意匠権とは?身近な例をもとにわかりやすく説明して使い道も解説|弁理士が図解で解説

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意匠権は、「見た目のデザイン」を守るための権利です。このページでは、iPhone や Nintendo Switch などの身近な例を使いながら、意匠権で守れるデザインと、その使い道を弁理士が説明します。

意匠権とは、製品などのデザインを模倣した模倣品を排除できる権利です。例えばスマートフォンのiPhoneのデザインは意匠権で守られており、模倣品を排除できます。

デザインは製品の売れ行きを大きく左右します。iPhoneのように消費者が欲しいと感じる外観デザインを意匠権で保護すれば、模倣品を排除でき、結果として製品が選ばれやすくなります。

意匠権とは

意匠権の概要図
▲自社製品に意匠権を取得するとデザインの模倣品を排除できる

読み方は「意匠(いしょう)」「意匠権(いしょうけん)」です。 意匠権とは、製品などのデザインを独占して使用でき、他者の模倣を防ぐ権利です。特許や商標と同様に、知的財産権の一つとして法律により保護されます。

身近な意匠権の例:iPhoneのデザイン

まずは、身近な例として「iPhone」の外観デザインの意匠登録を見てみましょう。

意匠公報 iPhone

引用:意匠公報|意匠登録第1616586号
iPhoneの写真
▲iPhoneのデザインも意匠権で保護されています

Apple Inc.のスマートフォン「iPhone」は、本体の外観デザイン全体について意匠権が取得されています。このように、製品の印象を決める見た目(製品全体のデザインや、その一部のデザイン)について、意匠権による保護を受けることができ、デザインを真似した製品を排除しやすくなります。

身近な意匠権の例:Nintendo Switch の外観

任天堂のゲーム機「Nintendo Switch」も、本体の外観デザインについて意匠権が取得されています。ゲーム機本体と左右のコントローラー部分を含む外観が意匠登録として保護されています。

Nintendo Switchの外観デザインを示す意匠登録第1574793号の斜視図。左右のコントローラーと本体の一体的な形状を示した公式図面。
引用:意匠公報|意匠登録第1574793号
意匠登録第1574793号が示すNintendo Switchの外観の例。左右のコントローラーと画面が一体になった特徴的なデザイン。
▲Nintendo Switchのデザインも意匠権で保護されています

この意匠登録では、ゲーム機本体の形や画面まわりの縁取り、左右のコントローラーの位置関係など、図面に描かれた外観全体がそのまま保護対象になります。線図に描かれている部分が、意匠権で守られる範囲を判断するときの基準になります。

iPhoneやNintendo Switch以外の、意匠権の身近な例

意匠権の対象になり得るデザインは、身の回りにたくさんあります。例えば次のようなものです。

  • 掃除機や炊飯器など家電製品の外観(持ち手の形、操作パネルの配置 など)
  • 椅子・テーブルなど家具のシルエット(脚の形、背もたれのカーブ など)
  • 飲料ボトルやお菓子の箱など、容器やパッケージの形状

日常的に目にする製品でも、「見た瞬間にそのブランドだと分かる形」になっているものは、意匠権で保護されているケースも少なくありません。

意匠権を取得するための主な条件

意匠登録の条件
▲意匠権を取得するための主な条件

意匠権を取得するためには、次の4つの条件を満たす必要があります。

① 物に施したデザインであること

形状と模様のデザイン
▲スマートフォンやシャツなど、物に施したデザインが対象

意匠権は、形や模様など「物に施されたデザイン」が主な対象です。イラスト単体のように、物に付随していないものは意匠権の対象外で、通常は著作権で保護されます。一方で、商品パッケージやグッズに印刷されたイラストのように「物の一部として使われているデザイン」は、条件を満たせば意匠の対象になり得ます。

② 意匠登録出願を行うこと

意匠権は著作権と違い、自動的には発生しません。特許庁に出願し、登録されて初めて効力を持ちます。

③ 新しいデザインであること

既に世の中に存在するデザインと同一・類似でないことが条件です。新規性がないデザインには意匠権は認められません。

④ 容易に創作できないこと

簡単に創作できるデザインの例
▲単なる置き換えや寄せ集めでは認められない

既存デザインの単なる寄せ集めや一部変更のように、容易に思いつくものは登録できません。容易に創作できない形状や構成が求められます。

意匠権の使い道

意匠権の主な使い道は、模倣品の排除・売上向上・特許で守れないアイデアの保護などです。

① 模倣品を排除する

意匠権を取得すると、同一または類似のデザインの模倣品に対して警告や差止請求ができます。そのため、模倣品の流通が抑えられやすくなり、オリジナルデザインの市場価値を維持しやすくなります。

② 売上を伸ばす

差別化されたデザインの効果
▲似たデザインが少ないほど目立ち、選ばれやすくなる

模倣品が増えると、似たデザインの製品が市場に広がり、せっかくの自社デザインが目立ちにくくなります。意匠権で模倣品を抑えることで、自社製品のデザインが埋もれにくくなり、結果として選ばれやすくなるため、売上アップにつながる場合があります。

③ 特許では守れないアイデアを守る

アイデアが単純で特許の対象にならない場合でも、デザインとして意匠登録すれば保護できることがあります。外観デザインを通じてアイデアを守る手段にもなります。

デザインに関する特許の取り方と特許が取れない場合の対策|弁理士が解説|知育特許事務所

意匠権について、もう少し踏み込んで知りたい方へ

この記事では、意匠権の全体像と身近な例を中心にまとめました。より実務寄りの論点や個別のテーマについては、次の関連記事で整理しています。

意匠権についてよくある質問

Q. 意匠権とは何ですか?
製品などの外観デザイン(形状・模様・色彩など)を独占的に使用できる権利です。模倣品の排除やデザインの差別化に活用されます。

Q. 意匠権を取得するにはどうすればよいですか?
特許庁に意匠登録出願を行い、審査を経て登録される必要があります。登録されてはじめて効力が生じます。

Q. 意匠権の有効期間はどのくらいですか?
意匠登録出願の日から最長25年間有効です。

まとめ:選ばれるデザインに意匠権を

意匠権は、「見た目」を武器にするための権利です。選ばれるデザインほど模倣されやすいからこそ、意匠権でデザインを守り、独自性を保ちましょう。

意匠権の強みは、模倣品を排除できるだけでなく、製品デザインの魅力を長く維持できる点にあります。試作の段階から意匠登録を見据えることで、後の模倣リスクを防ぐことができます。

「このデザインを意匠権で守るべきか」「特許や商標とどう組み合わせるべきか」など、自社のケースで迷う場合には、弊所の無料相談もご活用ください。図面や試作品の状況を伺いながら、どこまで意匠権で押さえるべきかを一緒に整理します。

意匠登録まわりで、あわせて読みたい記事

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この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)

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米田恵太
知育特許事務所 代表弁理士(弁理士登録番号:第16197号)。 中小企業や個人の方を中心に、商標価値評価(簡易RFR)や 3Dプリント試作×知財戦略のサポートを行っている。商工会議所、金融機関、各種業界団体などでの講演実績も多数。 幼い頃、大切にしていたガンダムのカードをパクられた経験から、「大切なものをパクられないようにする」ために特許・商標・意匠などの知的財産の取得支援を行うとともに、取得した知財の価値を実感できるよう「守るだけでなく活かす」ことを重視している。 支援先は、メーカー、スタートアップ企業、個人発明家、デザイン会社、 マーケティング会社、ミシュラン掲載の飲食店など多岐にわたり、アイデアの保護や出願、3D試作、価値評価など、案件ごとに必要な部分を組み合わせてサポートしている。