スタートアップや新規事業では、限られたリソースで開発などを進めるため、知財はどうしても後回しになりがちです。しかし、事業の構想が固まり、具体的な仕様が定まってから知財の問題が見つかると、仕様の変更や権利侵害回避などの対処が必要となり、結果としてリリース時期の遅延や、予算の追加投入を余儀なくされることもあります。
そのため、スタートアップや新規事業の段階では、知財への対応を単なる「権利取得」の手続きとしてだけでなく、事業を円滑に進めるための「リスクコントロール」や「致命的なトラブルの予防策」として位置づけることが極めて重要です。
このページでは、スタートアップ向けに、特許・意匠・商標において、何から・どの順で確認すべきかを、実務の流れに沿った4つのステップでまとめました。
なぜ、「売れてから」では遅いのか?
他社の権利関係をクリアにせずに進めることは、深刻な経営リスクを招く場合もあります。 万が一、リリース後に差し止めなどを受ければ、商品・サービスの提供停止やブランド名の変更を余儀なくされ、事業の継続性そのものが危ぶまれることになります。
- 登記・制作後の商標NG: 登記や制作後に社名や商品名・サービス名が他社の商標権を侵害していると判明すれば、名称変更が必要です。結果として、ロゴやWebサイトなどのリブランディングが必要となります。
- リリース後の特許抵触: 他社の特許を調査せずに製品の販売やサービスの提供を開始すると、後から類似の製品やサービスなどの指摘や警告を受け、「販売・サービスの停止」や「仕様の変更」、最悪の場合は「製品の回収や在庫の廃棄」を余儀なくされるリスクがあります。
- デザイン(意匠)の模倣指摘: 「競合の製品や画面構成(UI)と似すぎている」として意匠権侵害を指摘されれば、製品の形状変更やアプリの改修が必要になる場合もあります。
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ステップ 1:「他社の権利」に抵触していないか確認する
具体的な制作や実装などに入る前に、まずは「事業を止める要因(他社権利)」がないかを確認しましょう。本格的にリソースを投入する前に、まずは自ら簡易チェックを行うことが、リリース直前での大幅なやり直しや、事業の停滞を防ぐ第一歩となります。
- 特許の簡易検索: J-PlatPatやGoogle Patentsを使い、自社と似た仕組みなどがないか洗い出します。この段階での調査はあくまで「明らかな地雷」を見つけるための簡易的なものです。最終的な判断は専門家への相談を推奨します。
└ 特許検索のやり方|無料の特許データベース3選の使い方 - 侵害の入口判断: 特許の「特許請求の範囲」を読み解き、自社の仕組みがその要件を満たしていないか3ステップで確認します。
└ 他人の特許に抵触しているか?簡易チェック方法の3ステップ【特許侵害の入口判断】
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ステップ2:「侵害」を指摘された・見つけた時の回避と見解
もし競合の強力な権利を見つけたり、侵害の疑いを指摘されたりしても、ビジネスを断念する必要はありません。回避ルートは複数存在します。
- 回避策の検討(設計変更・名称変更): 相手の権利範囲から外れるよう、プロダクトの仕組みやデザイン、あるいはサービス名称を一部変更します。
- 権利の有効性確認(無効化の検討): その権利が実は「世の中に既にある技術やデザイン」に基づいたものでないかなど調査し、権利自体の無効化を検討します。
- 権利の解消(ライセンス・買取交渉): 相手に使用料(ライセンス料)を支払う、あるいは権利そのもの(場合によっては会社そのもの)を買い取ることで、法的なリスクを解消します。
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ステップ3:自社サービスの「守り方」を検討する(出願の要否とタイミング)
他社の権利侵害リスクがないことを確認したら(ステップ1・2)、次は「自社の独自性をどう守るか」を考えます。すべてのアイデアを出願する必要はありません。事業のコアとなる部分について、「権利化すべきか」「あえてしないか(コスト優先)」を冷静に判断します。
- 守り方の選択(出願 vs 秘匿): 模倣されやすい構造やデザインがあるならば権利化を検討しますが、外部から見えないノウハウはあえて出願せず「営業秘密」とするのも一つの戦略です。予算と効果のバランスを見て決定します。
└ ノウハウにすべきか特許を取るべきか…判断基準を簡易に解説 - タイミングの判断: アイデア段階であれば、まずは試作で仕様を固めることを優先します。仕様が固まり、かつ権利化が必要と判断すれば出願する場合もあります。
└ 特許出願は「着想」だけで走るべきか?具体化して「強い権利」を狙うべきか?|弁理士が教える「試作と出願」の最適ルート - 安全な検討環境: 出願するか迷っている段階での試作は「情報流出」が心配ですが、当所は事務所内に試作環境を完備。弁理士法(第30条)の守秘義務の下、外部に情報を出さずに検証ができるため、じっくりと戦略を練ることが可能です。
└ 出願前の試作でデータ流出・新規性喪失を防ぐには? 弁理士法30条に基づく「安全地帯」での開発戦略
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ステップ4:知財を「資金調達・信用力」につなげる
確保した知財は、投資家や取引先、銀行などへの客観的な『企業価値の裏付け』になります。
- 商標価値の可視化: 簡易RFR法を用い、自社ブランドが稼いでいる価値を「数字」で示します。これがVCや銀行への説明根拠になります。
- 事業モデルの独自性の証明: 目に見えないアイデアや技術を、客観的な「資産(特許権)」として可視化し、「模倣によって収益が失われるリスクが低いこと」を投資家や銀行へ証明します。
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状況に応じた解決メニュー
スタートアップや新規事業などの限られたリソースでも「いま必要な範囲」から選べるように、3つの解決メニューを用意しています。
- 30分オンライン無料相談(初回のみ):現状を整理して「次に何をすべきか」の優先順位を決めるための相談です。どこから手を付けるべきか分からない、まずは「危ない点(侵害リスク)」だけ潰しておきたい方に向いています。
- アイデア詰まり解消ブレスト(60分:22,000円):既存特許にぶつかって堂々巡りしている状態から、視点をずらし、前に進むための突破口を探します。弁理士が壁打ち相手となり、回避アイデアや別のアプローチを一緒に考えます。
└ 成果物: 止まっているポイントの整理 + 方向性候補(1〜2案) + 次に検証すべき順番。形式: オンライン/対面(対面は交通費実費が発生する場合があります)。延長: 必要に応じて30分単位で延長可(30分:11,000円)。 - 開発を止めない知財チャット相談(月額:33,000円) 日常の「これ出して大丈夫?」「この機能、危ない?」を短時間で確認し、迷いを溜めずに意思決定を回すための枠です。
└ 知財に関するリスク判断などが頻繁に発生したり、開発スピードを落としたくないチームなどに向いています。
よくある質問
Q. アプリやソフトウェアは「著作権」で守れるので、特許は不要ではありませんか?
A. 「機能」や「アイデア」を守りたいなら、特許が必要です。著作権は「プログラムのコード(表現)」をコピーから守るものですが、裏側の「処理の仕組み」や「アイデア」までは守れません。競合他社に「別のコードだが、同じ機能のアプリ」を作られた場合、著作権では対抗できないため、特許による保護を検討する必要があります。
Q. サービスリリースまで時間がありません。最低限やっておくべきことは?
A. 「他社の商標・特許・意匠の調査(侵害クリアランス)」だけは必ず行ってください。自社の権利を取るのは後でも間に合う場合がありますが、他社の権利を踏んだままリリースすると、差止請求によりサービス停止に追い込まれるリスクがあります。まずは「侵害していないか」の確認(ステップ1)を最優先してください。
Q. 他社から「特許侵害」の警告書が届きました。サービスを停止すべきですか?
A. 即座に停止せず、まずは弁理士へ相談してください。警告を受けたからといって、必ずしも侵害しているとは限りません。相手の特許が無効である可能性や、設計変更で回避できる可能性があります。自己判断で回答したり停止したりせず、専門家を交えて「回避ルート」を探ることが重要です。
Q. アイデア段階でも特許出願はできますか? それとも完成してからですか?
A. アイデア(構想)が固まっていれば、完成前でも出願可能です。むしろ、開発が完了して世の中に公開してしまうと「新規性」が失われ、特許が取れなくなるリスクがあります。仕様が固まった段階(ステップ3)で、早めに出願を検討することをお勧めします。
Q. UIや画面デザインも権利登録できますか?
A. はい、「意匠権」として登録可能です。法改正により画像デザイン(UI)も意匠法の保護対象となりました。特徴的なUIであれば、意匠登録することで、画面構成の模倣を防ぐことができます。
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さらに深く知りたい方へ
本記事では「実務的な手順」を中心に解説しました。 制度の仕組みや用語の定義など、より詳細な情報を確認したい場合は、以下のガイド記事をご活用ください。
この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

