GUI意匠(画面デザイン)の基礎|アプリ・SaaSのUIを守る実務ガイド【2025年版】

GUI意匠(画面デザイン)の基礎と実務ガイド【2025年版】|知育特許事務所

アプリやSaaS、Webサービスの開発では、機能そのものだけでなく、画面構成や使いやすさといったUIデザインも重要な要素になります。一方で、こうした画面デザインをどのような法律で保護できるかは、意外と分かりづらいテーマです。

また、UIは「良いものほど他社が参考にしやすい」という面もあり、気づかないうちに自社の画面構成に近いUIが市場に現れることもあります。こうした状況になってから慌てて対応策を考えるのではなく、公開前の段階で「もし似たUIが出てきた場合に、どのような権利で対応できるか」を整理しておくことが重要です。

このとき検討対象のひとつになるのが、GUI意匠(画像意匠)です。2020年の意匠法改正により、クラウド上のSaaSやWeb UI など、ネットワーク経由で提供される画面も意匠登録の対象として扱われるようになりました。

本記事では、GUI意匠の基本的な仕組みと、著作権・特許との違い、登録できるもの/できないもの、公開前の注意点、中小企業・個人開発者が現実的なコストで活用する際の考え方を、2025年時点の実務感覚で整理します。

1. GUI意匠とは?

GUI意匠(画像意匠)とは、アプリや機器などの画面に表示される「操作画面やアイコンなどの画像」を、意匠として保護するものです。具体的には次のような画面デザインが対象になります。

  • スマホアプリの操作画面
  • アプリのアイコンや、操作の過程を示す画面(例:ボタンを押すと表示が変わる一連の画面)
  • PC・車載ディスプレイ・IoT家電の画面
  • ゲームのメニュー画面・操作UI(背景映像は除く)
  • SaaS・WebサービスのUI

2020年改正以降、GUI意匠はスマホやPCの画面だけでなく、
クラウド経由で表示される画面(SaaSやWeb UI)も対象になりました。

2. UIはなぜ模倣されやすいのか

UIデザインは、意図的なコピーだけでなく、悪気なく似てしまうケースも含めて、模倣が起こりやすい領域です。実務上、次のようなパターンがよく見られます。

2-1. 無意識に「似てしまう」パターン

  • 外注先や他社デザイナーが、既存サービスを参考にUIを設計した結果、レイアウトやボタン配置が近くなる
  • 「ユーザーが慣れているUI」を意識すると、自然と市場でよく見る構成に寄っていく

このように、特に悪意がなくても、結果的に似てしまう場面があります。

2-2. 用途が近いと似やすいパターン

  • ダッシュボード、カードUI、検索・フィルター画面など、似た機能を提供するサービス同士では、表示する情報や操作フローが似ているため、UI構成も近くなりやすいという特徴があります。
    (例:予約画面、決済画面、一覧+絞り込み、ダッシュボード型UIなど)
  • 申込フロー、チェックアウト画面など、業界全体で似た構造になりやすい部分

機能やフロー(ユーザーが操作する一連の流れ)が似ていると、UIパターンも似通いやすく、特に「使いやすさのために工夫した部分」は他社も採用しやすいため、真似されやすくなります。

2-3. 意図的に「寄せてくる」パターン

  • 成功しているUIを「分かりやすい例」として模写する
  • 「〇〇のようなUIで」と制作会社に依頼し、既存サービスに近い構成になる

このように、成功しているUIは「ユーザーが迷わない」「分かりやすい」ため、
他社としてもできるだけ近い構成に寄せたくなる事情があるという点も、模倣が起こりやすい理由の一つです。

3. 著作権・特許との違い

UIを守る手段は「著作権」「特許」「GUI意匠」の3つに大別されますが、それぞれ役割が異なります。 「UIの配置も著作権で守れる」「UIがユニークなら特許になる」といった誤解を避けるため、まずは各制度の「境界線」を把握しておくことが大切です。

制度保護の基準守れるもの守れないもの(境界線)
著作権思想・感情を創作的に表現したもの絵・画像・文章・コード操作しやすくするための一般的なボタン配置やレイアウト
(機能上の工夫にとどまり、著作権の保護対象になりにくい)
特許技術的課題を解決する発明データ処理・制御・アルゴリズム(技術的工夫があるもの)画面配置だけの工夫(技術的工夫がないもの)
GUI意匠画面の形態(見た目)として認識可能なもの配置・形状・構成全体(UIデザイン)背景画像やムービー、誰が作ってもほぼ同じになる単純な表・一覧画面(操作との関係が薄く、デザイン上の特徴が弱いもの)

つまり、GUI意匠は「特許のように技術的な工夫がなくても、具体的な画面構成を保護できる」ものです。
著作権や特許では守りきれない「UIの見た目」をカバーできる点が、大きな特徴になります。

4. 意匠登録の可能性があるもの

実務で「意匠登録が認められやすい」ものは、概ね次のようなタイプです。

4-1. スマホアプリの画面

  • メイン機能の画面(SNSのタイムライン、チャット画面、地図アプリの表示など)
  • 入力・決済画面(購入フォーム、カード情報の入力UIなど)
  • アプリアイコン(スマホのホーム画面に並ぶアプリのアイコン)

4-2. Webサービス・SaaSの画面

  • 管理ダッシュボード(グラフや数値が並ぶ管理画面)
  • 各種設定・入力画面(会計ソフトや人事労務ツールのUIなど)

※アプリだけでなく、Webブラウザ上で動く画面も対象です。

4-3. ゲーム・エンタメの「操作用UI」

  • メニュー画面・アイテム選択画面
  • ステータス表示・HPバーの配置

※背景の景色や、ストーリー等の「映像コンテンツ」は対象外ですが、「操作するための枠組み」は意匠登録の対象になり得ます。

4-4. 画面の変化(アニメーション)

  • 画面遷移(ボタンを押した後のメニュー展開、ポップアップ表示など)

※「一連の動き」を通じた画面の変化として登録できる場合があります。

5. 登録できないもの

原則として、「操作に使わない画像」や「誰が作っても同じになりやすい画像」は登録できません。

  • 単なる壁紙・背景画像 (機能を持たない、装飾だけの画像)
  • 映画・アニメ・ゲームの「映像コンテンツ」 (「見るだけ」のストーリー映像やキャラクターの動きなど)
  • ありふれたレイアウト・表形式 (Excelの単純な表などのような、一般的な表形式のみの画面)

これらは 「デザインとしての特徴」 や 「操作との関係性」 が弱いため、GUI意匠として保護されないことが多い領域です。

6. 最重要:公開前に出願する(新規性の喪失)

意匠制度全般に共通する注意点として、新規性の問題があります。

アプリをストアに公開した後や、
LP・SNSで画面を掲載した後は、
原則として意匠登録ができなくなります(新規性喪失)

救済措置として「新規性喪失の例外制度」を利用すれば、
意匠登録できる可能性はありますが、

  • 手続きが増える
  • 公開状況などを示す資料が必要になる
  • 登録後の権利の安定性が下がる場合がある

といったデメリットもあります。

そのため実務では、
可能であれば「公開前に出願を済ませておく」ことが安心
という位置づけになります。

7. 中小企業・個人開発者の「現実的な」GUI意匠戦略

多数の画面を網羅的に出願できる大企業とは違い、
中小企業・個人開発者では、「必要最小限の出願で、どの画面を優先的に守るか」 が現実的な考え方になります。

戦略1:サービスの「顔」となる1画面だけ出願

まずは、ユーザーが最も長く触れる画面や、自社サービスの「顔」といえる画面を1つ選び、その画面を意匠出願する方法です。

1つの出願だけでも、「この画面構成について意匠登録をしている」というメッセージを対外的に示すことができ、一定の抑止力が期待できます。

戦略2:アイコン+メインUIの2点セット

  • アイコン → ブランドを認識してもらう「入口」
  • メイン画面 → サービスの使い勝手を左右する「中身」

スマホアプリでは、アイコンは「アプリストアやホーム画面でユーザーが見つける入口」になり、メインUIは「実際に使われる場面」です。この2つを押さえることで、アプリの入口と中身の両方で類似アプリとの差別化が図りやすくなります。

戦略3:競合が多い領域では「操作の要所」となる画面を追加で押さえる

競合が多い分野では、検索UI・フィルターUI・ステップ形式の画面など、ユーザー体験を左右する重要部分が共通化しやすく、かつ 他社が「ここだけ真似すれば同じ操作感になる」と判断しやすいポイントになります。
そのため、限られた件数で模倣リスクを下げる際には、こうした「操作の要所」 となる画面を追加で出願するケースがあります。

いずれの戦略でも、すべてを守ろうとせず、主戦場となる画面に集中することが現実的な考え方になります。

8. GUI意匠の限界

GUI意匠は、UIを守るための有効な選択肢ですが、その性質上「できないこと」も明確にあります。
使いどころを誤らないために、主要な限界を押さえておきましょう。

  • 画面デザインが大きく異なると権利は及ばない
    GUI意匠は「見た目(配置・形状)」に対する権利のため、
    同じ機能を持つサービスであっても、デザインが異なれば権利が及びません。
  • 「機能」そのものを止めることはできない
    たとえば、同じ検索機能を使っていても、UIの見た目が異なれば、その機能を止めることはできません。
  • UI変更の多いサービスでは、後に使われなくなる可能性がある
    A/Bテストを頻繁に行う EC・予約・広告管理ツールなどでは、
    デザインの更新スピードが速く、登録した当時のUIが数年後には使われていない場合もあります。

そのため GUI意匠は、
「長期間使われる重要な画面」 に絞って出願する
という考え方が現実的です。

9. よくある質問

Q1. UIデザインは著作権で守れますか?

著作権は

  • 絵・画像
  • 文章
  • ソースコード
    などの「創作的な表現」を守る制度です。

一方で、ボタン配置・レイアウトなど 「操作性を高めるための構成」 は著作権の対象になりにくいため、
UIデザインを保護したい場合は GUI意匠の方が適しています。

Q2. WebサービスやSaaSの画面も登録できますか?

はい。2020年の法改正により、
クラウド経由で提供される画面(SaaS・Web UI)も意匠登録の対象 になりました。
「物品(ハード)と一体である必要がある」という従来の制限はありません。

Q3. ゲーム画面も登録できますか?

背景映像(フィールド画面・ムービーなど)は対象外ですが、

  • メニュー画面
  • ステータス画面
  • HPバーや操作UI

といった 操作に使うUI部分は登録可能 です。

Q4. リリース後でも登録できますか?

原則できません(新規性喪失)。

ただし、公開後 1 年以内であれば「新規性喪失の例外制度」を使って登録できる可能性がありますが、
手続きが増え、権利の安定性にも影響するため、公開前の出願が基本です。

Q5. 動きのある画面(ポップアップ・遷移など)も登録できますか?

可能です。

「画面の変化」を一つの意匠として捉える制度(動的意匠)を利用します。
ボタンを押した後の展開や、複数ステップの変化をまとめて登録することもできます。

Q6. どこまで似ていると侵害になりますか?

GUI意匠の類似判断は、細部の一致よりも
「ユーザーが操作中に受ける、全体の見た目・配置のまとまり」 が似ているか
などを重視して判断されます。

すなわち:

  • 色が違っても
  • 言葉が違っても
  • 細かい形が違っても

全体の構成やバランスが似ていれば、類似と判断される可能性があります。逆に、全体のまとまりが異なれば、細部が似ていても非類似とされることがあります。

Q7. 何件くらい出願すればいいですか?

多数出願する必要はなく、実務では:

  • 最も重要な1画面だけ
  • スマホアプリなら アイコン+メインUIの2件
  • 競合が多い分野なら 検索/フィルターなど操作の要所を追加で1件

といった 少数の出願が中心 です。

目的は「すべてを守る」ではなく、
模倣されやすい要所だけを押さえてリスクを減らす ことにあります。

10. 結論:UIを守りたいときに検討したい選択肢のひとつ

著作権ではUIの配置・構成を保護できず、特許ではUIに技術的な工夫がないと権利を取得できない問題があります。その中で、UI構成そのものを正面から保護できるものがGUI意匠です。

特に:

  • 競合が多く、UIが似通いやすい分野(家計簿・タスク管理・予約管理・EC管理画面など)
  • UIの「使いやすさ」自体が差別化ポイントになっているサービス(直感的に操作できるデザインツールなど)
  • 特定の画面がユーザー体験そのものを決めているサービス(会員登録フロー・予約フォームなど)

といったケースでは、公開前に一度GUI意匠の活用を検討すると、模倣された場合の対応手段を持つことができます。

どの画面を意匠として押さえるべきか、また何件出願するのが適切かは、サービスの構成や、実際のUIデザインを見て判断する必要があります。
そのため、出願を検討する際は、まず守りたい画面の候補を整理したうえで、「どこが模倣されやすいか」「どこを押さえると効果的か」 を個別に検討するのが現実的です。

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自社サービスのUIや画面デザインについて、「どの画面を意匠で押さえるべきか」「何件くらい出願するのが現実的か」を整理したい場合は、個別のご相談も承っています。

この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

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米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。