「オリジナルキャラクターやイラストを作ったけれど、勝手に真似されたらどうしよう」「個人でもキャラクターを商標登録できる?」──そんな不安や疑問から、このページにたどり着いた方が多いと思います。
結論からいうと、キャラクターやイラストを守るときは、まず「商標」「著作権」「意匠」の3つの権利の役割を分けて考えると整理しやすくなります。そのうえで、
- キャラクター名や、そのキャラを前面に出したグッズのブランド名を商標で押さえる
- キャラクターのイラストやロゴを商標(図形商標・ロゴ商標)で押さえる
- 立体フィギュアやパッケージ・画面デザインなどは意匠も検討する
この記事では、個人・小さな事業者の方向けに、キャラクターやイラストを商標登録で守るときの考え方と、「特許」「著作権」「意匠」との違いを、できるだけ実務寄りに整理していきます。
1. キャラクター・イラストを守る3つの権利(商標・著作権・意匠)
まずは、キャラクター・イラストに関係する代表的な3つの権利を、役割ベースでざっくり整理します。
- 著作権
オリジナルのキャラクターイラストを描いた瞬間から自動的に発生する権利です。登録手続は不要で、「絵そのもの」を無断でコピーされた場合に主に効いてきます。 - 商標権
キャラクター名やロゴなどを、指定した商品・サービスについて自社だけの名前・マークとして使えるようにする権利です。登録しておくことで、同じ分野で他社が同じ・紛らわしい名前やロゴを使うことをある程度まで止めやすくなります。 - 意匠権
立体フィギュアやパッケージの形、アプリの画面デザインなど、「見た目のデザインそのもの」を守る権利です。こちらも出願・登録が必要です。
オリジナルキャラクターの場合、ベースは著作権で自動的に守られます。その上で、
- キャラクター名やそのキャラを前面に出したグッズのブランド名など → 商標
- キャラクターをモチーフにしたロゴ(キャラの顔アップやシルエットなどを図案化したもの) → 商標(図形商標・ロゴ商標)
- キャラクターを用いた立体物・商品の容器やパッケージの形・ゲーム画面やアプリUI → 意匠
といったイメージで、「どこから先を登録で厚めに守るか」を検討していくことになります。
2. 商標で守れるのはここ:名前/イラスト/ロゴの3パターン
キャラクターを商標登録で守りたいとき、実務的には次の3つのパターンで検討することが多いです。
2-1. キャラクター名(名前だけ)を商標登録する
もっともシンプルなのが、キャラクター名や、そのキャラを前面に出したグッズのブランド名だけで商標登録するパターンです。
- 例:
・「〇〇ちゃん」「△△くん」などのキャラ名
・ブランドのマスコットとして使うキャラ名 など - メリット:
・ロゴやイラストの雰囲気を変えても、名前が同じであれば権利を主張しやすい
・まずは費用を抑えて「名前だけ」を押さえたいときに向いている - 注意点:
・同じ分野で同じ・似た名前がすでに登録されていると取れないことがある
・名前が一般的すぎると、識別力の問題で登録が難しい場合もある
2-2. イラスト・ロゴ化した顔を商標登録する
次に、キャラクターの顔や全身イラストを「図形商標」「ロゴ商標」として登録するパターンです。
- 例:
・顔だけのアイコン風イラスト
・全身イラストを簡略化したロゴ風マーク など - メリット:
・キャラクターの見た目そのものを真似されたときに主張しやすい
・グッズ展開やパッケージなど、「見た目」がブランドの中心になる場合に有効 - 注意点:
・ポーズを大きく変えると「別の商標」と判断されることがある
・どのポーズ・どの表情を代表として登録するか、絵柄の選び方が大事
2-3. 名前+イラストをセットで商標登録する
3つ目は、キャラクター名とイラストをセットにしたロゴを一件の商標として登録するパターンです。
- メリット:
・1件分の費用で「名前+見た目」をまとめて押さえられる
・実際に使っているタイトルロゴやパッケージ表示を、そのまま出願に使える場合がある - デメリット:
・名前だけ/イラストだけを少し変えた場合に、「別物」と見なされやすい
・名前部分だけを独立して主張したいときには、文字商標に比べて柔軟性が落ちる
キャラクターが1体だけであれば、①キャラクター名を文字商標で、②キャラの顔やロゴを図形商標で、それぞれ別々に2件の商標として取っておく構成(2本柱)が理想です。一方で、キャラがたくさんいる/まずは費用を抑えたいといった場合には、名前+イラストをセットにした1件の商標から始める、という選び方もあります。
3. 個人でもできる?キャラクター商標登録のざっくり流れ
「自分で描いたキャラクターやロゴを、きちんと自分の権利として押さえておきたい」というニーズは、個人の方でもよくあります。商標登録の手続きそのものは、専門家に依頼しなくても、自分で進めることも可能です。
ざっくりした流れは次のとおりです。
- 何を商標にするかを決める
・キャラ名だけか、イラストだけか、名前+イラストか
・どの絵柄を代表として使うか(顔だけ/全身/ロゴ化など) - どの商品・サービスで使うかを整理する
・グッズ販売なのか、ゲームなのか、YouTubeチャンネルなのか など
・今後3〜5年程度で展開する予定も含めて検討 - 似た商標がないかを検索する
・特許庁の公報検索サイト(J-PlatPat など)で、同じ・似た名前/ロゴが登録済みでないかを確認する - 区分と指定商品/役務を決める
・どのジャンル(区分)で商標権を取りたいのかを決める
(区分の考え方は「商標の区分をどう考えるか|45のジャンルと優先順位の決め方ガイド」で詳しく解説しています) - 出願書類を作成・提出する
・電子出願ソフトなどを使って出願し、手数料を納付
・審査を経て問題がなければ登録に至る
とはいえ、自分のキャラクターならではのつまずきポイントも少なくありません。
- 白黒で出願するか、カラーで出願するか
- ポーズ違い・表情違いをどこまで別キャラと見なすか
- 将来のメディア展開(ゲーム化・アニメ化など)まで見据えて区分をどう取るか
「とりあえず1件出してみる」という進め方も不可能ではありませんが、後から取り直しになると時間も費用も二重にかかることになります。特に、「このキャラクターを事務所の顔にしたい」「長く育てていく前提で投資する」といった場合には、
なども参考にしつつ、最初の1件だけでも弁理士に相談してから方針を決めるのがおすすめです。
4. 「キャラクターの特許」「キャラクターの意匠権」との違い
キャラクターの権利関係は、「商標だけでいいのか」「特許や意匠も関係するのか」が分かりにくいところです。
ここでは、キャラクターに絞って、特許・意匠・商標それぞれの役割の違いを整理しておきます。
4-1. キャラクターに「特許」は基本的に関係ない
特許は、発明(技術的アイデア)を守る権利です。
- 例:新しい機構を持ったおもちゃ、独自アルゴリズムを使ったゲームシステム など
キャラクターの「見た目」や「名前」そのものは発明ではないため、通常は特許の対象ではありません。ただし、キャラクターを使ったビジネスモデルやゲームシステムに技術的な工夫がある場合には、
- ビジネスの仕組みや技術的アイデア → 特許
- キャラクター名・ロゴ・シリーズ名 → 商標
といった形で、権利の役割分担を考える場面はありえます。
4-2. キャラクターと意匠権(フィギュア・パッケージ・UI画面)
意匠権は、立体物やパッケージ、画面デザインなどの「見た目そのもの」を守る権利です。キャラクターの場合、次のようなケースで意匠を検討することがあります。
- キャラクターのフィギュアそのものの形(立体物)
- キャラクターを大きくあしらったボトル・パッケージ形状
- キャラクターやブランドカラーを前面に出したアプリ・ゲームのUI画面 など
「イラストやロゴとして使う範囲」は商標で、「立体物・パッケージ・UIなどの見た目全体」は意匠で、というように、キャラクターまわりでも商標と意匠を組み合わせて使う場面があります。
意匠の出願タイミングや準備資料については、
もあわせてご参照ください。
5. ケース別:どう守るのが現実的か
ここまでを踏まえて、よくあるパターンごとに「現実的な守り方」のイメージを整理してみます。
5-1. 個人イラストレーター・同人作家の場合
- まずは著作権がベースになる(自分で描いたオリジナルであることが前提)
- 特に育てたい看板キャラが決まっているなら、キャラ名を文字商標で押さえるのが一案
- グッズ販売を本格化させる段階で、代表的な顔アイコンやロゴを図形商標として追加することも検討
5-2. 会社のイメージキャラクターの場合
- 会社のサービス名・ブランド名との関係を整理し、どこまでを「キャラ名」として独立させるかを決める
- 基本線は、キャラ名(文字商標)+ロゴ化した顔や全身(図形商標)の2本立て
- パッケージやUIが強い業態(飲料・お菓子・アプリなど)の場合は、意匠も含めて検討する
5-3. 自治体・団体のゆるキャラの場合
- 不正利用・イメージ毀損のリスクが高いので、名前と図形の両方を商標で押さえることが多い
- 利用ルール(ガイドライン)を整備し、著作権と商標をセットで管理する体制を作る
- イベント用の着ぐるみや大型オブジェなど、立体物について意匠を検討するケースもある
どのケースでも共通するのは、「どこからどこまでをブランドとして守りたいか」を先に言葉で整理することです。そのうえで、商標・著作権・意匠をどう組み合わせるかを決めていくと、判断がぶれにくくなります。
6. よくある質問
Q1. 白黒イラストで商標登録した場合、カラー版まで守れますか?
白黒(=色彩を特定しない形)で登録された図形商標は、実務上、あとから色を変えて使う場合でも、形や構成が同じであれば「同じ商標」として主張できる余地があります。
ただし、「白黒で登録しておけば、どんな色のバージョンにも必ず効く」というわけではなく、色の違いによって全体の印象が変わると、別の商標と判断される可能性もあります。
特に、キャラクターの場合に 特定の配色やカラーリングそのものがブランドの大事な要素になっているときは、白黒版とは別に、代表的なカラー版についても商標出願を検討しておくと安心です。
Q2. ポーズ違い・表情違いも同じ商標で守れますか?
代表的な1ポーズで登録しておけば、よほど別物に見えない限り、多少のポーズ違い・表情違いには権利が及ぶ余地があります。ただし、構図や雰囲気が大きく変わる場合には、別の商標と見なされる可能性もあるため、よく使うバリエーションが複数あるときは、どれを登録対象にするか慎重に検討します。
Q3. キャラクター名だけ先に商標登録して、あとからイラストを追加してもいいですか?
はい、キャラクター名だけを先に文字商標として登録しておくことはよくあります。イラストが固まってから、別途図形商標として出願すれば問題ありません。むしろ、名前だけでも早めに押さえておくことで、似た名前の商標が先に取られてしまうリスクを下げることができます。
Q4. 「キャラクター登録」や「版権登録」とは違うのですか?
「キャラクター登録」「版権登録」といった表現は、法律上のはっきりした制度名ではないことが多く、実際には著作権の登録や、商標登録・意匠登録などを指しているケースがほとんどです。
キャラクターを法律的に守る手段としては、
- 著作権(自動的に発生)
- 商標登録(名前・ロゴ・イラスト)
- 意匠登録(立体物・パッケージ・UIなど)
が中心になると考えていただくと整理しやすいと思います。
7. まとめ:キャラクターは「商標 × 著作権 × 意匠」で立体的に守る
キャラクターやイラストは、
- 描いた瞬間から著作権で守られる
- 名前やロゴとして使う部分は商標で守る
- 立体フィギュア・パッケージ・UIなどは意匠も検討する
という3層構造で考えると、どこから先を登録で押さえるかを決めやすくなります。
特に、
- キャラクター名や、そのキャラを前面に出したグッズのブランド名を文字商標で押さえる
- ロゴ化したキャラの顔・図柄を図形商標で押さえる
- 必要に応じて意匠も組み合わせる
という組み合わせは、個人・企業を問わず検討する価値が高いパターンです。
これから本格的にキャラクターを育てていきたい方は、
もあわせてご覧いただきつつ、自分のキャラクターにとってどの守り方が一番現実的かを検討してみてください。
👉 守り方の優先順位や出願パターンを一緒に整理したい方は、キャラクター・ロゴに関する無料相談(30分)もご利用ください。
この記事を書いた人:弁理士・米田恵太(知育特許事務所)














