実用新案とは…実用新案の実質的なメリットを特許と比較して解説

実用新案とは、既製品の形状や構造や組み合わせを改良するアイデアや今までにない物の形状や構造や組み合わせに関するアイデアのことです。実用新案を登録して実用新案権を取得するメリットとしては、融通が利く点にあります。

実用新案は申請すると、申請された実用新案を独占させて良いか否かについて判断せずに実用新案権が認められます。そのため、権利が認められた実用新案を真似すると権利侵害になるのかがわからず、曖昧です。

権利侵害になるかは曖昧なものの、登録された実用新案を模倣するとリスクがあるため、登録された実用新案は、結果として他の人が使いにくくなります。一般的に、実用新案権の取得費用は特許を取得するより安価なため、実用新案を登録すると、リーズナブルにアイデアの模倣を抑制可能です。

登録された実用新案は、登録後3年以内ならば特許出願に変更できるため、製品の売れ行き等を見た上で、アイデアを守る最適な方法を選択できます。

実用新案とは

実用新案とは、既製品の形状や構造や組み合わせを改良するアイデアや今までにない物の形状や構造や組み合わせに関するアイデアのことです。実用新案を申請して登録することで、実用新案権を取得できます。

実用新案の申請の流れ

▲実用新案の申請から登録までの概略図

実用新案を申請して実用新案権を取得するには、先ずは、実用新案に関するアイデアを申請書類にまとめて特許庁という役所に提出します。

申請書類を特許庁に提出すると、申請書類の形式面がチェックされます。具体的には、定められた様式に沿って申請書類が作成されているのか、申請書類のアイデアが物の形状や構造や組み合わせに関するアイデアであるか等についてチェックがされます。

申請書類の形式面のチェックで問題がない場合には、申請された実用新案が登録されて実用新案権を取得することができます。順調にいけば、申請してから2~3ヶ月程度で実用新案権を取得できます。

実用新案の登録料など

実用新案の申請をする場合には、申請する際に申請料(正式には出願料と言います)と、実用新案の登録料として3年分の登録料を納付する必要があります。

申請料は14,000円で、登録料は(2,100円+請求項の数×100円)×3の計算式で導かれる額です。登録料としては、1万円未満になることが多いです。

実用新案の実質的なメリットを特許との比較で考える

実用新案の登録をして実用新案権を取得するメリットとしては、融通が利くという点があります。

実用新案権の取得費用は特許を取得するより安価なため、特許に比べて安価に模倣を抑制することが可能です。また、登録された実用新案は、登録後3年以内ならば特許出願に変更できるため、製品の売れ行き等を見た上で、アイデアを守る最適な方法を選択することもできます。

実用新案は実質的な審査がないため安価な費用で模倣を抑制可能

▲申請から登録までの実用新案と特許の違いを示す比較図

実用新案の申請

実用新案は申請すると、特許庁で申請書類の形式面のみがチェックされ、問題がなければ実用新案権が認められます。実用新案のアイデアを独占させて良いか否か(同じようなアイデアが既に存在しているかなど)については審査されず、申請すれば実用新案権が認められます。

実質的な審査がされていないため、権利が認められた実用新案を真似すると権利侵害になるのかが分からず、曖昧です。権利侵害になるかは曖昧なものの、登録された実用新案を模倣するとリスクがあるため、登録された実用新案は、結果として他の人が使いにくくなります。

特許の申請

特許は申請すると、実用新案の申請と同様に特許庁で申請書類の形式面がチェックされます。ただし、特許庁に審査請求(申請した特許のアイデアを審査してもらう手続き)をしなければ、次の審査に進めません。審査請求するには、一般的に14万円以上の費用を特許庁に支払う必要があります。

審査請求をすると、申請された特許のアイデアを独占させて良いか否か(同じようなアイデアが既に存在しているかなど)が審査されます。同じようなアイデアが既に存在する場合には、審査をクリアできず、特許が認められません。

審査で特許が認められない場合には、審査結果に反論したり、申請書類を修正したりした上で、再度、審査をしてもらいます。審査をクリアできれば特許が認められ、特許が認められたアイデアは、他の人は使うことができません。

なお、特許申請から特許取得までの詳細については、特許申請の方法から特許取得までの流れを弁理士が解説の記事に詳しく書いてあります。

実用新案の申請と特許の申請の比較

実用新案は申請すると、ほぼ登録されるのに対し、特許は申請してから、審査請求の手続き、審査で不合格になった場合には、審査結果に対する反論や申請書類の修正が必要です。

特許を取るには、実用新案の申請では必要ない審査請求の費用や、審査結果に対する反論や申請書類の修正の費用(弁理士を利用する場合に発生する費用)が必要です。そのため、実用新案権を取得すると、特許より安価にアイデアの模倣を抑制することが可能です。

実用新案は製品の売れ行きを見て保護の仕方を変更できる

登録された実用新案は、一般的に登録後3年以内であれば特許申請に変更できます。そのため、登録された実用新案を利用した製品の売れ行きなどの市場の反応を確認した上で、アイデアを守る最適な方法を選択できます。

例えば、製品の売れ行きの予想が難しい場合は、費用が安価な実用新案権を取得しておき、製品について営業等をして周りの反応を見た上で、登録された実用新案を特許申請に変更するのかを検討する場合もあります。

具体的には、市場の反応がよく、ロングセラーが見込める場合には、登録された実用新案をアイデアを長期的に守れる特許申請に変更する場合もあります。

逆に、市場の反応が思ったほどよくない場合は、その後、何らかのきっかけで製品のブームが起った場合に備えて、登録された実用新案をそのまま保持しておく場合もあります。

実用新案のデメリット

▲登録後における実用新案権と特許権の違いを示す比較図

登録された実用新案のデメリットとしては、主に2つあります。1つが、アイデアを守れる期間が短いことです。もう1つが、アイデアを真似する人に即対処できないことです。

実用新案はアイデアを守れる期間が短い(権利の存続期間が短い)

登録された実用新案のデメリットの1つは、アイデアを守ることができる期間が短いことです。特許であればアイデアを最大20年間守れるのに対して、実用新案ではアイデアを最大10年間しか守れません。

実用新案はアイデアを真似する人に即対処できない(評価書が必要)

登録された実用新案のデメリットの1つは、権利を取得したアイデアを使われた場合に、直ぐに対処ができないことです。

特許では、アイデアを勝手に使っている人に対して、直ちにアイデアの使用の中止を求めることができます。

それに対し、実用新案では、アイデアを勝手に使っている人に対して、直ちにアイデアの使用の中止を求めることはできません。実用新案は申請してから登録されるまでに、実用新案のアイデアを独占させて良いか否か(登録された実用新案の権利の有効性)については審査されてないからです。

そのため、実用新案では、アイデアの使用の中止を求めようとする場合には、登録された実用新案の権利の有効性を特許庁に評価してもらうために評価書を請求し、権利が有効であると確認した上でないと、アイデアを勝手に使っている人に対してアイデアの使用の中止を求めることができません。

なお、評価書で権利の有効性が認められなかった場合は、一般的には、アイデアの使用の中止を求めることはできません。

実用新案は意味ない?

実用新案は特許に比べるとデメリットが目立つせいか、取得する意味がないと言われがちです。

しかし、取得費用が一般的に特許よりも安価であり、権利として登録された後に特許申請に変更でき、製品の売れ行きなどの市場の反応を確認した上で、アイデアを守る最適な方法を選択できます

そのため、将来の展開が見えにくく、費用を押さえたい場合は、有効に活用できることがあります。実用新案という制度が存在する以上は、有効に活用できる方法を見出して活用するのが良いのではないでしょうか。

参考までに、実用新案を実際に活用している企業の使い方の一例をあげると、アイデアの内容として特許が取れるか微妙だけど、競合他社にアイデアを使われたくない場合に、実用新案権を取得するケースもあります。

特許申請をして審査で特許が認められない場合には、特許申請したアイデアは競合他社が使えることになります。しかし、実用新案権を取得すれば、権利の有効性については白黒つかないグレーな状態を維持できます。そうすることで、実用新案のアイデアを他社に使わせにくくして、他社を牽制するという使い方ができます。

実用新案の登録事例(有名なもの)

実用新案の登録がされたもので有名なものとしては、お掃除道具で有名なクイックルワイパーや、カレーパンの元祖と言われる洋食パンがあります。

クイックルワイパー

引用:実用新案公報|実公平6-21421
引用:実用新案公報|実公平6-21421

フローリングのお掃除などで便利なクイックルワイパーに関するアイデアは、花王株式会社によって実用新案権が取得されています。なお、現在は、実用新案権によってアイデアを守れる期間が終了しています。

元祖カレーパン

引用:実用新案公報|実公昭2-7824
引用:実用新案公報|実公昭2-7824

元祖カレーパンと言われるカレーパンに関するアイデアは、東京都にあった「名花堂」(現在は「カトレア」)の2代目の中田豊治さんによって実用新案権が取得されています。1927年に実用新案の登録がされています。

実用新案を取得するメリットがあるか検討してみよう

取得する意味がないと言われがちな実用新案ですが、将来の展開が見えにくく、費用を押さえたい場合は、有効に活用できることがあります。そのため、実用新案の理解を深めた上で、実用新案を活用できるか検討してみましょう。

実用新案に馴染みがなく、実用新案の活用法が思いつかなかったり、そもそも実用新案を取得すべきなのか分からない方もいるかもしれません。実用新案の活用法や実用新案を取得すべきかを知りたい場合には、当サイトの無料相談をご活用下さい。

ABOUTこの記事をかいた人

弁理士。当サイトの運営責任者。幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、大切なものをパクられないようにすべく、特許や商標などの知的財産で大切なアイデアなどを守ったり、活用したりするサポートをしています。 商工会議所、商工会、金融機関、企業など各種業界団体での講演実績も多数。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家のみならず、デザイン会社、マーケティング会社、ミシュランに掲載の飲食店など多岐にわたっています。