意匠か特許か…取得すべき権利を選ぶポイントと両者の違いを説明

意匠か特許かで迷うときに、取得すべき権利の選び方と両者の違いを説明する記事のアイキャッチ画像

新しいデザインや製品を考えたとき、「これは意匠で守るべきなのか、それとも特許を取るべきなのか」と迷う場面は少なくありません。

一般的には、意匠は製品の見た目(デザイン)を真似されないように守る制度、特許はその裏側にある構造や仕組みといったアイデアを守る制度です。ただ、実務では「デザインの中にアイデアが含まれている」ケースも多く、どちらを優先すべきか、あるいは両方取るべきかで悩みがちです。

この記事では、予算やビジネス上の狙いも踏まえて、意匠か特許かを選ぶときの考え方を整理します。デザインがデッドコピーされるリスクや、バリエーションの多さなど、実務でよく使う判断基準を6つに分けて解説します。

当事務所サイト内のまとめページ「特許の基礎と実務ガイド」や、意匠登録の流れを整理した「意匠登録の流れ|図面・写真・3Dデータの実務ガイド」とあわせてお読みいただくと、デザインをどの権利で守るかの全体像がつかみやすくなります。

意匠か特許かを選ぶポイント

意匠か特許かを選ぶためには、先ずは意匠と特許の違いを理解する必要があります。

1.意匠と特許の違いを知る

一般的には、意匠は製品などの見た目(デザイン)を真似されたくない場合に取得するのに対し、特許は製品などに含まれるアイデアを真似されたくない場合に取得します。よって、真似されたくない対象がデザインならば意匠を取得し、真似されたくない対象がアイデアならば特許を取得します。

ただし、デザイン自体にアイデアが含まれている場合には、意匠と特許の両方を取得することが可能となります。デザイン自体にアイデアが含まれる例としては、デザインに関する特許の取り方と特許が取れない場合の対策の記事を参考にして下さい。

2.意匠を取得すべきか特許を取得すべきかの判断基準を理解する

デザイン自体にアイデアが含まれているため、意匠と特許の両方を取得できる場合には、意匠と特許の両方を取得することが望ましいです。ただし、意匠や特許の申請にかかる費用の面で、意匠と特許の一方しか取得できない場合は、次の判断基準を参考に意匠か特許かを選択するのが良いでしょう。

  • デザインがデッドコピーされる可能性があるか
  • 製品の顔となるデザインがあるか
  • 特許が取れる可能性が低いか
  • デザインのバリエーションが多いか

①デッドコピーされる可能性があるならば意匠の取得に向く

製品のデザインがデッドコピーさせる(そっくりそのまま真似される)可能性がある場合には、意匠を取得するのに向いています。

意匠登録第1554714号の図面例
引用:意匠公報|意匠登録第1554714号|デザインのデッドコピーを防ぐ意匠登録の例

例えば、トヨタ自動車株式会社の高級車のレクサスについては、車両全体のデザインについて意匠を取得することで、デザインがそっくりそのまま真似される(デッドコピーされる)のを防止しています。

また、製品のデザイン全体について意匠を取得できれば、他人の意匠に抵触していないことを一応は確認することができるため(他人の意匠に抵触していないことを100%確証するものではないですが)、他人の意匠に抵触していないことを確認したい場合は意匠を取得するのに向いています。

②製品の顔となるデザインがあるならば意匠の取得に向く

製品の顔となるデザインがある場合は、意匠を取得するのに向いています。

意匠登録第1311554号の図面例
引用:意匠公報|意匠登録第1311554号|製品の顔となるデザインを意匠登録で守る例

例えば、履いている人をよく見かけるクロックスのサンダルのように、デザインの一部を見たら、「あそこのものだ」とわかるようなデザインについては、製品の顔となる部分について意匠を取得すると、製品の顔となるデザインが真似されるのを防止することができます。上の画像では実線で描かれている部分について意匠が認められています。

③特許が取れる可能性が低ければ意匠の取得に向く

製品のデザインにアイデアが含まれているものの、アイデアが極めて単純なため特許を取得することが難しい場合には、意匠を取得するのに向いています。

意匠登録第1232006号の図面例
引用:意匠公報|意匠登録第1232006号|特許を取るのが難しいため意匠登録で保護する例

例えば、上の画像に示すように、カップ焼きそばで、お湯の注ぎ口と反対側の蓋をめくると湯切りの孔が露出して湯切りが簡単にできるというアイデアは極めてシンプルなものです。そのため、特許を取得するのは難しいですが、湯切りをするためのデザインとして意匠を取得することが可能であり、湯切りをするための機能的なデザインが真似されるのを防止することができます。

④デザインのバリエーションが多ければ特許の取得に向く

デザインのバリエーションが多い場合は、特許の取得に向く傾向があります。デザインの各バリエーションについて意匠申請をすることで、デザインのバリエーションを守ることはできます。ただし、意匠申請の件数が多くなるため、意匠申請にかかる費用も高くなってきます。

そのため、デザインの各バリエーションに共通する機能的な部分がある場合には、その機能的な部分について特許を取得することで1つの特許申請で全てのバリエーションのデザインを保護できます。

特許申請については、特許申請の方法から特許取得までの流れを弁理士が解説の記事に詳しく書いてあります。

特許第5074746号の図面例
引用:特許公報|特許第5074746号|マスクのデザインのバリエーションを、アイデアで特許で守ろうとする例

例えば、上の画像に示すように、マスクの付けた時に顎の部分にフィットしやすくなるように切り欠きを設けるというアイデアがあります。

顎にフィットするマスクのデザインバリエーション例
引用:意匠公報|上記の意匠登録番号|顎にフィットするマスクのデザインのバリエーションの例

上の画像に示すように、マスクの付けた時に顎の部分にフィットしやすくなるように切り欠きを設けるというアイデアに対応するデザインは、色々なバリエーションが考えられます。

デザインの各バリエーションに共通する機能的な部分がある場合には、機能的な部分について特許を取得することができれば、1つの特許申請で全てのバリエーションのデザインを保護することが可能となります。なお、バリエーションに共通する機能的な部分がシンプルで特許が取れない場合には、意匠を取得するという方法も考えられます。

意匠か特許かを検討して実際に権利を取ってみよう

意匠か特許のどちらを取得すべきかを選ぶためのポイントをお伝えしました。意匠か特許のどちらを取得すべきか迷う場合は、真似されたくない対象がデザインであれば意匠を取得し、真似されたくない対象がアイデアであれば特許を取得します。

意匠と特許の両方が取得できる場合には、デザインがデッドコピーされる可能性、製品の顔となるデザインの有無、特許取得の可能性、デザインのバリエーションなどを総合的に判断し、意匠か特許かを決めます。可能であれば両方の権利を取得することが望ましいです。デザインとアイデアの両面から製品を守ることができるようになるからです。

なお、意匠を取るべきなのか特許を取るべきなのか分からない場合には、当サイトの無料相談などを活用しても良いでしょう。

よくある質問

Q1. 意匠と特許の一番大きな違いは何ですか?

ざっくり言うと、意匠は「見た目(デザイン)」を守る権利特許は「アイデアや仕組み」を守る権利です。製品の外観そのものを真似されたくない場合は意匠、内部構造や機能的な工夫を真似されたくない場合は特許が候補になります。

Q2. デザインにアイデアが含まれている場合、意匠と特許の両方を取るべきですか?

予算が許すなら、両方を組み合わせるのが一番手厚い守り方です。デザイン全体やデザインの「顔」の部分を意匠で押さえつつ、その背景にある機能的な工夫を特許で押さえることで、模倣の余地を小さくできます。

Q3. 費用が限られている場合は、意匠と特許のどちらを優先すべきですか?

デザインがデッドコピーされるリスクが高い場合や、製品の「顔」となるデザインがはっきりしている場合は、意匠を優先することが多いです。一方、デザインのバリエーションが多く、共通するアイデアで一括して守りたい場合は、特許を優先した方が費用対効果が高くなるケースがあります。

Q4. 先に意匠を出して、あとから特許を出すことはできますか?

可能な場合もありますが、どちらも「新しさ」が重要になる点には注意が必要です。展示会やWebで公開すると、特許の新規性が失われてしまうリスクがあります。意匠・特許を組み合わせたい場合は、公開前の早い段階で出願戦略を検討しておくことをおすすめします。

Q5. 自社のケースで意匠と特許のどちらを選ぶべきか相談できますか?

はい、可能です。製品の特徴や今後の展開によって最適な組み合わせは変わりますので、当サイトの無料相談からご相談いただければ、前提をお伺いしたうえで具体的な選択肢を一緒に整理します。

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この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

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米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。