「実用新案って意味ないのでは?」と思われがちですが、うまく使えば費用を抑えながらライバルにプレッシャーをかけられる制度です。本記事では、実用新案の基本から、特許との違い、メリット・デメリット、有名な事例までをまとめて解説します。
特に「特許を取るほどではないかもしれないが、真似はされたくない」「まずは小さく試して、売れ行きを見てから本格的に守りを固めたい」といった場面では、実用新案をどう使うかが検討ポイントになります。
実用新案とは?まずはざっくりイメージをつかむ
実用新案とは、既製品の形状や構造や組み合わせを改良するアイデアや、今までにない物の形状や構造や組み合わせに関するアイデアを守るための権利です。実用新案を出願して登録することで、実用新案権を取得できます。
特許と比べると、保護できる対象は「物」の形状・構造に寄っており、コンピュータプログラムそのものやビジネス方法といった抽象的なアイデアは本来の守備範囲ではありません。一方で、道具や日用品、部品の工夫など“形のある工夫”との相性が良い制度です。
実用新案のメリット・デメリット(「意味ない?」への答え)
実用新案は、特許と比べるとデメリットも多いため、「意味がない」と言われることがあります。ただ、どういう場面で使うのかを理解しておけば、有効に活用できる制度です。
実用新案の主なメリット
実用新案を登録して実用新案権を取得するメリットとしては、次のような点があります。
1つ目は、取得費用が一般的に特許より安価であることです。審査を経ないため、特許に比べて低コストで登録まで進められます。結果として、リーズナブルにアイデアの模倣を抑制できます。
2つ目は、登録のハードルが低くスピーディーなことです。実用新案は出願すると、特許庁で形式的なチェックだけが行われ、問題がなければ登録されます。順調にいけば、出願してから2~3ヶ月程度で実用新案権を取得できます。
3つ目は、登録後3年以内ならば特許出願に変更できる点です。製品の売れ行きや市場の反応を見たうえで、実用新案のままにするのか、それとも特許に切り替えて長期的・強力な保護を目指すのかを後から選べます。
4つ目として、権利侵害になるかどうかが一見わかりにくい「グレーさ」を活かし、他社を牽制する使い方もあります。登録された実用新案を真似すると権利侵害になるのかが分かりにくいため、結果として「リスクを避けて真似しにくい状態」をつくることができます。
実用新案の主なデメリット
一方、実用新案には注意すべきデメリットもあります。代表的なのは次の2点です。
① アイデアを守れる期間が短い
登録された実用新案のデメリットの1つは、アイデアを守ることができる期間が短いことです。特許であればアイデアを最大20年間守れるのに対して、実用新案では最大10年間しか守れません。

② アイデアを真似する人に即対処できない(評価書が必要)
もう1つのデメリットは、権利を取得したアイデアを使われた場合に直ぐに対処ができないことです。
特許では、アイデアを勝手に使っている人に対して、直ちにアイデアの使用の中止を求めることができます。これに対し、実用新案は出願から登録までの間に「登録された実用新案の権利が有効かどうか」が審査されていません。
そのため、実用新案でアイデアの使用の中止を求めようとする場合には、まず特許庁に技術評価書を請求して権利の有効性を評価してもらう必要があります。評価書で権利の有効性が認められなかった場合は、一般的にはアイデアの使用の中止を求めることはできません。
こうした事情から「実用新案は意味ない」と言われることがありますが、費用を抑えつつグレーな牽制効果を狙いたい場面では、むしろ実用新案ならではの使い方ができます。
特許との違いをざっくり整理する
ここまで見てきたメリット・デメリットは、実用新案と特許の制度設計の違いから生まれています。まずは出願から登録までの流れを比較してみましょう。
出願から登録までの流れ

実用新案を出願して実用新案権を取得するには、まず、実用新案に関するアイデアを出願書類にまとめて特許庁に提出します。出願書類を特許庁に提出すると、定められた様式に沿って作成されているか、物の形状や構造や組み合わせに関するアイデアかどうかなど、形式面のチェックが行われます。
形式面のチェックで問題がない場合には、出願された実用新案が登録されて実用新案権を取得することができます。順調にいけば、出願してから2~3ヶ月程度で登録に至ります。

特許出願との違い
特許の場合も、最初に特許庁で形式面のチェックが行われる点は同じです。ただし、特許ではその後に審査請求という手続きが必要になります。審査請求をしない限り、実質的な審査(同じようなアイデアが既に存在しないか等)には進みません。
審査請求には一般的に14万円以上の費用がかかります。審査の中で同じようなアイデアが既に存在するなどの理由で拒絶理由が通知されると(審査不合格だと)、審査結果に反論したり出願書類を補正したりしながら、再度審査を受ける必要があります。
このように、特許では時間と費用をかけて「独占させてよいか」を厳しく審査するのに対し、実用新案は形式面のみのチェックでスピーディーに登録されるという違いがあります。
実用新案権の有名な事例・身近な例
実用新案のイメージをつかみやすくするために、実用新案権が取得された有名な例を2つ紹介します。
クイックルワイパー(フローリングワイパー)


フローリングのお掃除などで便利なクイックルワイパーに関するアイデアは、花王株式会社によって実用新案権が取得されています。なお、現在は実用新案権によってアイデアを守れる期間が終了しているため、権利自体は存続していません。
元祖カレーパン


元祖カレーパンと言われるカレーパンに関するアイデアは、東京都にあった「名花堂」(現在は「カトレア」)の2代目・中田豊治さんによって実用新案権が取得されています。1927年に実用新案の登録がされています。
このように、身近な商品や日用品の「ちょっとした工夫」にも実用新案権が使われていることが分かります。
実用新案を選ぶときの典型パターン
「特許にするか、実用新案にするか」で迷うケースは多くあります。実務上、実用新案が選ばれやすい典型パターンをいくつか挙げます。
・将来の展開が見えにくく、まずは費用を抑えたい場合
製品の売れ行きの予想が難しい場合には、費用が安価な実用新案権を先に取得しておき、市場の反応を見てから特許出願への変更を検討する、という使い方がされます。
・特許が取れるか微妙だが、競合に真似されたくない改良の場合
アイデアの内容として特許が取れるかは微妙だけれど、競合他社にアイデアを使われたくない場合に、実用新案権を取得するケースもあります。特許出願をして審査で特許が認められない場合には、そのアイデアは競合他社も自由に使える状態になりますが、実用新案権を取得しておけば、権利の有効性が白黒つかないグレーな状態を維持し、他社を牽制することができます。
・道具や構造の工夫で差別化している製品の場合
クイックルワイパーやカレーパンの例のように、物の形状・構造の工夫で差別化している場合は、実用新案が比較的使いやすい分野です。
実用新案の出願の流れと費用の目安
最後に、実用新案を取得する際の費用感をざっくり押さえておきます。
出願時に必要な費用(出願料・登録料)
実用新案の出願をする場合には、出願の際に出願料と、実用新案の登録料として3年分の登録料を納付する必要があります。
出願料は14,000円で、登録料は(2,100円+請求項の数×100円)×3の計算式で導かれる額です。登録料としては、1万円未満になることが多く、特許に比べると負担が小さい水準です(弁理士に依頼する場合には別途費用は発生します)。
よくある質問
Q1. 実用新案とは何ですか?特許との違いは?
実用新案とは、既製品の形状や構造や組み合わせを改良するアイデアや、今までにない物の形状・構造・組み合わせに関するアイデアを守るための権利です。特許と比べると、守れる対象が「物の形状・構造」に寄っており、審査なしで登録される一方、保護期間が10年と短く、技術評価書がないと権利行使しにくいといった違いがあります。
Q2. 実用新案は「意味ない」と言われるのはなぜですか?
保護期間が特許より短いことや、権利を行使する際に技術評価書が必要になることから、「特許に比べて使いにくい」という印象を持たれがちです。ただし、費用が安価で登録も早く、後から特許に変更する余地もあるため、将来の展開が見えにくい案件や、まずは低コストで牽制したい案件では有効に機能する場合があります。
Q3. 実用新案権の有名な例にはどのようなものがありますか?
身近な例としては、フローリングワイパーで知られるクイックルワイパーや、元祖カレーパンに関するアイデアなどがあります。いずれも、道具や食品の「形状・構造の工夫」を実用新案権で守った例です。
Q4. 実用新案の費用はどれくらいかかりますか?
特許庁に支払う費用としては、出願料14,000円と、登録料(2,100円+請求項の数×100円)×3年分が必要です。多くの場合、登録料は1万円未満に収まります。これに加えて、弁理士に依頼する場合は別途手数料が発生しますが、審査請求が不要な分、特許よりもトータルの負担は軽くなりやすい制度です。
Q5. 実用新案と特許、どちらを選ぶべきか迷ったときは?
「長期的にその技術で事業の柱をつくりたい」「競合に強く差をつけたい」場合は、基本的には特許を目指す方向で検討することが多いです。一方で、売れ行きが見えない新商品や、特許が取れるか微妙な改良発明などでは、まず実用新案で低コストに守りつつ、売れ行きや競合の動きを見てから特許への切り替えを検討する、という選択肢もあります。個別案件ごとに最適な組み合わせを考えることが重要です。
実用新案を取得するメリットがあるか検討してみよう
取得する意味がないと言われがちな実用新案ですが、将来の展開が見えにくく、費用を押さえたい場合は、有効に活用できることがあります。実用新案という制度が存在する以上は、「どの場面なら役に立つのか」を理解したうえで、使いどころを見極めるのが得策です。
一方で、「この案件で実用新案を使うべきか、それとも特許を目指すべきか」は、技術内容やビジネスモデルによって判断が分かれます。どちらを選ぶべきか悩んだ場合は、無料相談をご活用いただき、個別事情に応じて検討してみてください。
関連記事
- 特許とは?弁理士が初心者にむけてわかりやすく解説
└ 特許と実用新案の位置づけや基礎用語をおさらいしたいときの入門記事です。 - 特許の取り方と出願の流れ|個人での特許出願(特許申請)の流れと注意点を弁理士が解説
└ 特許出願の具体的なステップと費用感を把握したいときに役立つガイドです。 - 自分のアイデアを商品化するために知っておきたい3つのこと
└ アイデアを商品にするまでの全体像と、企業への売り込み方の考え方をまとめています。 - スタートアップの特許戦略|成長を加速させる3つのポイント
└ スタートアップが実用新案・特許をどう組み合わせて成長戦略に活かすかを整理した記事です。 - ノウハウにすべきか特許を取るべきか…判断基準を簡易に解説
└ 「公開して権利化」か「秘匿してノウハウ化」かを迷うときの判断の視点を解説しています。
次の一歩
- 特許の基礎と実務ガイド: 特許と実用新案の位置づけや、出願~活用までの全体像を あらためて整理したい方はこちら。
- 知財・試作・商標価値評価の総合ガイド: 特許・実用新案だけでなく、意匠・商標・営業秘密も含めて 「どの手段を組み合わせるか」を考えたい方はこちら。
- 無料相談(30分): 自社のアイデアについて 「特許にすべきか・実用新案で様子を見るべきか」など、 個別事情に合わせて一緒に整理します。
この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)







