件各発明1ないし3の効果はないに等しく,本件各発明1ないし3に特段の価値を見いだすことはできないなどとして,控訴人の実施料相当額の損害額は,被告電子部品の価格に実施料率0.1%を乗じて算定すべきである旨主張する。

しかしながら,本件各発明1ないし3により,原告プリンタと原告プリンタ製品で使用されるトナーカートリッジ製品の間での接触不良等の電気的な問題が生じない等の課題解決があることから,本件各発明1ないし3の効果は当然に認められること,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき実施に対し受けるべき料率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきであること,本件各発明1ないし3については,控訴人は自己実施することのみを方針としており,これまで第三者に実施許諾をしたことはなく,第三者に実施許諾することは想定していなかったことを踏まえると,本件においては,通常よりも高い実施料率が定められるべきであるから。被控訴人らの上記主張は失当である。
(3) 弁護士費用等被控訴人らによる本件各特許権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用及び弁理士費用相当の控訴人の損害額は,840万円を下らない。
(4) 小括

ア前記(1)ないし(3)によれば,控訴人が被控訴人らによる本件各特許権の侵害行為により受けた損害額は,9240万円(前記(1)又は(2)の損害額及び前記(3)の弁護士費用等の合計額)を下らない。

イ被控訴人らは,被控訴人らが使用済みの原告製品から原告電子部品を取り外し,被告電子部品に取り替えて被告製品を製造している行為が,特許権侵害の不法行為と評価されるとすれば,それは,控訴人の本件書換制限措置により誘引されたものであるから,賠償すべき損害額の算定に当たっては,本件書換制限措置をしたことを控訴人の過失と評価し,過失相殺がされるべきである旨主張する。しかしながら,控訴人による本件書換制限措置は何ら問題のない行為であること,本件各発明1ないし3は,設計変更により回避可能でもあることからすると,本件各特許権侵害は控訴人が誘引したものとはいえないから,控訴人には何ら過失は存在しない。したがって,被控訴人らの上記主張は失当である。

ウよって,控訴人は,被控訴人らに対し,本件各特許権の共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,上記損害額の一部である1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被控訴人DSジャパンについて平成29年12月9日,被控訴人ロジコ及び被控訴人奥美濃について各同月8日)から各支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。(被控訴人らの主張)(1) 特許法102条2項に基づく損害額の主張に対し

ア被告製品の販売に係る利益(限界利益)の額について被控訴人らが平成25年4月から令和3年8月3日までの間に販売した被告製品の販売総数が2万1000本を下らないこと,これにより被控訴人らが得た利益(限界利益)の額が8400万円を下らないことは,争わない。被控訴人らが得た上記利益の額は,特許法102条2項により,控訴人が受けた損害額と推定されるとの控訴人の主張は争う。

イ推定覆滅事由等(ア) ①被告電子部品は,被告製品に搭載された一部品である情報記憶装置であること,
②被告製品から被告電子部品を保持する保持部材を取り外して,被告電子部品を取り出した上で,これを再度組み付けなおして利用することができるから,被告製品と被告電子部品は可分であって物理的に一体となっているものとはいえないこと,
③被告電子部品の原価は1個当たり100円程度であるのに対し(乙74),被告製品の平均小売価格は1万3000円程度(乙37),原告製品の定価は3万円台後半から4万円台前半であること(乙34,75),
④本件各発明1ないし3は,情報記憶装置の物理的形状に係る情報記憶装置の発明であって,トナーカートリッジの発明ではないことからすると,被告製品全体の販売利益(限界利益)と控訴人の損害との間に相当因果関係はないから,控訴人の損害額は,被告電子部品の価格の限界利益を基準として算定すべきである。(イ) 仮に被告製品の限界利益を基準に控訴人の損害額を算定するとしても,前記(ア)①ないし④の事情(被告電子部品は被告製品の一部品であること等),被告製品において本件各発明1ないし3の顧客吸引力がないこと,控訴人は,被告電子部品を用いなくても,本件各特許権の侵害を回避しつつ,「?」と表示されない再生品を製造することができることを認めていること,被告製品の売上げに原告プリンタの販売台数が寄与していること,被告製品においては本件各特許以外の控訴人の他の特許が実施されていること,被告製品の価格は原告製品の販売価格よりも大幅に安価であり,被控訴人らと控訴人の業務態様等が相違すること,被控訴人らが被告製品を販売しなかったとしても,その販売分は,本件書換制限措置により残量表示がされないままのリサイクル品に置き換わるにすぎないことは,以下のとおり,本件推定の推定覆滅事由に該当する。a被告製品において本件各発明1ないし3の顧客吸引力がないこと等(a) 本件明細書等1ないし3(甲4ないし6)には,本件各発明1ないし3の作用効果は,装置本体への脱着可能装置(トナーカートリッジ)の着脱時に,情報記憶装置の電気回路においてアースが充分にとれないことによる電気的な破損が生じにくく,また,端子の本体側端子に対するずれを最低限に抑えることができる情報記憶装置を提供すること,及び接触式の情報記憶装置を設置した場合であっても,情報記憶装置本体のコネクタの本体側端子との位置決め不良による接触不良が生じにくい,情報記憶装置を提供することにあるとの記載がある。しかし,
①被控訴人らがリサイクルトナーカートリッジについてこれまで受けたクレーム中には,ICチップに電気的な破損が生じたことに起因する故障に関するクレームや情報記憶装置本体のコネクタの本体側端子との位置決め不良による接触不良に関するクレームは,1件も確認できなかったこと(乙2,76),
②原告製プリンタのうち,C830及びC840シリーズ以外の機種に対応する控訴人製のトナーカートリッジには,本件各発明1ないし3の構造を持つICチップは採用されていないこと,
③一般のユーザーは,被告製品の印刷性能等のトナーカートリッジとしての品質や価格を基準として消費行動を選択しており,電気的な破損,端子のずれ又は接触不良の生じない製品を選択した結果として被告製品を選択しているのではなく,トナーカートリッジの見えにくいところに取り付けられたICチップの形状や機能に基づいて商品選択をするはずもないこと,
④被控訴人らは,本件各発明1ないし3の作用効果を被告製品のセールスポイントとして顧客に訴えたことは一度もなく(乙76),控訴人自身も,原告製品の広告宣伝や原告プリンタのカタログにおいて,接触不良が少ないなど,本件各発明1ないし3の効用をうたっていないこと(乙34,75)からすると,被告製品における本件各発明1ないし3の顧客誘引力は皆無である。

⒝ 控訴人は,被告電子部品を用いなくても,本件各特許権の侵害を回避しつつ,「?」と表示されない再生品を製造することができることを認めていること(甲74等),被告製品は,原告プリンタにのみ使用可能であり,ユーザーが被告製品を購入するのは,ユーザーが原告プリンタを使用していることによるものであるところ,原告プリンタは好調な売れ行きを維持しており(甲58),被告製品の売上げに原告プリンタの販売台数が寄与していることに照らすと,本件各発明1ないし3が被告製品の売上げに寄与又は貢献しているとはいえない。b被告製品に控訴人の他の特許が実施されていること原告製品のうち,原告電子部品以外の部分に控訴人の有する5件の特許(特許第3868146号(乙82),特許第4371317号(乙83),特許第4371318号(乙84),特許第5327648号(乙85),特許第5505003号(乙86))が実施されている。これらの特許は,ランニングコストの低減や環境破壊低減,トナー搬送不良による印刷不良や異常画像の防止,トナーカートリッジの交換の便宜性を高めるなどのプリンタ使用上の効用をユーザーにもたらすものである。被告製品は,使用済みの原告製品から原告電子部品を取り外し,被告電子部品に取り替えた上で,トナーを充填して製造した再生品であり,被告製品においても,これらの特許が実施されている。被告製品の売上げに影響を与えるのは,ICチップの形状などではなく,トナーカートリッジ本体等であり,これらの特許による効用であるから,この意味でも,本件各発明1ないし3が被告製品の売上げに寄与又は貢献しているとはいえない。

20c被控訴人らと控訴人の業務態様等が相違すること被告製品の平均小売価格は1万3000円程度であって,原告製品の価格(3万円台後半から4万円台前半)と比較すれば大幅に安価である。このような価格差を前提とすれば,被控訴人らと控訴人の業務態様等に相違が存在するから,被告製品の販売がなかった場合に,被告製品の販売による利益額を控訴人がそのまま得たであろうとはいえない。d被告製品の販売分は残量表示がされないままのリサイクル品に置き換わること控訴人は,残量が適切に表示されないまま販売されているリサイクル品が存在すること(甲67ないし71)を挙げて,残量表示がなくても販売に支障がない旨述べるが,そうであるなら,被控訴人らがICチップを交換した被告製品を販売していなかったとしても,その販売分は,残量表示がされないままのリサイクル品に置き換わるにすぎない。(ウ) 以上のとおり,本件推定を覆す覆滅事由が存在し,かかる事情を考慮すると,本件推定は全部覆滅されるというべきである。
(2) 特許法102条3項に基づく損害額の主張に対し控訴人の主張は争う。前記(1)イ(ア)①ないし④の事情等に照らすと,控訴人の損害額は,被告電子部品の価格を基準として算定すべきである。

次に,電子・通信用部品の実施料率(イニシャルペイメント無し)は,平成4年度から平成10年度までの平均値が3.3%(乙78),電気の実施料率は,平均2.9%(平成21年から平成22年までの調査結果)(乙79)である。しかし,前述のとおり,本件各発明1ないし3の効果はないに等しく,本件各発明1ないし3に特段の価値を見いだすことはできないこと,控訴人は,本件各特許権侵害を回避できると主張していること等の事情も考慮すれば,控訴人の損害額の算定に当たっては,訴訟における料率が事後的に定められる点を考慮したとしても,本件各発明1ないし3の実施に対して受けるべき実施料率は,0.1%にも満たないというべきである。また,仮に被告製品の価格を基準として損害額を算定する場合には,実施料率はさらに僅少な割合とすべきである。そして,被告電子部品の価格は100円程度であり,これに実施料率0.1%を乗ずると,本件各発明1ないし3の実施に対して受けるべき金銭の額は,2100円程度となる(100円×0.1%×2万1000本)。
(3) 弁護士費用等の主張に対し控訴人の主張は争う。

5(4) 過失相殺被控訴人らにおいて,使用済みの原告製品から原告電子部品を取り外し,被告電子部品に取り替えて,被告製品を製造している行為が,特許権侵害の不法行為と評価されるとすれば,それは控訴人の本件書換制限措置により誘引されたものであるから,賠償すべき損害額の算定に当たっては,本件書換制限措置をしたことを控訴人の過失と評価し,過失相殺がされるべきである。また,本件書換制限措置は,原告製品のごく一部にのみ実施されている特許権によって原告製品のリサイクルを阻止しようとするものであり,資源の有効活用に関する法整備・趨勢と逆行し,このような観点からも,控訴人による本件書換制限措置は過失相殺の対象とされるべきである。
第4 当裁判所の判断

1本件明細書等1ないし3の記載事項等について以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第4の1記載のとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決56頁6行目から9行目までを次のとおり改める。

「(1) 本件各発明1ないし3について本件明細書等1ないし3(甲4ないし6)には,次のような記載がある(以下,段落番号を引用するときは,本件明細書等1については「【0001】①」,本件明細書等2については「【0001】②」,本件明細書等3については「【0001】③」などと表記する場合がある。)。」25(2) 原判決58頁11行目を「(ア) 本件各発明1について」と,59頁10行目を「(イ) 本件各発明2について」と,61頁3行目を「(ウ) 本件各発明3について」と改める。
(3) 原判決81頁14行目から82頁17行目までを次のとおり改める。

「(2) 本件各発明1ないし3の技術的意義前記(1)の記載によれば,本件明細書等1ないし3には,本件各発明1ないし3の技術的意義に関し,次のような開示があることが認められる。

ア本件各発明1について従来から,複写機等の画像形成装置においては,画像形成装置本体に対して着脱可能に現像剤容器(トナー収容容器等)やプロセスカートリッジ等の着脱可能装置が設置されており,画像形成装置本体に着脱可能装置がセットされると,着脱可能装置に設置されたIDチップ等の情報記憶装置(情報記録部,不揮発メモリ)の端子(金属パッド)が画像形成装置本体側のコネクタの端子と接触し,情報記憶装置と画像形成装置本体との間で情報のやりとりをすることで,画像形成装置本体と着脱可能装置との充実した品質管理がされているが,従来の接触式の情報記憶装置においては,画像形成装置本体への着脱可能装置の着脱時に,情報記憶装置の電気回路においてアースが充分にとれずに電気的に浮いた状態となり,電気的な破損が生じてしまう可能性があるという課題があった(【0001】①ないし【0004】①)。本件各発明1は,上記課題を解決し,画像形成装置本体に対して着脱可能に設置される着脱可能装置に,接触式の情報記憶装置を設置した場合であっても,情報記憶装置に電気的な破損が生じにくい,情報記憶装置を提供するものであり,上記課題を解決するための手段として,請求項1,2及び6記載の構成を採用した(【0005】①ないし【0007】①,【0011】①)。

これにより本件各発明1は,情報記憶装置の基板に形成された穴部に,画像形成装置本体の突起部に形成された接地用の本体側端子に係合するアース端子を形成しているため,情報記憶装置に電気的な破損が生じにくくなり,また,上記アース端子が,情報を通信するための端子を構成する複数の金属板のうちの2つの金属板に間に挟まれる位置に配設されているため,穴部の中心から最も離れた位置にある端子までの距離を短くすることができ,端子の本体側端子に対する平行度が量産ばらつき等の理由でずれてしまったとしても,そのずれを最低限に抑えることができるという効果を奏する(【0022】①)。

イ本件各発明2及び3について前記アの従来の接触式の情報記憶装置においては,情報記憶装置に設けられた端子(金属パット)と画像形成装置本体の端子との位置決め不良により,それらの接触部分がずれてしまう不具合(接触不良)が生じるおそれがあるという課題があり,情報記憶装置の端子を小さくした場合には,かかる課題が重要なものとなっていた(【0001】②,
③ないし【0004】②,
③)。

本件各発明2及び3は,いずれも上記課題を解決し,画像形成装置本体に対して着脱可能に設置される着脱可能装置に,接触式の情報記憶装置を設置した場合であっても,画像形成装置本体のコネクタの本体側端子との位置決め不良による接触不良が生じにくい,情報記憶装置を提供することにあり,上記課題を解決するための手段として,本件各発明2にあっては請求項1ないし4及び25記載の構成を,本件各発明3にあっては請求項70,77,78及び80記載の構成を採用した(【0005】②,
③,【0006】②,【0007】②,【0014】②,【0025】③)。これにより本件各発明2及び3は,画像形成装置本体に対して着脱可能に設置される着脱可能装置に,接触式の情報記憶装置を設置した場合であっても,画像形成装置本体のコネクタの本体側端子との位置決め不良による接触不良が生じにくい,情報記憶装置を提供することができるという効果を奏する(【0027】②,
③)。」

2争点1(被告電子製品(設計変更前)の本件各発明3の技術的範囲の属否(構成要件3-70Aないし3-70Dの充足性))について以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第4の2記載のとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決83頁5行目の「(設計変更後も含む。)」を削る。

(2) 原判決83頁9行目から11行目までを次のとおり改める。「したがって,被告電子部品(設計変更前)は,構成要件3-70Aないし3-70Dを充足するから,本件各発明3の技術的範囲に属するものと認められる。これに反する被控訴人らの上記主張は理由がない。」

3争点2-1(被告電子製品(設計変更後)の本件各発明1ないし3の構成要件1-1D等の「穴部」の充足性等)について15(1) 本件発明1-1の「穴部」の意義について

ア本件発明1-1の特許請求の範囲(請求項1)には,「画像形成装置本体に対して着脱可能に構成された着脱可能装置に設置される情報記憶装置」は,「前記画像形成装置本体に設置された突起部に係合する穴部が形成された基板」を備え,「前記基板に形成された前記穴部」は,「前記画像形成装置本体の前記突起部に形成された接地用の本体側端子に接触するアース端子が形成」され,「本体側端子に接触して,前記画像形成装置本体との間で前記情報を通信するための端子」である「前記複数の金属板のうち2つの金属板に間に挟まれる位置に配設された」との記載がある。上記記載から,本件発明1-1の「穴部」は,「情報記憶装置」の「基板」に形成され,「前記画像形成装置本体に設置された突起部」に「係合」すること,「穴部」は,「前記複数の金属板のうち2つの金属板に間に挟まれる位置に配設され」ること,「穴部」には「前記画像形成装置本体の前記突起部に形成された接地用の本体側端子に接触するアース端子」が形成されていることを理解できる。「穴」とは,一般に,「くぼんだ所」又は「向こうまで突き抜けた所」を意味すること(甲14)からすると,「穴部」は,このような部位を意味するものといえる。一方で,本件発明1-1の特許請求の範囲(請求項1)には,「穴部」の形状を具体的に特定した記載はない。イ(ア) 本件明細書等1(甲4)には,「前記画像形成装置本体に設置された突起部」に「係合」し,「前記複数の金属板のうち2つの金属板に間に挟まれる位置に配設され」る「穴部」に関し,下記のような記載がある(下記記載中に引用する図36ないし40については別紙5を参照)。

記【0112】実施の形態5.図36~図41にて,この発明の実施の形態5について詳細に説明する。

図36は,実施の形態5における情報記憶装置535の基板を示す3面図であって,前記実施の形態1における図29に相当する図である。

図37は,情報記憶装置535と保持部材534k(534k25)とコネクタ573eとを示す斜視図であって,3つの部材534k(534k25),535,573eの相対位置関係を示す斜視図である。図38は,情報記憶装置535がコネクタ573eに係合した状態を示す斜視図である。また,図39は,情報記憶装置535の電気回路とコネクタ573eの電気回路とを示す回路図である。図40(A)は情報記憶装置535がコネクタ573eに保持された状態を示す正面図であって,図40(B)は情報記憶装置535が位置決め用の穴部535b21を中心に回転している状態を示す正面図である。…本実施の形態5は,情報記憶装置535の基板535bに位置決め用の穴部535b21が1つだけ形成されている点と,位置決め用の穴部535b21が複数の矩形状の金属パッド35a1,35a2,35a3(金属板)の間に配置されている点と,が前記各実施の形態のものと相違する。【0113】図36を参照して,本実施の形態5における情報記憶装置としてのIDチップ535は,基板535bの重心よりも鉛直方向上方の位置に,位置決め用の穴部535b21が形成されている。そして,この穴部535b21の内径部と周囲とには,接地(アース)用の金属端子535dが設置されている。なお,本実施の形態5において,基板535bの表面に形成された金属端子535dは,円環状の部分に対して2つの突出部535d1が水平方向に延設されるように形成されている。

また,位置決め用の穴部535b21に対して,鉛直方向上方の位置には1つの矩形状の金属パッド35a1が設置され,鉛直方向下方の位置には2つの矩形状の金属パッド35a2,35a3が設置されている。

さらに,基板535bの裏側(キャップ部34Yに対向する側である。)には,半球面状のエポキシ等の樹脂材料からなり情報記憶部を覆って保護する保護部材535eが設けられている。本実施の形態5において,基板535bの形状や保護部材535e等の裏面の構成・配置によるが,内部にIC等の情報記憶部を有することもあって裏面で最も大きく重量がある構成物であるところの保護部材535eの上方に穴部535b21を配置することで,前述したIDチップ535の重心の鉛直上方に穴部535b21があるという位置関係を実現している。具体的には,図40(A)を参照して,本実施の形態5におけるIDチップ535(情報記憶装置)は,位置決め用の穴部535b21の中心位置が,IDチップ535の重心から距離Zaだけ上方になるように形成されている。【0114】図37を参照して,コネクタ573eは,樹脂製で中空の箱であるコネクタ本体573e21を有しており,そのコネクタ本体573e21に1本の中空円筒で先端にテーパ形状を有する位置決めピン573e23(位置決め用の突起部)が水平方向に起立するように設けられている。そして,この位置決めピン573e23には,接地用の本体側端子573e25(アース端子)が設置されている。この接地用の本体側端子573e25は,板状(又は線状)の金属部材であって,その一部がコネクタ本体73e21と一体で形成された位置決めピン573e23の中空部に収納され,その湾曲部が中空円筒の周面の一部に形成されたスリット状の開口から露出して円筒外周面から突出している。また,位置決めピン573e23(接地用の本体側端子573e25)に対して,鉛直方向上方の位置には1つの本体側端子73e2が設置され,鉛直方向下方の位置には2つの本体側端子73e2が設置されている。これらの本体側端子73e2は,板状(又は線状)の金属部材であって,設置位置が異なる以外は,前記各実施の形態のものとほぼ同様に形成されている。

また,コネクタ本体573e21の下方であって,位置決めピン573e23を挟む両側の位置には,互いの先端内側のテーパ面が線対称になるよう形成された一対のリブからなり,IDチップ535の両側端面であって穴部535b21の中心よりも鉛直下方の箇所に対向する一対の規制部材としての振れ防止部材573e24が設けられている。【0115】また,保持部材534k(保持部)は,前記各実施の形態のものと同様に,トナー容器(532Y)に固定され,コネクタ573eとIDチップ535との間に位置する。…図37を参照して,本実施の形態5における保持部材534kは,第1対向部534k24が垂直方向の軸を基準に線対称に構成され,IDチップ535の上端の2つの角から穴部535e21の両側までの領域を覆うように形成されている。また,保持部材534kは,下方においても基板535bの最下段の金属パッド35a3よりも下方を覆うように形成されており,これらの構成により保持部材534kからのIDチップ535の脱落を防止している。

さらに,保持部材534kにおいて,コネクタ573eの4つの本体側端子73e2,573e25に対向する領域を含む第1対向部534k24の大部分は開口となっている。…そして,トナー容器532Yの装着時には,位置決めピン573e23の開口534k22への侵入に続いて,振れ防止部材573e24(一対の規制部材)も開口534k22を介して保持部材534kの内部に侵入することになる。…その一方で,IDチップ535の穴部535b21に位置決めピン573e23が挿入されるときにIDチップ535が押されることになるが,第2対向部534k25が基板535bを後ろから支えることになるため,端子同士の当接状態を維持することができる。

【0116】図38は,実施の形態5におけるトナー容器532Yが装置本体100に装着された際に,装置本体100側のコネクタ573eとIDチップ535の位置決めが完了して本体側端子73e2,573e25と上述の金属パッド35a1~35a3,アース端子535dとが接続した状態を示す概略斜視図である。なお,図38では,理解容易のため,コネクタ573eとIDチップ535との間にある保持部材534k(534k25)と金属パッド35a1~35a3の図示は省略されている。

トナー容器532Yの一連の装着動作のうち,キャップ部534Yの主基準及び従基準の位置決め穴部34a,34bが,キャップ受け部73の主基準及び従基準の位置決めピン73a,73bに嵌合されてキャップ部534Yの位置決めがされるところまでは,前記実施の形態1の装着動作と同じである。その後,キャップ部534Yの位置が定まった後に,IDチップ535の穴部535b21は,コネクタ573eの位置決めピン573e23の先端のテーパに拾われるように位置決めピン573e23に嵌合されて,IDチップ535の水平方向及び垂直方向の位置が同時に決まる。さらに,図40(A)に示すように,基板535bの左右両側であって穴部535b21の中心よりも下方である下側の縁部にコネクタ573e2の一対のリブから成る振れ防止部材573e24(一対の規制部材)が侵入する。このときIDチップの姿勢が図40(B)のようにずれていたとしても,リブ先端のテーパ面が上記縁部に当接すると,それをトリガーにして重心の作用で姿勢を鉛直にする方向に基板535bが回転し,回転方向(図40(B)に示す両矢印方向の回転である。)の姿勢のずれを矯正する(図40(A)の状態にする)。これによって,IDチップ535の位置決めが完了する。このとき,IDチップ535のアース端子535dの一部(穴部535b21の内径部に相当する部分である。)が,図38に示す位置決めピン573e23の接地用の本体側端子573e25に接触して,IDチップ535の接地(導通)がとられることになる。さらに,その接地がとられた後に,図39(A)に示すように,IDチップ535の3つの金属パッド35a(35a1,35a2,35a3)も,コネクタ573eの3つの本体側端子73e2にそれぞれ接触して,IDチップ535と本体側コネクタ573e(装置本体100)との間で情報の伝達が可能になる。【0117】このように,本実施の形態5では,下記(1)から(5)のさまざまな工夫を加えたことで安価な構成で高精度の位置決め機構を実現している。…(3)図38の装着完了状態において,コネクタ573e側の3つの本体側端子73e2の湾曲部(接触部)を結ぶ線上に位置決め用の穴部535b21の穴中心を一致させるように穴部535b21と本体側端子573e2の湾曲部との配置関係を調整している。これによって,位置決め部である穴部535b21から接触部までの水平方向の距離を縮めて0mm近傍にするにすることができる。その結果,3つの金属パッド35a1,35a2,35a3と本体側端子73e2とが接触するときの位置精度が向上する。
(4)位置決め用の穴部535b21の位置を,複数の金属パッド35a1,35a2,35a3を並べたときに生じる複数の間隙のうち,いずれかの間隙に配置している。これによって,複数の金属パッド35a1,35a2,35a3の並びの外側である上方又は下方に穴部を配置した場合に比べて,位置決め用の穴部535b21の中心から最も離れた位置にある金属パッド35a3までの距離(振り子の腕長さに相当することになる。)を短くすることができる。具体的には,金属パッド35a1,35a2,35a3の並びの外側に穴部を配置した場合,腕長さは穴中心から金属パッド3つ分の距離になるが,本実施の形態5では,腕長さを金属パッド2つ分の距離にすることができる。振れの腕長さが短くなることで,最も遠い位置の金属パッド35a3の本体側端子73e2に対する平行度が量産ばらつき等の理由でずれてしまったとしても,そのずれを最低限に抑えることができる。
(5)トナー容器を単品で保管する際,異物が保持部材534kの中に入ってIDチップ535と対向部534k24,534k25との間に挟まり位置がずれたままになってしまう恐れがある。このような課題に対して,本実施の形態5では,IDチップ535の穴部535b21が重心よりも鉛直方向上方にあるように,位置関係の工夫をしている。これにより,一対のリブから成る振れ防止部材573e24が回転中心である穴部535b21よりも鉛直方向下方に侵入するときに,振れ防止部材573e24(リブ)のテーパ面との当接をトリガーにして重心の作用で姿勢を鉛直方向に沿うように回転することができる(位置ずれを規制して姿勢を矯正することができる。)。その結果,位置決め用の穴部535b21が1つであっても,複数の本体側端子573e2に対する複数の金属パッド35a1,35a2,35a3の位置精度を同時に高めることができる。

以上,
(1)~(5)に記載したように,それぞれの5つの工夫は,それぞれの作用効果を発揮することになり,金属パッド35aの面積を極小にするという安価な構成を採用しても,アース端子を含むIDチップ535側の複数の端子35a,535dと複数の本体側端子573e2,573e25との位置決めの精度を極めて高いものすることができる。

(イ) 前記(ア)の記載及び図36ないし40を総合すると,本件発明1-1の「前記画像形成装置本体に設置された突起部」が「係合」し,「前記複数の金属板のうち2つの金属板に間に挟まれる位置に配設され」る「穴部」に相当するIDチップ535の穴部535b21は,装置本体100側のコネクタ573eの位置決めピン573e23の先端のテーパに拾われるように位置決めピン573e23に嵌合されて,IDチップ535の水平方向及び垂直方向の位置が同時に決まること,IDチップ535の位置決めが完了すると,IDチップ535のアース端子535dの一部(穴部535b21の内径部に相当する部分)が,位置決めピン573e23の接地用の本体側端子573e25に接触して,IDチップ535の接地(導通)がとられること,その接地がとられた後に,IDチップ535の3つの金属パッド35a(35a1,35a2,35a3)も,3つの本体側端子73e2にそれぞれ接触して,IDチップ535と本体側コネクタ573e(装置本体100)との間で情報の伝達が可能になること,このような位置決めの機構によって,アース端子を含むIDチップ535側の複数の端子35a,535dと複数の本体側端子573e2,573e25との位置決めの精度を極めて高いものにすることができることを理解できる。

そうすると,本件明細書等1には,本件発明1-1の「前記画像形成装置本体に設置された突起部」に「係合」し,「前記複数の金属板のうち2つの金属板に間に挟まれる位置に配設され」る「穴部」に相当するIDチップ535の穴部535b21が,IDチップ535の水平方向及び垂直方向の両方向の位置を決める位置決め用の穴部として機能することの開示があることが認められる。

ウ以上の本件発明1-1の特許請求の範囲(請求項1)の記載,本件明細書等1の記載及び「穴部」の一般的な意味を総合すれば,本件発明1-1の「穴部」は,「情報記憶装置の基板」に形成され,「前記画像形成装置本体に設置された突起部」に「係合」し,「前記複数の金属板のうち2つの金属板に間に挟まれる位置に配設され」た基板を突き抜けた空間であって,情報記憶装置の水平方向及び垂直方向の位置を決める機能を有するものと解される。

エこれに対し被控訴人らは,
①「穴」は,「向こうまで突き抜けた所」を意味するものであり,「向こうまで突き抜け」ているということは,向こうと手前を峻別する境界が存在し,かつ,その境界によって囲まれていることとなるが,縁部が閉じていないのであれば,向こうと手前とを峻別する境界すらないから,本件発明1-1の「穴部」とはいえない,
②控訴人は,本件特許権1の出願経過において,切欠部を開示した実願平1-117664号(実開平3-57074号)のマイクロフィルム(乙17)を引用例として拒絶理由通知を受けた際に,「穴部又は切欠部」の「切欠部」を削除する補正を行い(乙16ないし20),特許請求の範囲から,「切欠部」を有する情報記憶装置を除外した経緯があることからすれば,「穴部」とは,切取部分の縁部が全て閉じているものを指す旨主張する。しかしながら,本件発明1-1の特許請求の範囲(請求項1)及び本件明細書等1には,「穴部」の形状を縁部が全て閉じているものに限定する記載はなく,前記ウのとおり,「情報記憶装置の基板」に形成され,「前記画像形成装置本体に設置された突起部」に「係合」し,「前記複数の金属板のうち2つの金属板に間に挟まれる位置に配設され」た基板を突き抜けた空間であって,情報記憶装置の水平方向及び垂直方向の両方の位置を決める機能を有するものであれば,本件発明1-1の「穴部」に当たるものと解されるから,被控訴人らの上記主張は採用することができない。
(2) 被告電子部品(設計変更後)の本件各発明1の構成要件充足性について被告電子部品(設計変更後)が本件発明1-1の構成要件1-1Dの「前記情報記憶部と前記端子とが保持されるとともに,前記画像形成装置本体に設置された突起部に係合する穴部が形成された基板」にいう「穴部」及び構成要件1-1F1の「前記基板に形成された前記穴部」にいう「穴部」を備えるかについて判断する。乙15及び弁論の全趣旨によれば,被告電子部品(設計変更後)は,設計変更前の被告電子部品の穴部の上側の基板を切り取り,その縁部の一部が欠けるに至ったものと認められる。そして,設計変更前の被告電子部品の穴部の形状(別紙4の写真3)と被告電子部品(設計変更後)の設計変更前の穴部に相当する部分を設計変更により切り取った部分を合わせた部分の形状(別紙4の写真6)によれば,被告電子部品(設計変更後)の上記合わせた部分は,「基板」に形成され,「前記複数の金属板のうち2つの金属板に間に挟まれる位置に配設され」た基板を突き抜けた空間であって,上記合わせた部分のうちの設計変更前の穴部に相当する部分が「画像形成装置本体」(プリンタ)の「突起部」に「係合」し,被告電子部品の水平方向及び垂直方向の両方の位置を決める機能を有するものと認められるから,構成要件1-1D及び1-1F1の「穴部」に該当する。そうすると,被告電子部品(設計変更後)は,本件発明1-1の構成要件1-1D及び1-1F1の「穴部」を備え,上記各構成要件を充足するから,本件発明1-1の技術的範囲に属するものと認められる。同様に,被告電子部品(設計変更後)は,本件発明1-2及び1-6の技術的範囲に属するものと認められる。これに反する被控訴人らの主張は採用することができない。
(3) 被告電子部品(設計変更後)の本件各発明2及び3の構成要件充足性について

ア本件発明2-1の特許請求の範囲(請求項1)の記載から,本件発明2-Cの「穴部」は,「情報記憶装置」の「基板」に形成され,「前記画像形成装置本体が備える本体側端子に設置された突起部」が「挿入」されること,「穴部」には「前記アース端子」が設けられていることを理解できる。

「穴」とは,一般に,「くぼんだ所」又は「向こうまで突き抜けた所」を意味すること(甲14)からすると,「穴部」は,このような部位を意味するものといえる。一方で,本件発明2-1の特許請求の範囲(請求項1)には,「穴部」の形状を具体的に特定した記載はない。本件明細書等2(甲5)の記載(【0117】②ないし【0122】②)及び図36ないし40を総合すると,本件明細書等2には,本件発明2-1の「前記画像形成装置本体が備える本体側端子に設置された突起部」が「挿入」される「穴部」に相当するIDチップ535の穴部535b21が,IDチップ535の水平方向及び垂直方向の両方向の位置を決める位置決め用の穴部として機能することの開示があることが認められる。以上の本件発明2-1の特許請求の範囲(請求項1)の記載,本件明細書等2の記載及び「穴部」の一般的な意味を総合すれば,本件発明2-1の「穴部」は,「情報記憶装置の基板」に形成され,「前記画像形成装置本体が備える本体側端子に設置された突起部」が「挿入」される,基板を突き抜けた空間であって,情報記憶装置の水平方向及び垂直方向の位置を決める機能を有するものと解される。

そして,前記(2)で説示したのと同様の理由により,被告電子部品(設計変更後)は,本件発明2-1の構成要件2-1Cの「穴部」を備え,上記構成要件を充足するから,本件発明2-1の技術的範囲に属するものと認められる。同様に,被告電子部品(設計変更後)は,本件発明2-2ないし2-4,2-25及び2-49の技術的範囲に属するものと認められる。

これに反する被控訴人らの主張は採用することができない。

イ前記2で説示したのと同様の理由により,被告電子部品(設計変更後)は,構成要件3-70Aないし3-70Dを充足するものと認められる。次に,本件発明3-70の特許請求の範囲(請求項70)の記載から,本件発明3-70の「穴部」は,「情報記憶装置」の「基板」に備えられ,「前記画像形成装置本体側端子」に設置された「水平方向に突出する突起部」が「挿入」されることを理解できる。「穴」とは,一般に,「くぼんだ所」又は「向こうまで突き抜けた所」を意味すること(甲14)からすると,「穴部」は,このような部位を意味するものといえる。一方で,本件発明3-70の特許請求の範囲(請求項70)には,「穴部」の形状を具体的に特定した記載はない。本件明細書等3(甲6)の記載(【0117】③ないし【0122】③)及び図36ないし40を総合すると,本件明細書等3には,本件発明3-70の「前記画像形成装置本体側端子」に設置された「水平方向に突出する突起部」が「挿入」される「穴部」に相当するIDチップ535の穴部535b21が,IDチップ535の水平方向及び垂直方向の両方向の位置を決める位置決め用の穴部として機能することの開示があることが認められる。以上の本件発明3-70の特許請求の範囲(請求項70)の記載,本件明細書等3の記載及び「穴部」の一般的な意味を総合すれば,本件発明3-70の「穴部」は,「情報記憶装置の基板」に形成され,「前記画像形成装置本体側端子」に設置された「水平方向に突出する突起部」が「挿入」される,基板を突き抜けた空間であって,情報記憶装置の水平方向及び垂直方向の位置を決める機能を有するものと解される。そして,前記(2)で説示したのと同様の理由により,被告電子部品(設計変更後)は,本件発明3-70の構成要件3-70Fの「穴部」を備え,上記構成要件を充足するから,本件発明3-70の技術的範囲に属するものと認められる。同様に,被告電子部品(設計変更後)は,本件発明3-77,3-78及び3-80の技術的範囲に属するものと認められる。これに反する被控訴人らの主張は採用することができない。
(4) 小括以上のとおり,被告電子部品(設計変更後)は,本件各発明1ないし3の技術的範囲に属する。

4争点3(無効の抗弁の成否)について(1) 争点3-1(本件各発明1ないし3の特開2002-198627号公報(乙5)を主引用例とする進歩性の欠如)について

ア乙5の記載事項乙5には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図1なし3,5ないし7,11及び12については別紙6を参照)。(ア) 【特許請求の範囲】【請求項1】印刷用記録材に関する情報を格納する記憶装置を備える回路基板であって,前記回路基板上において一の方向の両端部に配置されている2以上の接地端子と,前記回路基板上に配置されていると共に,前記印刷用記録材に関する情報の書き込みおよび読み出しに用いられる複数の端子とを備える回路基板。

10(イ) 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,印刷用記録材を収容する印刷記録材収容体に備えられる回路基板に関する。

【0002】【従来の技術】近年,インクカートリッジ内のインクに関する情報を格納する記憶装置を有する回路基板を備えたインクカートリッジが実用化されている。回路基板には,プリンタからの電源供給,格納情報等を受け取るため,あるいは,格納されている情報をプリンタに対して送出するための端子が備えられている。【0003】従来の端子の配置構造について図12を参照して説明する。

回路基板500は,接地端子510を中心にして,その一側にデータ入出力用端子520,他側にリード・ライト信号用端子530が配置されている第1端子列と,第1端子列の上段に位置すると共に,電源端子540を中心にして,その一側にクロック信号用端子550,他側にチップセレクト信号用端子560が配置されている第2端子列とを備えている。【0004】プリンタ580には,これら各端子510~560に対応して接触ピン570がそれぞれ備えられており,インクカートリッジがプリンタの装着部に装着されると各端子510~560と各接触ピン570とが相互に接触し,回路基板500とプリンタ580との間で電力,データ等のやりとりが可能となる。接地端子510は,インクカートリッジが正しく装着されているか否かをプリンタ580にて判定するために用いられており,プリンタ580の接地端子用ピンと接地端子510との接触(導通)を検出することによってインクカートリッジの装着が検出される。

【0005】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来,回路基板500のズレ等により他の端子520~560と接触ピン570とが接触していない場合にも,導通が検出され,インクカートリッジが装着されているものと判定されることがあった。かかる場合には,インクカートリッジが装着されていると判定されているにもかかわらず,記憶装置に格納されているデータの読み書きができないという問題があった。【0006】本発明は,上記問題を解決するためになされたものであり,回路基板上の端子に対する接触を正確に検出することができる回路基板の端子配置構造を提供することを目的とする。また,印刷記録材収容体が装着されたか否かの検出を正確に実行することのできる印刷記録材収容体を提供することを目的とする。

【0007】【課題を解決するための手段及びその作用・効果】上記課題を解決するために本発明の第1の態様は,印刷用記録材に関する情報を格納する記憶装置を備える回路基板を提供する。本発明の第1の態様に係る回路基板は,前記回路基板上において一の方向の両端部に配置されている2以上の接地端子と,前記回路基板上に配置されていると共に,前記印刷用記録材に関する情報の書き込みおよび読み出しに用いられる複数の端子とを備えることを特徴とする。【0008】本発明の第1の態様に係る回路基板によれば,回路基板上において一の方向の両端部に配置されている2以上の接地端子を備えるので,回路基板上の端子に対する接触を正確に検出することができる。

(ウ) 【0026】A.第1の実施例に係る回路基板の端子の構成例図1~図3を参照して第1の実施例に係る回路基板の端子の構成について説明する。図1は第1の実施例に係る回路基板の端子の構成例を示す説明図である。図2は図1に示す回路基板の側面図である。図3は第1の実施例に係る回路基板の端子とプリンタ側の接触ピンとの接触状態を模式的に示す説明図である。【0027】回路基板10は,略矩形状の外形を有しており,インクカートリッジに装着する際の位置決め用の貫通孔11,外周の一部に形成されたインクカートリッジ装着時における位置決め用の切り欠き12を備えている。回路基板10は,プリンタとの対向面13に複数の端子20~27を備え,インクカートリッジとの接合面14に各端子20~27と接続されている記憶装置30を備えている(図2参照)。【0028】回路基板10の対向面13の上半分には,工場出荷時に記憶装置30を試験する際に用いられる略円状の試験用端子20が備えられ,下半分には,上下に2列に配列されている略矩形状の複数の端子21~27を備えている。上側列に配列されている端子は,図1中左側からデータ入出力用のI/O端子21,電源供給用の電源端子22,記憶装置30を選択的にアクティブにするためのチップセレクト信号(選択信号)CSを入力するためのチップセレクト端子23である。下側列に配列されている端子は,図1中左側から接地端子24,記憶装置30に対してリード・ライト制御信号W/Rを入力するためのリード・ライト端子25,記憶装置30に対してクロック信号CLK(同期信号)を入力するためのクロック端子26,および接地端子27である。【0029】図1から明らかなように,本実施例に係る回路基板10は,2列ある端子列のうち下側列の両端部に接地端子24,27を備え,接地端子24,27よりも内側に他の端子21~23,25,26を備えている。また,クロック端子26は接地端子24,27との間に配置されている。さらに,接地端子24,27は,電源端子22とは異なる列に配置されていると共に,電源端子22の端子辺とその端子辺との間隔が最も近い距離を取らない位置関係にある。すなわち,接地端子24,27は,電源端子22に対する最近接端子ではない。なお,本実施例における接地とは,信号用の基準電圧を意味し,電圧の正負を問わないものとする。【0031】図3を参照して本実施例に係る回路基板10とプリンタ側の接触ピンとの接触状態について説明する。プリンタ側には,これら各端子21~27に対応して接触ピンP1~P7がそれぞれ備えられており,インクカートリッジがプリンタの装着部に装着されると各端子と各接触ピンP1~P7とが相互に接触し,プリンタから回路基板10の記憶装置30に対して電力が供給され,プリンタと記憶装置30との間でデータのやりとりが可能となる。

【0032】接地端子24,27は,インクカートリッジが正しく装着されているか否かをプリンタにて判定するために用いられており,プリンタは,プリンタ側の2本の接地端子用接触ピンP4,P7が接地端子24,27とそれぞれ接触し,導通を検出することによってインクカートリッジの装着を検出する。

【0033】本実施例に係る回路基板10は,端子の配列方向に対する垂直並びに水平の傾斜,およびズレの影響を最も受けやすく,端子と接触ピンとの不接触が発生しやすい両端部に接地端子24,27を備えている。したがって,プリンタが接地端子24,27と接地端子用接触ピンP4,P7との接触を検出した際には,他の端子21~23,25,26と他の接触ピンP1~P3,P5,P6とがそれぞれ接触していない可能性は極めて低く,インクカートリッジの装着を検出したにもかかわらず記憶装置30に対するアクセスができないといった事態を回避することができる。【0034】また,接地端子24,27は電源端子22に対する最近接端子ではないので,電源端子22と接地端子24,27との短絡を防止することができる。

(エ) 【0039】C.第1の実施例に係る回路基板を備えるインクカートリッジの構成例図5~図7を参照して第1の実施例に係る回路基板10が装着されるインクカートリッジの構成例について説明する。図5は第1の実施例に係る回路基板10が装着されるインクカートリッジの全体構成を示す斜視図である。図6は図4中における回路基板10の装着部を拡大して示す拡大図である。図7はインクカートリッジをプリンタに装着する際の様子を示す説明図である。【0040】インクカートリッジ40は,インクカートリッジをキャリッジ上に備えない,いわゆる,オフキャリッジタイプのプリンタに対して装着されるための形態を有している。オフキャリッジタイプのプリンタは,一般的に,大型プリンタであることが多く,このような大型プリンタに用いられるインクカートリッジは,オンキャリッジタイプのプリンタに用いられるインクカートリッジを比較して大型である。

【0041】インクカートリッジ40は,回路基板10を装着する回路基板装着部41と,インクカートリッジ40内のインクをプリンタに対して供給するためのインク供給口42と,インクの供給を円滑にするためにインクカートリッジ40内に空気を送り込むための空気供給口43と,プリンタに対して装着する際のガイド部44を備えている。インクカートリッジ40は,ガイド部44等が形成されている辺(幅方向)に対して垂直な辺(奥行き方向)の長さが幅方向よりも長い外形寸法を有している。インクカートリッジ40と奥行き寸法と回路基板10の幅寸法との関係を,両者の比で表した場合,例えば,その比は,15:1以上である。【0042】回路基板10は,図5に示されるように,貫通孔11および切り欠き12において位置決めされると共に,インクカートリッジ40の回路基板装着部41に対して固定されている。【0043】インクカートリッジ40がプリンタに装着される際には,インクカートリッジ40のガイド部44がプリンタ側のガイドピン101を案内し,回路基板装着部41,インク供給口42,および空気供給口43と,プリンタ側の接触ピン102,インク供給口103,および空気供給口104とを適切に接触,接合させる。【0045】プリンタ100の接触ピンP7は,プリンタ内部で接地されており,接触ピンP4はCPU60のカートリッジアウト検出端子と接続されている。インクカートリッジ40がプリンタ100に装着されると,プリンタ100の各接触ピンP1~P7と回路基板10の各端子21~27とが接触する。このとき,プリンタ100の接触ピンP4,P7と回路基板10の接地端子24,27とが共に接触していれば,CPU60は接地電圧VSSを検出する。すなわち,プリンタ100(CPU60)は,インクカートリッジ40が装着され,接触ピンP4,P7と回路基板10の接地端子24,27との導通を検出し,インクカートリッジ40が正しく装着されていると判断する。【0046】一方,プリンタ100の接触ピンP4,P7のいずれかが回路基板10の接地端子24,27と接触していない場合には,CPU60はカートリッジアウト電圧VCCを検出する。すなわち,プリンタ100は,接触ピンP4,P7と回路基板10の接地端子24,27との導通を検出することができず,インクカートリッジ40が正しく装着されていないと判断する。【0047】プリンタ100は,接触ピンP4,P7と回路基板10の接地端子24,27との導通を検出し,インクカートリッジ40が正しく装着されていると判断すると,電源端子22に対して電源VDDの供給を実行し,アクセスを所望する記憶装置30に対してチップセレクト信号CSを送信する。(オ) 【0063】以上,いくつかの実施例に基づき本発明に係る回路基板を説明してきたが,上記した発明の実施の形態は,本発明の理解を容易にするためのものであり,本発明を限定するものではない。本発明は,その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく,変更,改良され得ると共に,本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。【0064】例えば,第1の実施例では,オフキャリッジタイプのプリンタに対して用いられるインクカートリッジ40に回路基板10が装着された場合について説明したが,図11に示すようにオンキャリッジタイプのプリンタに対して用いられるインクカートリッジ48に装着されてもよい。かかる場合にも,第1~第4の実施例に係る回路基板10,200,300,400を用いることによって,インクカートリッジの装着の有無を正確に検出することができると共に,インクカートリッジの装着を検出したにもかかわらず,記憶装置30に対してアクセスができないといった事態を回避することができる。【0066】第1の実施例では,回路基板10をインクカートリッジ40に対して装着する例を用いて説明したが,回路基板10をトナーカートリッジに対して装着しても良い。トナーカートリッジを装着する際にも,インクカートリッジ装着時と同様の問題が発生し,かかる問題は回路基板10を用いることによって解決されるからである。

イ争点3-1-1(本件各発明1の進歩性の欠如)について(ア) 本件発明1-1について被控訴人らは,
①本件発明1-1と乙5発明(乙5記載の回路基板10に係る発明)とは,乙5発明が構成要件1-1F1及び1-1F2に係る構成を備えていない点でのみ相違(相違点1-1及び1-2)し,その余の構成は一致する,
②乙6には,相違点1-1及び1-2に係る本件発明1-1の構成が開示されている,
③当業者は,乙5及び6に基づいて,乙5発明において,相違点1-1及び1-2に係る本件発明1-1の構成とすることを容易に想到し得たものである,
④仮に乙5発明が構成要件1-1Dに係る本件発明1-1の構成を備えていない点が,本件発明1-1と乙5発明の相違点であるとしても,当業者は,乙5及び周知慣用技術に基づいて,乙5発明において上記構成とすることを容易に想到し得たものである,
⑤したがって,本件発明1-1には,進歩性欠如の無効理由がある旨主張する。a本件発明1-1と乙5発明の相違点について前記3(1)認定のとおり,本件発明1-1の特許請求の範囲(請求項1)には,「画像形成装置本体に対して着脱可能に構成された着脱可能装置に設置される情報記憶装置」は,「前記画像形成装置本体に設置された突起部に係合する穴部が形成された基板」を備え(構成要件1-1D),「前記基板に形成された前記穴部」は,「前記画像形成装置本体の前記突起部に形成された接地用の本体側端子に接触するアース端子が形成」され(構成要件1-1F1),「本体側端子に接触して,前記画像形成装置本体との間で前記情報を通信するための端子」である「前記複数の金属板のうち2つの金属板に間に挟まれる位置に配設された」(構成要件1-1F2)との記載があり,上記記載から,本件発明1-1の「穴部」は,「情報記憶装置」の「基板」に形成され,「前記画像形成装置本体に設置された突起部」に「係合」すること,「穴部」は,「前記複数の金属板のうち2つの金属板に間に挟まれる位置に配設され」ること,「穴部」には「前記画像形成装置本体の前記突起部に形成された接地用の本体側端子に接触するアース端子」が形成されていることを理解できる。

しかるところ,乙5には,乙5記載の回路基板10において,「画像形成装置本体」(プリンタ)に「設置された突起部に係合する穴部が形成され」た構成を備えること及び「前記基板に形成された前記穴部は,前記画像形成装置本体の前記突起部に形成された接地用の本体側端子に接触するアース端子が形成」された構成を備えることの開示があるものと認められない。そうすると,乙5発明が構成要件1-1D及び1-1F1に係る本件発明1-1の構成を備えていないことは,本件発明1-1と乙5発明の相違点であるものと認められる(以下,かかる相違点のうち,構成要件1-1Dに係る相違点を「相違点1-3①」という。)。

これに反する被控訴人らの主張は採用することができない。b相違点1-3①(構成要件1-1D)の容易想到性について被控訴人らは,相違点1-3①に関し,
①乙5のインクカートリッジ40の回路基板装着部41に対する回路基板10の固定時における位置決め用の貫通孔11(【0042】,図1)は,回路基板10を固定するためのものであるところ,その固定する先をインクカートリッジ40ではなく,プリンタ又はその他の部材又は場所とするか,ビスやねじで固定するかは,当業者が適宜選択する設計的事項にすぎない,
②乙5の図11には,プリンタ本体に対向する基板が開示されている,
③基板の挿入方向とカートリッジ側の端子と本体側の接点の配置を適宜選択できることは,周知慣用技術であること(乙32の図3及び4,【0036】,乙33の図2及び7)からすると,乙5に接した当業者は,乙5記載の回路基板10の貫通孔11をプリンタ本体に対向する構成とし,かつ,当該貫通孔がプリンタ本体に「設置された突起部に係合」する構成とすることを容易に想到することができた旨主張する。そこで検討するに,乙5の記載(【0031】,【0042】,図3,5ないし7)によれば,インクカートリッジ40がプリンタに装着されると回路基板10の各端子21~27とプリンタ本体側の各接触ピンP1~P7とが相互に接触し,プリンタと回路基板の記憶装置30との間でデータのやりとりが可能となるが,回路基板10は,図5ないし7に示すように,インクカートリッジ40の回路基板装着部41の基準面に対して水平方向に固定されており,回路基板10の基板面は,プリンタ本体(本体側の各接触ピンP1~P7)に対向するものではない。また,回路基板10は,インクカートリッジ装着部41に装着する際の位置決め用の貫通孔11を備えているが(【0027】,図1ないし3),乙5には,貫通孔11についてプリンタ本体側の突起部(各接触ピンP1~P7)に係合する穴部の構成とすることについての記載も示唆もない。一方,乙5の図11には,回路基板10が,オンキャリッジタイプのプリンタに用いられるインクカートリッジ48に対し装着された例が示されているが,乙5には,オンキャリッジタイプのプリンタの本体側端子の構成や同プリンタとインクカートリッジ48との配置態様について記載も示唆もない。そうすると,被控訴人らが主張するように基板の挿入方向とカートリッジ側の端子と本体側の接点の配置を適宜選択できることは,周知慣用技術であるとしても,乙5に接した当業者において,乙5の回路基板において,「画像形成装置本体」(プリンタ)に「設置された突起部に係合する穴部が形成され」た構成(相違点1-3①に係る本件発明1-1の構成)とする動機付けがあるものと認められないから,上記構成を容易に想到することができたものと認めることはできない。したがって,被控訴人らの上記主張は理由がない。cまとめ以上のとおり,当業者は,相違点1-3①に係る本件発明1-1の構成を容易に想到することができたものと認められないから,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人ら主張の乙5を主引用例とする本件発明1-1の進歩性欠如の無効理由は認められない。(イ) 本件発明1-2及び1-6について本件発明1-2及び1-6は,それぞれの発明特定事項(請求項2及び6)に本件発明1-1の構成(請求項1)を含むから,前記(ア)bと同様の理由により,被控訴人ら主張の乙5を主引用例とする本件発明1-2及び1-6の進歩性欠如の無効理由は認められない。

ウ争点3-1-2(本件各発明2の進歩性の欠如)について20(ア) 本件発明2-1について乙5には,乙5記載の回路基板10において,「画像形成装置本体」(プリンタ)が備える「本体側突起部が挿入される穴部が,形成され」た構成(構成要件2-1C)及び「前記アース端子は,前記穴部に設けられ」た構成(構成要件2-1E)を備えることの開示があるものと認められない。そうすると,本件発明2-1と乙5発明は,乙5発明が構成要件1-1D及び1-1F1に係る本件発明1-1の構成を備えていない点において相違するものと認められる (以下,かかる相違点のうち,構成要件2-1Cに係る相違点を「相違点1-3②」という。)。これに反する被控訴人らの主張は採用することができない。そして,前記イ(ア)bで説示したのと同様の理由により,乙5に接した当業者において,乙5の回路基板において,「画像形成装置本体」(プリンタ)が備える「本体側突起部が挿入される穴部が,形成され」た構成(相違点1-3②に係る本件発明2-1の構成)とする動機付けがあるものと認められないから,上記構成を容易に想到することができたものと認めることはできない。

したがって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人ら主張の乙5を主引用例とする本件発明2-1の進歩性欠如の無効理由は認められない。(イ) 本件発明2-2ないし2-4,2-25及び2-49について本件発明2-2ないし2-4,2-25及び2-49は,それぞれの発明特定事項(請求項2ないし4,25及び49)に相違点1-3②に係る本件発明2-1の構成と同一の構成(構成要件2-2H,2-3J,2-4L,2-25C及び2-49C)を含むから,前記(ア)と同様の理由により,被控訴人ら主張の乙5を主引用例とする本件発明2-2ないし2-4,2-25及び2-49の進歩性欠如の無効理由は認められない。

エ争点3-1-3(本件各発明3の進歩性の欠如)について(ア) 本件発明3-70について乙5には,乙5記載の回路基板10が,「画像形成装置本体」(プリンタ)が備える「水平方向に突出する突起部」である「前記突起部」が「挿入される穴部と,…を備えた基板」の構成(構成要件3-70F)及び「前記穴部に形成され,前記本体側アース端子と接触する情報記憶装置側アース端子」の構成(構成要件3-70G)を備えることの開示があるものと認められない。そうすると,本件発明3-70と乙5発明は,乙5発明が構成要件3-70F及び3-70Gに係る本件発明の構成を備えていない点において相違するものと認められる (以下,かかる相違点のうち,構成要件3-70Fに係る相違点を「相違点1-3③」という。)。これに反する被控訴人らの主張は採用することができない。そして,前記イ(ア)bで説示したのと同様の理由により,乙5に接した当業者において,乙5の回路基板において,「画像形成装置本体」(プリンタ)が備える「水平方向に突出する突起部」である「前記突起部」が「挿入される穴部と,…を備えた基板」の構成(相違点1-3③に係る本件発明3-70の構成)とする動機付けがあるものと認められないから,上記構成を容易に想到することができたものと認めることはできない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人ら主張の乙5を主引用例とする本件発明3-70の進歩性欠如の無効理由は認められない。(イ) 本件発明3-77,3-78及び3-80について本件発明3-77,3-78及び3-80は,それぞれの発明特定事項(請求項77,78及び80)に本件発明3-70の構成(請求項70)を直接又は間接的に含むから,前記(ア)と同様の理由により,被控訴人ら主張の乙5を主引用例とする本件発明3-77,3-78及び3-80の進歩性欠如の無効理由は認められない。
(2) 本件各発明3に関する明確性要件違反(争点3-2)

ア争点3-2-1(本件発明3-70,3-77,3-78及び3-80に関する明確性要件違反)について被控訴人らは,本件発明3-70の特許請求の範囲(請求項70)の「前記基板は,前記穴部に前記突起部が挿入されていく間に,当該基板の側面であって前記穴部よりも下方に,前記一対のリブのうちの少なくとも一方が当接可能な縁部を備えた」との記載(構成要件3-70I)は,画像形成装置本体の「前記一対のリブ」の形状やトナーカートリッジに対する「一対のリブ」の位置関係が明らかでなく,「前記一対のリブのうちの少なくとも一方が当接可能な縁部」がどのような構成を有するのか不明であり,また,「基板」の形状がどのように限定されるのか不明であるから,上記記載は不明確であり,本件発明3-70は,特許法36条6項2号の明確性要件に適合せず,同様に,本件発明3-77,3-78及び3-80は,本件発明3-70を直接又は間接的に発明特定事項に含むから,明確性要件に適合しない旨主張する。そこで検討するに,本件発明3-70の特許請求の範囲(請求項70)の記載は,「水平方向に突出する突起部と,当該突起部に設置された接地用の本体側アース端子と,前記突起部と同一方向に突出する一対のリブと,を備えた画像形成装置本体に情報を伝達するための情報記憶装置であって,前記情報記憶装置は,前記画像形成装置本体側に伝達するための情報を記憶する情報記憶部と,前記突起部が挿入される穴部と,前記情報記憶部と,を備えた基板と,前記穴部に形成され,前記本体側アース端子と接触する情報記憶装置側アース端子と,を備え,前記穴部に前記突起部が挿入された状態において,前記情報記憶部は前記穴部よりも下方に設けられ,前記基板は,前記穴部に前記突起部が挿入されていく間に,当該基板の側面であって前記穴部よりも下方に,前記一対のリブのうちの少なくとも一方が当接可能な縁部を備えたことを特徴とする情報記憶装置。」というものである。上記記載から,構成要件3-70Iの「前記基板は,前記穴部に前記突起部が挿入されていく間に,当該基板の側面であって前記穴部よりも下方に,前記一対のリブのうちの少なくとも一方が当接可能な縁部を備えた」にいう「前記一対のリブ」は,「画像形成装置本体」が有する構成であって,「画像形成装置本体」の「水平方向に突出する突起部と同一方向に突出する」形状及び配置関係にあることを理解することができ,また,「前記基板」は,「前記突起部」(画像形成装置本体」の「水平方向に突出する突起部」)が「挿入される穴部」と,「前記情報記憶部」と,「前記穴部に前記突起部が挿入されていく間に,当該基板の側面であって前記穴部よりも下方に,前記一対のリブのうちの少なくとも一方が当接可能な縁部」を備えることを理解することができるから,構成要件3-70Iの上記記載内容は明確である。

したがって,被控訴人らの上記主張は採用することができないから,本件発明3-70,3-77,3-78及び3-80に明確性要件違反の無効理由は認められない。

イ争点3-2-2(本件発明3-78に関する明確性要件違反)について被控訴人らは,本件発明3-78の特許請求の範囲(請求項78)の「前記情報記憶装置が前記画像形成装置本体に接続される際,前記情報記憶装置側アース端子が前記本体側アース端子と接触した後に,前記情報記憶装置側端子が前記本体側端子と接触可能に形成されている」との記載(構成要件3-78R)は,本件明細書等3記載の実施形態をみると,画像形成装置本体側の突起と情報記憶装置側端子の特徴によって実現されており,上記記載によって更にどのような限定が本件発明3-70(請求項70)又は3-77(請求項77)の情報記憶装置に加えられるのか不明確であるから,本件発明3-78は,明確性要件に適合しない旨主張する。そこで検討するに,本件発明3-78の特許請求の範囲(請求項78)の記載は,「請求項77に記載の情報記憶装置であって,前記情報記憶装置が前記画像形成装置本体に接続される際,前記情報記憶装置側アース端子が前記本体側アース端子と接触した後に,前記情報記憶装置側端子が前記本体側端子と接触可能に形成されていることを特徴とする情報記憶装置。」というものである。上記記載及び請求項77の記載から,構成要件3-78Rの記載は,請求項77の「前記画像形成装置本体に設けられた本体側端子と接触する情報記憶装置側端子」について,前記情報記憶装置が前記画像形成装置本体に接続される際の前記情報記憶装置側アース端子と前記本体側アース端子との接触と,情報記憶装置側端子と前記本体側端子との接触との接触順序を規定したものであり,上記記載の内容は明確である。したがって,被控訴人らの上記主張は採用することができないから,本件発明3-78に明確性要件違反の無効理由は認められない。

5争点4(消尽の成否)について被控訴人らは,被控訴人らが原告電子部品(ICチップ)のメモリを書き換える態様で使用済みの原告製品をリサイクルしていたとすれば,リサイクル品に搭載された原告電子部品について本件各特許権は消尽するのに,控訴人は,原告電子部品(ICチップ)のメモリの書換えを技術的に困難にする本件書換制限措置という合理性及び必要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品を取り外し,被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,上記消尽の成立を妨げたものであり,控訴人に二重の利得を得ることを認める必要性はないから,被告電子部品について本件各特許権の消尽が成立するというべきである旨主張する。

そこで検討するに,特許権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には,当該特許製品について特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該特許製品を使用し,譲渡し,又は貸し渡す行為等には及ばず,特許権者は,当該特許製品について特許権を行使することは許されないものと解される(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁,最高裁平成18年(受)第826号同19年11月8日第一小法廷判決・民集61巻8号2989頁参照)。そして,この消尽の趣旨は,特許製品について譲渡を行う都度特許権者の許諾を有するとすると,市場における特許製品の円滑な流通が妨げられ,一方,特許権者が我が国において譲渡した特許製品については,当該譲渡を通じて特許発明の公開の代償を確保する機会を既に保障されているから,特許権者がその流通過程において二重に利得を得ることを認める必要はないことによるものと解されるから,消尽により特許権の行使が制限される対象製品は,特許権者が我が国において譲渡した特許製品と同一性を有する製品に限られると解すべきである。これを本件についてみると,被告製品は,控訴人が譲渡した本件各発明1ないし3の実施品である原告電子部品を搭載した使用済みの原告製品から,原告電子部品を取り外し,被控訴人らの製造した被告電子部品と取り替えた上で,トナーを充填し,再生品として製造し販売したものであるから(前記前提事実の(6)イ),被告電子部品は,控訴人が譲渡した原告製品に搭載された原告電子部品と同一性を有するものではない。

また,被控訴人らが本件各特許権の消尽の成立を妨げたと述べる対象製品は,仮定のリサイクル品に搭載された原告電子部品であって,実際の流通過程に置かれたものではないから,当該原告電子部品が被告電子部品と同一性を有するものでないことは明らかである。したがって,被告電子部品について本件各特許権の消尽が成立するものと認められないから,被控訴人らの上記主張は理由がない。

6争点5(権利の濫用の成否)について被控訴人らは,控訴人の本件請求は,控訴人が,原告電子部品(ICチップ)のメモリの書換えを技術的に困難にする本件書換制限措置という合理性及び必要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品を取り外して被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,原告電子部品(ICチップ)のメモリを書き換える態様により原告製品をリサイクルしたリサイクル品の原告電子部品についての本件各特許権の消尽の成立を控訴人の意思により妨げ,そのような結果を利用したものであるという点において消尽の趣旨を潜脱し,また,リサイクル品が装着された場合にディスプレイ上に「?」が表示されるような設定と本件書換制限措置という妨害行為を組み合わせる方法で,純正品と同等のリサイクル品を競争上劣位におき,リサイクル事業者である被控訴人らの取引を不当に妨害しているから,公正な競争を阻害するものであり,競争者に対する取引妨害として,独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)に抵触することを総合考慮すると,控訴人が,被控訴人らに対し,被告電子部品について本件各特許権に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を行使することは,権利の濫用に当たり許されない旨主張するので,以下において判断する。

(1) 認定事実前記第2の2の前提事実と後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア本件書換制限措置による原告プリンタの機能への影響等(ア) 原告電子部品控訴人が製造するレーザープリンタ(原告製プリンタ)のうち,原告プリンタ(型番「C830」及び「C831」)を含むC830シリーズ及びC840シリーズのプリンタに対応する控訴人製のトナーカートリッジ(原告製品)には情報記憶装置である電子部品(ICチップ)(原告電子部品)が搭載されている。原告電子部品のメモリには,●(省略)●などが書き込まれている(甲29,30,42,乙26)。(イ) 原告製品(純正品)が装着された原告プリンタの動作原告プリンタに原告製品(純正品)が装着されると,原告プリンタのプリンター画面において,「印刷できます」との表示がされるとともに,原告製品のトナーの残量が段階的に表示され,トナーが少なくなってくると,「トナーがもうすぐなくなります。」,「交換用のトナーがあるか確認してください。」との予告表示がされ,トナーを使い切ると,「トナーがなくなりました。」,「トナーを補給してください。」との表示がされ,赤色ランプが点灯し,印刷を停止し,その際,原告製品の原告電子部品(ICチップ)のメモリに●●●●●●●●●●が書き込まれる。●(省略)●ただし,●(省略)●がされる。(甲41,乙25,49)(ウ) トナーを再充填した使用済みの原告製品(再生品)が装着された原告プリンタの動作原告電子部品に●●●●●●●●●●が書き込まれた使用済みの原告製品(再生品)にトナーを再充填して原告プリンタに装着すると,別紙3の写真1のように,原告プリンタのプリンター画面において,トナーの残量表示が「?」と表示され,黄色ランプが点滅し,「非純正トナーボトルがセットされています。」との表示がされる(甲48の写真1,乙25)。「?」と表示されている部分をタッチパネルで1回押すことにより,別紙3の写真2のような「サプライ情報」の画面に遷移し,同画面上の「保守/補給」の「▶トナー残量」の項目に「検知不可」との表示がされる(甲48)。この場合でも,別紙3の写真1のように原告プリンタのプリンター画面上に「印刷できます」との表示がされ,印刷操作を行うと支障なく印刷することができる。一方で,トナーの残量の段階的な表示や「トナーがもうすぐなくなります。」,「交換用トナーがあるか確認してください。」との予告表示はされず,トナーを使い切ると,「トナーがなくなりました。」,「トナーを補給してください。」との表示がされ,赤色ランプが点灯し,印刷を停止する(甲48,乙25)。(エ) 控訴人による本件書換制限措置a原告製プリンタに対応する控訴人製のトナーカートリッジの電子部品のメモリに書き込まれた●●●●●●●●●●は,電圧の操作によってそのデータを書き換えることが可能であるが,原告電子部品については,●●●●●●●●●●の書換えを制限する本件書換制限措置を講じられている。仮に原告電子部品(ICチップ)に本件書換制限措置がされていなければ,電圧の操作によって●●●●●●●●●●のデータを書き換えることが可能であり,このようにデータを書き換えた上,トナーを再充填した使用済みの原告製品(再生品)を装着した原告製プリンタにおいては,トナー残量の段階的表示及び残量予告表示をすることができる。b控訴人が現在販売している原告製プリンタの製品群(合計30機種)のうち,本件書換制限措置が講じられているのは,「RICOHSPC840ME」等のカラーレーザープリンタ5機種である(甲31)。

イ被控訴人らによる控訴人製のトナーカートリッジの再生品の販売等(ア) 被控訴人らは,原告製プリンタのうち,本件書換制限措置がされていない機種に適合するトナーカートリッジについては,使用済みのトナーカートリッジに搭載された電子部品(ICチップ)のメモリのデータを書き換え,トナー残量の表示をすることができるようにした上で,トナーを充填し,再生品として販売している(乙26,46)。(イ) 被控訴人らは,平成25年4月から平成29年10月までの間,日本国内において,直販又は被控訴人DSジャパンが運営する被告ウェブサイトにおいて,別紙4の写真1ないし3記載の形状の被告電子部品(設計変更前)が搭載された被告製品(設計変更前)(乙15)を販売し,同年11月以降,被告電子部品の形状を別紙4の写真4ないし6記載の形状に設計変更した電子部品(以下「被告電子部品(設計変更後)」という。乙15)が搭載された被告製品(設計変更後)を販売した。被告製品を装着した原告製プリンタにおいては,トナー残量の段階的表示及び残量予告表示をすることができる。

5(ウ) 被告ウェブサイトには被告製品の価格の表示はなく,被控訴人らは,会員登録した者に対して個別に見積りをして価格を提示しているところ,平成30年1月から同年12月末までの被告製品の平均価格は,1本約1万3000円(甲8の3,5,6,乙37)である。一方,原告製品の標準価格は,約2万5000枚印刷できるブラックが3万9000円,約2万枚印刷できるイエロー,マゼンタ,シアンが3万7000円,約1万2000枚印刷できるブラックが2万4000円,約1万2000枚印刷できるイエロー,マゼンタ,シアンが2万3500円である(甲23,乙34)。

ウ ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●の存在15●(省略)●控訴人が,●●●●●●●●●●●に挿入した時の動作を確認する実験(甲73,74)を実施したところ,●●●●において,「?」と表示されることなく,トナーの残量表示がされ,正常に動作することが確認された。控訴人は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●を認めている。

エ再生品トナーカートリッジの市場シェア,官公庁の入札条件等(ア) トナーカートリッジにおける平成21年から平成29年までのリユース率(新品〔純正品と汎用品〕に対するリユース品の割合)は,モノクロで32.9~37.2%(平成29年は34.9%),カラーは11.4~16.0%(平成29年は13.4%),モノクロ・カラー合計は23.1~26.4%(平成29年は23.3%)の範囲内で推移している(乙30)。(イ) 東京国税局による平成29年1月の被告製品を含むカラーレーザープリンタ用トナーカートリッジ等の入札において,メーカーによる再生品以外の再生品については,「ISO14001」及び「ISO9001」を取得した工場で製造された再生品であること,E&Qマーク等を取得したものであること,チップ装着タイプのトナーカートリッジに装着するチップは,リサイクルの都度,確実に情報を書き換えることなどの条件が付されていた(乙39の2)。また,東北農政局による平成29年2月の富士ゼロックス製プリンタ用トナーカートリッジ等の入札においては,再生品について,ISO9000シリーズを認証取得した工場で生産された製品であること,E&Qマーク等の認証を取得しており,純正品と同等の機能を有することなどが条件とされていた(乙38)。

(ウ) 公正取引委員会は,平成16年10月21日付けで「キヤノン株式会社に対する独占禁止法違反被疑事件の処理について」と題する審査事例(乙3先例)に関する報道資料(乙3)を公表し,上記被疑事件について,キヤノンに対して独占禁止法の規定に基づき審査を行ってきたところ,現在までに再生業者が再生品を再生販売することが可能になっていると認められたことから,上記審査を終了することとしたと発表した。a乙3には,「1本件の概要」として,以下のような記載がある。

20(a) キヤノンは,レーザプリンタ及びそのカートリッジの開発及び製造を行っており,我が国におけるカラーレーザプリンタの市場において有力な事業者である。⒝ キヤノンは,平成14年及び15年に発売を開始した同社製のカラーレーザープリンタに使用されるカートリッジについて,プリンタ本体の損傷防止及び純正品が使用された場合の印字品質を確保する観点から,RFIDと称されるICタグを搭載し,そのICチップに寿命データを記録している,そして,セキュリティなどの理由から,再生業者が当該寿命データを書き換えることにより初期状態に戻して再生品として利用することは困難となっている,上記カラーレーザープリンタは,ICチップに寿命データが記録されていても,トナーが充填された再生品を当該プリンタに装着した場合には,純正品ではないと認識し,当該プリンタ本体のパネルに「カートリッジフセイ」と表示するものの,ユーザーが所要の操作を行うことにより印刷を継続することができるようにしており,再生業者が寿命データを書き換えなくても,カートリッジを再生利用することは可能である,ただし,この場合であっても,一定の条件を満たす場合には,当該再生品は寿命に達した純正品と認識され,当該プリンタが作動しないことがあることから,再生業者がユーザーに対して再生品を販売するに当たり支障が生じている。⒞ キヤノンは,再生品の使用を希望するユーザーの存在を考慮し,再生品の使用に支障が生じることがないよう,以下の対応を行った。
①再生業者の団体に対し,再生品が装着されたプリンタの作動する条件について説明するとともに,取扱説明書の記載も一部修正することとした。
②「カートリッジフセイ」との上記表示についても,ユーザーが再生品を使用することをためらわせることのないような表現に修正することとした。
③ 一部のカラーレーザープリンタでは,再生品が装着された場合には色調整の機能が働かない場合があったが,上記修正に併せて,その原因となっていたソフトウェアのプログラムの誤りを修正することとした。

⒟ 上記対応により,キヤノン社製カラーレーザープリンタに使用されるカートリッジの再生品の利用を望むユーザーに対し,再生業者が再生品を提供することは可能になっており,独占禁止法上の問題は解消しているものと認められる。

bまた,乙3には,「2公正取引委員会の対応」として,以下のような記載がある。「レーザプリンタのメーカーがレーザープリンタに使用されるカートリッジにICチップを搭載することについて,カートリッジの再生利用との関係で生じ得る問題に関する独占禁止法上の考え方は,別紙のとおりである。」「<別紙>レーザープリンタに装着されるトナーカートリッジへのICチップの搭載とトナーカートリッジの再生利用に関する独占禁止法上の考え方近年,レーザープリンタに使用されるトナーカートリッジ(以下「カートリッジ」という。)にICチップが搭載されている事例が増えている。レーザープリンタのメーカーがその製品の品質・性能の向上等を目的として,カートリッジにICチップを搭載すること自体は独占禁止法上問題となるものではない。しかし,プリンタメーカーが,例えば,技術上の必要性等の合理的理由がないのに,あるいは,その必要性等の範囲を超えて,
① ICチップに記録される情報を暗号化したり,その書換えを困難にして,カートリッジを再生利用できないようにすること② ICチップにカートリッジのトナーがなくなった等のデータを記録し,再生品が装着された場合,レーザープリンタの作動を停止したり,一部の機能が働かないようにすること③ レーザープリンタ本体によるICチップの制御方法を複雑にしたり,これを頻繁に変更することにより,カートリッジを再生利用できないようにすることなどにより,ユーザーが再生品を使用することを妨げる場合には,独占禁止法上問題となるおそれがある(第19条(不公正な取引方法第10項[抱き合わせ販売等]又は第15項(現第14項)[競争者に対する取引妨害])の規定に違反するおそれ)。なお,前記の考え方は,インクジェットプリンタに使用されるインクカートリッジにICチップを搭載する場合についても,基本的に同様である。」

⑵ 被控訴人ら主張の本件書換制限措置による競争上の不利益について被控訴人らは,
①トナーカートリッジの消費者は,トナー残量表示の有無を製品選択における重要な要素であると考えており(乙25),いくら価格が安くとも,トナー残量表示のないリサイクル製品は,純正品と同等ではない「中途半端な再生品」として消費者に受け入れられない,
②ICチップを書き換えずにトナーを再充填した場合には,トナー残量表示が常に「?」となりトナー残量が分からなくなるという不都合にとどまらず,トナーが少なくなってきた時のカートリッジ交換予告メッセージが出ないため,トナーがなくなった時に突然トナーの補給を求める表示が出てプリンタが動かなくなるという不便をユーザーが被ることになり,その結果,リサイクル事業者に大きな不利益を与えるものである,
③残量表示がされず,「?」が表示される製品がユーザーに受け入れられないことは,被控訴人らの実施した聴き取り調査の結果(乙25,66)から明らかであり,また,残量表示がされないことは,官公庁の入札条件を満たさない(乙67の1ないし4,68の1ないし4)ことからも明らかであり,このことは,本件アンケート調査(乙70)の結果及び東京国税局の回答書(乙71)からも,裏付けられる,
④本件書換制限措置を回避できたというためには,大量に販売されるリサイクルトナーカートリッジが長期間安定的にプリンタで使用できる必要があり,実用に耐えうる程度の本件書換制限措置の回避は事実上不可能か,著しく困難である,
⑤したがって,本件書換制限措置は,リサイクル業者である被控訴人らに対し,競争上著しい不利益を与えるものである旨主張するので,以下において判断する。

ア ①ないし③について(ア) 前記⑴アの認定事実によれば,本件書換制限措置が講じられた原告電子部品が搭載された純正品の原告製品が装着された原告プリンタと使用済みの原告製品にトナーを再充填した再生品が装着された原告プリンタの機能を対比すると,再生品が装着された原告プリンタは,トナー残量表示に「?」と表示され,残量表示がされず,予告表示がされない点で純正品の原告製品が装着された原告プリンタと異なるが,再生品が装着された場合においても,トナー切れによる印刷停止の動作及び「トナーがなくなりました。」等のトナー切れ表示は純正品が装着された場合と異なるものではなく,印刷機能に支障をきたすものではないこと,再生品が装着された原告プリンタにおいても,トナー残量表示に「?」と表示されるとともに,「印刷できます。」との表示がされるので,再生品であるため,残量表示がされないことも容易に認識し得るものであり,ユーザーが印刷機能に支障があるとの不安を抱くものとは認められないこと,ユーザーは,残量表示がされないことについて予備のトナーをあらかじめ用意しておくことで対応できるものであり,このようなユーザーの負担は大きいものとはいえない。また,リサイクル業者においては,残量表示がされないことについてユーザーが不安を抱くことを懸念するのであれば,再生品であるため,残量表示がされないが,印刷はできることを表示することによって対応できるものと認められる。このように本件書換制限措置が講じられた原告電子部品が搭載された再生品が装着された原告プリンタでは,トナー残量表示に「?」と表示され,残量表示がされず,予告表示がされない点は,ユーザーにとって大きな負担といえないことを踏まえると,残量表示がされない再生品と純正品との上記機能上の差異及び価格差を考慮して,再生品を選択するユーザーも存在するものと認められる。この点に関し被控訴人らは,残量表示がされず,「?」が表示される製品がユーザーに受け入れられないことを裏付ける証拠として,本件アンケート調査(乙70)を提出している。そこで検討するに,証拠(乙69,70)によれば,
①本件アンケート調査は,プリンタにおいてトナーの残量が表示されず「?」と表示される場合のユーザーの受け止め方を明らかにすることを目的とし,被控訴人らがインテージ社に委託し,インテージ社の有するインターネット調査専用の母集団である「マイティモニター」から選定された,コピー機,プリンタの機種選定やこれら機器の備品・消耗品選定を行っている者(対象者①)及びプリント業務やトナー交換を行っている者(対象者②)に対し,令和3年3月25日から同月29日までの間に,質問3~8に対する回答を求める方法で実施され,対象者①については1058名,対象者②については1063名の有効回答を得て,その回答結果を集計したものであること,
②質問3ないし5及び7の内容は,いずれも対象者①及び対象者②に対し,「印刷できます」との表示はある一方,トナーの残量が表示されず「?」と表示されているプリンタの画面の写真を示した上で,(ア)どのように思うか(質問3。自由記載),(イ)それがどのような状態だと考えるか(選択式。質問4),(ウ)何が原因だと思うか(選択式。質問5。),(エ)同様の表示がされた経験の有無(選択式。

質問7)を問うたものであること,
③質問6は,対象者①に対し,上記のプリンタ画面の写真を示し,「プリンターのトナーカートリッジを交換すると,写真のように「?」マークが表示されてトナー残量が表示されなくなります。この状態でもトナーがあれば印刷自体は可能ですが,この状態ではいつトナーがなくなるのかわからず,予告なく印刷ができなくなります。」との説明を付した上で,「もしあなたの会社のプリンターで,このような表示が出たとしたら,どのような対応をとりますか。以下のうち最もお考えに近いものをお答えください。」との質問をするものであり,各選択肢及び回答の割合は,「トナーカートリッジの購入先を切り替える(5.8%)」,「トナーカートリッジを返品・交換する(27.3%)」,「コストが安ければそのまま使う(13.4%)」,「社内からクレームがでなければそのまま使う(6.0%)」,「純正品しか使わないようにする(24.6%)」,「備品・消耗品購入の権限がないため関連部署に連絡する(7.3%)」,「何も対応しない(3.1%)」,「当てはまるものはない(12.6%)」であったこと,
④質問8は,対象者①に対し,「もしあなたの会社に残量表示が出ないトナーカートリッジを導入しているとして,あなたのもとに利用部門・利用者から,残量表示が出ないトナーカートリッジに関するクレームや,そのようなトナーカートリッジはやめて欲しいとの要望があったらどうしますか。最もお考えに近いものをお答えください。」との質問をするものであり,各選択肢及び回答の割合は,「すぐにトナーカートリッジを純正品に変更する(25.0%)」,「在庫がなくなるまでは使用し純正品に変更する(27.2%)」,「コスト面を説明して利用者に納得してもらう(11.7%)」,「備品・消耗品購入の権限がないため関連部署に連絡する(2.3%)」,「プリンターメーカーに連絡する(7.7%)」,「カートリッジ購入先に連絡する(6.2)%」,「トナーカートリッジの購入先変更を検討する(3.6%)」,「今は何とも言えない(10.4%)」,「何も対応しない(4.3%),「その他(1.6%)」であったことが認められる。しかるところ,ユーザーが実際に原告プリンタを操作する場面においては,ユーザーがプリンタ本体のディスプレイを凝視するようなことは実際には想定し難いこと(甲104,105)に照らすと,本件アンケート調査は,トナーの残量が表示されず「?」と表示される場合のユーザーの受け止め方を明らかにするものとしては,調査の方法において適切でない。また,対象者①(コピー機,プリンタの機種選定やこれら機器の備品・消耗品選定を行っている者)のみを対象とした質問6及び8についてみると,回答の分布から当該トナーカートリッジに対して否定的な心証を抱く傾向は読み取れるものの,被控訴人らの想定する仮想の事例に基づくものであることや,選択肢の配列が否定的な回答への誘導をする余地のあるものであることに照らすと,コピー機,プリンタの機種選定やこれら機器の備品・消耗品選定を行っている者の受け止め方を正確に反映したものとみることは困難である。

したがって,本件アンケート調査の結果は,残量表示がされず,「?」が表示される製品がユーザーに受け入れられないことを裏付けるものとはいえない。このほか,被控訴人らの聞き取り調査結果の報告書(乙66)及びこれに言及する被控訴人ロジコの従業員作成の陳述書(乙25)等も,残量表示がされず「?」が表示される製品がユーザーに受け入れられないことを裏付けるものとはいえない。(イ) 前記⑴エ(イ)の東京国税局による平成29年1月の被告製品を含む

カラーレーザープリンタ用トナーカートリッジ等の入札における入札条件(乙39の2)及び東北農政局による平成29年2月の富士ゼロックス製プリンタ用トナーカートリッジ等の入札における入札条件(乙38)には,再生品に関する条件が定められているが,いずれもトナーの残量がプリンタ上に表示されなければ,入札条件を満たさないという趣旨までは含んでいないものと認められる。また,被控訴人ら提出の東京国税局の上記入札に係る東京国税局作成の回答書(乙71)には,トナーのリサイクル品の「品質」等に関する規格の内容においては,印字品質等だけが規格の要素として挙げられており,トナー残量表示については要素となっておらず,トナー残量表示が「?」となる再生品が粗悪品又は不良品であると判断する可能性については一切言及がないことに照らすと,上記回答書は,トナーの残量がプリンタ上に表示されなければ東京国税局の入札条件を満たさないことの根拠となるものではない。このほか,乙67の1ないし4,68の1ないし4を考慮しても,上記残量表示がされることが公的入札の条件であるものとは認められない。(ウ) 以上によれば,被控訴人らが本件書換制限措置がリサイクル業者である被控訴人らに対し,競争上著しい不利益を与えるものであることの理由として挙げる前記①ないし③の主張は,採用することができない。

イ ④について前記(1)ウの認定事実によれば,電子部品の形状を工夫することで,本件各発明1ないし3の技術的範囲に属さない電子部品を製造し,これを原告電子部品と取り替えることで,本件各特許権侵害を回避し,残量表示をさせることは,技術的に可能であり,●●●●●●●●●●●●●●●●●20●●●●●●●●●●●●●●,●●●●●●の性能に問題があることをうかがわせる証拠がないことに照らすと,実用に耐えうる程度の本件書換制限措置の回避は事実上不可能又は著しく困難であるとの被控訴人らの主張④は採用することができない。

ウ乙3先例について前記⑴エ(ウ)記載の乙3先例は,プリンタメーカーの行為によって,再生品の使用自体に支障が生じるような事案であり,前記アに照らすと,本件とは事案が異なるものであるから,本件には妥当しない。

エまとめ以上によれば,本件書換制限措置は,リサイクル業者である被控訴人らに対し,競争上著しい不利益を与えるものとの被控訴人らの前記主張は理由がない。
(3) 小括以上のとおり,本件書換制限措置が講じられた原告電子部品が搭載された純正品の原告製品が装着された原告プリンタと使用済みの原告製品にトナーを再充填した再生品が装着された原告プリンタの機能を対比すると,再生品が装着された原告プリンタは,トナー残量表示に「?」と表示され,残量表示がされず,予告表示がされない点で純正品の原告製品が装着された原告プリンタと異なるが,再生品が装着された場合においても,トナー切れによる印刷停止の動作及び「トナーがなくなりました。」等のトナー切れ表示は純正品が装着された場合と異なるものではなく,印刷機能に支障をきたすものではないこと,再生品が装着された原告プリンタにおいても,トナー残量表示に「?」と表示されるとともに,「印刷できます。」との表示がされるので,再生品であるため残量表示がされないことも容易に認識し得るものであり,ユーザーが印刷機能に支障があるとの不安を抱くものとは認められないこと,ユーザーは,残量表示がされないことについて予備のトナーをあらかじめ用意しておくことで対応できるものであり,このようなユーザーの負担は大きいものとはいえないことを踏まえると,残量表示がされない再生品と純正品との上記機能上の差異及び価格差を考慮して,再生品を選択するユーザーも存在するものと認められる。また,前記認定のとおり,残量表示がされることが公的入札の条件であるとはいえない。

一方,リサイクル事業者においては,残量表示がされないことについてユーザーが不安を抱くことを懸念するのであれば,再生品であるため残量表示がされないが,印刷はできることを表示することによって対応できること,電子部品の形状を工夫することで,本件各発明1ないし3の技術的範囲に属さない電子部品を製造し,これを原告電子部品と取り替えることで,本件各特許権侵害を回避し,残量表示をさせることは,技術的に可能であり,●●5●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●からすると,原告プリンタ用のトナーカートリッジの市場において,本件書換制限措置によるリサイクル事業者の不利益の程度は小さいものと認められる。次に,控訴人は,本件書換制限措置を行った理由について,原告電子部品に本件書換制限措置が講じられていない場合には,原告プリンタに自ら品質等をコントロールできない第三者の再生品のトナーの残量が表示され,残量表示の正確性を自らコントロールできないので,このような弊害を排除したいと考えて本件書換制限措置を講じたものである旨を主張し,経営戦略として,原告製プリンタに対応するトナーカートリッジのうち,ハイエンドのプリンタであるC830及びC840シリーズに対応する原告製品に搭載された原告電子部品を選択した旨を述べていること(甲75,76),その理由には,相応の合理性が認められること,上記のとおり,本件各特許権侵害を回避した電子部品の製造が技術的に可能であることを併せ考慮すると,控訴人が本件書換制限措置がされた原告電子部品を取り替えて使用済みの原告製品に搭載した被告電子部品について本件各特許権を行使することは,原告製品のリサイクル品をもっぱら市場から排除する目的によるものと認めることはできない。上記のとおり,本件書換制限措置によりリサイクル事業者が受ける競争制限効果の程度は小さいこと,控訴人が本件書換制限措置を講じたことには相応の合理性があり,控訴人による被告電子部品に対する本件各特許権の行使がもっぱら原告製品のリサイクル品を市場から排除する目的によるものとは認められないことからすると,控訴人が本件書換制限措置という合理性及び必要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品を取り外し,被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,上記消尽の成立を妨げたものと認めることはできない。以上の認定事実及びその他本件に現れた諸事情を総合考慮すれば,控訴人が,被控訴人らに対し,被告電子部品について本件各特許権に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を行使することは,競争者に対する取引妨害として,独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)に抵触するものということはできないし,また,特許法の目的である「産業の発達」を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するものであるということはできないから,権利の濫用に当たるものと認めることはできない。したがって,被控訴人らの前記主張は採用することができない。

7争点6(差止めの必要性)について(1) 証拠(甲10,乙15)及び弁論の全趣旨によれば,原告製品には,原告電子部品が保持部材によって保持されて搭載され,同保持部材は,上下2か所がピンにより圧着され,この圧着ピンを破壊しない限り原告電子部品を取り外すことはできず,圧着ピンを破壊した後は,取り外した保持部材を再度圧着することができず,このため,被告製品は,原告製品からその保持部材を破壊して原告電子部品を取り出し,被告電子部品に入れ替えた上,保持部材の4か所に接着剤を付しトナーカートリッジに再度装着して製造されることが認められる。被控訴人らによる被告製品の販売は,本件各特許権の侵害行為である被告電子部品の販売を不可避的に伴うが,上記のとおり,被告電子部品が被告製品と物理的に一体となっていることからすれば,控訴人は,被告製品の販売を差止めの対象とせざるを得ない。

本件発明による原告プリンタ製品と当該プリンタ製品で使用されるトナーカートリッジ製品の間での接触不良等の電気的な問題が生じない等の課題解決による品質向上は,被告製品の売上に対して寄与,貢献をしているから,これと異なる旨をいう被控訴人らの主張は全て理由がない。

(2) 被告電子部品は,被告製品と物理的に一体であることからすれば,被告製品全体をもって「侵害の行為を組成した物」と認めることが相当である。そして,被控訴人らは,被告電子部品を用いて被告製品を容易に製造できる状況にあるので,被告製品の差止めに加え,被控訴人らが占有する被告製品及び被告電子部品も,併せて廃棄させる必要性が高い。被控訴人らは,控訴人が本件各特許権との抵触がないと認めている他社製品に類似した形状へ設計変更したICチップを使用した製品の販売を準備してきたが,現在では,被告電子部品を用いない被告製品の製造・販売をしており,特許権侵害が生ずる余地はなくなったと主張し,廃棄請求についても,物の発明における物がある構成物の一部をなす場合,その構成物の特許発明の対象である物以外の部分は,同条2項の「侵害の行為を組成した物」とはいえないと主張するが,被控訴人らの主張は,いずれも採用することができない。

(3) 以上によれば,被告製品の製造等の差止め及び廃棄の必要性がある。

なお,被控訴人らは,更なる設計変更を主張しているが,原告製品の保持部材を破壊して,電子部品(ICチップ)を侵害品の電子部品(ICチップ)に入れ替え,保持部材を改めて接着剤で固く接着することで,本件トナーカートリッジ製品を製造していることからすれば,仮に被控訴人らが電子部品(ICチップ)の設計変更をしたとしても,被控訴人らは,容易に設計変更前の被告電子部品を用いて本件トナーカートリッジ製品の製造・販売をすることができるから,被控訴人らの主張する設計変更の事実の有無や,その設計変更の内容如何にかかわらず,本件において差止めの必要性は認められるというべきである。

8争点7(控訴人の損害額)について(1) 特許法102条2項に基づく損害額について

ア被告製品の販売に係る特許法102条2項の適用について(ア) 被控訴人らが平成25年4月から令和3年8月3日までの間に販売した被告製品の販売総数が2万1000本を下らないこと,これにより被控訴人らが得た利益(限界利益)の額が8400万円を下らないことは,当事者間に争いがない。被控訴人らによる被告電子部品が搭載された被告製品の販売は本件各発明1ないし3に係る本件各特許権の侵害行為に当たるから,特許法102条2項により,被控訴人らが得た上記利益の額は,控訴人が上記侵害行為により受けた損害額と推定(本件推定)される。

(イ) これに対し被控訴人らは,
①被告電子部品は,被告製品に搭載された一部品である情報記憶装置であること,
②被告製品から被告電子部品を保持する保持部材を取り外して,被告電子部品を取り出した上で,これを再度組み付けなおして利用することができるから,被告製品と被告電子部品は可分であって物理的に一体となっているものとはいえないこと,
③被告電子部品の原価は1個当たり100円程度であるのに対し,被告製品の平均小売価格は1万3000円程度,原告製品の定価は3万円台後半から4万円台前半であること,
④本件各発明1ないし3は,情報記憶装置の物理的形状に係る情報記憶装置の発明であって,トナーカートリッジの発明ではないことからすると,被告製品全体の販売利益(限界利益)と控訴人の損害との間に相当因果関係はないから,控訴人の損害額は,被告電子部品の販売利益(限界利益)を基準として算定すべきである旨主張する。

しかしながら,原告製品と同タイプのトナーカートリッジは,主として,容器本体(ボトル本体)と,その頭部に設けられたキャップ部(ボトルキャップ)とで構成され,トナー容器のキャップ部には,シャッタ部材34,情報記憶装置としてのIDチップ(ICチップ)等が分解可能に設置されていること(本件明細書等1の【0061】,【0083】,図18,20等),被告電子部品は,情報記憶装置としてのICチップであるから,使用済みの原告製品の再生品である被告製品の一部品であること,被告電子部品は,キャプ部の保持部材に接着剤によって接着されて被告製品と物理的に一体となっていること,被控訴人らは,被告電子部品が搭載された被告製品を一つの製品として販売し,その構成部品である被告電子部品を個別に販売したものではないことに照らすと,被控訴人らが得た被告製品の限界利益の額について同項による推定(本件推定)が及び,被告電子部品が被告製品の一部品であることは,上記推定の全部又は一部を覆す推定覆滅事由として考慮するのが相当であると解される。

したがって,被控訴人らの上記主張は採用することができない。

イ推定覆滅事由について被控訴人らは,被告電子部品は被告製品の一部品であること,被告製品において本件各発明1ないし3の顧客吸引力がないこと,控訴人は,被告電子部品を用いなくても,本件各特許権の侵害を回避しつつ,「?」と表示されない再生品を製造することができることを認めていること,被告製品の売上げに原告プリンタの販売台数が寄与していること,被告製品においては本件各特許以外の控訴人の他の特許が実施されていること,被告製品の価格は原告製品の販売価格よりも大幅に安価であり,被控訴人らと控訴人の業務態様等が相違すること,被控訴人らが被告製品を販売しなかったとしても,その販売分は,本件書換制限措置により残量表示がされないままのリサイクル品に置き換わるにすぎないことは,本件推定の覆滅事由に該当し,かかる事情を考慮すると,本件推定は全部覆滅される旨主張するので,以下において判断する。(ア) ①被告電子部品が情報記憶装置(ICチップ)であり,被告製品の一部品であることは,前記ア(イ)認定のとおりであること,
②本件各発明1ないし3は,トナーカートリッジの電子部品に関する発明であって,トナーカートリッジ全体の発明ではないこと,
③本件各発明1においては,その構成により,情報記憶装置に電気的な破損が生じにくくなるとともに,穴部の中心から最も離れた位置にある端子までの距離を短くすることができ,端子の本体側端子に対する平行度が量産ばらつき等の理由でずれても,そのずれを最低限に抑えることができるという効果を奏するところに技術的意義を有し(本件明細書等1の【0022】),本件各発明2及び3においては,同様に,画像形成装置本体に対して着脱可能に設置される着脱可能装置に接触式の情報記憶装置を設置した場合であっても,画像形成装置本体のコネクタの本体側端子との位置決め不良による接触不良が生じにくい,情報記憶装置及び着脱可能装置を提供することができるという効果を奏することに技術的意義があること(本件明細書等2及び3の【0027】)が認められ,本件各発明1ないし3の実施品である原告電子部品は,電気的な破損や接触不良が生じにくい情報記憶装置として,トナーカートリッジ及びプリンタ本体の品質管理に安定的に寄与しているものと認められるところ,一方で,トナーカートリッジに求められる基本的な性能は,トナーの適量をプリンタ本体の感光体ドラムに供給するためのトナーをキャップ部側へ搬送するトナー搬送(本件明細書1等の【0062】,【0065】)に係る性能にあるものと認められるが,本件各発明1ないし3は,かかる性能を発揮するための技術とはいえないから,被告製品の売上げに対する顧客吸引力は限定的であることに鑑みると,被告電子部品が被告製品の一部品であることは,本件推定の覆滅事由に該当するものと認められる。(イ) 被控訴人らは,被告製品においては本件各特許以外の控訴人の他の特許(乙82ないし86)に係る発明が実施されていることは,本件推定の覆滅事由に該当する旨主張する。しかし,被控訴人らが挙げる上記各発明の実施によって被控訴人らの得た利益の一部又は全部について控訴人が受けた損害との相当因果関係がないことの具体的な根拠は明らかでなく,本件推定を覆す事情に該当するものとは認められないから,被控訴人らの上記主張は採用することができない。(ウ) 被控訴人らは,
①控訴人は,被告電子部品を用いなくても,本件各特許権の侵害を回避しつつ,「?」と表示されない再生品を製造することができることを認めていること,
②被告製品の売上げに原告プリンタの販売台数が寄与していること,
③被告製品の価格は原告製品の販売価格よりも大幅に安価であり,被控訴人らと控訴人の業務態様等が相違すること,
④被控訴人らが被告製品を販売しなかったとしても,その販売分は,本件書換制限措置により残量表示がされないままのリサイクル品に置き換わるにすぎないことは,本件推定の覆滅事由に該当する旨主張する。しかしながら,
①については,本件各特許権の侵害を回避しつつ,「?」と表示されない再生品のシェアに関する立証はないことに照らすと,本件推定の覆滅事由に該当するものとは認められない。

20②及び③については,被告製品は,原告プリンタに対応する原告製品の再生品であって,原告プリンタ用の専用品であり,原告製品と被告製品の顧客層が共通することに照らすと,本件推定の覆滅事由に該当するものとは認められない。
④については,以上のことに加えて,本件書換制限措置により残量表示がされないままのリサイクル品のシェアに関する立証もないことに照らすと,被控訴人らが被告製品を販売しなかったとしてもその販売分が本件書換制限措置により残量表示がされないままのリサイクル品に置き換わるにすぎないとはいえず,本件推定の覆滅事由に該当するものとは認められない。したがって,被控訴人らの上記主張は採用することができない。

ウまとめ以上を前提に検討するに,前記イ(ア)認定のとおり,被告電子部品が被告製品の一部品であることは,本件推定の覆滅事由に該当すること,本件各発明1ないし3の技術的意義の内容,トナーカートリッジに求められる基本的な性能は,トナーの適量をプリンタ本体の感光体ドラムに供給するためのトナーをキャップ部側へ搬送するトナー搬送(本件明細書1等の【0062】,【0065】)に係る性能にあるものと認められるが,本件各発明1ないし3は,かかる性能を発揮するための技術とはいえないことを総合考慮すると,被告製品の購買動機の形成に対する本件各発明1ないし3の寄与割合は5%と認めるのが相当であり,上記寄与割合を超える部分については被告製品の販売による限界利益の額と控訴人の受けた損害額との間に相当因果関係がないものと認められる。したがって,本件推定は上記限度で覆滅されるから,特許法102条2項に基づく控訴人の損害額は,被告製品の限界利益の額(8400万円)の5%に相当する420万円と認められる。

20(3) 特許法102条3項に基づく損害額について

ア被告製品の販売に係る売上高は,平均小売価格である1万3000円(乙37)に販売数量である2万1000本(争いがない)を乗じた2億7300万円であると認められる。

イ社団法人発明協会発行の「実施料率〔第5版〕」(乙78)には,電子・通信用部品の実施料率に係る平成4年度~平成10年度の平均値として,イニシャル有りが3.5%,イニシャルなしが3.3%であるとの記載があり,また,経済産業省知的財産政策室編「ロイヤルティ料率データハンドブック」の表Ⅰ-3(乙79)には,アンケート結果(調査実施期間2009年11月5日~2010年2月15日)として,技術分類を「電気」とする特許の「ロイヤルティ料率」について2.9%と記載され,「器械」とする特許の「ロイヤルティ料率」について3.5%との記載がある。そして,本件各発明1ないし3の技術的意義は,前記のとおりであること,その他本件に現れた諸事情を総合考慮すると,控訴人の特許法102条3項に基づく実施料相当額の損害額は,被告製品の売上高に1.5%を乗じた額と認めるのが相当である。

そうすると,被告製品の販売に係る控訴人の特許法102条3項に基づく実施料相当額の損害額は,410万円(2億7300万円×0.015。1万円未満四捨五入。)となる。

ウ前記(2)ウ認定の特許法102条2項に基づく控訴人の損害額420万円は,前記イ認定の同条3項に基づく控訴人の損害額410万円よりも高いから,同条2項に基づく損害額が控訴人の損害額となる。

(4) 弁護士費用本件事案の性質・内容,本件の認容額,原審及び当審の審理経過等諸般の事情を斟酌すると,被控訴人らの本件特許権侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用及び弁理士費用相当額は,50万円と認めるのが相当である。
(5) 過失相殺被控訴人らは,控訴人主張の本件各特許権侵害は,控訴人の本件書換制限措置により誘引されたものであるから,被控訴人らが賠償すべき損害額の算定に当たっては,控訴人が本件書換制限措置をしたことを控訴人の過失と評価し,過失相殺がされるべきである旨主張する。しかしながら,前記6(3)のとおり,控訴人による本件書換制限措置には相応の合理性があるものと認められるから,被控訴人らの主張は採用することができない。

⑹ 小括以上によれば,控訴人は,被控訴人らに対し,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として470万円(前記(3)ウ及び(4)の合計額)及びこれに対する被控訴人DSジャパンについて平成29年12月9日から,被控訴人ロジコ及び被控訴人奥美濃について各同月8日から各支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。
第5 結論
以上によれば,控訴人の請求は,被控訴人らに対し,被告製品の販売等の差止め及び廃棄並びに被告電子部品の廃棄を求めるとともに,470万円及びこれに対する被控訴人DSジャパンについて平成29年12月9日,被控訴人ロジコ及び被控訴人奥美濃について各同月8日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり,その余はいずれも理由がないから棄却すべきものである。したがって,原判決は一部不当であって,本件控訴は一部理由があるから,原判決を本判決主文第1項のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 小林康彦
裁判官 小川卓逸(別紙1)被告製品目録(1)下記図1及び「第2構造の説明」に記載された構造の電子部品(「被告電子部品」)が,下記図2及び図3並びに「第2構造の説明」に記載されたように搭載された,下記図2及び図3並びに「第2構造の説明」に記載された構造のトナーカートリッジ製品(以下「被告トナーカートリッジ製品(1)」という。)。

第1被告製品に関する図面の説明図1は,被告電子部品を示すものであり,図1(a)は被告電子部品の基板の表面を示す図であり,図1(b)は被告電子部品の基板の側面を示す図であり,図1(c)10は被告電子部品の基板の裏面を示す図である。図2は,被告トナーカートリッジ製品(1)を示すものであり,図2(a)~図2(d)は被告トナーカートリッジ製品(1)の外観を示す図であって,図2(a)は被告トナーカートリッジ製品(1)の正面図,図2(b)は90°回転させた平面図であり,図2(c)①及び図2(c)②は左側面図(被告電子部品が被告トナーカートリッジ製品(1)15に搭載されている部分の側面図。図2(c)①又は図2(c)②の2種類の形状がある。),図2(d)は右側面図である。ブラック,シアン,マゼンタ及びイエローの4色それぞれに対応する形状の被告トナーカートリッジ製品(1)があり,色の種類によって,ブラックは図2(a)B,シアンは図2(a)C,マゼンタは図2(a)M,イエローは図2(a)Yというように符号を付している。

図3は,被告電子部品が被告トナーカートリッジ製品(1)に搭載されている部分(斜視図)の拡大図であり,図3①は左側面が図2(c)①の場合の拡大図であり,図3②は左側面が図2(c)②の場合の拡大図である。

〔図1(a)〕〔図1(b)〕〔図1(c)〕図1被告電子部品〔図2(a)B〕〔図2(b)B〕〔図2(c)①B〕 〔図2(d)B〕〔図2(c)②B〕図2被告トナーカートリッジ製品(1)(ブラック)〔図2(a)C〕〔図2(b)C〕〔図2(c)①C〕 〔図2(d)C〕〔図2(c)②C〕図2被告トナーカートリッジ製品(1)(シアン)〔図2(a)M〕〔図2(b)M〕〔図2(c)①M〕 〔図2(d)M〕〔図2(c)②M〕図2被告トナーカートリッジ製品(1)(マゼンタ)〔図2(a)Y〕〔図2(b)Y〕〔図2(c)①Y〕 〔図2(d)Y〕〔図2(c)②Y〕図2被告トナーカートリッジ製品(1)(イエロー)〔図3①〕〔図3②〕図3被告電子部品が被告トナーカートリッジ製品に搭載されている部分(斜視図)の拡大図(全色共通)

第2構造の説明1.被告トナーカートリッジ製品(1)には,図2及び図3に示すように,被告電子部品が搭載されている(ただし,被告電子部品を保持する保持部材100の形状並びに保持部材100に使用される接着剤の位置,数及び形状は問わない。)。

52.被告電子部品は,以下の構造を有している。
(1)被告電子部品は,図1(a)及び図1(c)に示すように,穴部12を有する基板10を有している(ただし,穴部12及び基板10の形状は問わない。)。穴部12には,アース端子30が形成されている。
(2)被告電子部品には,図1(a)に示すように,基板10の表面に電子部品側端子として,クロック信号用端子20,アース端子30,シリアルデータ用端子40,及び,電源用端子50がこの順に配置されている(ただし,電子部品側端子の形状,サイズ及び端子間の間隔は問わない。)。
(3)被告電子部品には,図1(c)に示すように,基板10の裏面に,原告が製造・販売するプリンタ又は複写機と被告トナーカートリッジ製品(1)との間で通信される情報が記憶されるメモリ部60が穴部12よりも下方に設けられている(ただし,メモリ部60の形状及び基板10の裏面上の位置は問わない。)。以上(別紙2)被告製品目録(2)下記図1及び「第2構造の説明」に記載された構造の電子部品(「被告電子部品」)が,下記図2及び図3並びに「第2構造の説明」に記載されたように搭載された,下記図2及び図3並びに「第2構造の説明」に記載された構造のトナーカートリッジ製品(以下「被告トナーカートリッジ製品(2)」という)。

第1被告製品に関する図面の説明図1は,被告電子部品を示すものであり,図1(a)は被告電子部品の基板の表面を示す図であり,図1(b)は被告電子部品の基板の側面を示す図であり,図1(c)10は被告電子部品の基板の裏面を示す図である。図2は,被告トナーカートリッジ製品(2)を示すものであり,図2(a)~図2(d)は被告トナーカートリッジ製品(2)の外観を示す図であって,図2(a)は被告トナーカートリッジ製品(2)の正面図,図2(b)は90°回転させた平面図であり,図2(c)①及び図2(c)②は左側面図(被告電子部品が被告トナーカートリッジ製品(2)15に搭載されている部分の側面図。図2(c)①又は図2(c)②の2種類の形状がある。),図2(d)は右側面図である。ブラック,シアン,マゼンタ及びイエローの4色それぞれに対応する形状の被告トナーカートリッジ製品があり,色の種類によって,ブラックは図2(a)B,シアンは図2(a)C,マゼンタは図2(a)M,イエローは図2(a)Yというように符号を付している。

図3は,被告電子部品が被告トナーカートリッジ製品(2)に搭載されている部分(斜視図)の拡大図であり,図3①は左側面が図2(c)①の場合の拡大図であり,図3②は左側面が図2(c)②の場合の拡大図である。

〔図1(a)〕〔図1(b)〕〔図1(c)〕図1被告電子部品〔図2(a)B〕〔図2(b)B〕〔図2(c)①B〕 〔図2(d)B〕〔図2(c)②B〕図2被告トナーカートリッジ製品(2)(ブラック)〔図2(a)C〕〔図2(b)C〕〔図2(c)①C〕 〔図2(d)C〕〔図2(c)②C〕図2被告トナーカートリッジ製品(2)(シアン)〔図2(a)M〕〔図2(b)M〕〔図2(c)①M〕 〔図2(d)M〕〔図2(c)②M〕図2被告トナーカートリッジ製品(2)(マゼンタ)〔図2(a)Y〕〔図2(b)Y〕〔図2(c)①Y〕 〔図2(d)Y〕〔図2(c)②Y〕図2被告トナーカートリッジ製品(2)(イエロー)〔図3①〕〔図3②〕図3被告電子部品が被告トナーカートリッジ製品に搭載されている部分(斜視図)の拡大図(全色共通)

第2構造の説明1.被告トナーカートリッジ製品(2)には,図2及び図3に示すように,被告電子部品が搭載されている(ただし,被告電子部品を保持する保持部材100の形状並びに保持部材100に使用される接着剤の位置,数及び形状は問わない。)。

52.被告電子部品は,以下の構造を有している。
(1)被告電子部品は,図1(a)及び図1(c)に示すように,穴部12を有する基板10を有している(ただし,穴部12及び基板10の形状は問わない。)。穴部12には,アース端子30が形成されている。
(2)被告電子部品には,図1(a)に示すように,基板10の表面に電子部品側端子として,クロック信号用端子20,アース端子30,シリアルデータ用端子40,及び,電源用端子50がこの順に配置されている(ただし,電子部品側端子の形状,サイズ及び端子間の間隔は問わない。)。
(3)被告電子部品には,図1(c)に示すように,基板10の裏面に,原告が製造・販売するプリンタ又は複写機と被告トナーカートリッジ製品(2)との間で通信される情報が記憶されるメモリ部60が穴部12よりも下方に設けられている(ただし,メモリ部60の形状及び基板10の裏面上の位置は問わない。)。

(別紙3)写真1(甲48の写真1)写真2(甲48の写真2)(別紙4)被告電子部品の形状

1被告電子部品(設計変更前)写真1:トナーカートリッジを撮影した写真写真2:トナーカートリッジを近接して撮影した写真510写真3:トナーカートリッジのチップのみを近接して撮影した写真

2被告電子部品(設計変更後)写真4:トナーカートリッジを撮影した写真510写真5:トナーカートリッジを近接して撮影した写真510写真6:トナーカートリッジのチップのみを近接して撮影した写真(別紙5)本件明細書【図36】【図37】【図38】【図40】【図39】(別紙6)乙5(別紙7)甲74(写真省略) (写真省略)写真4 写真

出典: 令和2年(ネ)第10057号 裁判所ウェブサイト掲載の判決文 →

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