スタートアップの特許戦略|成長を加速させる3つのポイントを弁理士が解説

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「プロダクト開発で手一杯で、特許までなかなか手が回らない」「VCや事業会社から『強みを特許で説明できますか?』と聞かれて不安になる」──そんなスタートアップの方向けに、この記事では特許を「何となく取る」のではなく、成長のレバーとしてどう使うかを整理します。

ポイントは、①後発企業の参入を躊躇させる特許を押さえること、②事業提携がしやすいポジションを築くこと、③資金調達の場面で競争優位を説明できるようにしておくことの3つです。特許の手続そのものの詳細は、特許の取り方と出願の流れで解説していますので、ここでは「どの特許を狙うと成長につながるのか」という戦略面に絞ってお話しします。

スタートアップ成長の第一歩は後発企業の参入を躊躇させる特許の取得

スタートアップが成長するための第一歩は、後発企業の参入を躊躇させる特許の取得です。後発企業の参入を躊躇させることができれば、スタートアップとしては先行者利益を拡大させることができます。

特許を取得するための特許出願(いわゆる「特許申請」)については、特許の取り方と出願の流れの記事に詳しく書いてあります。

成長が見込め、競争が少ない分野で特許を取得する

後発企業の参入を躊躇させる特許を取得するには、競合が少なく、自社の成長が見込める分野で積極的に特許を取得することが必要です。他の企業が積極的に特許を取得している分野で特許を取得しようとすると、特許の取得競争が繰り広げられることになります。そのため、市場を席捲できるような特許を取得するハードルは高くなります。

競合が少なく、自社の成長が見込める分野であれば、スタートアップであったとしても、後発企業が事業展開する際に、使わざるを得ないアイデアだったり、是が非でも使いたいアイデア等について特許を取得しやすくなります。このように後発企業が参入する際に障害となる特許を取得することが、スタートアップが特許で成長するための重要な条件となります。

事業提携がしやすくなる環境を特許により構築する

後発企業の参入を躊躇させる特許をスタートアップが持っていたとしても、市場が魅力的であれば、後発企業は参入してきます。

スタートアップの特許が存在するため、後発企業は、スタートアップの特許のアイデアを避けた上での事業展開を視野に入れることになります。しかし、スタートアップの特許のアイデアを避けるのに大きなコストや労力がかかる場合や、スタートアップの特許のアイデアを使わざるを得ない場合は、「スタートアップとの事業提携」を模索した方が得策の場合があります。

そのため、後発企業が参入するには特許のリスクが高いと思えるような特許を取得することで、事業提携がしやすくなる環境が構築されます。したがって、このような特許を取得することができれば、スタートアップであっても事業提携の可能性が広がり、事業提携を通じた新たな飛躍の道がひらけます。

なお、提携の候補先が大手の企業であったとしても、後発で参入するにはリスクが高いと思える特許を取得できている場合には、臆することなく交渉に臨むことが可能になります。

資金調達がしやすくなる環境を特許により構築する

後発企業の参入を躊躇させる特許をスタートアップが有しているならば、市場においてスタートアップに優位性があることになります。しかし、何の根拠もない状態で「自社には市場における優位性がある」と出資者にいくら訴えても、出資者には理解して貰えません。

そのため、後発企業が事業展開する際に、使わざるを得ないアイデアだったり、使わないと非効率にならざるを得ないアイデア等について特許を取得していくことで、市場におけるスタートアップの優位性を特許で説明できる環境が構築されます。こうした環境が構築されると、特許によって、将来にわたって自社に競争力があることに対して説得力が出て、出資者の信用も獲得できます。その結果、スタートアップが更なる成長をするための資金の調達に繋げることができます。

なお、市場におけるスタートアップの優位性を特許で説明することが難しい場合は、特許の取得数をアピールすることにより市場における優位性について出資者から評価して貰うこともできます。

先ずは後発企業の参入を躊躇させる特許の取得を目指す

今回は、スタートアップが特許を用いて成長するためのポイントをお伝えしました。先行者利益の拡大や、特許を利用した事業提携や資金調達の環境づくりをするためにも、先ずは、自社の成長が見込め、競争の少ない分野で積極的に特許を取得することです。

資金に余裕がないことにより、たくさんの特許を取得できないスタートアップであったとしても、競争が少ない分野であれば、たった1つの特許が後発企業にとって脅威となる場合もあります。なので、競合が少なく、自社の成長が見込める分野において、後発企業にとって障害となるアイデアについて特許の取得を目指してみましょう。

よくある質問

Q1. スタートアップでも特許は本当に必要ですか?

事業内容やステージによりますが、後発企業にとって避けにくい中核アイデアがある場合は検討する価値があります。単に「格好のため」に件数を増やすというより、この記事で説明しているように、参入抑止・提携・資金調達のいずれかに効く特許を狙うのがポイントです。

Q2. どのタイミングで特許出願(特許申請)を検討すべきですか?

一般的には、コアとなるアイデアやアルゴリズム・仕組みが固まり、外部に説明したり見せたりする前が一つの目安です。開発の初期段階でも、ピッチ資料や提携の打診で情報を出す前に、出願の要否を確認しておくことをおすすめします。出願手続きの流れは、特許の取り方と出願の流れの記事で詳しく解説しています。

Q3. 何件くらい特許を取得しておくべきでしょうか?

件数の多さよりも、「後発が回避しにくいか」「自社の優位性を説明しやすいか」が重要です。資金に余裕がない段階では、すべてを網羅的に押さえるのではなく、後発企業にとって障害となる1〜2件に集中する方が現実的な場合も多いです。

Q4. 事業提携の交渉と特許出願、どちらを先に進めるべきですか?

提携先との関係性やスケジュールによりますが、少なくともコアとなる部分については、提携交渉を本格化させる前に出願方針を決めておくことをおすすめします。場合によっては、提携先との共同出願やライセンスを前提にした出願設計を行うこともあります。

Q5. どの段階で弁理士に相談するのがよいですか?

「アイデアが固まりつつあり、今後の開示範囲に迷っている」段階で、一度相談しておくのが望ましいです。どこまでを特許で押さえ、どこをノウハウとして秘匿するかは、ビジネスモデルや今後の調達・提携の計画によって変わります。スタートアップ特有の事情も踏まえつつ、個別に検討していきましょう。

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この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

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米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。