税関で知的財産を侵害する模倣品等を差し止める方法

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海外ECやフリマサイトで、自社ブランドのロゴ入り商品が勝手に売られている。輸入品の中に、明らかにコピー品としか思えない商品が混ざっている──。

こうした「模倣品・海賊版」に対しては、民事訴訟などとは別に、税関での差し止め(税関差止)という手段があります。本記事では、中小企業・EC事業者の方にもイメージしやすいように、税関差止の仕組みと手順を整理します。

税関差し止めとは?知的財産侵害物品を止める仕組み

税関差止とは、特許権・商標権・意匠権・著作権などの知的財産権を侵害する疑いがある物品について、税関で輸入や輸出を止める仕組みです。

権利者などが税関に対して「輸入(または輸出)の差止申立」を行い、その申立てが受理されると、日本全国の税関で該当する模倣品や海賊版の取り締まりが行われます。

申立てが受理されるには、権利者であることや、権利侵害が疑われる具体的な資料が揃っていることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。

税関で差止を行うには、申立書類を作成し、審査に合格する必要があることを示す図解。
▲税関で差止を行うには、申立書類を作成し、審査に合格する必要がある

税関で知的財産を侵害する模倣品等を差し止める手順

税関で模倣品や海賊版を差し止めるおおまかな流れは、次のとおりです。

  • ① 税関差止の対象になるか、受理条件を確認する
  • ② 税関で事前相談をする
  • ③ 差止申立書と添付書類を作成する
  • ④ 税関に書類を提出し、審査を受ける
  • ⑤ 申立てが受理されると、税関で取り締まりが行われる

1. 税関において差止申立が受理される条件を確認する

まず、税関差止の申立てが受理されるための条件を確認します。ここで言う「模倣品」は特許権・実用新案権・意匠権・商標権などを侵害する物品、「海賊版」は著作権を侵害する音楽CD・映画DVDなどのコピー品を指します。

差止申立が受理される主な条件は、次のとおりです。

条件1:権利者であること

差止申立を行うには、申立人が知的財産権の権利者である必要があります。具体的には、特許権者、実用新案権者、意匠権者、商標権者、著作権者、育成権者、不正競争防止法に基づく差止請求権者などが該当します。

弁理士などの代理人に手続きを依頼する場合は、権利者からの委任状を添付することで、代理人名義で差止申立を行うこともできます。

条件2:権利の内容に根拠があること

差止申立を行う権利について、模倣品や海賊版を差し止める根拠がなければなりません。例えば、商標登録が有効に存在していること、特許権や意匠権のクレーム・図面から見て、問題の商品をカバーしていることなどです。

条件3:侵害の事実又は侵害のおそれがあること

実際に権利侵害が起きている、または近い将来に侵害が行われる蓋然性があることが必要です。例えば、同一・類似の標章を付した商品が輸入されている実績がある場合や、海外サイト上で模倣品の販売が確認され、日本向けに出荷されていることが分かっている場合などです。

条件4:侵害の事実を確認できること

権利者の権利と、模倣品・海賊版とを比較できる資料が必要です。例えば、正規品と模倣品の写真を並べた資料や、特許請求の範囲と問題製品の構造を対比させた説明書などを用意し、侵害の有無が判断できるようにします。

条件5:税関で模倣品や海賊版を識別できること

税関職員が現場で模倣品や海賊版を見分けられることも重要です。例えば、ロゴの位置や色、パッケージの特徴、シリアルナンバーの有無など、識別に役立つポイントを整理しておく必要があります。

2. 税関で事前相談をする

上記の条件を満たせそうな場合は、いきなり申立書を出すのではなく、まず税関で事前相談を行います。事前相談の段階で、知的財産権の内容や模倣品の状況を説明すると、申立て時にどのような資料が必要かアドバイスを受けられることがあります。

事前相談の際には、以下のような資料を持参するとスムーズです。

  • 権利の内容を示す書類(登録証、公報の写しなど)
  • 模倣品や海賊版の実物、または写真・カタログ
  • 模倣品がどのような経路で輸入・輸出されていると考えられるかの情報

3. 差止申立書と添付書類を作成する

税関差止申立に必要な書類の一覧を示す図解。
▲差止申立に必要な書類のイメージ

事前相談の内容を踏まえ、実際に輸入又は輸出の差止申立書と、必要な添付書類を作成します。

① 差止申立書の作成

輸入を止めたい場合は「輸入差止申立書」、輸出を止めたい場合は「輸出差止申立書」を使用します。申立書には、権利者情報、権利の内容、模倣品等の概要、識別ポイントなどを記載します。

② 添付書類の準備

差止申立書には、次のような添付書類を準備します。

  • 権利の内容に関する資料
    特許権・実用新案権・意匠権・商標権の場合は、登録原簿の謄本や公報の写しなど。著作権者等の場合は、権利の発生を示す契約書・制作記録などが求められます。
  • 模倣品・海賊版に関する資料
    模倣品や海賊版の実物・写真、正規品との比較資料など。権利と模倣品を対比し、どこがどのように侵害しているのか分かるように整理します。
  • 識別に役立つ情報
    税関職員が現場で見分けるためのポイント(ロゴ位置、表示のクセ、パッケージの特徴など)をまとめた資料。
  • 代理人を利用する場合の委任状
    弁理士などに手続きを委任する場合は、権利者から代理人への委任状が必要です。
  • 必要に応じて鑑定書など
    専門家による鑑定書や、輸入者・輸出者に関する情報をまとめた書面などがあれば、補強資料として添付します。

4. 差止申立書と添付書類を税関に提出する

書類が整ったら、東京税関・横浜税関・名古屋税関・大阪税関・神戸税関・門司税関・長崎税関・沖縄税関・函館税関のうち、いずれか1か所の税関長宛てに、差止申立書と添付書類を提出します。

税関差止申立後の審査と取り締まりの流れを示す図解。
▲審査に合格すると、全国の税関で模倣品等の取り締まりが行われる

差止申立書を提出した後の流れ

税関が差止申立書を受け付けると、まず書類の形式面に不備がないかを確認し、その後、権利侵害の有無などの実質審査が行われます。通常、申立書の受付からおおむね1か月を目途に審査を終了し、受理・不受理の結果が権利者に通知されます。

申立てが受理されると、全国の税関で取り締まりが行われる

差止申立が受理されると、受理日から最長4年間、日本全国の税関で当該知的財産権を侵害する模倣品や海賊版の取り締まりが行われます。期間満了前に更新手続きを行えば、4年を超えて取り締まりを継続することも可能です。

知的財産侵害疑義物品が見つかった場合

税関が、受理済みの差止申立に関係する知的財産侵害疑義物品を発見すると、その物品が実際に知的財産侵害物品に該当するかどうかを判断するため、認定手続に入ります。

認定手続が開始されると、税関は輸入者・輸出者および権利者に通知し、双方から意見書や資料の提出を受けたうえで、侵害の有無を認定します。侵害と認定された場合、輸入者は侵害物品を自ら処分する必要があり、処分しない場合は没収・廃棄されるのが一般的です。一方、非侵害と認定された場合には、輸入が許可されます。

税関差し止めにかかる費用

税関に対する輸入差止・輸出差止の申立て自体には、通常、税関への手数料などはかかりません。ただし、弁理士などの代理人に書類作成や手続を依頼する場合には、別途、代理人への報酬が必要になります。

模倣品等を差し止めたい場合は、税関差し止めの可否を検討しよう

税関で知的財産を侵害する模倣品等を差し止めるには、

  • 商標権などの権利者であること
  • 差し止めの根拠となる権利内容があること
  • 侵害の事実又は侵害のおそれがあること
  • 侵害の事実を確認できる資料があること
  • 税関で模倣品等を識別できる情報を用意できること

といった条件を満たす必要があります。

海外ECや並行輸入などを通じて模倣品・海賊版が流通しやすくなっている現在、税関差止は有力な「水際対策」の一つです。自社の商品が明らかにコピーされていると感じた場合は、上記の条件を満たせるかどうか検討し、必要に応じて税関への事前相談や専門家への相談も視野に入れてみてください。

次の一歩

  • 知財・試作・商標価値評価の総合ガイド: 税関差止だけでなく、特許・意匠・商標・実用新案などを含めた 「全体としてどこまで守るか」を整理したい場合はこちら。
  • 特許の基礎と実務ガイド: 権利の取り方・活用の基本や、他の模倣品対策も含めて 仕組みを押さえておきたいときに役立つガイドです。
  • 無料相談(30分): 具体的な模倣品の有無や、税関差止と それ以外の対策(警告書・ライセンス戦略など)の 優先順位を、自社の状況に合わせて整理したい場合にご相談ください。
ABOUT US
米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。