出願前の準備資料チェックリスト(発明・特許編)

出願前の準備資料チェックリスト(発明・特許編)のアイキャッチ画像|弁理士が確認ポイントを解説

このページでは、特許出願を検討している中小企業・スタートアップ向けに、「出願前に揃えておきたい準備資料」をチェックリスト形式で整理します。
いきなり明細書を書き始めるのではなく、ここで挙げる項目をざっくり埋めておくことで、

  • 発明のポイントがブレなくなる
  • 弁理士への説明がスムーズになり、打ち合わせ回数や手戻りが減る
  • 「本当に出願すべきか/どこまで権利を狙うか」の経営判断がしやすくなる

すべて完璧に埋める必要はありませんが、「★必須」の項目だけでも順番にチェックしてみてください。

1.発明の全体像を整理する(誰の、何のための発明か)

まずは技術の中身に入る前に、「誰の発明で、どんな事業のどの部分を支えるか」を一枚の紙にまとめておくと、その後の検討が楽になります。

チェックリスト(発明の基本情報)

★ 発明の仮タイトルを書いた(例:〇〇装置の△△制御方法)
★ 発明者の氏名・所属を整理した(社内外の共同発明者がいないか確認)
★ 共同開発先・取引先との関係を整理した(NDAの有無・契約内容を把握)
★ この発明を使う製品・サービス名を書き出した
★ 発明を使ったビジネスのイメージを書いた(どんな顧客に何を提供するか)
☆ 競合となりそうな会社名や製品名をメモした
☆ 「この発明で一番守りたいところはどこか」を一文で書いた

ここで整理した情報は、「誰に権利が帰属するのか」「出願後に誰と揉めそうか」を確認する材料にもなります。共同開発や外注が絡む場合は、早めに契約書と合わせてチェックしておきましょう。

2.技術内容を分解して整理する(課題・構成・効果)

特許明細書は、ざっくりいうと「従来の課題」→「その課題を解決する構成」→「得られる効果」で構成されます。出願前の段階では、次のようなメモレベルでも十分なので、発明者の頭の中を文章にしておきましょう。

チェックリスト(技術の整理)

★ 「この発明で解決したい課題」を2〜3行で書いた
★ 従来のやり方・構造・アルゴリズムなどを簡単に説明できるメモを作った
★ 従来のやり方の「具体的な困りごと」(コスト高・手間・精度不足など)を書いた
★ 発明の構成を、「どんな部品(要素)があって、どう繋がっているか」のレベルで箇条書きにした
★ 発明のフロー(処理手順・使い方のステップ)を簡単な図や番号付きリストにした
★ 発明の効果を、「数値」「時間」「コスト」「歩留まり」などで表現できないか検討した
☆ 「ここまでは変えても同じ発明といえる」と思うバリエーション(変更例・応用例)を書き出した
☆ 実験結果・評価試験のデータがあれば、グラフや写真を含めて一式まとめた

特に、バリエーション(変更例)は出願後の強さに直結します。「この部分をAからBに変えても同じコンセプトだよね」という案があれば、遠慮なくメモしておきましょう。

3.先行技術(すでに世の中にあるもの)を確認する

「似たような特許がないか」は弁理士側でも調査しますが、出願前に発明者自身が軽く調べておくと、議論の質が一段上がることが多いです。

チェックリスト(最低限の先行技術メモ)

★ 思いつくキーワードで特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)等を検索してみた
★ 「これは似ていそう」と感じた特許公報や記事のURL・公報番号をメモした
★ 競合製品・先行製品のパンフレット・Webページを印刷またはPDF保存した
☆ 「自分の発明が従来技術と違うポイント」を、図や表で比べてみた
☆ 「この部分は従来技術と同じ」「この部分は違う」と色分けして整理した

この段階では、「完全に調査し尽くす」必要はありません。
・自分たちがどこまで把握しているか
・どこから先を専門家に任せたいか

が分かるだけでも、打ち合わせがスムーズになります。

4.ビジネス面の前提を整理する(どこまで権利を取りにいくか)

同じ発明でも、「どこまで事業として攻めたいか」によって、狙う権利範囲や出願国が変わってきます。技術資料だけでなく、ビジネス側の前提も簡単に言語化しておくと、出願方針の相談がしやすくなります。

チェックリスト(ビジネス前提)

★ この発明を使った製品・サービスの売上イメージ(ざっくり規模)を書いた
★ 想定するターゲット市場(国内のみ/海外も含む)を書いた
★ 競合に「どこまで真似されたくないか」(コア部分/周辺部分)を言語化した
★ 「自社だけで実施する」のか「ライセンスも視野に入れる」のかをメモした
☆ 優先したい国・地域(日本、米国、欧州、中国など)を挙げた
☆ 出願〜登録までに使える予算の目安を書いた

このあたりの情報は、国内出願だけにするか、将来の外国出願も見据えておくかを決める材料になります。最初から完璧な数字でなくても、「桁の感覚」だけでも書き出しておくのがおすすめです。

5.公開・開示スケジュールを整理する(いつ・どこで・誰に見せるか)

特許は、出願前に内容を公開してしまうと、最悪の場合「自分の公開」が邪魔をして特許が取れないことがあります。展示会やプレスリリース、ピッチ資料などの予定を先に整理しておきましょう。

チェックリスト(開示スケジュール)

★ 展示会・発表会・プレスリリースなど、今後1年分の主な予定を書き出した
★ その中で「技術内容をどこまで見せるか」を簡単にメモした
★ 補助金申請・公募・コンテストなどで、技術内容の提出が必要なものがないか確認した
☆ 3Dプリント試作や外注図面など、社外パートナーにどこまで見せるかを整理した
☆ NDA(秘密保持契約)の有無と範囲を一覧にした

特に、試作会社・共同研究先・営業先などに図面やデータを渡している場合は、「いつ・誰に・どこまで渡したか」を一覧にしておくと安心です。

6.社内体制と意思決定の流れを確認する

出願準備が進んできても、最後に決裁が下りない/誰が責任者か分からない状態だと、締切直前で止まってしまいます。簡単でよいので、社内の流れも整理しておきましょう。

チェックリスト(社内体制)

★ 出願の最終決裁者(役職・氏名)を確認した
★ 特許費用の予算枠(どの科目・誰の予算か)を確認した
★ 技術担当者・事業担当者・経理担当者など、関係者の窓口を決めた
☆ 出願のスケジュール感(いつまでに出願したいか)を共有した
☆ 外部専門家(弁理士・コンサル等)との連絡窓口を一人に決めた

このあたりを先に決めておくと、「ドラフトを見たあと誰がGOサインを出すのか」が明確になり、出願までのスピードが上がります。

7.準備資料チェックシート(まとめ用テンプレート)

最後に、ここまでの項目を一覧で振り返れるように、簡易チェックシートの形にまとめておきます。実際には、Excelや社内のフォーマットに落として使っていただいて構いません。

(例)出願前の準備資料チェックシート

  1. 【発明の基本情報】
    □ 発明の仮タイトル/概要
    □ 発明者(共同発明者を含む)の一覧
    □ 関係する共同開発先・取引先のリスト
  2. 【技術内容】
    □ 解決したい課題のメモ
    □ 従来技術の説明メモ
    □ 発明の構成・フロー図
    □ 効果・数値的な改善のメモ
    □ バリエーション・応用例のメモ
  3. 【先行技術】
    □ 似ていそうな特許公報番号のリスト
    □ 競合製品・先行製品の資料
    □ 自社発明との違いを比べたメモ
  4. 【ビジネス前提】
    □ 想定市場・売上規模のイメージ
    □ 優先したい出願国・地域
    □ 真似されたくないポイントのメモ
  5. 【公開・開示スケジュール】
    □ 展示会・発表・公募などの予定表
    □ 社外に渡している図面・データの一覧
    □ NDAの有無と範囲のメモ
  6. 【社内体制】
    □ 出願の最終決裁者
    □ 予算枠と科目
    □ 社内窓口(技術/事業/経理)

まとめ|「完璧」を目指すより、まずは書き出してみる

ここで挙げたチェックリストは、あくまで「出願前に考えておくと、あとが楽になるポイント」です。すべてを最初から埋める必要はありません。
むしろ、

  • 書き出してみて初めて「ここが曖昧だな」と気づく
  • 社内で話してみて、「実は別の部門も関わっていた」と分かる

といった「気づき」が出てくること自体が大きな成果です。

出願前の準備に不安がある場合や、チェックリストを埋めてみたけれど本当にこれで足りるか不安な場合は、専門家に一度見てもらうのも一つの方法です。
自社の開発状況や予算感に合わせて、どこまで権利を取りに行くべきか、一緒に整理していきましょう。

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米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。