製造業・メーカーの知財ガイド|取引先への説明・量産前の侵害確認・図面データ管理

製造業・メーカーの知財ガイド|取引先への説明・量産前の侵害確認・図面データ管理

製造業における知的財産(知財)は、単に他社を排除するための独占権ではありません。知財は、取引先に対して自社製品の正当性を説明するための「信頼の根拠」となり、不測の事態による作り直しコスト(たとえば工程の組み直し、材料・条件の見直し、治具や金型の修正、追加コスト、納期遅延)を避けるための、実務上の管理ツールにもなります。

特にB2B取引では、取引先の担当者は「発注してよいか」などを社内で判断するための客観的な材料を求めています。もし何も材料を提示できないと、取引先の社内稟議が長引き、発注のGOサインが出ない状況を招きかねません。また、量産・発注の直前に他社権利との関係が問題になれば、設計(形状・構造)や仕様の見直しが必要となり、追加のコストと工数が発生しやすくなります。

設計や仕様が固まった後に見直しが入ると、工程の組み直しや手配のやり直しが発生し、追加コストや納期調整が発生しやすくなります。結果として、目に見える費用以上に、現場の負担が重くなる傾向があります。

本ページでは、製造現場で起きやすい知財の悩みを、①取引先への説明(B2B・OEM)②量産・発注前の侵害確認③図面・データの取り扱い④意匠・実用新案・特許の使い分けの4つに整理しました。状況に近いところからご確認ください。

まず確認:いま一番近い状況はどれですか?

  • 取引先(OEM・B2B)から「権利面は問題ありませんか?」と確認されている → 状況1
  • 量産・小ロット発注に入る前に、他社権利のリスクを確認したい → 状況2
  • 図面・3Dデータを外部に渡すのが不安(情報の流出・新規性の喪失) → 状況3
  • 特許・意匠・実用新案、どれで守るべきか迷っている → 状況4

状況1:取引先からの「権利面は問題ありませんか?」に、無理のない形で答える

製造受託・部品供給・OEMでは、取引先から権利面の確認を求められる場面があります。ここで注意したいのは、善意でも「絶対に問題ありません」と言い切ることです。過度な保証は、後日の紛争リスクになり得ます。

実際の取引では、無理な保証はしない一方で、相手が社内で判断を進められる材料を整えてあげるのがポイントです。B2B取引で求められるのは、口頭での「主観的なアピール」ではなく、相手の担当者が社内(法務や上司)を説得するためにそのまま使える、客観的で「事実に基づいた判断材料」があると手続きがスムーズに進みやすくなります。

  • 意匠登録の使い方:「意匠登録=非侵害の完全保証」ではありませんが、意匠登録番号や公報の図面は、取引先に安心してもらうための「公的な説明資料」として機能します。「特許庁の審査を経て権利化されている」という事実は、取引先の法務担当などに対する一つの判断材料になります。
  • 特許(実用新案)の使い方: 特許(や実用新案)も「侵害していない保証」にはなりませんが、自社がどこに技術的な工夫を有しているかを示す公的資料になります。取引先に対しては、技術内容を細かく語るよりも、権利の有無(出願中/登録済)と対象範囲(どの部品・機能に関するものか)を整理して提示すると、社内確認の材料として使われやすくなります。
  • 取引先への伝え方:ポイントは、無理に「保証」しようとするのではなく、「客観的な材料」を揃えて渡すことです。 『確認済みの範囲』『出願や登録の事実』『万が一の時の対応方針』。これらをセットで提示することで、相手の担当者は社内での説明や決裁がスムーズになります。
  • 自社商品(B2C)も展開している場合:部品供給(B2B)だけでなく、自社オリジナルの製品を販売している場合は、守るべき対象が広がります。 製品の「見た目(デザイン)」だけでなく、「商品名(商標)」や「独自の技術(特許)」も、他社との違いを示す重要な資産だからです。「自分たちの強みをどう権利で守るか」を整理しておくことは、模倣品対策になるだけではありません。 本業のB2B取引においても信頼の証になります。

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状況2:量産・発注の前に「他社権利の地雷」を確認する

量産や発注に入った後で他社権利の問題が出ると、販売停止・作り直し・在庫対応など、現場と取引に大きく影響します。そこで、量産・発注の前に「侵害予防調査」として、リスクが高いポイントから確認しておくことが重要です。

ここで大切なのは、網羅的に全部を調べることではありません。 万が一の時に「作り直しの負担が最も大きい箇所」から優先順位をつけて確認する方が、時間と費用に見合います。

  1. まず「調査ポイント」を特定する:製品全体を漫然と調べる必要はありません。自社の強みになっている部分や、他社と違う独自の構造(例:固定方法、防水・放熱構造、位置決め機構など)をリストアップします。これらは後から変更しにくい重要箇所だからです。
  2. 次に個別の「部品」や「仕組み」に絞る:特定した重要箇所を、具体的な「部品」や「仕組み」に絞り込んで調査します。調査対象を限定することでノイズ(無関係な特許)が減り、「この構造は採用できるか/できないか」の判断が明確になります。
  3. 見つかったら設計変更を検討する:もし他社の権利が見つかったとしても、量産前であれば「設計変更(回避設計)」で対応できる余地があります。 本番の製造や発注に進む前に、形状や条件を見直して権利に触れない形に変えられるか。このタイミングでの対処が、無駄なコストの発生を食い止める分かれ目です。

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状況3:図面・3Dデータの取り扱い(情報の流出・新規性の喪失リスクを減らす)

製造業にとって「図面」や「3Dデータ」は、自社のノウハウが詰まった重要な資産です。 しかし実際には、自社設備では対応できない加工を協力会社に依頼したり、量産に必要な部品を外部から調達したりする際に、図面データなどを外部に渡す場面が生じたりもします。

こうしたデータのやり取りには、主に2つのリスクがあります。(1)図面データの社外へ「流出」と、(2)公知になって特許などが取れなくなる「新規性の喪失」です。

こうしたデータをやり取りする際に、秘密保持契約(NDA)を結ぶのは重要です。しかし、「急ぎで契約書まで手が回らない」という場面もあれば、そもそも「契約書があっても、データの流出そのものを完全に防ぐことはできない」という現実もあります。契約はあくまで法的な約束であり、相手先のセキュリティ不備や、うっかりミスまでは防げないからです。

そのため、契約書だけに頼るのではなく、「必要最小限の範囲を渡す」などの情報のコントロールで自衛することも重要となります。

  1. まずは「守秘義務」のある専門家と作戦を練る:いきなり外部業者にデータを送るのは不安が残ります。まずは法律上の守秘義務(弁理士法)がある弁理士に相談し、「現状のまま渡してリスクはないか」「後で権利化したい場合にはどう対応するか」など、安全な進め方を整理するだけでも、リスクは大幅に減らせます。
  2. 渡すデータは「必要な部分」だけに絞る:外部にデータを渡す場合は、渡す情報を「必要最小限(例えば加工などを外部に依頼する場合には加工に必要な情報だけ)」に絞ることで、万が一の流出リスクを小さくできます。
  3. 外注するならNDAの「急所」を押さえる:もし秘密保持契約(NDA)を結ぶ場合は、内容をしっかり確認する必要がありますが、その中でも特にトラブルになりやすい次の3点は、重点的にチェックしてください。
    秘密の範囲(何が秘密か)
    成果物の帰属(試作で生まれたノウハウは自社のものになるか)
    再委託の制限(勝手に下請けへデータを流されないか)。

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状況4:特許・実用新案・意匠・商標の使い分け(守りたい対象に合わせる)

競合他社に「マネされたくない部分」が内部の「仕組み」なのか、パッと見の「デザイン」なのか、あるいは「商品名」なのか。 守りたいポイントと、製品の寿命(ライフサイクル)に合わせて権利を使い分けることで、無駄なコストを抑えつつ、多角的に模倣を防ぐことができます。

  • 特許(機能・構造): コアとなる技術やアイデアを守る本命です。審査は厳しいですが、回避されにくい強い権利を取得できれば、強力な武器になります。
  • 実用新案(小発明): 特許にするほど高度ではない改良や、ライフサイクルが短い製品を、スピード重視で守りたい場合の選択肢です。
  • 意匠(外観): 製品の「見た目(デザイン)」を守ります。内部構造が特許にならない場合でも、外観のデッドコピー(模倣品)を排除するのに有効です。
  • 商標(ネーミング・ロゴ): 技術やデザインとは別に、「商品名」や「ロゴ」を守る権利です。 競合も使いたくなるような「覚えやすい名前」などを独占できれば、お客さんの記憶に残り、いざ購入する場面で思い出して貰いやすくなり、売上にも貢献します。

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製造業の「作る・守る」を支えるバックアップ

知育特許事務所では、製造業の現場で起きやすい「取引先への説明」「量産前の権利確認」「図面・データ管理」を、開発・製造の実務スケジュールを止めないスピード感でバックアップします。

外部知財部として活用(状況1・すべての場面へ):製造業伴走チャット相談 月額 33,000円(税込)

「取引先に権利面をどう説明するか」「この図面を外注に渡して大丈夫か」「ちょっとした改良でも権利になるか」などの疑問をチャットで解消。「取れるはずだった権利」の取りこぼしや、「気づかずに侵害していた」というトラブルを未然に防ぎます。知財の懸念をなくすことで、開発からお客様への納品・販売まで、滞りなく安全に進められます。

守秘義務のある専門家にお任せ(状況3・4の方へ):3Dプリント試作パック 87,780円〜(税込)

弁理士の管理下で、図面・3Dデータを安全に取り扱い、3Dプリント試作を行います。単に試作するだけでなく、試作後の「権利化(守る)」「改良」「公開」の方針整理までセットで支援。情報漏洩や権利化への影響を気にせず、試作から知財戦略の立案までワンストップで完了します。

量産直前の「地雷」除去(状況2の方へ):特許・意匠の侵害予防調査 費用は範囲に応じてお見積り

網羅的な調査ではなく、変更するとコストや納期に大きく響く「構造のかなめ」や「仕様の確定部分」に絞ってリスクを点検。 「どう設計変更すれば回避できるか」まで提案するため、直前での「作り直しのリスク」や「発売延期」といった最悪の事態を防げます。

よくある質問

Q. 取引先から「権利面は問題ありませんか?」と聞かれたら、どう答えるのが安全ですか?

A. 「絶対に問題ありません」と言い切るのは避け、いま言える事実を整理して伝えるのが基本です。たとえば、①自社の出願・登録の有無(ある場合は番号等)、②確認できている範囲(どの部品・どの構造まで権利面の確認をしているのか)、③追加で権利面を確認する場合の段取り(誰が・何を・いつまでに)を示すと、相手側が社内で説明しやすくなります。

Q. 意匠登録や特許があれば「侵害していない」と言っていいですか?

A. 一般には、登録がそのまま「非侵害の保証」になるわけではありません。ただし、登録番号や公報は「公的な事実」として提示できるため、取引先の社内確認で説明資料として役立つ場面があります。

Q. 量産・発注前の侵害確認は、どのタイミングでやるのが現実的ですか?

A. 目安は「図面(仕様)はほぼ固まったが、まだ発注には入っていない」段階です。 早すぎると仕様変更で調査が無駄になりやすく、逆にこれ以上遅れると、周辺部品との兼ね合いで「設計変更できる範囲(逃げ道)」がなくなってしまうため、このタイミングが実質的なリミットです。

Q. 「全部調べる」のは無理です。どこから確認すべきですか?

A. 「後から変更しにくい箇所(構造の要)」や「独自の工夫を入れた箇所」に絞ってください。 具体的には、製品全体の形状よりも、独自の「固定方法・防水構造・接合部」などの機能部分です。このような箇所が侵害になると製品が成立しなくなるため、最優先で確認すべきポイントです。

Q. 図面や3Dデータを外部に渡す前に、最低限やっておくべきことは?

A. 最低限は3つです。①渡す範囲を必要最小限にする(全部渡さない)、②「いつ・誰に・何を渡したか」を記録する、③秘密保持契約(NDA)を結ぶ場合は、秘密の範囲/成果物の帰属/再委託の可否を優先して確認する。契約だけで安心しきらず、情報の渡し方を工夫することが大切です。

Q. NDAがまだでも、弁理士に相談して大丈夫ですか?

A. はい。弁理士への相談自体は、NDAがなくても進められるのが通常です。弁理士には法律上の守秘義務があるため、相談内容が外部に漏れることはありません。ただし、会社の情報管理ルール(社内規程など)により、念のため弁理士ともNDAを取り交わしてから相談する運用になっている場合もあります。

Q. 特許・実用新案・意匠・商標は、どう使い分ければいいですか?

A. ざっくり言うと、仕組み(機能・構造)=特許/実用新案、見た目=意匠、名前・ロゴ=商標です。製品の寿命(どれくらい長く売るか)や改良の頻度、守りたいポイント(真似されやすい所)により何を優先して守るべきかが変わります。

Q. 小ロットや受託でも、知財の確認は必要ですか?

A. 目安は「自社で形状や構造を提案・変更した部分があるか」です。図面どおりに作るだけの受託であれば、権利面の確認は発注元が主導するケースが多いです。一方で、こちらが提案して形状・構造を変えた箇所は、取引先から見ても「その変更の判断をした側」として確認を求められやすくなります。

そのため、「言われた通り作った部分」と「自分たちで工夫した部分」を分けて、後者(工夫した部分)だけでも先にチェックしておくのが、コストと安全のバランスが取りやすい進め方です。

「何から手を付けるべきか」の優先順位を30分で明確に

取引先対応、量産前の確認、図面管理……。すべてを一度にやる必要はありません。 専門家と話すことで「今すぐやるべきこと」と「後でいいこと」が整理され、現場に負担をかけない最短ルートが見えてきます。

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さらに深く知りたい方へ

各制度の仕組みなど、より詳細な情報を確認したい場合は、以下のガイド記事をご活用ください。

この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)