取引先から「権利侵害は大丈夫?」と聞かれたときの意匠登録の使い方(B2B・OEMの説明材料)

取引先から「権利侵害は大丈夫?」と聞かれたときの意匠登録の使い方。B2B・OEMの説明材料として意匠権を活用する方法を弁理士が解説するアイキャッチ画像。

意匠登録は、デザインの模倣を防止するための独占権として見られがちですが、B2B取引やOEM供給の契約段階においては、取引を円滑に進めるための役割を果たすこともあります。

取引先から「この製品のデザイン、他社の権利侵害は大丈夫ですか?」と確認が入った際、取引先の担当者が本当に求めているのは、言葉だけの回答ではなく、社内で説明し、稟議を通すための客観的な材料です。

この記事では、意匠登録(または意匠出願)の情報を、取引先の社内確認を助ける説明材料としてどう活用するかを整理します。

「他社の権利、大丈夫?」と聞かれたときに、提示しておきたい材料

取引先の担当者が求めているのは、社内での検討や決裁に必要な判断材料です。企業間取引では、担当者だけの判断では進められず、関係部署の確認や決裁者の承認を得る必要があることがあります。そのため、社内説明に使える客観的な根拠(番号・図面など)が重視されやすくなります。

1. 「模倣品ではない」ことを説明しやすくなる

取引先側が気にするのは、納入した部品や製品について、第三者から「権利侵害ではないか」「模倣品ではないか」と指摘されるリスクです。指摘が入ると取引先の社内で確認や説明が必要になり、対応に時間が取られます。さらに状況によっては、最終製品の販売停止や回収対応に発展し、取引先(完成品側)の信用にも影響が及びます。

こうした懸念に対して、意匠登録番号(または出願番号)とその図面を提示することで、取引先の担当者が社内で説明するための「客観的な根拠」を提供できます。「このデザインについて適正に権利化手続きを行っている」事実を示せるため、単なる模倣品ではないことの裏付けになります。

もちろん、意匠登録だけで「他社の権利を侵害していない」と完全に保証できるわけではありません。しかし、判断材料が何もない状態に比べれば、取引先社内での確認・決裁プロセスを進めやすくする土台となります。

2. 意匠図面が“共通資料”になり、取引先の社内確認・決裁が進みやすくなる

技術や仕組みを文章で説明する特許は、決裁の場面では要点が伝わりにくいことがあります。文章は読み手の知識や前提で解釈が分かれやすく、内容を正しく理解するのに時間がかかるため、決裁がスムーズに進まないことがあります。

一方、意匠登録の強みは「わかりやすさ」です。意匠の登録番号(または出願番号)と図面を示すことで、仮に知財などの専門知識を持たない決裁者であっても「この製品の、この見た目が守られている」との視覚的なわかりやすさから納得感を感じて貰いやすくなります。

こうした「直感的にわかる資料」があるだけで、一目でイメージを共有できるため、担当者は社内説明を進めやすくなり、取引を進めるうえでの後押しになります。

具体的に何を提示すれば役立つか

取引先の担当者が社内報告を行う際、「権利面は問題ない」という口頭の説明だけでは、社内検討が十分にできず、話が止まってしまうことがあります。取引先の社内確認を円滑に進めるためには、以下の3点をセットで提示すると効果的です。

  • 意匠登録の番号など(公的な裏付け):意匠登録番号または意匠出願番号。登録番号がわかると取引先がJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)等で検索し、存在を確認できます。公的な情報として裏付けが取れるため、信頼性が高まります。
  • 図面(権利対象の特定):権利対象がわかる図面などの資料。「具体的にどのような形状か」が視覚的にわかり、言葉だけの説明による認識のズレを防ぎ、取引先の担当者が社内で権利対象を正確に伝えるための助けになります。
  • 補足コメント:現在のステータス(意匠登録済み・出願中など)に加え、「どこが権利のポイントか」などを簡潔に添えた文章。 図面だけでは「どこが権利のポイントか」を理解するのが難しい場合もあります。補足説明があると、取引先の担当者が社内説明する際の助けとなり、親切です。

これらが揃っていると、取引先は「客観的な材料」を持って社内手続きを進められるため、取引の検討などが停滞しにくくなります。

無理な「保証」はせず、「客観的な事実」を提示する

取引先への回答において重要なのは、「事実として伝えられること(登録・出願の状況)」と「伝えられないこと(侵害の有無の断言)」を明確に区別することです。

無理に「絶対に侵害していない」と口頭で保証してしまうと、万が一、第三者から警告などを受けた際に、「話が違う」と責任を追及されかねません。誤解されがちですが、「意匠登録されていること」と「他人の権利を侵害していないこと」はイコールではありません。意匠権を持っていても、他人の意匠権などに抵触してしまう可能性はゼロではありません。

一方で、登録番号(または出願番号)と図面を示し、「特許庁の審査を経て登録されている/現在手続き中である」という客観的な事実を提示できれば、取引先が社内で検討を進めるための有力な材料になります。 判断材料をこちらから整えてあげることで、取引先の社内検討がスムーズに進み、結果として取引先からの信頼向上にもつながります。

よくある質問

Q:意匠登録があれば「侵害していない」と断言してよいですか?

A:いいえ、断言はできません。 意匠登録(意匠権)を持っていても、他人の権利の一部を利用している場合(利用関係)などは権利侵害となる可能性があります。 ただし、「特許庁の審査で、既存のデザインと同一・類似ではないと判断された」という点は事実となりますので、単なる模倣品ではないことを示す説明材料としては有効です。

Q:特許ではなく意匠登録を説明材料にするメリットは何ですか?

A:意匠登録の強みは「視覚的なわかりやすさ」です。専門知識がない決裁者に対しても、図面を用いることで「何が守られているか」を直感的に伝え、納得感を得やすくなるメリットがあります。

まとめ

B2BやOEM取引の商談・契約段階において、意匠登録は単なる独占権ではありません。 相手先の社内検討に必要な材料(意匠登録の番号・図面・補足コメント)を速やかに提示できる状態にしておくことは、相手の社内決裁を後押しし、信頼ある取引をスタートさせるための第一歩となります。

今後、B2B製品などを展開する際は、権利保護の目的だけでなく「円滑な取引のための準備」として、意匠出願を検討してみてはいかがでしょうか。いざという時に役立つ「営業材料」として、ぜひ意匠登録を選択肢に入れてみてください。

次の一歩

  • 意匠登録の実務ガイド:意匠権の基本から図面の準備まで全体像を確認したい方はこちら。
  • 無料相談のご案内:取引先への回答構成や、現在の権利状況の整理について弁理士に直接相談したい方はこちら。

この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

ABOUT US
米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。