自分で考えたアイデアを「商品」にしてみたい、100円ショップや雑貨メーカーに企画を売り込んでみたい──そう思って調べ始めると、
- アイデアを見せたら真似されないか不安
- どこまで形にしてから提案すればいいのか分からない
- そもそも、どの企業にどうやって売り込めばいいのかイメージできない
といった壁にぶつかる方が多いと思います。
この記事では、個人や小さな事業者の方が、自分のアイデアを商品化して企業に提案するまでの全体像を、次の3つのステップで整理します。
- アイデアを真似されにくくする(特許・ノウハウの整理)
- アイデアを「形」にして伝わりやすくする(試作・図面・写真など)
- 企業にアイデアを売り込む(提案先の探し方と企画書のポイント)
「商品アイデアの売り込み」「自分のアイデアを商品化するにはどうしたら良いか」をざっくり掴みたい方は、順番に読み進めてみてください。
1. アイデアが商品化されるまでの全体像
企業にとって、外部のアイデア商品を商品化する流れは、概ね次のようなイメージです。
- アイデアの概要を知る(企画書やメール、面談など)
- 作れるかどうか・コストが合うかを検討する
- 売れそうかどうか(ニーズ・市場)を検討する
- 条件が合えば、契約・試作・量産へ進む
このとき、アイデアを提供する側としては、少なくとも以下の3つを準備しておくと、話が進みやすくなります。
- アイデアを真似されにくくするための方針(特許・ノウハウなど)
- イメージしやすい図や写真・簡単な試作品
- 企画書や提案資料(どんな悩みを解決する商品か、誰向けか 等)
以下では、それぞれのステップをもう少し具体的に見ていきます。
2. ステップ1:アイデアを真似されにくくする(特許・ノウハウ)
「企業にアイデアを話したら、そのまま真似されて終わってしまうのでは?」という不安は、非常に多い相談です。完全にリスクをゼロにすることはできませんが、前もって考えておくことで減らせるリスクはあります。
2-1. 特許出願を検討する
アイデアが「モノの構造」や「新しい仕組み」「具体的な使い方」に関するものであれば、特許出願を検討する価値があります。
- どこが新しいのか(従来品と違う点)
- その工夫によって、どんなメリットがあるのか
- 同じ効果を得る別のやり方はあるのか
こうしたポイントを整理したうえで、特許として権利化できるかどうかを検討します。特許出願〜取得までの流れや費用の目安は、下記の記事で詳しく解説しています。
2-2. あえて「特許を取らない」選択肢もある
一方で、すべてのアイデアに特許が必要というわけではありません。例えば、
- 競合に真似されてもダメージが小さい部分
- 製造ノウハウやレシピのように「外からは見えない部分」
- 出願して公開してしまうと、かえって真似されやすくなる部分
などは、特許ではなく社内ノウハウとして秘密にしておく方が良い場合もあります。「どこを特許で守り、どこをノウハウとして伏せるか」という考え方は、次の記事も参考になります。
2-3. 企業に見せる前にできる工夫
特許出願がまだの場合でも、次のような工夫でリスクを下げられます。
- アイデア全体ではなく、「方向性が分かる範囲」で最初は共有する
- 詳細な構造やノウハウ部分は、検討が進んでから開示する
- 可能であれば、秘密保持契約(NDA)を結んでから具体的な話をする
「全部話していいのか不安」「どこまで話すべきか分からない」という場合は、まずは専門家に状況を説明しながら整理してもらうのも一つの方法です。
3. ステップ2:アイデアを「形」にして伝わりやすくする
次に大切なのが、アイデアを相手にイメージしてもらえるレベルまで「形」にすることです。企画書に文章だけが並んでいるよりも、図・写真・試作品がある方が圧倒的に伝わりやすくなります。
3-1. ラフスケッチ・図面・写真でイメージを共有する
最初の段階では、手書きのラフスケッチでも構いません。次のようなポイントが伝わる図や写真を用意しておくと、企業側も検討しやすくなります。
- アイデア商品のおおまかな形・サイズ感
- どのように使うのか(使用シーン)
- 従来品との違い(追加された部分、変えた部分)
3-2. 簡単な試作品(プロトタイプ)を作る
可能であれば、簡易な試作品(プロトタイプ)を作ってみると、説得力が一気に増します。紙やダンボール、既存の市販品を組み合わせた簡単なものでも構いません。
立体的な形状が分かりにくいアイデアや、手に持ったときのサイズ感が大事なアイデアの場合は、3Dプリントなどを利用して試作品を作る方法もあります。
「自分では試作が作れない」「企業に見せられるレベルの試作品が欲しい」という場合は、外部の試作サービスの活用も検討してみてください。
4. ステップ3:企業にアイデアを売り込む
アイデアの守り方と「形」がある程度整ったら、いよいよ企業への売り込みです。ここでは、売り込み先の探し方と提案書づくりのポイントを簡単に整理します。
4-1. 売り込み先の探し方(商品アイデアの募集企業を見つける)
個人のアイデアを受け付けている企業は、昔よりも増えています。例えば、次のような探し方があります。
- 「アイデア 商品化 募集」「商品アイデア 募集」「発明 アイデア 募集」などのキーワードで検索する
- 興味のあるメーカーのサイトで「アイデア募集」「商品企画募集」ページがないか確認する
- 雑貨・日用品・キッチン用品・文房具など、自分のアイデアと相性のよいジャンルの企業を一覧で調べる
100円ショップや生活雑貨メーカーの中には、一般の方からの商品アイデアを受け付けている企業もあります。「ダイソー アイデア募集」「雑貨 メーカー アイデア 商品化」といったキーワードで情報収集してみるのも一案です。
ただし、募集条件や選考フローは企業ごとに異なります。必ず最新の募集要項を読み、ルールに沿って応募するようにしましょう。
4-2. 企画書・提案書に入れておきたいポイント
企業にアイデアを送る際の企画書には、少なくとも次のような項目を入れておくと親切です。
- 商品アイデアの概要(1〜2行で伝わる説明)
- ターゲット(誰がどんな場面で使う商品か)
- アイデアで解決したい「不便さ」や「困りごと」
- 従来の商品との違い・優れているポイント
- 想定されるサイズ・材料・大まかな価格帯のイメージ
- 図・写真・試作品の写真など
- 特許出願の有無、出願している場合はその概要
企業側は、「製造できそうか」「売れそうか」「自社らしい商品か」といった観点でアイデアを見ています。アイデアの魅力を伝えると同時に、こうした視点にも触れておけると採用の可能性が高まります。
4-3. よくあるつまずきと考え方
ご相談を受けていると、次のような「思い込み」で動けなくなっているケースも多く見られます。
- 「特許を取ってからでないと、絶対に企業に話してはいけない」
- 「アイデアだけ送れば、あとは全部企業が考えてくれるはず」
- 「一社に断られた=アイデアがダメだった」という捉え方
実際には、アイデアの守り方と開示のバランスを取りつつ、ある程度整理された形で複数社と対話することで、商品化に近づくケースが多いです。一人で抱え込んでしまう前に、第三者の目を入れて整理しておくと、次の一手が見えやすくなります。
5. 商品化されやすいアイデアの共通点
最後に、「企業に採用されやすいアイデア商品」に共通しているポイントを3つだけ挙げます。どれも特別な発明でなくても意識できる部分です。
5-1. 商品化コストが現実的である
いくら便利なアイデアでも、製造コストが高すぎると商品化は難しくなります。特別な材料や複雑な構造を使う場合は、
- 既存の金型や材料を流用できないか
- 少し構造を簡単にしても、機能は保てないか
- 価格帯に見合った価値があるか
といった観点で、コストとのバランスも意識しておきましょう。
5-2. ニーズ(困りごと)がはっきりしている
商品化されたアイデアの多くは、「誰の」「どんな不便さ」を解決する商品なのかが明確です。
- 料理のときのひと手間を省くキッチン用品
- 掃除の負担を減らす掃除用品
- 収納スペースを有効活用できる収納グッズ
「自分が欲しい」だけでなく、「同じように困っている人がたくさんいそうか」という視点でアイデアを見直してみると、アピールすべきポイントが見えてきます。
5-3. 既存商品との違いが説明できる
企業としては、「既に似た商品がないか」「自社がわざわざ新しい商品を出す意味があるか」を必ず確認します。そのため、
- 既存の商品と何が違うのか
- その違いによって、どんなメリットが生まれるのか
- 逆に、デメリットや注意点はあるのか
といった点を自分の言葉で説明できるようにしておくと、商品企画担当者との会話がスムーズになります。
6. よくある質問
Q1. 企業にアイデアを売り込む前に、特許出願は必須ですか?
必ずしも「出願してからでないと話してはいけない」というわけではありません。ただし、どこまでを特許で守り、どこからをノウハウとして伏せるか、また、どのタイミングでどこまで開示するかといった点は、事前に整理しておく必要があります。出願の要否やタイミングは、アイデアの内容や今後の展開によって変わります。
Q2. ダイソーなどの企業にアイデア商品を提案したいとき、どう探せばよいですか?
まずは「アイデア 商品化 募集」「商品アイデア 募集」「発明 アイデア 募集」などのキーワードで検索し、一般からの企画を受け付けている企業を探します。そのうえで、各社サイトの「アイデア募集」「商品企画募集」のページを確認し、最新の募集要項や応募フォームのルールに沿って応募することが大切です。
Q3. 試作品や図面がないと、アイデアを商品化してもらうのは難しいですか?
本格的な図面や量産レベルの試作品までは必須ではありませんが、手書きのラフスケッチや簡単な模型・3Dプリント試作など、イメージを共有できる資料があると検討してもらいやすくなります。文章だけよりも、「形」や「使い方」が目で見て分かる状態を目指すのがおすすめです。
Q4. 個人でもアイデア商品でロイヤリティ契約を結ぶことはできますか?
個人の方でもロイヤリティ契約を結べるケースはありますが、契約形態や条件は企業ごとに異なります。採用された場合に、一時金(買取)なのか、売上に応じたロイヤリティなのか、最低保証があるのかなど、提示された条件をよく確認し、必要に応じて専門家にも相談しながら内容を検討することが重要です。
Q5. どの段階で専門家に相談すべきでしょうか?
「どこから話してよいか分からない」「特許で守るべきか迷っている」「企業から提示された条件が妥当か不安」と感じた段階が、一つの目安になります。初期のうちに全体像と優先順位を整理しておくと、その後の動き方(出願の要否・試作の進め方・売り込みの順番など)が決めやすくなります。
7. まとめ:自分のアイデアを商品化するために
自分のアイデアを商品化するまでの道のりは、一見すると遠いように感じますが、やるべきことを3つのステップに分けて考えると整理しやすくなります。
- アイデアを真似されにくくする(特許・ノウハウ・開示の仕方を整理する)
- アイデアを「形」にする(図・写真・簡易試作でイメージを共有する)
- 企業にアイデアを売り込む(募集企業のルールに沿って、企画書を整える)
一人で全部を完璧に準備しようとすると、どうしても動きが止まりがちです。「守り方」と「見せ方」のバランスを取りながら、少しずつ前に進めていくことが、商品化への近道になります。
特許で守るべきか迷っている方や、試作・企業への売り込みの段階で悩んでいる方は、状況を整理するところから一緒にお手伝いすることも可能です。
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この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)







