「このドメイン名、誰かの商標とぶつからないかな?」「ブランド名と同じドメインを取ったけれど、あとから問題にならない?」──そんな不安を感じて、このページにたどり着いた方が多いと思います。
結論からいうと、ドメイン名と商標はまったく別の制度です。ドメインを取得しても、その時点で自動的に商標権が手に入るわけではありません。
ところが実務では、ドメイン名と同じ文字列をサイト名やロゴとして大きく表示して使う場合もあるため、商標との関係を整理しておかないとトラブルにつながることがあります。
特に、次の3つを押さえておくと、安全度がぐっと上がります。
- ドメイン名(またはその一部)と同じ・似た商標がないか調べる
- ドメイン名をブランド名として育てたいなら、その文字列で商標登録を検討する
- 商標の状況に応じて、「ドメイン名をサイト上でどこまで前面に出すか」を決める
この記事では、こうしたポイントを踏まえて、ドメイン名に関する商標トラブルを避けるための基本的な考え方を、個人事業主・中小企業向けに整理してお伝えします。
1. ドメイン名と商標の違いをざっくり整理
まずは、ドメイン名と商標の関係を、役割ベースで整理しておきます。
- ドメイン名
インターネット上の「住所」を示す文字列です。取得しただけでは、その文字列をブランド名として独占できるわけではありません。 - 商標
商品・サービスにつける名前やロゴを独占的に使うための権利です。登録が必要で、同じ分野で他人が同じ・紛らわしい名前を使うのを止めやすくするための仕組みです。
普段は「住所(ドメイン)」と「名前(商標)」は別物ですが、ドメイン名をそのままサイト名・サイトのロゴとして大きく表示すると、実質的にはブランド名として使っていることになります。このとき、表示したドメイン名と同じ・似た商標があるとトラブルに発展するおそれがあります。
2. ドメイン名に関する商標トラブルのパターン
ドメイン名に関する商標トラブルとして見かけるのは、次のようなパターンです。
- 既存の登録商標と同じ/紛らわしい文字列でドメインを取得・使用してしまう
例:すでに他社が「ABC」という商標を持っている分野で、abc.comのドメインを使い、そのまま「ABC」をサイト名・ロゴとして前面に出してしまう、など。 - 自社のブランド名で商標を取らないままドメインだけ取得している
後から第三者に同じ名前で商標を取られ、サイト名やロゴの使い方を見直さざるを得なくなることがあります。 - 自社ブランドに似せた類似ドメインを第三者に取得される
ユーザーの誤認・フィッシングサイトなどにつながるおそれがあります。
こうしたトラブルを減らすために、取得前後の「3つのチェック」をルール化しておくのがおすすめです。
3. ドメイン取得前に押さえたい3つのチェックポイント
新しくドメイン名を決めるとき、最低限次の3つを確認しておくと安心です。
3-1. 取得するドメイン名と同じ商標がないか:J-PlatPatで検索する
まずは、ドメイン名(またはその主要部分)と同じ文字列の商標が登録されていないかを確認します。無料で使える特許庁のデータベース「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」を使うのが基本です。

たとえば ○○○.com のようなドメイン名であれば、「○○○」の部分をキーワードにして、そのままの文字列の商標がないかを調べます。
3-2. 取得するドメイン名に似た商標がないか:読み方・つづりも含めて確認
ドメイン名と同じ文字列の商標が存在しなくても、読み方や印象が似ている商標があると、分野によってはトラブルの原因になりえます。
- ひらがな/カタカナ/ローマ字の表記違い
- 末尾の「.com」「.jp」などを外したときに紛らわしい名前になっていないか
- 競合が多い業界で、似たようなブランド名がすでに多数登録されていないか
この段階で「かなり似ているものがある」「判断がつかない」と感じたら、一度弁理士に相談してからドメインを決める方が安全です。
3-3. ドメイン名をサイト上でどう見せるか決める
同じ・似た商標の状況を確認したうえで、そのドメイン名をサイト上でどのように使うかを決めます。
- ブランド名として前面に出すケース
例:dmm.comのドメインをサイト上で「DMM.com」と大きく表示する/kakaku.comのドメイン名の一部を漢字に変えて「価格.com」とブランド名として表示する など。 - 住所としてだけ使うケース
例:ドメインはabc.co.jpだが、サイト名は「株式会社○○」のように全く別の名称を前面に出す。
【ブランド名として出している例】

▲ ドメイン名そのものをサイト名として表示している例

▲ ドメイン名の一部を漢字に変えてブランド名として表示している例
ブランド名としてサイト上の前面に出す場合は、その文字列で商標登録を検討する優先度が高くなります。一方で、ドメイン名をサイト上でほとんど見せない場合は、商標リスクは相対的に下がります(ゼロにはなりません)。
4. すでに取得済みのドメインはどう考える?
すでにドメイン名を取ってしまっている場合は、次の2つの軸で整理します。
- そのドメイン名をブランド名として前面に出しているか
- 同じ・似た登録商標が見つかるか
4-1. ドメイン名と同じ・似た商標がある場合
調査の結果、ドメイン名と同じ/かなり似た商標が見つかった場合は、
- その分野でどの程度使われている商標か(有名ブランドか、ほとんど使われていないか)
- 自社の事業分野とどれくらい近いか
- ドメイン名をサイト名・ロゴとしてどこまで前面に出しているか
などを踏まえて、ドメイン名の見せ方を変える/ブランド名を別に用意する/弁理士に相談するといった対応を検討します。場合によっては、ドメイン名をサイト上に表示しない運用に切り替えるのが無難なこともあります。
4-2. ドメイン名と同じ・似た商標が見当たらない場合
現時点で同じ・似た商標が見当たらない場合でも、今後、第三者に同じ名前で商標を取られるリスクは残ります。ドメイン名をブランド名として育てていくつもりであれば、
- ドメイン名(またはその主要部分)で商標登録をしておく
- ブランドの将来像を踏まえて、どの区分まで押さえるかを検討する
といった対策が有効です。商標の区分の考え方は、
も参考になります。
5. よくある質問
Q1. ドメインを先に取っていれば、同じ名前で他社が商標登録しても問題ありませんか?
いいえ。「ドメインを先に取った人が自動的に優先される」というルールはありません。
ドメイン名と同じ・よく似た名前を、あとから他社が商標登録すると、その名前をサイト名やロゴとして大きく表示して使い続けると、権利侵害と主張されるおそれがあります。
この場合、
- ドメインはそのまま使う
- ただし、サイト上では別のブランド名を前面に出す
- もしくは弁理士に相談して対応方針を決める
といった検討が必要になることがあります。
Q2. すでに使っているドメインが、他社の登録商標と似ていると分かった場合は?
まずは、次の2つを整理します。
- 自分の事業内容(どんな商品・サービスにそのドメイン名を使っているか)
- 相手の商標が使われている商品・サービス(商標登録の指定商品・指定役務、実際の使われ方)
この2つがどのくらい似ているか、そして
- そのドメイン名を「サイト名やロゴ」として大きく見せているのか
- それとも「URLとして表示される程度」なのか
を確認したうえで、次のような対応を検討します。
- ドメイン名をサイト名・ロゴとして前面に出すのをやめ、URL上の「住所」としてだけ使う運用に切り替える
- 必要に応じて、ブランド名そのものを変更することも検討する
- 影響が大きそうな場合は、早めに弁理士に相談して、続けて使えるか・使い方を変えるべきか判断してもらう
という流れが現実的です。
Q3. ブランド名と同じドメインを使うとき、商標登録は必須ですか?
法律上の「絶対の義務」ではありませんが、ブランド名=ドメイン名を前面に出して育てていく場合は、商標登録までセットで検討する価値が高いです。
商標を取っておくことで、
- 同じ・紛らわしい名前を他社に先取りされるリスクを下げられる
- 類似ドメインを使った紛らわしいサイトに対して、注意喚起や対応を取りやすくなる
といったメリットが期待できます。
Q4. 複数のドメインを押さえておけば、商標の代わりになりますか?
いいえ、ドメインをいくつ取っても、それだけで商標権が発生するわけではありません。
類似ドメインをある程度ブロックする効果はあっても、ブランド名としての独占を裏付けるのはあくまで商標登録です。重要なブランドについては、ドメイン取得とは別に商標の検討をしておく方が安全です。
6. まとめ:ドメインを決めたら「商標調査」をセットで考える
ドメイン名と商標の関係は、次のポイントを押さえておくと整理しやすくなります。
- ドメイン名と商標は全くの別物だが、ドメイン名をロゴなどでサイト前面に出すと商標の問題になりやすい
- 新しいドメイン名を決めるときは、J-PlatPatで同じ・似た商標を調べるのが第一歩
- ブランド名として育てたいドメイン名は、商標登録までセットで検討しておくと後々安心
- 不安が残る場合は、ドメイン名の見せ方(サイト上に出すか/出さないか)も含めて弁理士に相談する
ドメインは一度決めると長く使うことが多いものです。「取得して終わり」ではなく、「商標との関係まで含めてチェックする」ことを、ぜひ社内ルールとして組み込んでみてください。
👉 新しいドメイン名と商標との関係が不安な方は、商標・ブランドに関するご相談もお気軽にご利用ください。
この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)















